●リプレイ本文
●巣への強襲
厳重な監視下に置かれていた、廃墟群。
蠢く数多のキメラを前にして下された攻撃任務。
その任を受け、廃墟群へ複数の人影が突入していく。
直後に響く、金属がぶつかり合う甲高い音色、銃声、そしてコンクリートブロックが砕け散る破裂音。
一瞬の静寂、そして舞い散る砂埃が晴れた後、そこに立つのは8名の能力者。
聳え立つ3つのマンション周辺に展開していた、蜂蟷螂のキメラを鎧袖一触で蹴散らした能力者が狙うは、内部に巣食う数多のキメラ。
1人がチラリ、と目配せすれば、それが開幕の合図となる。
不愉快な羽音を響かせ、窓からキメラが顔を覗かせるがそれより早く、8名は各々の役割を果たすべく散開、3つのマンション棟へと駆け出していた。
●B棟殲滅戦
「さぁて、お掃除と行きますかね‥‥っと、此処は見せ場ってヤツじゃあ無ェかい?」
「そのようですわね。殲滅戦、心躍りますわ。どれだけの敵を倒せるか、楽しみですわ」
くわえていたタバコを吐き捨て、靴底で踏み消すヤナギ・エリューナク(
gb5107)へとミリハナク(
gc4008)が言葉を返し、B棟での戦いが幕を開ける。
窓から身を乗り出した複数のキメラ、そして1階より出現したキメラが機銃を2人へ向け、そして鎌を擦り合わせ威嚇するがそれより早く動くはヤナギ。
目にも止まらぬ速さで駆け出した彼はマンション外壁へ肉薄し、そのまま跳躍。
窓から飛び出し、迎撃に出るキメラを一刀の元に切り伏せ、窓枠を足場とし更に上を目指し跳躍。
その速度に追いつける者は無く、撃ち落そうと放たれた数多の弾丸が外壁へ弾痕を刻む中、彼は勇躍、屋上へと辿り着くのであった。
「余所見する余裕はございまして?」
キメラがヤナギへ注意を向けた瞬間、同時に動くミリハナク。
接近に気付いたシックルタイプ、つまり両腕が鎌となった蜂蟷螂が迎撃しようと腕を振るうも、それより早く走る、一筋の閃光。
鈍い音と共に、空中高く舞い踊る大鎌。
その腕が地に落ちるより早く走る、斬り上げる二の太刀、振り下ろす三の太刀。
まともな抵抗をする間もなく、体を三つに切断されたキメラの亡骸をその場へ作り、ミリハナクは周辺に展開しつつあるキメラの群れへと駆け出していた。
「おっと、上層階の連中大集合ってか? いいぜ、メチャクチャに潰してやるぜ」
屋上に到着、周辺にキメラが存在しない事を確認し、ドアを蹴破り階下へ移動。長銃身を持つ小銃、ギュイターを引き抜いたヤナギが笑う。
各々の部屋から飛び出すキメラに、階段から羽音を響かせ到着するキメラを前に、彼が行う行動は小銃乱射による掃討のみ。
引き金を引くと同時に舞い散る薬莢、複眼を貫かれ地に伏すキメラ。
応戦すべく放たれたガンナーキメラの銃弾を横っ飛びで回避、開いたドアからマンションの一室へと転がり込む事で出来た隙にヤナギは弾倉を外し、次なる弾倉を装填しリロードを完了。
ドア周辺のコンクリートを弾き飛ばす数多の銃弾が一時的に止んだ瞬間、彼は再度その姿を現し銃撃による掃討戦を継続するのであった。
「ふふ‥‥伏兵にしてはお粗末ですわね?」
同刻、1階より進むはミリハナク。
銃器をメインに、派手に立ち回るヤナギとは対照的に一部屋一部屋、確実に始末する彼女にとって分散配置されているキメラなど物の数ではないという事か。
ドアの影に潜むキメラは既に一刀の元に切り伏せ、行動不能になったと見るや彼女はその頭部を掴み、文字通り肉壁として利用。
不意打ちのタイミングで振るわれたシックルタイプの斬撃を捕縛したキメラで防御し、次の瞬間には斬撃を叩き込む。
分散するが故にマトモな効果の上がらない、キメラの攻勢。
それを解消すべき行動を選択したのか、3階廊下に複数のキメラが集結。
更には、上層階から降下して来たキメラが窓から侵入、物量にて押し潰す作戦へと行動がシフトしていた。
圧倒的物量、それを活かした弾幕がミリハナクへ襲い掛かれば、体を掠めた銃弾が彼女の纏うドレスの生地を吹き飛ばす。
だが、多少の被弾は気にせず彼女は突撃、眼球へ命中する直前に体を反らす事で銃弾を回避し、右腕、胴部等に命中する銃弾があるも、集団との距離は一気に縮まる。
「――喰らい尽くしますわ」
そのまま突撃、集団の真っ只中に飛び込んだ瞬間、零れた言葉と十字の衝撃。
何が起こったのか理解する間もなく、密集したが故に数多のキメラは衝撃波を受け肉体が崩壊。
ブチブチと鈍い音を立てながら腕、足、羽と体液を盛大に撒き散らし、無残な亡骸をその場へ晒す事となる。
主力の大半を失ったキメラに、ここから上層のヤナギ、そして駆け上がるミリハナクを倒せる力などあるはずもなく。
「よっと? どうした、仲間は全員居なくなっちまったぞ?」
純白の爪を持つ手甲で振り下ろされた一撃を受け流し、ヤナギは得物を二振り。
その攻撃を受け、飛翔する力を失ったキメラは踊り場から5階部分へとゆっくり落下を始めるが‥‥地上へ激突する前に、一発の銃弾が頭部へ命中。
「あら、既に倒れていた相手でしたのね? それにしても、凄惨な戦いしかできませんでしたわね」
「へっ、最後の美味しいところを持って行きやがって。ま、凄惨なのはお互い様かねェ」
銃撃の主はミリハナク。
最後のトドメ、を持っていった彼女へ軽く言葉をヤナギがかけ、B棟の戦闘は終結するのであった。
●A棟攻防戦
「兵士、としては。応用力に欠けているようですね。上層階より飛来、10時方向、数3。壁越し、2時の方向、数2です」
不愉快な羽音を探知、後方より突入した面々の支援を担当していた真田・音夢(
ga8265)が襲撃を通知。
「なるほど、わかりましたですの。では、まとめて壁ごと‥‥とりゃーーー、ですのー!!」
その報告に反応、得物へ最大限にエネルギーを注ぎ込み、真一文字に振るうのはクリスティン・ノール(
gc6632)
その一撃で生じた衝撃波は、劣化する事で脆くなっていたマンションの外壁部分、そしてキメラが潜む壁ごとキメラを両断。
コンクリートが砕け散り、その中に幾つか虫の体の残骸が混じる結果となっていた。
「‥‥討ち漏らしはこちらで対応します。後は気にせず、行って下さい」
轟音収まると同時に聞こえる、音夢の言葉。
それと同時にクリスティンの攻撃を運良く回避できていた、シックルタイプのキメラが体を痙攣させ、その場へと崩れ落ちていた。
音夢の手にあるは、超機械「ヘスペリデス」
強力な電磁波による攻撃により、内部からキメラは体を破壊されたようであった。
「はい。では、後はお任せしますねー」
大雑把な攻撃での討ち漏らしも、確実に始末する後方の備え。
それがあるならば、思う存分戦えるとばかりにクリスティンはそのまま前進、剣を地面へと突き立てそこを回転軸とし、華奢な体を一回転。
遠心力を加えた回し蹴りを突撃してきたキメラの腹部へと叩き込み、体勢を崩した相手の胴へ横薙ぎの一撃を。
それを受けた瞬間、キメラの腹部はボトリと落下、腹部の重量込みで飛翔時のバランスをとっていたキメラは重心変化に対応できず、無様に落下。
なんとか体勢を立て直し、再び飛翔しようと試みるキメラであったが、次の瞬間その複眼に映ったのは非情の一撃。
「これでお終い‥‥ですの!」
峻烈の気合と共に、クリスティンの振り下ろした大剣はキメラを真っ二つに両断。
地面へ斬撃の痕跡を深々と残し、その生命活動を完全に絶っていたのだ。
「これでこの階層はクリアですね。怪我などはありますか? 今の内に治療します」
「今のところは、まだ大丈夫ですの。一旦、兄さまに連絡してみますの」
敵対勢力の殲滅と同時に小休止。
その間に、2人は先に屋上へ駆け上がった世史元 兄(
gc0520)への連絡、及び別棟の状況を確認するのであった。
「はい、はい? こちら兄、現在戦闘中、だね」
クリスティンからの連絡を受け、返事をする兄。
多量に用意してきた苦無を投げつけ、キメラを壁へと張り付けつつ彼は廊下を駆け抜ける。
「鳳仙花」
ポツリ、と言葉を零しつつ。
苦無を刀で弾き、強烈な加速で射出した一撃はキメラの胸部を貫く威力を発揮。
ギチギチと顎を鳴らすキメラであったが、それで何か状況が改善する事もなく。
「刀技焔魔、俺の十八番特とご堪能あれ」
真っ赤な刀身を持つ直刀壱式へ、懐から取り出した瓶の液体をかけ布を切る兄。
それと同時にその液体は一瞬にして燃え上がり、赤き刀身を紅蓮の炎が彩る事となっていた。
生物として、炎は先天的に恐怖を感じるものなのか。
動きの鈍ったところを次々に切り伏せられ、銃撃で必死の応戦を試みるキメラであったがそれすらもう、かなわない。
「もうコレで終わりだ」
そう呟き、兄は全ての苦無を周辺へと弾き飛ばす。
放たれた苦無は敵を穿ち、壁へと打ちつける物もあれば、貫通し致命傷を与える物もあり。
そうして多くのキメラが屍を晒す中、一気に距離を詰めたシックルタイプが鎌を振り上げ兄の首級を狙うがそれより早く、彼は超機械【扇嵐】を起動。
瞬時に巻き起こった竜巻にてキメラは空中に一時的に固定され、その間に彼はもう一つの扇嵐を起動。コントロールされた竜巻により、壁へと突き刺さっていた苦無は引き抜かれ、空中に固定されるキメラへと射出。
二つの超機械が停止した後、そこに残るのは数多の風穴を穿たれ動きを止めたキメラと、無造作に地に落ちる苦無だけであった。
「綺麗に一掃♪ でも服や顔が血だらけか」
周辺の敵反応消滅を確認、兄は落ちた得物を拾い上げ、返り血を拭いゆっくりと階下へ移動するのであった。
●C棟の狩猟者達
「‥‥ブンブンと耳障りなんですよ‥‥堕ちて下さい‥‥」
「取り囲むまでできたのは褒めてあげるけど‥‥彼方達に触らせるわけにはいかないわ。悪いけどこの子は売約済みだもの」
真正面、そして側方に位置するガンナータイプへ銃口を向けたリズレット・ベイヤール(
gc4816)が引き金を引けば、彼女が持つ二丁の小銃が悲鳴の如き銃声をあげ、銃を構えたキメラを吹き飛ばす。
それと同時に動いた神楽 菖蒲(
gb8448)が接近してきたシックルタイプへ肉薄。
強引な振り下ろし攻撃を刀で受け流し、無防備な頭部へ拳銃より鉛玉を叩き込む。
「先への突破口は開いてくるよ。援護はよろしく」
数に任せた進撃が通じない中、崩れた足場でも飛行しているが故に、問題なく動き回るキメラ達。
リズレットの射撃で二体が屠られるも、まだまだその物量は健在であり、地形を利用して押し込もうとする相手を前に鐘依 透(
ga6282)が目をやり、行動を開始。
後方から飛来したリズレットの苦無が崩れかけたポイントへ突き刺さり、それを目印に彼は進軍ルートを瞬時に判断。
「ただ速いだけが高速戦じゃない」
その言葉どおり、彼はただ速度に頼った戦いをするのではなく‥‥ゆったりとした身の運びで前進、シックルタイプと切り結ぶ距離で突如加速、側面から後方へと回り込み首筋へ一太刀。
一刀の元に相手の首を切り飛ばし、それにキメラが怯んだ瞬間、リズレットの投射した苦無が壁、天井へ命中。
「なるほど、あそこが脆い、という事だね」
示された点は、崩れかけた部位。
そこを避けるように透は動き、先ほど倒したシックルタイプの亡骸を盾にしつつ前進を。
迎撃にマシンガンの銃口を向けるガンナータイプであったが、その攻撃を阻止すべく彼は掴んだ亡骸をそのまま投擲。
衝突と同時に射線は外れ、多量のマズルフラッシュが光る中透は距離を詰め、無防備な首筋へ先ほどと同じく白き光が一筋走る。
その突破、そして密集陣形の分断が崩壊の序曲。
「私、虫嫌いなのよね。特に、人に害のある虫」
誰に聞こえるともなく、虫型キメラへの嫌悪感を語る菖蒲。
そのまま彼女も駆け出せば、手近な位置にいたシックルタイプの脳天へと刀を突き刺し、そこを起点に飛び上がる。
彼女が狙う場所、それは密集地点の天井付近に突き刺さる1本の苦無。
「天井落とすよ、気をつけて!」
菖蒲の言葉、それに反応した透が飛び退けば、菖蒲の蹴りが天井へ命中。
直後、脆くなっていた天井はその衝撃に耐え切れず、上階の床ごと一気に崩落、そして直後に響く一つの銃声
「‥‥後を取ったのは、感心します‥‥ですが、次は静かに迫る事をお薦めしますよ‥‥」
皆の注意が密集地点に向いている、そのタイミング。
後背より奇襲を仕掛けようと接近していたシックルタイプが崩れ落ちたのは、その銃声が聞こえたのと同時であった。
そう、不愉快な羽音を聞きつけ‥‥気付いていない振りを装い、相手を引き付け振り返らずに銃口だけを後背へ。
異変に気付いたシックルタイプが反応する前に、その引き金を引いていたリズレットの銃撃であった。
地形も、力量も、全て戦うにあたり有利な条件は能力者に味方する。
必死の抵抗をするキメラであったが、確実にその数を打ち減らされ、壊滅するのにそう時間は掛からなかった‥‥
●静寂の中
『全目標の排除を確認。予定よりかなり早いな、感服したよ。私も脱帽だ』
戦場からキメラが駆逐されたのを確認、オペレーターからの通信がそれぞれに届き、警戒を解除する。
正規軍は10数分後到着し、この廃墟群を接収するとの事であった。
「はい、リゼ。忘れ物」
そんな、正規軍到着前の一コマ。
菖蒲が回収した苦無をリズレットへと手渡し、戦闘経過を振り返る。
暫しの静寂、そして休息。
やがて、慌しく正規軍が到着し、傭兵達の役割は終わりを告げる。
「‥‥私は忘れない。ここに命があったことを」
撤退する中、音夢が小さく呟く。
そして、一つの祈りを。
「願わくば、次は幸せな命に‥‥おやすみなさい」
虚空に消えた、その言葉。
彼女の願いが叶うかどうか、それは誰にも分からない。