タイトル:【OF】ソラノカベマスター:左月一車

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/09/20 14:46

●オープニング本文


 今や世界中が知る所となったプチロフの断行。しかしそれは、世界中が宇宙を見上げる契機になった事もまた事実だった。
 苦い想いを噛み締めながらも、宇宙を見据えた動きは各地で加速し、様々に物語を奏で、ソラへと向かって収束しつつある。
 墜落したKV達。そこに籠められた情報を回収する為の動きも、その一つだ。
 そして――彼等の死は無駄にはならなかった。

 そこから明らかになった事は人類にとってもまた衝撃的な物だった。
 そこには、宇宙へとあがる人類を嘲笑うかのように機動するキメラやワーム達がいた。
 そして。
 ブレナー博士によって発見され、低軌道上に在ると言われていた、謎の影。
 それは、低軌道上から人類を見張る衛星であり、砲台だった。
 そこから放たれた奔流は、為す術なくキメラやワーム達に揉まれていたKV達を容易く呑み込み、喰らい尽くした。

 それが、英霊達が遺したモノだった。

 人類は今、新たな局面を迎えようとしている。
 その道行きに落ちる影は払わねばならないが――情報が足りない事もまた、事実。
 それ故、そのための威力偵察がエースパイロット、冴木 玲(gz0010)を中心にいま、行われようとしていた。



 外付けのロケットブースターの推力と自身の推力を合わせて上昇していく機体のコクピットから、冴木は周囲を見渡す。
 自身の他、同様の任務を帯びた者達の機影を確認し、視線を前へと戻る。
 コクピットのスクリーン越しに見える空は、青から黒へと移り変わりつつあった。
 区分上は一応は大気圏内だが、視界の先に映る空は見慣れた空ではなく、漆黒の空間。
 眼下の地球は円弧を描き、緑色の大地は大気の影響からか確認できず、視界に映る色は青一色。
 既に高度は300kmに迫ろうとしていた。
 「この高度で本格的な交戦をするのは私達が初めてになるのね」
 『そっすね、まぁすんなり衛星までいけないってのは承知の上ですがね‥‥この数は、まともに相手するのは骨が折れそうですな』
 視界に徐々に姿を現し始めるワームや宇宙キメラといったバグア側の防衛装置。
 肉眼では捉えられない超遠距離からでも、機体のカメラによるズーム映像をスクリーンに映し出せば相手の陣容は知れる。
 「推力カット、同時に外部ブースター切り離し。後続と速度合わせ。タイミングを見てこっちが突破するわよ」
 『了解』
 指揮下の機体に告げ、上昇を一時停止し交戦に備えブースターを切り離すと冴木は兵装を信号弾へと切り替える。
 下方からついてきている第二隊に向け、黄色の信号弾を投射。
 断続的な発光に対し、第二隊指揮機からの受諾信号が入る。無言で頷くと、追いついてきた第二隊が第一隊の前に立ち、キメラやワーム群との交戦に入る。
 「よし、全機最大加速、戦域を突破して衛星に向かう」
 『了解』

 撃ち放たれる光の柱を連続して回避し、目標に向けてトリガーを引く。
 「‥‥これで相当数は撃ち込んだハズだけど」
 光の弾幕を掻い潜り攻撃した回数は既に十回を越えている、その過程で2機が光の奔流に飲み込まれて消滅した為、総数としての攻撃回数は減少しているが、通常の相手であれば何らかの損傷は見せているハズだ。
 相手に一切の損害が見受けられないという事はKVとしての点としての火力よりダメージコントロール能力が高いのか、或いはこちらの火力以上に再生能力が高いのか。
 いずれにせよ、このままいくら攻撃しても有効打が与えられないという事は確かだろう。
 「コレは無理ね、全機第二隊と合流の後撤退。分散して逃げるわよ」
 低軌道衛星の耐久力に現状の戦力では歯が立たないというのであれば、後はこの情報を持ち帰り対策を練る必要がある。
 1機でも帰れば機体に記録された情報からより良い戦術を練る事が出来るだろう。
 冴木は機を翻し、離脱にかかる。
 瞬間鳴り響くアラートに、機体のブースターを吹かし瞬間的に機体を横にスライドさせる。
 機体の側面を掠めるようにプロトン砲の光芒が抜けていく。
 「‥‥ッ!? マズった、かな」
 直撃は避けたが、サブスラスターが1基停止、その他色々と機体にガタが出ている。
 速度そのものはパワーダイブと地球の重力を利すれば、然程の不利は出ないが、機体の機動に関わるダメージだ。



 撤退支援の為に洋上に展開する空母艦隊に乗り込む傭兵達にスクランブル要請が出たのは、その直後の事だった。

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
明星 那由他(ga4081
11歳・♂・ER
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
美崎 瑠璃(gb0339
16歳・♀・ER
澄野・絣(gb3855
20歳・♀・JG
禍神 滅(gb9271
17歳・♂・GD
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF

●リプレイ本文

「エンジン再始動‥‥は無理か、出火していないみたいなのが幸いかしらね」
 後方から迫る敵部隊からの追撃を受けながら、冴木 玲は重力の他に推力も加えてのパワーダイブで降下する。
 機体すぐ傍をプロトン砲が掠めていくが、長距離からの砲撃であれば相当に運が悪くない限りは簡単な機動で回避可能。
 とはいえ、エンジンが1基停止している為に本来の加速は得られていない。
 大気圏内での飛行には最低限エンジン1基動いていれば可能なように設計されている機体だが、あくまで最低限飛べるという事であり、本来の運動性を発揮するには全てのエンジンが必要だ。

「‥‥さしもの冴木軍曹殿も宇宙戦では勝手が違ったとみえる。ここで彼女を失うのは人類にとって大きな損失だし、持ち帰って来る情報も貴重だ。なんとしても救出せねばなるまいな」
 スクランブルがかかり、慌しい格納庫で自らの機体に乗り込んだ榊 兵衛(ga0388)が機体の起動スイッチを慣れた手付きで弾いてゆく。
「やはり宇宙は、あの赤い星は遠いということですか‥‥さりとて、歩み続けねば届くものも届きませんからな。重ねる歩みを少しでも前に運ぶ為にも、落とさせるわけには参りますまい」
 彼の言葉に頷きつつ飯島 修司(ga7951)も同様に機体を始動させ、ラダーやエンジンが正常に動く事を確認。
 機体の始動が終了したものから順に格納庫内のエレベータからカタパルトへと運ばれていく。
 計4基のカタパルトから交互に射出されていくKV。
 誘導員の指示に従って、カタパルト内へと機体をゆっくりと移動させる須佐 武流(ga1461)の横を轟音を上げて澄野・絣(gb3855)の機体が飛び立ってゆく。
 カタパルトへの着陸脚の固定が終わり、ジェットブラストディフレクターが立ち上がった事を誘導員が振るハンドサインが知らせる。
 誘導員が安全圏に居る事を確認すると、美崎 瑠璃(gb0339)が推力を細大にまで叩き込む。
「むー、あたしたちの出番なんかない方がよかったんだけど‥‥玲ちゃんならだいじょぶだと思うけど、万が一ってこともあるし。急いで助けに行かないとねっ!」
 ワンテンポの後、急激な加速G。
 空母端に到達すると同時機首を15度程引き上げ、高度を上げる。
 後方を確認すると、万一の離陸失敗に備えて待機するヘリコプターの他空母周辺を護衛するイージス艦、水中KVといった陣容が見えた。
 これだけの陣容を備えて回収に臨むとなれば、情報の価値はそれだけ高いという事になる。

 空母上空で今回の作戦に臨む8機が合流する。
 陣営を整えると同時に、全ての機体が推力を上げ上空を目指す。機体各々に速度差はあるが、合流予定高度より更に高い高度を目指す部隊がやや先行する形になる。
「空母から打ち出されて‥‥低軌道から降下してくる機と合流‥‥物理のモンキーハンティング問題みたいだ‥‥問題と同様、必ず‥‥帰ってきて貰わないと」
 明星 那由他(ga4081)がまだ青い空を見つめる。
 彼の言うモンキーハンティング問題とは単純な物理問題の代表の一つであり、落下する物体に向かってどの角度で物を放てば当てる事ができるのかを回答するという問題だ。
「ここからどれだけ飛べば宇宙に行くんだろ? 近いよーな、遠いよーな」
 次第に青から黒に染まる空を飛びながら美崎が呟く。単純な高度でいえば、宇宙空間は便宜上地上から100kmから先ではあるが、大気圏そのものは外気圏と呼ばれる高度1000kmまで存在する。
 ちなみに最も内側の軌道であり、今回バグアの防衛衛星が多数存在すると予測されている低軌道は高度350kmから1400kmである。
 彼女の視線の先では先行班の榊、澄野、須佐、夢守 ルキア(gb9436)の機体が着実に上昇していく。

 高度表示を見て進行方向にスラスターを噴射し減速をかけると、冴木はモニターに表示されるガイド通りに突入角度及び機体姿勢を安定させる。
 高度80km程度から大気の影響‥‥いわゆる大気圏突入を行う必要がある為だ。
「ここから先は‥‥運を天に任せる形になるわね」
 プロトン砲の光が機体を掠めていくが下手に動く事は出来ない。ゆっくりと機体の外気温が上昇しモニターの下面に赤く揺らぐ陽炎に似たものが現れる。
 降下の速度で希薄ながらも大気が速度による衝撃波で瞬時に圧縮される事で高温化しプラズマ化する事による影響だ。

 その赤い輝きは上昇する8機のKVからも確認できた。同様にそれを追うかのように赤い輝きが幾つも増えていく。
 再突入の高熱で黒く煤けた冴木の機体が先行班とすれ違うように降りてくる。
「大気ってのは意外に重いもんなのねッ!?」
 宇宙と異なり、大気圏内でのエンジン停止はかなり運動性に悪影響を与えていた。大気圏突入時は停止していた攻撃が再開され、回避機動を取る。
「得た情報は自力で持ち帰れ。そのために、俺たちは来ているんだからな」
 須佐が言葉と同時に追撃してくる敵部隊へとD−03ミサイルポッドを発射。敵部隊への牽制とする。
 部隊前面に展開するキメラの眼前で炸裂したミサイルがキメラを絶命させるが、それに怯むことなく次々とキメラが炸裂した火球を乗り越え、迫る。
「アレが宇宙のキメラ‥‥大気圏内でも活動はできるんだね」
 骸龍に搭載された偵察用カメラで映像を記録しながら夢守はキメラに視線を向ける。
 赤い燐光を発しながら飛翔するキメラは地上のキメラとは異なり伝説や神話に登場する生物の姿を模しては居なかった。強いてあげれば深海生物にも似ていると言えなくも無い、明らかに地球上の生物ではないと理解できるデザイン。
 そのキメラ群の後方に位置するヘルメットワームは通常型のヘルメットワームのようだ。
 以前の高高度出撃では本星型が確認されていたが、今回は地上でも運用されている通常型も混ざっていた。
「今までの成長を見せてみせます」
 澄野が冴木の側面を抜けると同時にスモークディチャージャーを使い、敵機の射線を遮る。空中では然程滞留するものではない上に滞留したスモークは戦闘機動を取るKVやヘルメットワームが放つ音速超過の衝撃波ですぐに吹き散らされてしまう為に一時的なこうかしか見込めない。
 それでも攻撃を一時的なりとはいえ、防ぐ事は出来る。
 抜けると同時に武装をGP−7ミサイルポッドへとセット、敵部隊の前衛として多数進撃してくるキメラの一群をロックオンすると同時に発射。
 ミサイルポッドから総数150発に及ぶ超小型のミサイルが射出される。
 鉛筆を若干拡大したような小型ミサイルがキメラへと殺到し炸裂する。着弾と同時にその身に秘めたGプラズマを解放しキメラの体表をえぐり取る。
 肉体を分断されたキメラが飛行能力を失い落下する。
「貴方達の相手はこっちにいるわよっ」
 彼女の声に応じた訳ではないだろうが、キメラ群は玲機を追撃する部隊と先行班を攻撃する部隊に分かれる。保有する知性による自律的な判断なのか、後方のヘルメットワームからの指示なのかは分からないが。
 キメラ群はその口と思しき器官を大きく開けると、喉奥が燐光を発する。
 その輝きが徐々に極大化し、瞬間細長い光の柱が無数に空中に屹立する。
「流石に全ては回避しきれんか!」
 キメラが攻撃態勢に入ると同時に回避機動を取った榊だが、機体表面の装甲にダメージを示すアラート表示に眉をしかめる。
 火力そのものは然程高くは無い。
 少なくともKVを一撃で大破に追い込むような破壊力は有していないが、それでも何度も食らっていいものではない。何より既に若干のダメージを受けている冴木機へ更なる損傷を与える可能性がある。
「数は減らさねばなるまいな」
「ああ、冴木機の方はまだもっているが‥‥あの状況ではいつ落ちてもおかしくはない」
 榊の言葉に須佐が同意する。
 先ほどの一斉攻撃を反射的に機体を横転、ローリングさせる事で集中した被弾を避けた冴木の機体だが直撃痕がいくつか残っている事から、全てを回避したのではなく一部位にダメージが集中する事を避ける為の措置であり、殆ど回避機動は取れないようだ。
 冴木が健在である事を横目で確認し、榊は搭載ミサイルを護衛対象へ向かうキメラへと次々に発射していく。
 発射されたミサイルは的確に敵キメラを捉え、炸裂する火球やプラズマ球がキメラを肉片へと変えてゆく。
「玲君、徐々に高度を下げて行こう、仲間と合流した方が早い」
「戦闘機動を取れない機体ではかえって足手纏いになりかねないからな。急いで味方機と合流をしてくれ。なに、多少機動性は落ちてはいるが、装甲はそれなりにある。合流までの時間くらいはきちんと稼がせて貰うぞ」
「了解。後方の護衛は任せるわよ」
 夢守と榊の言葉に応じ、冴木が更に高度を下げていく。
 高空という条件は揚力を利用する自分達には若干不利だ。須佐や榊らは機体特殊能力の超伝導アクチュエータやブーストを用いる事で地表と同程度の機動性を発揮させていたが、燃料には限りがある上に低濃度の大気は武装に回すSESの機能不全につながり、結果的に火力を減衰させている。

 ある程度数を撃ち減らした時点冴木機を先頭に、先行班が降下し待機していた待機部隊が前面へと出る。
 キメラの数は戦闘当初の過半数を撃滅する事が出来たが、敵部隊後方に展開するヘルメットワームは未だ無傷。そして無傷のヘルメットワーム群が数を減じた結果火力を大幅に低下したキメラ群の前に出てくる。
「ハッピー ミサイルパーティー! いえーい」
 ヘルメットワームが攻撃態勢に入る前に、禍神 滅(gb9271)がロングボウIIの複合式ミサイル誘導装置と誘導弾用新型照準投射装置を起動。
 機体のHUDにシステムの起動を示す文字が表示され、ミサイルシーカーが攻撃対象を即座に捉える。
 トリガーを2度弾くと、K−02小型ホーミングミサイルのミサイルコンテナから250発のミサイルが2度、発射される。白煙を引きながら迫るミサイルは通常の有効射程を越えて敵機へと複雑かつ華麗な軌道を描いて四方八方から迫り、次々に炸裂していく。
 発射と同時に禍神機からヘルメットワームへの軌跡上を白煙が充満し、煙幕にも似た様相となるが炸裂による衝撃波がすぐさま白煙を吹き散らす。
「まさにミサイルパーティーというヤツですな」
 続けて射程内に入ってきたヘルメットワーム群へと飯島もK−02小型ホーミングミサイルを連続発射。
 総数1000発に相当するミサイルが戦場を蹂躙する様は、いっそ壮観とも言える。
「こっちも‥‥いくよ」
 明星がK−02小型ホーミングミサイルの4度の攻撃をなんとかしのいだヘルメットワームの1機へとI−01パンテオンを発射。
 K−02程多数のミサイルではないがそれでも100発に相当するミサイルが発射され、逃げ場を囲むように広がったミサイルが集中して炸裂。
 ミサイルが炸裂する中で一際大きな爆発。
 打撃力に耐え切れなくなったヘルメットワームが爆発四散した音だ。
「エスコートは先行班の人たちの役目、帰り道の確保は待機班のあたしたちの役目‥‥ってね!」 
 ミサイルの攻撃でヘルメットワーム群は本星型を除き、いずれも相当のダメージを受けていた。
 一瞬にしてこれ程のダメージを受けたのは予想外だったのか、敵編隊の動きに僅かな混乱が見られる。その瞬時の隙を突いた美崎がワイバーンのマイクロブーストを起動し、瞬時に間合いを詰める。
 UK−10AAMのミサイルシーカーが敵機をロックオンすると同時に発射。敵部隊からのプロトン砲の攻撃を瞬時に離脱する事でかわしながら高速機であるワイバーンの速度を活かした一撃離脱で既に損耗していたヘルメットワームを次々に落としていく。
 泡を食ったようにヘルメットワームの前面にキメラ群が再度現れる。
 有効な打撃戦力にはならずとも、盾にするつもりなのだろう。
 既に冴木機を追撃する余力は殆ど残されていないようだ、現状で敵側で突破できる可能性を持つ機体は2機存在する本星型だが、エスコート役の4機が待機側と合流すれば突破は困難になるだろう。

「護衛は成功しそうだな‥‥とはいえ、油断は出来ないか」
 冴木の機体が安全圏へと撤退したのを確認すると榊は翼を翻し、待機班が戦う場へと機首を向ける。
「宇宙じゃ今のところお前らの独壇場みたいだが、こっちじゃそうはいかないぜ?」
 榊より先に戦場へと舞い戻った須佐がエナジーウィングを起動させる。
 翼のエッジが薄く光り輝く。
 敵機へと体当たりするかのように機首を向け、スロットルを最大加速まで叩き込む。視界に回避起動を取るヘルメットワームが目に入るが、その回避起動の先を読んで機体を移動。
 翼で敵ヘルメットワームへと翼を接触させる。
 ソードウィングとは異なりビームの刃で斬る一撃は敵の装甲をバターのように切り裂き、須佐機が抜けると同時にヘルメットワームが爆発四散する。
「レーダーしか乱せないけど‥‥今度はそっちが性能低下に苦しむ番、です」
 明星が現状唯一のバグアへの妨害手段として機能するイビルアイズの対バグアロックオンキャンセラーを起動。
 突進してきた須佐機へと集中した攻撃は、その妨害ゆえに全てを外す。
「さてと、任務は無事達成できたようですが、このまま逃がすという訳には参りませんな」
 洋上に展開していた回収部隊旗艦からの回収成功の報告を受けた飯島は、敵指揮官機と思しき本星型へと電磁加速砲「ファントムペイン」の照準を向ける。
 砲身が帯電し、生じた電磁場が弾体を瞬時に加速。
 投射された弾丸は進路上のキメラを音速を超過した衝撃波に巻き込んで切り裂きつつ、ヘルメットワームへと着弾。瞬時にその装甲を貫通し、弾体が纏った衝撃波によって発射された弾丸の口径以上の風穴を穿った。
 1テンポ遅れて、本星型が爆発四散する。
「さーて、と。後は狩るだけっとね」
 禍神は残存するキメラに対し、レーザーバルカンを撒き散らす事で一体一体を確実に屠ってゆく。
 一撃の威力は低いが、バルカンという形式が弾丸を集中させ、キメラを撃ち減らしてゆく。
 
「OK‥‥もう周囲に敵影は無い」
 僅かの後、専用のアルゴスシステムと連携させたレーダー情報や骸龍搭載のジャミングの逆探知、目視の確認で敵が居なくなった事を確認した夢守が戦闘の終了を告げる。
「まだまだ 宇宙は遠いか」 
「でも‥‥着実に近づいています。もうすぐ、人はもっと高く飛べるようになると‥‥思います」
 禍神の言葉に明星が答える。
「ま、しかし宇宙には何があるんだろうな‥‥衛星軌道上には攻撃衛星でもあるんかね?」
 須佐が青く晴れた空を振り仰ぎ、その先を見つめる。
 その疑問の答えは今回彼らが守った冴木が持ち帰った情報の解析が終わり次第、UPC全体へと伝えられるだろう。