タイトル:【RAL】ブルースカイマスター:佐伯ますみ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/25 02:14

●オープニング本文


 アンナーバからテベサを経由し、チュニジアのルディエフに入るルートが確保されたのは、つい先日のことだった。
 ルディエフに入ってしまえば、チュニジア国内ということで何ら心配はない。ピエトロ・バリウス要塞までは距離があるものの、さして大きな問題として挙げるほどではないだろう。
 調査によって、車輌の走行に若干の支障を来すポイントや見通しの悪いポイント、比較的キメラの出現数の多かったポイントなども明らかになり、昼間と夜間との細かな差も報告されている。その報告に基づき、簡単な道路整備や巡回シフトなどが組まれ始めた。
 また、テベサには空港があり、幸いにもバグア側の拠点として使われてはいなかった。そのため、今後の作戦遂行の拠点や軍の駐屯地として使える可能性が浮上し、空港の整備及び周辺住民への状況説明等も急ピッチで進められている。これによって、この付近は確実に人類側が優位になるだろう。

 アレクサンドラ・リイは実際にこの空港を調査したということで、急遽作られた空港整備班の班長として動いていた。責任のある立場についた経験がほとんどないリイは、整備完了までの短い間ではあるが班長という立場に違和感を覚えていた。
 自分には荷が重い――などとは言わない。だが、自分には向いていない。上官に逆らいながらも自由に動けるほうが気が楽だ。
 上官からは「いい経験になるだろう」と言われたが、結局は押しつけられたようなものだ。空港を調査したからというのは単なる口実で、上官も抱えている仕事が多いのだろう。
 徐々に整えられていく滑走路を、まだ機能が回復していない管制塔から見下ろす。二マイルほどの滑走路は、これから先どれほどの数のKVや軍用機が離着陸するのだろうか。
「いつか‥‥何も心配することなく、旅客機が離着陸できるようになればいいが」
 ひとりごち、溜息を漏らす。全ての脅威が去り、青く澄んだ空を飛ぶのはKVやワームではなく、民間の旅客機となる日はいつ来るのだろうか。
 今は軍の管理下でしかなく、アルジェリアが完全に人類圏になっていない以上は、いつバグアの襲撃を受けてもおかしくはないだろう。軍事施設というものはリスクも多く、周辺の街にもそれは言える。
「少しでも‥‥住民達との関係を密にしておかないと」
 KVのこと、バグアのこと、考えられるリスクのこと――それらは一般市民に全て伝えられる内容ではない。だが、住民達が抱いている不安を聞くことくらいならできるだろう。
「あとは、管制塔の機能回復と必要物資の搬入と‥‥やることが多いな」
 だが少しでも早く終わらせたい。アフリカでの作戦はまだ始まったばかり、これからのほうが長いのだ。そのためにも、少しでも――早く。
「もう少し‥‥人手を増やしたほうが、いいのだろうか」
 少しばかり判断に迷ったが、人手を増やすことを決断した。
 やはりこういう仕事は‥‥自分には向いていない。
 リイは深く溜息を漏らした。

●参加者一覧

アグレアーブル(ga0095
21歳・♀・PN
杠葉 凛生(gb6638
50歳・♂・JG
リスト・エルヴァスティ(gb6667
23歳・♂・DF
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA
クティラ=ゾシーク(gc3347
20歳・♀・CA
黒木 敬介(gc5024
20歳・♂・PN

●リプレイ本文


 相変わらず暑いところだ――リスト・エルヴァスティ(gb6667)は頬を撫でる風の感触を確かめる。
 暑いといっても、この時期のアルジェリアの日中の気温は摂氏十五度を超える程度だ。だがリストの故郷と比べれば、その正反対の気候に暑さを感じるのも当然だろう。
 高原や草原、そして砂漠をも抱くアルジェリア――アフリカ。この地に来ることになろうとは思ってもみなかったリストだが、現実にこうしてアフリカ大陸の地に足をつけている。
「でかいな、世界は。でかい」
 噛み締めるように、言う。
 リストはクティラ=ゾシーク(gc3347)やアレクサンドラ・リイらと共に、空港整備に従事していた。滑走路の整備や管制塔の調整、電気系統の確認等、順調に進んでいく。
「さて、私に任せてくれな。バリバリ働くよ」
 頼もしい言葉と共に、クティラは滑走路整備のための作業に走り回る。作業員が資材運びに手間取っていると、横から資材をひょいっと持ち上げてにこりと笑う。
「これが重いだって、なーに、軽い軽い」
 二メートルを超える身長と、鍛え上げられた美しい筋肉を持つクティラには、力仕事はお手のものだった。
「二人とも、頼りにさせてもらう」
 リイはそう言うと、リストとクティラの顔を交互に見る。
 その時、空港の端を一台のジーザリオが駆け抜けて行った。


 ジーザリオの運転席で身を屈めてハンドルを握るムーグ・リード(gc0402)を、アグレアーブル(ga0095)はじっと見つめていた。この大陸の住人に興味があるのだ。
 どのような人種なのか、ムーグが標準であるのか。もしそうであるのなら――。
「なかなか、メルヘンね」
 ぽそりと呟く。キリンと育ち、キリンが家族のムーグ。LHで彼を待つキリンはいつか人間になるのだろうか――いや、ならない。しかし考えて楽しむのは個人の自由だ。
 それを察したのか、ムーグは微かに笑みを漏らす。
「コノ、アタリ、ハ‥‥アラブ、系、ガ、多イ、ハズ」
 その言葉通り、見かけるのはアラブ系と思われる者達ばかりだ。アルジェリアはアラブ人が多数を占めている。
「へえ‥‥アフリカは本当に広いのね」
 アグレアーブルは窓の外に視線を流す。この広い大陸の大半が、バグアの支配下となっている。
「‥‥凛生。侵略されるのは‥‥自分の場所を、モノを、他者に奪われるのは、どんな気持ち?」
 あまりのストレートな問いに、助手席に座っていた杠葉 凛生(gb6638)は苦笑する。
「直球だな‥‥」
 アフリカの歴史は侵略者との戦いというが、侵略者が人類からバグアに変わっただけで、独立から半世紀経ちながらも心に刻まれた傷は消えないだろう。この地が再び侵略され、奪われた苦味は――。
「そうだな‥‥初めは、他人事だった。日本への攻勢は遅かったからな、対岸の火事だった」
 その言葉に、アグレアーブルは無言で耳を傾ける。
 物心ついた頃には存在していたバグア。育った街は混乱こそあれ人類圏だ。そんな彼女には、ここの住民達に重ねる経験がない。凛生のことは気に入らないことが多いが――今、一番手近な大人として、彼に訊いてみるのだ。
 地の果ての更に先へと視線をやり、凛生は続ける。
「我が身に降りかかってきて初めて、奪われる者の気持ちがわかるものだと思い知った」
 それを聞きながら、ムーグは変わらぬ表情で運転を続ける。景色を眺める黒木 敬介(gc5024)も無言だ。
 沈黙の中、凛生の思考は遠いあの日に後退する。奪われた瞬間、そして妻の――。
「‥‥好き勝手に生きてきた報いかな‥‥。‥‥答えになっていないか」
 苦笑し、ミラー越しにアグレアーブルの表情を盗み見る。しかし彼女の返答は得られなかった。
「街に、入るよ」
 タイミングを見計らったのか、敬介が穏やかな声で場の空気を現実に引き戻す。ほぼ同時にムーグがブレーキを踏み、ジーザリオは停車した。


「マニュアル?」
 リイはリストが作っている書類を覗き込む。リストは頷くと、説明を始めた。
「今後のために、現場の状況や進行度を見て作成しています」
「今後‥‥か」
「ええ。現地の方達も多少なりとも雇われているようですので、整備終了後のことも考えないと」
「‥‥ふむ」
「空港整備の経験が、街の整備やインフラ整備で役立てるかもしれない」
 リストがそこまで言うと、リイの眼差しが力強くなる。
 いつかこの大陸を、この国を取り戻したら――あらゆる意味での復興作業が必要となる。その時に今回の経験を生かせるのは、住民達にとっても心強いだろう。
 リイは頷き、「次はどんな資料を作るんだ?」と資料作成の協力を申し出た。
「次は、格納庫にKVを格納する場合の動線と――」
 リストが言いかけた時、空港周辺の巡回警備をしていたクティラから無線が入る。
『獣型のキメラが数体、うろついている。こちらで対処しても大丈夫か』
「ああ、任せる」
 リイは即答した。恐らく前にこの空港で対峙したキメラの残党だろう。クティラひとりで充分対処できる。
「じゃあ、続きを進めようか」
「わかりました、では格納庫に行きましょう」
 通信を切ったリイは、リストと共に格納庫へと向かっていった。


 ジーザリオから降車した四人は、テベサの街をゆるりと歩く。
 街の位置や空港からの距離、移動時間、それから生活状況や環境、人口、建物配置や強度、年齢層、首長など、基本的な街の概要をざっと確認する。
 緊急時に必要になりそうな物資の量や、通信設備の状況確認、避難候補地、警報や障壁等の設置箇所選定――挙げればキリがない。しかし必要な情報ばかりだ。
 警察や消防、救急などの必要な機能は完全に麻痺しているわけではなく、かといって人心を安定させるレベルでもない。それらも確実にチェックする。
 そして部外者である能力者達に、住民達はどのような視線を向け、どのような行動を取るのか。店の品揃えや、人の肉付き等の生活レベルから表情まで、無関心を装って観察しながら歩いていく。
 特に話しかけられることはない。こちらを警戒しているというよりは、ここのところの状況の変化に戸惑っているようにも見える。だが、希望の色を持つ表情も多く見受けられた。
「住民からの要請を受け入れる窓口の準備も提案しないとね」
 敬介が言う。その時、裏路地から何やら熱弁を振るう声が響いてきた、
「でも、バグアが消えたあとは軍が裏切って支配しないとも限らない。おれは信用してないね」
 それはもっともな意見であり、当然湧いて出る不安でもある。
「裏切る、なんて。随分と強気ね」
 アグレアーブルは肩を竦める。赤の他人に期待するのはお門違いだ。皆、ただ、生きているだけ――。
「家畜は誰に飼われても家畜のままだよ。物で釣って飼いならさないと、すぐに寝首をかかれる」
 敬介がふと表情を固め、呟いた。言葉は悪いが、そこに込められる意味は深い。
「別に街の人間が悪いわけじゃない。羊は恐怖でなびく。それだけだ」
 常に不安定な土地に住む人々の中には、情勢が悪くなれば自分達を売る者もいるだろう。だから今から可能な限り、心服させる必要がある――そう思いながらも、敬介はそういう打算で笑顔を振りまける自分が好きではなかった。
「そういうのが嫌で、家を出たはずなんだけどな‥‥」
 ぽつりと漏らし、すぐに笑顔に戻って甘い菓子の袋を握る。向こうの路地で遊んでいる子供達に渡すのだ。
 ここにも打算が――? 敬介は小さく息を漏らす。
「おい、キメラの情報が入ったぞ」
 別の路地に情報収集に行っていた凛生とムーグが合流し、裏路地を徘徊するキメラの情報を伝える。空港に出たキメラの残党だろう。
「行キ、マショ、ウ。住民、達、ニ、害、ナス、モノ、ハ‥‥」
 討ち滅ぼさなくては、とムーグ。アフリカの人々のためにと視野狭窄気味だが、それも仕方のないことだ。
 そして一同は、足早に裏路地へと向かった。


「そんなわけだから‥‥相手するか。お前らに空港を荒らされてたまるかよ」
 リイとの通信を終えたクティラは覚醒を遂げると、ライトシールドを構えてスコーピオンの引き金に指をかけた。唸るキメラは少しばかり逃げ腰で、クティラに完全に圧倒されてしまっている。
「こないのなら、こちらから行く」
 そう言い放ち、自身の護りを固めてからシールドを敵の横っ面にぶつけにかかった――そこにシールドスラムを乗せ。そして吹っ飛んだ敵を見据え、スコーピオンを構えた。

「終わり、か。あっけない」
 あっけなく戦闘を終えたクティラは念のために周囲を確認した後、終了した旨をリイに無線連絡すると、何気なく空を仰ぎ見る。
「大切なものを守り通すことができたよ」
 そう言って笑い、空の青さに目を細めた。
 ――空港もいずれは軍だけでなく民間でも使用されるようになるんだろうな。
 そのために、今はまず整備を。
 クティラは小さく頷き、巡回警備に戻った。


 裏路地でのキメラ殲滅が終わると、ムーグは空を見上げた。
「‥‥」
 ――ああ。
 あんなにも焦がれた蒼天は、こんなにも美しく、胸をうつのに。
 ――胸を刺す痛みが、私が、アフリカに真の意味で帰れてはいないことを突き付ける。
 遠くで子供の声が聞こえた、あの頃を思い出す。
 望郷の念と胸を灼く悔恨は、この地に立つとより強まる。
 ――‥‥私は、いつか、赦されるのでしょうか。
 ムーグは知らずの内に唇を噛みしめ、強く拳を握っていた。
「‥‥青イ、空、ト‥‥青イ、鳥‥‥デシタ、カ」
 思わず漏れる言葉。
「‥‥リイ、サン」
 多忙な彼女は、この美しい空を見ることができているのだろうか。
 気苦労が多そうなリイにも、少しくらいなら息抜きもいいかもしれない。住民達にキメラ討伐の報告をする際に、青い鳥や普通の鳥について訊いてみようか――。
「‥‥ムーグ?」
 アグレアーブルはムーグの様子に眉を寄せた。目が、遠くを見すぎているような気がしたのだ。ムーグからの返事はない。
「ムーグ」
 ぐい、とムーグの腕を引っ張り、強引に視線を合わせる。
「‥‥ハ、ハイ?」
 現実に引き戻されたムーグは、目を白黒させていた。
「‥‥よし」
 それだけ言うと、アグレアーブルはムーグを解放する。
「何じゃれあってるの」
 くすくすと笑う敬介。凛生も「まったくだ」と頷き、呆れ顔で二人を眺めていた。


 街の視察から戻った四人は、リイに街の状況を報告していた。
 リイはひとつひとつ噛み締めるように頷き、必要なことは細かくメモを取っていく。時折溜息を漏らすのは、今の立場が窮屈だからだろうか。
「甘えるな。ガキじゃねぇんだ、態度に出すな」
 凛生がリイに厳しい声色を投げる。リイはメモから視線を上げた。
「‥‥名ばかりの肩書きを押しつけられたとしても‥‥」
 そう言って、凛生はリイの胸元に一瞬だけ視線を落とす。そこにあるロケットが、リイの呼吸に合わせて揺れる。
「ここで見つけたいものがあるんだろう。その代償とでも思っておけ。立場に縛られることもあるが、何事も使いようだ。使えるものは利用しろ」
「使えるもの、ね」
 リイは意味深に呟き、凛生から視線を逸らす。
「あとでお前も街へ来い。住民対応を傭兵に任せきりじゃ、軍の誠意が疑われるぜ。時間は班長なら自分で作り出せ」
 外に出て人に触れ、アフリカを感じて答えを探せばいいと、凛生の目が語る。リイは少し思案するが、そこにムーグが入り込んだ。
「デハ、少シ、デカケ、マセン、カ‥‥?」
「‥‥え?」
 リイが戸惑っていると、アグレアーブルがコーヒーとブラウニーを袋のまま差し出した。
「‥‥お疲れ様。出かけるようなら、留守番をしているから」
「いや、私は」
「どこにいても、自分を取り戻す時間は必要。甘いものは‥‥味方」
「‥‥わかった、行ってくる」
 リイは思いのほか素直にコーヒーとブラウニーを受け取った。
「あ、二人ともデート? 良いなぁ、俺は仕事してるよ」
「別にデートというわけでは‥‥」
「いいからいいから。リィさん、今度は俺としよーね」
 眉を寄せるリイを、敬介は「いってらっしゃい」と送り出す。リイはムーグと共に少し進んだかと思うとくるりと振り返り、敬介をじっと見つめた。
「うん? なに?」
「‥‥誘ってくれるなら、な」
「‥‥お?」
「じゃあ、行ってくる」
 そして再び踵を返すリイ。彼女の真意は計りかねるが、敬介はくすりと笑って見送った。
「‥‥機嫌が少し治ったみたいだな」
 クティラがジーザリオに乗り込むムーグとリイを見つめ、目を丸くする。その言葉に「確かに」と頷くリスト。
「機嫌が治ったって‥‥どこが」
 凛生が眉を寄せる。
「さっきまで、かなりピリピリして‥‥私とリストさん以外にはかなりきつく当たっていた」
「初見の我々に接するより、よく見知っているはずの部隊員に接するほうが気を遣っているふうでしたね」
 クティラとリストが言葉を連ねる。実際、リイは作業の大半をリストとクティラと共にこなし、彼等から離れようとはしなかった。それを二人が告げると、アグレアーブルが首を傾げる。
「どういう、ことかしら」
「俺に惚れたかな」
 そう冗談を言って笑うのは敬介。もしこの言葉をリイが聞いていたら、物凄い勢いでブーツを投げつけたことだろう。
「‥‥笑ったりしない方みたいですが、思いの外‥‥素直な方のでしょうか?」
 リストが凛生、アグレアーブル、敬介の顔を順に見る。
「素直‥‥なのか?」
「‥‥素直って‥‥言うのかしらね」
「素直だと思うけどな」
 三人三様の答えが、同時に返ってくる。
「全部、正解なのかもしれないな」
 クティラがくすりと笑った。


「こんな場所‥‥よく見つけたな」
 街の中を抜けて辿り着いたのは、街と空港からやや距離があるものの、絶景と言える景色が堪能できるポイントだった。
「街ノ、ヒト、ニ、教エ、テ、モライ、マシタ」
「‥‥へえ」
「青イ、鳥‥‥ハ、イナイ、カモ、シレマセン、ガ‥‥多ク、ノ、鳥ガ‥‥イル、ソウ、ナノデ‥‥」
「‥‥そうか」
 リイはそれだけ言うと、押し黙って景色と、空を舞う数羽の鳥を見渡していた。
 しかし、そこに青い鳥はいない。空を見るリイを、ムーグはじっと見つめていた。
 鳥と蒼天、そして空港と街の人々を見て、彼女は何を思うのか。
 ――それが、私のしるべになるでしょうか‥‥。
「妹が死んでから、世界に散りばめられた色などほとんど見えなくなっていたが‥‥青は、どこにあっても青だ」
「イロ‥‥」
「この大陸には、どれほどの色が溢れているのだろう。私には見ることができるだろうか。色を、取り戻すことはできるだろうか」
 リイの言葉に何が込められているのか、ムーグは瞼を閉じて考える。
「リイサン、ハ‥‥今、何ヲ、見テ‥‥?」
「‥‥なんだろう、な」
 穏やかな声にムーグが瞼を開ければ、一羽の鳥が悠然と空を旋回していた。白でもなく、黒でもなく、灰色の鳥。
 ――鳥はやがて、空の果てへと消えていった。