●リプレイ本文
ふと空を見上げたのは、己の行為に改めて無常を感じたから、だろうか。
「‥‥星を見上げるなんていつ以来だ?」
シガレットチョコをくわえ、狗谷晃一(
gc8953)は頭上の輝きを眺めながら呟いた。医師として戦いの最前線を回る日々は、息吐く暇もない程忙しくて。
怪我以外の症状に無力な己を感じて、いた。能力者となり、また医療の進歩で治療の幅は広がったけど、この手をすり抜けていく命は変わらない。
そんな苛立ちと共に見上げた空から、遠く離れた場所で叢雲(
ga2494)は、そのメールを思い出していた。手の中の買い物袋を見下ろし、傍らの不知火真琴(
ga7201)を見る。
と、真琴が「ぁ」と呟いた。
「叢雲君。今日は流星群ですよ」
「――えぇ」
努めて明るい声に、頷く。足を止め、見上げた空に思うのはどうしても、空の彼方で広がる戦いや、その戦いに身を投じる友人達の事。
日常の中に居ればこそ思い出すその事実を、氷室美優(
gc8537)も考えていた。散歩がてら、のんびり近所の公園を歩きながら夜空を見上る。
不思議なメールに惹かれ、たまには良いかと見上げた夜空は、星が流れてなくても息を呑むほどに美しい。まして親友と見上げれば尚更と、石動 小夜子(
ga0121)は微笑み、傍らの弓亜 石榴(
ga0468)を見た。神社の境内の野外ベッドは、今や贅沢なプラネタリウムだ。
不思議な気がすると、笑った。
「この空を沢山の見知らぬ人達が一緒に見上げて、同じ様に感動している‥‥と思うと」
「うん♪ こーやってると、世界に二人きりしか居ないみたいじゃない?」
笑って小夜子の手を握る、石榴の手は暖かい。そっと握り返した、手の温もりの届かぬ親友を想うメールを、結城 桜乃(
gc4675)は思い出していた。それは、自身の親友も行方が知れないからだ。
それから傭兵になるまでは、もしかしたら今も、周りの動きに流され易くて。そんな自分が此処に立てているのはもしかしたら、今でも動画を見る位好きなサッカーのおかげかも知れない。
自身に重なるせいか、初めての流星群だからか、少し楽しみに窓の向こうを見た桜乃とは違い、妻クラリッサ・メディスン(
ga0853)らと共に榊 兵衛(
ga0388)は、星が流れるのを待っていた。せっかくだから、家族と共に楽しみたいと思ったのだ。
冷えぬよう上着を持って。暖かな飲み物も用意して。
そんな親子を見つけ、百地・悠季(
ga8270)はケープを掻き合わせ、娘のベビーカーを見下ろした。いつもなら眠っている時間だけれども、こんな時は特別だと、夜の散歩を娘と2人、楽しんできた悠李である。友人達が手を挙げたのに、応えて娘を起こさぬようベビーカーに載せたまま、クラリッサの傍らに座り。
「旦那も同伴できたらねぇ」
忙しいから無理は言えないけど、と笑って見上げたLHの空は、鏑木 硯(
ga0280)の見上げた空と近かったかも知れない。元より星を見上げるのは好きだけれども、流星の中に仲間の機体もあるのだろうか、という不安もあった。
硯自身はまだまだ地上に残るはぐれキメラに苦しめられる人々を守るべく、今も山の中の小さな村にいて。早く純粋に星空を楽しめる世界にしたいと、熱い珈琲を1口、飲む。
だが彼女にはまだこの苦みは早いのじゃないかと、西島 百白(
ga2123)と東青 龍牙(
gb5019)はじっとリュウナ・セルフィン(
gb4746)を見つめた。
流星群を見る為に眠気覚ましを考えた、のは良い。けど。
「リュウナ様、コーヒー飲めましたか?」
「早く用意してほしいのら!」
龍牙の疑問を他所に、リュウナは自信満々に要求する。眼差しは、苦い珈琲を一気飲みすれば眠くならないに違いない、ときらきらしていた。
ちらり、百白と龍牙が目を見合わせ、頷き合った。そうして百白がセルフィンに珈琲を渡す陰で、リュウナはミルクを暖めて。そうして案の定、余りの苦さにぶわっと涙目になった彼女に、はい♪ と渡す。
けれどもラウル・カミーユ(
ga7242)はどうしてだか、今夜は最愛の妹リュイン・カミーユ(
ga3871)と声だけで繋がっていたい気分だった。会いに行けない距離でもないけれど。
確かに半身だった互いに、互いよりも大切な人が出来て。こんな夜に会いたいのが、互いではなくなって。それでも繋がっていたい、そんなキモチ。
そんなラウルの、けれども恐ろしく能天気な切り出しに反射的に電話を切ったリュインは、再びかかってきた電話に小さなため息を吐いた。見ていた和食の本を膝に置き。
『外見てみてー。今夜は流星群だヨ』
「‥‥流星群?」
渋々出た電話の言葉に、窓を見やる。カーテンの隙間からそっと覗けば、満天の星空。その視界を1つ流れた星はロジー・ビィ(
ga1031)には、失いたくない人達の象徴に思えて、向かいに座るアンドレアス・ラーセン(
ga6523)を、見る。
それに、何故だろうとアスは考えた。見上げた空に、故郷を思い出し――彼女を思い出したのは。
あの港町で自身の小ささと世界の広大さを知ったアスは、だが今も大人の皮の下で無力に怯える子供のままで。そんな無力の中でロジーを思い出したのは、甘えてるのだろうか。ならば情けないと、苦笑しビールを煽るアスを、不安の眼差しで見たロジーはきゅっと唇を噛み締める。
頭上には、流星群。けれどもロジーはこの流星を――彼を、止めて見せる。
「アンドレアス‥‥」
「‥‥ん」
何を話そうと思いながら呼んだ名に、呼ばれたアスは目を細めた。出会った頃からますます綺麗になったと、思う。
そんな青年の遥か頭上では、クローカ・ルイシコフ(
gc7747)が愛機Спутникのコックピットの中、降り始めた星達に目を見張っていた。
遥か宇宙にまで辿り着いた今でも、クローカが焦がれるのは空だ。頭上に輝く星を仰ぎ、大地を見下ろすこの場所。宇宙という広大な空間を知ってなお、なぜか無限を感じさせる大空。
だから、どこまでも、どこまでも。このセカイの全てを目に焼き付けんばかりに、どこまでも――空を往くクローカの上に、降り注ぐ流れ星。
それに目を細めて、クローカは愛機と空を駆ける。その空へと続く砂漠で、ミリハナク(
gc4008)もまた流れる星を見上げていたのだった。
●
丘に寝転がって見上げた空は、ビーズをぶちまけたみたいだ。
「あそこ流れた〜♪ あっ、こっちも〜♪」
「あっちも流れたよ! ごこめ〜!」
わくわくとエレナ・クルック(
ga4247)と星和 シノン(
gc7315)は、競う様に夜空を指さす。互いを『あいじん』と呼ぶ、けれども仲良し兄妹の様な2人は、とっても賑やかだ。
星は綺麗だし、シノンの用意した温かな飲み物と膝掛けはほっこりするし。くすぐったい様な夜に、互いが居たらもっと、くすぐったい気持ち。
クスクス笑って手を繋ぎ、また1つ流れた星を数え指さした、そちらをゼラス(
ga2924)がKVから見たのは偶然だ。ひゅぅ、と口笛を吹く。
「こちらH01、ゼラスだ。11時の方向を見てみな」
いいから見てみろと、笑ってスイッチを切った。思えば遠くへきちまったもんだと、コクピットの中でぽつり、呟く。
スイスの片田舎にいた彼が、気付けば宇宙で輸送艦の護衛をしてるなど、昔の自分なら何の冗談だと笑っただろう。けれどもこれは冗談じゃなく、目の前を流れる星も現実で。
この現実に感謝しなければと、遠倉 雨音(
gb0338)は空を見上げる恋人を見た。気付いた藤村 瑠亥(
ga3862)が微笑むのに、微笑み返す。
デートの機会もなかなか取れないから、ただ寄り添って星を見上げ、語らうだけでも幸せだと、思った雨音はふいに苦笑した。この空を、宇宙では飽きる程見た筈なのに。
「――こうして見上げると、こんなにも綺麗だったのかと気づかされるなんて」
「そうだな」
確かにと、瑠亥も苦笑する。遠くから見た方が、その美しさが解るとは。
そんな、他愛のない言葉を重ねて。戯れ言に聞こえる様に、呟いた。
「よく‥‥流れ星に願いをかけると叶うというが‥‥雨音はそういうのあるかな?」
それに。目を瞬かせた恋人達とは、遙か離れた場所は対照的にひどく、賑やかだった。
星降る夜のピクニック。まして集まったのが仲良しな3人なら、盛り上がらない訳がない。
広げたシートの上にはたくさんのお菓子や飲み物。誘って良かったと、楽しそうな高日 菘(
ga8906)や恋・サンダーソン(
gc7095)に柚紀 美音(
gb8029)はほっと息を吐き。
恋さん、と飲み物を差し出しながら、呼んだ。見晴らしの良い高台までお菓子を運ぶ美音を手伝ってくれたから。
「ありがとうございます」
「べっつに。トロトロしてっからだよ‥‥苦ッ!?」
「れんれん、みおちゃん、聞いとんのー?」
美音の言葉に、フンと鼻を鳴らして照れ隠しで受け取ったのが珈琲だと、知った恋が顔を顰める。くすくす笑った美音と、渋い顔でぶちぶち文句を言う恋に、豆知識を披露していた菘が唇を尖らせて。
それからまた、どこのケーキ屋が美味しいとか好きな人は居るのかとか、盛り上がる丘から離れたビルの上で、狭間 久志(
ga9021)は心地良い風を感じながら夜空を見上げていた。傍らに寝そべるキョーコ・クルック(
ga4770)の、「空が近いから綺麗だね〜♪」という言葉に、頷く。
ぎゅっと、手を握って。互いの温もりを感じて。
メールの送り主はどんな人だったのだろうと、ふと思った。そうしてクッションの上でごろり、転がる。
そんな久志に、キョーコが小声で囁いた。
「グリーンランドでオーロラ見て以来だね〜♪」
「うん‥‥降るような星空っていうか本当に降ってるなぁ‥‥」
クッションに寝そべり見上げた空は、まるで今ではない様で。知らず、過ぎ去った時間や過ぎ去った人が、思い出されて。
それは見下ろしても同じらしいと、守原有希(
ga8582)はしみじみ流星を見つめた。
「地球に降る流星を眺めるのも、変わっていて良いよね」
寄り添い、共に蒼い地球を見下ろすクリア・サーレク(
ga4864)が言ったのに、頷く。地上時代には来た事がなかったのに、たまたま流星群の日に、と言うのも奇しき縁だ。
思えば学校自体、途中までしか行ってなくて。資格取得の為に通信教育は受けたけれども、いつかはちゃんとしておきたいと、思う。
温もりを感じる距離で寄り添い、肩を抱いていたら、有希がねぇ、と言った。
「有希さんはどんなお願いをしたの?」
流れる星にかければ、願いが叶うというけれど。尋ねたクリアの見下ろす流星を、見上げてルナフィリア・天剣(
ga8313)はくるり、日傘代わりのカルディナレを回す。
「この時期でも、夜の海は涼しいね〜☆」
リズィー・ヴェクサー(
gc6599)が無邪気に笑って手を繋いだ。うん、とふわり頷きを返したルナフィリアが、気まぐれに見上げた空を、見る。
波間に降り注ぐ様に流れる星。リズィーはそれに、思いつく限りの願いをかける。
家族が健康でありますように、友達ともっと仲良くなりますように、早く戦争が終わって、傷つき死んでしまう人が減りますように――
祈りだけで、叶うほど世界は優しくない。この願いは、彼女自身が叶えようと努力する為の、祈り。
そんな友人を見て、ルナフィリアはまた空を見上げ。歩く波の音も届かぬ九条院つばめ(
ga6530)の家の縁側で、鐘依 透(
ga6282)は思わしげに九条院つばめ(
ga6530)を見た。
流星群の事は知らせず、ただデートして――他愛のない話をし、老犬や野良猫達の温もりを感じる。それが自分の為だと、つばめにも解っていた。それでもあの、最後の笑顔が忘れられなくて。
彼と大切な話をする時はいつもどこかの夜空を見上げていると、言ったら透がそうだねと笑った。ため息の様な呟きに、微笑む透の笑顔が眩しくて目を細める。
そんな彼女の耳元に唇を寄せ、空を見て、と囁いた。
「‥‥ッ!」
促されるまま、見上げたつばめが息を呑み、流れる星に目を見張った。その、ふいをつかれた感動に、心が揺れる。
ひくり、喉が鳴った。透にしがみつき、声を押し殺し泣き始めた彼女の、涙を透は受け止める。彼女の優しさ故の苦悩を共に出来れば良いのにと、流れる星に願い。
命の絆を噛み締める、恋人達から遠く離れた戦場で、セレスタ・レネンティア(
gb1731)はふと瞳を瞬かせた。
「夜空が輝いています‥‥」
いつ敵が来るかも解らない、血で血を洗う戦場で。まるで誰かが零した涙が、星となって降り注いだかの様に。
つかの間、夜空を埋める流星群に目を奪われた。銃声は、今は止んでいる。
●
夜の公園に、あ! と大きな声が上がった。
「流れ星やん!」
「‥‥あら」
夜空を指差す藤堂 媛(
gc7261)に、ほろ酔い加減のキア・ブロッサム(
gb1240)が眼差しを揺らし。ラナ・ヴェクサー(
gc1748)は瞳を伏せた――流星は、血を吐く様な願いを星にかけても無駄だと、悟った幼い頃を思い出させる。
媛が嬉しそうに、「折角やからお願い事〜」と手を合わせて瞳を閉じた。見ればキアもひょいと肩を竦めて目を閉じている。
願いを叶えるのは自分自身だと、キアも知っていた。だからこれはほんの遊びの、つもりで。
そんな2人の横顔に、ラナもまた本気で祈ってみようと、思って。両手を組み、瞳を閉じて空を見上げるラナと、一生懸命祈っている媛に、目を開けたキアは微笑んだ。
「貴女がたはどんな願いを‥‥?」
それに返った答えの届かぬ場所を、逆代楓(
gb5803)は缶珈琲を片手にふらり、歩く。歩き、流れる星に訳もなく肩を竦める。
たまに、思う。KVを触りたいだけで傭兵になり、だが燻るだけだったあの頃、もっとちゃんと仕事をしていたら。そうすればもっと早く、医者の勉強をしようと思い立ち――もっと救えた命があったのでは、と。
ましてあんなメールを見たら尚更だ。だからせめて自分に出来る事位はと、缶珈琲を煽った視界にまた、流れる星が1つ。
その星から視界を移し、トリシア・トールズソン(
gb4346)は傍らのアレックス(
gb3735)をちらり、見た。恋人になって久しく、傍らが心地よく、抱き寄せられるのも撫でられるのも好きで――でもそれだけで。
まだ子供だから早いだろうかと、思いながら期待はいつも、胸にある。だからこの機会にと、願うトリシアが日々魅力的になるのを感じている、アレックスも実は同じ思いで。
先に進みたいのは自分だけじゃないと、思っても自信がない。空回りしてないか、傷つけるんじゃないか、そう思って動けなくなる。
流れる星に、思いを馳せた。沢山の願いを載せて空を駆ける流星は、けれども流れ落ちる人の命の様だ。
それを自分達が見るのもどうなんだろうなぁと、音桐 奏(
gc6293)にウィスキーとグラスを渡しながらレインウォーカー(
gc2524)は肩を竦めた。
殺風景なガレージに、なぜだか流星はよく映える。『友人』を見ながら、そう考え奏は渡されたグラスにウィスキーを注ぎ。
流星にグラスを捧げたのは、同時。
「星降る夜に」
「我らの友情に」
響く様に続けた奏に、彼は――ヒースと呼んでいる男は「腐れ縁の間違いだろぉ」と皮肉に笑った。それに小さく微笑んで、「そうとも言いますね」と返す。
全くヒースの言う通り、奏達の間に実の所、長い縁はあれども友情なんて表現出来るモノはなく。懐かしさはあれど微笑ましさも、なく。
その、薄氷を踏む様な和やかさとは全く対照的な夜を過ごす2人が、とあるリゾートホテルの、最上階に居た。
「中々ご奉仕が上手くなってきたじゃねえか」
VIPルームにある温水プール。新型スク水に包まれた身体を、愛する村雨 紫狼(
gc7632)に拭いて貰うビリティス・カニンガム(
gc6900)の口調はけれども、棘がある。気の多い彼の所業を聞けば、憎まれ口の1つも叩きたくなると言うもの。
とはいえ、本気の怒りではなくて。怒っているのは本当だけど、そうじゃなくて。
紫狼もそれは解っている。だからビリティスに請われるままに手を動かしながら、考えていたのは実は知り合いの事なのだが。
その知り合い、モココ(
gc7076)とクラフト・J・アルビス(
gc7360)はといえば、遙か南半球にいた。
海から少し離れた丘で、見上げる空は澄んでいる。戦いの後なのに――或いはそれ故に美しい、星空。
「オーロラ、は無理だけど、どう? モココ、オーストラリアは」
「うん‥‥すごく綺麗‥‥」
流れる星を見上げながら、尋ねたクラフトに頷くと、彼は嬉しそうに笑った。それが嬉しくて、モココもはにかんだ笑みを返す。
故郷を取り戻そうと戦う彼と、本当はずっと一緒にいたいと願っている。けれども、自分にそれが許されるのか――彼の傍に居るに値するのか、解らなくて。
そっと、手を握る。それをぎゅっと、クラフトは強く握り返す。
そうして暖かな物を飲みながら、また見上げた澄んだ空の遙か彼方を、ソーニャ(
gb5824)がエルシアンのコクピットから見上げていた。静まり返った空軍基地に、降り注ぐ星の雨。
あれが流れる命だというのなら、それは誰の物なのだろう。名も知らぬ、すれ違った人々? 死んだ仲間? 殺した敵?
それを儚いと哀れむのも傲慢な話だと、呟きの零れた遙か彼方に、紅の竜がぽつり、1匹。星降る空を振り仰ぎ、張り裂けんばかりに声をあげる。
「みぎゃみぎゃ、みーぎゃー!」
短い手足をバタバタ降って、夜空のどこかの誰かへと訴えるかの如き鳴き声を、聞いていたとすれば荒れ果てた戦場にかつて散った兵達のみ。ひゅぅ、と吹き去る風とて、その哀しき声を運べもせずに。
聞こえぬ声を聞いたかの様に、夢守 ルキア(
gb9436)は僅かに微笑んだ。この広いセカイのどこかに居る、誰かを思った。
「私も失った――帰って来ると約束したのに」
聞かせる為の言葉ではなく。独白ともまた違う言葉を、紡ぐ。世界は考え方で、楽しくも悲しくもなる――ならばルキアの世界は、それ。
どんな理由があっても、それは待つ者にとっての裏切りだから、二度と誰かと約束はしないと思って。それでも誰かを照らす光になりたいとルキアを名乗り続けるのは――どうしてなのか。
「私は謳う、見えなくても、確かに此処にいる、生きてる――誰も、独りじゃないよ」
セカイの誰かに謳った唄を、風が砂塵と共に舞い上げる。
●
流星は、幾度もクローカの願いを叶えてくれた。かつて前線で夢なく見上げた時も、命を乗せた流星を打ち砕いた時も、仲間達と誓いを胸に見上げたオーロラの夜だって。
けれども後1つだけ、叶えて欲しい願いがある。守る為に戦いながら、実は何も知らない、空から見えるこの世界の全てを知りたいと――願い、ふと見下ろした地上に、クローカは目を見張った。
ほんの僅か、雲の切れ間から見下ろした、星空の如き光景。生まれて初めて見た様な、星雲の如き無数の灯り――生きて世界を紡ぐ人々の、営み。
そうか、と微笑んだ。そうして地上の星空を瞼に焼き付けたクローカの耳に、届かなかった歌は星にまつわる古い映画のそれ。
口ずさみ、流れる星を見上げる。願いを叶えるのは自分だけれど、その為の綺麗なお話が必要な時もあると、知っていた。
けれど。
「‥‥どうしてあんな事言ったんだ?」
告げたアスの視線の先で、濡れる眼差しを揺らすロジーじゃなければこれほど迷い、惑わなかった。だが他ならぬ彼女だから、その眼差しに想われているのかと惑う。違う筈なのに。
そんなアスを、ロジーは見た。涙をカクテルと飲み込んで、問いに問いを返す。
「アンドレアス、貴方の幸せは何――貴方が想う、あたしの、『彼』の幸せは何」
アスが3人の幸せの為に旅立とうとしているのは知っている。だがそれは、自分にとっては幸いじゃない。
だから見上げた空に流れた星に、どうか行かないでと、連れて行ってと祈るロジーの想いを乗せて、駆ける星の辿り着く丘では、シノンとエレナが仲良く空を見上げていた。
傍らには、転がる星座早見盤。
「あっちの星はドーナッツ座!」
「じゃあ〜、あれはサンドイッチ座です〜♪ ぁ、サンドイッチ作って来たですよ〜」
一緒に食べようと笑うエレナに大きく頷くシノンである。勝手に好きな星座を作っていたら、すっかりお腹が空いてしまった。
だからバスケットを広げ、星を見上げて食べるのも特別で。今度は皆も誘って夜のお茶会でもと、笑うシノンにエレナは頷く。この時間が楽しいから、おねむはもう少しだけ我慢出来そう。
でも、友達よりは近しく、確かにそれとは違う空気の2人はと言えば、ほんの少し遠回りな家路を歩いていた。星に願う未来の事を、思わずには居られなくて。
かつては夢物語だった『戦後』は現実となりつつある。戦いの中で生まれた絆は、続くのだろうと思っているけれども。
真琴の居場所は、此処にしかない。生きながらに死んでいく、あの日々に戻るなんて考えたくもない。
ちらり、傍らを見た。見つめる視線とぶつかって、うに、と気まずく笑った彼女に、苦笑が返る。
無くしたくない居場所の中に、彼は確かに含まれていて――それは叢雲も同じで。これから先も共に歩んで欲しいと、言ったら彼女はどんな顔になるだろう。
どうにもタイミングが難しいと、ぼやいた星空は美しく。その空を往く流星群に大騒ぎで「ひゃくしろと龍ちゃんがリュウナの家族になりますように!」と何度も叫んでいたリュウナは、けれどもついに大欠伸を堪えられなくなって。
「今日は泊まるのら!」
叫ぶなり、ばたんと倒れて本当に眠り込んでしまった、リュウナにふぅ、と溜息を吐いて片付ける百白を、手伝いながら龍牙はふと、手を止めた。
意を決して、尋ねる。
「西島さんは‥‥その、お願い事は何ですか?」
それから慌てて、言いたくなければと手を振る彼女を見て、窓の外の流星群を見上げた。昔、こうして恩人と見上げた事があったと、思う。
かの人をも殺したキメラを狩れればそれで良いと、あの頃は願っていて。だがこの2人との出会いで、それが変わったから。
「戦争が終わったら‥‥俺の‥‥帰る場所に‥‥なってくれないか?」
「‥‥ッ」
照れながら告げられた、言葉に龍牙は息を飲む。彼女の願いは彼と、リュウナと何時までも一緒に居る事だから。
けれども今は、もう1つ。眠るリュウナを起こさぬよう、朝まで居ても良いかと願う、龍牙と似た願いを雨音も抱いていた。
「『許される限り、貴方の一番近くで、貴方と同じ時間を過ごして行きたい』‥‥ありきたりな願い事でしょう?」
瑠亥の問いに、微笑み紡いだ願いは、けれど切実だ。
彼がまだ恋人でなかった頃、1人見上げた夜空に彼は今どうしているかと気になって、己の気持ちを知って。傍に居ない彼を想う、もどかしい気持ちはもう二度と味わいたくない。
だから。瑠亥の手を、願わくばずっと握っていられるように――
「――瑠亥は、何を願いましたか?」
「そうだな‥‥俺は――」
雨音の手を強く握り返し、この温もりを離したくないと誓う瑠亥の様な相手が出来ますようにと、石榴は流星に願いをかける。6月の流星なら、良い縁を運んでくれそうだ。
「私にもカッコイイ彼氏ができますように!」
「‥‥ふふ」
その願いに、笑う小夜子に石榴は殊更明るい声を上げ、幾つも幾つも願いを唱える。けれども言葉に出さない願いも、あって。
敵であり、友であった悲しい彼女。どうか安らかに眠れますようにと、祈る石榴の優しい気持ちを、小夜子もちゃぁんと知っている。
性格も何もかも違う石榴だからこそ、これほど長く友情が続き、これからもきっと続いていくのだろう。
だから小夜子は、どんな願いでも1つだけ叶えて上げると笑う石榴に、名前で呼んでとさやかに願う。代わりに自分も、彼女を名前で呼ぶからと。
そんな風に、願いは己で叶えるものだと、晃一はけれども皮肉な眼差しで戦場の星空を見上げる。流星にどんなに願いをかけた所で、患者の1人も救えやしない。
夢だけでは何も出来ないと、己に強く言い聞かせる。強く噛みしめたシガレットチョコの、甘みが口一杯に広がった。
そうして再び己の戦場へ、医療テントへ戻っていく晃一と同じく、戦場に居たなら悠李も緊張感で星など眺めて居られない。けれども快い夜風にケープの裾を遊ばせ見上げる星空は、感動なんてものじゃなくて。
時雨、と愛娘を思わず抱き上げた。一拍後、ふぇぇ‥‥と泣き始めた娘に慌てて身体を揺らし、耳元で宥める親友に、クラリッサと兵衛がクスリと笑う。
強く、妻の肩を抱き寄せた。星降る空の下、交わした口付けの後、妻と眠る我が子を見比べる。
今やあの空でも戦う身は、明日どうなるとも知れないけれど。この愛しい存在達を、ようやく掴んだ幸いな居場所を失う気は、ない。
「‥‥いつか蔵人が大きくなって夜空を見上げた時、この流星群を思い出してくれたのなら、幸せなのかもしれないな」
「ええ。その時も、3人で‥‥それに時雨ちゃん達も」
夫の言葉に、クラリッサは幸せに頷いた。そうなったら本当に、どんなにか素敵な事だろう。
まぁね、と悠李も笑う。時雨もようやく落ち着いてきた様だ。
そんな夜空の彼方で、流れる星にゼラスは徐に柏手を叩いた。神社に参る様に――まさにそのつもりで。
「大事な連中がな、世界中いろんなとこに出来ちまったんだよ」
呟く。今も地上のあちこちで戦う人達。自分の事は自分や、共に空に居る仲間とどうにかするから――出来ればどうか、彼らを守ってやって欲しいと。
願いをかけて、それから柄でもないと苦笑した。けれども菘にとっては、当たり前に願うべき事。
「世界平和ー!」
「叫ぶなよ」
「‥‥ふふ。それにしてもすごいですね」
だから全力で夜空に叫んだ、菘に恋がぶっきらぼうに眉を上げ、美音が笑う。笑い、まるで世界で3人きりになったみたいだと、言った彼女にまた恋が肩を竦めたけれど。
そんな恋の願いも、実は菘や美音と変わらない。ずっと一緒に。また一緒にこの星空を、見られたら。――勿論、素直に口に出しはしないが。
ふわぁ、欠伸をする。騒ぎ疲れたせいか、うと、うと、舟を漕ぎ始めた恋が、ぐらり、凭れたのは菘の肩。
良いなぁ、と美音が恋の頬を突っつきながら目を細めた。そうして反対側から「美音も〜」と凭れ掛かるのに、しゃぁないなぁ、と笑う菘の眼差しはいつもより優しい。
んー、と可愛らしい寝言など漏らす恋を、2人でくすくす見守る丘から離れたビルの上で、ふいにキョーコは不安に駆られる。美しく、一瞬で消えてしまう流星。
2人の関係はあんなに簡単に消えはしないかと、尋ねれば久志はキョーコが求める限りと返す。ならば。
「あたしを、ずっと‥‥久志だけのものにしてほしいんだけど‥‥?」
その彼女の、言葉に。一瞬の空白の後、結婚を意識したそれだと気付き、久志は苦笑した。可愛らしい彼女と、そうして何より自分自身の間抜けさに。
彼女の為に生きるのだと、決めた事を思い出す。ならばこの先の道行きをも共にするのは、当然だ。
だから彼女を優しく抱きしめた。
「婚約するなら指輪選びに行かないと、な?」
「‥‥! ‥‥可愛いのが、いい‥‥」
喜びに頬を染め、強く抱きついた恋人達とは反対に、ルナフィリアは波の音に誘われた様に懐から、かつて恋人に貰った銀の指輪を取り出した。
そうして大きく振り被った彼女に、はっと気付いたリズィーが飛びつく。
「駄目なのよ、ルナルギ‥‥ッ!?」
「――我ながら引き摺りすぎだったのよ」
止められて、けれども淡々とルナフィリアは返す。戻らぬ過去の象徴。手放すきっかけを得られずにいたそれを捨てるのは、新たな何かを得る為に不要なものを取り除く気持ち。
その言葉に、リズィーがそっと身を離した。それに感謝の眼差しを投げ、ルナフィリアは流れる星と共に指輪を、暗い海へと投げ捨てる。
音もなく、煌めく指輪が飲み込まれるのを見送る彼女を、ぎゅっとリズィーは抱き締める。彼女の決心を間違いになどさせないと、祈りながら抱き締める、彼女の温もりを感じてルナフィリアは目を瞑る。
その温もりとは似て非なる暖かな毛布にくるまり、硯は熱い珈琲を啜った。いつしか思い起こすのは、友達以上恋人未満な女性の事。
終わるまでは考えられないと言われた、戦争ももうすぐ終わりそうな気配だ。あの宇宙で戦うのは上も下も判らず不安もあるけれど、帰る場所があるならこれからも戦っていけるだろう。
そう思い、彼女の笑顔を想って、貰ったシルバーチャームをぎゅっと握りしめる。そうして見上げた空の上で、有希はクリアの肩を抱き寄せた。
能力者となって、多くの物を得て、失った。それでもこの、守りたい時に誰かに手を伸ばせる力は、有希の誇りだ――彼女の傍らに立てたのすら。
だから願い、誓う。
「――うちは、ずっとクリアさんの隣に居ます。絶対に、どんな事があってもどんな時も」
そうしてどうか永遠に、彼女と2人で幸せになれる様にと。微笑んだ有希の腕に、クリアはぎゅっと抱きついた。
願わくば、皆が流星に掛けた願いが全て叶います様に。クリア自身の願いは変わらないけれど、今はその願いが皆の力で叶うんだって知っている。
それに――
「『有希さんのお嫁さんになる』って願いはお星様じゃなくて有希さんが叶えてくれるんだよね」
そう、笑ったクリアに無論と有希は頷いた。そうして彼女を姫抱きに、愛しさと誓いを込めて口付ける。
その幸せな空の下で、つばめはようやく涙を拭い、透の胸から顔を上げた。
「いつまでも泣いてたら‥‥俺のせいだって自分を責めかねないですね‥‥」
助けられなかった彼。その顔も想像出来るから、泣くのはこれでお終いだ。
代わりにあの時届かなかった手を、今度こそ『誰か』に届く様、何があっても伸ばし続ける。そして一番大切な、今も側にいてくれる透もこの手で支えられる様に。
どうか見守っていて下さいと、胸の中で呟くつばめと同じ面影に、彼女の生きるこの世界を、何があっても守ると透は誓う。そんな恋人達と違い、離れて居るから不安になるとリュインは、遙か遠い空の下で戦う婚約者を想った。
どうか彼が無事であります様に。叶う限りリュインも彼を助けようとしているけれど、いつも傍にいられる訳じゃない。
だがこの一時だけは、無邪気にはしゃぐラウルに気が紛れて居て。「また流れタ!」と声を上げる彼に無愛想な相槌を打っていたら、不意に声の質が変わった。
「ねぇリュンちゃん。‥‥絶対幸せになろうネ」
「ふん、当然だ」
神妙な声に、当たり前に返す。それはリュインにとって、確かな未来。だって幼い頃、兄妹で見上げた流星に彼女が願ったのは、それ以外にはなかったのだから。
とはいえこれは星との秘密だと、笑う彼女と同じ願いをラウルも掛けていた事は、知らない。そうしてそんな、優しい願いをセレスタもまた、流れる星に掛けていた。
きっと彼女は全ての戦いが終わるまで、その日を夢見て引き金を引き続ける。必ずや平和を掴み取る為に、決して戦いを止める事はない。
けれども、だからこそ願わくは、戦いで犠牲になった全ての人々の魂が安らかでありますように、と――それは、殺し合う為の戦場で、唯一心穏やかに安息を祈った瞬間。
●
問われた言葉に、媛は照れ笑いで答えを返した。
「一番はまた2人とこういうの見れますように、かなぁ」
それにキアもつい笑みを零す。まさか、彼女と願いが重なるとは思わなかったから。
もう一度空を見上げてから、ふいと眼差しをラナへと向ける。それに返るのは、笑み。
願ったのはこのまま良き時間が、紡いだ縁が途切れない様に――そうして危機あらばこの身を呈しても護ると、誓った。
だが素直にそれを言う気は、ない。だから代わりに、用意してきた誕生日プレゼントを、渡す。
「お2人とも‥‥お誕生日おめでとう、ございます」
「わぁ〜ラナちゃん覚えとってくれたんー?」
嬉しそうに、大切そうに受け取った媛の隣で、キアはほんの少し不満顔。御一人だけ言わぬとは、と呟いた後、逡巡の後に嬉しそうに「ありがとう‥‥」と紡ぐ。
ふわり、ラナが微笑んだ。そうして誕生祝いを兼ねてもう一軒、と賑やかに「よーし、ほしたらお姉さんが奢ってあげよわい!」「‥‥御姉さん‥‥?」と歩き始めた3人が、背を向けた星を見上げてトリシアはぎゅっ、と唇を引き締めた。
あの中には、戦いの光もある。ますます激しく危険な戦いが、この先にも待っているのだろう。
恐ろしくない訳ではない。けれどもアレックスが、GBHの仲間が、大事な友達が居るからきっと、乗り越えられる。
「だから、一緒にがんばろうね、アレックス」
「あぁ」
トリシアの、言葉にアレックスは頷いた。見上げればまだそこにある、赤い月。いつかこの手で必ずあの星を打ち砕き、終わらせるのだと己に、誓う。だから、流れる星に願いは掛けなかった。
ぎゅっと、手を握る。トリシア、と見上げた星から眼差しを彼女へ、向けて。
「‥‥キス、しようか」
勇気を振り絞り、告げた彼と頷く彼女の影が重なる星影の続く異国の地で、他愛なく言葉を重ねていたクラフトが、ふいに言った。
故郷が解放されたら、自身の村を直していこうと思っていて。出来ればモココに、手伝って欲しく、て――
「‥‥要は‥‥モココ、結婚しよう」
やっとその言葉を絞り出し、ぎゅっと抱き締めたクラフトに、モココは軽く目を見張った。それを、予感してなかった訳じゃ、ないけど。
「‥‥ごめんなさい。私にはまだ返事できない‥‥」
彼の腕の中、首を振った。この戦争が終わって、自分に意味が持てていたら。その時、もう1度返事をさせて欲しいと。
そか、とクラフトは少し息を吐いた。腕の中の彼女の頭を、優しく撫でる。
「変なこと言っちゃってゴメンね?」
それに、ふるるとモココは首を振った。この優しい人に、応えられる自分になれれば、良いのに。
だが同じ頃、奏はヒースとの奇縁を思っていた。始まりは敵対し、次は味方で、また敵で。今は、背中の預けられる相棒。
なぁ音桐、とヒースがグラスを鳴らした。
「次はどうなると思う?」
「雇い主次第ですね」
「‥‥は」
シビアでリアルな答えを返す奏に、笑う。笑い、袖から滑り出した銃を額につきつけ。
奏も瞬間、ヒースの額に銃を向ける。息の合った、息の抜けない関係。
笑った。
敵なら殺し合う、味方なら背中を預ける。それだけで十分だと、お互いに知り尽くしている。
同時に銃をしまい、互いに皮肉な笑みを浮かべた。
「死ぬなよ、相棒。お前を殺すのはボクなんだからさぁ」
「そちらこそ私以外の誰かに殺されないで下さい、我が宿敵」
カラン、とグラスを鳴らした男達の、剣呑な空気とは打って変わった甘い空気で、紫狼はプールサイドでビリティスを強く抱き寄せ、濃厚な大人のキスを交わした。ふ、と吐息が漏れた合間に「こんな事は、本当に愛してる女にしかやらねーよ」と囁きかけると、腕の中で真っ赤になる。
照れ隠しに抱きついた、ビリティスの視界に広がる流星群の空。それに願うのは、あのメールの主が親友と再会出来ますように――どうかいついつまでも2人の仲が続きますように。
いつか平和になったら、2人の愛の結晶も欲しいとか。そんな――穏やかさとは無縁で居た事に、美優は気付いた。
思い出すのは、昔行ったプラネタリウム。亡くした家族との煌々しい思い出。
静かに、とめどなく涙が、零れた。あの世で心配していたに違いない、父と母にもう大丈夫だよと呟いた。
戦いは、失った物を取り戻せはしない。でも、誰かが失おうとしている物を、護る事は出来る。
「だからあたしは、戦う」
「――それが、きみに見えるセカイ?」
ふいに、風の様な声が聞こえて美優は「だーれ?」と涙を拭い、振り返った。そこに居たルキアに恥ずかしいなと笑う、美優に真面目に首を振る。
ルキアはただ、色々な世界を知りたいだけで。だからもっとと、寄り添い尋ねるルキアに今度、美優が語るのはかつて彼女が見ていた世界。それに耳を傾けるルキアの視界に、赤く過った紙飛行機。
窓から飛ばしたそれを、追いかけた訳じゃない。それに託したメッセージは、見も知らぬ誰かへの物だから。
ふらり、気ままに。流星群の良く見える場所を探して歩く桜乃に、おや、と楓が声をかける。
「そちらさんもあのメールに釣られた口どすか?」
「まぁ、そうかな」
「ほな、面白そうな事どしたらお付き合いしますえ?」
まずはぶらりと歩きましょか、と笑った楓に並んで桜乃も歩き出す。その上に広がる空を想い、ソーニャは流れる星に、笑った。
軽やかにキーを叩き、返信する。見も知らぬ彼女の、見も知らぬ親友は彼女の苦悩より、賞賛と祝福を願っているだろうから。
『‥‥君とこの世で再びまみえる事は無いかもしれない
しかし、何時の日にか、必ず出会う
そして、遠い空の下、あの頃の話をしよう‥‥』
空を飛ぶ鳥に向けるのは、繋ぎ止める鎖ではなく見送る翼であれと、願う。想い続ける事こそが重要で、相手が生きてるかどうかは些事に過ぎないのだから。
満足げに、KVの無線機で夜間哨戒に出ると連絡し、ソーニャは気持ちの良い夜空に飛び出した。
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遥か広い、世界のどこか。誰かがふぅわり微笑んで、星の様な涙を零した。