●リプレイ本文
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「公園にスライム、それも橋の上を占拠中ですか。居座られても困りますし、早めに退治しないと。それにしても、何で橋の上がお気に入りなんでしょうか‥‥」
橋の上を占拠する三体のスライムを遠巻きに眺めながら、リゼット・ランドルフ(
ga5171)は溜息をついた。公園の見取図で、橋の周辺の状況を確認する。ここから見える橋の状況と照らし合わせ、どこに何があるのか、確実に頭に入れていく。
橋の手前に広場があり、右手に休憩スペースがある。池の中央にある休憩スペースも同じような作りだ。それから、ゴミ箱、水飲み場がその付近にある。あそこに逃げ込まれる可能性があることを周知徹底する。
「スライム‥‥ネチャネチャでぐちょぐちょなのかな‥‥ぷにぷになのか‥‥どちらにしろ、公園の橋の真ん中にいたら邪魔だなー。何もしないならいいんだろうけど‥‥何かあってからじゃあ遅いからなんとかしなきゃだな」
火茄神・渉(
ga8569)はスライムが体を震わせる度に「わはー」と歓声に近い声をあげながら、うんうんと頷いた。どこか好奇心溢れる眼差しをスライムに向ける。
「うっし、仕事仕事! サイキョーのグラップラーになるために、スライムぶっ飛ばしに行くぜ!」
グラップラーとしての道を歩み始めてまだ日の浅い屋井 慎吾(
gb3460)は、自身に気合いを入れる。最強となるために突き進む決意が、全身から溢れ出ていた。
「つーか、なんで公園なんだろうな?」
自分も公園は好きだが、スライムが公園好きなど聞いたことがない。慎吾は首を傾げた。
「キメラも日向ぼっこがしたいらしいのです」
ハルトマン(
ga6603)が池の貸しボートに乗り込みながらぽつりと呟いた。
「ははぁー、スライムも日向ぼっこをするんですね。とりあえず町の皆様の迷惑ですし、危険ですから退場していただきましょう」
旭(
ga6764)が言うと、御山・アキラ(
ga0532)が「早急に駆除しよう」と髪を掻き上げ、次々にボートに乗り込む。そして三人は池の対岸へと向かい始めた。池の大きさを考えると、池の周囲を進むよりこのほうが確実に早い。
「なんたって、人力SESエンジン搭載ですからね」
旭はせっせと舟を漕ぐ。舟は滑るように進んでいった。
漕ぎながら、アキラが橋のほうをちらりと見る。陽の光を浴びているスライムは、どこか気持ちよさそうに見えた。
「呑気なもんだ」
「スライムも天気のいい日には日光浴するのでしょうか?」
そして、日向ぼっこや昼寝が好きなハルトマンは、少し羨ましげにスライムを見てぼやいた。対岸がすぐ側に迫ってきていた。
「そろそろ準備に取りかかろうか」
ボートが対岸に到着するのを見届けると、白鐘剣一郎(
ga0184)が動いた。
「一般市民の憩いの場を立入禁止にしてしまうとは、なんともいただけませんね」
そう言って、鳳覚羅(
gb3095)は頷いた。スライムはそんな溜息を知ってか知らずか、時折ぶるぶると体を震わせていた。
「最近はスライム関連の依頼も多いが、それにしてもどこにでも湧く印象だな」
剣一郎はスライムを見て苦笑する。湧く、という表現が実にスライムに似合っていて、言い得て妙だ。
「とにかく、慌てず焦らず迅速に行こう」
剣一郎のその声が聞こえたのか、スライム達が一際大きく震えた。
「こんなご時世だからこそ、こんな場所は平穏な場所にしないとね」
覚羅が頷く。二人はモップほどの長さの棒を用意し、敢えて覚醒はせずに橋へと向かう。
橋の上では、三体のスライムが我が物顔で寝そべって――と言うべきかどうか――いた。二人は早速、棒で突きにいく。まずは手前のスライムからだ。
突き始めてほどなくして、スライムが動き始めた。体を波打たせ、震わせ、剣一郎と覚羅のどちらへ向かうか迷うような動きをしながら、確実に移動を続ける。二人は突く手を休めずに、じりじりと後退していった。スライムの素早さや、跳ねた場合などを想定してぎりぎりの間合いは保ったままだ。池に落ちないよう、細心の注意を払う。手前のスライムにつられて、他の二体も動き始める。やがて三体のスライムは重なり合い、先を争うようにして二人を狙い始めた。
「スライム君、ちょっとこっちへ来て下さいね」
スライムの体の一部が、橋から降りた。
「よし、このまま行こう」
待機していたアキラが頷き、旭とハルトマンと共に舟から下りる。スライムの退路を塞ぐため、橋から少し離れて待機する。スライムは橋から離れ、池の側にある広場へと向かい始めていた。このまま行けば、周囲に障害物や遮蔽物もなく、倒しやすい状況となる。
スライムと味方が見える場所に三人は覚醒して陣取った。ハルトマンが隠密潜行で身を潜める。
能力者達の動きを察知した一体のスライムが、突如移動速度を上げた。しかし、どこへ逃げようにも、阻止されるのは必至だ。それでもスライムは移動する。元来た橋の方へと、池を目指して。
アキラ達はスライムに向けて駆け出した。
「あいつら見てるとこっちまで眠くなるぜ‥‥」
慎吾は離れた場所から、誘い出されるスライムを見ていた。暖かい陽射しの下でゆっくり、じわじわと移動するスライムを見ていると、睡魔が襲ってくる。何度目かの欠伸をかみ殺したとき、リゼットが合図をした。
「行きましょう。対岸からも皆さん突入されました」
「よーし、頑張るぞー!」
「うっし! 一気に行くぜ!」
そして三人は覚醒し、スライムへと向かった。
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「おらあっ!」
慎吾が瞬天速で一気に間合いを詰めると、拳を叩き込んだ。果たしてスライムは殴ってもダメージは与えられるのか、慎吾は眉を寄せて様子を見る。しかしそれは杞憂に終わった。スライムは半身を仰け反らせると、今度は池の中央、休憩所を目指し始めた。危険を本能で感じた動物や虫のように、その動きは激しい。
ハルトマンが狙撃眼を使い、離れた位置からスライムを狙う。アキラに行動のチャンスを与えるように射撃、左脇に当たる。続いて旭が小銃で狙い撃つ。ハルトマンが打ち込んだ部位とは反対の部位に、連続で弾丸を撃ち込んでいく。スライムは怯み、動きを止めた。そして再び動き始めたのを狙って、アキラが一気に接近する。
「行かせない」
スライムの進行方向を読み、予測される進路を指定して超機械で電磁波を展開した。スライムは一瞬怯んでまたもや進路を変えるが、アキラは新たな進路をも塞いでいく。なかなか倒せないあたり、どうやら生命力が強化されたタイプらしい。それでもダメージは蓄積していく。前面に容赦なく当てられる攻撃で、スライムは観念したように方向転換し、他の二体のほうへと戻ろうとする。
「そのまま橋を降りるんだ」
アキラがスライムの動きを見守る。あと少し。その時、スライムは突然、池を目指して動き始めた。
「そっちは駄目です!」
ハルトマンが弾丸の威力を上昇させ、重い一発を放つ。それはスライムの体の中心に命中した。スライムは全身を振るわせ、びたんびたんと暴れた後、くたり、と動かなくなった。
「一体撃破だぜ!」
慎吾が歓声を上げた。
倒されたスライムをちらりと見て、剣一郎は覚醒、こちらにいる二体が抵抗力と命中率が強化されたものと、知覚が強化されたものであると判断するための一撃を入れていく。非右側のスライムが攻撃を受けるや否や飛び退き、水飲み場の陰に隠れた。剣一郎はすぐさま超機械で炙り出しにかかる。
「隠れても無駄だ。逃がしはしない」
スライムはなかなか出てこようとはしなかった。どうやら超機械の効果が薄いようだ。抵抗力の高いタイプらしい。それでも根気よく続けると、ようやくスライムは姿を現した。ぞぞぞぞ、と地を這い、剣一郎に飛びかかる。剣一郎は円の動きで攻撃をかわしながら、流れるようにスライムに月詠の刃を食い込ませ、薙ぎ斬っていく。
「天都神影流・流風閃」
その言葉が終わる前に、スライムは地面に落ちた。不利だと判断したのか、池の方向へ向かって突進し始める。
「おいらに任せて! ひっつかんでどーん! と投げ飛ばして遠ざけてやる!」
渉が元気に声をあげ、剣一郎に手を振った。剣一郎は頷く。
「こら、こっから先へは行かせないぞ!」
スライムの間合いに入り込み、スライムをなんとか抱え込む。腕の中で暴れるスライムを、そのまま剣一郎に向かって放り投げた。
スライムは剣一郎の足下に落ちるが、そのままの勢いを利用して、草むらに逃げ込んだ。剣一郎はすぐさま後を追う。
「そこか‥‥」
スライムを発見すると、静かに呟いて片手平突きで急所を射貫いた。
「‥‥天都神影流・狼牙閃」
びちびちと、嫌な音を立てながらスライムが悶え苦しむ。駆けつけてきた渉が「すげー! じゃあ、おいら、トドメ刺すよ!」と言い、スパークマシーンに両断剣を付加する。
「スパークマシーン! スライムなんかビリビリで倒しちゃえ!」
畳みかけるように一気に攻撃すると、ついにスライムは静かになった。
「やったあ!」
「いい一撃だった」
二人は顔を見合わせて頷いた。
「君の相手は俺がしてあげるよ」
残されたスライムに、覚醒を終えた覚羅がにこりと微笑んだ。他の二体が撃破されていく様が視界の端に飛び込んでくる。対岸から牽制にかかっていたメンバーもこちらへ向かい始め、剣一郎と渉も近づきつつある。退路を完全に絶たれたスライムは、忙しなく同じ場所を行ったり来たりし始めていた。
逃走されないよう、池とスライムとの間に割って入ったリゼットは、派手ではないものの、じわじわと削り取るように、確実にダメージを与え始めた。幸い、すぐ近くに壊れて困るようなものはないが、足下の小さな花壇が気にかかる。大振りの攻撃は控えた。
覚羅も同様にして、スライムに斬り込んでいく。斬られる度に、スライムは体を震わせた。リゼットに反撃をしようとするが、あっさりとかわされてしまう。それでは今度は覚羅にと、ターゲットを変更する。しかし、今そこにいたはずの覚羅は、スライムの動きを読んで既に移動したあとだった。リゼットの隣から、覚羅の攻撃が入る。
スライムは反撃をやめ、逃げる選択をした。一際強く体を震わせると、勢いをつけて足下をすり抜ける。
「待ちなさい!」
リゼットと覚羅が追う。スライムとの距離はあっという間に縮まっていく。その時、スライムは何かにぶつかった。弾かれるようにして、動きを止める。
「そこは俺の間合いだ」
二人が視線をスライムから上に上げると、そこには剣一郎がいた。スライムは剣一郎の足にぶつかったのだ。
「天都神影流・虚空閃!」
エネルギーを込めた剣が閃く。スライムは体を宙に浮かせ、後ろに斬り飛ばされた。
「もう終わりです」
覚羅が腰を落として低く構え、浮いたままのスライムに剣を一閃させる。そして、リゼットが豪破斬撃の重い一撃をぶつける。スライムはそのまま地面に叩き付けられ、動かなくなった。
「何とか片付いたか。他にはもういないだろうな?」
剣一郎が周囲を見渡した。
「見てこよう」
アキラが確認のため走り出す。橋の上、休憩所、ベンチ、茂み、考えられるあらゆる場所を確認していく。
「どうやら大丈夫なようだ」
戻ってきたアキラは、全員の顔を見て頷いた。
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「掃除でもして帰るかァ」
慎吾が大きく背伸びをした。渉がごそごそと大きなゴミ袋を取り出す。スライムの残骸や、落ちているゴミを全員で拾っていく。
「結構ゴミが多い‥‥。もっと綺麗に使えないものか」
アキラがふう、と溜息をつく。毎朝ダンが掃除をしているはずだというのに、この多さは何だろう。いくら掃除をしても追いつかないほど、日々汚されていくということか。
「スライムが可愛く思えるくらいですね」
リゼットが石畳の通路にこびりついたガムを見て頷いた。水飲み場に落ちている、ファストフードの紙コップを拾う。
「日向ぼっこしたくても、これではしたくなくなっちゃいます」
零れたジュースや菓子の食べかすでドロドロになっているベンチを見て、ハルトマンは首を横に振った。
「ダンさん、いつも一人でやってるのかな」
渉がぽつりと呟いた。
「これだけ広い公園なのに。予算の関係とかだったら、辛いですね」
ぐるりと周囲を見渡すと、旭は茂みの中に落ちている雑誌を拾い上げた。その時、スライム殲滅の報告を公園関係者にしに行っていた剣一郎が、ダンを伴って戻ってきた。
「報告は無事終わった。俺も手伝おう」
剣一郎は掃除を手伝い始める。ダンは皆の姿を見て、目を丸くして驚いた。
「み、皆さん、どうして? そんな、それは俺の仕事だから、放っといて下さいよ。スライムやっつけてくれただけで、もう充分だから」
「気にする必要はない。我々がやりたいから、やっているのだから」
アキラが首を横に振った。
「で、でも」
「こういう憩いの場は大切です。これからも頑張って下さいね」
覚羅がダンに微笑みかける。ダンはこれまで、こういった言葉を人からかけられたことがなかった。誰もいない早朝に公園に来て、最初の利用者が来る前に帰る。ダンの仕事は誰にも見られない。毎日同じことの繰り返しで、嫌気がさしてきていた仕事だったが、皆の行為と言葉に救われた気がした。
「あ‥‥ありがとうございます! これからも頑張りますよ!」
そう言ってダンは、一緒にゴミを拾い始めた。
「公園はキレイに使わねぇとな。‥‥ところで」
慎吾はふと顔を上げ、池を見つめた。そして、ぽつりと呟く。
「‥‥あの池の魚、食えんのかな?」
「か、勘弁して下さいよ」
ダンが眉を下げて喚いた。その様に、皆が笑う。スライムによって笑い声の消えた公園に、再び長閑な時間が訪れ、笑い声が戻った。
翌朝、ダンはいつものように誰よりも早く公園に来た。そしていつものように掃除を始める。
だが今朝の公園は、これまで見てきたどの朝よりも、綺麗だった。
「今日も頑張るかあ」
そうしてダンはゴミ袋を広げる。
朝焼けが、ダンの後ろに長い影を作っていた。