タイトル:【CO】朝焼けのEtumba マスター:佐伯ますみ

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/02/19 01:44

●オープニング本文


 闇はそこに横たわり、ただ静かに朝を待っていた。
 眠る人々はしかし、本当の意味での熟睡はできない。小さな物音に目を覚まし、時にはこのまま目覚めなければいいのにと思う者もいる。
 しかしその感覚すら封じ、ただ日々を生かされている者もいる。
 闇は、横たわる。
 またいつもと変わらない朝が来るのだと、誰もがどこか諦めさえ抱いて。
 闇は、朝を待つ。
 朝焼けが訪れることを知らずに。

 ――コンゴ・キンシャサより南東、アンゴラとの国境に近いカヘンバ。この街への大規模な空爆。
 現地時間の0600、それは決行される。
 元からの景観をいくらか残したこの街には、キンシャサ同様に労働を強いられている現地住民の姿がある。カヘンバのやや中央より北部に、彼等の居住地はあった。作戦決行に際し、彼等の救出及び退避が必要なのは言うまでもない。
 その救出作戦は空爆よりもやや早い時間より展開することになっていた。
 この作戦を決行すべく部隊が出発したのは午前三時――0300のことだった。そして空が白み始める前、軍の救出部隊は静かにカヘンバの街へと滑り込んでいく。
 0430、居住区に到達した部隊は眠る人々を起こし始める。
 彼等は、何が起こったのか理解できない。理解できない、が――本能で悟る。
 突如として現れた者達が自分たちと同じ「人間」であると。
 これまでも深夜に叩き起こされることはあった。それはこの街の工場や施設での労働のため。そして訪れる者は異星人に忠誠を誓った者達。身体のどこかを機械化さえして、その圧倒的な力を見せつけてくる。
 しかし、今ここに来た者達は違う。
 誰かがこの土地の言葉で言った。「助けに来た」「逃げるぞ!」と。自分たちはUPC軍人や傭兵なのだと。
 異星人がこの大陸を支配してからもうどれくらいになるのか、これまでそんなこと一度としてなかった。
 これより一時間半後、この街は空からの攻撃を受ける。その前に全ての人間を救出する。軍人はそう告げ、穏やかに手を差し出した。
 それでもまだ理解ができない。感情が追いついていかない。しかし本能的に人々はその手を取り、「外」へと出て行くために自ら扉を開ける。軍の用意した車輌に乗り込み、これまで過ごした「家」を振り返ることもない。ただひたすらに、ここに来た「人間」たちについていく。

 居住区周辺は少し見晴らしが良く、住居が集まるポイントは固まっている。そこに150〜200ほどの人々がいた。
 起こされた彼等は次々に車輌に乗り込み、どの家には何人いる、どの家には誰もいないという情報をくれる者さえいる。
 確実に、誰一人として残すことのないよう、部隊は居住区を駆けずり回った。
「作戦完了は0530を目標とする! 決して遅れるな、0600より空爆開始だ!」
 作戦を指示する隊長が静かに叫ぶ。隊員や傭兵たちは今が0440であることを確認。あと五十分。
 だが、この異変に気づかない敵ではなく、この居住エリアの周囲から強化人間やキメラ、ワームの類が集まってくる。強化人間やキメラたちは恐らくはサイボーグだろう。この暗闇の中、微かな灯りの下では確認もままならないが、立ちはだかる敵影を次々に薙ぎ倒していく必要があった。
 人々を乗せた車輌の列を守るように展開する能力者軍人や傭兵、そして隠密行動の妨げにならないように、ほんの少しだけ遅れて現場入りしていたKVたち。
「殿は俺たちが務める」
 そう告げ、パラディンが最後方へと躍り出る。仁王立ちになり、迫る敵影へと機剣を薙ぎ入れていく。
 未だ全ての人々が車輌に乗り込んだわけではない。だが定員に達した車輌はスタートを切り、止まっている時間はどこにもない。人々に敵の手が及ばぬよう、輸送車両が駆け抜けることができるよう、誰もが必死に護り抜こうと立ち回る。
「退避ルートはこのまま街を北上、仮に0530での作戦終了ができず空爆時間に間に合わない場合は、北西へと抜けるルートを取る。そのエリアのみ、一次爆撃では空爆のない空白エリアとして設定されている」
 隊長の声がコクピットに響く。パイロット――鳳 俊馬は頷き、ガトリング砲でキメラたちを一掃、次の照準をゴーレムへと向ける。
「北西部への方向転換は0545、もたつけばそのエリアにつく前に空爆が開始となる。いいか、0545は最終リミットだと覚えておけ。0600に北西部にたどり着けなかった場合は――」
 隊長はそこで口を噤む。それ以上の言葉はない。あってはならない。
「――護り抜く」
 俊馬は口癖のようなそれを吐き、愛機Risolutoや共に殿を務める者達とひたすらに戦い続けていく。
 そして、時刻を確認した。
 ――0450。

●参加者一覧

潮彩 ろまん(ga3425
14歳・♀・GP
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
キア・ブロッサム(gb1240
20歳・♀・PN
杠葉 凛生(gb6638
50歳・♂・JG
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
ラナ・ヴェクサー(gc1748
19歳・♀・PN
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA
立花 零次(gc6227
20歳・♂・AA

●リプレイ本文

 明確な合図があったわけではないが、その衝突は突然に始まる。
 進行を妨げるように迫る敵影、響く轟音。
「決して踏まないように願います‥‥」
 ラナ・ヴェクサー(gc1748)は接敵前にKV隊へと連絡した。
 テレスコピックサイトで遠方の敵も視認。事前に報告書で、サイボーグ化した敵の強さ等については記憶している。だが、同行する者達には見知った顔も多く、彼等の戦闘能力には信頼を置いている。きっと大丈夫だ。
「ここは通しませんよ」
 敵が射程に入ると同時に、立花 零次(gc6227)が弾頭矢を放つ。敵陣は一瞬だけ足並みを乱した。
 ラナが小銃「DF−700」で迎撃、その洗礼を浴びせつつも弾幕を潜った敵への近接戦へと移行。キア・ブロッサム(gb1240)も拳銃「バラキエル」にて銃撃を開始、寄られる前の撃破を目指す。
 零次も前衛が近接戦闘に入ったのを確認し、右手を名刀「国士無双」に、左手を超機械「扇嵐」に持ち替えて車輌に近づこうとするものから仕留めにいく。
「間に合わなきゃ、加速していいよ! 飛び乗るし、皆でさ!」
 夢守 ルキア(gb9436)はSMGの角度を変えつつ連射で対処をしながら、輸送車両最後尾と最前列の運転手に無線を渡した。
「不安なトキ、連絡できるでしょ?」
 照明は借りた。地理も記憶し、時間の把握もした。あとはひたすら進むのみだ。
 輸送車両には、住民達が乗り込んでいく。それを見た杠葉 凛生(gb6638)は得も言われぬ感覚に襲われる。
 空爆――。
 暗黒大陸になる以前の面影は殆ど残っていないとしても。
 漸く‥‥今更やって来て、故郷を爆撃し焦土に変える‥‥それに対して、苦い想いを抱く者もいるだろう。
「――どの面さげて、助けに来たと云えるだろうか」
 吐き捨てるように、言う。
 だが、アフリカの民や動物が実験の素材にされ、同胞を手に掛ける――それだけは、阻止する。
「必ず――」
 ふいに、ひとりの男と視線が絡んだ。
 凛生の逸るような想いが伝わっただろうか。彼は強く頷き、しっかりした足取りで車輌に乗り込んでいく。
 その背を目に焼き付け、凛生は拳銃「ケルベロス」を握る。

「メリーさんの目からは、逃れられないんだよ‥‥でも、やっぱり画面の数字が多い」
 ぷしゅぅとショート音を脳天から出すのは、ピュアホワイトXmas『メリーさん』の潮彩 ろまん(ga3425)。
「ちっちゃいうじゃうじゃした敵と、おっきいのがこっちから‥‥みんな、気をつけて」
 愛機の得た敵機情報を確実に伝達していく。
「タロスにゴーレム、それに機械化されたキメラと強化人間ですか。ふむ。さながら送り狼、と言ったところですかな」
 応じるのはディアブロの飯島 修司(ga7951)。機盾「ウル」でタロスのハルバードを受け止め、そして機槍「ロンゴミニアト」を脇腹へと突き立てていく。
「いくら此方に綺麗どころが多いとは言え、あまり感心しませんな。とはいえ、折角のお見送りです。『悪魔』らしく、死と破壊を振り撒くことで返礼とさせて戴きましょうか」
 突き立てた機槍を無理矢理に引き抜き、眼前のタロスを沈黙へと誘う。
「そうですわね。人類を支配できると思い上がった輩を退治してあげます」
 ミリハナク(gc4008)が艶然とする。回復しないよう、先ほどのタロスを竜牙弐型『ぎゃおちゃん』のオフェンス・アクセラレータを発動して「喰らった」あと、ゴーレムへと高分子レーザー砲「ラバグルート」の咆哮。
 味方への誤射のないように、地上三メートル以内は狙わない水平射撃を心掛ける。
「鳳君は防御専念をお願いしますわ。車輌や生身班に攻撃が当たらないように、盾と壁になって」
「了解」
 鳳 俊馬のパラディンからの応答を確認してから、ミリハナクは言う。
「別にすべて倒してしまっても構わないのでしょ?」
 ぎゃおちゃんは一歩前に出て、ゴーレムが放つ砲撃を機盾「ウル」で防御する。そしてまた咆哮――。
「まだまだこれからが本番ですわ」
 次へと照準を向け、前に出る修司機の援護射撃を開始した。

 KV達の攻撃をくぐり抜けるキメラは多く、わずかな隙間を見つけて車輌に取り付こうとする。
「見知った顔の多いこと‥‥」
 狙撃を続けながら、キアは共に殿を務める者達の顔を見る。
「辛気臭いのも‥‥いる、かな」
 それは、凛生。探査の眼を用いた眼差しは闇へと向けられていた。
 彼の弾道は揺るぎない。だが、ここに居ながら心が居ないような、そんな雰囲気があった。
 彼の実力を疑う気はないが、気に掛からないと言えば嘘になる。
 全く解らなければ不要な者と切り捨てるだけ。だが、薄らと想像の範疇に欠けた物が浮かぶが故に気に掛かり、苛立ちを覚える。
「御隣が寂しく身が入らないのでしたら‥‥遊んで差し上げても?」
 作る、微笑。混ぜた毒は、果たして彼に刺さるのか。
「なんだ、構って欲しいのか‥‥? まあ、有り難いお申し出だが‥‥何か思い違いでもしてるようだな」
 凛生はしらを切る。毒に気付いていないわけではない。
 心にあるのは、余りにも強く大きな存在感。ふと隣に視線を流すが、見上げる存在はそこにはいない。
「大人の強がり程‥‥無様な物も無いのですけれど、ね」
 キアは聞こえるように独り言を言う。
 大切な絆を持つ者への嫉妬――それをぶつけるかの如くに。
 苛立ちは残る。しくしくと、燻る。
 その様子に、凛生は笑む。それは自分でも気付かないくらいに微かなもの。
「強がり‥‥そう見えるか。違うな‥‥臆病なだけだ。お前さんの言う通り無様なものさ」
 突然に心情を吐露した凛生に、キアが怪訝そうな顔をする。凛生はそれ以上何も言わずに、蠢くキメラ達への制圧射撃を開始した。
 もうキアも何も言ってこない。無言で戦闘を続けている。
 先ほど凛生に対して表した苛立ちに、他人に無関心だった彼女の変化を見た。
 ならば――はぐらかさずに向き合おう。そう思っての、吐露だった。
 キアも変化を恐れ、もがいているのだろうか。
「――キア『も』、か」
 それは決して聞こえない呟き。キアが聞いたらどう思うことだろう。
 苛立ちを隠せないキアに、ラナが言葉を投げる。
「‥‥落ち着きなさいな。仕事でしょう‥‥?」
 普段と違うキアの様子には、居心地の悪さを覚える。
 この感覚はなんだ。キアとは腐れ縁のような関係で、不思議な安心感があったというのに。
 ラナは思考しながらイオフィエルを薙ぎ、そして瞬天速でキメラの側面へと強襲を。そこに混在した銃撃を受けてキメラは斃れてゆく。
 苛立つ心を見透かされ、キアは答えを暫し探した。
 そして、搾り出すように、否定を。
「‥‥的外れな詮索‥‥している暇が有らば‥‥仕事に集中して欲しい物です、ね」
 ラナに弱みは見せたくはない。彼女との縁を感じるが故に――余計に。
 ――臆病なだけだ。
 先ほどの、凛生の言葉が蘇る。重く、心の底にずしりと残る。
 ラナは吐息を漏らした。キアが不満なのが嫌なのだろうか。まだ、なにかが渦巻く。しかし、この空気は変えたい。
「溜まってるなら、飲みながら聞きますよ? ‥‥仕事の後に、ね」
「‥‥仕事の後に、ね」
 ラナの言葉を繰り返すように、キア。ほんの少し、軽くなる。
「背中、お任せしますね」
 零次が凛生やキアに言いつつ、前方に集中してキメラの生体部分へと流し斬りを入れていく。零次は同小隊の彼等に、背を預けられるほどの信頼を寄せていた。
「――でも、間違って撃たないでくださいよ?」
 背後へと冗談を言う。――と、ふたりは躊躇うことなく同時に返してきた。
「狙いが逸れたら許せよ‥‥治療費は軍部に請求しといてくれ」
「‥‥撃つ時は狙ってやりますから‥‥」
 笑えない冗談、しかし零次は笑う。
「冗談です。信頼してますから」
 そのやりとり、零次の軽口に、凛生の未だ逸る心は余裕を生み出していく。
 知ってか知らずか――。
 そして零次はまた、冗談を。
「どうしました? 戦闘中に見つめてくるなんて。俺の顔がそんなに気になりますか?」
「――いや」
 一呼吸つく間をくれた彼に感謝を抱きつつ、口には出さない。恐らくは伝わっているだろう。彼とは一度じっくり語り合うのもいいかもしれない。
 それに応じるように、微かに振り返って笑む零次。
 そのとき、激しくなるキメラの波に乗って強化人間が射程に入り込む。
「では一気にいきますか。タイミングはお任せします」
 零次が国士無双の柄を握り直す。
 それまで零次と一足の距離を保っていたキアが前進する。強化人間を射程に入れるために――。
 ラナは敵の機械部を常に注視。おかしな行動があればすぐに回避できるように。今のところそんな様子はなく、毒や自爆の気配もない。
 キアは制圧射撃で周囲のキメラ達の脚を一瞬だけ止める。零次、ラナが一気に間合いを詰め、強化人間に挟撃を仕掛けた。
 脇へと薙ぎ入れられる零次の流し斬り、その一方でラナのイオフィエルが舞い続ける。刃を振るう敵、それをスウェーで回避し、カウンターを仕掛けるラナ。その隙に――国士無双が光源の光を反射する。
 顔面へと、容赦のない刺突に敵は頭部をやられ、思いのほか早く動きを止めた。
 続こうとする強化人間はそこで一旦退避し、様子を窺い始める。
 その頃、退避は最後の区画に突入した。ここの住民で最後だ。フォローすべく、ルキアが駆けつける。
 目安として、負傷者、子供・老人、女性、男性の順、そして家族単位で大まかに振り分け、乗車指示を出していく。
「傭兵のルキア。避難誘導をスムーズに進めるタメ。指示に従って欲しい」
 ルキアは不安げな彼等に笑みを向けた。
「だいじょーぶ。何故って? 私、ルキアが言うからさ!」
 どんな旗色でも、絶対に明るさを失ったりはしない。それがルキアの強さ。
「だって、状況を変えるのが私達だもん」
 強い笑顔に住民達はどこか納得したようで、指示に従い始める。
「避難する住民さんを、悪い宇宙人達から護りきる!」
 立ちはだかる、ろまん機。
「これ以上、この街の人達を悪い宇宙人の好きにはさせないもん! 人々を戦いに巻き込まないように守れって、この間お家に帰った時、爺ちゃんも言ってたから」
 ロータス・クイーンで敵の位置を把握、ゴーレムへとレーザー砲「凍風」を。
「メリーさん、水色光線発射!」
 走り抜ける「水色光線」、その一瞬の隙を突き別方向からもゴーレム。ろまんはハンマーボールを取りだし――。
「悪い子達に、メリーさんからプレゼントだよ‥‥くらえっ、ハンマーボール剣玉殺法!」
 必殺の一撃を、ぶち込んだ。
 遠方から見ていたタロスが接近を開始し、修司機との間合いを詰めてくる。
「ご指名ですか、光栄ですね」
 修司が笑う。キメラ達がタロスの勢いに乗るように絡みつく。それを排除にかかるのはミリハナク機。
「私のぎゃおちゃんは凶暴ですわ」
 エナジーウィングでコーティングした脚で次々に踏みつぶしていく。修司機はツングースカで牽制したのち、タロスに集中する。
 仕掛けられるのはインファイト、「懐」に入り込んで腕を薙ぐタロス。修司機はハイ・ディフェンダーでカウンター、右肩を損傷したタロスはその間合いから飛び退る。
「来ないのですか? そちらから仕掛けてきたというのに」
 修司は言いながら、タロスの損傷部に機槍をぶちこんでいく。再生はさせない。攻撃を重ね、再生する暇も、反撃する隙すら与えないままに――破壊する。
 タロスのパイロットは、恐怖を感じる。しかしもう逃げられない。修司機は間合いに入り込み、槍の先を軽く喉元に押しつける。
「返礼といきましょう、『悪魔』らしく」
 別れの言葉だろうか、修司はそう告げて愛機の力を槍先にぐっと乗せた。

 凛生がキメラの死骸を次々にバリケード代わりに流用し、徐々に終わりが近づいていることを予感しながら、ふと眉を寄せた。
 足下に違和感――嫌な予感がする。
 探査の眼で改めて周囲を確認、警戒する。
 上空や光源の範囲外から闇に紛れての奇襲、物影などに潜む小型のものや保護色の個体、それから――。
 視界の奥、闇の中で地面が微かに揺れた。
「‥‥まさか」
 地中を行くキメラ、それも元から警戒してはいたが、これは――大きい。そして、数も多そうだ。
「地中から来るぞ!」
 叫ぶ、凛生。
 全員――KVも含めて、一斉に身構える。ぐねぐねと波打つ地表、そして。
 地中から一気に顔を出したのは、身の丈数メートルはあろうかという蜈蚣型キメラ――。
 足下から顎で突き上げられ、皆は傷を負って倒れていく。しかし凛生の注意喚起があったために急所は回避でき、車輌も無事だ。
 修司機が、ミリハナク機が、ろまん機が、俊馬機が、生身の者達から離れている蜈蚣へと攻撃を開始する。その爆音と爆風に、群がっていた蜈蚣達は一瞬怯んだ。
「弱体かけたよ、叩いてみて」
 ルキアが蜈蚣達に練成弱体をかけ、支援する。そして皆の治療へ。零次も治療に手を回したのち、戦闘に戻る。
 すぐさま凛生のケルベロスが、機械で出来ている節々の継ぎ目へと弾を吐く。さらには側面から零次の渾身の流し斬り、最後は頭部を潰していく。
 ラナは迫ろうとする蜈蚣達に言い放つ。
「私の身体に、貴方なんか触らせません‥‥よ」
 発動するのは、高速機動と残像斬。蜈蚣がその顎を突き出してくる。それを見極めて躱しきり――イオフィエルを開かれた口の奥へと突き刺した。
 次いでキアへと掛けより、彼女の背後に迫るそれへと攻撃を。振り返ったキア、蜈蚣の喉元へと弾丸をぶち込んだ。
 蠢く蜈蚣は次々に斃れ、部隊は予定時刻通りに退避を完了しようとしていた。
 ルキアはキャンディを皆に配る。精神的な疲弊を少しでも和らげるべく。
「甘いものは、脳を活性化する。さ、もう一息さ!」
 そのキャンディの甘さに、皆は微かに疲労から解放される。
「増援、だよっ!」
 ふいにろまんが告げた。増援のゴーレム部隊、数はそれほど多くない。
「逃げ遅れはいませんわね? 味方も、住民の皆さんも」
 ミリハナクがざっと確認し、そしてM−181大型榴弾砲。
 増援部隊の追尾を振り切るべく、そして指揮系統を混乱させるべく、その密集しているポイントや進路を狙っていく。
 その隙に、駆け抜ける輸送車両やKV、生身の者達は車輌に飛び乗っての退避。
「皆で無事に帰りますわ」
 ミリハナクは増援部隊の足が止まったのを確認し、ブースト。最後に、ラバグルードの咆哮を。
 そして0530、全退避完了――。0600、空爆が始まる。

 カヘンバから離れゆく救出部隊。
 空を駆け、カヘンバへと吸い込まれていく、空爆部隊。
 住民達はそれをじっと見つめた。そこにはあらゆる想いが渦巻いているはず。
 やがて、ひとりの男が呟いた。
「やっと未来が見えるようになった。いつか、必ず――帰ってくる」
 彼等の、言葉で。
 そこに万感の思いと、殿を守り抜いてくれた者達への感謝を込めて――。