●リプレイ本文
能力者達は機体テスト当日、バグアの攻撃によって荒廃した街へと足を運んでいた。
遺体などは既にUPC軍によって運び出されていたが、今でも戦闘による痛ましい傷跡をあちこちで見ることが出来る‥‥そんな荒涼たる場所であった。
「わざわざ来てくれてご苦労じゃったな」
エーファ・コルネリウス(gz0174)が能力者達を出迎える。
「そう言えば機体のパイロットじゃが、希望者はおるかのう? いなければこちらで手配しておるが‥‥」
「僕と時枝さんがそれぞれの機体に搭乗します」
奉丈・遮那(
ga0352)がエーファに搭乗の旨を伝える。
「それは何よりじゃ。では後であの二人には帰って貰うとしようかのう」
よく見ると、準備中の研究員に混じって見知らぬ男女を発見――その内の一人はメイドさんであった。
「パイロット予定の人がいたの?」
時枝・悠(
ga8810)が少し驚きながら問いかける。下手をすれば自分達が機体から降ろされる可能性もある為だ。
「ふむ、まあおぬしらの方が適任じゃろうて。その為の依頼でもあるからのう」
と咄嗟に切り抜ける‥‥流石歳の功。
「ん? 誰じゃ、歳の功とかいう不届き者は」
側に居た研究員達は一斉に俯き、素知らぬ風を装いながらデータ収集の準備に励む。
「まあ良いわ‥‥」
そこに忌咲(
ga3867)がてけてけとやって来て
「ねーねー、試作機触っても良い?」
とエーファに聞いてみる。
「おう、良いぞ良いぞ。テストが始まれば触れなくなるからのう」
特に急ぐ理由も無いので、しばし見学タイムとなった。
忌咲をはじめとする能力者達とエーファは、試作機の足下で改めてスピリットゴーストの実物に触れた。
「資料を見た時にも思いましたけど、改めて実物を見ると本当に『異形』という言葉がしっくり来ます」
今回が初陣となるティリア=シルフィード(
gb4903)が感嘆の声をあげて機体を見上げる。
「‥‥ん。逆間接の足。結構好きかも」
最上 憐(
gb0002)も機体の足に触れながら素直な感想を述べる。
「エーファさん、積載量はどれくらいなのかな? 資料にはその記述がなかったから、一応聞いておきたい」
憐の傍らにいたサルファ(
ga9419)が質問をする。
「ふむ、良い質問じゃな。まだ試作段階じゃから決定ではないのじゃが‥‥およそ500はあると見てよいぞ」
「500ですか‥‥ありがとうございます」
サルファは礼を言い、義理の娘・憐を連れて見学用のテントに向かった。
「ロングボウも発売されたことだし、今回の新機体スピリットゴーストも楽しみだ」
カルマ・シュタット(
ga6302)が、同じドローム社のロングボウの名前を出してエーファの反応を見る。
「同じドロームの開発者としては、かなりライバル心を燃やして作ったのは確かじゃよ」
「頑張って下さい」
得心を得たのか、カルマはエーファを励ますと、見学テントへと向かって歩き出す。
「エーファ・コルネリウス! 私と勝負よ!」
藤田あやこ(
ga0204)はひらひらの付いたチア服を着て、更に化粧でロリ顔にして挑戦状を叩き付けて来た!
「‥‥まだまだ青いのう」
そう言ってエーファはスカート部分の裾を摘んでくるっと360°ターンをして決めポーズ!
『おー! パチパチパチ!』
見れば後ろの研究員達一同から歓声と拍手が沸きあがる。
彼らは日頃こそ大(げふんげふん)様と言いつつも、『室長萌え』に研究者人生の全てを捧げる信者でもあった。
「くっ‥‥ババアに負けた‥‥」
その時エーファの眉がぴくっと動いた事に、一体何人の者が気が付いたであろう‥‥。
藤田あやこ‥‥開始前から死亡フラグ確定か!?
<テストナンバー1:ふぁるこんすないぷ搭載型(エーファ読み)>
「言い忘れておったが、ふぁるこんすないぷは今回の試作機では3回しか使えんのじゃ」
「4回じゃないんですか!?」
「すまんのう、当初は練力消費は殆ど無いと思われておったのじゃが、想像以上に練力消費が激しくての‥‥今後の課題と言う事で勘弁して欲しいのじゃ」
「分かりました」
「始めてくれ」
エーファの号令で、奉丈の乗るスピリットゴースト(以降SG)は、初撃からファルコンスナイプ(以降FS)を使用する。
「ファルコンスナイプ‥‥どれ程のものか‥‥」
空中から200mm4連装カノン砲が火を噴く!
「うわっ!」
カノン砲はティリアの乗るS‐01に容赦なく命中!
ペイント弾とはいえ大口径の砲弾を4発も受けての衝撃は、かなりのものであった。
「まともに戦ってもダメか」
ティリアはカルマ機に追われて逃げ惑うSGを横目に着陸体制に入る。今の内に陸上戦闘での足場を固める為だ。
「今度は負けない」
そう言って人型形態へと変形したティリア機は建物の影に身を潜めた。
「回避能力を試させてもらおう」
ブレイクで逃げるSGをH・U・Dに捉えたカルマは、短距離高速型AAMのトリガーを引いた。
ロックオン警告がSGのコクピットに鳴り響く。模擬戦である為実際のミサイルは搭載されていないが、命中の可否やダメージはモニターされていた。
SGは回避機動を取るが、ダメージゲージが点滅して生命力が減る。
「ふむ‥‥空戦能力はこんなものじゃな。重攻撃機にどっぐふぁいとは難しかろう」
空中戦はやはり回避能力の低さが露呈した形で幕を閉じた。
とは言え、FSを使用した場合の命中精度の上昇は著しく、それなりの成果は残した。
ミサイルを撃ち尽くした各機体は順番に着陸し、足場を築いてSGに備える。
「このまま空対地攻撃を試します」
奉丈はカノン砲による地上攻撃に移る。
建物の影に隠れながら対空攻撃を行う対戦相手達であったが、カノン砲の巻き上げる土煙で視界を遮られ、衝撃によって崩れた瓦礫が機体に当たってバランスを崩し、照準が合わない。
「対地精度は既存機とあまり変わりませんが、牽制には十分使えますね」
「精度については仕方ないのう‥‥空対空、地対地前提じゃからの」
SGはこの隙に着陸。歩行形態に変形して高初速滑空砲を撃って牽制しつつ移動を開始する。
「FSは後2回、残弾は‥‥残り12発」
その時SGが突如被弾し、警告LEDが表示された。
開始早々から狙撃に有利な足場を築いていた藤田の乗るビーストソウルであった。
「ゴーストVSソウルの戦いね」
藤田のスナイパーライフルは水中戦用のD‐06であった為使用は出来なかった。その為3.2cm高分子レーザー砲による中射程攻撃を行っていた。
「受けて立ちましょう」
SGはFSを使って藤田機に照準を合わせる。藤田機は機動力を最大限に使って建物を移動している。
「いけ!」
4連装カノン砲が咆哮を上げ、藤田機に命中! 左腕を吹き飛ばした。
「やってくれたわね!」
藤田は得意の近接戦闘に移行する為、隠密行動に切り替え建物の影から隙を窺う。
様子が一変したのは予想通り敵機に接近を許してからである。それまで鳴りを潜めていた忌咲のS‐01が背後から仕掛けて来た。
勿論レーダーでは捉えていたが、敵は忌咲機だけではなかった為、気が付けば背後を許す形となっていたのだ。
「重装備機が鈍重になるのは宿命か。重力制御が羨ましいね」
忌咲はガドリング砲を斉射しつつ近づき、機槌「明けの明星」で4連装カノン砲を叩いて封じようとする。
SGは20mm高性能バルカンを斉射しつつ後退するが、狙いすましたように残りの3機も一気に接近し、ほぼタコ殴り状態となった。
「砲撃型の弱点はガチ近接。さっきはよくも!」
至近からのレーザー砲と、サーベイジを使用してのレッグドリルの猛攻を受けダメージゲージは一気に減少する。
よろめいた所をカルマ機がナックル・フットコートβによる零距離攻撃を仕掛け、SGは体制を崩して横転!
「参った! 降参します」
「ご苦労じゃった。疲れたじゃろう、お茶と煎餅を用意して待っておるぞ」
<テストナンバー2:ホバー搭載型>
「お手柔らかに‥‥ではテストにならないか。少しは派手に行かないとな」
時枝は先程の空中戦を見学して、SGの空戦能力を把握していたので、早々に着陸して陸上戦闘に切り替えた。
「別に良いですよね?」
「うむ、空戦データは先程のテストでも取れたし、実戦に即した戦闘として考えればおぬしの取った行動は実に自然と言えよう」
実際の所、弾数にも限りがあるので、ここはホバー能力を生かしての戦闘に持って行く方が良いと判断したのだ。
「地対空のテストはまだのようだし‥‥狙ってみるか」
SGは垂直着陸を行おうとしていたカルマのシュテルン『ウシンディ』に狙いを定めトリガーを引いた。
ちなみに『ウシンディ』の名付け親はダム・ダルらしく、カルマはこの機体を大層可愛がっている。
「くっ! ペイント弾でも効くな」
全弾命中によるダメージを受けつつも着陸したシュテルンは、上空の2機の着陸を援護すべくガトリング砲でSGを牽制する。
「憐、先に着陸してくれ。上空から援護する」
サルファが義娘の援護に回る為、カルマ機と呼応して空対地攻撃を行う。
「‥‥ん。パパ。ありがとう」
最上は滑空砲とカノン砲飛び交う砲撃の中を、味方の援護射撃を受けながら着陸する。
「‥‥ん。ちょっと。被弾した。でも。大丈夫」
最上のナイチンゲールはスナイパーライフルRで応戦しながら建物に隠れる。
一方今回も比較的良い場所に潜伏していた藤田のビーストソウルであったが、やはりスナイパーライフルの選択ミスによるハンデは大きく、今回は容易に接近出来ないでいた。
カルマやサルファ達と共闘せず、じっと隙を窺っていたのだが‥‥ホバーによる行動力増加は思った以上に厄介で、建物から出た瞬間を滑空砲で牽制されて動きを封じられていたのだ。
「私とした事が何て無様なの! D‐02と06を間違えるなんて」
悔しいが後の祭り‥‥左腕を失いつつも、今ある装備で最善を尽くすしかない。
SGはホバーの推進力を上手く使って建物間を移動していた。今回の相手機体の装備が接近戦重視であった事が幸いしている。
サルファの試作型「スラスターライフル」は高威力ではあるが、リロード無しには3回しか撃てず、既に着陸支援で2回使用していた。
「‥‥ん。近接戦を。仕掛けてみる。ホーバーの機動性。確かめる」
最上が一気に接近しようと試みる。どうやらお腹が空いて来たので、早々に決着を付けたくなったようである。
「分かった、援護する」
サルファがスラスターライフルを構え、最上の援護射撃を行った。
「俺も援護させてもらう」
カルマもガトリング砲で牽制。3方向からの攻撃にブースト使用で後退するSG。
「今よ!」
藤田のビーストソウルもようやく動き出す。
こうして少しずつではあるが、SGとの距離が縮まってゆく。
「1機だけでも倒せれば‥‥」
時枝は接近してくる最上機に狙いを絞る。
「悪く思わないでくれ」
残弾全てのカノン砲が次々とナイチンゲールに撃ち込まれて行く。
「憐!」
サルファが慌てて飛び出す!
「‥‥ん。パパ。大丈夫」
そうは言ったものの、最上のナイチンゲールはモニター上では『大破』となっていた。
「まだ続けるかのう? 恐らくSGも弾薬切れのようじゃが」
「いけます! ホバーの力はこんなもではないかと」
「ふむ‥‥良いじゃろう」
SGは練力を移動に使える分活動時間が長く、ブーストを使用してのホバー移動により、接近戦を容易にさせなかった。
とは言え、敵機もブーストが可能である以上、いつかは追い込まれるものである。特に3対1である以上‥‥。
「捉えた!」
サルファが射程の長い機槍「ロンゴミニアト」でSGの足を狙いにいく!
SGは回避行動を取るが、シュテルンの命中率がやはり上回り、ダメージが通る。
「ならば!」
SGは抜かずに済ませればと思っていたリヒトシュベルトを抜き、応戦する。
更に急接近してきたビーストソウルのレーザー砲で背後を焼かれる。
SGは回避行動に出たが、建物が邪魔で背水の陣となった。
「今一度零距離攻撃を試みる」
カルマのウシンディが接近! SGは滑空砲を至近で放ち、建物を破壊して退路を作る。
「逃がさないわよ!」
金曜日の悪夢という名称を持つチェンソーで、ビーストソウルがSGの足を狙う。
モニター上に『脚部破損! 右側ホバー停止』の表示。
表示に従って遠隔操作によるホバー制御が行われた。
「くっ!」
結局左側だけのホバーでは不安定極まりなく、奮闘虚しく降参するしかなかった。
「皆ご苦労じゃったのう。ほれ、熱いお茶が入っておるぞ」
エーファが参加した能力者達の労をねぎらう。
「お嬢ちゃんには煎餅ではもの足りんじゃろう。ほれ、大福じゃ」
そう言ってエーファは、最上に大福の容器を渡す。
「‥‥ん。大福も飲む物。飲み物」
「さて、どちらが採用されるにしろ、もう少し時間を貰おうと思うのじゃが‥‥良いかのう?」
「大体の感触は掴めましたから依存はありませんよ」
と奉丈。
「俺はやはりホバーが良いな」
カルマはホバー搭載を推す。
「移動力の低さは工夫しだいでどうにでもなると思うんです。それよりは、FSを搭載して長距離砲戦型として特化した機体に仕上げるべきかと。結構、万能型の機体って他にもありますし‥‥」
「ちょっと高くても、高火力高命中が魅力かな」
サルファと忌咲がファルコンスナイプを推す。
「テストの結果がどうなるかは分かりませんが、やはり本来の機体特性を考えるとFS搭載型を推したいところです。ただ、足回りはともかく行動値を犠牲にするのならホバー搭載型でしょうか‥‥。支援機として運用することを考えると、足の遅さは目をつぶるとしても手数が減ってしまうのはいただけません」
ティリアは率直な意見を言う。
「おぬしらの貴重な意見、ありがたいのう。では、それらも踏まえて今回得たデータを元に練り直してみようかの」
「バグアに災厄を齎す悪霊であり、ボクたちの背中を守ってくれる守護霊。そんな頼もしい機体になってくれたら‥‥と思います」
「うむ、おぬしの期待、確かに受け取ったぞい」
「今日は本当にご苦労じゃった。では、これにて解散じゃ。後は自由にして良いぞ」
「‥‥ん。パパ。お腹空いた」
大福を全部平らげた最上は、まだ空腹らしく、サルファにねだってみる。
「そうだな。何か食べて帰るか?」
二人は手を繋いで仲良く食事へと向かう。
他の能力者達も各々に休憩を楽しんだ後解散した。
「しかし‥‥派手にやってくれたのう‥‥」
SGの装甲は、あちこちが深くへこみ、無数の傷が付いていた。
「まあ良いわ! お前達、今日は集めたデータ解析と修理で忙しくなるぞい」
幾つかの課題を残しつつも、試作機のテストは全て終了した。
(代筆:水無瀬 要)