●リプレイ本文
●森林に潜む
敵の手に落ちたUPC軍の基地手前の森林地帯に人型へと可変しながら、次々と傭兵達のKVが着陸する。森林地帯でも多少開けてるポイントを選んでの降下は無事成功し、
「さて、弐番艦の道を穿ち作りますか」
鋼 蒼志(
ga0165)が乗機である雷電の各部チェックを簡単に済ませながら呟きを漏らすと、平坂 桃香(
ga1831)の乗る、巨大な球体――ハンマーボールを装備した雷電もまた前衛となるべく歩みを進める。そんな中、木場・純平(
ga3277)の駆るR−01改や六堂源治(
ga8154)のバイパーや風羽・シン(
ga8190)の搭乗するディアブロが上空で敵空戦戦力への対応を図るべく様子を窺っていた。
「そんじゃま、露払いの役目。しっかり果たすとしましょうかね」
風羽が真紅の機体を巧みに操りながら、徐々に高度を下げながら敵影を探す。
鋼らに続き、リディス(
ga0022)と藤村 瑠亥(
ga3862)の機体もまた、森林地帯でも足場に成り得る場所を確保し、ティーダ(
ga7172)のアンジェリカや時枝・悠(
ga8810)がそれに続いて機体を人型へと変形させ、バーニアを吹かしながら着地する。
「基地からの対空砲は沈黙したままですね」
木場の報告から、各機は襲った時に破壊されたままなのか、それともこちらの隙をついて砲撃を開始するかの二択であろうと傭兵達は判断した。前者であれば障害にはならぬし、後者であれば、叩くべき対象が増えるだけだ。SES搭載の対空砲だとしても、移動目標であるファルロス(
ga3559)やを始めとした敵との空戦を念頭に置いている機体を狙うには、余程の射手でもなければ命中する事も無いだろう。
「今回確認されている敵勢力はゴーレム4機、ヘルメットワームが2〜3機か」
ファルロスのウーフーが周囲の反応を窺うも、今の所変化は見られない。ミーティングの際にはそれだけの敵が確認されていたが、当然の事ながら、彼はそれ以外の敵勢力――所謂伏兵の存在に注意を払っていた。
「だが、あくまでもこちらが把握した数と言うだけだ」
まだ何か居るかも知れない。例えばキューブワームなど出てくれば、戦域一帯に怪音波が充満し、パイロットである自分達の精神を苛ませる。そうなれば咄嗟の判断が鈍り、その鈍りが命取りに繋がるかも知れない。
そう考えるファルロスの懸念は傭兵としては当然の事だった。そうして機体のセンサーに4つの光点が浮かび上がり、地上と空中に其々展開した仲間達に警告を発する。
光点――地上の森林地帯に潜んでいた機影――4体のゴーレムが確認出来る事からFRの様な光学迷彩を搭載している訳では無い事が分かる。基地寄りに2機、その手前に前衛として2機が森の中で展開しているのが傭兵達には察知出来た。それと同時に制圧された元UPC補給基地からは6機のHWが姿を見せ、離陸を開始する。
「お出ましだ」
思った通り、把握している以外の敵が居た。ファルロスは己の判断の正しさを反芻しつつ、離陸際のHWを叩くべく機体を傾け、離陸際の敵機を減らすべく六堂、風羽機と共に機首を下げ、降下しつつ砲撃を加えていく。
「とっととHWを撃墜して、陸の連中を安心させてやらないとな!」
六堂の稼動させた放電装置が先頭の機体に牙を剥く。
「頼むぜ、ウィンドフェザー!」
「了解!」
僅かに機動がぶれた瞬間を逃さず、ウィンドフェザーをTACネームとした風羽の機体が高分子レーザーを放ち、手傷を負わす。次いで、ファルロス機がカバーする様にロケットを翼下から放つ事で畳み掛けた。
「無理をしないように慎重に戦っていこう」
トリガーを引き、木場の機体が複数の鉄管で構成されたガトリング砲から銃弾の雨を降らせていく。そうして先頭のHWは弾かれる様にして軌道を変え、空で散華する。
「まずは挨拶代わりの砲撃の嵐を受け取れ!」
一方で近接戦闘に入る前に、ティーダ機を始めとした地上部隊が手持ちの火器で一斉掃射を図る。一機でも減れば、この後の戦闘における負担が軽減されると言う方針からだ。
敵が存在すると思しき光点目掛け、戦場に砲火が響き渡る。しかし、森林地帯という身を隠すに丁度いい遮蔽物の多い地形な為か、期待した程の効果は無かった。
返礼とばかりに時枝やリディス機など、近接戦闘を行う為に前面に出ていた部隊へ光線が放たれる。しかし、これもまた敵と同じく森林が遮蔽物となる事で回避を容易くさせた。
●鉄塊、螺旋
砲火の応酬を経た後に、傭兵達とバグアの機体がそれぞれ森林を踏み分け、跳躍して進軍する。二度目の跳躍を行った頃には、時枝らの視界には前面に出たゴーレムの姿が映っている。再度の砲撃を行い、牽制を行う事で味方が接敵する負担を低減させる為だ。
対する敵もまた、同様の考えで居るのか、前衛に立つ平坂機を始めとした機体に次々と砲撃をかけてくる。リディス機、平坂機が着弾するも、損傷は軽微だ。
「さて、私たちは二人きりのチークタイムだ‥‥ダンスのお相手願おうか!」
リディスが騎乗する純白のディスタンがライフルによる射撃で、接近する2機の内、1機を足止めする。敵の戦力を分断する算段であったが、もう一機のゴーレムは味方に砲火を浴びせるリディス機へと向き直り、ディフェンダーを携えて間合いを詰め始める。
「乗って来たか、もう1機は頼むぞ!」
「ええ、了解しました!」
手筈通りに戦況が展開する中で平坂、藤村へと声をかける。
「さて、小規模とはいえ二番艦の邪魔になる可能性のあるものはすべて破壊させてもらおうか」
変形した藤村のディアブロが先程足止めされたゴーレムへと機体を向け、平坂の雷電もまた、それに続く。一対一など無謀だと考える藤村は、彼女の機体と連携しつつ、着実に敵との距離を詰めつつあった。
「切り込むぞ!」
敵ゴーレムが一瞬先行した平坂機に注視した刹那の隙を、藤村がついた。左腕から鋼糸を発し、敵機の腕部に纏わりつく。
「本来、英雄や戦士というものとは間逆な本質をもっているのでな。臆病に、確実に仕留めさせてもらう」
言うや否や、ワイヤーに電撃が迸り、
「行きます!」
敵機の姿を目視した平坂の雷電がブーストにより加速。次いで、真紅の機体が続く。森林の浅い部分を選びつつ、平坂の機体右腕に装備した鉄球――棘のついた質量兵器とを結ぶ鎖を手にしたKVが敵との間合いを詰め、一気にゴーレム目掛けて横から振りぬいた。
耳を劈く電動鋸の様な音を立てながら、巨大な鉄塊が空を裂き、鎖が木々を薙ぎ払いながらゴーレムの胴部へ叩きつけられる。金属の拉げる轟音と共に、直撃を受けたゴーレムは投げつけられた人形よろしく吹き飛ばされた。
「手応え、あり!」
必殺と称しても差し支えの無い威力をその手で確かめた平坂が確信めいた感情を抱く。雷電の腕で鎖を引き、鉄球を引き戻すとプラズマ光を生じさせながら破損したゴーレムがたどたどしさを見せながらも立ち上がる。しかし――
「Bicornの持つ螺旋の鋼角で――穿ち貫く!」
鋼の雷電が背部に擁した4連バーニアが咆哮を上げ、右腕に搭載したツイストドリルが起動、破壊の螺旋へと変化する。空を穿ち、機体速度が頂点に達したと共に、平坂が痛打した敵機へと激突した。
螺旋は敵の装甲を突き破り、内部機器を捻り、穿ちながら突き進むと背部からその姿を現した。即座に螺旋を逆転させ、プロンプトシールドを構えながら離脱するや否や、敵ゴーレムが電光を上げ、爆散する。
「ふむ‥‥やはりKV戦の醍醐味は殴り合いにありますねぇ」
レンズの向こうで己の機体が持つ螺旋の力に確かな物を感じながら、鋼は呟いた。
「少々ダンスが激しすぎてついてこれなかったかな? ダンスのなっていない男は嫌われるぞ」
真っ先に向かってくるゴーレムに向け、リディスが零す。機体の強度を高めながら敵の斬撃を後方に急制動をかける事で躱し、機槍グングニルを構えると一気に間合いを詰めた。柄後部のブースターで更なる加速を得たリディス機は、そのまま西洋の騎士が行う騎兵のチャージ宜しく突撃した。
グングニルは機体胴部中央に深々と突き刺さり、それで留まらずに更に敵機体の動力部を破損させたのか、機体の彼方此方からプラズマ光が迸る。
「――離脱!」
リディスが己のディスタンを後方へ下がらせた次の瞬間、2機目のゴーレムが爆散した。
●空と森と
六堂らが行った、敵の離陸際を機体を覆い被せるようにして降下しての攻撃は、収束しての攻撃と言う事もあってか、2機のHWを離陸直前に血祭りにあげた。炎を機体から生じさせながら森の中へと墜落し、辛くも彼らの攻め手から逃れた3機のHWが離陸し、赤光を木場や風羽のKVに向けて放ってくる。
「この程度で当たる訳には!」
「そうそう。さて、次の機体はと」
ファルロスの声に答えながらも風羽が次の獲物を落とすべく、攻撃してきた機体の中で一番左側に位置した機体をロックオンする。アラームがなるや否や、ホーミングミサイルを斉射。六堂らの機体も追従するように砲火を浴びせ、敵の反撃をかわしながらも返礼と言わんばかりにHWの曲面で構成された機体の胴部へと直撃させる。
「これで止めだ!」
連携を続けていた最中に好機を見出した風羽はスロットルを開き、翼刃を展開。衰えを見せた先程のHWの横を擦り抜ける様にして、上下へと寸断した。
「思っていたより脆いな!」
「油断は禁物、まだ2機残っているし、地上の方もどうなるか分からないな」
再度交戦を挑むべくファルロスが機体をバンクさせ、風羽らもそれに倣う。徹底して連携する。それが彼らがミーティングの時に決定した事項だった。
●砲戦、斬撃
木場達が空戦を、鋼らが接近戦を繰り広げる最中、時枝とティーダは中距離支援をしていたゴーレム2機と相対していた。近接戦闘を行う仲間達へ横槍を入れさせない為だ。
「付き合えよ、得意な間合いだろう?」
挑発するかの様に放つ彼女の言葉と共に、高分子レーザー砲が光を放ち、牽制していた内1機の右肩を灼いた。受けた損傷から、支援に徹するよりも此方を直接潰した方が早いと見た2機の砲戦ゴーレムが急加速を駆け、一気に時枝機との距離を詰め始めた。
「不味いわね‥‥」
今までレーザー砲による砲撃を行っていたティーダは、最後に増強をかけた荷電粒子砲を接近する1機に叩き込むと、アイギスと呼ばれたあらゆる邪悪を退ける名を持つ盾を構えながら、近接戦闘に対応するべく機体モードをシフトさせた。同じく、時枝もまた機体を近接戦闘へ移行。近接戦闘に持ち込むべく、機体をブーストさせながら腕に搭載したツイストドリルを起動。右腕に螺旋を纏わせる。
「アンタの相手はこちらだ。嫌でも逃がさん」
――悪魔だからな。
ディアブロを駆る時枝は、森林地帯を走破する赤い悪魔となった。先程ティーダが砲撃した際に損傷を受けたゴーレムに狙いを定め、螺旋に『力』を篭め始めた。
「悪魔の一撃、受けてみろ!」
叫びを上げながら、時枝機の右腕が唸りを上げて空を裂く。対するゴーレムもまた、近接用にディフェンダーを下げていたのか、腰溜めに構えながら足音立てて接近する。
そして、交差。
宙にくるくると、機械の腕が舞った。真紅の腕――ディアブロの左腕だ。オイルを撒き散らしながら、勢い良く飛んでいく。しかし、時枝の受けた損傷は其処までであった。
彼女の機体の右腕は、損傷を受けて脆くなっていた胸部へと叩き込まれていた。ギチギチと耳障りな金属音を立て、そして貫いた。
時枝が爆発を避け、後方に飛んだ刹那の間に敵ゴーレムは爆発した。だが、最後の1機はその爆発を隠れ蓑にしながらティーダのアンジェリカへと向かっていく。
ゴーレムの手にはやはり、ディフェンダーに酷似した剣。間合いに入った途端、2撃、3撃と繰り出すも、アイギスで受け止め、捌き。時に横に体重移動を行う事で滑る様な挙動を見せながら彼女の機体は殺意の刃を躱していく。
「終わりです、消し飛びなさい!」
僅かにバックステップをして距離を取った燐光を放ちながら、ティーダのアンジェリカがゴーレムに向けて加速する。その手には錬剣、雪村――
体勢を屈め、低く接近するティーダ機に向けて砲戦仕様のゴーレムが苦し紛れに熱線砲を繰り出す。しかし巧みに左右へと切り返す事で躱し、一気に肉薄する。
必殺の間合いへと詰め寄ったアンジェリカが雪村の柄を握り締めると光の刃が生成、突進の勢いを殺さずに逆袈裟へと振りぬいた。
雪村の刃が消失すると同時に、右脇腹辺りから左肩へと斬り裂かれたゴーレムは少しずつ斜めに体がずれ始め、スパークを放ったかと思うや否や、大爆発を起こした。
「‥‥これで最後?」
そう呟くティーダが上空の様子を伺うと、既に木場が最後のHWを撃墜する所であった。連射射撃を続ける彼の機体は、今回のHWにとっては鬼門であったらしい。黒煙を引きながら基地の傍に墜落し、爆発する。
残った1機を片付けた木場の様子を窺いながら、ファルロスのウーフーが索敵し、残存する敵の有無を確かめる。元基地周囲に敵機の陰が無い事を確認し、その結果を仲間達に伝えると、彼らはそれまで張り詰めていた緊張の糸を緩めた。
かくして、傭兵達は弐番艦の障害と成り得る敵勢力の排除に成功した。これにより、弐番艦は目的地であり、目標でもあるメガワーム襲撃の任を達するまでに有力な敵との遭遇は避けられる事だろう。ふと遠くに目を向ければ、あの特徴的な白と赤の飛行体が見て取れる。弐番艦到達までに間に合った事を、傭兵達は静かに安堵するのであった。