タイトル:フィリップ研究室秋の陣マスター:瀬良はひふ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/13 04:41

●オープニング本文


「ドロームは遂にリッジウェイを出したか‥‥。第3の連中の労力も、これで少しは報われたか?」
 大規模作戦真っ最中にも関わらず、フィリップ=アベル(gz0093)は自らの研究室でのんびり新聞を読んでいる。
 ここ南米はインドから遠く離れているとはいえ、少々不謹慎と思う向きもあるかもしれない。
 だが、彼は己の分を弁えているだけなのだ。
「前線の奴らを思うなら、慌てず、冷静に、自分で出来る最善の思考を展開しろ」
 フィリップは常々、彼の助手たちや自らにもそう言い聞かせている。
 科学者たちの戦場は、デスクとコンピューターの上にこそあるのだ。
 閑話休題。

 ふと、フィリップは廊下から騒がしい足音が近付いてくることに気付いた。
 一人や二人ではない。
 何事かと思っていると、慌しくドアが開いた。
 入ってきたのは、フィリップ研究室にて彼の助手を務める数名の男女。
「騒々しいな。どうした?」
「博士! 是非とも見てもらいたい図面があるんです!」
 嬉々とした表情で、まだあどけなさの残る白衣の青年が懐から一枚の図面を出そうとして――。
「いーえ博士! こっちを先に見てください!」
 負けん気の強そうな赤毛の女性が、その脇からずいと身を乗り出した。
「キャシー、何するんだ!」
「アランこそ、ちょっと引っ込んでなさいよ!」
 途端ににらみ合いを始める二人。後ろでは、またか、と同僚たちが肩をすくめている。
 青年の名はアラン=ハイゼンベルグ、赤毛の女性はキャサリン=ペレーという。
 両者ともに元々整備部門だったのだが、フィリップに引き抜かれたという経歴を持つ、いわばフィリップの直弟子に当たる存在だ。
 そのため、どちらが一番弟子であるか、といったようなことで常に互いをライバル視している。
(「対抗意識を持つこと自体は、悪い話でないのだがな」)
 フィリップは瞑目して、しばらく二人の口喧嘩をさせるに任せる。
 こういうものは、上から止めるようなものではない。むしろ、エスカレートしなければ好きにやらせた方が良い、というのがフィリップの持論だ。

 五分ほどして、口撃のネタも尽きたのか互いに睨み合いに入る。
「‥‥で、ハイゼンベルグ君とペレー君は図面を持ってきた訳だな?」
 まるで子供の喧嘩だな、と思いながらフィリップは二人の間に入る。
「は、はい! えっと僕のはですね――」
「ちょっとちょっと! まずは私のから――」
 再び始まりかねない口論を、今度はフィリップが手で制する。時間の無駄になるからだ。
「科学者は、基本的に早い者勝ちだ。‥‥ハイゼンベルグ君、見せてくれ」
 悔しそうにそっぽを向くキャサリンを尻目に、アランは今度こそ勝ち誇った笑みで図面を取り出す。
 その図面は、どうやらKVのようだ。
「GF−M、アルバトロスです!」
「‥‥この機体、テンタクルスを下地にしてあるな? しかし、これは‥‥脱帽だな。着想は?」
 フィリップの素直な称賛に、アランは頬を赤くしながら説明する。
「え、ええと、博士がS−01とR−01から『マテリアル』の着想を得ていたので、僕もそれを見習ってみたんです」
「ふん、何よ。結局は機体も発想も博士の二番煎じじゃない」
「な、何だと!」
 キャサリンが噛み付く。
 アランもそれは自覚しているのか、二の句が継げないようだ。
 フィリップは少しだけ苦笑すると、キャサリンへと手を伸ばす。その手に、誇らしげに彼女は図面を手渡した。
「‥‥マテリアル用のオプション装備か。ふむ、ミッションパック? なるほど、作戦領域ごとの専用装備を用意することで、汎用機としての性格を更に強める腹か」
 良い発想だ、というフィリップの言葉に、キャサリンは胸を反らす。
「やっぱり、マテリアルの専用装備は私たちで用意しませんとね! ああ、早くロールアウトしないかしら、博士のマテリアル!」
「はっ、自分だって博士におべっか使ってるだけじゃないか」
「ななな、何ですって!? アラン、もう一度言ってみなさい!」
 またもにらみ合いに入る二人。
(「優秀な人材ほど性格に難がある、とは言うが‥‥」)
 フィリップは二枚の図面を見ながら、小さく息をつく。
 自分では、どちらかも見所がある、と思う。面白い発想だし、何より自分たちで練り上げた計画だ。
「おやっさんも動いているしな。‥‥クローラーだったか。負けるわけにはいかんだろう」
 ふと、メルス・メスの名物親分が脳裏に浮かぶ。珍しく、フィリップの中の負けん気が再燃した。
 見れば、呟いた彼に視線が集中している。
「この二つの案、能力者に意見を聞いてみる、というのはどうだ?」
 二枚の図面を指して言うフィリップに、アランとキャサリンは少しだけ戸惑ったように顔を見合わせる。
 だが、次の瞬間には闘志も露に向き直ると、力強く頷いたのだった。



●開発案一
『GF−M アルバトロス』
機体概要
 メルス・メス本社のあるチリは海に面した国であり、海防を考慮するのは以前よりの懸案事項であった。
 現状では提携関係にあるドロームのテンタクルスで賄ってはいるが、有事の際に他社のKVに頼りきりという状況はどうか、という懸念はかねてより存在していた。
 そのため一部若手技師が中心となり、テンタクルスを土台として考案されたのがこの『アルバトロス』である。
 テンタクルス特有の安定感と装甲はある程度継承しつつも機動力の底上げに成功した当機は、結果として陸上戦にも十分に耐えうる機体に仕上がっている。
 決して斬新とは言えないが、『アルバトロス』はメルス・メスの技術の習熟を示すものといえよう。

特殊能力
 ・水上・水中航行(低)
 ・簡易変形機構(特殊電磁推進とは排他)
  行動力を使わずに変形することが出来る。
 ・特殊電磁推進(簡易変形機構とは排他)
  アクセルコーティングを応用し、機体表面を電磁的に覆うことで水中での抵抗を軽減する。
  錬力消費で、水中での命中・回避・移動に+修正が入る。
   

●開発案二
『マテリアル用ミッションパック』
概要
 汎用機であるマテリアル専用にチューニングされた、各種作戦用のミッションパック。
 作戦領域毎の専用装備を装備することで、いかなる戦場においても使用に耐えうる性能を獲得することを目指す。
 現在考案されているのは以下の三つ。
・水中用ミッションパック
 マテリアル推奨装備。水中キットのマテリアル版だが、マテリアルが装備した時に限り各種マイナス補正が小さくなる。
・砂漠戦用ミッションパック
 マテリアル推奨装備。マテリアル用の防塵装置を装備することで性能が上昇する。
・空戦用ミッションパック
 マテリアル推奨装備。マテリアルが装備することで、飛行形態での性能が上昇する。

●参加者一覧

九十九 嵐導(ga0051
26歳・♂・SN
鯨井昼寝(ga0488
23歳・♀・PN
リチャード・ガーランド(ga1631
10歳・♂・ER
新居・やすかず(ga1891
19歳・♂・JG
砕牙 九郎(ga7366
21歳・♂・AA
守原有希(ga8582
20歳・♂・AA
桐生 水面(gb0679
16歳・♀・AA
神宮寺 真理亜(gb1962
17歳・♀・DG

●リプレイ本文

●アルバトロス=アホウドリ?
 フィリップ研究室に、再び能力者たちが訪れた。
 八人の男女は、普段見ることの無い研究室の中に興味深げな視線を送っている。
「さて、早速だが始めよう。ハイゼンベルグ君」
 フィリップ=アベル(gz0093)の声に、一人の青年が元気よく返事をしながら前に進み出た。
 最初の議題は、GF−M『アルバトロス』だ。

「アルバトロスに簡易変形機構を載せよう、という考えが凄いと思うわ」
 開口一番にそう言ったのは鯨井昼寝(ga0488)だ。
 海を愛する、という彼女は機体そのものよりも特殊能力に興味を持っているようだ。
「最近、いくつかのメーカーがその機構を新型に載せようとしているけど、そのどれもが比較的安価な機体でしょう?」
 ある意味では実験的なその機構を、敢えてアルバトロスのような中堅級の機体に搭載しようとする姿勢。
 昼寝は、そこに感心しているのだという。
「それに、水中用機体は変形の機会が多いのよ。凄く実用的だとも思う」
 軽くウインクをすると、アランは照れたように頬を赤くする。
「俺も簡易変形が良いと思うな」
 リチャード・ガーランド(ga1631)が賛同の意を示す。
「テンタクルスの上位機種ってコンセプトだと、やっぱり水陸両用。ということは、上陸戦を考えてこっちの方が有利かなってね」
「確かに、上陸戦では速やかな変形が求められますからね」
 そう言うのは新居・やすかず(ga1891)。
 現状では水中での性能を重視した機体が、他企業では主流というのが彼の考えだ。
 そこから見ても、水陸両用という運用、簡易変形というメリットは理適っていると思えた。
「更に言えば、水中での格闘戦においても十分な効果があるかと思います」
「ああ、うちもそれは重要やと思った」
 やすかずの指摘に、桐生 水面(gb0679)が我が意を得たりと頷く。
「スムーズに対応できるようになるんは、大きいと思うんや」
「同意します。水中用は武装が限られる。変形の効率化は、KVの対応力をぐんと引き上げられる、と」
 神宮寺 真理亜(gb1962)もまた、簡易変形機構を推すようだ。
「海戦で敵に接近された時、変形の隙が無いというのは大きなメリットですね」
 海の敵に対して水中での格闘戦を挑む機会は多く、その際に変形の隙を突かれることもまた多い、と守原有希(ga8582)は言う。
 そこへ、九十九 嵐導(ga0051)が手を挙げた。
「俺自身は海戦をやったことが無いから、的外れな意見かもしれないが‥‥単純に能力が底上げできて、移動力が上昇する特殊電磁推進ってのは、かなりの強みになると思う」
 必要に応じて能力を増強できるのは、それだけでメリットだと彼は言う。
「俺も電磁推進派だってばよ」
 砕牙 九郎(ga7366)は勢い込んで主張する。
「水中ってのは危険なとこだから、ピンチの時に少しでも生存率を上げられる能力の方が需要があると思うぜ?」
「そうだな。まぁ、消費錬力次第、といったところだが‥‥」
 嵐導と九郎の意見も説得力がある。
 性能は生存率と直結する要素だ。それを能力で補えるならば、確かなメリットとなるだろう。
「移動補正がつくなら、純粋に水中用の機体ば用意した方がよかとも感じますが」
 つまりは、電磁推進の特色をより濃厚に出来る高機動海戦機にこそ搭載すべきだ、と有希が言った。
 アルバトロスという機体に何を求めるのか。
 特殊能力に対する見解は、つまるところそれなのだろう。
「メルス・メスに求められていることを考えると、メンテナンスのし易さって重要よね」
 チリの情勢を考えれば、整備性の向上にも繋がるだろう簡易変形機構は望ましい。
 昼寝はそう言うが、その目は更に先を見据えるような、期待と好奇心で輝いているように見えた。
 現状ではなく、常に未来を目指すという彼女の姿勢は、既にアルバトロスの先を見ているのかもしれない。

「そうだ。少しばかり値段が気になるんだが‥‥」
 ふと、九郎がアランを見やって言う。
 それが気になるのは彼だけでないようで、嵐導と水面もじっとアランを見つめている。
「テンタクルスのパーツをいくつか流用できる見込みです。それ程高くはならない、と思うのですが‥‥」
 困ったようにアランは答える。
「価格に関して、我々は目安しか提示できない。決めるのは上だからな」
 少しだけ皮肉気に笑いながら、フィリップが助け舟を出した。
 企業である以上、利潤を出さねばならない。だが、安い方が需要は見込める。
 そのバランスを取って価格を決定するのは、やはり上層部の人間たちなのだ。
「ま、それは仕方ないが‥‥アルバトロスって名前は、こう、な」
 話が特殊能力から逸れたのを見て、嵐導が少しだけ気まずそうに言う。
「名前、ですか? 海鳥というのは海の魚を取るプロなので、それにあやかって付けてみたんですが‥‥」
 アランは、少しだけ残念そうに説明した。ネーミングには自信があったようだ。
 チリでの公用語、スペイン語では、広義での海鳥の意がアルバトロスに含まれる。
 だが、日本語ではアホウドリの意味なのだ。
(「ネーミングというのは、難儀なものだな‥‥」)
 その様子にフィリップは自身の記憶を思い出し、少しだけ笑った。

●汎用機としての素材
 少々の休憩を挟み、話題は変わる。
 マテリアル推奨装備である『ミッションパック』についてだ。
 これに関しては色々と考えてきた者が多いらしく、テーブルの上にはアイデアが書かれたメモが所狭しと並んでいた。
「マテリアルは前衛向けのKVだと判断する。よって、後衛にも対応できるパックがあれば、汎用機としての性格はより高まるだろう」
 真理亜はそう指摘し、アイデアとして電子戦、砲撃戦、狙撃戦といった支援戦闘用パックを提案した。
「電子戦用パックってのはうちも考えてん」
 水面がそう言って、アンチジャミングの能力を持たせるパックを提案する。
「ウーフーや岩龍とも重複するような機能があれば、ベストやね」
「‥‥残念ですが、実現は無理でしょう」
 アランに代わって前に出たキャサリンが、無念そうに言う。
 何でやー!? という水面に、フィリップが説明する。
「外付けの装置で何とかなる程、アンチジャミングは簡単な装置ではないのさ。ドロームで開発中のイビルアイも、R−01を全面改修してやっと電子戦に対応した機体だろう?」
 なるほど、と渋々納得する水面。電子戦機の有用性を考えれば、提案自体は理に適っているのだが、こればかりは仕方ないのだ。
「じゃあ、夜間戦闘用のパックなんてどうや?」
 気を取り直したように、彼女は案を提示する。
 文字通り、夜間などで有視界戦闘が困難な場合に対応するための装備だ。
 熱源探知などのセンサー類の強化、消音装置の搭載で、命中と回避の向上を狙う。
「恐らく可能です」
 メモ帳に記入しながらキャサリンはそう言う。
 気を良くしたのか、水面はこれでFRにも対応できるかも? とも言っていたが、流石にそれは無理だろう。
 まぁ、気休めにはなるかも知れない。そう思ったフィリップは、敢えて指摘はしなかった。
「後は、寒冷地戦仕様のパックとか」
「局地戦用というわけだな」
 そうそう、と水面は真理亜に頷いてみせる。
「それなら、ジャングル戦仕様なんてのも良いんじゃないか?」
 嵐導が意見を出す。
 具体的には、沼沢地や不整地踏破のための防水コーティングや足回りの強化だ。
「ジャングルだけでなく、熱帯戦全般の仕様として使えそうですね」
 やすかずが同意を示す。
 付け加えるならば、として放熱処理の向上や湿気対策も必要だろうと述べた。
 ふむふむ、とキャサリンはメモ帳へ記入する。
「局地戦仕様も良いけど、やっぱり戦闘用も捨てがたいってばよ!」
 九郎は豪快に笑いながら自らの案を出す。
 攻撃力と装甲を向上させるアーマードパックと、砲撃戦を意識したデストロイドパック。
「アーマードには小型ミサイル、デストロイドには長距離砲が付いてれば尚良いな」
「‥‥無理ですね」
 苦笑しながら、事実上の追加兵装となる案はキャサリンが却下する。
 アクセサリ部分にまでFCSを巡らせることとなるし、コストも嵩みすぎる。実現は無理だ。
「アーマードは攻撃と防御を底上げするのが精一杯でしょう。デストロイドも、命中を上げて、射程10以上の銃器の距離ペナルティを軽減するくらいなら‥‥」
 ただ、その場合は機体の固定や照準作業が必要となり、しばらくの間移動が不可能になるだろう。キャサリンはそう見立てる。
「うーん、もう少しライトな感じで、スナイパーパックなんて無理かな?」
 回避が下がってもいいから、命中を上げる感じで。リチャードがそう言う。
「ええ、それなら実現は可能でしょう」
「ならさ、ストライカーパックや爆装パックなんてのもどうかな!」
 高機動のブースターを追加することで、回避を向上させるストライカーパック。
 それならば可能だろうとキャサリンはメモに書き留める。だが、爆装パックは‥‥。
「後者は無理だな。外装のパックで装備力を上げるのは難しい上に、対地攻撃の命中を上げるにはFCSを弄らねばならん」
 フィリップが説明をする。
 残念、とリチャードは肩を竦めるが、すぐに気を取り直したようだ。
「ストライカーパックと似ていますが、強襲パックなどどうでしょう?」
 やすかずのそれは、ストライカーをより先鋭的にしたようなものだ。
 錬力を大幅に減少させるが、回避と攻撃を上昇させることが出来る。
 彼自身は、移動の向上や予備弾薬の搭載も狙っていたようだが、アクセサリで補うには機構が複雑すぎる、として却下されてしまった。
「純粋な戦闘面も重要ですが、もう少し補助的なものも重要かと思います」
「というと?」
 キャサリンが興味津々といった視線を有希へ送った。
 う、と多少気後れする有希。それを隠すように少し咳払いしてから、彼は自らの案を説明する。
「施設やインフラの応急処置などが出来る機能があれば、前線では重宝するはずです。後は、フレア弾を用いた爆破工作も出来れば、需要は相当かと」
「なるほど。工作用パックということですね」
 いそいそとメモ帳に書き込むキャサリン。それを少しだけフィリップが制した。
「施設の整備機能と、フレア弾での爆破工作は性質が違いすぎる。主目的を考えるなら、インフラと設備の修繕用としてしか使えないだろう」
 残念そうに有希がため息をつく。
 だが、ツルハシはドライバー代わりには使えないのだ。
「‥‥空戦一つとっても、その任務は空対空から対地まで様々です。皆さんが提案している通り、任務や戦闘様式に合わせてパックも細分化するとよか思いますよ」
「細分化、か」
 フィリップが有希の指摘に、ふむ、と少しだけ瞑目する。
 プレーンな機体に、任務に合わせた装備。そのコンセプトは、彼が考えたマテリアルの姿そのものだった。
「ついでに、おやっさん達のクローラー共々、換装型多用途機キャンペーンなんていかがです?」
「考えておこう」
 図らずもおやっさんの名を聞いたフィリップは、苦笑して答えるしかなかった。メルス・メス社はドローム社ほどではないにせよ、開発室同士が仲が良いとは限らないからだ

「そう言えば、肝心のマテリアルの性能はどういったものなんでしょう?」
 やすかずが質問した。
「ああ、俺も気になる。特に装備力がな」
 あるいはミッションパックの重量か、と嵐導も重ねて尋ねる。
 軽く頷いてから、フィリップが口を開く。
「マテリアルは、そう突出した性能は無い。だが、それだけに安定しているともいえるし、何も出来ないともいえる」
 そのためのミッションパックだ、と言ってから続ける。
「装備に関しては、それを実現できるだけは確保した‥‥つもりだ」
 そこまで言ってから、フィリップは少しだけ口をつぐみ、珍しく迷ったように口ごもりながら、更に付け加える。
「だが、アレはもう俺の手を離れた。最終的にどうなるかは、何も言えん」
 寂しげに笑うフィリップ。
 一研究者の辛いところだろう。ましてや、彼は本来メルス・メスの人間ではないのだ。
「‥‥そうだ、パック自体は複数装備できるのか?」
 湿った雰囲気になりかけた場を、嵐導の言葉が保つ。
「可能です。もっとも、外見はゴテゴテしたものになってしまうと思いますが」
 キャサリンがくすりと笑うと、その返答にリチャードが飛びついた。
「じゃあ、戦闘中のパージなんかも出来るかな?」
「‥‥無理でしょうね。装備にはそれなりに手間が掛かりますし、ワンタッチで取り外しが可能、というほど単純なものではありませんから」
 そっかー、と少年は残念そうに笑う。
「しかし、マテリアルか。汎用機ってのは結構だが‥‥水中用キットってのは必要なのか?」
 九郎がふと疑問を呟いた。
 餅は餅屋。水中用KVに任せるべきでは、ということだ。
「気持ちは分かるけど、絶対数が足りないのよ。既存機体を水中機として応用できるなら、手間も無いしね」
 昼寝が、どこか実感のこもった意見を言う。
 海戦でも活躍している彼女にしてみれば、その現状はやはり骨身に沁みているのだろう。
「いずれにしろ、なるべくリーズナブルにして欲しいものだ」
 真理亜の言葉は、恐らく能力者全員の気持ちの代弁かもしれない。
 努力しよう、とフィリップは笑って答えた。 

●若き鼓動。古き意地
 一部の能力者が心配していたような、アランとキャサリンの喧嘩は無かった。
 二人とも、流石にそこまで時と場を弁えないような人物ではない。
 今はどちらも、自らの机に向かって能力者の意見を少しでも実現できるよう奮闘中だ。
 能力者たちからの意見は、実に様々で興味深いものだった。
 そのうちどれ程を実用化できるかは分からないが、最大限に実現したい。
 若い技術者たちは、その一念で作業に没頭している。
(「新進気鋭、か」)
 その様子を見つめながら、フィリップは心中でごちた。
 理想と信念に燃える二人の様子は、かつてのフィリップと重なるものがある。
 メルス・メスで芽吹きつつある若い力に、自然と彼の顔が綻ぶ。
「だが、まだ負けんさ」
 小さく呟いて、彼は手元のディスプレイを見つめる。
 そこには、まだ設計段階のKVのモデリング図が静かに回転していた。