タイトル:補給基地危機一髪マスター:瀬良はひふ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/06 07:14

●オープニング本文


 競合地域からやや離れたところに、UPCのとある補給基地がある。
 基地と言ってもその規模はただの中継地点といったもので、警備もさほど厳重ではない。
 後方から前線へ向けられる物資を一時的に保管し、物流の途切れを無くすための存在である。
 普段は至って平穏なこの基地に、ある日突然警報が鳴り響いた。
「何事だ!」
 浮き足立つ兵士を抑えながら、守備隊長が通信兵に仔細を問う。
「ヘ、ヘルメットワームが一機、前線を突破してこちらへ向かっている、とのことです!」
「何だと!?」
「正規軍のKV隊がスクランブルをかけたそうですが、僅かにHWの方が早くこちらへ到着します!」
 悲鳴に近い声で通信兵が報告する。
 守備隊長の決断は早かった。
「撤退だ! 例え一機だろうと、奴らにとっちゃ俺たちは的でしかない! 急げ!」
 突然の敵襲に守備隊は混乱しかけていたが、流石に彼らとて素人ではない。
 迅速に後方の基地へと撤退を完了させ、人的被害は皆無であった。

 補給基地がもぬけの空となってから程なく、HWが飛来した。
 しかし、それは破壊活動をするでもなく、何かを探すように基地上空を飛び回る。
 そしてある一点に達すると、黒い塊を投下した。
 直後、正規軍のKV隊が到着し、交戦状態となる。
 撤退しようとしたHWだったが、数の差は大きかった。
 間も無く、基地から少し離れた場所でHWは爆散した。



「‥‥以上が、昨日の夕方のことだ。報告くらいは、耳にした奴も多いのでは無いかな」
 オペレーターの言葉に、集った能力者の何人かが頷く。
 それを確認して、オペレーターは続ける。
「KV隊の報告によれば、その塊はキメラだったそうだ。地上に落下してすぐに、近くの倉庫へと入っていったらしい」
「つまり、そのキメラを退治して来い、ってことね」
 能力者の言葉に、そうだ、とオペレーターは答える。
「近々前線に向けて補給部隊が向けられる。そのときに、その基地が使えないと結構なロスになる。UPCは、能力者による迅速な排除が望ましい、と決定したそうだ」
 オペレーターは能力者たちの顔を見渡す。
 現状では、特に質問は無いようだった。
「詳細は配った資料を参照してくれ。‥‥そうそう、余り倉庫は壊してくれるなよ? 補給に支障が出るからな」
 任せろよ、と能力者たちは笑いながら本部を後にした。

●参加者一覧

風巻 美澄(ga0932
27歳・♀・ST
辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
稲村 弘毅(ga6113
23歳・♂・GP
ユアン・アルセイフ(ga7154
18歳・♂・FT
水流 薫(ga8626
15歳・♂・SN
リュドレイク(ga8720
29歳・♂・GP
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
オブシティン・バールド(gb0143
54歳・♂・DF

●リプレイ本文

●キメラバスターズ、集結
「アノマロカリスって、エビの仲間みたいなもんだろ? 食えんのかな」
 高速移動艇の中で、風巻 美澄(ga0932)が思いついたように言った。
 どうなんでしょうね、と辰巳 空(ga4698)が苦笑する。
「‥‥ん。エビ、食べたい」
 最上 憐(gb0002)が呟くように応じる。
 彼女は研究所での強化にお金を使いすぎたため、金欠を賄うべく今回の任務に臨んだのであった。
 装備を強化することは実に良いことだが、それも品による。
「そういえば、おぬしも報酬目当てでしたな。研究所で散財とは、幼いのに剛毅なもんですわい」
 憐に話しかけたのはオブシティン・バールド(gb0143)。
 彼もまた、報酬のために参加した能力者である。
 その言葉に頷きながら、憐がぽつりと漏らす。
「‥‥ん。強化しても量は増えなかった。美味しそうだったから期待してたのに」
「まさか、食べ物を強化したのかい?」
 驚いたように反応したのはユアン・アルセイフ(ga7154)だ。
 首肯する憐の顔は、少しばかり悔しそうでもある。私の期待感を返せ、といったところなのだろうか。
 思わず顔を綻ばせるユアン。
 彼だけでなく、他の何人かもその反応に吹き出すのをこらえかねていた。
 そんなやや緩い空気が機内を包む中、移動艇はUPCの拠点に到着した。
 そこは、今回の舞台となる補給基地、その更に後方にあるUPCの一大拠点だ。例の守備部隊が撤退した場所でもある。

 八人の能力者たちは、広大な滑走路の一角に降り立った。
「‥‥でけぇな」
 稲村 弘毅(ga6113)が思わずそう漏らす。
 ミリタリーマニアである水流 薫(ga8626)などは、本物の軍事基地の様子に目を輝かせている。
 そんな彼らの前に、一人の軍人がやってきた。
「君たちがラストホープからの傭兵かな?」
「ええ、そうですが」
 リュドレイク(ga8720)が答えると、その軍人は敬礼をしてから続ける。
「私は今回君たちが向かう補給基地の守備隊長、ガーランドだ。君たちには苦労をかけてしまうが、よろしく頼む。我々に協力できることがあれば、何でも言ってくれ」
「じゃあ、倉庫周辺の地図とか無いか?」
「ええ、後、倉庫内の配置図等もあれば欲しいです」
 弘毅とリュドレイクの言葉にガーランドは頷くと、八人を基地のブリーフィングルームへと案内する。
 室内へと入るなり、ガーランドは能力者たちにある紙を手渡した。
 どうやら手書きの地図のようだ。
「補給基地の配置図は、一応軍事機密なんでな。大っぴらに地図を渡すわけにもいかん。それは、大体の位置取りを私が手書きしておいたモノだ」
 その程度なら上も文句は無いだろう、とガーランドは言う。
「でも、これって‥‥何というか」
「‥‥ん。見づらい」
「悪いな。絵心ってのは持ってないんだ」
 薫と憐の寸評にガーランドは苦笑した。
「案外、倉庫内はすっきりしているんですね?」
 渡された図をじっと見ながら、空が指摘する。
 確かに、目ぼしい荷物は倉庫内に見当たらなかった。広々としたものである。
「ああ、今度の補給作業に備えて整理の真っ最中だったんだ。粗方終わった辺りで、ヘルメットワームのご登場ってことさ」
 そう言ってガーランドは肩をすくめる。
 倉庫内にキメラが侵入したということで、弘毅などは、倉庫の扉くらい閉めておけよ、と不満を持っていたのだが、その言葉で一応は納得した。閉める暇もなかった、ということなのだろう。
 ともあれ、情報は得た。
 後はキメラを仕留めるだけだ。

●その名はアノマロカリス
「それにしても、アノマロカリスか‥‥。バグアも何であんな変のモデルにしたんだろうねぇ?」
 補給基地へと向かう軍用車の中で、薫がそんなことを漏らす。
「さて。バグアの考えることは、わかりませんからね」
 応じてリュドレイク。
 空も不思議そうに言う。
「私はアノマロカリスって見たこと無いんですが、どんなのなんでしょうね」
「何か、奇妙なエビって意味の名前らしいですよ。奇妙奇天烈生物っていう、妙な分類って書いてありました」
「良く知っていますね」
 薫の知識に、ユアンが感心したように褒める。
 まぁね、と得意げな薫だ。事前に調べておいた意味はあったようである。
「大層な名前だけど、エビでいいよ。エビのキメラ。略してエビ‥‥いや、止めとこう」
「はっはっは! おりましたなぁ、そんな名前の怪獣が」
 運転席の美澄がタバコを燻らせながら如何にも面倒くさそうに言い、オブシティンが豪快に笑う。
「ったく、緊張感がねぇな」
 呆れたように弘毅が呟いた。
 基地は目前にまで迫っていた。

 軍用車から降りた能力者たちは、簡単に作戦の確認をする。
 問題の倉庫から、その西側の空き地へとキメラを誘い出し、叩く。
「ま、倉庫に被害を出さないって条件だ。妥当な作戦だろ」
「‥‥ん。誘き出すときも、倉庫に被害が出ないように用心する」
 アサルトクローを装備しながら弘毅が言えば、憐も自らの身長程もある弓を抱えて頷く。
「そいじゃまぁ、行きますか」
 美澄の一声で能力者たちは倉庫からキメラを誘き出す班と、空き地で待ち受ける班とに分かれて動き始めた。
 前者は空、薫、リュドレイク、憐。
 後者は美澄、弘毅、ユアン、オブシティン。
 狩りの始まりだ。

 倉庫の外壁沿いに四人は一旦集合する。
「まずは餌を撒きましょう。それで誘い出せるなら良し、駄目ならば」
「俺たちの出番ってことですね」
 空の言葉に、薫が不敵な笑みを返した。
 頼みます、と一言言うと空はその目を真紅に染めて行動を開始する。
 間も無く入口付近に、空の手によって撒き餌が施される。
 餌の種類は貝や魚の切り身など、能力者たちがアノマロカリスの好みでは、と用意したものだ。
 倉庫の屋根や倉庫内からは死角となる場所に隠れながら、四人はじっと身を伏せる。
 動きは無い。
「駄目、か」
 リュドレイクが呟いたとき、空がその身を屋根から躍らせるのが見えた。
 三階に相当する辺りの採光用の窓が開いており、そこから倉庫内へと侵入したのだ。
 しばらくして、窓からシグナルミラーの輝きがちらついた。
 間を置かずに薫とリュドレイク、憐が動き出す。
 探査の目を発動させたリュドレイクが先行して入口から突入し、薫と憐がそれに続いた。
「いた!」
 倉庫の奥で眠っていたのか、うずくまっていたアノマロカリスが、薫のその声に反応して緩慢に動き始める。
 だがキメラが動き出すよりも早く憐の弓と薫のスコーピオン、そしてリュドレイクのギュイターがその天然の装甲を爆ぜさせる。
 思いがけない目覚ましに、耳障りな奇声を上げながらキメラが勢い良く向かってくる。
 三人の狙い通り、注意を引くことには成功したようだ。
 即座に退いた三人を追って、アノマロカリスが入口を出たその時だ。
「おっと。この後のエスコートは、私の仕事ですので」
 空のエアストバックラーが強かにキメラの側面を打ちつけ、赤い輝きを纏いながら甲殻類は悶えるように身をよじらせる。
 安眠を妨げた邪魔者たちを見失い、その元凶となった一人の人間を前に、キメラは完全に怒り狂っていた。
 結果として、それは自ら死地へ向かうことに他ならなかったのだが、それを知る由などあるはずも無い。 

 その頃、西の空き地では残りの四人がそれぞれに身を伏せていた。
 仮にも補給基地だけあって廃材などがまばらに点在しており、身を隠すのには事欠かない。
 オブシティンを見れば、年齢を気にしてか念入りにストレッチをしている。
 目を転じれば、ユアンが何かを心配しているような顔をしていた。自分よりも年下の二人を案じているのだろうか。
 それぞれが思い思いにキメラの到来を待つ中、遠くから銃声の音が聞え、弘毅の無線に薫からの連絡が入った。
「来るぞ」
 言葉と共に弘毅の瞳孔が縦長になり、胸に幾何学模様が浮かび上がり始める。
 四人がそれぞれの得物を構えなおすと、リュドレイク、薫、憐の三人が空き地へと駆け込んでくる。
 その後ろには、キメラの攻撃をいなしながら確実に空き地へと誘導する空の姿があった。
 これからが本番だ。
「辰巳さん!」
 ユアンの声に、空は一気に後方へと跳び退った。
 アノマロカリスもそれを追って、空き地へと侵入する。
 その瞬間一斉に銃声が鳴り響き、次々とキメラの体に銃弾と矢が命中した。
 そのうち、薫の放った銃弾は貫通弾だ。フォースフィールドばかりか易々と甲殻をも撃ち抜き、凶悪な威力を見せ付ける。
 堪らずキメラはのた打ち回ると、苦し紛れに牙を振り回した。
「当たるかよ!」
 瞬天足でその側面へと回り込んだ弘毅が、アサルトクローを甲殻の隙間に突き立てる。
「どっこいしょお!」
 一足で間合いを詰めたオブシティンが牙をバトルアクスで受け止め、返す刀で大斧を振るう。特徴的な触手が千切れ飛んだ。
 悲鳴にも似た声を上げながら、キメラが向きを変えて突進する。逃げるつもりか。
「‥‥ん。逃がさない」
 瞬天足でその先に回りこんだ憐が弓を連射する。
 だが、止めるにはやや火力が足りなかった。
「危ない!」
 小柄な体が吹き飛ぶ直前に、ユアンが彼女とキメラの間に割って入る。
 鈍い音を立てて、刀がキメラの突撃を受け止めた。ぎり、とユアンは奥歯を噛み締めてその圧力に耐える。
 憐が離脱したのを確認すると、彼はすいと体を傾けてキメラをいなした。
 たたらを踏むように、キメラがバランスを崩してその動きを止める。
 その絶好のチャンスを逃すはずも無い。
「エビのくせにナマイキな! 天ザルのネタにしてやらぁ!」
 美澄が掛け声と共にエネルギーガンを発射する。膨大な電磁波が奔流となってキメラに襲い掛かった。
 過剰ともいえるダメージを受け、キメラは身じろぐ暇も無く息絶える。
 こんがりとした、見事なアノマロカリスの丸焼きが完成した。
「‥‥ん。おなか減った」
 覚醒を解いた憐は、いつも以上の空腹に思わず声を上げた。

●戦い終わって日が暮れて
「フゥ〜、疲れたわい」
 オブシティンが腰を下ろしながら、懐から水筒を取り出す。緑茶のようだ。
 辺りに妙に美味しそうな香りが漂う中、能力者たちは一時の休息に入った。
「倉庫、壊れなくて良かったですね」
 リュドレイクの言葉に、幾人かの能力者が頷いた。
「これの出番はありませんでしたが‥‥」
 空が自らの荷物を見て苦笑する。
 キメラを誘い出すためにルアーフィッシングの用具を持ち込んだは良いが、結局使う場面は無かったのだ。
「こういう事でも無かったら絶対アノマロカリスなんて見れなかっただろうし、ほんの少〜しだけバグアに感謝、かな?」
「バグアに感謝なんざしなくていいんだよ」
 吐き捨てるように言う弘毅に、薫がにひひと笑いをこぼす。
「‥‥ん。手当てする」
「え? あ、ああ。大丈夫だよ。ありがとう」
 憐が自らを庇ったユアンに声をかけた。
 ユアンは笑って腕をぐるぐると回して見せる。
 少しだけ、憐が笑ったように見えた。
「さぁて、帰るとしようか」
 吸っていた煙草を一際大きく吸い込んでから、美澄が言った。
 そのとき、彼方からエンジン音が響いてきた。
 八人が乗ってきた軍用車のエンジン音と同じものだ。
 何事かと車を止めた辺りに向かった彼らの目に、幾台もの車列が映る。
 その先頭車両が能力者たちの前で止まる。それから降りてきたのは、守備隊長のガーランドその人だった。
「能力者の諸君、君たちの協力に感謝する!」
 きびきびとした動作で敬礼をすると、ガーランドはその間に下りてきた兵士たちを指揮して基地内部へと入っていった。
 このタイミングで到着したということは、かなり前の段階でUPC基地を出発したことになる。
「‥‥あたしらが失敗するとは、思ってなかった訳ね」
「あいつらの戦いはこれから、ってことか」
 補給作戦が決行される日は近い。
 一気に活気付き始めた補給基地を後にして、能力者たちは帰還した。