●リプレイ本文
「ヘルメットワーム、回収、デス、カ‥‥コレ、ガ、何ラカ、ノ、成果、ニ、繋がル、ト、良い、ノ、デス、ガ‥‥森林、伐採ハ、少シ、心ガ痛ミ、マス、ネ」
UNKNOWN(
ga4276)が駆る輸送機仕様西王母に必要な50mの簡易滑走路の整地作業を愛機であるグロームが手にするヴァイナーシャベルで行いながら、ムーグ・リード(
gc0402)が呟く。
人型である事による、汎用性の高さが可能としている行動だ。
機構上の関係で完全に人間と同じ動作が可能という訳ではないが、シャベルを使い樹木を断ち、地面を叩いて固めるといった基本的な作業は充分に可能だ。
その先では装甲表面を穴だらけにされながらも原型を留めているヘルメットワームの周囲を馴らし、回収作業が容易になるよう作業を続ける須佐 武流(
ga1461)の姿もある。
C地点でもB地点同様の作業が行われていた。
此方を担当する回収役はM2(
ga8024)。先行して整地作業を行っているのは神浦 麗歌(
gb0922)とシクル・ハーツ(
gc1986)。
「僕たちの成功が人類にどれだけの利益をもたらすのか‥‥」
原型を留めたヘルメットワームの残骸を目に、神浦が思いを巡らせる。
実質的に人類側が入手に成功している慣性制御装置はそう多くは無い。
飛行艦であるユニヴァースナイト級やヴァルキリー級飛行空母などの艦船には慣性制御装置が搭載されているが、その作動原理は未解明な部分が多い。
人類が利用しているのは「こうすれば、こう動く」といった表層の部分のみで、詳細な原理解明に用いられるものは少ない。
最近になってバグア基地への奇襲等で未稼働状態のヘルメットワームの奪取で幾らか慣性制御装置を入手でき調査も進展しているが、慣性制御装置は多くあるに越したことは無い。
今回の作戦は通常では撃墜時に自爆して技術解析が出来ないヘルメットワームが、何らかの原因で自爆しなかった機体の回収作戦である。
「足止めチームがいるとは言え、気は抜けそうにないな‥‥手早く終わらせねば」
シクルが上空を旋回するM2の西王母と、御山・アキラ(
ga0532)のシュテルン・Gを仰いだ。
『作業終了‥‥っと、降りられるぞ』
無線機から流れる須佐の声に、了解の旨を告げるとUNKNOWNは機体を降下させ、着陸体勢に入る。
「さて、盗むぞ」
そう述べて暫し、思考。
「‥‥悪者っぽいかね? では、ぱちるぞ‥‥としよう」
意味的には然程変わらないが、言葉を言い換えるUNKNOWN。
大型機特有の重い操作を、ブーストを利用した擬似慣性制御を使用して緩和し細密な操作で機体を着陸させる。
UNKNOWN機に並走するように飛翔していた白鐘剣一郎(
ga0184)の灰銀に塗装されたシュテルン・Gが高度を上げ、上空警戒に入る。
「ヘルメットワームの鹵獲か。わざわざ証拠隠滅にタロスを差し向ける辺り、罠ではないと見て良さそうだな‥‥タロスの動向は?」
『現在、別働隊と交戦中ね‥‥後方から把握できる限りでは戦況は五分五分、といった辺りかしら。後、敵機は全て有人機みたいね』
白鐘の言葉に、バックアップに回った正規軍を指揮する冴木が応える。
「少しは余裕がありそうだ」
上空からヘルメットワームの積み込み作業をざっと眺め、白鐘は別働隊を突破するタロスが居ればすぐに対応できるよう計器板に目を落とす。
「タロスがいなければ楽なお使いで済むのだが‥‥」
M2機の着陸を見届けると、白鐘同様に御山機も高度を上げる。
掃除屋と呼称される敵部隊を足止めする別働隊もベテランとも言える傭兵が多数参加する精鋭部隊であり、易々と突破される事は無いだろうが、油断は出来ない。
敵部隊の全てが有人機であるという事はすなわち、敵のパイロットは全て技量に長けたエースである事を意味するからだ。
「ヘルメットワームを回収‥‥するのは良いけど、ハズレだったらがっかりだよなぁ。どうか当たりでありますようにッ!」
祈願しつつ着陸したM2は機体を180度旋回させ、コンテナ開放ボタンを押す。
西王母の補給ユニットを外して装着した輸送コンテナは、ヘルメットワームであれば3機程度収納できるだけの容積がある。
コンテナの扉が完全に開いた事を計器上で確認し、続けて今回の任務用に軍から増設されたヘルメットワーム固定用の機器のチェックを行う。
回収したヘルメットワームが輸送中のコンテナ内で跳ね回り、慣性制御装置に損傷が加わることを避ける為の措置だ。
被弾による衝撃や回避運動による衝撃でもヘルメットワームに最低限の衝撃で済むように考慮されている。
通常時のヘルメットワームはフォースフィールドと呼ばれる衝撃等物ともしない強力なバリアで身を覆っているが、今回の対象は撃墜され機能停止した機体だ。
一応の装甲は備え、戦闘機械である以上は多少の衝撃には耐えられるだろうが、リスクは極力減らす必要がある。
保持機器にも不具合が起きていない事を確認し、M2は無線のスイッチに手を伸ばす。
「収納準備完了、回収お願い」
「了解、今のうちに運び入れるぞ」
M2の言葉にシクルが応え、神浦に合図を飛ばす。2機がかりで持ち上げたヘルメットワームの残骸をコンテナの中に運び込む。
位置の微調整にやや時間を要したが、格納作業は滞り無く終了。
定位置に収まったヘルメットワームを確認し、M2がコンソールにコマンドを打ち込む。
実行のキーを入力すると、格納されたヘルメットワームをコンテナ内の作業用アームが保持器具へと移動させ、保持器具がヘルメットワームをがっちりと固定。
再度、保持器具の状況を確認し器具がヘルメットワームを正常に固定している事、保持器具そのものに問題がでていない事を確認し、コンテナの扉を閉鎖する。
「後はこれを運んで逃げるだけ‥‥だけど」
UNKNOWNが積み込みを終了し、離陸体勢に入った所で、軍から通信が入る。
『タロスが4機、別働隊を突破した。多少の損傷は受けているようだ』
「4機‥‥か、何とかなるか?」
積み込むべき対象は後一つ残っている。
そちらの整地作業は進んでいないが、敢えて放置する必要も無い。可能な限り回収するべきだろう。
スロットルを開き、UNKNOWNは機体を加速させる。
エンジンが咆哮すると一瞬にして機体が離陸可能な速度まで引き上げられ、操縦桿を引くと同時に機首が上がり、空へと舞う。
西王母と同規模の輸送機は数あれど、僅か50mという距離で離陸できる機体は存在しない。西王母に限った話ではないが、機体を50mの加速距離で離陸可能速度に引き上げることは機械的には無理ではない。
しかし、中の人間が耐えられるかどうかというと話は別だ。瞬間的な加速ゆえに生じるGも多大になる、パイロットが能力者だからこそ耐えられる加速と言える。
離陸したUNKNOWN機に寄り添うように白鐘機が並ぶ。
「適度に足止めしてくる、Aのヤツは任せる!」
須佐機とムーグ機が加速し、その横を高速で抜けていく。
「敵ハ、陸上ニ居ル、ミタイ、デス、ネ‥‥壊ス事、ハ、タヤスク‥‥守る事、ハ‥‥難シイ」
2機とも敵影を確認すると同時に変形降下、敵機との速度を合わせる。
「既に2機運び込まれているようだな」
「フリーなのは1機だけか‥‥上の連中としては、全部壊せって言いたいだろうが‥‥ソイツは戦力的に無理っぽいよなぁ」
「足止めに来た連中と劣らず厄介な連中が揃ってるな、無理すればこっちがやられる。1機に集中するぞ」
タロスコクピット内で状況をコンソールに表示した異貌のモノ達が傭兵側の機体をデータベースから表示し舌打ち一つ。
傭兵の多くが自機をパーソナルカラーで塗装し、エンブレムを貼り付けて存在を誇示している。人類側がバグアのエース機を識別し、データベース化しているのと同様に、バグア側でも強力な機体を識別し、脅威度を測るためそういったデータは収集している。
特にナイトフォーゲルは、標準の状態と改造を施した機体では性能に大きな差が生じやすい。
改造された旧式機が最新鋭の機体に匹敵する性能を発揮するという事も珍しい事ではない。
4機のパイロットは頷くと、残り1つのヘルメットワームへと進路を向けた。
「それじゃあ俺は一足先に帰るよ」
離陸したM2は軍部隊が展開する後方へと機首を翻す。
回収機を2機用意し、素早く回収し、確実に1機は持ち帰る。
それが傭兵側の立てた回収作戦の骨子である。西王母も標準的な補給機、輸送機と比較すれば充分過ぎるほどの戦闘力を備えた機体であるが、バグア側の主力機と比較すれば自衛が出来るかどうかと行ったレベルだ。
戦闘に出すにはリスクが大きすぎる。
「まぁ‥‥すんなり事が運ぶとは思ってないですよ、僕もAの方に向かいますね」
回収中に敵機が襲来した場合はM2の機体直衛に付く予定だった神浦も機首をA地点の方向へと向ける。
当初の想定では離脱が完了するまでM2機の直衛に回る予定ではあったが、敵機の挙動から、M2機への追撃の可能性は極めて低い。
「了解、気をつけて」
先に行動を始めた御山、シクルを追うために神浦はスロットルを全開まで叩き込んだ。
先行したムーグがクァルテッドガン・マルコキアスのトリガーを引く。
両の腕に搭載された計4門の銃口から連続で弾丸が火炎と共に吐き出される。4つのチェーンガンをまとめて制圧力を向上させた重火器は、嵐のような勢いで大量の弾丸をタロスへと浴びせかける。
その合間を縫うように須佐機が1機へと接近し、足先に装備した脚爪「ディノスライサー」を利用した蹴撃を叩き込もうとする。
しかし、その一撃は敵が手にした大剣を利用した打ち払いを受ける。蹴りという不安定ゆえのバランスの悪さゆえ、側面からの衝撃には弱い。
吹き飛ばされる機体をスラスターと慣性を利用した重心移動で一瞬にして立て直し、エナジーウィングの刃を突き入れる。
ビームコーティングの刃が装甲を易々と貫き、内部機構を灼く。
生身ならその痛みに怯みをみせるような損傷だが、機械ゆえ傷みの意識など無い。損傷を無視して振り上げられた大剣を振り下ろそうとした刹那、大剣が側面に翳された。直後、その身幅に機槍「ユスティティア」の穂先が突き刺さる。
「外したか!? あまり得意ではないが、四の五の言ってられんか」
攻撃に転じる一瞬の隙にブーストで接近したシクルの放った一撃だ。
ブーストによる加速を利用した必殺の一撃を防がれたシクルは加速の勢いはそのまま、槍の柄から手を離し、搭載した機剣「白虹」を鞘から引き抜く。
扱い慣れない武装だが、攻撃パターンは機体に搭載されたCPUとエミタAIが弾き出す。
反撃の間を与えぬ連続の斬撃を思考すると、その意を受けて機体が連撃を行う。
敵機の所持する得物と数合打ち合い、間合いを離そうとする敵機に追いすがり、更なる斬撃を叩き込む。
そのうち一機のタロスが戦場から後退し接近してきていた上空のUNKNOWNの機体へと光条を乱射。
バグア機の主要兵装であるプロトン砲の光だ。回避運動を取りにくいよう、連射された光は機体の四方を囲むように伸びている。
「熱烈な歓迎だ、な」
巨体ゆえの鈍重な機体、回避運動を取っても被弾は避けられないが彼は慌てなかった。
「簡単に当てさせる訳にはいかないな。耐えろ流星皇!」
白鐘機がシュテルンのPRM改を起動。展開したエネルギーが機体の装甲表面を走り、直後襲来したプロトン砲の威力を大きく減じる。
機体の損傷度合いは装甲表面が焼けた程度だが、そう何度も繰り出せる機能ではない。
「ふむ、相手は壊したい、此方は守りたい。1機でも抜かれれば終わりだな」
御山が敵機を正面に捉え、バルカン砲のトリガーを引く。相手にダメージを与えるのではなく、牽制射撃が目的だ。
しかし樹木に遮られ射線をすぐに遮られる。放たれた銃弾は樹木を貫き打ち倒すに充分な威力を備えているが、そうした銃弾は装甲を貫くには威力を大きく減じられ役に立たない。
射線が開く一瞬の間を狙い、両肩のピアッシングキャノンを放つ。
砲弾が敵機の表面に着弾し、金属と金属がぶつかり合う激しい衝撃音を響かせるが、タロス僅かに上体を揺らした程度で踏みとどまる。
「射撃で削るのが理想ですが‥‥難しいですね」
その様子を横目に、武装のセレクタをバイコーンホーンに設定し、先ほどUNKNOWNを狙った機体に狙いを定め、神浦が機体を接近させる。
陸戦形態が四足の俊敏な獣といった容貌のワイバーンはその形状故、樹木に完全に隠れるほど体高が極めて低い。
加速の為、ブースターを開きながら疾走した機体が敵機の四角から飛び出す。
「何ッ!?」
樹木に隠れた突然の急襲にタロスのパイロットが思わず驚きの声を上げる。
加速はそのまま、搭載された二本の穂先を持つ槍を勢いのまま叩きつける。
衝撃にコクピットが大きく揺れるが、穂先は敵機の装甲を貫き内部機器に損傷を与えていた。
機体を旋回させ穂先を引き抜くと、生体部位の損傷ゆえか血液にも似た液体が迸るが、すぐにその勢いは停止する。
貫通させた装甲の奥で蠢く組織が、目に見えるほどの速度で損傷部位を修復していく。
タロス特有の自己修復機能だ。
生体部位を持つバグア機の殆どは自己修復機能を持つが、タロスに搭載された自己修復機能はその中でも傑出した再生能力を誇る。
未だ強力な機体として名を馳せるシェイドすら、これほどの修復機能は搭載していない。
「仕留めるのは大変ですが、脚を止めさせるくらいなら‥‥」
半ば乱戦の中、上空から戦況を注視する白鐘が敵の1機がフリーになった事に気づく。
向かう先は作戦目標であるヘルメットワーム。
「1機抜かれたぞ!」
一瞬、UNKNOWN機の直衛を放棄して敵機を追うか、万一に備えて直衛に回るべきか白鐘に迷いが生まれる。
この場で迷いが生まれるのは他の傭兵であっても同様だっただろう。
だが、1秒にも満たないその迷いが一瞬の差を分けた。
ヘルメットワームに接近した機体が放ったプロトン砲の光が、障害となる樹木ごとその装甲を焼き、ヘルメットワームを吹き飛ばす。
通常の自爆とは異なり、破片の多くは解析可能なレベルの大きさは保持していたが、重要部位を知り尽くしている掃除屋の一撃は最重要となる慣性制御装置と機体に搭載されたコンピュータを吹き飛ばす。
直後、各機と戦っていた3機は強引に間合いを取り、即座に飛行形態に移行。
離脱していく。
傭兵側も作戦が終了した上、すぐさま追撃に移れる機体が少ない事も手伝い、彼らの撤退は見逃さざるを得なかった。
「完璧、とは言えないが‥‥上出来と言うべきか、な」
少なくとも2機の確保には成功した訳だ。
今回の依頼を評するなら、UNKNOWNが呟いた言葉が相応しいだろう。