タイトル:敵の連携を崩せ!マスター:磊王はるか

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/15 04:28

●オープニング本文


●悪魔の砲撃
 競合地帯とは言えど、毎日毎日間断無く銃弾が飛び交う危険地帯という訳ではない。戦争という物は生物の様に、活発に変化する事も沈静化する事もある。統計的に見れば、バグアの支配圏に近ければ近い程、戦闘が発生する確率は高くなる。そんな競合地帯の一角、北アメリカ南部テキサス方面に存在するある前線基地――
「なんなんだ、あのキメラは!」
 荒れ野の中に積み上げた土嚢から僅かに頭を上げ、双眼鏡で敵であるキメラを確認した男が焦りの色も露に声を上げた。双眼鏡の向こうには、2つの影が捉えられていた。周辺の塹壕はキメラからの物と思しき砲撃を受け、中にいた兵達は負傷者を連れ、命令に従って次々と後方へ撤退している。また、キメラと最も近かった塹壕からは、悲痛な悲鳴が幾つも上がっていた。彼らにとっては虎の子の戦車の多くは砲撃により各坐してしまい、無力化されてしまってる。
 悲鳴が止み、塹壕からはゆっくりと何かが立ち上がった。
 それは全身に曲線を帯びた甲殻を纏った細身の人型であった。その暫し後方に位置取ったもう1体は両肩にそれぞれ1本ずつ伸びた筒らしき物を持ち、幾重にも衣服を重ね着したかの様なシルエットをした人型であった。比較してみるに、細身の人型は格闘戦に対応したものなのか、大きな鉤爪を両の手に供えている。もう一体の方は形状からして見るからに砲撃戦を行うのが明らかだ。
「先程の砲撃であの細い奴の支援をしているのか・・・・」
「隊長、幾らなんでもあの火力を前にしちゃ俺達じゃ無理ですよ!」
「確かにな。能力者がもっとこの場にいれば斬り込んで貰うんだがな」
 手元の重火器すら、眼前に現れた2体のキメラが相手では豆鉄砲にしかならない。着弾はするのだが、その瞬間にキメラが表面に展開するFFによってその多くが――傷すら見られない所からするに、そう判断せざるを得ない。
「教導隊の奴はどうした」
「既に別行動を取って、現状からの侵攻を食い止めています。しかし能力者ってのは凄いもんですな。元々、狙撃手と言う奴は味方にとって非常に頼りになりますがね」
 2体のキメラが姿を現してから、その教導隊出身の狙撃者はたった独りで現状を維持している。
 教導隊とは戦闘時における部隊運営に多分に貢献する、戦術や戦略と言った貴重な経験を他部隊に伝達する為に、時には自軍内で交戦すらする歴戦の兵士で構成された部隊だ。他部隊への訓練や、時には仮想敵としての実力を求められる。そんな猛者が集められた場所でもある。
 その教導隊に所属している能力者であるスナイパーが、自身の経験と力量をフルに生かして現状悪化をたった一人で、隊長その他を含む一般兵が支えきれぬ現実を見事に支えていたのだ。何せ、この戦線は彼らの基地を守る最後の防衛線だ。ここを突破されれば、生き残った所で彼ら自身にも後がない。帰るべき場所を守る為に、彼らは文字通り必死であった。
「しかし、奴からもそろそろ限界だと通信が。これ以上留めておくのは厳しいと・・・・」
 この基地周辺は荒野であり、身を隠せるような場所も数少ない。身を隠せる藪や岩場も無い訳ではないが、その数が少ないが為に、狙撃を行っても相手に居場所を特定されやすいのだ。居場所の特定された狙撃手は、今後の事も考えたとしても早々に始末するのがセオリーと言えた。
「だろうな。我々の補佐に徹してるとは言え、現実には彼が1人で支えているに等しい。これ以上教導隊のケインだけ任せる訳にはいかん。本部に連絡した増援と共に、早々に攻勢に転じて、これ以上の出血は避けねばならんのだ。あれから増援はまだなのか!?」
「後、5分程で輸送機で合流との事です。恐らく、降下してくるかと思われますが」
「となると、着地までの間は俺達があの2体の相手をしなければならんという訳か」
 焦りの色も露にする部隊長は、己の身に降りかかった災厄を呪った。せめて、到着する筈の能力者が無事に戦線に降り立つまで、自身と部下等の無事を祈らずには入られなかった。
「もう少しで俺達の鬼札が空から降って来やがる、生き残りたかったらここが踏ん張り所だぞッ!」
 そうして銃火の爆音が響く中、空から重々しさを感じさせる風切り音が鳴り始めた。傭兵――能力者達がとうとう、駐屯する軍人達が敵キメラに出血を強いられる劣勢の中に空から辿り着いたのであった。そうして傭兵達は基地付近、敵の砲撃の範囲外からラペリングにより着地し、敵の姿を険しい瞳で捉えるのだった。

●参加者一覧

沢良宜 命(ga0673
21歳・♀・SN
瞳 豹雅(ga4592
20歳・♀・GP
サルファ(ga9419
22歳・♂・DF
遠倉 雨音(gb0338
24歳・♀・JG
トリストラム(gb0815
27歳・♂・ER
御巫 ハル(gb2178
23歳・♀・SN
立浪 光佑(gb2422
14歳・♂・DF
ギル・ファウスト(gb3269
32歳・♂・GP

●リプレイ本文

●決死の突破
「今やキメラも連携する時代なんやねぇ‥‥」
 覚醒しつつ着地した沢良宜 命(ga0673)が増量された胸を大きく揺らしながら呟く。同じく覚醒した事で瞳から燐光を放つギル・ファウスト(gb3269)もまた、両の手に装着した重爪の具合を確かめる。
「さて、やるっきゃねぇわな」
 初の実戦とは言え、彼は既に覚悟は出来ていた。後は、この前線基地が敵によって潰されるのを避ける事に注力すれば良いと、不思議と緊張感は無かった。
「おちおち飲んでもいられないってのも辛いもんだな」
 着地をすると、御巫 ハル(gb2178)は手にした銀の銃とスコーピオンを構える。聞けば、この戦線は基地の一般兵と一人の能力者が出血を強いられながらも突破を阻止しているらしい。教導隊の出身らしいが、余程の腕なのだろう。
「酒でも交えて聞いてみたいもんだよ」
「そりゃ賛成だ。終わったら、一杯何処かで引っ掛けたいもんだ‥‥」
 御巫の言葉にギルが飄々とした物言いで同意する。となれば、さっさと連携行動するキメラを掃討するに限る。戦線は逼迫しており、例えるなら堤防の決壊が目の前にまで迫っているような物だ。漆黒のオーラに身を包んだサルファ(ga9419)が、今回の作戦を任されたトリストラム(gb0815)へ二、三、言葉を交わし。確認をする。
「では、予定通りに。サルファさんや立浪さん達は前衛を。自分や沢良宜さんは射撃による支援を」
 かつて同様に連携をするキメラと相対した経験を持つ、トリストラムの言葉に従って、能力者達は行動を開始した。

 臨むは戦線で味方に出血を強いる2体のキメラ。BattlerとGunnerと名称を与えられた個体の内、先ずは砲手を排除するべく、立浪 光佑(gb2422)らもまた塹壕へ飛び込み前線へと向かう。グラップラーであるギルと瞳が先に、その後をサルファと立浪が追従する。
 新たな敵戦力――能力者の存在に気付いたGunnerが彼らへと砲塔を向けかけた、その瞬間に新たな牙が襲い掛かった。
「ありがちな組み合わせですが、話を聞く限りはどちらも強敵のようですね」
 先制を取らせていただきますと呟きを漏らしながら、遠倉 雨音(gb0338)の弾頭矢が襲い掛かった。青の洋弓を引き絞り、力を上乗せる事で射程を延ばす。
 放たれた矢はGunnerに突き立った次の瞬間には爆発し、構えた体勢を崩す。
「――次!」
 烏の濡羽色に変化した髪を揺らし、新たな弾頭矢を遠倉が番え始める。彼女が次の射撃行動に入る前には、Batterにも何処からかの銃撃が加えられ、敵は困惑の様子を見せる。
「ケインって奴か、いいタイミングで撃ってくれるもんだぜ」
 遠倉の準備が整う前に遠倉よりもキメラに近い塹壕に飛び込んだ御巫が率直な感想を述べつつ、銀色の銃から弾丸を放つ。その左手にはスコーピオンが置かれており、装填の手間を避ける御巫の堅実さが伺えた。彼女と同様に、弓よりも射程の短いS−01を持つ沢良宜もまた、仲間の次弾装填で生じる隙を敵に与えさせぬ様にと火を噴いた。

 敵に近づく為に新たな塹壕へと瞳 豹雅(ga4592)が瞬天足で飛び込んだ。警戒を途絶えさせる事無く、金色の女豹の如く着地する。
「酷いもんだねぇ」
 疾駆する只中、呻き声を上げる兵や首を失った兵、ぐずぐずの肉塊。または負傷したか若しくは戦死した兵達の姿があった。充満する死と血の中を瞳やギルらは狩るべき敵を狩る為に着実に敵の傍へと接近出来る堀を渡りながら進んでいく。壕から壕への間が長い箇所でGunnarの砲撃に捉えられ、周囲に爆煙が舞い上がる。
「貫通弾をお見舞いしたるっ!」
 沢良宜の叫びと共に放たれる弾丸の雨はGunnerの体を徐々にであるが、FFを貫いて確実に穿っていく。しかし、敵とて只の的ではない。仲間への銃撃が加えられたと知るや、Batterが神速の速さで持って沢良宜へと駆ける。
「疾い‥‥!」
 Batterの挙動にトリストラムは僅かに唇を噛んだ。Gunnerへ接近する仲間を援護するべく、2体の敵へ狙撃手達が足止めを図るのが主な戦術だった。しかし、Batterの能力に関しては少々見積もりが甘かったらしい。御巫と同じ塹壕に居た彼は、塹壕へ入られる前に足元を狙い撃つ。
 3点バーストで放たれた貫通弾は見事にBatterの右足を捕らえ、転倒させる事に成功する。しかし、致命打には程遠く、やや足が鈍くなった程度だ。
「このまま奴を行かせてしまっては不味い。しかし‥‥」
 思っていたよりも、この格闘戦に特化したキメラは強敵であった。御巫も彼と同様に銃を構え、二連射を行う。これ以上の接近を許せば、此方が危ういし、かといってもう1体へと向かっている仲間の支援を行わなくてはならない。判断を決するのに、ほんの僅かな時間でも無駄にする訳には行かなかった。


●豪腕剛壁
 やや鈍くなったものの、然程速力を落とさずにBatterは沢良宜の潜む塹壕へと迫る。途中から隠密行動を用いての移動をしては居たが、塹壕は無限に存在する訳ではなく、何時しかその場所もある程度の目処をつけられるようになってしまっていた。
「ケインさんにも協力して貰ってるみたいやけど、これは厳しいわ」
 貫通弾を放ちつつ、悪寒が背に走るのを彼女は隠せない。何より巨大な鉤爪を持つ敵が自分に狙いを定めて高速移動してきたのだ。単独で遣り合える様な相手じゃないのは、相対した時点で分かっている。
「護衛、期待してるんやで‥‥」
 緑の瞳が敵の姿を捉え、貫通弾を放つ。敵の表面で生じる赤い幕を何とか貫いて着弾する。しかし、そこでマガジン内の弾が尽きた。
「しもたっ!?」
 装填には僅かだが時間がかかる。逃げるか、それとも新たなマガジンを装填し直すか。思考が一瞬巡る。しかしその時間の間に敵は彼女の目の前に――
 影が迫った次の瞬間、隣の塹壕から盾を構えたトリストラムが割って入っていた。
「自分が銃しか使えないとでも思いましたか?」
 ――させませんよ。
 辺りの空気が冷たく感じられる程の蒼いオーラを纏った彼は、手にした機械刀を構えた。

 乾いた風が吹く中、トリストラムはBatterと対峙した。撃ち込みの瞬間、手にした刀から圧縮されたレーザーが噴出する事で敵の強固なFFを貫き、敵の左腕に傷を負わせる。しかし、敵も眼前に現れた獲物に向け、両腕に供えられた鉤爪を振るった。
 二度、三度と力任せに振り下ろされる爪を躱し、時には白銀の盾で受け流す事で彼は敵からの攻撃の多くを捌いていた。
 長くは持たん。冷徹な思考を持つ彼は、自身が置かれた状況を正確に判断していた。彼を支援するべく、沢良宜が装填した貫通弾を再度放つ事で支援がなされるも、火力が足りないのである。
「早く、早くもう一体を‥‥!」
 白銀の盾で振り下ろされた鉤爪を正面から受け止め、勢いを殺しきれずにトリストラムは後ろへと体を滑らせる。好機と見たBatterは間合いを更に詰め寄り、襲いかかる。
「何だ!?」
「‥‥支援か、有難い!」
 後方から狙撃され、Batterは一瞬そちらに意識を向けた。
 戦場に隠蔽しながら足止めしていたと言う、ケインと呼ばれる能力者からの支援と彼は判断し、生じた隙を逃す事無く体勢を立て直し、接近する。
 体を瞬間、深く屈めさせて撥条を活かす。生じた力をそのまま腕に、手に握る刀へと伝えて敵の胴を薙ぎ払う。身に纏う厚い防御とフィールドを力任せに振るう事で、強固な守りをレーザーの刃が一気に破壊する。
「こいつ‥‥矢張り堅い!」
 手応えは確かにあった。けれども、敵の周囲を包むFFは敵に致命的な負傷を与えるには至らなかった。だが、彼の一撃は着実に相手の体力を奪いつつある。


●断たれた連携
 一方、遠倉達の散発的となった支援を受けながらも、ギル達はGunnerから最も近い戦車の残骸から飛び出し、一気に間合いを詰め始めていた。支援が心細くなったのはBatterの接近による物であったが、遠蔵が次々と放つ爆裂矢は着実にGunnerを翻弄していた。
「好き放題してくれたお返しをしないとね!」
 最後の瞬天速を用い、神速の動きで瞳が間合いを詰める。後方からは立浪が銃撃を、ギルが爪を正面に構えながら間合いを詰めてくる。敵の、服を重ね着したかの様な装甲は痛んでおり、瞳が振るう剣が空気の揺らめきを纏いながら赤い障壁を突破し、斬撃を加えていく。自らの間合いを確保したギルはGunnerの側面へと踏み込み、敵の挙動を封じ込める様に己が爪を振るう。特に砲身を狙う事で、近距離での射撃を阻害している。
「‥‥悪いが、これ以上はさせやしねぇぜ?」
 重爪の乱打を与え、その最後に乱打の最中に見抜いた弱点に向け、深々と爪を突き立てる。瞳の剣撃による軌跡を追う色と同じ赤の体液が、敵キメラの躰から噴出した。
「到着ぅッ! 早速行きますっっ!!」
 止めとばかりに放ったギルの一撃で踏鞴を踏みかけたGunnerに立浪が跳躍し、銀の光を反射させながら正面から斬りこんだ。壱式と名付けられた真紅の刀身が閃き、またも障壁を突き破る。
 キメラにとっての前衛であるBattlerが足止めされた事で、彼我の戦力差は徐々に能力者へと傾いた。Gunnerの持つ砲撃の破壊力は洒落にもその身に受けようなどと思えない程の物であったが、懐へと飛び込んだギルや瞳らからすれば、キメラの持つ砲身の長さは明らかに優位な点であった。
 何せ砲身が長い分、その長さよりも極力離れぬ様にすれば直撃は避けられるのだ。無論、砲身によって横殴りにされる事もあるが、砲弾を受けるよりは遥かにマシと言うものだ。
 この頃になると戦線を維持していた筈のケインからの支援は途絶えていた。恐らくは立浪達が勝利すると踏んだか、下手な狙撃によって彼等の阻害をする事を避けたのだろう。
「――このまま一気に狩るぞ!」
 両の手に十字架の如き大剣を手にしたサルファが咆哮と共に突進する。ギル達の攻め手もあってか、敵の砲撃を気にする事無く彼は接近し、地を蹴った。
「出し惜しみしねぇ‥‥全力でいくぜ!」
 刀身に力を篭め、全身の膂力を重力による落下も利用して、サルファは赤光を纏った斬撃を、両断剣を発動させた。彼の剣は砲塔のある肩口を断ち割り、そのまま腹部中央へと敵の体を裂いていく。
「良し、次だ!」
「分かってるって!」
 確かな手応えを得たサルファが声を上げると立浪が呼応して、苦戦するトリストラムの元へと駆けた。瞳やギル、サルファもまたそれに続く。
「この身を盾に。レディの為なら本望ですね」
 盾で捌き、自らの能力で傷を癒しつつ、御巫や遠倉達の支援を背に彼はBatterと刃を交えていた。しかし、そろそろ疲労も蓄積されつつもあった。
 向こうはまだか。トリストラムがそう考えた頃、Batterは不意に前のめりにバランスを崩した。倒れかけた敵の背中、その向こうには剣撃を飛ばしたサルファを始めとした能力者達が居た。
「後ろも、気をつけないと駄目だぜ?」
 不敵な笑みを零すサルファ。更には立浪が速度を上げ、素早く敵の側面へと回りこんで斬撃を加えていく。
「また無駄に硬い奴だな」
 剣を通して響く手応えに、愉快そうな色を含んだ声音で立浪が漏らす。足元に漂う砂煙を払う様にして、また剣を繰り出す。
「正面は自分が引き受けたよっ!」
 金の女豹が声を上げ、体勢を低くしたまま疾駆する。手には蜃気楼を湛える剣。瞳の声に反応し、サルファ達は敵を包囲する様な形に陣を取り、時に敵の鉤爪による反撃を受けながらも削り合いを続けていく。
「グオオオオォォォォォッ!」
 怒気を含んだかの様な咆哮をBatterが上げ、周囲を包囲しているギルへと襲い掛かった。素早い挙動から振り下ろされた鉤爪を躱し切る事は叶わず、左肩口へと強烈な痛みと衝撃が加えられる。
「‥‥ちっ、まだ力だけは十二分にありやがるか!」
「引いて下さい、最後の弾頭矢です!」
 弓の弦を引き絞り、遠倉が合図と共にカーボン製の矢を放つ。独特の形状を持った鏃を持つ其れは、空を、FFを裂き、敵の弱点を看破したBatterの眉間へと突き立つと炸薬が爆裂した。
「‥‥やった、のか?」
 爆煙が風に吹かれて去ると、敵の眉間から額にかけて大きな穴が開いていた。通常の生物ならば、確実に致死に至る一撃であった。次の瞬間、傷痕から大量の鮮血が噴水の如く噴出し、最後の一体となった敵キメラは頽れる。
 大地にじわじわと広がる血液から恐らく生命活動を止めたと判断した彼らは、幾度か生死を確認し、キメラが確実に死んだ事を知ると、漸く安堵した。

 残る一体を殲滅し終えると、よろよろと彼方此方の塹壕から生き残った兵士達が姿を見せ始めた。キメラから近い塹壕からは生き残りは居なかったが、基地に近づくにつれてより多くの生き残りが姿を見せた。そして、破壊された幾つかの戦車の内の一つ――その陰から短髪の男が姿を見せた。手にはライフルが握られており、彼がこの戦場を支え、能力者達の支援もしたケインなのだろう。
「俺は基地の人間ではないが、礼を言わせて貰う。お前達が居なければ、今頃は基地へ侵入されていた筈だ」
「ええと、ケインさんでええんよね?」
 沢良宜に尋ねられたケインは言葉少なげに答えた。どうも寡黙な男らしい。彼女は同じ狙撃手という事で未熟ながらも師匠と仰ぎたいらしく、そんな事を口にすると、
「‥‥俺は弟子は取らん。教導隊にでも配属されれば、面倒を見ない事も無いが」
 と、にべも無く返される。その反応に御巫は、何処の狙撃手も似たようなものかねぇと苦笑する。
「崩れかけた戦線を援軍が来るまで一人で支えきった狙撃手――その技量と精神力、見習わなければなりませんね」
 そんな光景を目にしつつ、ケインに向けて独白する遠倉。最新の戦技訓練を常に得る為の戦闘を行う教導隊。何時かはそんな場所に求められる程の腕に辿り付けるだろうかと想う。すると狙撃手は只一言、
「お前達は素質がある。狡猾に、敵に出血を強いれる良い傭兵になれ」
 戦場で求められるのは、長く敵を苦しめる事の出来る存在だとケインは述べると基地へと去っていく。入れ替わる様に基地からは、次々と救護隊がかけつけ、ギルが動けない負傷者の搬送を手伝う。徐々に危機が去った事を人々の空気から察せる頃には、既に陽は傾き始めていた。
 一仕事終えたとばかりにギルは懐から煙草を取り出して、徐に火を点す。呼吸し、肺に収めた紫煙を吐き出す事で、彼は漸く初仕事を終えたと気を緩めた。
「一杯何処かで引っ掛けたいもんだ‥‥ま、一杯で終わらせる気はねぇけどな」
「なら基地のサルーンにでも寄っていくかい? どこの基地にも一つくらいはあるもんだ」
 ギルの呟きに御巫が応えた。確かに、余程急拵えの基地でもなければあるだろう。負傷者も多かったが、基地を守れた事を祝っている兵士もいる筈だと思い至ると、彼は寄ってみるかなどと思うのだった。