タイトル:【CO】蒼茫の糸マスター:佐伯ますみ

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/01/06 04:36

●オープニング本文


『A mali estremi estremi rimedi.大変な病巣には思いきった処置が必要であると言う通り、我々は之を以て停戦を破棄、諸君に宣戦を布告するものとする』
 その放送が突如として無線に流れたのは、12月11日0600時の事だった。
 前線では不寝番の者達が緊張感を漂わせて周囲を警戒し、寝惚け眼だった兵も無線を耳に当てる。要塞では左官級以上の者達が1人残らず副官に叩き起こされ、有無を言わさず無線を渡された。
 アフリカで戦う多くの人類が、固唾を呑んで無線に聴き入る。
 そんな中、嗄れた――かつての忠臣が聞けばすぐにそれと判る声色で、現在のバグア・アフリカ軍総司令ピエトロ・バリウスの布告は続く。
『そも先日来、緩慢に守られてきた停戦なるものは一時的なものに過ぎず、我々の行うあらゆる活動は宇宙の摂理に基づく絶対不変のものである。然るに諸君は今以て我々を受け入れぬばかりか、あまつさえ寛容なる我々に一矢報いた事をしたり顔で誇る始末。故に我々は現時点を以て人類生誕の地を再び奪還し、むずがる子らに灸を据えてやることとしたのである』
 淡々と紡がれる言葉はともすれば右から左へ抜けそうになる。
 が、前線で聴いていた者達にはこの宣戦布告が厳然たる事実であるという証拠を早くも突きつけられる事になった。というのも、
『――諸君の健闘と、従順なる成長を祈る』
 無線が切れるより早く、南の彼方から、黒い波濤が押し寄せてきたのである‥‥。

 波濤は停戦ラインを押し込み、ラインにて防衛に当たっていた部隊は一旦の撤退を余儀なくされた。
 だが、それとほぼ同時に駆けめぐったのは、ピエトロ・バリウス要塞襲撃の報――。
 アメリカから帰還したばかりのジークルーネの搭乗員以外は、その多くの戦力が要塞へ応援に向かうことになった。
 そしてジークルーネは最前線に止まり、防衛戦を展開する。
 これ以上の、敵の流入を阻止するために。
 ラインにてバグア軍を率いているのはプロトスクエア・青龍のヴィクトリア。その周囲には精鋭と思われるタロス部隊。それらに率いられ、他のタロスやHW、CW、飛行型キメラ、そして数艦のビッグフィッシュ。
 地上にはタロスやゴーレム、レックスキャノン、タートルワームなどのワーム類と、キメラ。
 ある意味ではどちらもシンプルだ。だが、シンプルであるが故の恐ろしさはある。
「どう、動くか――」
 ウルシ・サンズ中将はジークルーネの甲板で目を細める。ジークルーネを引きずり出したのだから、それ相応の挨拶をする必要があるだろう。
「先行偵察部隊によると、空は最前線にヴィクトリア機が。その右翼には濃緑の、左翼には銀のタロスがいるようです。精鋭部隊のなかでもずば抜けて能力が高く、恐らくはヴィクトリアの側近かと」
 KV飛行隊長のヨアン・ロビンソン中尉はサンズに告げる。
「ヴィクトリアの指揮には隙がなく、統制の取れた動きを見せています。進軍速度は速く、恐らくあと十分もしないうちに交戦となるでしょう」
「――で、地上はどうなんだ」
 サンズは視線を副官の朝澄・アスナ中尉に移す。
「地上も空と共に統制の取れた動きを見せています。ただ」
「‥‥ただ?」
「ヴィクトリアが全体の指揮を執っている将であることは間違いないとしても、その命を受けて地上部隊を統制する存在がいるはずです。その存在が特定できておりません」
 アスナは黒く蠢く地平を見据えた。
「恐らく空同様、地上の最前線に在るタロス部隊にいると思うのですが」
 その言葉に、サンズは「フン」と相槌を打つ。
「あの小娘の指揮系統を崩さねぇと難しそうだな」
「――では」
 アスナとヨアンが同時に言う。
「空はヴィクトリア部隊を攪乱、陸は指揮機捜索及び撃破を目的とした部隊を編成する。それ以外は他のバグアと対峙し、押し込まれつつある停戦ライン上で踏み留まる。そして指揮系統が崩れたところで、ジークルーネで押し返す」
「ヴィクトリア撃墜はどうしますか」
「やれば死人が大量に出るだろうよ」
 サンズの即答に、ヨアンは口を噤んだ。
 ヴィクトリアが先頭にいるのは、恐らく威嚇だ。撃墜するのなら――それ相応の対価を払えという死刑宣告。そしてそれを実行するだけの「戦力」と「手段」を準備しているはずだ。
「あの狸オヤジが負け戦を仕掛けるとは思えねぇ。要塞のこともある。こちらの被害を最小限に食い止めながら、バグアの侵入を少しでも多く阻止しねぇとな」
 全てを阻止することは不可能だ。多少の流入はあるだろう。だがその流入が要塞に大きな被害を及ぼすものであってはならない。
 そのために、脅威となる指揮系統を乱す。
「それぞれの部隊の人選は一任する」
 サンズが言うと、アスナはすぐにその候補を考える。
 陸戦部隊とはいえ、常任は自分ひとり。それに大半が要塞防衛に向かっており、現在、地上で進軍を開始した部隊は、傭兵やアフリカに駐留する一部の兵士達が招集されたものだ。そのなかで、誰が適任だろうか。
「‥‥鳳少尉」
 ふと、鳳 俊馬のことを思い出した。彼は最近アフリカ入りし、アルジェで復興にあたっていた。
 彼もこの有事に招集されている。彼を隊長とした部隊を組み、その任に当たってもらえないだろうか。
 元々、欧州軍やアフリカ軍に所属していたわけではない。だが復興だけではなく、最前線への出撃も希望し、アフリカに配属された。そこに彼なりの強い意思めいたものでもあるのかもしれない。
 強い意思を持つ者は、生きる力も強い。危険な任務にあっても、必ず成し遂げる力を持つだろう。
「いいんじゃねぇか」
 サンズが言う。
「ではすぐに連絡します」
 頷き、アスナは俊馬のパラディンへと通信を開始した。

「――了解」
 アスナからの通信に、俊馬は考えるより早く答を返した。そして頭上のジークルーネと、その前を征く青いアッシェンプッツェルを視界に入れる。
「同時に任務を遂行する。よろしく」
『あぁ、よろしく』
 アッシェンプッツェルと軽く通信を交わし、俊馬はまた前を見据えて駆ける。
 アルジェの復興に携わりながら少しずつ見えてきたことがある。
 身体を張って護ること以外にも、大切なこと――。
 与えられた任務は危険を伴うものだ。精鋭揃いのタロス部隊のなかから、指揮機を探して撃破しなければならないのだから。
 だが、このアフリカを護りたい。
 蘇り始めた大地と、これから取り戻す大地と。
 この身を犠牲にして――などと言えば、誰かから叱られるだろう。それを望む者はいないだろう。
 何かを護るためには、生きなければならない。それは自己満足かもしれないが――。
「必ず護ってみせる‥‥絶対に、約束する!」
 そして俊馬は誰かへと向けるかのように、アフリカの大地に約束するかのように、強く言い放った。

●参加者一覧

宗太郎=シルエイト(ga4261
22歳・♂・AA
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
エリアノーラ・カーゾン(ga9802
21歳・♀・GD
シャーリィ・アッシュ(gb1884
21歳・♀・HD
鳳覚羅(gb3095
20歳・♂・AA
アンジェラ・D.S.(gb3967
39歳・♀・JG
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG
神棟星嵐(gc1022
22歳・♂・HD

●リプレイ本文

「よーやく動いたと思ったら、これだもんなぁ‥‥。嫌になるな、まったく」
 宗太郎=シルエイト(ga4261)は吐息を漏らす。
「いずれ停戦状態なんてものは終わるとは思っていたけど‥‥遂に来るべき時が来たようだね‥‥」
「停戦、いつかは、破れると、思っては、いました、が‥‥。大規模の、直後だ、なんて、忙しい、こと‥‥」
 鳳覚羅(gb3095)とルノア・アラバスター(gb5133)が同時に言う。誰もが同様のことを考え、愛機を駆る。
 駆けるKV、立ち上る砂煙。迫るバグア軍、やはり同様に砂がヴェールを作り上げる。
 前衛機はまもなく接敵する。空も、交戦が近い。
 前衛はノーヴィ・ロジーナbis【字】、シュテルン・G『空飛ぶ剣山号』、スフィーダ『ティル・ナ・ノーグ』、ミカガミ『ブルーゴッテス』、そしてパラディン『Risoluto』。
 後衛はスカイスクレイパー【ストライダー】、破曉『黒焔凰』、リンクス改『アルテミス』、S−01HSC『Rote Empress』。
 この九機で、精鋭の対応及び指揮機撃破の任務に臨む。
「所詮は仮初めの和平、こうなることは予測できていたとはいえ‥‥」
 微かに眉を寄せるシャーリィ・アッシュ(gb1884)。
「宣戦布告があって直ぐの戦闘行為。準備は早々に始めていた、ということでしょうか」
 神棟星嵐(gc1022)の言葉に、シャーリィも「そういうこと‥‥でしょうね」と頷く。
 敵精鋭部隊であるタロスの配置は、前衛に濃紺三機、中衛に、紫、赤、紫という配置、そして後衛に黄二機。
「上にはプロトスクエア、青龍のヴィクトリアが青いタロスで来ていると言いますし、必然的に赤いのが陸での指揮官に思えますね」
 しかし、そう言う星嵐とは別の視点を持つのはエリアノーラ・カーゾン(ga9802)。
「指揮官機の特定かぁ。見たトコ、陣形と色からド真ん中の赤いのが怪しいけど――。向こうの大ボスが大ボスだから、それこそがブラフって線もある、か」
 空で総指揮を執るプロトスクエア青龍のヴィクトリア、そしてその上に立つピエトロ・バリウス。単純な布陣ではない可能性が高い。
「‥‥ま、考えてるだけじゃ何も変わんないか。考えながら動いて、動きながら考えるしかなさそ」
 エリアノーラは接敵の瞬間を待つ。
「指揮官型識別前は敵前衛の切り崩しと敵数漸減を主軸に行動、識別後は指揮官の孤立を図った後、他の抑えこみに移行します」
 アルヴァイム(ga5051)の作戦及び方針確認を受け、変わらぬ姿勢でのアンジェラ・D.S.(gb3967)。
「コールサイン『Dame Angel』。地上侵攻してくる敵群を抑えきり、その中で指揮機を見出して速やかに撃墜を図り、空からの応援が来る前に撃退敢行してみせるわよ」
 そう、空からの攻撃も有り得る。皆はそれについても頭の片隅におく。
「まぁ、やることは変わらねぇ。この場を守る‥‥その信念、貫こうじゃねぇか」
 宗太郎が言うと、鳳 俊馬が「貫き、守り抜く」と呟いた。

 空とほぼ同時に衝突は始まる。
 前衛の濃紺機左翼に集中する攻撃、そこから指揮機の割り出しにかかる。
 エリアノーラ機はショルダーキャノン。至近距離からだったが、多少の回避はされたものの微かに前のめりになる。そこにグングニルで穿ちにかかる。敵機は回避、急所を外す。
 後方からはルノア機と鳳機の試作型「スラスターライフル」による牽制狙撃、さらにルノア機は常時起動させるブレス・ノウ。リンクス・スナイプを起動したアンジェラ機がGPSh−30mm重機関砲による弾幕を展開、その隙にルノア機はリロード。またその逆も。
 やはり濃紺は回避及び反撃に転じる機動の全てが速い。速度を出すためなのか、ハルバードが他のタロスと比べて小さい。
「無駄な、動きが、少ない、ようです‥‥。ハルバードが、他の、タロスと、比べると、小さい‥‥です」
 ルノアは宗太郎に告げる。
「まずは押し込んで足を止める‥‥!」
 初撃の踏み込み、シャーリィ機は簡易ブーストで敵陣の右側面に回り込み、メテオ・ブースト。黄のタロスへと仕掛けていく。ヒートディフェンダーで抉りこめば、敵機はそれをハルバードで受け止めた。
 固い防御、スタミナがありそうだ。
 そういった状況をアルヴァイムや宗太郎が確実に見極めていく。同時に、軍管制への戦況確認及び把握にも努めていた。
 空は作戦通りに進行、現在のところ大きな変化はない。陸は精鋭部隊以外はこちらに見向きもしないようだ。戦力の分散は滑らかで、空からヴィクトリアが見た上で何らかの指示を出しているようにも思える。
「黄は防御において、濃紺はスピードにおいて、その性能がずば抜けています」
 僚機への通達、その時点で判明したことがひとつ。
「――黄と濃紺は、指揮機ではありません」
 アルヴァイムの言葉に、皆は頷く。
「隊列だけで見れば一番怪しいのは赤い機体‥‥ただ気になるのは、黄の機体」
 後方からの援護射撃を続けつつ、宗太郎。
「あれは、誰を守るように動いている?」
 先ほどの行動からも、黄の防御性能は何かを守るためとしか思えない。
 では、何を守ろうとしているのか。
 赤を守るために動かない機体があれば、それも怪しいが――。
「或いは、逆」
 アルヴァイムが呟く。
「――あぁ、なるほど」
 宗太郎は頷く。
『赤がやや後退、紫が両翼に広がるようにして後退した』
 空から、アレクサンドラ・リイ。濃紺機は反撃に転じている。
「指揮機は、黄のどちらかだ――!」
 宗太郎が反射的に言う。
「だとすれば、シャーリィ機の攻撃を受けた黄は指揮機ではありませんね」
 続けて、アルヴァイム。
「指揮機はアレか‥‥」
 頷く、覚羅。全機、指揮機を目視で確認する。
 倒れるわけにはいかない指揮機。ならば防御が固く後方に位置し、それでいて先ほどのシャーリィ機の攻撃に対して一切動かなかった機体がそれにあたるだろう。
 つまり、左翼の黄――。
 直後、赤が弾幕を展開、紫がプロトン砲と収束フェザー砲を発射した。
 指揮機を守るためと思われるその砲撃は、僚機がいようとも構わないのか、濃紺機を掠めて抜けていく。KV達はそれを回避、そして受け止め、指揮機が左翼の黄であるという確信を得る。
 この時点で既に、前衛と後衛の引き離しはできていた。突出している濃紺機、指揮機を守る配備についた残りのタロス。
「敵を誘い込むのに、先ずは牽制から行いましょう」
 指揮機以外を誘い込むため、星嵐機が遠方より真スラスターライフルにて牽制狙撃、レーザーバルカンも交えて続けられる。
 果たして誘いに乗ってくるだろうか――。
 しかし、指揮機を護衛するという意思は固いのか、動こうとはしない。
「動いてこないのなら、指揮官を狙い撃ちするだけです!」
 星嵐は照準を左翼の黄へと向けた。その刹那、乗ったのは赤。星嵐機へと突撃を開始した。すぐさま照準を外しブースト、赤を引き付けて指揮機から遠ざけていく。
 真ツインブレイドで赤のハルバードを受け、その上を流し込むように突き、さらには突きと見せかけての逆袈裟。赤の意表を突き、意識を完全にこちらへと向けた。
 それとほぼ並行するようにアルヴァイム機が他のタロスと指揮機を分断にかかる突撃。ブースト、そしてシールドアタック。後方からの援護狙撃の流れに乗り、左の紫へと。
 紫、防御の隙さえ与えられず全身でアルヴァイム機の攻撃を受け、そのまま沈黙する。
「打たれ弱いようですね」
 先ほどのプロトン砲は威力が高かった。攻撃力特化か。
 残るは、二機。右の紫と黄。そこに脇から入るのは、俊馬機のワルキューレ。二機を直線上に入れたゲルヒルデが抜ける。
 アルヴァイム機とシャーリィ機が俊馬機の背を守りに入り、戻ってきた濃紺機の一閃を受け止める。
 指揮機へと迫る、宗太郎機、アンジェラ機、ルノア機。
 それを阻止すべく入る、タロス達。
 覚羅機が弾幕にてそれらの脚部や動力部などを集中攻撃、敵機の足を止めにかかる。
 ルノア機がスラスターライフル及び機刀「セトナクト」を交えてのブーストによる突貫、開けた射線、そこに乗るアンジェラ機のフル弾幕。迎撃態勢に入っていた指揮機の行動を阻害する。
 確保された進路、抜ける宗太郎機。そこの続くルノア機とアンジェラ機。
 そこに追いすがるタロス達、しかしその横からエリアノーラ機。
「再生能力厄介だし、できれば攻撃は一カ所に集中させたいトコだけど。ま、再生したばっかの場所とか狙ってみるのも手かな。いっそ、狙い目かしらね」
 口角を上げ、PRMシステム・改を起動、護衛の濃紺へと攻撃に練力100を使用したグングニル。
 一度、二度、そして――三度。
 初撃で抉られた腹、そこをすぐさま再生にかかる濃紺。そこに続けて二度、突き出されるグングニル。
 再生と、集中。双方が交わった三連撃で、濃紺の腹に穴が開く。
「通すわけにはいかない。通りたいなら首を貰うっ!」
 紫へと、シャーリィ。メテオ・ブーストによる速攻、この撃たれ弱い紫は速攻にも弱い。少しでも足を止め、妨害を。仕留められればなおいい。
 それでも反撃に転じようとする紫、ハルバードではなく至近距離からの砲撃体勢に入る。
「撃てるものなら撃てばいい、絶対に通しはしない!」
 その気迫に、一瞬だけ紫のパイロットが怯む。直後、シャーリィ機の死角から援護に入る黄。
「黒焔凰装甲展開‥‥リミット解除‥‥補助腕砲身固定‥‥立ち塞がる心算なら有象無象の区別なく全て撃ち砕かせてもらうよ?」
 だが、覚羅機もすでにシャーリィ機の死角を補う援護に入っていた。
 リミッターを解除した黒焔凰の全身を、黒い陽炎が纏う。翼を広げた漆黒の魔王とも言える破曉は、黄へとその力を薙ぎ入れるかのように焔刃「鳳」を振るう。
 そして指揮機対応の三機が接敵するとほぼ同時に――。
 ――空で、異変が起きていた。

 最初に気づいたのは、アルヴァイム。
 見上げれば、黒煙を上げて高度を下げる青いアッシェンプッツェル。その周囲で起こる異変の中心に、銀色のタロスらしき存在。
 それだけならば、ただ単に混戦のなかでリイ機が砲撃を受けただけに見えるが――しかし、タロスの動きがおかしい。
「混乱‥‥いえ、暴走しているようですね」
 静かに見据えるアルヴァイム。空で荒れ狂うタロスは小さな混乱を生む。
 生じた混乱は、空の精鋭部隊以外にも飛び火した。
 急降下を開始する、HWの一部隊。銀色のタロスの行動を地上への砲撃と勘違いしたのか――。
 その射程の先に最も近い位置には、星嵐機。
 俊馬が気づき、空を仰ぎ見る。
 直後、地上を射程に入れたHW達が一斉に――。
『‥‥俊馬!』
 リイの声が響く。その意味を察した俊馬は、しかし察するより早く動いていた。

 空での異変と並行して、指揮機との対峙は続く。
「ウイング展開、ブースト全開! 絶対に逃がさねぇ!」
 宗太郎機はブースト、ルーネ・グングニルによる最大速力のランスチャージを仕掛けていく。
 指揮機はもう一機の黄同様に防御面が強い。だがそれだけではなく、機動面においても秀でていた。攻撃力はそれほどではない。
 アンジェラ機はテールアンカー・Aを起動、脚部への精密狙撃を開始する。微かな傷、しかし関節への衝撃が指揮機の反応をやや鈍らせる。
 ルノア機は射撃で間合いを保ちながら、アグレッシヴ・ファングを乗せたルーネ・グングニル。繰り返されるその攻撃、指揮機は槍への警戒を高める――が、しかし予想に反して一閃されたセトナクトに苛立ちを見せ、ハルバードを大振りに薙ぐ。

 爆撃が、地上を焼く。倒れていく陸戦部隊のKV達。
 脱出するパイロット達。ただ、二機――パイロットが脱出できないままに爆散する存在があった。
 俊馬機は星嵐機の盾になり砲撃を腹に受けていた。なおも続く砲撃、星嵐機はパラディンから降りた俊馬を抱え、ブーストでそこから距離を取った。
「大丈夫ですか‥‥っ」
 俊馬に声をかける星嵐、続けて礼と謝罪の混ざり合った言葉を発しようとすれば俊馬が軽く手を振って遮った。
「無事で、よかった」
「‥‥はい」
 小さく頷く星嵐、未だ空からの砲撃は続く。しかし――。
 アルヴァイム機、覚羅機による対空砲撃が交差、HWを次々に撃墜していく。

 指揮機は完全に押されていた。しかし、まだ息はある。
 機関部やコクピット部分、関節や装甲の薄そうな部位に傷を負っている指揮機、徐々に回復しているとはいえ、完全回復はできないだろう。
 傷ついた箇所へと吸い込まれていくのはアンジェラ機による狙撃、振り上げられたハルバードはルノア機のルーネ・グングニルがその穂先で強く弾き返していく。次いで背後に回り込み、飛行ユニットの破壊に。
 肘が突き出されるが、それは盾で受け流す。弾き返された肘に、再度アンジェラ機からの一撃。
 しかし、まだ生きている。あと少し、もう回復するだけの力はなさそうだ。
「まだ墜ちねぇか‥‥しゃあねぇ、切り札だ!」
 爆槍をパージし、身軽になった宗太郎機はブーストを発動した。
 その小柄な機体を活かし、低姿勢で懐に潜り込む。
「絆の居合い、『羅刹・風牙』!!」
 そして練機刀「白桜舞」による居合い――。
 指揮機の脚部へと一閃、そのまま流れるように返し、胴を。
 大きくバランスを崩し、宗太郎機の刀に振り抜かれるように倒れていく指揮機。
 対地攻撃をしていたHWが全て撃墜されると同時に、指揮機も――沈黙した。

 指揮機撃破及び、想定外のHWによる対地攻撃によって、地上の精鋭部隊は完全に混乱していた。二度と動かなくなったタロスもある。
 地上の指揮系統は崩れ去った。
「‥‥二機、完全沈黙。俺も、動けない。だが、地上は先ほど指揮機撃破に成功した。あとは、頼む」
 俊馬は治療を受けながら、空に通信を送る。
 そして――。

『ジークルーネ、全速――』

 ジークルーネからの、猛攻のサイン。
 空の指揮系統は完全に崩れたとは言い難い。しかし大きな混乱が生じている。地上は指揮機が撃破され、そちらの指揮系統は崩れ去った。
 この隙を抜けていくとの決断が下されたのだ。
 ヴィクトリアは残る精鋭部隊を引き連れて空で展開する傭兵達の射程から離脱、その機首と指揮をジークルーネへと向ける。

『――攻撃、開始』

 全機にその声が響くと同時に、ジークルーネはその力を解放する。
 次々に墜ちてゆくワームやキメラ、駆け抜けるジークルーネ。
『‥‥潮時、かしらね』
 ヴィクトリアの、声。
『ジークルーネに華を持たせてあげましょ?』
 そして引き潮のように、一斉に停戦ラインの向こうへと退却を始めるバグア軍。
 地上には、ぼたぼたとキメラの死骸が落下する。ワーム類の残骸も。大半がキメラのようだが数は圧倒的であり、バグア軍が退却を終えるまでに総数の約半数はジークルーネによって撃墜された。
 そして最後にヴィクトリアはころころと笑いつつ、しかし。
『‥‥やるじゃないの』
 ――そう、呟いた。