●リプレイ本文
ジークルーネ、その周囲のKV達。
群がるキメラやワーム、空から落ちてくる、タロス達。
「えーと、何か凄い状況だけどとりあえず直衛で頑張る」
ピュアホワイトの弓亜 石榴(
ga0468)は、そのためにもとアレクサンドラ・リイに言う。
「この戦いが終わったら、お願いをひとつ聞いて欲しいんだ‥‥」
「‥‥私にできることであれば」
「ありがとう、約束だよ!」
石榴は念を押す。
つまりそれは、ここで死んではいけないということ。リイはそれに気づき、約束は破れないなと呟く。
「そうですよ」
それは、アンジェリカ『俺の嫁』に搭乗する森里・氷雨(
ga8490)。
「貴女も彼女も、今は死ねない。殺せない。戦況だけが理由じゃない筈です」
寡兵と無手を悟られた方が負ける。個人的な些事に拘る者が大機を逸する。それは死に急ぐリイにも言えることだ。
その言葉にリイも「そうだな」と呟き、氷雨の言葉を反芻する。
「アフリカはあんまり関わり無いんですけど‥‥大事な局面みたいですし、頑張りますね。恋する乙女の底力を見せてあげるのです」
続いて言うのは、コロナの御坂 美緒(
ga0466)。
「そしてジークルーネには指一本だって触れさせないのです」
強く決意する美緒。リイを孤立させないようにも、できる限り近くで行動するつもりだ。
「ジークルーネをここで失うわけにはいきませんからね。僕も頑張りますよ」
リヴァティーの佐渡川 歩(
gb4026)は、特攻を待つ間、ショルダーキャノンでCWを攻撃していく。
「それから、アレクサンドラさんも、死んでもとか言っちゃ駄目です! 艦長も誰も死ぬなと言ってるじゃないですか」
「う、うん」
歩からのストレートな言葉に、思わず頷いてしまうリイ。
「うん、って言いましたね! ちゃんと聞きましたからね!」
歩はびしりと言い放つ。それに――。
(僕の好み的にも気の強いお姉さん二人をこんなところで失うわけには! 嗚呼、罵られたり殴られて「ありがとうございました!」とお礼を言いたい‥‥)
恍惚とした表情で、リイやウルシ・サンズの顔を思い浮かべた。
夢守 ルキア(
gb9436)もリイの様子を気に掛ける。
今回はいつものように幸運のメダルは渡せない。だからせめて、とメダルを握りしめ、GooDLuckでリイの無事を願う。
「聞こえるか、ルキア」
ふいに、リイからの通信。
「うん、聞こえるよ?」
ルキアが返した直後、リイ機が真横に躍り出た。そしてギリギリの距離まで接近すると、すぐに上昇していく。いつものオマジナイの代わりらしい。
「無茶するなぁ」
ルキアは笑う。だが、これならリイは大丈夫そうだ。
そして骸龍『イクシオン』の強化特殊電子波長装置γとアルゴスシステムを起動、皆とのデータリンクと敵精鋭機のマッピングを開始する。
「敵の攻撃方法と動きを逐一味方に伝えれば、私達だけじゃなく周囲の軍の人達も動き易いようになるし、結果的に協力して貰う形にできるよね」
ロータスクイーンを起動し、石榴が言う。とにかく味方の損耗を少なくしなければならないのだ。
「うん、出来るはず」
力強く答えるルキア。
――長期戦は不利。敵の分厚い包囲網を破壊か回避して、一気に討つ。
「聞いて、軍の皆。傭兵の一部から、上空の精鋭へ向かう。その上昇の援護を。私はジークルーネ付近で、対空砲を使用し援護する」
それは漸 王零(
ga2930)のヴァダーナフ『ダーナヴァサムラータ』、ソーニャ(
gb5824)のロビン『エルシアン』、そして立花 零次(
gc6227)のタマモ『荼枳尼』だ。
彼等は戦域外を目指し、そこから高空のヴィクトリアへと仕掛けていく。
ルキアはピアッシングキャノンを空へと放ち、三機を追おうとするHWを穿った。
「青天‥‥ねぇ‥‥。アレだけ邪魔がいたら曇天だな」
王零は展開する敵勢に苦笑する。空など、見えないに等しい。
こうなると、特攻というよりは電撃戦かもしれない。
「なら‥‥こちらもそう行かせてもらいますか」
そして王零は、まだ見えぬ青天へと言葉を投げる。
「アフリカというと背の高いあの人を思い出しますね」
王零機、ソーニャ機に追従する零次は、脳裏に浮かんだ姿に笑む。
「どちらがより多くの足を絡め取ることが出来るか‥‥勝負、ですね」
ヴィクトリア湖を背に、もうじきモザンビークというところで敵の目的はこちらの足止め、そしてそれはこちらも同じだ。
三機に電子戦機からもたらされる情報は、精鋭機が八機いるであろうということ。
そして、戦域外へ向かう三機を、HWが追っているということ。
それらに対して零次機がガトリングで牽制程度に応戦しつつブーストで一気に駆け抜け、青天を目指す。ほぼ同時に、精鋭機に対する迎撃が後方で開始された。
やがて戦域外に抜けると三機は上昇、そして――。
「――見つけた、ヴィクトリア」
ソーニャが彼方に見えるそれを確認し、口角を上げた。
美緒は電子戦機からの情報と目視により、キメラの動向に意識を向けていた。
同様にして、歩も。ジャミング中和エリアに滞空し、予兆を探る。維持されるブレス・ノウが、予測の精度を上げる。
キメラ達がじわじわと渦を巻くように移動を開始した。
「来ました! 機数3、迎撃お願いします!! 囮や別班が来る可能性もあります、お気を付けて!」
歩が告げると、割れた空から落下するタロス達。
直近の一機に氷雨機のG放電が妨害に入る。直後、横っ面へと美緒機のレーザーガン、交差するように氷雨機のレーザー砲。
「ターゲット捕捉‥‥それじゃぁ、ダーナヴァサムラータ。妨害に入らせてもらう」
その声は、ヴィクトリアへと向けて高空を駆けている王零機からだ。
そして降り注ぐ管狐。思いがけない雨に打たれた一機は、黒煙を吐き散らす。
残る一機へと、歩機がアグレッシブ・ファングによるG放電、リイ機が狙撃を開始。滞空する敵機、歩はミサイルによる攻撃に転じる。
「練力やG放電、ミサイルの弾数には限りがありますし、それが尽きる前にモザンビークに入れるといいのですが‥‥」
歩の背中を、冷たい汗が流れていく。
上空では、青のティターン『ブルースカイ』が佇んでいた。
「まさか戦域外から来るなんて。面白いなぁ、あなた達」
戦域外から現れた三機に、ヴィクトリアは楽しそうだ。
――美しいアフリカの空に溶け込むかのような、青の機体。
彼女は今、どんな想いでここにいるのか。
「私には与り知らぬことですが、そろそろこの空は返していただきませんと、ね」
零次が、笑む。
「それじゃぁ、青天でダンスといこうじゃないか‥‥生き残りの青龍」
王零の言葉に、ヴィクトリアは少しムッとする。
「私、ダンス苦手なの。足を踏むわよ?」
そのとき、状況を察した精鋭機達が、特攻の合間にヴィクトリア護衛を開始する。
二機、特攻態勢に入る。その兆候を見た零次、地上への警告を発すると共に、キメラが晴れた瞬間にミサイルポッドを投下、勢いとタイミングを狂わせる。
「この大地への、本当の意味での帰還を望む人のためにも、ここで墜とさせるわけにはいきません」
静かに、言い放つ。
青天の前に出て、三機が間合いを詰めてくる。
「汝らもダンスしたいのか?」
王零は敵機から発射されたミサイル群へと荒狂嵐による抱擁を。弾幕が、攻撃を相殺していく。
「やぁヴィクトリア。ボクのこと覚えてる? 君はまだ人の毒に狂っていないのかな?」
動かないヴィクトリアへと、ソーニャが語りかける。
「覚えてるわ、『エルシアン』。でも残念ながら、私は狂ってないの」
「そう。‥‥ゲルト、ラファエル、メタ。人間的な、感情的な最後だったようだね。君はどうかな。もういない者に焦がれ、死した者の遺志を想い、奪った者を憎み、黒い衝動に身を任せたくはないかい? ――感情に任せて狂いたいとは思わないかい?」
口先三寸、戯言使いの時間稼ぎ――。どこまで本気なのか、そんなことは知らない。語りながらも、ソーニャは愛機で舞い続ける。
アリスシステムを常時起動、そしてマイクロブースターとブーストを起動、一気に突っ込んでいく。ミサイルポッドの弾幕が、タロス達を攪乱する。離脱し、特攻に転じる機体にはレーザーライフルを。ランスの一部を欠いたそれは、滞空してプロトン砲にてソーニャを狙う。
螺旋を描く、エルシアン。その中心を抜けるプロトン砲は空に消える。
すれ違うように抜けるのは、零次機のFETマニューバAを乗せたミサイル群。それによって動きを止めた敵機へと、今度はガトリング。狙うは、やはりランス。
完全にランスを破壊された機体は、後方に引いて青天の盾となる位置へと。
「でも、狂えないんだなぁ。黒い衝動のままに全部引き裂いてみたいけど」
と、ヴィクトリア。
「それはバグア的じゃないよね。人という甘美な毒。バグアは人のヨリシロを得たときから滅びに向かうのかもしれないね――、と、意地悪な言い方だったね。ボクのほうが化け物みたいじゃないか。ボクより人間らしい君への嫉妬かな」
「嫉妬? 上等じゃないの」
くつくつと笑うヴィクトリア。
その様子に、ソーニャは眉を寄せる。感情的に狙ってくるなら、それを利用するつもりだった。しかしヴィクトリアは感情を抑え、激昂しそうにない。
下では、特攻への迎撃が続いていた。
ジークルーネ直衛の管制を続けていたルキアは、執拗な特攻に策を練る。
(敵の特攻のやり方は判明している。一度、耐えしのぎ、味方と切り離すか)
軍のピュアホワイトは精鋭機の弱体化に入った。その穴に、イクシオンが滑り込む。
精鋭機をフォローすべく、HWとキメラが集まってきた。
「ね、一気に上空へ穴を開けれる? そこを、上昇して叩く」
直近のペインブラッドは、すぐにフォトニック・クラスターで穴を開けにかかる。同時に、カメラを所持する軍機から情報が入る。槍先を下方に向け、再度ランスチャージに移行する敵機。
「リィ君、ツヴェルフウァロイテンで防衛した後、一気に精鋭を包囲して貰えるように出来るかな?」
ルキアは上昇し、8式螺旋弾頭ミサイルを発射。槍先に命中したそれは特攻の軌道を僅かに逸らす。
「了解」
短い返答のあと、逸れた軌道を受け止めるリイ機。背を掠めた衝撃に耐え、ファランクス・ソウル。槍と片脚を失った敵機は、その場を放棄して空に戻る。
警戒を続ける石榴は、めまぐるしく動く空を追い続ける。ヴィクトリアのプロトン砲はまだ来る気配がない。
「次は北西300メートル、氷雨機の頭上、続いてジークルーネ直上」
直上の敵機の軌道を変えるべく、クロスマシンガン。狙いが逸れた敵機は早々に空へと戻ろうとするが、美緒機によるバルカンが頭を狙う。
しかしそれでも敵機は上昇していく。そして途中で停止、また降下を――。
「止まらない勢い? こうなったら」
石榴は、敵機の眼前に煙幕をぶちまけて怯ませると、そこに再度マシンガンを。今度こそ敵機は高空へと戻っていく。
氷雨機、頭上の敵機へと、リイ機と共に十字砲火。すると、敵機は照準を氷雨に合わせてきた。氷雨はラージフレアを展開。敵機はそれでも強引に槍先を向ける。
氷雨機、SESエンハンサーを発動。ドゥオーモの放電が敵機を包む。直後、タロスのための陣形を取るキメラやHWへと軍機による一斉砲火が開始された。
一気に壁となる存在が減っていく。タロス達の「戸惑い」も大きくなる。
「しかし‥‥」
と、氷雨が漏らす。先ほどから空の様子も窺っているが、ヴィクトリアの「ガード」は固い。
「‥‥簡単に情報を漏らすほど馬鹿ではないということですかね」
ソーニャの言葉に乗って激昂すればバリウスの情報も出てきたと思われるが、その様子は見られない。
ちらりとリイを見る。彼女はもう死に急いでいる様子はない。最初に告げた言葉は、簡単な諫めの言葉だった。それが彼女の心に届いていたのは間違いないだろう。
「あと少しで、モザンビークですね」
氷雨は皆に告げた。戦闘の終わりが、見える。
そして、歩が――最後の追撃をかわすべく、ジークルーネの後方で煙幕を展開した。
「もうちょっとでモザンビーク、かぁ。その前に‥‥なんとしても、穴、開けたいわね」
ヴィクトリアが声のトーンを落とす。反応するタロス達。だがヴィクトリアはそれを制止する。単機で立ち回るつもりのようだ。
狙われたのは、ソーニャ。
最高速で接近を仕掛け、ゼロ距離からの砲撃に転じる青天。
砲撃が放たれる直前、ラージフレア散布、二種のブースト、ブーストターン。ひたすらに、ひたすらに、エルシアンの速さをもってそこから抜ける。
青天、向きを変え、次いで零次。
プロトン砲ではなく、ミサイル。簡易ブーストで回避、しかし追尾してくる。
超伝導RAを起動、振り切ったところでFETマニューバAとミサイル、そしてガトリング。青天、回避。その際に生じた「隙」を利用して、地上へとプロトン砲を――。
――が、王零機からの試作スラライによる狙撃が脇を流れ、タイミングを逃す。
それは低空から行動を読んでの、空戦マニューバ。そして完全な死角からの狙撃だった。続けざまに襲いかかる、KA−01試作型エネルギー集積砲――。
ランスを破壊され、軽く舌打ちするヴィクトリア。そしてようやく視界に入るダーナヴァサムラータ。
「そんなにダンスが苦手か? 何ならリードしてやってもいいが」
王零は次の行動を待つ。だが、ヴィクトリアは溜息をついた。
「‥‥ええ、苦手。ほんっとうに苦手!」
足止めという行動は苦手だ。撃墜を目的とした行動のほうが、個人的には対処しやすい。
「でも、あなた達、面白かったわ。こんなことなら精鋭押しのけて、ちょっと頑張って踊ればよかったかなぁ。でももう遅いわね。ジークルーネがたった今、モザンビークに入ったみたい。もったいないけど‥‥私も目的は果たしたし、負けを認めて潔く退く」
直後、バグア軍は上昇を開始する。そして巨大な渦をジークルーネの上空に展開したかと思うと、それぞれに散っていく。
「‥‥ねぇ、リィ。ヴィクトリアはもう本当のヴィクトリアじゃないけど、もう人間じゃないけど、きっと最後は人間の心で死ぬよ。それって‥‥そう悪いことじゃないかもね」
ソーニャは下方にいるリイに告げる。
「なら、いつどこで妹が果てようと、安心だ。私も生き抜いてみせるよ。妹がやらかしたことの尻ぬぐいをしないと」
リイの返答に、ソーニャは小さく頷く。
「そう、生き抜いてくれないと! お願い、聞いてもらわなきゃいけないから」
やや興奮気味に言うのは、石榴。
「ん、そうだな」
お願いとは一体なんだろうかと、リイは首を傾げる。石榴がにんまりと笑むが、しかしリイからは見えなかった。
やがてジークルーネに、ようやく陽光が差し込む。
それを確認してから、ヴィクトリアとその精鋭部隊は彼方へと消えていった。