●リプレイ本文
出撃前のブリーフィングルームには、揚げたてのカツと、煮込まれたカレーの香りが充満している。カツカレーだ。
金曜日――そしてゲンを担いで。
他にはいわゆる年越し蕎麦などもある。
「勝ちましょう、絶対」
里見・さやか(
ga0153)は、今はここにいないアルヴァイム(
ga5051)とどう連携するか、カツカレーを頬張りつつ脳内でのシミュレーションを繰り返す。
「サラダはないんですか? ‥‥パ」
佐渡川 歩(
gb4026)が言いかけた時、「ありますよ」とサラダを持ってきたのはユナ・カワサキ。
「いえ、あの‥‥、‥‥パ」
「な、なんでしょう?」
「‥‥いえ、いいんです、なんでもないんです!」
オロオロするユナへと笑みを返す歩。瓶底メガネの奥で、きらりと涙が光る。
「帰還後のパーティーはより一層楽しめそうですね」
もちろん勝利を前提として。篠崎 公司(
ga2413)は軽く食事を済ませて頷く。
「カワサキさん、スマイルスマイルっ」
そう言ってどこか緊張気味のユナに笑顔を向けるのは橘川 海(
gb4179)。隣には澄野・絣(
gb3855)もいる。
「カワサキさんの持ち味のよさを生かして、元気よく皆をオペレートしてねっ」
「ありがとうございます。お二人にも、ご武運を」
海に言われ、ユナは反射的に頷いた。先輩オペレーター達のフォローを受けながらになるだろうが、今の自分にできることを。そう決意する。
シリウス・ガーランド(
ga5113)はひとり、愛機のテンタクルスと過ごしていた。
「‥‥共に戦うのは‥‥今回の搭乗で、最後となるやもしれぬな」
愛機に触れ、目を細める。テンタクルスは「骨董品」となりつつあるが、最初の水中機として思い入れも深い。だからこそ。
「存分に敵と戦おうぞ、我が愛機よ」
額をボディにそっと押し当て、目を閉じる。愛機との対話を出撃までゆるりと楽しんだ。
凛とした大気は星影をより一層輝かせる。細き弓が輝く夜、新たな年を抱き留める夜。
しかし星影は海と空を征く全ての存在によって煌々と照らされ、打ち消される。その海域だけが白夜に落とされたようだ。
ユニヴァースナイト参番艦・轟竜號は海原を滑る――決戦へと向けて。
後方支援部隊のKV達は全て態勢が整い、あとは開戦と出撃の瞬間を待つのみだ。
ヘルヘブン『Atem』に搭乗する香月・N(
gc4775)は、グローブをはめた手で十字架を撫で、ひとつ息を吐く。
緊張感と恐怖と期待を、落ち着けるべく。
自然に和らぐ頬を、彼女は知らない。命がけの戦争のせいなのか、それとも。
少しだけ、エミタの負荷のかかりやすい身体。覚醒の反動は大きい。だが――。
――そんなことより、貴方が頑張っているのだから。‥‥香月も、頑張るわ。
「ユナ。応援してる。転んで、怪我しないようにね」
コクピットから呟く。届かなくてもいい。そこに「いってきます」と添える。
ほどなくして、UK3の作戦用通信室にて情報管制を務める歩から、出撃のサインが送られる。
「竜宮城に潜入した味方から脱出の連絡を受けました。撤退の支援と攻撃開始をお願いします」
――開戦。
「コールサイン『Dame Angel』、UK3後方に襲来する敵群を反転迎撃するわよ」
アンジェラ・D.S.(
gb3967)は無数の敵影を見据える。
「纏めて片付けるわよ」
愛機リンクス『アルテミス』の操縦桿を握る手に自然と力が入る。
「お前とコンビを組むのは久しぶりだな、音桐。ボクが前に出る。後は任せる」
レインウォーカー(
gc2524)は音桐 奏(
gc6293)に通信を送る。
「了解しました。援護は任せてください」
即答する奏はガンスリンガー『ディスコード』をレインウォーカーのペインブラッド『リストレイン』のやや後方につけた。
「クラウン1、出撃する。役目は果たしてみせるさぁ」
「クラウン2、発進します。ディスコードの初陣、頑張らせてもらいますよ」
そして彼らは同時に出撃し、空を舞う。
「竜宮城、ねぇ? どうせならもっとメルヘンチックな方がいいのだけれど‥‥まぁバグアにそんなもの、期待するだけ無駄だったわね」
テンタクルス『イカくん1号』で小さく息を吐くニア・ブロッサム(
gb3555)。
「改めて見ると、こう‥‥随分と大きいですね。頑張って沈めて、魚の住処にしてやりましょう。その為にも、俺たちで轟竜号を守りませんと」
投下したソナーブイからの索敵情報を僚機や管制、UK3と共有する作業をしていたリュドレイク(
ga8720)も竜宮城を気にかける。
勇姫 凛(
ga5063)は出撃直前に見たチェラル・ウィリン軍曹(gz0027)のシラヌイを思い出す。
「この海をバグアの好きにはさせないんだからなっ、それに、チェラルも頑張ってるんだ、凛だって負けられないから」
――いつか平和になった世界で、二人幸せに暮らすためにも。
深度を下げる凛機とは対照的に、一旦浮上するのはさやかのリヴァイアサン『SS−500 かいりゅう』。
UK3とデータリンクし、防衛戦の弱点をカバーするべくソナーブイを投下、深度100を探査していく。その上で、各種ワームの位置や種別からUK3へ到達する可能性の高い存在を索敵情報として把握、アルヴァイムのリヴァイアサンと、歩に情報を伝達していく。
「了解。これより海上から浅海でのUK防衛を主目的、友軍継戦力維持を副目的に設定し、僚機以外ともUKを含めた全友軍との火線の収束、拡散の調整や互助を主軸に連携、防衛網の補完を図る」
アルヴァイムから返答が来ると、さやかは攻撃準備へと入る。さらにアルヴァイムは広域管制及び遊軍による索敵、遊軍動静の情報を共有すべく情報を収集し、それらを常用判断や行動目標選択の参照としていく。
「管制情報と敵動静を元に補完が可能である者は、随時補完の上共有を頼む」
その依頼に呼応する者は全戦域合わせて三十二機。数多のKVがUK3とリンクしている状況から鑑みればこれで充分だろう。
「UK3の護衛は徹底できそうだ」
頷くアルヴァイム。一連の手堅い情報処理及び戦況への転用、細やかな判断がじわりと全軍に浸透すれば、後方支援部隊のより一層の統制と戦力の底上げに繋がる。
「勝利が見えますか?」
さやかからの通信に、アルヴァイムは微かに目を細めた。
「出てくるのが浦島太郎でなく乙姫様ならテンションも上がったのですが‥‥」
さやかから送られたデータを整理及び選別、圧縮しながら、歩はむっとした。眼鏡に映る覚醒紋章を意識しつつコンピュータを操作する。
「一時方向高度1500、十一時方向高度1000、十時方向高度2500、九時方向高度1000にビッグフィッシュ。キメラ排出前に撃墜に向かえる機体があれば向かってください」
歩から送られる情報は、戦局を大きく左右する「初手」に繋がる。
BFに向けて駆け抜けるのはセシリア・D・篠畑(
ga0475)のシュテルン『シレンス』とロジー・ビィ(
ga1031)のアンジェリカ『シェアーブリス』。十数機のKVも続く。
「‥‥常に敵より高高度、『太陽』を背にする位置を取るよう心掛けます‥‥」
ぽつりと呟くセシリアは、『太陽』――背後に展開する光源のうち、最も明るいもの――を意識して飛行を続ける。
「フェンリル01より空戦の各機へ。優先して排除すべき目標のデータを送ります」
BFを狙う機体達に公司のウーフー『フェンリル01』からデータが送られる。
BFがその腹にある子を産み落とすが先か、KV達がBFを撃墜するが先か。
どちらの行動が勝るかで、この後の戦況に大きく影響を与えるだろう。
「これが‥‥竜宮城の作戦に大きく関わってくるんですわね‥‥確り作戦、遂行させて頂きますわ!」
ロジーはセシリア機と同高度、同速度を保ってBFへと突き進む。それを阻もうとするHWやキメラ達。巨大な翼竜型キメラ達は躊躇わずに突撃を仕掛けてくる。
「う、うじゃうじゃいるんだよーっ!? な、泣いてもいいかなー?」
犬坂 刀牙(
gc5243)はディアブロ『RED COLLER』を駆る。ショルダーキャノンをぶちこまれて片翼を奪われたキメラは海面に落下する。
「こうなったら次もっ!」
刀牙機はリロードを終えるや否や次のターゲットにロックオン、再び翼へと攻撃を加えていく。
「さーて、参番艦の邪魔をさせないためにも、敵をばしばしとやっつけないとね」
HW群へとシュテルンのK−02による一斉射撃を開始するアーク・ウイング(
gb4432)。
セシリア機とロジー機に気を奪われていたHWの何割かは、今の攻撃でアークへと照準を変えた。アークは照準を確かなものとして次の射撃に入る。
セシリア機とロジー機はBFとの距離を縮めていく。若干後方を公司機が追従する。狙うは、もちろんBFだ。
「勝機はこちらにある予感がする」
公司が呟けば、当然と言わんばかりにセシリア機がPMRシステム・改を発動させ、 パンテオンを一時方向のBFへと発射する。ほぼ同時に九時方向へと抜けるのは、SESエンハンサーを使用したロジー機のドゥオーモ。
「大事なのは初手‥‥いきなり来るとは思ってないでしょう?」
ころころと笑い、ロジーは損傷したBFの艦橋部へとK−02、Mロックオンにより発射。セシリア機はスナイパーライフルを対峙するBFの脇腹へと流し込んでいく。
BF二機が黒煙を上げる。その間を駆ける公司機のミサイル。半ば牽制のそれは予想通り回避されるが、そこに押し込まれていくのはショルダー・レーザーキャノン。
「その程度の対応は修正範囲内です」
公司の言葉が終わる前に、BFへと照準を合わせるKV達からの弾幕が展開される。
「皆様、今でしてよ!」
ロジーの合図が文字通りの引き金となり、一瞬後にはBF三機を撃墜、戦闘の流れをこちらに引きずり込んだ。そのまま残る一機へとロジー機からの攻撃が入り込み、BFは体勢を崩して高度を激しく下げる。そこを、海上部隊の狙撃によって貫かれた、
水底から這いずり上がる、海竜型キメラやワームの類。海上に展開する部隊を海底へと引きずり込もうと、その牙を剥く。
迎撃するのは海上部隊だ。嫌らしく首をもたげ、じっと空を見据える海竜型キメラ。その真横にはメガロ・ワームの影。
「此処には我らがいる。汝らの好きにはさせぬぞ」
シリウスが言い終えるや否や、海竜がメガロ・ワームを護衛するかのように動き始めた。そしてひたすら空を「凝視」するメガロ・ワーム。シリウス機はしかし、メガロ・ワームへと向けて重量魚雷をぶち込んでいく。
「数は少ないが、くれてやろう」
メガロ・ワームの「視線」は逸れた。
「蝗のごとく沸いてきやがるです。でもご安心、佃煮にして食ってやるのです」
美海(
ga7630)は無数の敵を目前にしても、全く意気を衰えさせやしない。パピルサグ『超獣巨蟹猛進撃滅騎士団』の海戦初陣を勝利で飾る勢いだ。
「野郎ども、バグアに目にもの見せてやるぜよなのです」
愛する参番艦を守るべく、七十式多連装大型魚雷の連射で弾幕を張り、海底から間合いを詰めてきたマンタ・ワームの「視界」を奪う。その隙に潜水し、ギリードゥの隠密性能を最大限に活用する。
「これぞ、シスターズ忍法波間がくれなのです」
マンタ・ワームは一瞬だけ美海機の位置を捕捉し損ねた。無防備な腹部へと、美海機のレーザークローが薙ぎ入れられる。
低空域を駆けるリュドレイク機は、降り注ぐキメラをツングースカで捉えていく。中でも明らかに撃墜が困難と思われる大型のものには、AAMで追撃、確実にその射程内の数を減らしていく。
ニア機から放たれるバルカンもまた、落下する敵影を消す。交互に空へと向けられる攻撃、次々に墜ちる異形。
着水するキメラや海面に顔を出す敵影が増えてくるとリュドレイク機は着水し、獣形態で駆け出した。
「顔を出したこと、後悔してもらいますね」
浮かぶ影を次々に蹴り付け、ツングースカで止めを。
「潜られる前に潰しておくわね」
ニア機もまた水中武装に切り替え、魚雷ポッドの連射にて水面下で渦を巻く異形を穿ち砕く。
「キリがないわ」
呟きながら、耳と目の双方で得た情報も交えて現況報告をする香月。
香月はソナーブイを中継点となりそうなポイント付近に投下し、戦域に加わる。
遠距離から中距離を保ちつつ、射程内の敵を撃ち抜く香月機。スナイパーライフルは常に空に向けられ、照準に入れた敵を逃さない。ひたすらに、空を狙う。
海上での戦闘の気配を感じながら、暗き海中でも戦いは続く。
「ここから先には、絶対行かせないんだからなっ!」
凛が叫び、UK3の腹へと向かうワームの攻撃を、アクティブアーマーを展開して受け止めていく。
「アクティブアーマー展開、受け止めろリヴァイアサン‥‥そんな攻撃なんか、効かないんだぞっ」
敵機からの攻撃が一段落すると凛機は反撃に転じた。重い一撃をワーム群へと捻り込んでいく。最も高機動を誇る個体を見つけると、ベヒモスを構えて呼吸を整えた。
「今、凛の想いを青き輝きに乗せてっ‥‥未来を切り開けベヒモス!」
システム・インヴィディア発動、ただ真っ直ぐに――薙ぐ。
振り回すように薙がれたベヒモスにより水流が発生する。そこに青き輝きを散りばめ、勢いを乗せて裂く。
ひどく重い――そして鈍い爆音が、水底に沈んだ。
絣のリヴァイアサン『罔象 −mitsuha−』と海のアルバトロスは、共に深海域からのUK3に向けられる奇襲に備えていた。
先の開門作戦に参加していた海は傷を負っていたため、今回は絣機の後方援護に従事だ。
「生身の依頼では、私が絣さんを命を賭して守るように、水中では絣さんが私を守ってくれる。私は、私の役割をこなすだけっ!」
自身に強く言い聞かせる海。
絣機はアクティブアーマーと、そして機盾「ウル」で守りを固めていた。親友を守り、できる限り長く戦場の留まらせるために。
「このスペース、大事にするんだからっ!」
海機は絣機に守られたスペースを縦横に舞い、ガウスガンを放つ。それを追いかける、絣機のセドナ。両機の初手は、敵陣に遠距離攻撃への警戒心を増幅させた。
ワーム群は一定の距離を保って二機を中心とする大きな円周を巡る。やがて一機が動きを見せた。
――円周から、外へと。
「そこっ! 逃がさないんだからっ」
海機から七十式多連装大型魚雷が放出され、離脱を計ったワームへと吸い込まれていく。着弾の瞬間、他のワーム達が一気に深度を下げ、そして海機へ向けて急浮上を仕掛けた。
「捕捉済みよっ!」
ここは海中、戦場は立体――海は瞬時に状況をシミュレートし、照準を足下に合わせる。だが一瞬だけ敵の動きが勝った。
迫るメガロ・ワーム。しかし絣機のことを失念していた。
「私を片付けないと海のところにはいけないわよっ!」
リヴァイアサンの移動力、エンヴィー・クロック、そしてガトリング――流れるように罔象はその力を振るう。ソードフィンによる応戦は敵の照準を罔象へと向けさせた。
体当たりを仕掛ける敵を絣機は紙一重でかわし、リヴァイアサンの巨体で死角を作り上げる。後方を確認すれば、思惑通りに攻撃態勢に入る海機。
「ふふ、私しか見えてないようだと痛い目を見るわよ?」
絣が笑む。その瞬間、海機から――。
――背に、見えぬ恐怖を抉り込まれた敵の動きが止まる。
「これが私たちの連携よ。観念しなさい!」
深淵に響く、絣の声。
システム・インヴィディアを乗せたソードフィンが、軌跡を描いた。
「まったく、多すぎるわね」
アンジェラが光源の中を舞う敵影に吐息を漏らす。
エシック・ランカスター(
gc4778)のリンクス『Black tailed Gull』が後方支援部隊の管制下に入り、アンジェラ機の後方についた。二機のリンクスはHWの群れを目指す。
「連戦のようね、調子はどう?」
「長い一日です‥‥しかし、たった一日で片付くなら、この位は大したことではありません」
アンジェラに問われ、エシックは頷く。
竜宮での任務と、UK3での戦闘と。それらを終えて来たエシックは、愛機搭乗前に深く空気を吸い、ゆっくりと吐きだした白い息を思い出す。
呼吸器系、呼吸に伴い圧迫される消化器系や横隔膜等の動き、付随する腹筋。さらには自分の意志で動かせる四肢に、どの程度のダメージがあるのか。スムーズに思考できるのか。
それらを客観的に確認し、まだ行けると判断して空に来た。
アンジェラ機がHW群にスナイパーライフルを撃ち込む。先頭の敵機は出鼻を挫かれ、後続のHWと絡まり落下する。
アンジェラ機がリロードに入ると、エシック機のスナイパーライフル及びロングレンジライフルから押し出された攻撃が下方を流れ、前方の敵機へと吸い込まれていく。当然、リンクス・スナイプを乗せた精度の高いものだ。
続けざまにアンジェラ機から新たな狙撃、そしてでGPShによる弾幕。
それらの攻撃で完全に陣形を失ってゆくHW群。しかしそこに別のHW達が雪崩れ込んできた。
レインウォーカー機と奏機が滑らかに躍り出る。
「死ぬなよ、音桐。ボクもお前も、まだやらなきゃいけないことがあるんだからさぁ」
「分かっていますよ、勿論。まだまだこの目でみたいモノが多いですからね」
「派手な舞台になりそうだねぇ。存分に、愉しむとしようかぁ」
「この戦況、観察してる暇はなさそうですね。今は生き残ることに集中しましょう」
それぞれに、言葉を交わしながら息を合わせた。
先を征くレインウォーカー機が敵陣の中心に流れ込み、ミサイルポッドを放出する。
「こっから先は通行止め、と。誰も通しはしないさぁ」
敵の攪乱に成功すると、手近な個体からレーザー砲の照準に入れる。ボディを抉られたHWに、追い打ちをかけるように奏機からの狙撃が入った。
「とーーーぅ!!」
突如として、海中で戦闘を続ける全機に伝わる奇声――というか、雄叫び。
「改! 激! 烈!!」
しゅっばぁーん、どごんっ!
「‥‥あいたたたた‥‥」
荒ぶる勇者のポーズを決めたと思った瞬間に、コクピットの天井で頭を激しく打ち付けた。当然、その鈍い音も全機に伝わる。
「気を取り直して‥‥」
頭頂部をさすりながら、軽く咳払い。
「俺様はジリオン! ラヴ! クラフトゥ!!」
しゅたっ、ずごん!
また頭を打った。しかし気にせず続ける。
「‥‥未来の勇者様だ!」
きりりっ!
だが、凛々しい顔も輝く白い歯も、誰も見ちゃいない。敢えて言うまでもなく、ジリオン・L・C(
gc1321)だ。しかしまだ続く。
「いつもは目下絶賛売り出し中の空戦小隊アークバードで! 蒼天を普く照らす太陽のように! このほとばしる程の熱き魂をもってさまよえる魂を引っ張ってきた俺様ジリオン様!」
さすがに学習したようで、頭は打たなかった。
「日夜奥様方から絶賛される勇者の必殺技、『勇者アイズ』が、今回は、この暗い深海を見通す目となり彷徨える魂達を導いてやるぞ! 勇者ぱーてぃー! 出撃だ!」
しかし彼が出撃を開始したのは、アルヴァイムとオルカ・スパイホップ(
gc1882)が後方支援部隊の管制下に入り、そこにさやかが合流してからのことだった。助けを求める気満々だ。
この勇者、色んな意味でもう駄目な気がする。しかし、へたれでも勇者(自称)。やることはやる。オロチ『真・バイパー! 未来勇者号・斬』の管制機能を活かし、各機のソナーブイの情報を統合していく。カメラも使い、平面だけではなく深海からの奇襲にも備え、得られる情報を伝達する。
「あ、あれが噂の自称勇者‥‥他称されないと意味がないよね〜!」
ジリオンの声を聞いたオルカは、呆然と後方のジリオン機を見る。リヴァイアサン『レプンカムイ』が一瞬だけそちらを向く。
「‥‥でも、データは確実、正確だなぁ」
ジリオンからのデータを照合していたオルカは笑む。
「よ〜っし!! ひさびさの水中戦だぁ〜♪」
うずうずと身体の奥底から湧き起こる衝動。
「行こう! レプンカムイ! 沖ノ神たる所以をみんなの目にしっかり焼き付けて、水中はこいつがいたら大丈夫って思ってもらえるようにするんだ!」
放つ、小型魚雷ポッド。その弾幕は潜行する敵影を抱きしめる。その中でも中央に位置する巨体には、「爆煙」を抜けてレーザークローを削り込んでいく。
「はい、次〜! まだまだ暴れたりないよ〜? こんなもんなの? もっとも〜っと遊ぼうよ!」
オルカ機の勢いに押される敵陣、UK3を「頭上」に見るこの海底に渦が発生する。
さやか機は常にアルヴァイム機の動向及び照準を掌握、その上でよりUK3に近く、より高度で、より浅深度にいる目標への警戒を続ける。
水圧をぶちやぶるように、海底へと吸い込まれていく七十式魚雷は防衛戦の小さな穴から突破を計る敵に絡みついていく。敵機が回避しようにも、しかしさやかの回避予測はその思考の上をいく。十発ずつ狙いをずらしつつ発射し、敵機の逃げる隙さえ作らない。
アルヴァイム機が照準を合わせるのも、同様にして防衛戦の穴を抜けてきたものばかりだ。
敵機への攻撃の合間にも、友軍の索敵情報の収集や把握、得られた情報の共有を進める。迅速かつ正確なその行動は、周辺海域の戦況を更に優位なものに仕立て上げていく。
「‥‥攻撃の手は、休めるつもりはないが」
呟き、放たれるのは圧倒的火力を持つ攻撃ばかりだ。
アルヴァイム機がブレーン的役割を果たしていると判断したのか、特攻を仕掛けてくるワームが多い。アクティブアーマーを展開し、それらを確実に抱き留め、撃破への引き金を引く。
「大きいのが、来たな」
水泡の向こう、真っ直ぐに自機を見据える存在。HWではあるが――恐らくこの周辺では最も力を持つ個体だろう。
アルヴァイムはゆるりと機首をそちらに向ける。さやか機からの一筋の狙撃が抜けるのを確認し、攻撃に転じた。
「チェラル!」
燃料等の補給に一時帰還していた凛は、ほぼ同時に空から戻った恋人に気づく。互いに駆け寄り、互いにタオルを飲み物を差し出した。
「同じこと、考えてたんだねっ」
チェラルの笑みに、凛も笑顔で返す。
「お疲れ様」
その時、両機の補給が終わった。
「行こう」
共に呟き、凛とチェラルは乾いた音を立てて手を叩き合う。
そして共に、海と空へ舞い戻っていく。
「今年最後の出撃、かな? では行こうか」
UK3側での戦線を離脱し、UNKNOWN(
ga4276)は漆黒のK−111改『UNKNOWN』で新たな「戦場」へと身を翻す。
「こちらUNKNOWN。今からそちらの管制下に入る」
『レーダーにて、”UNKNOWN”捕捉しました』
ユナの応答にUNKNOWNは頷き、紫煙をくゆらせる。
「なかなか可愛い声、だ。帰ったらデートをしよう」
『では、勝利と共にご帰還を願います。そうしたら‥‥是非』
「了解、出撃する」
くすりと笑み、UNKNOWNは愛機に海上を高速航行させた。
力みなき機動、鳥のごとく「風」に乗り、揺れる。大気と、星の重力と。それらと一体化して流線を描くUNKNOWN機。
そこに併走するのは、同様にしてUK3側から離脱してきたソーニャ(
gb5824)のロビン『エルシアン』。
「敵の数‥‥無数? こういう時は『敵が八分に空が二分』ってね」
今はこれまでの戦闘で減った燃料などを補給している暇はない。だが、愛機の継戦能力なら充分いけるはずだ。装備も、長時間戦闘用にしてある。
『エルシアン捕捉完了』
「ユナちゃん、その調子。落ち着いて指示頼むよ?」
『はい、頑張りますっ』
ユナの通信を耳に残し、ソーニャは出撃する。
彼らだけではない。海ではガーネット=クロウ(
gb1717)のアルバトロス『Walrus』が管制下に加わり、空母には終夜・無月(
ga3084)と鏡音・月海(
gb3956)の搭乗するミカガミ『白皇 月牙極式』が到着していた。
UK3への敵を警戒するガーネットは、ソナーブイを進路上に配置していく。戦闘終了が近づくほどに敵は追い詰められ、その行動は読めなくなる。だからこそ――確実に捕捉する必要があるだろう。
「水の中というのも、面白い感覚ですね」
ガーネットはソナーブイからの情報を確認しつつ、呟く。ベテランには到底及ばないものの、そろそろ水中戦闘にも慣れてきた。もう少し、動けるはずだ。
空母で無月は月海の具合を気にかけていた。これまでの行動において、重体となってしまったのだ。
「すぐ医務室に!」
ユナがドクターを伴って駆けつけてくるが、月海はふるふると首を振った。
「補助くらい、なら‥‥できます。月海も今持てる力の全てで御役に立てる様に頑張りますね」
言いながら、月海は拳を握って軽くガッツポーズに似た動きをする。力強さはないが、微かに胸を揺らすが、無月は気づかないフリをした。
「ぁ‥‥」
気を遣ってくれた無月の優しさに気づいた月海は、彼に対する尊敬の念をより一層大きくさせた。しかし彼女は到底KVの挙動に耐えられるような状況ではない。ドクターストップをかけられた月海は、せめてこれくらいはと通信室からのサポートを申し出た。
月海を降ろし、出撃しようとした無月はユナに向き直る。そして、終了後には柚木 蜜柑(gz0321)に海鮮フルコースを振る舞う予定であることを伝え、ユナをも誘う。
「わかりました、楽しみにしていますね」
ユナが笑うと、無月は空に向かっていく。その時、月海とユナは、見送るべく見上げた空に異変が起こっていることに気がついた。
空は、渦を巻く。
完全なる敗北を予感した敵軍は、最後の行動に出た。
渦を巻き緩やかにその高度を下げていく「空」。
「まさか、落ちて、来る‥‥っ!? 特攻っ!?」
チェラルが、叫んだ。同高度に達した無月機がチェラル機の周囲を軽く旋回する。
「チェラル‥‥久しぶりですね‥‥今日はご一緒させて頂きますよ」
できれば生身で連携したかったところだが、この各種状況がそれを許してくれなさそうだ。空での連携となる。
「‥‥心強いよ。だって、今から空が落ちてくるから」
チェラルの声がワントーン下がる。無月は無言で頷き、空を仰ぎ見た。空母から、月海が各種状況を確認し、無月へと伝え始める。
『全機――“出撃”願います』
歩とユナの声が同時に響く。
直後、空が――落下した。
空へと吸い込まれていく各種砲撃、そして展開する弾幕。
インターセプトに徹するUNKNOWN機のエニセイが降り注ぐ空を横から薙ぐ。
混乱が支配する戦場に、当然のごとく飛び交う情報。それらを自動演算処理にて整理し、少しでも迅速に新たな情報を配信していく。戦闘には使われていないHPCサーバをフルに活用して――。
僚機からの援護支援に、ブーストをかけるUNKNOWN機。狙撃している暇はない。ひたすらにその翼で空を引き裂いていく。その様は狩りに転ずる猛禽類のようであり、確実に空の支配権を奪い去る。
「左翼編隊、切り込みをかける。攪乱し、戦闘力を削ぐよ」
UNKNOWN機とは逆方向へとバレルロールで抜けていくのは、ソーニャ機。その螺旋で高速を維持し、次々に戦域を変えて疾駆する。
――乱戦こそエルシアンの本領。
エルシアンは落ちない――常にそこにあり、戦域を支配する。アリスシステムを常時起動し、レーザーキャノン、レーザー砲、そして離脱――それらを全て螺旋に組み込んで。
大型のHW達は落下しつつも、KV達からの砲撃を見事に避けきっていく。しかしこのまま墜とさせるわけにはいかない。敵機が再び砲撃を回避した瞬間、エシックのリニア砲が入り込んだ。
「残念、そこは俺の主砲です」
言い終える前にヒット、敵機は黒煙を上げる。しかし最後の力と言うべきか、照準をエシック機に合わせ――。
空の落下速度は加速する。
それほど大きくはない飛行型キメラや小型HWなどは、寄り集まってKVに絡みつく。
「少しでも数を減らさなければ」
公司は狙撃を続け、回避を続け、時折響くのは翼を抉る敵のボディ。公司機の消耗を見極めたのか、そこに大型HWが滑り込んで――。
――公司機を墜としたHWは、そのまま次のKV――刀牙機を照準に入れる。
「そんな‥‥っ!」
刀牙は目を見開く。これまでに落下する空を相手にしていたため、ミサイルの残弾数はゼロだ。補充に戻る隙さえない。
「‥‥やるしか、ない‥‥っ。うう‥‥、ごめんねRED COLLER」
そして、HWへとその機首を向けた。
「クラウン1からクラウン2、切り札を使う。援護を頼むよぉ」
「クラウン2、了解。さて、出番ですよディスコード。あなたの真価を見せる時です」
レインウォーカー機と奏機は軽く高度を下げて再び空を狙う。奏機はバレットファストを、そして全兵装を使用してレインウォーカー機の援護に全力で当たる。
レインウォーカー機はブーストにて空へと急接近、ブラックハーツ発動の後、フォトニックブラスターをぶち込んだ。
「‥‥嗤え」
空に、穴が開く。
その穴を埋めるように、大型のHWが渦を巻く。その外周にはキメラ群。
「でも、墜とすよ」
アークが呟き、真っ直ぐにHWへと、PRMシステム・改で強化した8式螺旋弾頭ミサイルを穿ち込む。
さらにアンジェラ機からロケットランチャーが撃ち込まれ、反撃に転じるキメラの群れには弾幕が展開される。
駆け抜ける、無月機。そしてチェラル機。先ほどのUNKNOWN機及びソーニャ機とは別の戦域へと、身を躍らせる。
敵の背後を取り続け、レーザーガトリング砲を展開する無月機。その穴を埋め、チェラル機の狙撃が走る。
「‥‥墜ちて」
セシリアは呟き、キメラの駆逐をひたすらに続ける。スナイパーライフルで、時にはスラスターライフルを交え。一撃ぶち込むたびに、離脱する。
「‥‥っく、まだまだですわッ!」
ロジーはブーストで急旋回をかける。
空の雨の中、縦横無尽に舞う白薔薇。
優雅に放たれるロケットランチャーがHWを行動不能にすれば、高分子レーザーが後続の敵機を打ち据える。
海上では、空戦部隊の攻撃を抜けて落下した敵への対応が続けられていた。
高空から重力に引きずられて海面に叩き付けられるそれらは、凄まじい破壊力を持った武器と化す。
海面に落下した中型のHW、まだ微かに動くそれをシリウス機が対応する。そうしている間にも背後を掠めて別のHWが落下、水底へ沈む勢いに巻き込まれていく。背に強い衝撃が走り、自機と共に危険な状態であることを悟る。しかし――。
「このまま、沈んでたまるか」
唸り、シリウスはアイアンクローを薙いで辛うじて脱出するが、そこで戦闘不能に陥った。
艦上には次々に撃墜及び重体者が運ばれてくる。そんな中、管制の歩も戦闘に立つ。負傷者に治癒を施したのち、出撃。
「戦場を選ばずに戦えるのがパピルサグの強みです。どこへだって行きますよ!」
そして着水、海中の敵影へと魚雷をぶちこみ、持てる限りの兵装で弾幕を形成する。それとは対照的に、空にバルカンを向けるのはニア機。
「少しでも、減らしたいわね」
その言葉の通り、ニアは照準に入る敵影を片っ端から撃墜していく。
「これが終わったら‥‥寝るんだから」
香月は甲板での生身戦闘に転じていた。落下してきた小型のHWに巻き込まれた末、機体での戦闘続行が不可能となったからだ。彼女の負傷度はそれほどではく、まだ戦える。
円閃、そして刹那でカンヴィクションアックスを振るう。際限なく降り続くキメラ達。終わる頃には自分も動けなくなっているだろう。
「でも香月は、やれることを‥‥やるんだから」
そしてまた、アックスを振り抜いた。
リュドレイクは、着水後も「息」のあるHWを「頭上」から撃ち抜いていく。ハイヴリス、そしてガトリング。
美海機の攻撃も続けられる。UK3前面という位置は変えず、落下着水する無数のキメラへと魚雷をぶちこんでいく。
「絶対に勝つぜよなのです!」
力強く言葉を漏らし、再び照準を合わせた。
「いっけー!」
海の声が、海中部隊の全機に響く。
その声に触発されるように、無数の水疱が、そして「爆音」が海中を支配する。
変わらず続けられる、絣機と海機の連携。流れるガトリング、「飛翔」する魚雷群。
「私達の連携は、絶対に崩せません。たとえ誰であろうとも」
絣機が、ソードフィンを構えた。
「勇者アイズが敵の動向を察知したぞ!!」
てぃん! ジリオンが僚機にデータを送る。ほぼ同時に、アルヴァイム機も同様の情報を各機に伝えていく。ふたつの正確な情報が海中部隊に浸透すると、このフィールドに待つ結果は自ずと決まる。
「ここは通らせません」
UK3へと向かおうとする敵影を、さやか機が魚雷の弾幕による制圧射撃で冷静に対処する。さらにはアルヴァイム機も魚雷やバルカンを放出、UK3周辺の勢力制圧を完了に近づける。
「来るだろうとは思っていました。が、気づくのが遅かったようですね」
ガーネットは海中部隊に体当たりを仕掛けようとするワーム群に気がついた。援護要請を出せば、凛やオルカ、ジリオンが参戦する。
「これがリヴァイアサン。いや、僕のレプンカムイの今持てる全ての力! 全てを食らいつくしちゃえ〜!!」
オルカが叫ぶ。
「一気に止めるんだからな‥‥!」
凛が続く。
一斉にワーム群へとぶち込まれていく魚雷やガトリング、轟音の中を抜け出てくるのは一体の大型HW。それはガーネット機を照準に入れて暴れ出す。
「‥‥間に合わないっ!」
ガーネットは息を止める。上体を低くして衝撃に備えた。
――敵機はガーネット機を落としたことを確認すると、ジリオン機を照準に入れる。
「まずい! ぬぉぉぁ! 今だ! 勇者の必殺技‥‥、勇者! よけェ‥‥ッ!」
ブーストで必死になって逃げる。オルカの元へ。
「ゆ、勇者避け避け!!」
しかしオルカはそれを回避、ジリオンは再びHWに追いかけられる。
「俺様達の勇者街道はまだまだこれからだ! ときめきながら待ってろよ、運命よ‥‥!」
作戦終了後にと用意していた台詞を、思わずここで吐いてしまった。
ジリオン機、撃沈。
しかし、ただでは撃沈しなかった。ジリオン機を追うあまりに隙だらけになっていたHWを、凛とオルカの攻撃が抉ったのだ。
「‥‥でも、自信満々な姿は少し眩しいかな」
自称水中KV乗りを名乗るオルカは、引き上げられていくジリオン機を見上げて目を細めた。
東の空が白み始め、星影が消えてゆく。
いつ終わるともなく続いた戦闘も、緩やかに終わりの時を迎えていた。
落下を続けた空も、深淵に渦巻いていた淀みも、今はその面影すらない。戦闘の残骸はそこかしこに揺れてはいるが――。
『作戦終了、全軍帰投願います』
全機に響く、ユナの声。
機首を転回するKV達。空母の医務室で皆の帰還を待つ者達もいる。
「お疲れになったでしょう? 帰投されたら紅茶を淹れさせて頂きますね。カワサキ様にも」
月海は通信室で無月から帰投する連絡を受け、そう返していた。
『もう少し‥‥回復してから、ですよ』
返ってくる無月の、気遣うような言葉に月海は再び尊敬の念を抱く。
「これだけKVに乗ったのも、水中戦も初めてですが」
医務室で治療を受けながらガーネットは、帰投を終えて皆の様子を見に来ていたオルカと話していた。足手まといにならなかったかどうか、色々と気になるのだ。
「あのワーム群に気づいたのだから、いいんじゃないかな」
オルカは笑む。
「重体とは‥‥な。だが、我が愛機と共にあったからこそ、重体で済んでいたのやもしれぬ。‥‥感謝するぞ」
シリウスは離れた場所にある愛機を思う。これが最後となるかもしれない、愛機との出撃。最後に自分を護ってくれたのだと――深き感謝を寄せる。
「新たなる年に、乾杯」
そして、舷窓から東の空を見つめて笑んだ。
そう、出撃は十二月三十一日の夜だった。
そして今は、一月一日の早朝。
まだ太陽は顔を見せてはいないが、年をまたぐ作戦を勝利で終えたことに、誰もが不思議な感慨を抱く。
このあと、UK3か空母か、はたまた他の場所でか――新年と勝利を祝してのパーティーがあるかもしれない。
次々に帰投するKV達。
「アーちゃんの仕事はここまでかな」
アークは白む空を見つめ、呟く。空母はもうすぐそこだ。
凛は帰投を終えるとすぐに愛機から降り、恋人へと駆け寄る。そして、最初に凛がかけた言葉は――。
「‥‥チェラル、新年あけましておめでとう」
「おめでとう‥‥!」
チェラルは恋人に満面の笑みを返した。
「これで終わり、かぁ」
「作戦終了ですね。運が良かったみたいですね、お互い」
「お疲れ様だな、音桐。帰ったら一杯飲もう。付き合えよ、相棒」
「ふふ、分かりました。楽しいお酒になりそうですね」
レインウォーカーと奏もまた、連れ立って戻ってくる。しかし二機は、敵の残党の可能性を警戒しつつの帰還だ。やがて二機とも着艦した瞬間に、大型のHWが一機だけ上空を旋回していることが判明した。
「大丈夫、私が対応する。やりたいこともあるからね」
UNKNOWN機からの通信が入る。彼が対応するなら大丈夫だろうと、誰もが見守る。
「これで作戦終了だ。――カウントダウン」
3、2、1――。
――ゼロ。
空へと放たれるのは、これまで温存していたK−02。
その全てが遙かな果てへと吸い込まれていく。
それは最後のHWを包み、なおも弾け――やがて、空を照らす「花火」となる。
――Goodbye 2010
Welcome to 2011 from 2010――
UNKNOWNの声が、静かに響く。
――そして東の空から、穏やかな陽光が差し込んだ。