タイトル:学食新メニュー募集!マスター:蓮華・水無月

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/28 07:15

●オープニング本文


「誤解しないで欲しいんだ」

 重々しい口調で真面目に言った長谷川悠斗に、クラスメイトにして友人にして寮のお隣さんでもあるアーク・ランドルは『具でかレー』を口に運ぶ手を止めた。ゴクリ、と水を飲んで一息つく。ふぅ。
 それから『出雲蕎麦』(割子)を前に苦悩の表情を浮かべる悠斗に、コクリ、と首を傾げる。

「腹減ってないの? 悪いけど、僕もコレ、3杯目だからね。余裕はないよ」
「違う! 腹は減りすぎて気が狂いそうだ、たとえ親友といえど蕎麦一筋たりともやらんぞ」

 ガァッ! と真剣に吼える悠斗。けち臭いことを言うな、そもそも親友になった覚えもない。
 と言う事は勿論口にせず、アークは再びカレー攻略に取り掛かる。午後からの授業は体力を使うので、しっかりエネルギーを摂取しておかねば身体が持たない。
 カンパネラ学園、その学食である。時は昼休み。ぐるりと見回せば、学生達が思い思いに食事の乗ったトレイを抱えて席を探し回ったり、食事をしながら談笑をしている姿が目に入る、そんな場所だ。
 その中の一員である悠斗は、無視されている事にきっぱり気付かないまま、自分も出雲蕎麦を口に運び始めながらなおも言う。

「誤解しないで欲しいんだ、俺は決して『学食が嫌い』とか、『ここ最近、メニューがありきたり過ぎる』とか、『ポテトサラダは粗ごしが好みだと言ったら、おばちゃんに殺されるだろうか』とか、そんな事は考えていないんだ。ただ、もうそろそろメニューを一新してみてもいいんじゃないかとチラッと思っただけで!」
「言ってるよ、悠斗」

 カレーを完食し、さすがにもう1杯おかわりは厳しいだろうかと胃袋と相談しながら、律儀にアークは突っ込んだ。ボケ体質の友人を持つと気苦労が耐えない。
 むぅ、と悠斗は唸り、ズゾゾゾゾ、と出雲蕎麦を雪崩のように吸い込んだ。苦しくないんだろうか。アークには決して出来ない芸当だ。
 そしてゴキュゴキュゴキュッ! と汁まで飲み干した(辛くないのか?)悠斗は、箸を握り締めた右手を高らかに天井に向かって突き上げた。

「つまり! 我々の使命は、新しいメニューの希望を持っていっておばちゃんに『どうかメニューにして下さい』と三顧の礼を尽くして頼み倒す事にある!!」
「そろそろ昼休み終わるよ、悠斗」
「行くぞアーク、俺たちの輝ける学食生活の為に!!」
「僕は別にこのままでも良いんだけど」
「お前にはロマンがないのか!?」
「ロマンの問題なの?」

 半眼になったアークを引き摺るように(ちゃんと食器を返してから)学食を飛び出した悠斗は、同志を集めるべく駆け出し――直後、「廊下は走るなコラァッ!!」と怒声に追いかけられたのだった。

●参加者一覧

水無月 魔諭邏(ga4928
20歳・♀・AA
櫻杜・眞耶(ga8467
16歳・♀・DF
レイン・シュトラウド(ga9279
15歳・♂・SN
紅月・焔(gb1386
27歳・♂・ER
岩崎朋(gb1861
17歳・♀・HD
都築俊哉(gb1948
17歳・♂・HD
ヨグ=ニグラス(gb1949
15歳・♂・HD
エリザ(gb3560
15歳・♀・HD
幻堂 響太(gb3712
19歳・♂・BM
佐藤 潤(gb5555
26歳・♂・SN

●リプレイ本文

「よく来てくれた! これで俺の学食の未来は明るいな!」

 カンパネラ学園、学食の片隅。そこに姿を現した傭兵達に、悠斗は満面の笑みで両手を広げて歓迎の意を表した。隣ですかさず「学食は悠斗のじゃないよ」と突っ込みを入れているのが宿命の相棒(?)アーク・ランドルだ。
 そんな少年2人に、まずは水無月 魔諭邏(ga4928)がにっこり丁寧に挨拶した。

「水無月・魔諭邏と申します。微力ながらお手伝いさせていただきます」
「岩崎朋(gb1861)だよ、よろしくね。過去にあたしたちが考えたメニューもしっかりあるんだねぇ‥‥」

 嬉しそうに学食のメニューを眺めながらの朋の一言に、げ、と悠斗が引きつり、アークがそっぽを向いた。ほら、『最近メニューがありきたり』とか言っちゃったので、メニュー作成者様を前にさすがに気まずかったり。そんな2人に何とも言えない表情で無難に挨拶をする都築俊哉(gb1948)は、朋に引き摺られての参加だ。
 他にも学食のおばちゃんと知り合いらしい櫻杜・眞耶(ga8467)がにこやかに挨拶などを交わしている中で、何か良い笑顔のヨグ=ニグラス
gb1949)が学生達に言った。

「ちゃんとおばちゃんに土下座するか僕見てるですっ!」
「お‥‥おぅッ、任せとけッ!」
「悠斗、頑張りなね」

 ヤケクソ気味に叫んだ友人に追い討ちをかけるアーク。ひでぇ、と集った傭兵一同、思ったとか思わなかったとか。





 試食会、トップを切ったのは佐藤 潤(gb5555)プレゼンツ・カツ丼とステーキ丼だ。作り方はとっても簡単、トンカツを揚げて適当な幅に切ったものと、塩コショウしたステーキ肉を焼いて同じく切ったものをそれぞれ丼飯に乗せ、ソースやタレをかけるだけ。お好みでソテーした野菜を添えたり、卵とじにしたり、白髪ネギを山盛りかけても可。
 お料理上手の数名の希望で、事前に交換したレシピと現物を見比べながらもふもふ口へと運ぶ面々に、照れたように自身の学食の思い出を語る潤。

「自分の学生時代の思い出に比べて、食堂のメニューがやさしい印象を受けたので。もっと油っぽかったというか‥‥」

 9割が衣の天ぷらうどんとか、油で泳いでる野菜炒めとかですよね、判ります。
 さらにはアフリカ民族料理クスクスまでカレー風味のスープからしっかり作り、簡単に作れる手抜きレシピも添えて「あちらはバグアに制圧されてますから、懐かしい方も居るかと」と気遣いばっちりの出来る男に、同じく様々な国籍の生徒が在籍する事を思いやった提案を引っさげたエリザ(gb3560)が立ち上がった。

「わたくしは『各国を代表する料理による定食』を提案致しますわ。わたくしの故郷であるドイツで言うなら、ヴルストとザワークラウト、ポテトなどを利用した定食ですわね。ハンバーグも一応ドイツ出身の料理なのですが」
「オォッ、ハンバーグ!」
「悠斗、反応しすぎ」

 思わず涎を垂らさんばかりに身を乗り出した友人に、相方の全力の肘鉄がゴスッと唸りを上げた。と言いつつ真剣な瞳で「フィッシュ&チップスも当然入りますよね」と確認している。
 勿論、と頷いたエルザが試食料理を振舞いながら、食材も可能なら現地のものを利用したいですけど、とため息を吐く。すでに学食のおばちゃんに、ごめん無理! と一刀両断された後だ。
 何しろここは学食、ある程度の妥協は許さねばなるまい。それを証明するかのごとく、どーんと立ち上がった男がいた。

「イイっすか、学生さんには金がねーんすよ!! 学生じゃねーのに金がねえ俺が言うんだから間違いねーっすよ!!」

 何故かしゃもじ片手にポーズを取るガスマスク、紅月・焔(gb1386)、通称がすっちょ。一見しただけで怪しい。うっかり不審人物通報したくなる位だ。
 そんな彼が提案するのは学食の魂、原価が安く量とカロリーが高いワンプレートランチ。

「是、是なんてどうっすか!?」

 ガスマスクの向こうの目を輝かせてお目見えしたのはその名も『えーゆーけーぶい定食』。コンセプトは『一つの皿で、嫌と言うほど味わえる』。
 どーん、とテーブルに載せられたトレイに、おばちゃん含む一同の視線が注がれた。レシピのメモと焔の解説に寄れば、山盛りのバターライスの上に炒めた魚肉ソーセージをてんこもりにしたバハムー丼、適度に辛い業務用カレールー(だけ)のミカレールー、締めに冷凍林檎(リンゴブルム)。
 とにかく量だけは多いこの定食に、手を伸ばすのも勇気がいる。微妙な緊張が漂う中、同じ丼物(?)と言う事で眞耶が差し出したのは、ロコモコ・オイルサーディン丼・ユッケ丼の三種。
 これも作り方は簡単だ。ハンバーグ・デミグラスソースを最初に作り、皿にご飯を盛り付けた上にハンバーグと半熟の目玉焼きを重ね、ソースをかけて貝われ菜を天盛りにしたのがロコモコ。オイルサーディンを少し焼き、丼飯の表面が隠れるぐらいオイルサーディンと大葉の千切りを乗せたのがオイルサーディン丼。食べる前にソーメンつゆをお好みでどうぞ。最後、生の牛肉を千切りにして松の実や葱と一緒に胡麻油・コチジャンで混ぜてユッケを作り、丼飯の上に小さく切ったチシャを散らした後にユッケを乗せてから中央に卵黄を乗せたのがユッケ丼だ。

「いずれも、低コスト+量があるという点だけでなく箸以外のスプーン・フォーク・手指でも食べ易い物を考慮しました」

 はんなり微笑む眞耶のメニューは、ユッケが季節によってはマズイかも、という懸念はあるが、逆に季節限定にすれば問題なかろう。「日替わり丼にしたら面白いかも知れませんね」と同じく丼を提案した潤が微笑む。
 と、そこでレイン・シュトラウド(ga9279)が手を上げた。

「ちょっとここで箸休めしませんか?」

 そんな彼は料理好きらしく、淡いピンクのエプロンと三角巾に身を包んだ完全装備(?)。何か余計なことを言いかけた悠斗を、アークが無言で床に沈めた。
 そうして出てきたのはお茶漬け3種と人参&りんごジュース。脂の乗った焼塩鮭をご飯の上に乗せて煎茶をかけた鮭茶漬け、蒸してほぐした鶏ささみと大葉、種を取って包丁で叩いた梅干を白ごま混ぜご飯に乗せて鶏がらスープをかけたささみと梅の中華茶漬け、醤油焼きおにぎりの上に鰹節・塩昆布・先ほどの梅干を乗せて鰹と昆布のだし汁をかけた焼きおにぎり茶漬けだ。
 食欲のない時にもささっと食べれ、食欲のある時ならなお美味しい、そんなアイテムに添えられたジュースは人参と林檎をジューサーで絞っただけのお手軽ジュース。

「このジュース、飲みやすいし作るのが簡単な上、便秘解消、美肌効果、老化予防などの効果が期待できる、健康ジュースなんです」
「美肌効果!?」
「老化予防!?」

 食いついた女性陣。お茶漬けもカロリーが低くてヘルシーという、まさに女性心を擽る一品と言えよう。
 朋がジュースをしっかり掴んだまま言った。

「ま、負けないわよ!」
「せめて放してから言えよ」

 ため息を吐く俊哉に、自分と同じ匂いを感じ取ったアークが同情の眼差しを注ぐ。
 彼らが今回提案するのは、朋が色々気になるお年頃にぴったりのおから入りヘルシーハンバーグ(チーズ入り)、俊哉がこれからの季節を先取りした鶏肉のトマト煮。なかなか作り方も本格的だ。ちなみにハンバーグを捏ねたのが俊哉だという事も、ここに謹んで付け加えておきたい。
 おから、と言う響きに一瞬表情を凍らせた悠斗だったが「おいしいし、量もあってがっつり食べられるから」という言葉に勇気付けられ、真剣な眼差しで手を伸ばす。隣ではすでにアークが鶏肉のトマト煮を制覇し、朋提案のフルーツビネガージュースと俊哉提案はちみつレモンを両手にコクコク飲んでいる。
 悠斗の肉パワーに中てられたか、やはり傭兵ゆえの本能(?)か、肉系の提案が多い。魔諭邏が提案するスコッチエッグも、ゆで卵の周りにひき肉を捏ねた種を盛り付け、カラッと香ばしく油で揚げたものだ。とは言え、それぞれに施された一工夫が、続けて食べても決して飽きさせない。

「ちなみに中に入れる卵を鶏から鶉に変えますと、一口サイズになりますわ。断面の色合いと学園に多いドラグーンに掛けて『龍の目』とでも名付けましょうか?」

 お皿に盛り付けたスコッチエッグの断面の、卵の黄身と白身、そして肉の色合いを指しながら提案する彼女に、食堂のおばちゃんが真剣にコスト計算を始めている。ちょっと乗り気になったようだ。
 もふもふ、ムグムグと真剣にスコッチエッグを頬張って幸せ気分に浸っていた幻堂 響太(gb3712)が、ハッと自分がここに来た目的を思い出して立ち上がった。何しろ彼が一番楽しみにしてきたのは、みんなの料理をおなか一杯食べる事! だったので。

「あ、俺はね、たこ焼きとかホットケーキボールはどうかなって」

 たこ焼きといえば、小腹がすいた時に手軽に食べれる大阪コナモンの二大巨頭。ちなみに大阪ではたこ焼きはおやつです(何
 響太が作ったのはごくごく普通のたこ焼きと、ホットケーキの元を利用してたこ焼きプレートに流し込み、中にチョコやジャム、バナナやミカンや林檎などの果物をタコの代わりに放り込んで焼き上げたお手軽一口スイーツのホットケーキボール。
 たこ焼きにかけられたソースと青海苔と鰹節の香ばしい匂いが、そろそろ満腹になりつつある胃を刺激する。ホットケーキボールの方も、熱々のところにチョコソースをかけたり、冷やして生クリームを添えればなかなか豪華。
 たこ焼きタイプホットプレートがあれば楽に作れるのだが、生憎、学食の調理場には実習用の小さなたこ焼きプレートしかなかった。どの程度の実数が見込めるかにも寄るが、メインとして出すにはやや知名度が足りないようだ。
 エリザが真剣な眼差しでホットケーキボールを口に運びながら「やはりティータイムの為にケーキセットのような物が欲しいですわね」「欲しいよね」「ええ。定番として、ショートケーキ、チーズケーキ、チョコレートケーキは押さえておきたいですわ。後はバウムクーヘンやザッハトルテ、キルシュトルテ、シュークリームなども‥‥」「エリザさん、詳しいね」「わたくしも乙女ですから」「そっか。俺も食べよっかな」延々甘いモン談義に花を咲かせながら響太が再び戦線離脱し、試食の嵐に身を投じた。勿論エリザも負けていない。体重大丈夫ですかとかは言っちゃいけないお約束。
 同じく甘いモンを愛する少年、ヨグ=ニグラスも負けてはならじと自信作のプリンを皆に配る。と言うかプリンを作る為にやってきたと言うヨグ、甘いモンと言うかプリンをこよなく愛している。

「やっぱりお野菜もとらないといけないですので、こう、ベジタブルプリンをば」

 そう言いながら出てきた黄色い風味のプリンに、肉を愛する青少年が警戒の眼差しを注いだ。そもそもプリンと野菜って相容れないと思う。
 だが流石はヨグ=二グラス、プリンを愛して止まない少年。プリンのプリンとしての愛らしさを損なわず、なおかつ味も損なわないどころかむしろ美味しい職人芸だ(意味不明
 作成したのはキャロットプリン。キャロット果汁を生地に混ぜ込み、それだけではさすがにちょっとアレなお味なのでフルーティーに調えるためにオレンジ果汁を投入。いわゆるアレです、野菜ジュースの半分は果物で出来ている、みたいなノリと考えて頂ければ。
 そんなプリンが美味しくない訳はなく、案の定口に入れた3秒後には完食していた悠斗とアークが、顔を見合わせて首を傾げた。

「それで結局」
「どれをおばちゃんに頼むか、だよな」

 傭兵達が用意してきた料理は出揃った。試食も十分、お腹も一杯で幸せ気分。
 ‥‥は良いのだが、ここから提案するメニューを選ぶとなると大変だった‥‥何しろどれも美味しすぎて、いっそ全部学食のメニューになれば良いのに、と思ってしまうほどなので。





 結局、厳選なる検討と試食をお腹が破裂しそうなほど重ねた結果、学食の新メニューとしておばちゃんに提案されたのは次の通りだ。

・『龍の目』(スコッチエッグ)(水無月 魔諭邏)
・ロコモコ・オイルサーディン丼(櫻杜・眞耶)
・お茶漬け3種・人参とりんごジュース(レイン・シュトラウド)
・えーゆーけーぶい定食(紅月・焔)
・おから入りヘルシーハンバーグ・フルーツビネガージュース(岩崎朋)
・鶏肉のトマト煮・はちみつレモン(都築俊哉)
・キャロットプリン(ヨグ=ニグラス)
・日替わり各国定食(エリザ)
・たこ焼き・ホットケーキボール(※おやつ限定・売切れ御免)(幻堂 響太)
・カツ丼・クスクス(佐藤 潤)

 安価で大盛り対応とかも良いかも、と言われて目を輝かせた悠斗は、それも含めて交渉してくる、と傭兵達に胸を叩き、見事食堂のおばちゃんの前で「お願いしますどうかコレ学食メニューに加えて貰えると、あ、勿論おばちゃんの手を煩わすようなそんなポテトは粗ごし駄目ッスかね!?」と見事な土下座を果たして見せた。傭兵達の考えたメニューのレシピを受け取ったおばちゃんは「検討してみるよ。ポテトの粗ごしはアタシが認めん!」と前向きの検討を約束してくれた。
 後日、正式に上記メニューは学食の新メニューとして加わる事となり。学食には生徒たちの嬉しい歓声が響き渡る事になる。