タイトル:逆転ファッションマスター:大林さゆる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/17 20:51

●オープニング本文


「春一ってば、良く似合うわよ」
 学校から帰宅した高遠・春一(たかとお・しゅんいち)を自宅で待っていたのは姉の翔子だった。両親を亡くした春一にとって姉は母親のような存在でもあった。それでも‥我慢できないことはできないものだ。
「いい加減にしてよ! 最近は家に帰る度にこんな格好させんなよ!」
 翔子はファッションに興味があり、時折、新品の洋服を買ってくる。その度に弟の春一に無理やり着せて一人で楽しんでいた。つまり、自分の服を弟に着せている訳で、春一は女装されているのだ。
「良いじゃない、別に‥せっかくの姉さんの楽しみを取らないで頂戴」
「良くないよ! こんなの友人に見せられないよ!」
 春一は何度か家出したことがあったが、これも原因の一つだった。以前、傭兵たちに説得されて、自宅に戻ったものの、姉の『楽しみ』は変わっていなかった。
 居間で二人がケンカとまではいかないが、話し合っていると、チャイムが鳴った。
「あら、お客さんかしら?」
 翔子は春一の言葉も聞かず、玄関口まで行こうとした。春一はここぞとばかりに逃げようとするが、翔子に捕まってしまう。
「離せってば、止めろ!!」
 その叫びを聞き、何事かと思い、玄関から中へと入るのはネオガルド・ネルガーだった。
「どうした、春一! また何かあって‥っ?!」
「ネルガーさんだったのね。この間はありがとうございました。ところで‥何故、口を空けたまま、立っているんですか?」
 翔子の問いに、ネルガーは我に返った。
「あ、こりゃ、どうも‥いきなり土足で入ってしまって申し訳ない。春一の悲鳴が聞こえたので、何かあったのかと思って‥」
「いえ、特に変わったことはないですよ」
 二コリと笑う翔子の腕の中にはロングヘアの少女(?)がいた。その様子にネルガーは恐る恐る聞いた。
「‥‥その子‥もしかして春一の彼女?」
「いいえ、春一よ。ヒラヒラのワンピース、よく似合ってるでしょ?」
「はぁ?!」
 ネルガーは自分の目を疑った。春一は確かショートヘア‥目の前にいるロングヘアの少女は一体誰‥?!
「ほら、春一、顔を上げなさいよ。ネルガーさんに見えないでしょ?」
「‥‥見せる必要はない‥」
 顔を伏せていたが、声は確かに春一だった。
「えー、こんなに似合ってるのに見せないなんて勿体ないじゃない?」
「もう、いい加減にしてくれって! 姉貴の趣味にはこれ以上つき合えないよ!!」
 力付くで姉の手を振り切ると、春一は顔を下に向けたまま、二階の自室へ戻ろうとした。が、ネルガーは春一の格好が気になっていたのか、少年の前に立ちつくした。
「‥‥ほぅ‥へぇ‥なるほどなるほど‥こりゃ似合ってる」
「はぁっ?!」
 思わず叫ぶ春一。ネルガーの言葉を聞いて、翔子は喜んでいた。
「でしょ、でしょ。春一、私のワンピース似合ってるでしょ? ちなみにロングヘアは鬘よ。倉庫を掃除してたら出てきてね、シャンプーで洗って乾かしてから春一にかぶせてみたのよ。ショートだと、どうしても男の子に見えちゃうから」
「なに具体的に説明してんだよ! さっきも言ったけど、俺はもう姉さんの趣味に付き合うつもりはないんだっ!!」
 珍しく怒鳴る春一に、翔子は涙目になっていた。
「そんなに怒ることないでしょう? だって本当に春一ってば似合ってるんだもの。姉さん、うれしくて、つい‥」
「何が『つい』だよっ! こんなワンピース脱いでやるっ!!」
「まあまあ落ち着け。翔子さんが言ってるのは真実だ。真実から目を背けてはならない。春一が嫌なのは分かるが‥‥マジ似合ってるよ。お持ち帰りしたいくらい」
「はぁっ?! ネルガーさん、そっちの趣味があったのかよ?! 言っておくけど俺はどうせ付き合うなら女性が良いんだけどね」
 春一がそう言うと、ネルガーは溜息を付いた。
「いやいや、俺はノーマル。その俺でも似合うと思うんだから‥‥やばくないですか、翔子さん?」
「‥んー、私は別にそういうの気にしないわ。春一が好きになった人がたとえ男性でも」
「はぁっ?!」
 まさか姉にそう言われるのは思わず、春一は呆然としたまま立っていた。
「そうだわ。今度、春一の通う高校で春の学校行事をやるらしいのよ。姉さん、保護者会に出席して『ファッション・ショー』を提案してみたら了解が出たのよ」
 なんとなく嫌な予感がした春一だった。そんな弟の気持ちにも気付かず、翔子は話を進める。
「でもね、ただのファッション・ショーじゃ生徒達の心は掴めないと思って、女装・男装もOKで良いですかって言ってみたら、保護者の半数以上が賛成だったのよ。何故か反対する方たちもいらっしゃったけど」
「反対者が出るのが普通だろ!! 俺の知らない間に勝手に話を進めんなよ!!」
 春一は憤慨していたが、女装しているせいか、やたらと可愛く見えた。
「ふーん、面白そうじゃない。それって飛び入り参加もOK?」
 ネルガーが言うと、翔子は大きく頷いていた。
「もちろんOKよ。ネルガーさんの知り合いでファッションに興味がある人がいたら声かけてみて。ぜひとも春の行事は成功させたいのよ」
 翔子は妙に張り切っていた。
「気持ちは分かるが、俺の知り合いってーと、傭兵になるんだがね。ま、今回の話を聞いて初対面の人も出てくるかもしれんけどね」
 ネルガーは依頼として出してみることにした。果たして、何人来るのか‥。
「ち、ちょっとネルガーさんもいい加減にしろよ!」
 春一は鬘を投げ捨てながら叫んだ。
「俺たち傭兵も戦いの連続で疲れてんだよ。時には息抜きしたいんだよ」
 ネルガーは遠い目をしつつ挨拶をすませると、春一の自宅から立ち去っていった。

 場所は春一が通う明野星高校の体育館。本番は4日目。
 準備は少しずつ進んでいた。

●参加者一覧

金城 エンタ(ga4154
14歳・♂・FC
ミオ・リトマイネン(ga4310
14歳・♀・SN
イスル・イェーガー(gb0925
21歳・♂・JG
周藤 惠(gb2118
19歳・♀・EP
レミィ・バートン(gb2575
18歳・♀・HD
長門修也(gb5202
15歳・♂・FC
千早・K・ラムゼイ(gb5872
18歳・♀・FC
冴木氷狩(gb6236
21歳・♂・DF

●リプレイ本文

●意外なことに
 明野星高校で春の行事‥ファッション・ショーをやることが決まった。飛び入り参加として8人の傭兵達が参加すると保護者会の実行委員長から報告を聞き、校長は渋い顔をしていた。
 事前に学校側に挨拶しようと冴木氷狩(gb6236)が校長室に入り、今回の参加動機を大まかに説明した。
「生徒はん達に古典演芸を見せるのもええと思うんで、ウチは花魁の格好をします。京都では女形をやってましたので」
「それは私とて賛成だが、何故、ファッション・ショーで軍服を着るのか‥その意図が分からんのだよ」
 校長はそう言うと、机に飾っていた写真を見つめた。そこには家族の顔が写っていた。
「私の父も祖父も軍人でね。軍服と言えば人々を守る誇りの象徴であると同時に、命賭けの死装束でもあるのだ。生徒達の中には親御さんが軍人だという場合もあるだろう。軍服姿を見たらどうなるか‥」
 校長は寂しげな表情をしていた。冴木は校長の言い分も分かるが、意を決して告げた。
「彼女達が軍服を着るのはそれだけの覚悟があるとウチは思ってます。どうか参加の許可をお願いします」
 冴木は校長と3時間交渉した上、なんとか軍服でファッション・ショーに出る許可が下りた。問題は軍服をどう手に入れるかだ。
 冴木が校長室から出ると、金城 エンタ(ga4154)が廊下で待機していた。
「挨拶お疲れ様です。今回のショー、楽しみです」
 事情を知らない金城は楽しそうに微笑んでいた。
「そだ、今回のショーで軍服着る方もおるやろ? さすがに本部も貸し出しはできないみたいやで。軍服でショーに出たいなら自前で仕立てるしかないんやけどね」
「え? 本番まで時間がありませんよ?」
 冴木も金城もどうしたものかと考え込んでしまった。学校の演劇部にも軍服はなかった。皆で相談し、ピーコートを紳士服の店で買い、それを自分達で着たいイメージの格好にするのが無難ではないかと話していた。
 ピーコートは今でこそカジュアル・ファッションとして知られるようになったが、その歴史を遡ると海軍が採用したコートだということに辿り着く。結果、ミオ・リトマイネン(ga4310)と神代千早(gb5872)、周藤 惠(gb2118)は依頼人のネオガルド・ネルガーにピーコートを買ってもらうことになり、自分達で見繕うことになった。本番まで時間がなかったため、徹夜続きで衣装を準備することになってしまった。


●準備
 3日続きで徹夜したせいか、ミオも神代も周藤も高校の女子更衣室で座り込んだまま、しばらく睡魔と戦っていた。レミィ・バートン(gb2575)は中世騎士の服装をするつもりでいたが、これは演劇部にもあったため借りることができた。
「本番は午後からだから、2時間くらい仮眠取っても大丈夫だと思うよ。3人とも本当にお疲れ様」
 レミィの優しい言葉で安堵したのか、3人は更衣室の畳の上で寝ていた。レミィは3人に毛布をかけ、もう一度「お疲れ様」と言った。
 一方、男性陣は演劇部の部室で着替えやらメイクをしていた。金城は冴木から男役の化粧講座を聞きつつ、感心しながらメモを取っていた。
「参考になります。とは言っても今回は女装ですけどね」
 金城は朝一で現場に着くよう目覚まし時計をいくつも用意して起きたと言い、冴木は「えらいはりきりぶりやな」と微笑んでいた。
 イスル・イェーガー(gb0925)と言えば、恥ずかしそうにメイド服に着替え、顔を隠すように隅っこにいた。それを見て、長門修也(gb5202)がイスルに背後から抱きついた。
「イスル! 今日は思いっきり楽しむネ!」
「?! ‥あ、あの‥そ、そそそ、そうですよね。ここまで来たんだし‥」
 イスルは動揺を隠せなかったが、メイド服を着るのは今回が初めてではないようだった。
「出店があると思ったアルが、文化祭じゃないからなかったネ。周藤を誘って遊ぼうと思ってたんけど‥バートンも忙しそうだったし」
 そう言った後、長門はイスルに目をつけた。
「女装するなら胸パッドもいるアル。イスルも付けるアル!」
 長門はそう言いながら、金城の方へと促した。見ると金城はB、チャイナ服を着た長門はAだった。どうやら金城が調整していたようだ。
「イスルさんはどのサイズが良いですか?」
「‥‥え、その‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥Aで‥」
 イスルは小声で言ったが、金城は素早くイスルの胸を形作っていた。
(「‥‥これは‥‥えーっと‥」)
 そう思いつつ、イスルは金城に服装のチェックをしてもらい、冴木にナチュラルメイクを施してもらっていた。男性陣は本番前まで冴木から女性としての美しさを表現する仕草を徹底的に教え込まれていた。そのせいか、女装した男性達は何やら華が舞っているように見えて仕方がなかった。


 女子更衣室。
「皆、そろそろ着替えしてね」
 レミィの言葉で、ミオたちはゆっくりと起き上がった。
「‥えっと‥‥最初から、ハプニング‥あって‥ごめんなさい」
 周藤は男装ができるのを楽しみで来たのだが、軍服を見繕うことになるとは思ってもみなく、申し訳なさそうな表情をしていた。
「気にしないで。着替えたら、メイクしてあげるね」
 レミィの励ましに、周藤は照れ笑いで頷いた。ミオと神代も着替えを始めていた。周藤は胸を隠すためレミィにサラシを巻いてもらっていた。神代は内心、周藤の胸の大きさが羨ましかった。神代は着替え終わると、等身大の鏡の前に立った。
(「せめてもうちょっと‥」)
 思わず溜息を漏らす神代だった。女性陣の仕度が終わり、周藤以外は冴木にメイクアップしてもらい、いよいよ本番が迫ってきた。


●本番
 まずは着物姿の高遠・春一とタキシードを着た翔子が登場した。春一の着付けとメイクは冴木がやり、翔子は自分で全てやったらしい。春一は最初嫌がっていたが、姉の翔子に『母さんの形見の着物姿が見たい』と何度も泣きつかれ、仕方なく参加したようだ。ただし参加の条件はロングヘアの鬘を付けて自分(春一)だと分からないようにメイクして欲しいとのこと‥それならばと冴木は美少女に見えるような化粧を施したようだった。
 次の出番は冴木‥能楽の曲に合せて、花魁姿で軽やかに舞っていた。その度に髪もヒラヒラと靡いていた。その姿に生徒達だけでなく年配の教師達も感嘆の声をあげていた。舞踊など滅多に見られるものではない。貴重な体験だったと生徒達の評判も良かった。
 冴木が舞台から降りると、軍服姿の男装をした女性陣と騎士の格好をしたレミィが現れた。ミオは19世紀初頭時代のフランス軍近衛隊の制服をモチーフに、白ズボンに肩に房の付いた赤いジャケットを纏っていた。神代は海軍将校の夏の白い服をイメージした格好、周藤は18世紀オーストリアの佐官級将校軍服を参考にして白を基調にした華麗なスタイルであった。レミィは白の騎士服に白銀色のメイル等を装備し、髪も白に染め、青いマントを付けていた。
 レミィがマントを右手で掴み広げると、4人で剣の舞を披露‥さすがに傭兵達だけあって剣の扱いも見事なものだった。が、校長の心配は数人に的中していた。軍服姿を見て、悲しそうな表情をしていた生徒達が数人いた。それに気付き、周藤は真摯な顔つきで仲間達と剣を打ち合う。
 あまりにも必死にやり過ぎたせいか、ビリっと音がなった。その途端、周藤のボタンが弾け飛び、その胸が生徒達の前でご開帳となった。それを見た長門は鼻血を出し、気絶して倒れる。高校生男子には刺激が強すぎたのか、やはり同じく鼻血塗れで倒れていた。女子生徒達が「保健室!」と叫んでいた。神代や冴木も生徒達に協力し、倒れた男子生徒達を保健室へと運んでいった。
「ごめんなさいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
 周藤はとっさに自分の胸を隠し、レミィがマントを広げ、周藤を連れて体育館の控え室へと走り出した。
「それでは皆さん、御機嫌よう」
 レミィは冷静な口調で告げ、周藤を抱きかかえていた。 
「きゃー、ナイト様〜」
「私もナイト様のマントに包まれてあんなことされたいー」
 一部の女子生徒達はレミィの姿と立ち振る舞いに萌えていた。ミオは動ぜず、緩んだ襟元を直すと、最後のシメに歌をお届けしますとマイクで告げた。
 すると、メイド服を着た金城とイスルが登場‥慌しかった会場が二人の姿を見て落ち着きを取り戻し‥と言うより『可愛い〜!!』コールが殺到していた。金城は黒と白を取り入れたヴィクトリア様式にパンストとローヒールの靴を履き、エプロンも付けていた。イスルはフレンチスタイルだが露出度が高い。イスルは生徒達の盛り上がりに緊張したのか顔を真っ赤にし、ステージの上でずっこけていた。
「‥え、あの‥‥今のは‥ワザとじゃない‥です‥」
 イスルの言うように、天然でずっこけただけであった。ハッと意識を取り戻した長門もラビットキャップを頭に付けチャイナドレスで舞台へと上がった。お色気ポーズで悩殺でもするかのようにスカートの裾から太ももをちらつかせていた。どちらかと言うと女子生徒達のノリが良かった。しばらくするとギターを持ったミオが再登場し、彼女は礼儀正しく頭を下げた。
「それでは、最後に‥私たちの曲をお聞き下さい」
 ミオは背筋を伸ばし姿勢を正す‥そしてギターを弾く。金城は礼をした後、マイクを持って女性歌手の曲を歌い始めた。ミオのギターに調和するかのように金城の声が響き渡る。仕草も冴木との特訓の成果があり、どう見ても女性にしか見えなくなっていた。金城は曲に合せて笑顔を見せたり、指先は揃えて片腕を上げたり、前へと手を差し伸べていた。ミオは心中、金城を何度も見ては可愛い男の娘が見られるとは‥と思っていたが、表情はいたって落ち着き払っていた。
 最後のパートに入ると、ミオが金城と一緒に歌う。イスルと長門はお互いに肩を組み‥と言っても長門がイスルを抱き寄せたのだが、ミオは内心、目の保養になったと考えていた。誰一人としてミオの真意を知る者はいなかった。
 曲が終わり、金城がお辞儀すると、拍手喝采となった。どうやら上手くいったと金城は楽しそうな気分になっていた。ミオとのデュエットが出来たこともあり、うれしくて仕方がなかった。その表情で生徒達も自然と楽しそうに笑っていた。

 こうして、明野星高校の行事は終了した。