タイトル:西海岸遭遇戦マスター:瀬良はひふ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/02/06 22:04

●オープニング本文


 偵察任務というのは、通信手段が限られる今次戦争においては非常に重要になっている。
 レーダーも遠距離になっては当てにならず、頼りになるのは光学での情報のみ。
「‥‥ま、それも光学迷彩なんてやられちゃなぁ」
『何か言った?』
 いや、と僚機へ返答すると、能力者はKVの狭いコクピットを目一杯に使って体を伸ばした。
 前線のKVの数は未だに十分とはいえず、こうやってラストホープの能力者が偵察任務に駆り出されることはそう珍しいことではない。
 彼ら八人は西海岸沿いにメキシコ方面に偵察を行い、無事にそれを終えて現在こうして帰路についているわけだ。
 後は帰るだけ。
 そうした多少の安息の時間を、唐突にアラートが打ち破った。
「何だ!」
『二時の方向、高速の飛行物体を探知。識別‥‥HW! 数、三!』
『こんな場所で‥‥』
『向こうさんも気付いたらしい。こっちに来るぞ』
 手元の計器類で、現在の速度と敵の速度を確認する。
 視界に入るのも時間の問題だろう。
「やれやれ。仕事熱心だねぇ」
『どうせ無人機だろ。ま、追加報酬ってことで』
『油断しない。こっちだって万全じゃないんだからね』
『おしゃべりはそこまでだ。‥‥見えたぞ』
 その通信とほぼ同時に三つの点が空に浮かび上がってきた。
 三機のHWは、丁度正三角形を作るような陣形で飛行しながらプロトン砲を放つ。
 光条を散開して回避した能力者たちは、空気を切り裂いてHWに迫った。

●参加者一覧

井筒 珠美(ga0090
28歳・♀・JG
白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
比企岩十郎(ga4886
30歳・♂・BM
周防 誠(ga7131
28歳・♂・JG
六堂源治(ga8154
30歳・♂・AA
美崎 瑠璃(gb0339
16歳・♀・ER
鷲羽・栗花落(gb4249
21歳・♀・PN

●リプレイ本文

●アラート!
 言ってみれば、それはアフターファイブと表現するのが一番近かっただろう。
 一仕事終えた安堵感と達成感、そして軽い疲労感。そういったものが混ざり合って、一種独特な空気を作り出していた。
 そんな雰囲気の中、ドクター・ウェスト(ga0241)は雷電のコックピットで一人くるくると十字架を回していた。
 如何にも気だるげな表情は、直後のアラートによって一変する。
『二時の方向、高速の飛行物体を探知。識別‥‥HW! 数、三!』
 岩龍改を駆る比企岩十郎(ga4886)が素早く状況を報告し、八人の能力者は軽口を叩きあう余裕を見せながら陣形を組み直していった。
「まったく、こちとら帰り際だと言うのにな。錬力の残りは‥‥まぁ、一戦闘ならもつだろう」
 岩十郎は錬力の残量をちらりと確認し、大儀そうに肩を竦めた。
 残りは大体半分といったところだ。他の者も、恐らく大差は無いだろう。
 彼がそこまで考えたとき、正三角形の陣形を取ったHWが姿を現した。
「平穏無事に終わるかと思ったが‥‥そうも行かなかったか」
『偵察任務の帰りに、なんて運が悪いですよね‥‥のんびりさせてほしいですよ、ほんと』
 白鐘剣一郎(ga0184)の呟きに、鷲羽・栗花落(gb4249)が応じる。
 栗花落の乗機は、鮮やかなブルーに染め上げられたロングボウ。実戦投入間も無い、ほやほやの新型だ。
『慣熟飛行に丁度いいと思った哨戒任務で、早速戦闘になるたぁね…』
 同様にロングボウを駆る井筒 珠美(ga0090)も、手早く火器管制をチェックし直しながらぼやいた。
『出会った以上は、きっちり全部海に叩き落としてやるんだからっ!』
 気合十分に声を上げたのは美崎 瑠璃(gb0339)である。
 彼女もまた、新しい愛機であるワイバーンでの初陣であった。
 そんな少女の気合に軽く笑いながら、六堂源治(ga8154)が返す。
『もちろんッス。こちとら、無事に帰すつもりは無いッスよ?』
『まいったね。皆、やる気満々じゃないですか』
 こちらもまたワイバーン、周防 誠(ga7131)が困ったように笑った。
『ヘヘッ。周防はやる気が無いんスか?』
『まさか』
 源治と誠が言葉を交わした瞬間、空に三つの光が生じた。
 反射的に能力者たちは操縦桿を傾け、八機のKVは一気に散開する。
「ああもう、こういうヤツラのサンプル拾って、さっさとFF中和装置を作りたい!」
 何故か苛立ちを露にしながら、ウェストが叫んだ。そのポケットの中で、十字架がチャリと音を立てる。
 正面から見て扇状に広がった八機は、時をおかず三つのグループへと再編されていく。
 井筒機・周防機・六堂機と、ウェスト機・美崎機・鷲羽機の二つの班が両翼に開く形で前衛を占め、その中央やや後方に白鐘機と比企機の二機が続いた。
『新型複合式ミサイル誘導システム、起動』
 早送りのように近付いてくる敵機を見据えながら、珠美は冷静に呟く。
『UK−10AAM、ロックオン完了』
 栗花落も同様にシステムを起動し、ミサイルの照準をHWへと合わせていた。
『『発射!』』
「おお、ロングボウ、流石に派手だな」
 二人の掛け声と共に、白煙が朱に染まり始めた大空を彩る。
 岩十郎が感嘆するのも無理はなく、ミサイルキャリアーとしてのロングボウ、その重攻撃機の名は伊達ではない。

●HWは小粒でも
 ロングボウの放ったミサイルは、新型複合式ミサイル誘導システムの威力か、遠距離をものともせずにHWへと喰らいついた。
 空に爆発の華が咲き、二機のHWがその花弁に埋もれる。
 その余波を避けるように、無傷の一機は急上昇していく。
 直後、損傷を負った二機も爆炎から抜け出ると、加速して互いに別方向へと離れていく。
 正面から見れば、その機動は正三角をそのまま押し広げるような動きだ。
『まったく、これ見よがしに加速してくれて‥‥』
『こっちは燃料が少ねぇッスからね‥‥上手く節約して飛ばねぇと‥‥』
 誠と源治はため息をつきつつも、敵が分散した機を見失わずに機首を向かって右手下方に向ける。
 僅かに遅れて、珠美のロングボウがその後に続いた。

 一方、ウェスト・瑠璃・栗花落の三機は向かって左手下方へと進んでいく。
「地上戦なら、バニシングナックルを叩き込んでやるところなのだがね」
 ちらりと雷電の主兵装を確認しながら、ウェストは手早く別の兵装を選択する。
 彼とロッテを組んでいた瑠璃は、少しだけ目を閉じて静かに深呼吸をした。
 空では初の実戦である。
 先日受けた模擬戦を思い出し、意識を機体の外へと広げていく。
「よーし‥‥行っくよ、Lapis! 新しいキミの力、奴らに見せてやろうっ!」
 愛機の名前を高らかに響かせて、瑠璃は徐々に近付く敵機を照準に合わせた。
『ふふん、頼もしいじゃあないか。我輩の攻撃にあわせたまえ〜!』
 不敵に笑ったウェストが、コレは効くかね? とG放電装置を発射する。
 発生した電磁波に捉われ、HWが明らかに体勢を崩した。
 見逃さず、ワイバーンがホーミングミサイルを発射する。
「やった!?」
『まだです!』
 炸裂した弾頭に瑠璃は声を上げたが、栗花落はその炎が揺れたことを見逃さなかった。
「ふん、やはり機械的だね。‥‥あ〜、なんかアイツを思い出してきた〜!」
 冷静にHWの機動を観察していたウェストだが、ふと目の前の敵とは対照的な連携を見せた強化人間を思い出し、苛立たしげに胸に手を当てた。

 同じ頃、剣一郎のシュテルンと岩十郎の岩龍改は急上昇した敵機を追っていた。
『周囲に他の反応無し。敵は三機で打ち止めのようだ』
「よし‥‥バックアップは頼んだ。ペガサス、エンゲージ!」
 後顧の憂い無しと判断した剣一郎は、一気に加速してHWへと突撃する。
 と、その瞬間を見計らったようにHWは反転してプロトン砲を放った。
 余裕を持って回避しようとした剣一郎だが、そこへ珠美と栗花落から泡を食ったような通信が入る。
『白鐘!』
『白鐘さん!』
 疑念を覚える間こそあれ、剣一郎は直感に従って操縦桿を力の限り引き、猛烈なGと共にシュテルンは進行方向に対して垂直に機動を変える。
 そのノズルを、三方向からのプロトン砲が掠めていった。
「三次元クロスファイア‥‥無人機とはいえ、侮れんな」
 上下以外に回避していれば直撃を貰っていただろう敵の反撃に、剣一郎は気を引き締めなおす。
「悪いが、最早窮鼠に噛まれるような油断はない‥‥喰らえっ!」
『おっと、我輩も忘れてもらっては困る。岩龍改、行くぞ!』
 シュテルンのG放電が無傷だったHWの装甲を焼き、そこへ岩龍改のスナイパーライフルが叩き込まれた。
 強い衝撃によって安定を崩したHWは、白煙を吹き上げながら高度を落としていく。

「流石、エースは違うッスね。でも、俺だって負けないッスよ!」
 恐らく敵の起死回生の一手だったろう三次元クロスファイア。それを難なく回避して見せた剣一郎に、源治は闘争心を刺激されていた。
『折りよく、敵は射程内ですよ。一つ、教育して差し上げましょう』
「合点!」
 ワイバーンとバイパー改からそれぞれにスナイパーライフルが発射され、弾丸は過たずにHWを穿つ。
 反撃のフェザー砲とプロトン砲が飛び、バイパーの装甲を少々焦がしたが、その程度だ。
『新型のデータ、早々に無傷で持って帰られても困るんでな』
 珠美のロングボウから、再び雨のようにミサイルが発射された。
 連続する爆発に大気が盛大に揺れ、HWが木の葉のように舞う。
「怯んだ‥‥! 吼えろバイパーッ! HWを喰らい尽くすッスよッ!!」
 源治の咆哮と共に、8式螺旋弾頭ミサイルがその翼を広げた。
 その先端のドリルは、最早回避する余力も無いHWを容赦なく抉り、炸裂する。
『おっと、遠慮は無用です。これも持っていってくださいね』
 駄目押しとばかりに、誠のワイバーンがブーストとマイクロブーストを発動させて一挙にその間合いを詰め、すれ違い様にソードウィングを叩き込む。
 半分に分割されたHWは、双方で小爆発を連鎖させながら太平洋へと消えていった。

『さて、遊びはここまでにしておこうか〜!』
 ウェストは興味が失せたとばかりに、猛烈な勢いでHWへと肉薄する。
 超伝導アクチュエータを起動し、更にはラージフレアまで使用した雷電はフェザー砲の弾幕を易々と掻い潜った。
「あたしだって負けないんだから! 必殺! ブーステッド・ミサイィィル!」
 瑠璃も負けじとマイクロブーストを起動し、ビギナーとは思えないマニューバで距離を詰める。
 必殺の声を上げたワイバーンから短距離高速型AAMが発射され、同時に雷電からも螺旋弾頭ミサイルとホーミングミサイルG−02が発射された。
 およそ避けられるべくもない距離から放たれたミサイルは、文字通りにHWの装甲を食い破った。
『よし、アジュール、トドメだ!』
 栗花落のロングボウのKA−01試作型エネルギー集積砲が閃光と共に光弾を放ち、後を追うように螺旋弾頭ミサイルが白い軌跡を描いた。
 集積砲の着弾で更に穴が空いたHWに、ドリルミサイルが殺到する。
『有象無象の区別無く、ボクの弾頭は容赦しない! ‥‥なーんてね』
「わ、何それ! かっこいいなぁ!」
 はしゃぐ少女たちの背後で、屑鉄と化したHWは黒煙を上げながら落下し、海面の手前で爆散した。
 
 一旦距離を置いた剣一郎と岩十郎は、再び攻勢に転じていた。
『今度こそ、安心して突っ込めばいい。後ろは任された』
「ああ、逃さんさ!」
 剣一郎はブーストを発動させて、見る間にその間合いを詰めていく。
 白煙を吹き上げるHWに向けて、岩龍改からスナイパーライフルが撃ち込まれた。
 着弾の度に踊るHWだが、それでも反撃のフェザー砲を打ち返す。
「見事な意地だが‥‥一気にケリを着けさせてもらう」
 洗練された操縦で弾幕を縫いながら、剣一郎はシュテルンのPRMシステムを作動させた。
 十二枚の翼が滑らかに稼動し、錬力が機体に流れていく。
 次の瞬間、常よりも輝きを増した高分子レーザーがHWを穿った。
 都合三箇所を貫かれたHWに、シュテルンが肉薄する。
 すれ違い様に剣一郎は機体を傾け、ソードウィングで真っ向からHWを叩き斬った。

●西海岸の夕暮れ
「敵全機の撃墜を確認‥‥各機、問題は無いか?」
 三々五々に編隊を組み直していく八機のKV。
 剣一郎の通信に、あるものは元気な声で、あるものは翼を振って応えた。
 さしたる被害も無く、錬力が切れたものもいない。
 不意の遭遇戦とは言え、この戦果は赫々たるものといえるだろう。
『三対八、か。まぁ、負ける筈が無いとは思っていたけどね〜』
 KVとHWの戦力比が三対一と呼ばれた時代は、少なくともラストホープの能力者にとっては、遠いものとなりつつあった。
 そのことと、能力者それ自体に関する思考とが絡み合い、ウェストは瞑目する。
『行きがけ、いや、帰りがけの駄賃にしては‥‥上出来だろうさ』
『ですね。偵察に上乗せで、報酬が増えるのは間違いないですよ』
 岩十郎が言えば、誠も冗談めかせて相槌を打つ。
 報酬が増える、という言葉に源治は手を叩いて喜んだ。
『くーッ! これは、今日は宴会ッスね!』
『ま、任務を終えた後の酒も悪くない‥‥か』
『おお! わかってるッスね!』 
 賛意を示した珠美に、源治が嬉しげに話しかける。
 微かに笑ってから、彼女は意地悪げに応えた。
『もちろん、きみの奢りだろう?』
『え゛!?』
『ああ、それなら自分も是非』
『我輩もご相伴に預かろう』
 ここぞとばかりに、誠と岩十郎も参加する。
 しどろもどろになった源治への助け舟は、意外なところから出された。
『とりあえず、早いところ帰りましょう。燃料も少ないですし、さっさと補給したいです』
 宴会するにしろ、それからってことで。
 そう綺麗に纏めたのは、栗花落だ。
「そうだな。基地に帰るまでが任務だ。最後まで気を抜かずに行こう」
『はーい、先生!』
「‥‥先生、か」
 瑠璃の返答に苦笑しながら、剣一郎は進路をサンフランシスコに向けると、しばし操縦をAIに委ねるのだった。