タイトル:【BD】空葬マスター:佐伯ますみ

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/10/22 23:54

●オープニング本文


「掃除屋、と呼ばれる敵部隊がいる」
 場違いに綺麗な軍服姿の男は、開口一番そう告げた。軍部の大規模な作戦行動の後に現れる、有人と思しい部隊の事だ。
 大規模な交戦では、通常の状態ではまず起きない事が起きる。100,200のワームが撃墜される中で、稀に自爆に失敗する個体があった時に、その破壊のみを目的とする部隊らしい。
「初めて目撃されたのはメトロポリタンX攻略戦の直後だ。正規軍の部隊が迎撃を試みた際には、文字通り一蹴された。それ以来、基本的にアンタッチャブルとして処理されていたのだが、‥‥ご存知の通り状況が変わった」
 2月のVD作戦の成功。そしてヴァルキリー級の実用。自爆に失敗した敵は、大きな損害を考慮してなお手に入れるべき財宝と化したのだ。
「敵の数は10機前後。いわゆるネームドと呼ばれる連中ほどではないが、腕が立つ。最後に目撃された隊は、タロスで構成されていたようだ」
 そして、任務の為に死ぬ覚悟であろう、とも。北伐において偶発的に遭遇した部隊が一機を撃墜する事に成功したが、その搭乗者は機体を失った後、生身で交戦を継続したという。
「逆に言えば、だ。今のUPCの戦力で奴らを1機落とせた、という事だ」
 傭兵がかかれば『掃除屋』を殲滅‥‥は無理でも、回収の間だけ食い止める事はできるかもしれない。誰かが言い出した結果、任務が掲示されたと言うわけだ。
「勝手に『掃除屋』と俺たちが呼んでいるが、出てくるのはおそらく毎回別物だ。故に今までの情報はあてにならん。‥‥誰か、質問は?」
 男は最後に、思い出したようにそう付け足した。


 ――間に合わなかった。
「彼等」が現場に到着した時にはもう、ヘルメットワームは奪われたあとだった。
 山岳地帯、標高三千メートル超の台地。まだそこかしこに残る、熱気。それは人類側の部隊がここで作業を行った証だろう。
 墜落による衝撃で周囲の岩石は吹き飛び、地も抉れている。踵で擦れば、砕けた機体の欠片が転がった。
「視線」を遥かへと移せば、壁のように連なる山の一点から立ち上る煙が見える。そこで回収作業を進める人類の姿も。
 あそこにも、墜落している。
 任務は、この台地に墜ちたものと、あの山に墜ちたものの処理。そのうちの一機は既に奪われてしまったが、山脈側まで奪われるわけにはいかない。
 だが「彼等」の存在は既に人類側の知る所であり、襲撃に備えての戦闘配備もなされているはずだ。
 失敗すれば、二機とも奪われてしまう。それだけは避けたかった。山脈側のヘルメットワームだけでも「処理」しなければならない。
 屈み込んで地面の状態を確認していたタロス達は、ゆらりと立ち上がる。
 ここから確認できる剥き出しになった山肌はそれほど傾斜はないが、隣の山の断崖が壁となって「隣」に見える。冠雪もあるが目的の地点に雪はなく、周囲に木々などは見当たらない。
 つまりどこから襲撃しようが、こちらの姿は丸見えということだ。しかしそれは人類側にとっても同じことではあるが。
 迎撃するナイトフォーゲルとは、飛行しての戦闘となるだろう。それが「彼等」にとって有利であるのかは、始まってみなければわからない。
 しかし、戦闘の隙を衝いてワームを破壊してしまえば、すぐに離脱したっていいだけのこと。
 要は「処理」すればいい。奪われなければいい。
 空に、葬り去る。
 ヘルメットワームの残骸も、ナイトフォーゲルも。

 ――ただ、それだけだ。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
熊谷真帆(ga3826
16歳・♀・FT
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
乾 幸香(ga8460
22歳・♀・AA
澄野・絣(gb3855
20歳・♀・JG
アンジェラ・D.S.(gb3967
39歳・♀・JG
橘川 海(gb4179
18歳・♀・HD
紫電(gb9545
19歳・♂・FT
ラナ・ヴェクサー(gc1748
19歳・♀・PN

●リプレイ本文

 ――嫌気がさすほどに、雲一つ無い世界。

「掃除屋の足止めですか? まあ、確かにこちらにみすみす自分達の兵器を渡すわけにはいかないのはわかりますけどね」
 乾 幸香(ga8460)は地上を見る。そこでは着々とHW回収作業が進められていた。
 大型の輸送機は少し離れた場所で待機しており、人型のKVも何体か作業に従事している。
「でも、こちらもお仕事ですし、好き勝手にされるわけにはいきませんからね、お仕事はきちんと済ませますよ」
 幸香は視線をアンジェラ・D.S.(gb3967)のリンクス『アルテミス』に向けた。幸香のイビルアイズ『バローム』と併走するアルテミス。アンジェラは視線に気付いたわけではないが、同時に幸香機へと視線を投げていた。
「コールサイン『Dame Angel』、未破壊HW回収作戦に従事し、妨害するであろう『掃除屋』軍足留め側を担う。決して突破されないように排除して、回収側負担を軽減するわよ」
 アンジェラは自身に言い聞かせるように呟く。
 幸香機とアンジェラ機の他に、同高度で待機するのはドクター・ウェスト(ga0241)の雷電と熊谷真帆(ga3826)の雷電『風雲真帆城』。この二組四機以外は更に上空を走り、迫る敵機と対峙する。四機はそれらを抜けてきた敵機を水際で阻止する役割を担っていた。
「宙よりの賜物を死守するには輪形陣が一番です」
 真帆は機体をゆるやかに旋回させ、回収現場近辺を周回していた。共に周回し、ドクターは前衛の動きを目で追う。
 目に留まるのは、終夜・無月(ga3084)のミカガミ『白皇 月牙極式』と、UNKNOWN(ga4276)のK−111改『UNKNOWN』だ。
「ムヅキ君やアンノウン君の機体を見ていると‥‥まあ、仕方ないか〜」
 彼等の機体性能の高さに苦笑するドクター。
「まあ、気負わずに。守れば勝ち、だよ」
 そう言ってUNKNOWNは微笑を浮かべる。
「まだ‥‥見えませんね」
 無月は言いながらも、戦闘の瞬間が近付いていることを肌で感じていた。
『掃除屋‥‥ですか』
 やや緊張気味な声をボイスレコーダーから流すのは紫電(gb9545)。
 タロスとの戦闘経験があるとはいえ、搭乗している存在の強さは計り知れない。操縦桿を握る手に知らずの内に力が入ってしまう。
「ハードな戦場とハードな依頼ですね‥‥」
 紫電と組むラナ・ヴェクサー(gc1748)はサイファー『レブ・アギュセラ』を旋回させ、周囲の状況を確認する。障害となりそうな高い山との距離は、思ったより近い。
 一瞬でも判断を誤れば激突するだろう。しかしそれは敵も同じだ。どのような状況にあっても、要は掃除屋を釘付けにすればいい。
 視認による回収部隊との間隔も把握すると、ラナは愛機を紫電のシラヌイ『アルバレスト』の横につけた。
 橘川 海(gb4179)は迫る「時」をじっと待つ。ロングボウ『橘川仕様』の後方には澄野・絣(gb3855)のロビン『赫映 ―kaguya―』。
「あと、数分」
 海と絣が同時に呟いた。
 回収作業は予定より早く進んでいる。恐らくはあと五分経たずに終わるだろう。早ければ二分。それから待機している大型輸送機まで一分。輸送機離陸までは――。
 足留めは回収終了までが勝負だ。終了すれば、地上で作業しているKVの何機かが戦闘配備につくだろう。
「敵機目視で確認しました」
 全機に絣の声が伝わる。仰ぎ見る空の果て、十の異形が影を落とす。赤五機、黒三機、白二機。
「んー、何か来たようだ、ね? ナンバリング、前衛赤左よりR1〜5、後衛黒左よりB1〜3、白左よりW1〜2」
 UNKNOWNが素早くナンバリング、同時に全機臨戦態勢に入った。

 無防備に、最高速度を持って降下する敵機。その機首が向いているのは――回収部隊。
「新型複合式ミサイル誘導システム、起動っ!」
 海の声が戦闘開始の合図となる。そして前衛五機にロックオン、ほぼ同時にブーストで距離を詰め後衛五機をロックオンしたUNKNOWN機との双方から、K―02の土砂降りが敵機を覆い尽くす。
 直後、爆風の中から十筋の光が走り抜けた。すぐさま全機が回避行動へと移る。
「レディ、状況を」
 回避しきったUNKNOWNが言うと、キャノピー裏面に僚機の状況が映し出された。揺れる紫煙越しに確認する。
 回避成功は自機と無月機、そして海機。他七機は多少のダメージを負っているが、態勢が崩れたわけではない。敵機はと言えば、RナンバーとWナンバーが、Bナンバーを取り囲む陣に変え、降下を続けていた。
「今の攻撃は‥‥」
 声を漏らすのはラナ。自機も損傷は負ったが、戦闘には影響のないレベルだ。意図的に狙いを少しだけ逸らしてこちらの機体性能を調べたような、そんな印象を受ける。
(墜とそうと思えば墜とせたはず)
 ラナの呟きに紫電が同意、思案する。何が起こるか予想がつかない。どのような状況にあっても柔軟な対応が必要となるだろう。
「中央のBナンバーは突破を狙うと思われます」
 降下する敵機を目で追いながら、冷静に状況を見据える無月が全機に告げた。
 幸香機とアンジェラ機、ドクター機と真帆機がBナンバーへの警戒を強める。UNKNOWN機、無月機、海機、絣機が敵機に合わせて降下、タロスの背を追う。
 K―02による攻撃で敵機は損傷を負っているものの、回復能力で既にある程度回復しただろう。あのまま一気に足留めして数を減らせればよかったのだが、それは敵も警戒していたようで思惑通りには行かなかった。
 最後尾を守るR2、3が速度を落とし、最も高高度に位置するラナ機と紫電機へと機首を向けた。
「‥‥行けますね?」
 敵機を視界に入れ、ラナが紫電に問う。
『行けます』
 ボイスレコーダーの声は、紫電の決意をそのまま表現する。直後、UNKNOWN機と無月機が動く。
「終夜、とりあえず真ん中を食い破っておこう」
「了解しました」
 二人の短いやりとりが終わった時には、二機がブーストでWナンバーへと駆け抜けた後だった。
 UNKNOWN機のエニセイ連射の衝撃が消える前に、無月機のレーザーガトリング砲が続く。そしてそのまま駆け抜けた二機の翼に脇腹を抉られ、離脱する敵機達。二機は散開して追い、攻撃を続けて敵機の回復に要するエネルギーを消耗させていく。
 W1が反撃の光線を放つが、無月機はそれをバレルロールで回避、再び攻撃に転じる。全攻撃を必中必殺とし、全ての神経を研ぎ澄ます。
 風に乗るように流れるUNKNOWN機は、自然と一体化するかのように力み無く敵機を翻弄し始めた。
 そこに開いた「穴」に入り込むのは、海機。
 Bナンバーの盾となるべく滑り込んだR1が海機をロックオン。だが、絣機がその背後に隙を見つけ全速で向かう。
「こっちを墜とさずに、海を墜とせると思わないことね!」
「私達の連携、見せてあげるっ!」
 五十体の赤き蝶が羽ばたく。海機のファルファーレだ。その群れに紛れて敵機の背後に接近するのは絣機。
「まずはお近づきの印よ。受け取りなさいっ!」
 放たれるオメガレイが爆風へと呑み込まれていく。絣機はすぐに機首を上げ、散る蝶の羽根を見下ろせば、R1が隣接する山肌へ墜落していく。
 更に上ではドッグファイトが続けられていた。ラナ機、紫電機の動きを真似るようにくねるR2、3。
「鏡じゃあるまいし‥‥!」
 苦笑するラナ。二対一になるように牽制したかったが、こちらの動きを真似されたのではやりにくいことこの上ない。
 コーティングで護りを固め、R2にガトリングを撃ち込んでいく。ラナ機がリロードに入ると、R2へと駆けるのは紫電機のG―M1。R2はそれらをひたすら回避し続けた。
 ラナ機と紫電機はR2に追いすがる。時折R3が体当たりを仕掛けてくるが、二機は紙一重のところでかわしてドッグファイトを続けた。
『時間稼ぎでしょうか』
 紫電の「声」がラナの同意を呼ぶ。
「そうとしか思えません。‥‥追い込みましょう」
 壁にできそうな山肌が右翼数百メートルに並走している。二機は敵機の背後を取る度に攻撃を与え、その進行方向に修正を加えていく。
 山肌に沿うように機体を滑らせ駆ける四機。しかし突如としてR3が急降下を始めた。機首が見据えるのは、隣の山肌。同高度にある――回収部隊。
『させません!』
 ブーストで追いついた紫電のパンテオンがR3を包み込む。その隙を突いて空に抜けるR2。だがラナに動きを見切られており、スラスターライフルの洗礼を受けることとなった。

 未だWナンバー、R4、5が、UNKNOWN機、無月機、海機、絣機と絡み合っているが、撃墜も時間の問題と思われる。そうしている間にも降下を続けるBナンバーからB3が離脱、Wナンバーの援護に入った。
 残る二機は抜ける。それを紫電機とラナ機が追うが、先のR2、3が辛うじて行動を阻む。上で戦闘を続けるどの機もBナンバーを追うタイミングを逃した。その一瞬を突き、敵機は降下を続ける。
 B1、2に、水際で待機する四機が対応する。
「さて、責任重大だね〜」
 ドクターは言いながら、真帆機の位置を確認する。自機の背後をカバーできる位置に真帆機があり、どのような襲撃にも対応できそうだった。
「来るようですね」
 幸香が射程に入ったB1、2を見据える。展開するバグアロックオンキャンセラーは、回収中のHWさえその範囲に収めていた。
「――行くわよ」
 これまで前衛機への狙撃援護を続けていたアンジェラが、眼前のBナンバーに集中する。射線を確認し、狙撃による流れ弾が発生しないよう位置取る。
 そしてリンクス・スナイプを発動させLPM―1で撃ち込めば、幸香機のLPM―1がそれに続く。二機からの狙撃を回避する敵機は散開、B1がドクター機と真帆機に向かった。B2へは幸香の誘導弾が迫る。
「マホ君、来るぞ!」
 ドクターが叫べば、真帆機がD―02で敵機を弾き飛ばすように牽制にかかる。先程同様に敵機はこれを回避する。
「上にいるRナンバーより機動性があるわね」
 真帆が呟く。タロスからあらゆるデータを収集しようとするドクターも同意する。
「何か、何か少しでも手掛かりになればね〜」
 サンプル採取はこの状況下では厳しい。だが、機体によって性能が違うのは見て取れる。
 WナンバーはUNKNOWN機、無月機と辛うじて渡り合っているところから、ティターンほどではないが別格の扱いだろう。Rナンバーはひたすらタフなようだ。Bナンバーは回避特化と言うべきか。
 ドクター機はG放電装置に続きドゥオーモにてB1を抱擁、その後衛にて真帆機は左右にスライドして射程を守備、さらにはミサイル射出で敵機の退路を奪う。
「抜けられると思って?」
 その言葉が終わる前に、B1は両機から放たれる攻撃を全身に受け始める。そこにドクター機のラージフレアが発動し、真帆機が更に撃ち込んでいく。
 直後、体勢を崩したB1に突っ込むようにB2が降下を始めた。
「何を――!」
 ブーストで追いついたアンジェラ機が回り込み、機首を上に向けてロケットランチャー発射、強引にB2の進路をB1から逸らした。
 幸香機もまた、ブーストでB1に突っ込んで重機関砲を放つ。今度はそこに、体勢を立て直したB2が。
「破損機を特攻の盾や隠れ蓑にはさせません」
 すぐさまカバーする真帆機。DO2とミサイルを横殴りにぶち込み続け、B1、2を絡め取る。それを射線に入れたドクターが粒子砲を放とうとした時――視界の端で、何かが光った。

「ドクター機、墜落‥‥っ!」
 真帆機から全機に通信が入る。
 ドクター機は回収部隊より二百メートル西に墜落していた。
 それは一瞬のことだった。撃墜し、沈黙したと思われたR1から放たれた光の筋が、ドクター機を襲ったのだ。
 正確には、その射線上にあったのは回収部隊であり、ドクター機はそれを庇ったにすぎない。そのまま墜ちゆくドクター機は、際どい所で回収部隊に墜落するのを避けた。
 機体は大破とまではいかないが損傷が激しい。ドクターは無事なのだろうか。だがほどなくして全機コクピットに響くのは――。

 ――けひゃひゃひゃ、我が輩がドクター・ウェストだ〜!

 通信系統が生きていた。そして、ドクターも。軽傷ではないだろうが、この声から察するに命に別状はなさそうだ。
「‥‥撃墜機から生身参戦への警戒はしていたけど」
 海が呟く。
 ――撃墜機完全沈黙の確認は、誰も気に留めていなかった。
 一瞬だけ全機に沈黙が流れるが、それを打ち破るかのようにWナンバー及び、B3が黒煙を上げて谷底へと墜ちていく。
「完全に沈黙させました。残るは――」
 無月が共に残機を確認する。Rナンバー達はあと数撃で墜ちそうだ。B1、2は、幸香機、アンジェラ機、真帆機によって回収部隊から引き離されていく。
「無理にこっちの攻撃に耐える必要は無いわよ? 我慢せずに墜ちなさい」
 絣機がRナンバーに迫る。オメガレイによる撃破を狙うのだ。援護するべく海機が動き、UNKNOWN機と無月機が左右に展開する。ラナ機、紫電機も合流していた。
 その時、地上から通信が入った。
『回収完了、これより輸送機にて搬送する』
 HW回収が完了したと全機に伝えられる。直後、残っているタロス全機が一斉に上昇を始め、背を向けた。KVは全機そこで攻撃を止める。
 地上では通信の通り離陸準備が始まっていた。タロス達は振り返ることなく空の果てへと向かっていく。
 ここまで、開始から三分弱――長い三分だった。
 そして全機、機首をゆるやかに下に向け、向かうのは――ドクター機。

「傷は深いですが、命に別状は無さそうです」
 コクピット内のドクターを確認した真帆が皆に告げる。
 回収部隊に庇うことに必死で脱出が間に合わなかったようだが、腕が良かったのだろう、意識を保っていられる状態での墜落となったようだ。
 海と絣は押し黙っていた。R1と対峙していた事実と、ドクター機墜落の事実。それらで胸の内は複雑だ。だがドクターは変わらず「けひゃひゃひゃ」と笑って見せ、彼女達の心をほぐしていく。
「すぐに回復しますよ」
「この様子なら、大丈夫そうだ」
 ドクターを両側から抱きかかえた無月とUNKNOWNが、彼女達に頷いてみせる。
「――はい」
 二人は同時に声を漏らし、ようやく安堵の表情を見せた。
「輸送機、離陸したようね」
 アンジェラが離陸を終えた輸送機を見上げる。
「何とか守れましたか‥‥」
 覚醒を解いた紫電が肉声を放つ。
「タロスは‥‥もう見えなくなりましたね」
 幸香はタロスの撤退した方角を見やり、小さく溜息を漏らす。同じ方角を睨み据え、呟くのはラナ。
「――このHW解析が、バグアの力を見抜く糧になることを祈ります」
 バグアの科学力は凄まじい。しかし、それを吸収しないことには、戦いに勝ち抜くことはできないだろう。
 嫌気がさすほどに、雲一つ無い世界。
 タロス達はどこへ帰って行ったのだろう――。