●リプレイ本文
「よーやく動いたと思ったら、これだもんなぁ‥‥。嫌になるな、まったく」
宗太郎=シルエイト(
ga4261)は吐息を漏らす。
「いずれ停戦状態なんてものは終わるとは思っていたけど‥‥遂に来るべき時が来たようだね‥‥」
「停戦、いつかは、破れると、思っては、いました、が‥‥。大規模の、直後だ、なんて、忙しい、こと‥‥」
鳳覚羅(
gb3095)とルノア・アラバスター(
gb5133)が同時に言う。誰もが同様のことを考え、愛機を駆る。
駆けるKV、立ち上る砂煙。迫るバグア軍、やはり同様に砂がヴェールを作り上げる。
前衛機はまもなく接敵する。空も、交戦が近い。
前衛はノーヴィ・ロジーナbis【字】、シュテルン・G『空飛ぶ剣山号』、スフィーダ『ティル・ナ・ノーグ』、ミカガミ『ブルーゴッテス』、そしてパラディン『Risoluto』。
後衛はスカイスクレイパー【ストライダー】、破曉『黒焔凰』、リンクス改『アルテミス』、S−01HSC『Rote Empress』。
この九機で、精鋭の対応及び指揮機撃破の任務に臨む。
「所詮は仮初めの和平、こうなることは予測できていたとはいえ‥‥」
微かに眉を寄せるシャーリィ・アッシュ(
gb1884)。
「宣戦布告があって直ぐの戦闘行為。準備は早々に始めていた、ということでしょうか」
神棟星嵐(
gc1022)の言葉に、シャーリィも「そういうこと‥‥でしょうね」と頷く。
敵精鋭部隊であるタロスの配置は、前衛に濃紺三機、中衛に、紫、赤、紫という配置、そして後衛に黄二機。
「上にはプロトスクエア、青龍のヴィクトリアが青いタロスで来ていると言いますし、必然的に赤いのが陸での指揮官に思えますね」
しかし、そう言う星嵐とは別の視点を持つのはエリアノーラ・カーゾン(
ga9802)。
「指揮官機の特定かぁ。見たトコ、陣形と色からド真ん中の赤いのが怪しいけど――。向こうの大ボスが大ボスだから、それこそがブラフって線もある、か」
空で総指揮を執るプロトスクエア青龍のヴィクトリア、そしてその上に立つピエトロ・バリウス。単純な布陣ではない可能性が高い。
「‥‥ま、考えてるだけじゃ何も変わんないか。考えながら動いて、動きながら考えるしかなさそ」
エリアノーラは接敵の瞬間を待つ。
「指揮官型識別前は敵前衛の切り崩しと敵数漸減を主軸に行動、識別後は指揮官の孤立を図った後、他の抑えこみに移行します」
アルヴァイム(
ga5051)の作戦及び方針確認を受け、変わらぬ姿勢でのアンジェラ・D.S.(
gb3967)。
「コールサイン『Dame Angel』。地上侵攻してくる敵群を抑えきり、その中で指揮機を見出して速やかに撃墜を図り、空からの応援が来る前に撃退敢行してみせるわよ」
そう、空からの攻撃も有り得る。皆はそれについても頭の片隅におく。
「まぁ、やることは変わらねぇ。この場を守る‥‥その信念、貫こうじゃねぇか」
宗太郎が言うと、鳳 俊馬が「貫き、守り抜く」と呟いた。
空とほぼ同時に衝突は始まる。
前衛の濃紺機左翼に集中する攻撃、そこから指揮機の割り出しにかかる。
エリアノーラ機はショルダーキャノン。至近距離からだったが、多少の回避はされたものの微かに前のめりになる。そこにグングニルで穿ちにかかる。敵機は回避、急所を外す。
後方からはルノア機と鳳機の試作型「スラスターライフル」による牽制狙撃、さらにルノア機は常時起動させるブレス・ノウ。リンクス・スナイプを起動したアンジェラ機がGPSh−30mm重機関砲による弾幕を展開、その隙にルノア機はリロード。またその逆も。
やはり濃紺は回避及び反撃に転じる機動の全てが速い。速度を出すためなのか、ハルバードが他のタロスと比べて小さい。
「無駄な、動きが、少ない、ようです‥‥。ハルバードが、他の、タロスと、比べると、小さい‥‥です」
ルノアは宗太郎に告げる。
「まずは押し込んで足を止める‥‥!」
初撃の踏み込み、シャーリィ機は簡易ブーストで敵陣の右側面に回り込み、メテオ・ブースト。黄のタロスへと仕掛けていく。ヒートディフェンダーで抉りこめば、敵機はそれをハルバードで受け止めた。
固い防御、スタミナがありそうだ。
そういった状況をアルヴァイムや宗太郎が確実に見極めていく。同時に、軍管制への戦況確認及び把握にも努めていた。
空は作戦通りに進行、現在のところ大きな変化はない。陸は精鋭部隊以外はこちらに見向きもしないようだ。戦力の分散は滑らかで、空からヴィクトリアが見た上で何らかの指示を出しているようにも思える。
「黄は防御において、濃紺はスピードにおいて、その性能がずば抜けています」
僚機への通達、その時点で判明したことがひとつ。
「――黄と濃紺は、指揮機ではありません」
アルヴァイムの言葉に、皆は頷く。
「隊列だけで見れば一番怪しいのは赤い機体‥‥ただ気になるのは、黄の機体」
後方からの援護射撃を続けつつ、宗太郎。
「あれは、誰を守るように動いている?」
先ほどの行動からも、黄の防御性能は何かを守るためとしか思えない。
では、何を守ろうとしているのか。
赤を守るために動かない機体があれば、それも怪しいが――。
「或いは、逆」
アルヴァイムが呟く。
「――あぁ、なるほど」
宗太郎は頷く。
『赤がやや後退、紫が両翼に広がるようにして後退した』
空から、アレクサンドラ・リイ。濃紺機は反撃に転じている。
「指揮機は、黄のどちらかだ――!」
宗太郎が反射的に言う。
「だとすれば、シャーリィ機の攻撃を受けた黄は指揮機ではありませんね」
続けて、アルヴァイム。
「指揮機はアレか‥‥」
頷く、覚羅。全機、指揮機を目視で確認する。
倒れるわけにはいかない指揮機。ならば防御が固く後方に位置し、それでいて先ほどのシャーリィ機の攻撃に対して一切動かなかった機体がそれにあたるだろう。
つまり、左翼の黄――。
直後、赤が弾幕を展開、紫がプロトン砲と収束フェザー砲を発射した。
指揮機を守るためと思われるその砲撃は、僚機がいようとも構わないのか、濃紺機を掠めて抜けていく。KV達はそれを回避、そして受け止め、指揮機が左翼の黄であるという確信を得る。
この時点で既に、前衛と後衛の引き離しはできていた。突出している濃紺機、指揮機を守る配備についた残りのタロス。
「敵を誘い込むのに、先ずは牽制から行いましょう」
指揮機以外を誘い込むため、星嵐機が遠方より真スラスターライフルにて牽制狙撃、レーザーバルカンも交えて続けられる。
果たして誘いに乗ってくるだろうか――。
しかし、指揮機を護衛するという意思は固いのか、動こうとはしない。
「動いてこないのなら、指揮官を狙い撃ちするだけです!」
星嵐は照準を左翼の黄へと向けた。その刹那、乗ったのは赤。星嵐機へと突撃を開始した。すぐさま照準を外しブースト、赤を引き付けて指揮機から遠ざけていく。
真ツインブレイドで赤のハルバードを受け、その上を流し込むように突き、さらには突きと見せかけての逆袈裟。赤の意表を突き、意識を完全にこちらへと向けた。
それとほぼ並行するようにアルヴァイム機が他のタロスと指揮機を分断にかかる突撃。ブースト、そしてシールドアタック。後方からの援護狙撃の流れに乗り、左の紫へと。
紫、防御の隙さえ与えられず全身でアルヴァイム機の攻撃を受け、そのまま沈黙する。
「打たれ弱いようですね」
先ほどのプロトン砲は威力が高かった。攻撃力特化か。
残るは、二機。右の紫と黄。そこに脇から入るのは、俊馬機のワルキューレ。二機を直線上に入れたゲルヒルデが抜ける。
アルヴァイム機とシャーリィ機が俊馬機の背を守りに入り、戻ってきた濃紺機の一閃を受け止める。
指揮機へと迫る、宗太郎機、アンジェラ機、ルノア機。
それを阻止すべく入る、タロス達。
覚羅機が弾幕にてそれらの脚部や動力部などを集中攻撃、敵機の足を止めにかかる。
ルノア機がスラスターライフル及び機刀「セトナクト」を交えてのブーストによる突貫、開けた射線、そこに乗るアンジェラ機のフル弾幕。迎撃態勢に入っていた指揮機の行動を阻害する。
確保された進路、抜ける宗太郎機。そこの続くルノア機とアンジェラ機。
そこに追いすがるタロス達、しかしその横からエリアノーラ機。
「再生能力厄介だし、できれば攻撃は一カ所に集中させたいトコだけど。ま、再生したばっかの場所とか狙ってみるのも手かな。いっそ、狙い目かしらね」
口角を上げ、PRMシステム・改を起動、護衛の濃紺へと攻撃に練力100を使用したグングニル。
一度、二度、そして――三度。
初撃で抉られた腹、そこをすぐさま再生にかかる濃紺。そこに続けて二度、突き出されるグングニル。
再生と、集中。双方が交わった三連撃で、濃紺の腹に穴が開く。
「通すわけにはいかない。通りたいなら首を貰うっ!」
紫へと、シャーリィ。メテオ・ブーストによる速攻、この撃たれ弱い紫は速攻にも弱い。少しでも足を止め、妨害を。仕留められればなおいい。
それでも反撃に転じようとする紫、ハルバードではなく至近距離からの砲撃体勢に入る。
「撃てるものなら撃てばいい、絶対に通しはしない!」
その気迫に、一瞬だけ紫のパイロットが怯む。直後、シャーリィ機の死角から援護に入る黄。
「黒焔凰装甲展開‥‥リミット解除‥‥補助腕砲身固定‥‥立ち塞がる心算なら有象無象の区別なく全て撃ち砕かせてもらうよ?」
だが、覚羅機もすでにシャーリィ機の死角を補う援護に入っていた。
リミッターを解除した黒焔凰の全身を、黒い陽炎が纏う。翼を広げた漆黒の魔王とも言える破曉は、黄へとその力を薙ぎ入れるかのように焔刃「鳳」を振るう。
そして指揮機対応の三機が接敵するとほぼ同時に――。
――空で、異変が起きていた。
最初に気づいたのは、アルヴァイム。
見上げれば、黒煙を上げて高度を下げる青いアッシェンプッツェル。その周囲で起こる異変の中心に、銀色のタロスらしき存在。
それだけならば、ただ単に混戦のなかでリイ機が砲撃を受けただけに見えるが――しかし、タロスの動きがおかしい。
「混乱‥‥いえ、暴走しているようですね」
静かに見据えるアルヴァイム。空で荒れ狂うタロスは小さな混乱を生む。
生じた混乱は、空の精鋭部隊以外にも飛び火した。
急降下を開始する、HWの一部隊。銀色のタロスの行動を地上への砲撃と勘違いしたのか――。
その射程の先に最も近い位置には、星嵐機。
俊馬が気づき、空を仰ぎ見る。
直後、地上を射程に入れたHW達が一斉に――。
『‥‥俊馬!』
リイの声が響く。その意味を察した俊馬は、しかし察するより早く動いていた。
空での異変と並行して、指揮機との対峙は続く。
「ウイング展開、ブースト全開! 絶対に逃がさねぇ!」
宗太郎機はブースト、ルーネ・グングニルによる最大速力のランスチャージを仕掛けていく。
指揮機はもう一機の黄同様に防御面が強い。だがそれだけではなく、機動面においても秀でていた。攻撃力はそれほどではない。
アンジェラ機はテールアンカー・Aを起動、脚部への精密狙撃を開始する。微かな傷、しかし関節への衝撃が指揮機の反応をやや鈍らせる。
ルノア機は射撃で間合いを保ちながら、アグレッシヴ・ファングを乗せたルーネ・グングニル。繰り返されるその攻撃、指揮機は槍への警戒を高める――が、しかし予想に反して一閃されたセトナクトに苛立ちを見せ、ハルバードを大振りに薙ぐ。
爆撃が、地上を焼く。倒れていく陸戦部隊のKV達。
脱出するパイロット達。ただ、二機――パイロットが脱出できないままに爆散する存在があった。
俊馬機は星嵐機の盾になり砲撃を腹に受けていた。なおも続く砲撃、星嵐機はパラディンから降りた俊馬を抱え、ブーストでそこから距離を取った。
「大丈夫ですか‥‥っ」
俊馬に声をかける星嵐、続けて礼と謝罪の混ざり合った言葉を発しようとすれば俊馬が軽く手を振って遮った。
「無事で、よかった」
「‥‥はい」
小さく頷く星嵐、未だ空からの砲撃は続く。しかし――。
アルヴァイム機、覚羅機による対空砲撃が交差、HWを次々に撃墜していく。
指揮機は完全に押されていた。しかし、まだ息はある。
機関部やコクピット部分、関節や装甲の薄そうな部位に傷を負っている指揮機、徐々に回復しているとはいえ、完全回復はできないだろう。
傷ついた箇所へと吸い込まれていくのはアンジェラ機による狙撃、振り上げられたハルバードはルノア機のルーネ・グングニルがその穂先で強く弾き返していく。次いで背後に回り込み、飛行ユニットの破壊に。
肘が突き出されるが、それは盾で受け流す。弾き返された肘に、再度アンジェラ機からの一撃。
しかし、まだ生きている。あと少し、もう回復するだけの力はなさそうだ。
「まだ墜ちねぇか‥‥しゃあねぇ、切り札だ!」
爆槍をパージし、身軽になった宗太郎機はブーストを発動した。
その小柄な機体を活かし、低姿勢で懐に潜り込む。
「絆の居合い、『羅刹・風牙』!!」
そして練機刀「白桜舞」による居合い――。
指揮機の脚部へと一閃、そのまま流れるように返し、胴を。
大きくバランスを崩し、宗太郎機の刀に振り抜かれるように倒れていく指揮機。
対地攻撃をしていたHWが全て撃墜されると同時に、指揮機も――沈黙した。
指揮機撃破及び、想定外のHWによる対地攻撃によって、地上の精鋭部隊は完全に混乱していた。二度と動かなくなったタロスもある。
地上の指揮系統は崩れ去った。
「‥‥二機、完全沈黙。俺も、動けない。だが、地上は先ほど指揮機撃破に成功した。あとは、頼む」
俊馬は治療を受けながら、空に通信を送る。
そして――。
『ジークルーネ、全速――』
ジークルーネからの、猛攻のサイン。
空の指揮系統は完全に崩れたとは言い難い。しかし大きな混乱が生じている。地上は指揮機が撃破され、そちらの指揮系統は崩れ去った。
この隙を抜けていくとの決断が下されたのだ。
ヴィクトリアは残る精鋭部隊を引き連れて空で展開する傭兵達の射程から離脱、その機首と指揮をジークルーネへと向ける。
『――攻撃、開始』
全機にその声が響くと同時に、ジークルーネはその力を解放する。
次々に墜ちてゆくワームやキメラ、駆け抜けるジークルーネ。
『‥‥潮時、かしらね』
ヴィクトリアの、声。
『ジークルーネに華を持たせてあげましょ?』
そして引き潮のように、一斉に停戦ラインの向こうへと退却を始めるバグア軍。
地上には、ぼたぼたとキメラの死骸が落下する。ワーム類の残骸も。大半がキメラのようだが数は圧倒的であり、バグア軍が退却を終えるまでに総数の約半数はジークルーネによって撃墜された。
そして最後にヴィクトリアはころころと笑いつつ、しかし。
『‥‥やるじゃないの』
――そう、呟いた。