●リプレイ本文
●事前準備
毎度恒例、事前準備というか備品申請タイムである。
女性士官は既に待ち構えてたのか、さぁ何が欲しいんだ言ってみろと言わんばかりにふんぞり返っている。
物資はそれこそ雑多にあるが、必ずしも貸し出してくれるとは限らない。たとえあっても、能力者達に回す余裕があるかどうかはまた別の問題。当たり前だが、ショップで売ってるものはショップで買うべきである。
「地図、無線機と‥‥」
その辺はかろうじて問題ないらしく、女性仕官の手から差し出される。
「暗視スコープ‥‥」
駄目、と言われた。
元より高価なものだし、期間限定の特別品なので、そう余ってもいないという。
「動体探知機‥‥」
あるかな、とリストに目を走らせる女性士官。
―――あった。仕官はそれをレヴィア ストレイカー(
ga5340)に渡すと面白い事考えるな、と笑う。
「今回は運良くあったが、次もあるとは限らないからな」
次はペイント弾の蛍光塗料化、―――なんと13個分。
ここまで必要なのか? と顔を引きつらせる女性士官も尤もなもので、その内の十個は約一人の持ち物だったりする。
お前ら敵の特性知ってて申請してるよな? と心の中で呟くも、確認はしてくれない女性士官、だって実害ないし。
「‥‥‥‥全交換でいいのか?」
雑賀 幸輔(
ga6073)は朗らかに笑い、お願いしますと頷く。
備えがある事に越した事はないのだろう、女性士官は頷いて交換を了承してくれた。
「この作戦が終わったら、残りの分は戻すからな」
また使いたかったら申請しろ、と言う事らしい。
●見回‥‥り?
昼間、能力者達は街の下見に出ていた。
唯一ハルカ(
ga0640)だけは行くつもりがないらしく、仲間達に断って高速移動艇で待機、と言う名の昼寝。
「いってらっしゃ〜い♪」
出発前、彼女はレヴィアや幸輔、ジェサイア・リュイス(
ga6150)に向かって頑張ってね、と笑っていた。
危険度の高い任務ではないと判断したのだろう。実際、他の能力者もそう気を張り巡らせてる訳でもない。
「おぉっ!? あの並んでるラーメン屋、すごくうまそうじゃね?」
「おお、モンブラン‥‥!」
これである。
真面目に作業するつもりがない訳ではないだろうが、街はいつも通り通常営業。
あちこちに魅惑的な店が並ぶのは当たり前で―――後ろ髪を引かれるのは仕方ないだろう。
「‥‥ええと、ですね‥‥?」
幡多野 克(
ga0444)が窘めようとするが、言葉が上手く出てこない。
その間にクレイフェル(
ga0435)はモンブランをゲットし、食べる?と笑顔で克に差し出してくる。
「うっ‥‥」
クレイフェルはモンブラン好き、克は甘い物好き。
なんとなく気が合いそうだな気のせいかな!?とか思いつつ、つい手を伸ばしてしまう。
クレイフェルと目が合う、慌ててモンブランを頬張る。甘い、美味しい。
「‥‥有難う御座います」
暫くモンブランの虜になっていた。もくもく、もくもく、もくもく。
「今川焼き!? すまん、ちょっと買ってくるっ」
ジェサイアは忙しい。ああ、あれもちょっと美味しそうだなぁ‥‥。
●聞き込みと下準備
「すいません、ちょっとお聞きしたいんですが、こわーいゴミ箱の話知りません?」
出没地帯にある程度目安をつけるためにも、目撃情報は重要だ。
が、街の人も理解してるだろうとは言え、こんな事を聞いて回るのが不気味なのには違いない、幸輔の事である。
未だパニックから立ち直れないまま、あっち、と言わんばかりに路地裏を指差す女子高生。それに蓮沼千影(
ga4090)が礼を述べ、僅かに見せた笑顔に女子高生の顔が染まるのは致し方ない。
「擬態するキメラ‥‥。まるで‥‥RPGに出る‥‥ミミックみたい‥‥。モンスターは‥‥退治しないと‥‥ね」
克は既に甘い物から立ち直り、いそいそと街のゴミ箱の位置をチェックしている。
「ん〜‥‥♪」
地図は能力者達の手によってエリア分けされ、ゴミ箱の位置が書き込まれていく。クレイフェルはこういう作業が好きならしく、ご機嫌だ。
冬であったのが幸いと言うべきか、夏だったらこの作業は相当苦痛なものになってたに違いない。
(「‥‥‥‥この辺とか、いいかも?」)
裏路地を歩きながら、レヴィアは頭の中でシミュレートを展開し、戦闘になった場合の狙撃ポイントを選定していく。戦闘はいつどこで発生するか判らない、実戦ではきっとその場その場で判断する事になるだろう、だが地形を覚えておけば、少しは冷静な判断を望む事が出来る。
それと、緊急時の退路も。万が一がないに越した事はないが、緊急時に袋小路に入り込んでしまうのは避けたい所だ。
「もうすぐ夜だな‥‥」
千影がそう呟き、赤みが差してきた空を眺める。
慣れない町であったため、予想以上に時間が掛かってしまった。整備されてない都市なんてこんなものなのか、道が曲がりくねって判り辛い。
(「‥‥夜が本番、ですね」)
そうレヴィアが心を引き締めなおし、能力者達は最後の準備―――巡回ルートを決めるため、高速移動艇へと帰還した。
●夜の見回り
能力者達は町を見回るため、班を二つへと分けた。
両班の囮はそれぞれクレイフェルと千影で、有事の際には連絡を無線で取る事になっている。
「ぱっくんされるんは蓮沼やのうてこの俺や!」
何か間違った方向に向かっているものの、クレイフェルのやる気は満々だ。一方その千影というと、
(「女性も夜道を安心して歩けるようになるよう、俺頑張る」)
‥‥そんなライバル泣かせな事を考えてたりする。
能力者達は街の入り口付近で二手に分かれ、作戦を開始する。
‥‥明かりを用意しなかったのは失策、かもしれない。照明銃が懐中電灯の代わりになる訳もなく、幾ら街とはいえ、街灯だけでは心許ない。
暗視スコープがある人はいいかもしれないが―――
「見えるよ! すっごい見えるよ!」
暗視スコープを被った幸輔が千影の肩をばしばしと叩く、すっごく楽しそうである、きゃっきゃ。
その千影は先日スコープを強化で壊したばかりで、こっちはめっさ複雑な表情を浮かべている。
「こ、このぅ‥‥!」
‥‥見えない、ちっとも見えない。暗視スコープがない人は普通に懐中電灯でも申請するべきであっただろう。
何しろ暗視スコープを所有するのは幸輔のみ。ゴミ箱が集中する裏路地に街灯の光は届かず、後方や周囲を警戒している面子こそいるものの、それだけでは不意打ちに対応出来ない。
(「‥‥‥‥どこから来る‥‥」)
そう警戒を張り巡らせる克の近くでは、クレイフェルがハリセンでゴミ箱をつんつんしている。
昼間に下見をしておいたのは良かったかもしれない、お陰で無駄足を踏む事もなく、探索自体はスムーズだ。
天気は少し、寒い。目が少し暗闇に慣れてきたのか、影色の町並みが見えてくる。レヴィアは初めての夜間戦闘で緊張しているせいか、少し落ち着かない。ぴくりと何かに反応したかと思うと、見間違いに落胆し、ため息を零す。
「‥‥はぁ、風で飛んだゴミ箱か」
無差別に反応する動体探知機は扱いが難しいかな、と少し仕方なさそうに笑う。何か黒い影が、すぐ隣の壁を横切ったかと思うと、
「キメ‥‥って、猫か‥‥此処は危ない早くお逃げ」
こうである。それでも探索を進める内に少しずつ緊張がほぐれ、冷静に目標を目視出来るようになってはいる。
昼間は楽しそうだったジェサイアも夜になって気を引き締めなおしたのか、心持ちょっと不機嫌。
「ちっ、ゴミ箱型とはいい趣味してやがんなぁ」
無力な市民を襲うのに特化されたゴミ箱キメラが気に食わないのか、僅かに苛立っている。
「いけ好かないやり口だぜ‥‥」
スクラップにしてやる、と心の中で誓う。
その時もやはり幸輔達は楽しそうで、
「蓮沼ぁ! 危ない! ゴキブリを踏むぞっ!」
「いやああああ!?」
同行しているハルカはニコニコしている、ちっとも止めるつもりがないらしい。
「‥‥あの叫び、蓮沼食われたんちゃうか?」
「‥‥でも、連絡、ありませんし」
●ヒット
そのゴミ箱と遭遇したのは、千影達B班だった。
街は相変わらず暗く、空気は相変わらず冷たい。
なんの事もない、変わり映えのない裏路地。それはそこにひっそりと紛れ込んでいた。
「蓮沼、右ぃ!」
暗視スコープを持つ彼らが敵に遭遇したのは幸運と言うべきなのか。
周囲に注意してた幸輔が異変に気付き、鋭い警告を飛ばす。警告に千影が左へと身を捻れば、そこを異形の腕が走り、鞭のようにしなって地面を叩く。
「いやん」
暗闇に紛れ、ひっそりと一つだけゴミ箱が増えている。
間違いない、バケツの口からはゴミ袋の代わりに手と舌が覗き、その異形の腕は異様に長い。今回の目標であるゴミ箱型キメラだろう。
目標を視認した能力者達の反応は迅速で、ハルカが前に立ち、幸輔は入れ替わるように後ろに下がる。
「敵発見。待ってるぜ」
千影がエリアと詳しい位置を無線に短く伝え、ツーハンドソードを構える。
「ノルマ、達成させていただくぜ!」
そして地を蹴った。
ブン、と両手剣が振るわれる。ずりずりと下がる目標、だが遅い。剣先がゴミ箱を捕らえる。
回避力はその異様な伸縮力があるためともかくとして、移動力はそんなに高くない。だが捕らえた感触は異様に硬く、下手したらその辺のヘルメットよりは頑丈そうだ。
「これは‥‥」
切り刺しよりは幾分か効いてる様だが、打ち砕くには手間取りそうだ。
その間に幸輔は敵の射程外に退避するとペイント弾を装填、敵の目を狙う、だが。
「ちっ‥‥」
相手は動く標的である、その中で目を狙う難易度と言ったらどれだけ厳しい事か。狙い澄ました一撃は回避され、壁に蛍光塗料がぶちまけられる。
もう一発打ち込んだペイント弾は突如膨張したゴミ箱の体内へと消え、目潰しは無理がある、と判断した幸輔は武器をショットガンに持ち換える。
「頼れるお兄さん達がやって来ましたよ!」
A班が合流するのは意外と早かった、グラップラーの能力ゆえか、或いは蛍光塗料が目印になったのかもしれない。クレイフェルが一足先に着き、克とレヴィア、そしてジェサイアが戦場に合流する。
射線を確保したレヴィアがペイント弾をバケツに照準し、間髪入れずに引き金を引く、ヒット。
動く目標とは言え、特定の場所を狙わなければ命中は容易い。バケツが蛍光グリーンを被り、暗闇にその姿を浮き上がらせる。
「よし‥‥!」
克がバトルアクスを構えて前に出るのを見ると、ゴミ箱がわたわたと後退する。‥‥成る程、斧とは本来無機物を断つ物、流石にあれでカチ割られるのは痛そうだと判断したらしい。
「逃げんな‥‥!」
ぶん、と剛斧が振り払われる。所詮は蛍光塗料だが、攻撃の目星にするのは十分。‥‥だが、破壊力があるだけに、目などを狙うには無理がありそうだ。たとえ照明があっても可能だったかどうか。狙いを逸らされた斧は本体に叩きつけられ、バキ、と嫌な音を響かせる。
また、手や舌を狙うのも困難ではあった、だが千影が振る両手剣が一瞬相手の腕を掠め、淡く吹きだした鮮血は有効打のしるしだろう。
痛覚に怯んだゴミ箱が暴れ狂い、盆栽や金属バット、バールのようなものを次々と投げつけてくる。
「燃やせるゴミだといいんですが」
投擲物をかわしながらクレイフェルが相手の懐に入り込み、炎を纏った爪拳をゴミ箱に叩き込む。
ごす、といった手ごたえ。金属の表面が熱を持つも、この敵は火に対して特性を持たず、属性も持たないらしい。つまり燃えないゴミ。
(「照明銃は‥‥」)
目くらましに使えないかどうかと思ったが、駄目だろう。所詮は伝令用の道具、光を反射させるのは眩しいかもしれないが、飛距離200mというのが応用には頂けない。
残念に思いつつもバスタードソードに持ち換えようとしたクレイフェルの腕を、突如異形の腕がぬっと掴む。
「うわ‥‥!」
反射的に振りほどこうとするものの、間に合わない。そのまま物凄い力で引き倒され、目の前へと引き寄せられる。
「こいつ、ゴミ箱のクセに生意気だなッ‥‥!」
クレイフェルを庇おうとしたのは克と千影の二人、目の前へと突っかかってくる獲物も絡め取ろうと腕と舌が伸ばされ、
「あぶない‥‥っ!」
ハルカが克を庇った、ちなみに千影とクレイフェルは囮役なので食われて当然らしい。
庇われなかった、むしろ庇おうとした千影までが異形の腕に囚われ、庇われた克が力任せにハルカを捕らえた舌を斧で断ち切る。
「あぁん」
二人が慌てて飛びのくのと、千影が食われるのは同時だった。
「うわあああああ!!??」
がぶり。
引き上げられた千影の足が地を離れ、ゴミ箱がまた膨張したかと思うと、千影を頭から丸齧り。
ぎちり、と中の色々な物が突き刺さり、激痛が走る。誰だ包丁とか食わせたの。
「‥‥糞ゴミ箱! 狙うなら自分に来い!」
前に駆け出したレヴィアが注意をひきつけようと、ゴミ箱に向かってライフルの引き金を引く。
セミオートで射撃される弾丸が叩きつけられ、ぐちゃり、とゴミ箱の目を潰す。
「One Shot One Kill‥‥外すものか!」
成る程、一発限りのペイント弾は無理があるが、ある程度の範囲を掃射する銃器は部位狙いにも通用するらしい。
声帯はあるのか、金切り声のような奇声が大きく響く。捕食の瞬間が隙であれば、目を潰されて怯んだこの瞬間も大きな隙。
ジェサイアが仲間にやるぞ、という合図を送り、
「砕けろおぉぉおぉぉ!」
能力者達の一斉攻撃が、同時にゴミ箱を叩き割った。
●終局
「ぎゃあ!なんかドロドロしたのがすっごい見えるよ!」
能力者達は人食いバケツを倒した、ペンキまみれの千影を獲得した。そういえばペイント弾食われてたな。
他にも溶けかけた何かは一杯転がってるが、とてもじゃないが分析はしたくない、なんか林檎の芯とか見えるし。
「うははははっ。だ、大丈夫か?」
ジェサイアは大笑いしながらゴミ箱の口をこじ開けている、幸輔は‥‥楽しそうだ。
「千影さ〜ん、もう終わってますよ〜」
そういってハルカがハリセンで千影をぺしぺしと叩く、一応生きてる事を主張する様にその手足がばたばたと動くも。
「ゴミ箱を見るたびに蓮沼の姿が‥‥、ぷくくっ」
「こんなキメラ‥‥もう出ないといいね‥‥。ゴミ箱に食べられて‥‥自分がゴミになるなんて‥‥嫌だし‥‥」
掛け声と共にゴミ箱の口を完全にこじ開けたジェサイアは、相変わらず笑ったまま。
克は千影をゴミ箱から引きずり出すと、ゴミ屑を払い落とし、色々ついてるものをタオルでぬぐい落としながら、優しく介抱をし始める。
「うう、早く熱いシャワー浴びたい‥‥」
今回叫んでばかりな気がする、そういって千影はぽてりと倒れた。
(「‥‥このペンキ、ちゃんと落ちるかなぁ‥‥」)
‥‥逃走追跡用だった気がするし、暫くは落ちないんじゃない?