タイトル:【絃】仰ぐノクターンマスター:音無奏

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/29 23:25

●オープニング本文


 森に拓かれた遊び場は狭く、どこを見回してもすぐ森の壁に突き当たってしまう。
 それでも普段と違う所に連れてきて貰えた事が重要なのか、広場で走りまわる子供たちのテンションは高い。

「ねぇねぇ、セシリアは?」「ケガをして先生の所ー」
「また落ちたのか?」「上ばかり見てるから転ぶんだよ」

「‥‥はぁ」
 仲間たちの様子は、建物の窓から見える。
 何を言われてるいかは大体想像がつき、気にする必要などないと分かりつつも、思わず息をついてしまう。
 そう、たしかに自分が足元不注意なのが悪い。
 護衛付きとは言え、久しぶりに外まで出かける機会があって、それをこんな事で台無しにした自分が悪いのだ。

「怪我してるんだから、もう休みなさい」
「‥‥はぁい」

 目が醒めた時、空は夕暮れから夜に入る所。
 もう一度目を閉じたら、次に目覚めたのは、誰もが寝静まった夜中だった。


 名の付けられていない、針糸を日々の伴とする孤児院。
 豊かとは程遠い質素な生活だけれど、戦時中、外に連れだしてくれたり、色々と気を回して貰えるのはきっと恵まれてるんだと思う。
 自分――セシリアは、院のパトロンであるシューレ様の事が大好きだった。
 この院まで回してもらったのも、全てはそのためだと言い切って良いくらいに。

 少女は、常に空をながめている。
 雲が流れ、色合いが変わり、時間が空の色と共に変わる瞬間が、少女は好きだった。
 眠りの中、一目だけ見てしまった夕闇の事を想い続ける。
 夕方の時間。程なくすれば真っ暗になる空も、この時は広がるように色合いが薄くて、硝子のような、透明感のある紫が少女のお気に入りだった。
 それは、シューレ様の色。
 思い出してしまったから、こんな風に起きだして、夜中に空を眺めているんだと思う。

 窓に寄りかかりながら、シューレ様は今何をしているだろうと想い続ける。
 忙しい人だから、お目通り叶う機会もあまりない、気持ちは常に揺らぎ続け、隔たりに似た寂しさを感じ取っている。
 でも、今はそれでいい。
 皆に平等なシューレ様だからこそ、こんなに大好きなんだろうから。
 決して届かない空を仰ぐ感覚、それに似ていると少女は思っていた。

「‥‥」
 悩みは色々とある、大きくなったら孤児院から発たないといけないけど、シューレ様の所に行きたいとか叶うだろうか。
 シューレ様に贈り物がしたくて、でも皆からはやし立てられている――花じゃなくて、紺布に白糸で作った星空のハンカチは果たして贈ってもいいものかどうかと。

 夜中、少女は一人起きだして空を仰ぐ。
 寝たらどうかと、傭兵たちの手振りには困ったように首を横に振って‥‥。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
御影・朔夜(ga0240
17歳・♂・JG
鷹代 由稀(ga1601
27歳・♀・JG
エマ・フリーデン(ga3078
23歳・♀・ER
宗太郎=シルエイト(ga4261
22歳・♂・AA
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
神城 姫奈(gb4662
23歳・♀・FC
秋月 愁矢(gc1971
20歳・♂・GD

●リプレイ本文

 暗闇と静寂、安眠の吐息の中。
 両者は手振りと唇の形だけで会話を遂げる。
 どこまで通じているか怪しいものだが、試みさせるのは人の習慣故か。
 少女が窓際から離れ、そして。

 人ひとり分の距離を隔て、御影・朔夜(ga0240)の前に来た少女が挨拶がわりの笑みを作る。
 それにわずか口元を緩めて見せ、朔夜は彼女を寝室から遠ざけると、眠れないのかと問うた。
「‥‥外に、出てみるか?
 ‥‥丁度、外を歩きたいと思っていてね。無論、君さえ良ければだが‥‥」
 輝く少女の表情が返答を物語る。笑みは楽しさから一転嬉しげなものに変わり、ダンスで円を描くようにして、少女の歩みが朔夜に向き合ったまま外へ向かう。
 早く行こうと。せがむような仕草と期待に、苦笑のような悪くない笑みが浮かび、朔夜が歩みだすのを合図として、二人は外の世界に踏み出していた。

 風が満ち、空気が踊る、建物の外は中と明らかに別世界だった。
 空は高く、雲の先にある星まで見渡せる。歩ける空間は森に切り取られたわずかしかないけど、両手を振り回しても問題ないほどに広かった。
 冷たい夜風は肌に心地いい位で、子供たちが外を望む理由もこれかもしれないと、朔夜は会心と共に吐息を漏らす。
 広場は、無人ではなかった。
 玄関を駆けるセシリアは、階段脇に正座している宗太郎=シルエイト(ga4261)を怪訝そうに見やり。
「何これ? 置物?」
 ある意味冷ややかより酷い攻撃が飛んだ。
「いえ、その。一応護衛です‥‥」
 がっくりと項垂れる様子が少女の笑いを誘う。気落ちしないでとセシリアは小さく手を振り、宗太郎と別れると残りの階段を降りながら、興味深そうに周囲を環視する。
「お‥‥暇過ぎて退屈だったのよ。どっか行くならあたしも連れてけー」
 グラスを置く音と共に、柵を飛び越えて鷹代 由稀(ga1601)が玄関脇に降りる。椅子に座ったUNKNOWN(ga4276)が見送りの視線を向け、神城 姫奈(gb4662)も同行を申し出て――傭兵たちが集う夜中、軽い『夜語り』が始まっていた。

 先頭を少女が歩き、由稀、朔夜、姫奈と続く。
 少女が空を仰ぎ、背中でたなびく髪は羽のように揺れていた。ふとすれば鳥のようで、後ろ姿に幻覚を見れば、軋みに似た恐れが朔夜の歩みを鈍らせる。
 それでも、はにかむ笑顔を見れば和みもするのだ、空が好きなのか? と問えば、そうだと少女は迷いなく即答した。
 朔夜に言葉を促されると、考えながらの言葉が続く。
「風も雲も好き、世界が流れているって感じがするから」
 それでも、翳る程度に悩みがあるのは――
「流れる空を見ていると、時々揺らぎを思い出してしまうの。ふわふわ、ふわふわって」
 姫奈が、
「同じ空の下にいるんだから、きっとその人も同じ空を見上げてるよ」
 と煽れば、少女は首をかしげて。
「空に思われたいって、考えたこともないわ」
 仰ぐのも祈るのも全て一方的な行為、少女が抱くのは見返りを求めていない思慕なのだろう。

「そーねー‥‥繋がりってーと、コレかな」
 由稀が口を開くと、セシリアは興味深そうに彼女の隣に並ぶ。かざすように左手を見せれば、色濃いルビーの指輪があり、セシリアは感嘆するように息を漏らした。
「最初に会った時はあたしが助ける立場だったんだけど‥‥その過程で惚れちゃってねー」
 ストレートな告白宣言に、わぁとセシリアが顔を赤くする。
 目の前でリアクションされると照れるな、そんな思考で口元を緩めながらも、由稀は話を続け。
「相談してた人に『全てを敵にしても愛せるか』って聞かれた事もあったわね。
 答え? 『上等よ』だったわね」
 何が楽しいのか、セシリアは笑みを深くする。いいなぁと零れる言葉から察するに、羨望なのだろう。
「そのすぐ後につき合うようになって‥‥
 同じ能力者だから、仕事の時は離れてること多いけど‥‥
 この指輪がある限り、傍にいてくれるって思えるから帰ってこれる‥‥かな」
 照れ混じりの由稀に対し、セシリアがくすぐったそうに笑い続ける。
「いやー、我ながら依存心強すぎて参っちゃうわ」
 由稀が締めくくれば、「とても素敵」と嬉しげなセシリアの言葉で応えられた。

「遠出しすぎると危ないし、ペンションに戻ろうか。向こうにいる人にも、お話聞いてみない?」
 由稀が誘うと、セシリアは素直に頷いてくれる。
 察するに、懐かれたらしい。
「‥‥ってワケで先に戻るわ。‥‥ほんじゃま、ごゆっくりぃ〜」
 セシリアの後ろに付き、由稀は少女に見えないように振り返って笑う。
 残されたのは、朔夜と姫奈の二人だけだった。

「あの時の問い‥‥今なら答えられると思うんだ」
「‥‥、ああ」
 姫奈の問いかけに対し、朔夜はさほど驚いた色を見せない。
 忘れていた訳ではない、ただ答えが来る事を期待していなかっただけだというように。
 向けられる視線が続きを促す、答えられるなら耳を傾けようと。
 だから姫奈は語る。全ては想像に留まり実感しようのないものだけど、やはり大切な誰かを喪った場合、自分は泣き悲しみ落ち込むのだろうと。
 ただ、一人で立ち直ることが出来なくなっても、周囲には人が、友達や家族がいるのだと語った。
「多分、喪った『人』――も、見守ってくれるんじゃないかな」
 世界で独りっきりにならない限り、頼れる人がいると。
「もしも大切な人を喪ってそうなってしまっているのなら‥‥その『頼れる人』、御影さんの支えに私がなりたい」
 言葉に返事はない、風が草地を凪ぎ、木の葉を揺らして波のような音を立てる。
「‥‥そうか」
 口の端を上げ、朔夜が吐息と共に疲れたような笑みを浮かべる。
 踏み出した一歩は、姫奈に背を向け、遠ざかっていった。
 澄んだ色を背にして、月映す影は自身の歩む先に。自身の穢れを見つめるようにして、朔夜の視線は相変わらず諦観に満ちていた。

「うぅ‥‥さぶっ」
 痺れる足に鞭打って立ち上がり、宗太郎が身を震わせて体の雪を落とす。
 遠目には丁度由稀がセシリアを連れて戻ってきた所で、少女がはしゃいでいるあたり、由稀と仲良くなった様子が見て取れる。
 広場では秋月 愁矢(gc1971)が見張りをかねて焚き火を起こし、白鐘剣一郎(ga0184)はそれを基点にして巡回に出向いているため、席を外している。
 朧 幸乃(ga3078)は室内に、かすかな匂いは、中でホットミルクでも作っているのだろう。
 匂いといえば、広場の方からもう一つある。

 吐息混じりに、愁矢が夜空を見上げる。
 見上げる視界は美しい一方、思考の中では、どうも処理しきれない思いが溢れている。
 一つは、任務での失敗続き。少し気負いすぎているのかもしれないと理性は促し、それを御することが出来るかとの不安が多少存在していた。
 記録の振り返りは後悔と自戒を生む、剣一郎が淹れてくれたコーヒーを手に、気を紛らわせるために焚き火を突っつけば、銀にくるまれた楕円の物体が枯葉の中から顔を出す。
 戻ってきたセシリアを目に、愁矢は思考の停止を自覚していた。それが持て余す思考のもう一つで――子供を前に戸惑うのは、自身に対する幼少の記憶が欠落しているせいか。
 ないものは仕方がないと、それは比較的早めに諦めがつく。
 戸惑いは幾らか抱えながらも、愁矢は焚き火からアルミに包まれた焼き芋を掘り出して。
「眠くなった‥‥って訳じゃなさそうだな。とりあえず、食うか?」

 本当にやりたい事なのか、考えを促す愁矢の問いにセシリアはさして迷いを見せずに頷く。
 どうすればそれが出来るか考えればいい、と愁矢が触れたあたりで、ようやく彼女は迷い混じりの笑みを見せた。
「私、シューレ様の事が大好きだけど、シューレ様の事、余りよく知らないの。
 あ、とても偉い人だってことはわかるよ?」
 良く知らないのに、大好き。子供の思考は愁矢にとって馴染みの薄いものだったが、彼女の知るシューレが、今彼女にとって『大好き』なのは間違いないのだろう。
 だから、セシリアは思いを雲に喩えたのかもしれないと、付き添ったままの由稀は思う。
 空の世界は、翼のない人間にとって未知。飛行艇で横切る事はあっても、それが馴染み深いとは言いがたい。
 定例の巡回を終え、戻ってきた剣一郎も話の輪に加わっていた。
 まず彼は、自身が愁矢と同意見である事を述べ、セシリアに考える事を促した後、思いを確かめるためにも、行動を起こすのがいいのだと言葉を告げた。
 セシリアの笑みが返る、迷いを持つ彼女にとって、力強い助言だったらしい。

「‥‥今夜は夜空が綺麗だな」
 愁矢の言葉を合図に、それぞれが空を見上げれば、首筋の隙間に冷たい風が入り込む。
「ああ、故郷を思い出す」
 懐旧を込め、相槌を打つ剣一郎に、周囲が視線で言葉を促した。
 喋りすぎの予感を抱えながらも、剣一郎は望まれるまま話を続け。
「俺の実家は、長野の奥にあってな」
 親が早逝したことは、口にしない。祖父母に育てられた事だけ告げ、今宵の空は余りにも澄んで星が綺麗だから、つい思い出したのだと柔らかな笑みを作る。

「ね」
 由稀が呼ぶ声も、柔らかい。振り返るセシリアに、由稀は少し意地悪そうな笑みを向けて。
「『全てを敵に回しても』ってのは大げさだけど、セシリアちゃんにはそう思える相手はいるのかな?」
 問いかけは、互いに考える間を作る。
「もしも世界を敵に回す必要があるのなら――」
 セシリアの笑みは諦観にも、悲しみにも見えた。
 子供の身は無力すぎて、男の子でもない彼女は、何が出来るかに対して一つしか思いつかなかったのだろう。
「‥‥ごめん、私はやっぱり臆病かも。
 シューレ様のことが大好きだけど、一緒に死ぬより、一緒に生きたいの」
 後ろ手に掴む服裾には、セシリアの怖れと抗いが示されている。
 おどかしてしまったかな、と由稀が思う一方で、愁矢が言葉を継ぎ。
「本当に必要になったら言うといい、出世払いでなんとかしてやる」

 外の話を聞きながら、幸乃はゆっくりと鍋のミルクをかき混ぜていた。
 セシリアは皆と打ち解けているようだと、思考には安心がある。
 夜は寂莫を誘うけど、一人でないなら心細さから守られるだろう。
 空は、キッチンの窓からも見えていて、眺めれば思いも集い、遣り残したことがあったのだと、口惜しさに似た記憶が後ろ髪を引く。
 どこか心惹かれ、ゆっくりと歩んでいこうと思っていた人。やむをえない事情で去っていったその人には、結局思いも感謝も伝えずじまいだった。
 口惜しさはある、思い返せば悲しみも寂しさもあった。
 痛みに至らないのは、かつての彼らが今の自分を作ってくれたと、その思いに守られている確信があったからだろう。
 ――会えて良かったと、そう言える。
 ならば何を迷う事があるだろう、全て良かったと、そう言える自分に繋げられるかもしれないのだから。
「不安や諦めばかりで生きるのなんて、つまらないよね‥‥」
 歩めば道は続いていく、いい方向になるように、努力する事も出来る。
 セシリアは既に悲しみを知っているかもしれない、もしも彼女のような子が友達にいたら、彼女はどうするのだろう。
「ミルクが入りましたよ‥‥」
 諦めることはない。どうだったかなんて、決めるのは常に何年も先の自分だ。

「ああ――寂しさはある、ね」
 席は、玄関横にある、UNKNOWNが鎮座するテラスに移っていた。
 卓の上には幾つかの書籍、グラスのワイン、宗太郎の持ち込んだ安酒。夜の酒盛りの中、更にセシリアのミルクカップをテーブルに混ぜ、ゆったりとしたペースで空を見上げての話が続けられる。
「待つ時間も嫌いじゃない」
 振り返りに至る時間も甘美であり、切なさは望みが果たされるまでの享受だ。
「おじちゃんは、きっと私と違うのね」
 セシリアの足は、椅子の上でぶらぶらと揺れている。難しい表情は、ほとんど感覚で話をしているためか。
「おじちゃんは世界が好きなんだって感じ取れるわ。
 私は、あくまで空の向こうにいるただ一人が好きだから、きっと違うと思うの」
「ああ――」
 UNKNOWNの吐息は、肯定にも羨望にも聞こえる。
 刹那的に生きているようで、実のところ退廃的に快楽に浸っている。掻き抱くように、酔って溺れぬ程度に。
「私はこの世界で、二つだけ欲しいものがあってね」
 そこまでは口にするのに、内容はなかなか言ってくれない。
 視線がちらりと宗太郎の方を捉え。
「――いや、違うな。私はきっと、思ってる以上に恵まれてる」

「そう――ですね、俺は口下手なんですが‥‥」
 視線を向けられた宗太郎が、戸惑い気味に語り始める。
「口より先に、体が動く性分なもので」
 自分は頑固なのだろうと、語っていて苦笑が溢れる。望んだことを、望むまま進んできた実感は槍を握り続けてきた手にあった。
 だからなのか、諦めの思考は余りない。
 信じ続けてきた心の強さ。誰よりも自分が思ったら、行動でそれを示して見せる他ないと、信じる心があった。
「初心貫徹、正直が一番ですよ。
 傷ついても、迷っても‥‥誰もそれを笑う資格なんてありませんから」
 思いの強さ、それは力になる。
「遮二無二になれば、意外と道も開くもので‥‥」
 言いかけた所で、宗太郎の笑みは翳りのある穏やかさに変わり、手指は腰の刀へ沿うように触れる。
「――案外、思いも通じたりするものですよ」
 口調は力強い、死した友は今も心の支えになり、強さの一部となり続けている。

「私も――空は好きだよ」
 朔夜は、テラス外にあるだろう夜空を見つめ続けている。左手指にタバコを挟み、右指は左の手首を覆っていた。
「仰げばそこには、手を伸ばしたくなる程の輝きがある。
 追い求めた事に――後悔はない」
 思いに触れれば、縛られたかのように体が止まってしまう。幻想に縋りつきかけて、漏らす吐息が体の束縛をようやく振り払う。
「ハンカチを――迷うなら贈れば良い、後で後悔する程に惨めなものはないよ」
 気配に視線を下げれば、セシリアはすぐ近くまで寄ってきていた。
「今回、私に一番近かったのは、きっと朔夜さんね」
 朔夜の前で、セシリアは夜空を見上げる。体は少しふらついていて、それでもこれだけは言いたいとばかりに視線を戻してはっきりと。

「きっと――私も、空に手を出そうと思うだろうから」

 掌に感触があったと思えば、セシリアが朔夜の手をとったまま船を漕いでいた。
 そろそろ限界か、そう判断して朔夜はセシリアの体を持ち上げる。
 背中には安らかに眠りを預けられる感触、感じる僅かな後ろめたさから目を背けて、朔夜は帰途を歩み始めていた。