●リプレイ本文
●虫捕り作戦
スリープスバタフライの確認された森は、比較的開けた森だった。
人間の手が入っているらしく、適度に間伐されている。傭兵に頼む辺り優先的な地域と思われたが、整備されているところを見るに、駆逐を急がねばならぬのだろう。
「俺はこの位置から狙撃する」
「じゃあ、俺もこの辺りで援護にまわろう」
桜崎・正人(
ga0100)と黒江 開裡(
ga8341)の言葉に、他の傭兵達が頷く。
「手早く済ませて、報酬にありつきたいもんだがな」
火をつけぬ煙草を咥えたまま、クロスフィールド(
ga7029)が一人ごちた。
「初陣ガッツでファイトだぜ!」
「静かにしろっ」
握り拳をつくって燃え盛るリュウセイ(
ga8181)に、クラウド・ストライフ(
ga4846)が素早いツッコミを入れる。
「まぁまぁ、あまり怒らないでさ。ね?」
新条 拓那(
ga1294)に宥められ、クラウドはばつの悪そうな顔をした。ライターを取り出し、煙草に火をつける。だが、それは彼がヘビースモーカーだからではない。彼は煙草の煙をじっと見つめる。
かすかに、煙が揺れた。
「こっちは風下みたいだな」
「じゃあ、風上へ?」
阿木・慧慈(
ga8366)の質問に、拓那が頷き、先頭を走った。
幸い風上への移動中に気づかれた様子も無い。
「童心に戻って虫捕り‥‥というには、ちょっとこれ多過ぎじゃない? いくら蝶でもコレだけ集まると背筋が寒くなるなぁ」
苦笑いをする拓那。戦闘開始前にとマスクとゴーグルで顔を覆う。他の皆も、慧慈の申請した防塵マスクとゴーグルで顔を覆った。睡眠に突き落とされるという燐ぷんは厄介だ。なるべく予防しておくしかない。
「春はただですら眠いのに、眠り燐粉なんぞばらまく蝶はやべーだろ? 物書きにとってこいつぁ許せん敵だ!」
スコーピオンにマガジンを装填し、彼は木の陰から様子を窺う。同様に様子を窺っていた拓那と顔を合わせ、ルートについて相談する。10匹前後がぐるぐると動いている様子が確認でき、他にはいないようだ。
「‥‥そろそろ始めよう」
クラウドがにやりと笑い、木の陰で手を掲げる。
その合図に、援護に回っている二人が手を掲げて返した。
「よぉし、俺に任せておけって!」
「‥‥ぬ?」
クロスフィールドの引きつる頬を尻目に、2本の刀を手にリュウセイが飛び出した。親指を立てる笑顔にGooDLuck。自信障壁――そう、自信――を発動して、彼はバタフライに切りかかった。
所詮は蝶の亜種か。彼自身はまだ己を未熟と感じていたが、刀の一撃に、蝶は簡単に破砕される――と同時に、辺りへ撒き散らされる燐粉。
「‥‥まぁ、花粉の季節でもあるし丁度良いかもな」
風にのる燐粉を眺め、開裡が一人ごちる。改めてマスクをぎゅっと装着し、スコーピオンを手に、編隊の左右両脇への攻撃から開始した。初仕事は害虫駆除。地味な仕事だが、地味な仕事にこそ回る奴も必要だ、などと自分に言い聞かせ、気を引き締める。
「蝶のように舞い‥‥って、ホンモノ相手にゃ説得力ない?」
「まぁ、そうかもな」
拓那の冗談に苦笑するクロスフィールド。
「ま、いっか。そーっりゃぁっ! 一網打じぃ〜んっ!」
おろおろと舞う蝶の前へ、拓那が飛び出した。その腕にはツーハンドソード。だが、ただのツーハンドソードではない。このツーハンドソードは、網を装備した即席虫捕り網だ。
大分纏まっていた事もあり、蝶の殆どが網の中に捉えられる。
ぱっとバックステップで下がり、網をぼんと地面に叩き付ける。
「数が少なけりゃ簡単だな」
月詠を鞘から抜きもせず、クラウドが網目掛けて脚を踏みおろす。
「‥‥そうそううまくはいかないもんだな」
彼の言葉に、クロスフィールドが溜息をついた。
見れば、木々の合間を縫い、多数の蝶がこちらへ向かって来る。この辺りは流石キメラ。まるで敵襲の報でも伝わったかのように展開が素早い。
先頭に突出した蝶が燐粉を撒き散らしながら空を舞う。
だが、前衛の傭兵達と接触する前に、先頭の一匹はぱんと散った。
「‥‥まず1匹、っと‥‥そら、2匹目だ」
攻撃の主は正人だ。
アサルトライフルを構え、迫る蝶を次々と撃ち抜く。しかし、数が多い。とても彼一人では手が足りない。
「‥‥いくら1体1体が大して強くはないとはいえ‥‥眠っちまうのも洒落にはならんし‥‥面倒な敵だ」
マガジンを入れ替え、彼は呟いた。
●蝶の群れ
迫る蝶を前に、慧慈が一歩踏み出す。
「優雅なのはいいが、迷惑な奴らだなぁ、おい」
手に構えるのはショットガン20。轟音一発と共に、ひらひらと飛んでいた群れの中央に大穴が開く。
「後は任せてぐっすり‥‥ってワケにもいかないからね?」
スッと息をすい、口をふさぐ拓那。
あまりに庁の数が多い。先程と同じようにのんびりと蝶を捕らえていては包囲されてしまう。彼は地を蹴って飛び出すと共に即席虫捕り網を振るい、蝶を網の中へと閉じ込める。それと同時に発動した瞬天速により、一気に距離をとった。
「帰ったら寝る。その為にも今は寝ない!」
「そうだね、どうせならきっちり報酬分以上働いて、ベットで寝たいもんだ!」
慧慈の言葉に笑う拓那。
網をばさばさと踏みつけ、中の蝶を纏めて処分する。
「さて、まだまだ大勢お待ちかねだ。炎に注意しろよ!」
瓶を手にしたクラウドが叫ぶ。
その言葉に、前衛に出ていた傭兵達はばっと後ずさる。その瓶にはスブロフの文字、そして布が詰め込まれている。咥えている煙草を瓶に近づけると、布部分が一瞬で燃え上がる。
「そーれ!」
要は火炎瓶の要領だ。
投げられたスブロフが木の幹にぶつかって割れ、辺りに炎を撒き散らす。熱気に包まれ、燃え上がる蝶の群れ。フォース・フィールドが弱いのか、或いは元々備えていないのか‥‥。
「上昇気流、な」
スコーピオンを構え、開裡がにやりと笑う。
炎に煽られて上昇するかと思われた蝶数体を、彼は素早く撃ち抜いた。その攻撃も避けたような蝶へは、更に慧慈の弾丸が叩き込まれた。主な狙いはあくまで位置調整と蝶を逃がさぬ為の支援。
蝶に取り囲まれぬよう、彼は絶えず移動しつつ攻撃の機会を窺った。
「こちらもやるぞ、注意してくれ」
クロスフィールドが告げ、スブロフの瓶を投げる。ただしこちらは、布切れなどは突っ込まれていない。そのままの瓶が地面に叩きつけて割られると、彼は照明中を手に引き金を引いた。
するすると伸びる弾道が辺りに広がったアルコールに触れるや否や、広範囲で火の手があがった。
「道具にはこういう使い方もあるんだよ」
蝶に言うように笑い、彼は再度武器を手にする。
(実験は概ね成功、か)
その炎から逃れた蝶から順に、彼は始末して回った。
「無闇に突っ込むなよ、叩き起こしにいくのは俺は嫌だからな」
「よぉーし、行くぜ!」
言ったそばから一直線に駆け出すリュウセイ。
刀で次々と蝶を切り裂く。
「修行が足らない‥‥だが、マスターして見せるぜ! 天破双月流!」
半ば自分の世界に浸りつつ、彼は刀を振るっていた。ただ、格闘戦主体の前衛としては、リュウセイはちょっと無用心すぎた。振るっていた腕が突然大降りになったかと思うと、こてんと転び、眼を閉じる。
続いて響くいびきに飛び出す、開裡。
「ついにこれを使う時が来たな‥‥受けろ、上方伝来・伝家の一撃!」
手にしているのは巨大ハリセン。
しぱーん、と、素晴らしい音が辺り一面に響き渡る。幾らハリセンといえど、このサイズともなればなかなか威力があるもので‥‥でもやっぱり、ハリセンではちょっと弱すぎて。
「何の夢見てんだろな」
幸せそうな笑顔で涎をたらしているリュウセイを抱えて運ぶクラウド。
併走しながら、拓那はリュウセイのおでこ目掛け、でこピンを見舞った。が、これでもやはり眼が覚めない。
「仕方ないね。リュウセイ君ごめん!」
スッと息を吸い、脳天目掛けてチョップを振り下ろす。ちょっと鈍い音がした。
「はっ!?」
眼を覚ますリュウセイが、よだれを拭いて立ち上がった。
「‥‥天破双月流をマスターする夢を見てたぜ」
遠い眼をするリュウセイ。
通りで、幸せそうな寝顔をしていた訳で。というより、こんな微妙なところでGooDLuckの効果が発揮されていたりして。
――とにかく。
こうなるともう一方的だ。
時折眠らされる事があったものの、ばしりと一発気合を入れれば、だいたい眼を覚ますのだ。対する蝶は炎にすら焼かれてしまう。
「‥‥逃げる?」
ひらひらと背を向ける蝶の群れを前に、慧慈あは首を傾げた。
「逃がさないぜ! 天破一撃必殺砲を喰らいやがれっ!」
ギュイターを手に、大声で叫ぶリュウセイ。
一匹の蝶が粉々にされ、その他の蝶も射撃武器を持った傭兵達の敵ではなく、次から次へと撃ち落される。
「まったくだ‥‥俺たちから逃げようたってそうはいかねぇぜ‥‥」
アサルトライフルを振るい、正確に一匹一匹を仕留めていく正人。己の紙は銀色に染まり、口調や態度も、心なしか普段より熱い。
逃げ切れなければ向かってくる。これもまたキメラの条件付けか何かなのか。
サブマシンガンを構えた彼は、波の様に迫るキメラ目掛けて躊躇無く引き金を引いた。素早く吐き出される弾丸が次々と蝶を貫き、彼の始末した数をぽんと跳ね上げさせる。
「‥‥む。風下になるな。移動したほうが良い」
援護に回っていた傭兵達の周囲にもちらほらと姿を現す蝶の群れ。
「しつこいんだよっ」
巨大ハリセンに叩き落される蝶。開裡は蝶を踏みつけながら、クロムブレイドを手にとった。味方の『優しい』一撃でたたき起こされるのは勘弁願いたい。そういう趣味も無い。
「とはいえ、これなら楽勝だな!」
クラウドが二段撃を発動し、月詠と蛍火を同時に振るう。胴を寸断され、或いは羽をもがれ、蝶が次々と叩き落された。刀を振るう彼の腕にあわせ、黒いオーラが辺りを漂う。
ある程度の定石パターンが出来上がってしまえば、あとは簡単だった。
むこうから襲い掛かってくれば応戦すればよく、そうでないなら風上に回ってから群れ毎に確実に殲滅する。眠り粉が厄介とは言え、所詮は蝶。元々大した攻撃能力も無いのだろう。眠ったからといって、傭兵目掛けて強烈な一撃を見舞ってくる訳ではない。
火炎瓶を使った場合は火の始末と、とにかく数が多い事だけは面倒であったが、多くの場合は拓那の網で事足りた。
「眠り粉ねぇ、睡眠薬にでも使えればいいんだが‥‥」
クロスフィールドが首を鳴らし、辺りを見回した。
「む。まだ居たか」
正人がアサルトライフルの引き金をひく。木々の合間を縫っていた蝶が、ぱんと弾ける。残敵を始末しつつ、彼等は森の中を暫く歩き回った。
「いや、本当にお疲れさんだ‥‥」
ふうと大きく息をつき、呼吸を整える慧慈。
意外と時間は食ったものの、誰一人致命的な怪我はしていない。目立つのはリュウセイのチョップ跡ぐらいなものだ。
後日、幾度かスリープスバタフライが発見される事もあったものの、その数は地元の警察力で対応可能な程度だった。この調子であればもう蝶が繁殖する事も無い。もしあるとすれば、再びバグアが大量にばら撒いた場合ぐらいなものだろう。
(代筆:御神楽)