タイトル:ふしぎ戦隊●●●●5マスター:磊王はるか

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/07 20:42

●オープニング本文


●企画の悲哀
「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁー、パイロットフィルムが、企画書が間にあわねぇー‥‥」
 仄暗い闇に包まれたある事務所の中で、絶望に塗れた男の声が響いた。事務所の中のあちこちにはデスクとパソコンが置かれ、その傍には色彩表やら、予定表やらが散乱しており、足元にあるゴミ箱からは、印字された後に力任せに丸められたコピー用紙が山を作っている。
「スポンサーから一週間後までにフィルムが用意出来なきゃ、最低でも直ぐ使える企画書速攻で出せって言われても、元々の期間が短いんじゃお話にもなりゃしねぇーッ!」
 既に窓から見える外の風景は青白く空模様を変え、男が結局完徹しても企画書が上げられなかった事をやんわりと、だか冷徹に伝えていた。
「女の子5人、実写で特効はバリバリでも可。ちょっぴりえっちなテイストで若年層以外の層も狙える、そんなベタな企画を話で聞いた時はちょろいと思っていたのに‥‥」
 最初に聞いた話では男は確かにそう思ったのである。
 この男、牧村毅はアニメや特撮業界で飯をそれなりに長く食べている、中堅所の企画屋兼、監督業を営んでいた。だが、今回に限って言えば、空前絶後のスランプに陥っていた。創作活動――それが商業であれ同人であれ――に関わるものならば、少なくとも一度は罹る麻疹のようなものだ。けれども今回だけは期日的に洒落にならなかった。
「主役の子も2回ほどオーディションしても決まらんし、大体、女の子の戦隊物で5人も可愛くてそれぞれ特徴持ってる子なんて滅多にいねぇーっつーのー」
 半ばやけ気味に鼻をほじりながらだらける牧村。しかし、それすらも希少な時間を無駄にしている事に彼は気付いていた。分かっていても、ついプチ逃避してしまうのだ。
「あー、くそっ、こうなったらテレビでも見て気分転換するか‥‥」
 平日なので、この時間は朝のニュースしか流れないだろう。せめて、全く違う分野の情報に触れて、何とか企画書だけでも作れる閃きを得ようと牧村は電源を入れる。
 実の所、後一週間の間に特殊効果なんかは大雑把でもいいから、スポンサーからは子供向け新番組のパイロットフィルムを作れと彼は言われているのだ。その段階で配役が本決まりになれば、大まかなストーリーは後で作っても事足りる。
「先ずは定番の悪い宇宙人がやってきて、幹部2人と雑魚な戦闘員を。当然毎週、怪獣は出さないとまずいよな‥‥」
 バグアによる地球侵略が始まって以降、どんなアニメも特撮も使い古されたと思っていた話筋が市民の間では妙に受けた。悪の宇宙人をなぎ倒す正義の味方を、バグアと能力者に重ねて、正義の側である能力者達が勝利するのを願っているのだろう。
「怪獣は地球人にある悪の因子を活性化させる光線で、これで地球人を怪獣に。そしてヒロインたちが、必殺技で浄化して助けて一件落着ってパターンだな。うん」
「後は女の子たちか。まずは、司令官だな。こいつは悪い宇宙人に部下を倒されて、武器は何とか持ち出しながらも大怪我をして地球に墜落。地球人とそっくりだから怪しまれず、何とか学校の先生辺りにでも落ち着いているって所が無難だな」
 子供達に向けての番組作りであるので、導入に視聴者が感情移入しやすい場所を選ぶのは当然の事だ。しかし、そこで先程の問題にさしかかってしまう。
「ブレスレット、ブローチ、ステッキ。この辺は何とか決めるとしてだ、肝心のヒロイン5人をどうするか‥‥」
 普段はちょっと幼い、良くある普通の女の子。まあ、大体小学高学年から中学生くらいだろうか。そこから特殊効果、若しくはそっくりな役者を見つけて、一気に17〜8歳の可憐なお姉さんに大・変・身ッ! 変身後の衣装は女の子にわかりやすい、メイドさんとか、ナースとか、バニーさんとかでどうだろう?(何故疑問系)
「よおおおぉぉぉぉっし! これなら上手くすれば巨乳の役者さんも使えるぜ、大きいお兄ちゃんも納得だろ!」
 いや、納得してるのは今あんた一人だろ。それはさて置き。徹夜明けのハイテンションな脳は、いまいち使えるかどうかも分からないネタばかりが飛び出してくる。そこで一息、コーヒーを牧村は淹れると、今度は配色を考え始めた。
 リーダーの赤、クールな青、食いしん坊の黄、までは良かった。そこから後2人を捻出するには、ここ最近無い色を彼は選びたかった。
「白は前にいたもんな‥‥うん、その逆で黒だな。後はピンクと思わせて、意表をついた紫なんかどうだろう」
 テレビから聞こえて来るニュースを読み上げる女キャスターの声を聞きながら、男はふと手を止めて、そちらへと向き直った。
「――と、言う訳で今回、街に現れたキメラを少女の能力者達が颯爽と現れ、撃退したとの事です」
 キャスターの言葉の後に、事件のイメージ映像が流れる。その瞬間、牧村の脳細胞に電撃が奔った。
「これだ! 何で気が付かなかったんだっ! 実際に戦ってる能力者にお願いすればいいんじゃないかっ!!」
 男はどばんっと勢いよく机を叩くと、ポケットに収めていた携帯電話で早速能力者達に依頼をするべく、連絡をし始めるのであった。

●参加者一覧

チャペル・ローズマリィ(ga0050
16歳・♀・SN
沢良宜 命(ga0673
21歳・♀・SN
鷹司 小雛(ga1008
18歳・♀・AA
霞倉 那美(ga5121
16歳・♀・DF
秋月 祐介(ga6378
29歳・♂・ER
御巫 雫(ga8942
19歳・♀・SN
アセット・アナスタシア(gb0694
15歳・♀・AA
ファイナ(gb1342
15歳・♂・EL
如月・菫(gb1886
18歳・♀・HD
ミク・ノイズ(gb1955
17歳・♀・HD

●リプレイ本文

●舞台裏
 期日に間に合わせるべく、能力者達は必死の思いでふしぎ戦隊ジュエル5のパイロットフィルムを作成するのに、腐心していた。可能な限りの力を振り絞って監督である牧村とその部下達と連携して、コンテやカメラワークなどの細やかな部分に意見を述べ、時にチャペル・ローズマリィ(ga0050)が差し入れたお手製クッキーで一息を入れて活力を取り戻し。
 時には御巫 雫(ga8942)が能力者としての伝をも利用して、何とか火薬を利用した特殊撮影を可能とするべく奮迅した事もあり、現場のスタッフからは火薬の量は大丈夫か、とか、ちょっと煙多すぎない!? などと言う撮影途中に上げられた叫びといった、数々の混沌めいた要素がまるで魔女の鍋の様にぐつぐつと、しかも短時間で煮詰められ、汲み上げられていく。
 そうして、参加者達と血と汗と涙の結晶であるフィルムはどうにか完成したのである。

●ふしぎ戦隊ジュエル5
 プロローグは暗黒の中から始まった。ブレザーに真紅のマントを羽織り、幼さの残る少年のその手には、彼が率いる帝国の紋章が刻まれていた。
「既にこの辺りの宙域は我々の手中に収めた――」
 そう語る少年の前には、幾多の戦闘を経た為か、身に纏った外骨格の多くが破砕された肉感的な女性が跪いていた。
「先の戦闘で失ったこちらの戦力は3割と言ったところです」
「うむ。しかし、残った宝石の戦士もあれでは助からないだろう」
 思い起こす様に二人が瞳を閉じると、つい先程までの戦いが映し出される。

 ある二人の戦士が数多くの戦闘員や怪人を前にして戦っていた。既にその体には大小の傷があり、肩で大きく呼吸する様子からも疲労の深さが伺えた。
「必殺『破魔・アローレイ』!!」
 戦士の持つ弓から光の矢が放たれ、敵を穿つ。しかし、斃れた敵の穴を埋める様にして、戦闘員達は間合いを詰めてくる。
 巫女の様な衣装を身に纏った紅梅――ミコ・ルビーの必殺技を受けながらも、怪人達は彼女ともう一人の司令と思しき男を追い詰め、投じた爆弾により崖下へと突き落とした。
「散って行った仲間達の仇‥‥いずれ全て清算させて頂くわ!」
 ルビーは落ち行く最中、敵に向けて叫びを残しながら落ちていった。

 ――宇宙は悪の帝国、オブシディアンの支配の恐怖に瀕していた。人々はただ、その恐怖と支配に慄き、戸惑い、悪の軍靴に蹂躙されつつあった。
 だが、それに立ち向かう正義の少女達が居た。
 宝石の持つ魔力を開放し、その身を包む制服の力で戦う美しき戦士達。
 人は彼女達を、ジュエル5と呼んだ!

 渋みのあるナレーションが終わると、可愛らしいタイトルが画面に映し出され、鷹司 小雛(ga1008)が演じる烏丸・紅羽ことクイーン・ルビー、サファイアに変身する水島・楓こと霞倉 那美(ga5121)が笑顔を見せ、チャペルこと霧月れもん、トパーズが瞳を輝かせながら黄色いハートマークで縁取られる。
 軽快なオープニングが流れる中、オニキスへと転じるフロンライン・ルーイヒ役のアセット・アナスタシア(gb0694)が物静かな様子で遠くを見つめ、清楚な趣を湛えたアメジストの竜胆・紫苑こと如月・菫(gb1886)と曲に合わせて映像が変わっていく。
 次いで司令である涼月・透こと秋月 祐介(ga6378)の教師姿が映し出され、即座に司令官としての衣装へと早変わりする。
「この宝石を貴方に託すわ‥‥!」
 曲の合間に紅羽に楔形の宝石を手渡す、負傷した紅梅・禊こと沢良宜 命(ga0673)のシーンが挟み込まれ、当惑した様子を見せながらも、傷ついた紅梅を見過ごせないと思った彼女は右の手にしっかりと宝石を握り締める。
 一転して、悪の居城と思しき禍々しい建造物が画面に映し出された。悪の帝国オブシディアンの女幹部――チャイナ風のドレスに巨大な鉄扇を手にし、仮面で顔を隠したテアマト扮したミク・ノイズ(gb1955)が姿を見せ、その後ろには酷薄な笑みを湛えたオブシディアン総帥、シーダの上半身がアップになる。
「あの青い地球を我らの手中に収めるのだ!」
 シーダを演じるファイナ(gb1342)無表情で機械的な言葉遣いで宣言し、右手を画面に向けると掌の中に地球の姿が浮かび上がる。
 そしてCGによる特殊処理と大量のカラフルな爆発を背景にしてヒロイン達が颯爽と変身し、駆けて行く。蛇足だが、このシーンは裏方に徹した御巫が方々に許可を得てなんとかもぎ取った迫力重視の絵であった。
 爆発が生じるたびに試写会に来ていた人々からは感嘆の声が漏れ、画面に見入っている姿が御巫を始めとした、その場に席を同じくしていた能力者達はぎゅっと握り拳を作って会心の笑みを浮かべる。
「これは宇宙の平和の為に戦う、美しき少女達の物語である――」
 そうしてオープニングが終わると、画面は暗転し本編へと場面は移り変わる。

「はい。やつらはほぼ壊滅といった所。失った戦闘獣の再生も現在、順次執り行っております。攻めるなら今かと」
 女幹部の言葉を聞きながら、少年は暫し前の戦いを思い起こしていた。彼女をここまで傷つけた星々を守る、宝石の戦士を。
「この青い地球と呼ばれる星を手に入れれば、我が宇宙征服は完遂される。ここは一つ、貴様と共に余も出向こう」
 ゆらり、と鍛えられた者のみが有する隙の無い動きで女性幹部――テアマトの前へと歩み寄る。
「完全征服まで後一歩、最後の征服をこの目で見ようではないか」
 冷徹な声が、悪の帝国オブシディアンの居城でただ静かに、それでいて威圧の色に満ちていく――

 今は平和な一時を過ごす地球のある町。背広に身を包んだ透はその懐に幾つかの宝石を忍ばせて、この星の学校と呼ばれる教育施設にて漢文の教師と言う仮の素性を得て、同じく戦いを生き残った禊もまた、近所の神社に巫女として身を潜めていた。
「なかなか見つかる物でもないか」
「そうですねぇ‥‥」
 宝石に反応は見られない。宝石の力を引き出せる素質を持った者が居れば、戦士として仲間に迎えたいと考えていると、その傍をローラーブレードで駆けながら、器用に透を避けて楓が通り過ぎる。
「先生、さようならーっ!」
 挨拶をしながら去り行く楓を見送ると、通りに面したスーパーからはれもんが両手に買い物袋を提げて姿を見せる。そして深い溜息をひとつ。
「はぁ、今度こそ運命の人と思ったのに」
 失恋し、落胆してれもんは肩を落とすと、買い物袋からミカンが一つ零れ落ち、ぽてぽてと透の足元へと転がっていく。
「落ちましたよ」
「す、すみませんっ! ありがとうございます‥‥って」
 拾い上げて透に手渡され、ふとした拍子に視線があったれもんは急に激しい動悸に襲われ、瞳にハートマークが浮かび上がる。
「気をつけてくださいね、では」
 一目ぼれした彼女に気づかずに透が去っていくのを見て、れもんはもしかして、あの人が運命の人かも! と思い、こっそり二人の後をつけて行く。
 そんな彼女達の様子を偶然目にする事になった紫苑も、一体何をしているのだろうと思い、なんとはなしに視線を暫く向けることに決めた。

「圧倒的ではないか、わが軍は」
「生きの良いまま連れて帰れ。この星を手に入れるための洗脳兵として使うからな」
 蠱惑的な笑みを浮かべながらティアマトは戦闘員に命じると、手近な人々を連れ去ろうと試みる。戦闘員の多くは次々と老若男女構わず引っ立てていく。
「待て! それ以上の狼藉は許さんぞ!」
「何奴!?」
 ティアマトが声の方向へ向き直ると、透とミコ・ルビーへと変身した紅梅の姿があった。
「‥‥はっ、地球にも骨のある奴がいたかと思えば。この星の者ではないな‥‥?」
 総帥・シーダは僅かに驚きの色を顔に出しつつも、直ぐに払拭し。ティアマトに戦うよう命じると後方へと下がった。
 しかし状況は多勢に無勢。透達は瞬く間に劣勢へと追い込まれ、負傷していく。
 辺りが混迷の一途を辿る中、れもんが攻撃を受ける透の姿を――共に居るはずの禊ことミコ・ルビーはアウトオブ眼中で捉えた。
「あ、あんな所に!」
「一体、これは‥‥!?」
 逃げまとう人々を前にして楓が戸惑う。そして彼女の視界の先には透と一人の女性の姿が見える。変な戦闘員に攻撃されているのを見て、近づこうとした刹那、彼らの傍へリムジンが突っ込んでくる。
「あっ、あれは紅羽の!」
「なんですの、これは‥‥!」
 リムジンから降り立ったその人こそ、紅羽であった。右目の眼帯も凛々しく、清楚な面持ちもそのままに険しい瞳を向けた。そんな様子を偶然通りかかった小学生のルーイヒが立ち止まる。普段の生活から物足りなさを感じ、憂鬱な日々を過ごしていた彼女であったが、目の前の状況が明らかに『普段の生活』からかけ離れた世界である事を、咄嗟に肌身に感じ取った。
「何これ‥‥イベントかな‥‥? 違う、本当に戦ってる‥‥!」
 ミコ・ルビーが攻撃を受ける度に流す血の飛沫に戸惑い、ルーイヒは足を止めた。戦いの空気に彼女が飲まれる中、戦いに飛び込もうとする紅羽に気づいた紫苑が走り寄る。
「こ、これは‥‥!」
 その時、透の手の中にある4つの宝石が強力な魔力光を宿し、輝き始めた。途端、それぞれの宝石の――魔力の属性に呼応したルーイヒ達の体もまた、魔力の光に包まれる。
「ル、ルビーが反応して‥‥!? もしや貴女ならば‥‥!!」
「なんですの、これは‥‥!」
 傷ついた禊が持つルビーが紅羽に反応を強く示していた。今の所有者である自分よりも‥‥! 禊は元の姿へと戻ると紅羽の手に宝石を傷ついた手で握らせた。
「お、お願い、この星を護って! 今それが出来るのはっ‥‥!」
「――悪を見過ごす事など、出来ませんわ!」
 生来の正義感が、人々を助けるのが己の義務と思う彼女は打って響くように答えた。次の瞬間、透の手の中に合った宝石は楓を始めとした少女達への手の中へと転送される。
「聞くんだ、宝石の声を!」
 傷ついた透の声を耳にした5人は、宝石に意識を集中する。その無意識下から、自然とある言葉が浮かび上がった。それは自らを戦士へと転身させる変身のキーワード――
「ドレスアップ・ルビー!」
「ドレスアップ・サファイア!」
「ドレスアップ・トパーズ!」
「ドレスアップ・オニキス!」
「ドレスアップ・アメジスト!」
 それぞれの少女の手に握られた宝石が眩い光を放ち、少女だけでなくその周囲すらも満たし、力の奔流が視覚化されて紫苑達へと集っていく。
 閃光が生じた次の瞬間、彼女達は少女の姿から乙女へと成長し、その衣装を変えていた。何処かで見かけた様な衣装――制服からは力強い波動すら感じられる。
「ふしぎ戦隊・ジュエル5っ!!」
 自然と口をついて言葉が出た直後、彼女達の後で色とりどりの爆発が起こる。勿論、彼女達の色と同じ赤や青などのカラフルな爆発と煙だ。
「えぇっと、どうすればいいんだろ‥‥」
「シュートブリッツと叫びたまえ! 君に適した力が発動するはずだ!」
 涼月の言葉に従い、サファイアが叫ぶと両手に填められた保護グローブが強固なナックルへと変化する。
 体操着にブルマ、黒いニーソにエルボー、ニーガードを身につけたサファイアは足のローラーブレードを回転させ、戦闘員へと間合いを詰める。一方で黄色のメイド服に身を包んだトパーズが耳のモップ型ピアスを手に取るとピアスが巨大化し、モップの先からは光の刃が現れて大鎌へと変形する。
「クレセントサイズ!」
「サファイア・ディバイン・インパクト!!」
 大きく振り被って振り下ろす光の刃に、サファイアが胸の前で生み出した青い光を叩き込まれる事によって吹き飛ばされる。
「私、大きくなって‥‥ペンダントが剣に‥‥クロワヘンダー、一緒に戦おう!」
 首に下げていた十字架のネックレスが変形した十字架型の大剣をオニキスが横薙ぎに振るう事でまたも戦闘員達が跳ね飛ばされる。大剣を振り回し、構えを取ったオニキスの姿はスリットの入ったシスター服に身を包み、額にヘッドガードを備えた戦士であった。
「Amen‥‥黒き光で闇を照らす‥‥それがオニキス!」
「それじゃあこちらも参りますわよ!」
 紫色のバニーガール姿となったアメジストこと紫苑は両手にトミーガンを手にし、敵の中へ飛び込むと同時に回転しながら銃撃を開始。紫の波動を撒き散らしながら次々と敵を撃ち倒していく。
「私の弾丸は貴方達だけを撃ち抜きますわ」
「残るは貴女ですわ!」
「‥‥くっ! これ程の力を持った戦士がこの星に居たなんて!」
 後ろに居るシーダを護る様にして立ち塞がるティアマトは愛用の鉄扇を正面にして身構える。しかし、ルビーへと転じた紅羽は手にしたパラソルの柄を握り締め、勢いよく抜き払う。
 魔力の刃を宿した剣を握り締め、鉄扇へと振り下ろす。あまりの衝撃にティアマトは耐え切れず、扇を取り落としてしまった。
「引くぞ、ティアマト。このような戦士が残っているのなら、計画を練り直さねば」
「わ、わかりました」
 総帥であるシーダの言葉に従い、ティアマトは残った戦闘員らに撤退を命じると、不可思議な空間に包まれて姿を消していく。
 そうして平穏を取り戻した光景を目の当たりにしながら、透は彼女達の振るった力を眼前にして、感嘆に満ちた声を漏らす。
「彼女達なら‥‥!」
 きっと平和を取り戻せる‥‥!
「もっちろん! 悪い奴は懲らしめろ、父さんの教えだもんね!」
 サムズアップで答えるサファイア。その傍らでは、運命ならば新たな力と抗わずに向き合おうとオニキスが決意し、その後ろでは――
「‥‥って、あの人って恋人いたのぉ?」
 戦闘が終わって気が抜けて。ふと透の傍をみやれば禊の姿があった。実はそうではないのだが、思い込んだ乙女であるれもんは数時間で失恋記録を更新するのだった。


●試写会を終えて
「いやぁ、真面目に助かったよ! やっぱり能力者の皆さんに頼んで正解だった!」
 完成したフィルムの試写会ではかなりの高評価であったのか、牧村はその場に居た能力者達に熱の篭った様子で礼を述べた。
「いや、こちらこそ気持ちの整理もついた。‥‥麻疹のようなものと誰かに言われたが、その通りかも知れぬな」
 良い勉強になった、と御巫もまた牧村に礼を述べた。彼女もまた女性らしい悩みを抱えており、彼女なりに心の内に秘めた気持ちの置き場を得たのだろう。
 この作品が上手くいけば、きっとお茶の間に自分達が頑張った結果が形となって現れて、人々の心を明るくするのだろう。それに、この後はチャペルの用意したクランクアップのささやかなパーティが待っている。
「みんな、行こうよ!」
「ああ」
 櫛の歯が欠けていくようにして人々が消え、闇に包まれた会場を、最後に御巫が振り向いた。先程までの熱は既に無く、ただ静寂だけがホールを支配する。
「‥‥気持ちとは難しいものだな」
 御巫は整理をつけた筈の気持ちに向ける様にして小さな笑みを零すと、会場を後にするのであった。