タイトル:Its a so Bad Dayマスター:瀬良はひふ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/06 18:53

●オープニング本文


「参ったな‥‥」
 メアリー=フィオール(gz0089)は物陰に屈みこむと、珍しく弱音を口にした。
 そのすぐ近くを、ぬいぐるみがそのまま大きくなったような実にコミカルな生物――つまりはキメラが、キョロキョロと辺りを見回しながら通り過ぎる。
 幸い、気付かれてはいないようだ。
 彼女は安堵の吐息をもらすと、何故こうなったのかに思いをめぐらした。



 事の起こりは先日のこと。
 大規模作戦の発令で、能力者たちが皆忙しげに動き出して間も無くのことだ。
「輸送の護衛、ですか?」
「そうだ」
 上司に呼び出されたメアリーは、その言葉と共に一枚の紙を受け取った。
 それによれば、とある基地への補給活動があるので、その護衛を頼みたい、とある。
「‥‥依頼として出せば良いのでは」
「アジア地域の基地ならば、まぁその手もあるのだが」
 メアリーの指摘に、上司は額に手を当てて苦笑する。
 曰く、大規模作戦と直接関係の無い依頼をこの時期に出すのは憚られる、と。
「そこで私は思い出した。メアリー君、君も能力者だとね」
 嫌な汗が彼女の背中を伝った。
 無論、メアリーは能力者だ。といっても本業はオペレーターであるので、実力はそう大したことは無い。
 基本的な訓練は定期的に受けているものの、あくまで嗜み程度である。
「大丈夫! 簡単な任務だからね。それに、UPC軍だって護衛に部隊をつけると書いてあるじゃないか」
 なら、私は必要無いのでは。
 心中でのその疑問は、上司の有無を言わさない笑顔によって表に出ることは無かった。
 具体的には、「受けてくれないと給料減らしちゃうよ?」といった笑顔である。
(「就職するところ、間違えたかな‥‥」)
 遠い目をしながら、メアリーは仕事を引き受けたのである。

 依頼当日、その任務自体は滞りなく終了した。
 問題は帰路で生じたのである。
「キメラの群れです!」
 同行していた兵士が報告したときは、すでに車両は囲まれていた。
「私が突破口を開く。君らは撤退し、援軍を呼んでくれ」
 UPC軍が派遣した護衛部隊には能力者は含まれておらず、装備もそこまで重装備ではない。
 遭遇したキメラを撃退するには十分でも、囲みを突破するには足りない。
 そんな中途半端な戦力を逃がすためには‥‥能力者であるメアリーが意地を見せるしかなかった。



(「うーん‥‥銃しか持ってこなかったのは失敗、だな」)
 回想しつつ、手持ちの武器を確認する。
 普段使っているゼロではなく、ハンドガンが一丁。残りの弾数も少ない。
 油断した、という表現がこの際はぴったりだろう。
 己の不明を笑いながら、メアリーは弾丸を補充する。
 と、ぽてぽてと間抜けな足音が近付いてきた。例のぬいぐるみキメラだ。
(「キメラでなければ、部屋に持ち帰りたいくらいだがね‥‥」)
 息を殺して、足音が遠ざかるのを待つ。
 気配も足音も消えたことを確認すると、メアリーは大きく息を吐いた。
「厄日だな、今日は‥‥」
 ふと、日付を思い出す。
 それが自らの誕生日と一致することに気付いた彼女は、思わず声を上げて笑いそうになった。
 必死でそれを抑え込み、少しだけ物陰から顔を出す。
 幸い近くにキメラの姿は見えず、指呼の距離に今いる場所よりは隠れるのに都合の良さそうな廃墟があった。
「帰ったら、一週間は有給を取ってやる‥‥!」
 果たして帰ることが出来るのかどうか。
 そのことは努めて考えないようにしながら、メアリーは瞬天速で廃墟の中へと身を移した。



「帰還途中の輸送部隊が襲われ、一人の能力者がそれを逃がすためにキメラの群れの中で孤立しています」
 リネーア・ベリィルンド(gz0006)が、集まった能力者を見渡して言う。
「孤立している能力者は、オペレーターのメアリー=フィオール。知っている人もいるんじゃないかしら?」
 能力者たちは顔を見合わせる。
 その表情はどちらかといえば、オペレーターが戦場にいることへの驚きの方が強いように見えた。
 ともあれ、依頼を引き受けてくれた能力者たちに、リネーアは改めて頭を下げた。
「忙しい時期に申し訳ありませんが、どうか助けてあげてください」

●参加者一覧

如月(ga4636
20歳・♂・GP
比企岩十郎(ga4886
30歳・♂・BM
九条院つばめ(ga6530
16歳・♀・AA
綾野 断真(ga6621
25歳・♂・SN
ヨグ=ニグラス(gb1949
15歳・♂・HD
クリス・フレイシア(gb2547
22歳・♀・JG
依神 隼瀬(gb2747
20歳・♀・HG
エルフリーデ・ローリー(gb3060
16歳・♀・FT

●リプレイ本文

●厄日
「弾はこれで最後‥‥か。やれやれ」
 メアリー=フィオール(gz0089)はため息をつくと、ハンドガンに最後のマガジンをセットした。
 リロード用の弾丸すら満足に持ち込まないというのは、戦場を甘く見過ぎていたのだろう。もっとも、オペレーターを本職とする彼女に、そういった心構えを説くのは少々酷かも知れないが。
 メアリーは今、廃墟の町の丁度中心辺りにある廃ビルに潜んでいる。
 幸いというのかどうか、ぬいぐるみキメラは建物の内部には滅多に入っては来ない。
 生殺しだな、というメアリーの自嘲めいた呟きが、崩れかけたビル壁に吸い込まれて消えた。

「‥‥本当にぬいぐるみです」
 ヨグ=ニグラス(gb1949)が、双眼鏡から目を離して感心したのか呆れたのかよく分からない声を出した。
 それを受けて、如月(ga4636)は肩をすくめて見せる。
「また変なキメラを作るもんですね、バグアも‥‥」
「まったくだ」
 手に負えない、とばかりに首を振ったのは比企岩十郎(ga4886)だ。
 何を思って、間抜けなぬいぐるみの外見にしたのか。
 参加した能力者たちの幾人かは、その疑問を持ったことだろう。
 しかし、エルフリーデ・ローリー(gb3060)はその愛らしい瞳を鋭く細めて喝破する。
「あの可愛らしい姿‥‥。本来は人の社会に入り込む為の擬態でありましょう」
「むぅ、あの可愛さでメアリー姉様を篭絡したですねっ!」
 その指摘にヨグが義憤を抱くが、目の付け所は少々ずれている様だ。
 篭絡、という言葉に苦笑しながらも、九条院つばめ(ga6530)は顔見知りのオペレーターの無事を祈る。
「‥‥そういえば、フィオールさんは今日が誕生日なんですか?」
「伺った限りではそのようですね」
 S−01のチェックをしながら、綾野 断真(ga6621)が答えた。
「折角の誕生日です。早く救出してあげたいですね」
「では、作戦が成功したら‥‥無事のお祝いも兼ねて誕生日会、ですね」
 彼の答えに、つばめはにっこりと笑って言う。
 誕生日会という言葉に、数人が興味深そうに目を光らせた。
「よーっし! そうとなれば、俺のシロガネでぱぱっと助けちゃいますよ!」
 ぱしんと両の拳を打ち鳴らせて、依神 隼瀬(gb2747)が傍らのAU−KVへと手を伸ばす。
 彼女の言葉を皮切りに、メアリー救出のために集まった能力者たちは動き出した。
「しかしまぁ、誕生日に敵中で孤立とは‥‥本当に期待を裏切らない人だね‥‥」
 ライフルの安全装置を解除しつつ、クリス・フレイシア(gb2547)がそっと呟く。
 何の期待であるかは定かではないが、軽口を言えるだけの信頼は抱いているということなのだろうか。

●一転吉日?
 ぬいぐるみキメラが、その外見に似合わぬ鋭い爪を振りかざす。
 それをガードで受け止めると、エルフリーデは裂帛の気合を込めてスパイラルレイピアを突き出した。
「子供や女性を狙う卑劣なキメラですわっ! 容赦など致しませんっ!」
 レイピアが一瞬赤く輝いたかと見え、その切っ先が深々と突き刺さる。
 踏み込んだ勢いのままにキメラの身体が浮き上がると、SESが咆哮し唸りを上げて細刃が回転した。
 それが致命傷となったか、キメラはびくんと震えると軽い破裂音と共に砕け散る。外見に似合わぬ生々しい破片が、少女の可愛らしいドレスに降りかかってしまった。
「‥‥大丈夫ですか?」
 断真はS−01をリロードする間に、ずーんと落ち込んでしまった少女へと気遣わしげに声をかける。
 涙目となっていたエルフリーデだが、気丈にも笑顔を作って顔を上げた。
「っと、この辺は大体片付いたかな?」
 そこへ、フットワークを活かして周囲のキメラを蹴散らしていた如月が戻ってくる。
 この三人はA班として、三つのビルの内の一つ、町の南東側の廃墟へと向かっていたのだ。
「ここに居てくれれば良いのですが」
 寂しげな廃ビルを見上げて、断真が呟く。
 ビル内へと入った三人は、慎重に探索を進める。そう広くは無いのが救いだ。
 心配したキメラとの遭遇も無く、最後の部屋へと乗り込む。
「‥‥こちらアルファー。外れ、ですわ」
 エルフリーデが少しだけ落胆したように無線機へと告げる。
「ま、救出は他の班に任せて、自分たちは‥‥周囲の安全確保、なんてどうです?」
 如月の提案に、断真とエルフリーデも頷いた。
 決まったならば動きは早い。三人は風の様にビルを駆け下り、キメラの掃討へと移行した。

 プリン色のAU−KVを纏ったヨグと、朱の槍を携えたつばめは、街の北西にある廃ビルへと向かっていた。
 移動中はキメラをやり過ごせたものの、廃墟の周囲には数匹がうろうろと歩き回っている。
 気付かれずに中に入ることは、少々難しいだろう。
「仕方ありません‥‥。少し強引に行きましょう」
「しずかーにヤルですっ」
 二人は顔を見合わせて頷き合うと、入口付近のキメラが一匹となった機を見計らって突撃した。
 つばめの紅槍がキメラの右脚を貫き、強引に穂先を流して切り捨てる。
 体勢を崩して地に伏せたキメラに、駄目押しとばかりにヨグがイアリスを突き立てた。リンドヴルムのパワーは、傷ついたキメラの命を容易く刈り取る。
 それを確認する暇もあればこそ、二人は入口から廃ビル内へと進入した。
「割と頑丈な気がするです」
 イアリスを握りなおしながら、ヨグが呟いた。
「仮にもキメラ‥‥ということでしょうかね」
「そんな相手にハンドガンだけって‥‥体張ってまで滑る事無いですのに」
 やれやれです、とため息をつくヨグ。
 その反応に、つばめは少しだけ吹き出しそうになる。メアリーという人物が、普段どういった評価を受けているのか。その一端を垣間見た気がしたからだ。
 気を取り直して、C班の二人は廃墟の探索を始める。
 だが、生命の気配の無いビル内では、結局メアリーを見つけることはできなかった。
「こちらチャーリー。フィオールさんはここでは無いようです」
 つばめが無線機に告げる。先ほどのA班からの報告と合わせれば、残るB班が本命ということだろう。

 そのB班は、町のほぼ中央に位置する廃ビルの前に居た。
 進入の妨げとなるキメラは、黄褐色の雄獅子となった岩十郎と白銀のAU−KVを纏った隼瀬、そして美しい金髪を腰まで伸ばしたクリスが、それこそあっと言う間に排除してしまった。
「‥‥手応えが無いねぇ」
 拍子抜けだ、と言わんばかりに岩十郎が笑う。
 予想していたパンヤでも何でもなく、実に生物的だったキメラの中身もその感想に一役買っているだろう。
「まぁまぁ、とりあえず中に入りましょう!」
 隼瀬が先頭を切ってビルへと入っていく。その後を追い、二人も埃臭い建物へと踏み入る。
 三人が上へと続く階段を目指して曲がり角に差し掛かったとき、不意に何者かの気配を感じ取った。
(「‥‥キメラ、かな?」)
 クリスは静かに深呼吸すると、意識を研ぎ澄ませていく。
 岩十郎、隼瀬と目で合図しあい、それぞれの武器を構えて一気に踏み出し――。
「‥‥人、か。驚かさないでくれよ」
 同様にハンドガンを構えていたメアリーと対面した。
「あー、こちらブラボー。お姫様は保護したよ」
 それはこっちの台詞だよ、と肩を竦めながら、クリスが無線機に呼びかける。
 呼応するように、キメラ掃討完了、という声が聞えてきた。
 それが聞えたのか、メアリーは傍目にも分かる程に気が抜けたようだった。
「お疲れ様、だな」
「ああ、ありがとう」
 岩十郎の労いに、ホッとしたような笑顔を返すメアリー。
 そんな彼女に、クリスは無言で肩を貸す。
「一つ貸し、だよ」
「‥‥ふふ。高くつきそうだな?」
 少しだけ驚いてから、メアリーはその好意に甘えることにした。
「さ、帰りましょ!」
 今度も隼瀬の先導で、四人は来た道を引き返していく。
 ビルを抜けた先には、他の五人の姿が見えていた。

●誕生日
 本部にて、報告書と始末書を提出させられたメアリーは、ようやくのことで解放された。
 ひとまずはご飯でも、とUPC本部食堂へ向かった彼女は、その入口でエルフリーデと対面する。
「お疲れ様でした、メアリーさん。温かい飲み物ですわ」
 そう言って、少女は甲斐甲斐しく紅茶を入れると、メアリーに勧める。
 思わぬ歓待に表情を綻ばせるメアリーは、少女の後ろで七人の能力者たちが何やら準備をしていることに、まったく気付けなかった。
 エルフリーデは少しだけ後ろを振り向き、軽くウインクする。
 それを合図に、食堂内に歌声が響いた。
『ハッピーバースデートゥーユー♪』
「な、なんだ!?」
 突然の歌声に、メアリーはやっと気付いた。
 如月のヴァイオリンに合わせて、彼女を助けてくれた岩十郎、つばめ、断真、ヨグ、クリス(彼女は若干口パクのような気がしないでは無かったが)、隼瀬の七人が、してやったりという表情でバースデーソングを歌っている。
 所謂、サプライズパーティーというものを能力者たちは企画したのだが、それは見事に成功したというわけだ。
『おめでとう!』
 歌の終わりと同時に拍手が打ち鳴らされる。
 その頃には流石にメアリーもその意味を理解したようで、やられたな、といった苦笑を浮かべていた。
 そんな彼女の前に、コックコートを着た如月がケーキを持ってくる。
「‥‥凄いな」
 鮮やかな薄紅に染められた、ハート型のケーキ。その皿には、チョコレートで羽の装飾があしらわれている。
 ケーキの上には、ホワイトチョコだろうか、それで作られた女性騎士が佇んでいる。
 風になびいているような髪は一本一本が細かく作りこまれ、遠くを見るような表情は職人技とも言える出来だ。
「このイメージは、あなた自身ですよ」
「身に余る光栄だ」
 もう少し時間があれば、もっと手の込んだものを作れたんですが。
 そう言う如月に、十分すぎる出来だよ、とメアリーは笑う。
「如月さんの後だと、何か見劣りしちゃいますけど‥‥」
 つばめがおずおずと差し出したのは、やはり手作りのクッキーだった。
「そんなことは無いさ。ありがとう」
 子供のように喜ぶメアリーの様子に、つばめもくすりと笑みが零れる。
「さてさて、飲み物も忘れてもらっちゃぁ困りますよ」
 岩十郎はワインにソフトドリンクにと、色々と持ち込んできたようだ。
 あるいは、自分が飲みたいというのもあるのかもしれない。
「おっと、お酒でしたら私もご用意していますよ」
 おもむろにシェイカーを取り出したのは断真だ。
 手馴れた手つきでホワイト・ラム、ブルー・キュラソー、ライム・ジュースをシェイクすると、カクテルグラスへとサファイア色の液体を注いだ。
「スカイ・ダイビング。九月の誕生石、サファイアをイメージしてみました」
 美しい青色に、メアリーの口から思わずため息が漏れる。
「おおー、綺麗な色なのです」
「ええ、本当に‥‥」
「はいはい、お子様はこっちこっち」
 食い入るようにカクテルを見つめるヨグとエルフリーデを、岩十郎がソフトドリンクの前へと誘導した。
 色は綺麗でも、立派なアルコール飲料である。
 子ども扱い云々、という抗議が聞えたが、何処吹く風の岩十郎だ。
「おっとっと、料理も無いと駄目ですね〜」
 如月は思い出したようにキッチンへと戻ると、次々に料理を運び出してくる。
 和食は刺身、焼き魚、漬物、洋食はシーザーサラダ、各種オードブル、スープ、中華はチャーハン、餃子、エビチリ、から揚げ等など、バラエティに富む品々でテーブルはあっと言う間に一杯となった。
 立食パーティの様相を呈した食堂の中で、能力者たちはそれぞれに談笑を始めだした。
「あの、メアリーさん?」
「ん? どうした」
 そんな中、隼瀬がこっそりとメアリーに話しかける。
 何事かと問い返すと、彼女は少しだけ躊躇したあと、懐からお守りを取り出した。
「ええと、これ‥‥俺の実家の神社で作ってるのだけど‥‥こんなのしか見付からなくて」
 嫌じゃなかったら、と続けた彼女の口を、メアリーはそっと人差し指で押さえた。
「嫌なものか。ありがとう」
「‥‥ちゃんと祈祷してあるし、効くと思う! ‥‥多分」
 最後の言葉は聞えなかったようで、メアリーはその「招福開運」のお守りを丁寧に仕舞う。
 お守りを手渡した隼瀬と入れ替わるように、岩十郎が現れた。
「結果的には、無事に助かった上に誕生日まで祝われる。上々の一日じゃないか?」
「ああ、そうだな‥‥。これで厄日などと言ったら、罰が当たりそうだ」
 笑いあう二人。ふと、メアリーの目に人の輪から外れているクリスが映った。
 失礼、と岩十郎に辞して、彼女の元へと歩み寄る。
 それに気付いたのか、クリスは手元のグラスを軽く掲げた。
「誕生日、おめでとう‥‥と、まだ言って良い歳だろう?」
 悪戯気な微笑みに、メアリーもまた笑い返す。
「その点はお互い様、さ。二日後、嫌になるほど言ってあげよう」
 二日違いで誕生日を迎える友人と、軽く乾杯を交わすメアリー。
 その後も、宴は滞りなく――未成年組の一部が、間違って酒類を口にして真っ赤になってしまうハプニングはあったものの――進んだ。
 終わり良ければ、の言葉通り、今日という日はメアリーの良い思い出となったことは間違いないだろう。
 尚、料理やケーキの経費は、メアリーが少しだけ頑張ってULTに回したそうである。
 具体的に言うと、彼女の給料からの天引きという形で。


 後日、ヨグからメアリー宛に封筒が届いた。
 中身はある動物園のチケットであり、添えてあったコメントは「これで本物のクマを見てきてください。ヨグより」。
 本気なのか冗談なのか分かりかねるプレゼントに、メアリーは苦笑するしかなかったとか。