●リプレイ本文
●虫キメラ捕獲大作戦
大曽根櫻(
ga0005)、アガヤ=チェヴンドラ(
ga9952)、緑(
gb0086)の三人は、とある計画を練っていた。
「虫キメラを捕まえるガウ!」
目をキラキラさせながらアガヤが楽しげに声を上げ、緑も頑張ろう、と小さくガッツポーズをとる。
櫻はその様子を微笑ましげに見ながらも、内心では苦笑していた。
(「任務はキメラの殲滅なのですが‥‥まぁ、捕まえてから倒せば良いでしょう」)
「ところで‥‥どうやって捕まえるんです?」
緑は素朴な疑問を投げかけた。アガヤはうーん、と考え込み、何かを思いついたのかぱっと顔を上げる。
「餌で釣って、粘着シートでくっつけるガウ!」
これなら植木も傷つけないガウ! とアガヤは飛び跳ねて喜ぶ。
「甲虫の餌と言うと、樹液でしょうか。うーん、作り方は確か‥‥」
櫻の記憶に、おぼろげながら浮かび上がってきたのは子供の頃に読んだ『たのしいりか』の本だ。
何とか思い出しつつ、アガヤと緑にレシピを教える。
バナナと黒砂糖を煮込んで、ついでに蜂蜜を加えたものだ。
「後は粘着シートですね」
手作りの餌を煮込みながら、櫻が呟く。
だが、粘着シートはどうやって用意すればいいのだろう。
「やっぱり‥‥ネズミ捕り用のでしょうかね‥‥それかゴキブリ?」
「ね、ねずみ‥‥」
一瞬顔が引きつる櫻である。
だが、それを使うには大きさが問題だ。
量を使うにも予算的な問題があり、結局餌と一緒に接着剤も塗ってしまおう、という案に落ち着いた三人であった。
一方、メアリー・エッセンバル(
ga0194)とエメラルド・イーグル(
ga8650)は、庭園の見取り図を老人から借り受け、園内の経路のチェックに余念が無かった。
彼女たちは庭園の保護を最優先に、もっとも効果的な戦闘箇所、移動ルートを研究している。
「メアリー姉さん、イーグルちゃん、調子はどうっすか?」
そこへ煉威(
ga7589)を先頭にプルナ(
ga8961)と飛田 久美(
ga9679)がやってくる。
この三人は虫キメラを効果的に中央広場へ誘導できるよう、周りから追い込む係であった。
「大体終わりました。確認してみてください」
エメラルドが淡々と告げ、見取り図を三人に手渡す。
「わ、すっごく細かい書き込みですね〜。お二人とも凄いですっ」
プルナが感嘆するのも無理はなく、図には各種のルートから注意事項までが事細かに載せられていた。余程熱心に検討したのだろう。
「念のため、もう一度言っておくけど‥‥絶っっ対に乱暴に扱っちゃ駄目だからね!」
メアリーが煉威たちに無線を手渡しながら、鬼気迫る表情で念を押す。
彼女もまた庭師であり、その庭園にかける情熱は常人には計り知れないものがあるのだ。
「任せて! サッカーでは守備的MFやってるから、追い込むのは得意だよ」
久美は自信満々に請け負う。
だが、その内心ではメアリーの迫力に少しびくびくしていたのも事実であった。
実を言えば、他の何人かも同様の心境だったのであるが、これはまた別の話だろう。
●庭園防衛軍出動!
太陽が西に傾き、景色が赤く染まっていく。
庭園に潜む虫キメラも、もうそろそろ活動を再開するだろう。
そんな中、櫻、アガヤ、緑の三人は、中央の広場に誘き寄せの仕掛けを作っていた。
白いバスタオルに餌のお手製蜜をたっぷりと染み込ませ、ついでに接着剤もたっぷりと塗りたくったものだ。
ベンチの上に棒で吊るすと、それを照らすようにランタンもセットする。
庭園内の街灯は消してもらってあるので、そこだけが薄明るく光っている。
その出来に満足すると、三人は手近な植え込みの陰に隠れた。
「‥‥緑、眠いガウ?」
「寝てません、寝てません」
アガヤの問いに、緑が如何にも眠そうな顔で答える。彼の表情は元々眠そうなのだ。
「二人とも、お静かに」
櫻は口元に指を立て、二人を嗜める。
そして懐から無線機を取り出し、準備が整ったことを他のメンバーへと告げた。
――そして、虫キメラは動き出す。
最初にその動きに気付いたのはメアリーだった。
太陽が地平線の彼方へ姿を消し、ランタンの灯りのみが煌々と周囲を照らす中、彼女の耳は確かに人ならぬモノが蠢く音を捉えた。
「来るよっ!」
とっさに声を上げて身構える。エメラルドは即座に無線で追い込み班に連絡をする。
それと同時に、耳障りな羽音と共に三匹のキメラが中央の餌に向けて飛来した。
見事に食欲に忠実な奴らである。
「やれやれ、これじゃあ追い込む必要も無かったぜ」
その報告を無線で聞きながら、煉威が苦笑する。
出番を減らされた愛銃を見やりながら、中央へと疾駆した。
同様に、プルナと久美も駆ける。
程なくして、中央広場に八人の能力者が揃った。
同時に園内の街灯が点き、辺りは一気に明るくなる。
虫キメラはようやく異変に気付いたのか、ぎゅいぎゅいと慌てたように騒ぎ出す。
まず動いたのは櫻だ。
金髪碧眼に変貌した彼女は、手にした大きな魚釣り用の網を一閃し、見事に虫キメラを捕らえる。
「すごい‥‥」
鮮やかな手腕に見とれる緑。
だが、その間に残りの虫キメラは能力者たちの囲みから逃げ出そうと飛び立ってしまった。
どうやら接着剤程度では、キメラの拘束は難しかったようだ。
その時、銃声が園内に響く。
銃弾は過たず一匹の虫キメラの羽を撃ち抜き、落下させた。
「へへっ! どうだい俺の射撃の腕はっ」
硝煙をたなびかせながら、煉威が得意げに笑う。
「さっすがだねっ!」
落下途中のキメラを久美が拾う。
ジャンピングシュートさながらに思い切っきりキメラを蹴り飛ばすも、そのダメージは赤い障壁に遮られる。
だが、衝撃までは遮れるものではない。吹っ飛んだ先には、プルナが控えていた。
「ナイスパス〜」
プルナのゼロが見事に虫キメラを引き裂いた。
ハイタッチを交わす二人。
残りは一匹。
無我夢中で飛ぶその虫キメラが、植え込みに突っ込みかけた。
そこへ立ち塞がる人影。
エメラルドだ。
自身障壁で自らを文字通り壁と化し、虫キメラを受け止める。スーツに傷が付く。構わずキメラを振り払った。
「庭園を傷つけるキメラはぁ!」
メアリーが瞬天速で駆け込んでくる。
「お仕置きっ!」
恐ろしい勢いでガードが振り回され、キメラに激突する。
これが武器だったなら、一撃で粉砕されていただろう。
衝撃で空高く舞う虫キメラ。
「GooDLuck‥‥」
呟いたエメラルドの言葉に重なるように、煉威のフリージアが銃弾を放つ。
それがトドメとなり、虫キメラは動かなくなった。
「終わりですねっ!」
プルナが嬉しそうに言う。だが、終わりではなかった。
「!」
櫻が捕まえた虫キメラが、網を食い破って這い出てきたのだ。
「緑くんっ!」
応じて緑がキメラに迫る。
鋭い蹴りが放たれる、が、SESが付いていない。キメラは蹴り飛ばされるが、さしたるダメージは負っていないようだ。
武器を持たなかったことが災いした。緑は歯噛みするが、今は後悔するときではない。
それに、彼には仲間がいる。
「ワンツーリターン!」
久美が今度は、その手のファングでキメラを殴り返す。まるでボール扱いだ。キメラもたまったものではない。
「ガウっとやっつけるガウ!」
飛んできた虫キメラをアガヤのファングが捕らえる。
SESが唸りを上げ、最後の虫キメラを引き裂いた。
庭園へはさしたる被害も無く、キメラは退治された。
その死骸を片付ける途中、アガヤがじゅるりと涎をたらす。
「‥‥それにしてもこの虫、おいしそうガウ‥‥」
「だ、駄目っ! 美観的にも健康的にも駄目っ!」
不穏な空気を感じ取ったメアリーが、慌ててアガヤを死骸から引き離す。
平和である。
●老人と庭園
その翌日、キメラに多少荒らされていた庭園の修復を手伝ってくれた能力者たちに、老人は丁重に礼を述べた。
「ありがとう‥‥。わしの我侭で、不自由をかけてしまったが、本当に‥‥」
深々とお辞儀をする老人に、メアリーがはにかんだように笑って言う。
「そ、そんな。庭園は私の趣味で、生き甲斐で、生命活動の一環ですから! これだけのお庭、並大抵の努力ではできませんもの。私は一介の庭師として、あなたを尊敬します」
「確かに、とても綺麗な庭園です。被害を出したくない、というのもよく分かります」
エメラルドも応じる。
老人はその言葉に改めて礼を述べると、せめて今日一日はここでゆっくりして行ってくれ、と庭園内へ八人を誘った。
断る理由があるはずも無い。
「そうだ。折角ですから、ここでお茶でも楽しみませんか?」
「賛成っ!」
「俺もだ!」
櫻の提案に、久美と煉威が勢い良く答える。
では、と老人が管理室から紅茶とポットを持ってくれば、用意の良い櫻もお菓子を取り出す。
ちょっとしたお茶会の様相を呈してきた。
思い思いに皆がくつろぐ中、緑がぽつりと呟く。
「緑、好きだよ。リュイと同じ名前の、色だから」
「うん、ボクも〜」
プルナが微笑みながら言った。
「あ、ちょうちょが飛んでるガウ!」
アガヤの指摘に、皆がそちらを向く。
鮮やかに咲き誇る花々に混じって、踊るように蝶が飛んでいた。