●リプレイ本文
●いかなる時も
とある小さな村の昼過ぎ。
『あんたら、ここで何してる?』
小川付近で罠を仕掛けようと歩いていたホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)たちを見つけて、釣りをしていた村人が寄ってきた。
(「昼間やから釣りしてる人がいても変やないし‥って、むしろ俺らの方が不審に思われるかも?!」)
鮫島 流(
gb1867)はそう思いつつ、適当に『バードウォッチング』と村人に告げた。それで納得したのか、村人はホアキンとティル・シュヴァルツ(gz0211)を見上げると勝手に『なるほど、こっちはボディーガードかい。ここら辺は野生動物も多いかんね』と地元訛りの英語で言っていた。今回の面子で傭兵と言っても信じない村人も多いかもしれないが、バードウォッチングならばなんとか誤魔化せたようだ。
「‥なんとか第一段階は突破。次は罠を仕掛ける訳やけど、意外と釣りに来てる村人たち多いですね〜」
流の言葉に、MAKOTO(
ga4693)は「その時はその時だよ」と明るい調子であった。ヨネモトタケシ(
gb0843)は逆に慎重な面持ちだった。
「鮫島さんが適当に誤魔化してくれていなければどうなっていたことか‥想像できますねぇ」
「鮫島の危惧についても具体的に考えておけば良かったか」
ホアキンは苦笑交じりで言ったが、本部から罠用の物資(スコップ、バケツ、ロープ、ピッケル、小型ハンマー、携帯ライト)を借りることができた。流がエマージェンジーキットを携帯していたこともあり、昼間の作業は村人に見られつつも、バードウォッチングをするための作業だと思われていたようだ。
流の機転で村人に見つかった時は適当に誤魔化すという発想がなかったら、おそらく作業はできなかったであろう。そんな中、黙々と作業を続ける伊流奈(
ga3880)たち。
「ちょっと流とその辺歩いてくる。じっとしてると身体がなまるからな」
翡焔・東雲(
gb2615)は流と共に慎重に森の中へ‥‥まずは偵察から入ることにしたらしい。
密集した森は昼でも薄暗かった。敵の居場所を突き止めるのが目的のため、懐中電灯は使わず、静かに森の中を歩いた。昼間は鳥達の鳴き声が響いたが、白豹らしきキメラの姿は見当たらない。
「夜行性やから、昼間はどっかの物陰で寝てるかもしれませんね‥」
流は呟くように言うと、東雲が足を止めた。
「流、これを見てみろ」
指差す所を見ると、木々の所々に爪跡があった。
「姿は見えねど、キメラはいらっしゃるということですかね」
流は敵のテリトリーに入ったと思い、爪跡に向かってペイント弾で銀色のマーキングをした。夜になれば敵もこれに気付き、小川の方へ誘い易くなるかもしれない。実際、どうなるか分からないが、何もしないよりはマシだと流は思っていた。
「一旦、戻るとしよう。作業は終わったと連絡が入った」
東雲の無線機に仲間から連絡が入った。
「これ以上、2人だけで深入りするのも危険やしね。戻りましょう」
流は東雲にそう告げると、森から出ることにした。
●真夜中の戦闘
深夜、森の中へと進むのはMAKOTOと鮫島。2人は白い豹のキメラを誘き出すため、さらに奥へと走った。
「ハローハロー、白豹さんはいますかー!」
MAKOTOはそう告げた後、虎の鳴き真似をする。逃げ出す小動物もいたが、お待ちかねの白豹のキメラが3匹、姿を現した。
「普通の豹は好きなんやけどな‥」
流はAU−KVを装着し、竜の翼を発動させ、キメラたちに接近‥すると、さらに4匹の白豹が出現した。ペイント弾の効果があったのか、白豹キメラは流を狙っているようだった。
「昼間のアレ、分かったんかな? ほじゃま、行きま〜す。名付けて、必殺〜ドラグ〜ンスマッシュ!!」
流は竜の咆哮でキメラを一匹吹き飛ばすと、間を抜けて小川に向かって走り出す。MAKOTOは虎の声で敵を誘き出すのに専念していた。
「ここまでおいで〜!!」
「バグアも余計な土産を置いていきますよねぇ。『節操』と言うものを心得て頂きたいものですよぉ…」
ヨネモトは日本刀の蛍火を両手に持ち、敵が来るのをじっくりと見ていた。小川付近に張り巡らされたロープの罠はライトが点灯していたこともあり、白豹達にあっさりと飛び越えられてしまったが、3匹のキメラは落とし穴に気付き、走る速度が遅くなった。少しの足止めにはなったが、その一瞬の隙を見逃す伊流奈ではない。隠密潜行を発動させ、射程を計る伊流奈の眼光は鋭い。
「‥‥白い体毛‥俺には見え見えなんだよ‥フフ」
人が変わったように伊流奈は長弓「黒蝶」を構え、影撃ちで狙いを定めた。前方にいた白豹の頭から血が飛び散った。その様子に他のキメラも動揺を隠せず、動きが鈍くなった。
「まだまだ‥血で染め上げてやるよ‥真夜中のパーティーだ」
伊流奈の表情はやけに無表情だ。キメラの動きが鈍ったとは言え、俊敏性はそれほど変わらない。
火絵 楓(
gb0095)は白豹に接近されて、銃を撃つ暇もナイフを投げつける余裕もなかった。
「あちゃ〜?! しまったー! なんつってね〜♪」
楓は携帯していた模擬刀『ニライカナイ』に持ち替え、流し斬りを放った。攻撃は命中したが、白豹は炎の息を吐いた。とっさに回避する楓。
「あぶにゃい、あぶにゃい」
炎の息が森に燃え広がる恐れも考え、東雲は小川の水をバケツに汲んで、すかさずキメラに向かって水を撒いた。
「焼け石に水かもしれないが、少しは‥」
水を浴びせられた白豹キメラは目標を変え、小川にいた東雲に向かって走り出した。反射的に二刀小太刀で流し斬りを放つ東雲。
「‥‥俺に背中を見せるとは‥甘いね」
伊流奈は敵の背後から長弓で攻撃をしかける。首、頭を狙われ、倒れこむキメラもいた。その瞬間、暗視スコープで敵の動きを見ていたホアキンは茂みから飛び出し、イアリスで急所突きを放ち、2匹の白豹に止めを刺した。
「御相手仕ろう‥獣共!」
小川に追い込まれ、勝ち目はないと思ったのかキメラは森の中へと逃走しようとするが、ヨネモトが立ちはだかり、流し斬りを放ち、さらに二段撃を叩き込んだ。
「我流‥『流双刃』!」
追い討ちをかけるように照明銃を発射するのは伊流奈だ。
「白豹の御伽話もそろそろクライマックス‥といきたいところだよ‥‥フフフ」
「残りは2匹です!」
ティルと共に茂みで待機していた小笠原 恋(
gb4844)は探査の眼でキメラの動きを読んでいたのか、すぐさま攻撃体勢に入り、イアリス両手持ちで二段撃を繰り出した。
「村の近くにキメラがいると人々が安心して暮らせませんからね。全て退治します!」
と言いつつも、恋は以前、髪を黒焦げにされたことがあったせいか、炎の息に対しては慎重に対処していた。MAKOTOは残りの白豹キメラが逃げようとすると前方を塞ぐため回り込んだ。
「まだまだ戦闘中ですよ?」
「その通り!」
流はグラファイトソードでキメラの攻撃を受け流し、7匹目に止めを刺したのはホアキンだった。
「報告にあった数は倒せたが、まだ居るかもしれんな」
「そうですねぇ。念には念を入れて‥まだ日数は残ってますからぁ、村と森の間で歩哨をしようかと思ってますぅ。できればティル氏にも交代でお願いしたいのですけど、よろしいでしょうかぁ?」
ヨネモトがティルに声をかけると、彼は首を傾げていた。
「ホショウ? 何の保障だ?」
ティルが見当違いしていると思い、ホアキンが間に入った。
「簡単に言うと、後日、警戒や見張りをお願いしたいってことなんだが‥」
「ああ、そういう意味か。それならば了解だ」
「ご協力ありがとうございますぅ」
「こちらこそ」
後日、ヨネモトとティルは近辺の歩哨をすることになった。
●楽しい日常
翌日の昼前。村はずれにある喫茶店にやってきた者たちがいた。恋に楓、流やホアキン、ティルだ。店にいた少女‥リュメルはティルに気がついて寄ってきた。
「いらっしゃーい。また来てくれたんだね。ありがと〜」
「今日は仲間も連れてきた。よろしく頼む」
ティルは英語で挨拶すると、恋たちを紹介し、彼女たちが是非とも村の観光案内をして欲しいと告げた。リュメルはうれしそうに頷いた。
「それならお安い御用だよ〜。だけどリュメル、外国語は英語しか話せないよ?」
「俺は英語と日本語が話せる。少し時間があるし、通訳も兼ねて観光案内に参加させてもらおうかね」
ティルがそう告げると、楓はいつのまにか鳥の着ぐるみ姿になり、リュメルに急接近した。
「うひょ〜、可愛い子だね♪ あたしも来た甲斐があったね〜!」
そう言いつつ楓はパタパタと軽く飛び跳ねていた。それを見てリュメルは楽しそうに笑っていた。その笑顔を見ながら、ホアキンはカウンター近くの席に座った。
「俺はこの店でのんびりさせてもらう」
「分かりました。それでは、私たちはリュメルさんの案内で観光に行って来ますね」
恋がそう告げると、観光に参加する者たちは店から出た。東雲は店に残ることにした。彼女なりの優しさであろう‥長居するつもりもないのに仲良くすると別れが辛くなるかもしれないから‥。リュメルの元気な姿を見れただけで十分だと東雲は思っていた。
「あたしも紅茶‥飲もうかな」
一方、観光に出た者たちは村のあちこちにある店などを見て回っていた。どこからともなく牛や鶏の鳴き声が聞こえてくる。
「あいあい、ハロハロ〜、こんにちは〜♪」
楓は村人達から注目の的‥必然的に同行している者たちも目立つことになる。
「パレード〜パレード〜」
一番前にいるリュメルは満悦な笑みで、通りを歩いていた。こういうことは初めてだったのだろう。とてもはしゃいでいたが、やはり一番目立っていたのは楓だ。鳥の着ぐるみを見れば自然と視線が集まるのも無理はない。楓がリュメルに思い出の場所に連れて行ってと‥ティルが通訳すると、リュメルは突然、立ち止まった。
「‥‥いきたくない」
顔を伏せ、リュメルは店の方へと走り出した。とっさに恋が少女の右腕を掴んだ。
「ごめんなさい。余計なことを聞いてしまって‥本当にごめんなさい!」
恋の言葉は分からなかったが、彼女の必死なニュアンスにリュメルはゆっくりと振り返った。すると、恋を始め、楓や流が無言ではあったが笑顔を見せた。しばらく黙り込んでいたリュメルであったが、英語でこう告げた。
『‥‥。うちの店、美味しい紅茶あるよ。飲む?』
リュメルは笑っていたが、どこか寂しげだった。ティルが恋たちにリュメルの言葉を告げると、皆は店に戻り、紅茶を飲むことにした。
「美味しい‥ホントに美味しいです」
本場の紅茶を飲み、恋が言った。楓がチョコバナナパフェを注文すると、バナナが盛り上がったパフェが出てきた。
「これ、誰が作ったのかにゃ?」
「リュメルだそうだ」
ティルがマスターの言葉を通訳すると、楓は「すげー」と言いつつ食べ始めた。それに気付きリュメルが近付く。
「リメュちゃーん♪」
リュメルに抱きつく楓。
「さっきはごめん。だけど悲しい時は泣いても良いんだよ? そうしないと、後でもっと後悔しちゃうよ? 悲しい時に泣いて、うれしい時に笑うだよ?」
ティルは敢えて通訳しなかった。リュメルは最初戸惑っていたが、楓にずっと抱きしめられて何故か気持ちが温かくなってきた。そして流がリュメルの頭を撫でる。
「サンキューねって‥通じるかな?」
『えへへ、どういたしまして』
リュメルは皆の想いが分かったのか笑顔を見せた。
その頃、伊流奈は小川沿いで散歩をしていた。水面に映る自分の姿‥先日まで戦闘があったとは思えないほど、のどかな風景が広がっていた。森の中で事後処理をしていたのはホアキンとヨネモトであったが、伊流奈は小川の方にいたため気がつかなかった。
「‥‥そろそろ戻るとするか」
伊流奈は小川でしばらく水遊びした後、皆と合流した。ヨネモトはティルと交代で歩哨をしていたが、他は雑魚キメラ程度で2人だけでも退治できた。帰り際、ヨネモトは店に寄り、紅茶を飲んで一休みした後、リュメルに土産のキャンディーセットを手渡し、楓は地元で買った小さな縫いぐるみを送った。
「ここの店の紅茶は実に美味かった」
ホアキンは買って帰りたい気分でいたが、ここの店の紅茶は特製のため、売ることはできないことが分かった。
恋が「リュメルさん、この村は好きですか?」と尋ねると、ティルを通して『もちろん』と笑顔で答えていた。
「おおぉ、リュメちゃんの笑顔サイコー!! ‥はうはう‥お姉さん、痺れる〜」
楓は一人悶えていたが、リュメルには意味が分からなかった。
『恋姉ちゃんの故郷‥日本か‥リュメルは行けないけど、また機会があれば遊びに来てね。板チョコ、おいしかったよ。ありがとね〜』
「私たちの方こそ、今日はありがとう。また会えるといいですね」
恋の長い黒髪が風に靡くと、リュメルの日に焼けた亜麻色のショートヘアがふわりと横に流れた。
「バイバ〜イ!」
大きく手を振るリュメル。少女に見送られながら、傭兵たちはその地から去っていった。果てしなく続く戦争の連鎖‥それでも人は生きていくのかもしれない。いつ終わるのだろう‥その道は‥‥。