タイトル:【AP】春の暁に眠れマスター:瀬良はひふ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/17 02:25

●オープニング本文


※このシナリオはエイプリルフール専用の架空のシナリオです。CTSの世界観や設定は無視して作成されており、本編に影響を与える事はありません。

「巨大キメラだと!?」
「はっ! 恐竜のようなキメラで、全長はアースクエイクを上回る、と」
「馬鹿な。二十メートルを超えるというのか!」
 司令部に緊張が走った。
 唐突に現れた巨大キメラが、都市部への侵攻を開始したというのだ。
「KV隊はどうした!」
「そ、それが‥‥全滅したと」
「なんということだ‥‥」
 頭を抱え、基地司令はがっくりとうなだれた。
 その時、モニターにそのキメラの映像が映される。
 戦隊ヒーローの映画でもみるような気分だった。
「‥‥機甲師団には、敵の足止めをさせろ。一分一秒でも構わん。時間を稼げ、と」
「了解しました。ですが、足止めだけでは」
 言いかけた参謀を遮り、司令は首を振る。
「分かっている。軍人として甚だ不本意であるが、我々の最高戦力であるKV隊が敗れた以上、後は奴らに任せるしかあるまい‥‥」
「‥‥」
 その言葉に、参謀も無念そうに唇を噛み締めた。

「見ての通りだ」
 フィリップ=アベル(gz0093)が、集まった能力者を見渡して説明を終える。
「巨大キメラの侵攻を何としても止める。君たちの出番、というわけだ」
 力強く頷き、一斉に彼らは走り出す。
 その後姿を見ながら、フィリップは呟いた。
「頼んだぞ。地球の未来は君たちの手に委ねられている」

 某所にて。
「巨大キメラは順調に侵攻中です。戦車隊の砲撃による遅延も、想定の範囲内に収まっています」
「そうかい」
 キメラの行動をモニターしながら、白衣の男が楽しげに助手の女性の報告を聞いていた。
「恐らく、そろそろ能力者が現れる頃かと」
「ふふふ‥‥我に秘策あり、だよ。キメラを倒したときこそ、彼らの終わりさ」
 わくわくとした調子で話す男に、女性は少しだけため息をついた。



 ――メルス・メス、フィリップ研究室。
「アベル博士、って、寝てる‥‥?」
「‥‥最近、ずーっと不眠不休だったし、そっとしておきましょう」
「だな。たまには休まなきゃ、博士の身体に悪い」
 春の朝日が窓から差し込む、穏やかな一日の始まりであった。

●参加者一覧

煉条トヲイ(ga0236
21歳・♂・AA
西島 百白(ga2123
18歳・♂・PN
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
王 憐華(ga4039
20歳・♀・ER
アンジェリナ・ルヴァン(ga6940
20歳・♀・AA
赤宮 リア(ga9958
22歳・♀・JG
天道 桃華(gb0097
14歳・♀・FT
東青 龍牙(gb5019
16歳・♀・EP

●リプレイ本文

●キメラの体重は多分一万トンくらい
 バグアと人類との間に戦端が開かれて十余年。
 人類にとって最も身近となった脅威は、キメラであろう。
 ネズミ程度の小さなものから、それこそ怪獣とでもいうべき大きさのものまで、その種類は千差万別である。
 そして今、過去に現れたキメラと比べても十分に巨大と言えるだろうサイズのものが、悠然とその歩を進めていた。
 UPCによって『キメラザウルス』なる余りと言えば余りの名前を付けられたこのキメラだが、安直な名前とは裏腹にUPCの手には余る存在であった。
 正規軍の機甲部隊による決死の抵抗も、僅かばかりその進行を遅らせたに過ぎない。
 過去の戦闘により廃墟となったこの旧市街地を抜ければ、一般市民の暮らす新市街地は目と鼻の先だ。
 時は夜。
 空に浮かぶ赤みがかった満月は、まるでこの後に待つ惨劇を予兆するかのようにも見える。
 そんな不吉な予感を打ち砕くように光が夜空を切り裂き――キメラザウルスが咆哮を上げた。

 銀色のフレームに黒の装甲を纏ったミカガミ。『リレイズ』と名付けられたそのコックピットの中で、アンジェリナ(ga6940)が漸 王零(ga2930)へと通信を入れた。
「博士から話は聞いている。漸の機体も、変わったシステムを積んでいるらしいな」
『も、ということは汝もか。どういうものか、期待させてもらおう』
『見えました』
 二人のやりとりの間に、赤宮 リア(ga9958)がキメラの姿を確認する。
『大きい‥‥』
 王 憐華(ga4039)が思わず声を漏らした。
 キメラの大きさは、優に彼女らのKVの三倍に迫る。無理もないことだろう。
『‥‥面倒だが‥‥仕方ない‥‥か』
 ぽつりと呟いたのは西島 百白(ga2123)。
 彼の駆る阿修羅の背には、何とR−01の姿がある。
 さながら騎兵といった趣の機体を操るのは、東青 龍牙(gb5019)だ。
 音速を超えてキメラに接近する彼らにとって、目視できる距離など無いに等しい。
 それこそあっと言う間にキメラザウルスとの距離を詰めると、七機のKVはアスファルトを削って着地した。
『‥‥白虎の牙から‥‥逃れられると思うな‥‥』
『東青龍牙! 青龍神様の命により参りました!』
 百白の阿修羅『白虎』が吼え、龍牙のR−01『青龍』がその手の青龍刀・牙を巨大な敵へと向ける。
『我が刃は有象無象の区別無く、全ての業を断ち斬る。‥‥覚悟!』
 漆黒の雷電、『闇天雷』の操縦桿を握り締め、王零が叫ぶ。
『我が純天銀穹姫は、穢れを撃ち抜く白い華‥‥。最早、あなたに逃げ場はありません!』
 憐華の声にあわせるように、白銀のアンジェリカ『純天銀穹姫』のカメラアイが光る。
『この剣‥‥防ぐことなど不可能と知るがいい』
 リレイズの腕から高出力レーザーが発振され、光の軌跡を描く。
『我が熾天姫は、エデンに咲く赤い花。断罪の炎に焼き尽くされなさい』
 真紅のアンジェリカ『熾天姫』が、リアの声に合わせて巨大な荷電粒子砲を構える。
『『天』の道行く、愛と正義の美少女戦士! 天道 桃華(gb0097)が成敗してあげるっ!』
 通常とは異なるフレームを装備したバイパーの中で、桃華が元気に声をあげる。
 そんな七人の大見得が決まったところで、キメラザウルスが応じるように大きく吼えた。
 一人一人が思い思いの口上を述べる間、このキメラは大人しく待っていた訳である。
 きちんと様式美を理解している、というよりは、この場合には何か仕掛ける方が無粋というものなのだろう。
 その様子を、やや離れた高層ビルの屋上から観察する男の姿があった。
 夜に溶け込むかのような黒衣を身に纏い、仮面によって表情を窺うことは難しい。
 彼の名は『輝刃』。バグアの強化人間である。
 しかし、それは男の真実の名ではない。彼の本当の名前は、煉条トヲイ(ga0236)といった。

 正規軍を赤子扱いだったキメラザウルスだが、SugoiEnergySystem(すごいエネルギーシステム)、SESを搭載した能力者のKVの前では良くて同等といったところか。
 能力者に埋め込まれたエミタによって大脳辺縁系のインパルスを云々。簡単に言えば、感情を動力源に換えるというとんでもないシステムがSESである。
 そんなオーバーテクノロジーを開発してしまったスチムソン博士は、そりゃー面倒な説明責任を避けて住所不定の引き篭もりにもなろうというものだ。協力者のブレスト博士も、ストレス解消に鉄くずを作りたくもなるのかもしれない。
 開発者の苦悩はいざ知らず、何故正規軍のKVにはSESが搭載されないのかもさて置いて、七機のKVはキメラの巨大さなど意に介さないかのように戦場を駆ける。
『先制攻撃を仕掛ける』
『了解。SESフルドライヴ‥‥リレイズ、ADVENT!』
 闇天雷とリレイズのジェネレーターが唸りを上げ、黒と銀の輝きがそれぞれの機体を包み込む。
 ふわりと浮かび上がったリレイズの脇で、闇天雷が辺りを埋め尽くさんばかりのミサイルを発射する。
 その後を追うようにリレイズが飛び、すれ違い様に雪村で炸裂したミサイルの爆炎ごとキメラを切り裂く。
『狙い撃つ』
 そこへスラスターライフルが着弾し、焼き切れたキメラの鱗が更に弾け飛ぶ。
『システムの性能、見させてもらう』
『我らの粒子‥‥その眼に刻め!!』
『『バイヨネット・ブレイク!』』
 百八十度転換したリレイズとブーストで突撃した闇天雷がキメラに迫り、巨大な実体剣とレーザーブレードが交差する。
 左右の脇腹を掻っ切られ、キメラザウルスは苦し紛れに大きく手足を振り回す。
 それらを回避しながら距離を取る二機の後ろから、白虎と青龍が迫った。
『‥‥面倒だけは‥‥起こすなよ?』
『お任せを!』
 百白の言葉に力強く頷きながら、龍牙はガトリングを乱射する。
 大きな的に面白いように吸い込まれる弾丸は、分厚い鱗を削り取っていく。
 青龍という騎兵をその背に乗せているにも関わらず、白虎の動きは俊敏だった。
 雨のように排出される薬莢を軌跡にして、機械の獣がその爪を閃かせる。
「貴様など‥‥爪だけで‥‥十分だ‥‥」
 すれ違い様に叩き付けられたストライクファングが、キメラザウルスの左脚を大きく抉り取った。
 苦悶の呻きをあげながらも、キメラは口から巨大な炎塊を吐き出す。
 連続して着弾する炎を白虎は軽やかにかわすが、建造物に阻まれて一瞬動きが止まったところへ一際大きな炎が襲い掛かる。
 舌打ちをして衝撃に備える百白と龍牙だったが、その炎は二人の目前で弾けて消えた。
『無事ですか?』
 憐華からの通信と共に、戦闘機形態の純天銀穹姫が宙を駆け抜けていく。
 彼女の機体に搭載された広域エネルギーフィールドが、すんでのところで炎をかき消したのだ。
『今度は私たちの番ですね‥‥喰らいなさい! 虎龍満月斬り!』
 お返しとばかりに白虎が跳び、青龍が青龍刀・牙を大上段に振りかぶる。
 月光に煌めいた刃がキメラザウルスの鱗を食い破り、毒々しい血が飛沫いた。
『この機は逃さないよ! ビーストバイパー、ブーストぉ‥‥キャノン!!』
 桃華のバイパーが、背負った二連荷電粒子砲を撃ち放つ。
 ちりちりと大気を焼け焦がしながら迸った閃光がキメラザウルスの肩を真っ黒に焦がし、絶叫のような咆哮がビル街に木霊した。
 それに呼応するように大地が揺れたかと思うと、ビルの一つが見る間に崩壊し、その中から一機のKVが姿を現す。
「あの機体は‥‥!」
 王零が思わず絶句する。
 そのシルエットに、男は見覚えがあったのだ。
『ハーッハッハッハ! キメラ獣メガサウリアをこうも翻弄するとは‥‥流石だな、能力者』
『‥‥汝、何者だ!』
 唐突に届いた通信に、王零が問う。問わずにはいられなかった。
 何故なら、現れた機体は行方不明となった彼のかつての仲間、トヲイの雷電『羅喉星』だったからだ。
『俺の名前は『輝刃』。お前たちに死をくれてやる者だ!』
 嘲るようにその問いに答えると、羅喉星がブースターを全開にして突っ込んできた。

●敵だと強い、というのも様式美なのだろうか
 羅喉星と闇天雷。
 二機の雷電が激突し、火花が散る。
『く‥‥その声、やはりトヲイだな? 一体何があったというのだ!』
 性能はほぼ互角。だが、王零は敵の素性に気付いてしまったが故に、本気で当たることができないでいた。
『トヲイ? 俺の名前は輝刃だ。そんな名前は――知らん!』
 機体性能が伯仲している以上、その躊躇は命取りになりかねない。
 それが分かってはいてもどうすることもできない、というジレンマ。
『どうした。そちらが来ないというなら‥‥冥覇斬!』
 羅喉星のカメラアイが怪しく輝き、その翼が鋭い刃と化し意思を持つように駆動する。
 一際大きく振りぬかれたそれで闇天雷が体勢を崩したところへ、至近距離からのリニア砲が炸裂した。
『がはっ!』
『零!』
『零さん!』
 吹き飛んだ闇天雷の姿に、憐華とリアの悲痛な叫びが響く。
「ち‥‥面倒だな」
 迂闊に手は出せず、かといって相手は容赦なしという状況に百白はとりあえず距離を置く。
 アンジェリナは通信の内容から『輝刃』と名乗る敵の素性に薄々感付きながらも、リレイズを駆って羅喉星に飛び込んでいく。
 振り抜かれた雪村が、ソードウィングと噛み合って干渉の火花が散った。
『雪村を受け止める力場‥‥やはりSES搭載型かっ!』
『ふ、人類にしては気の利いたカラクリを仕込んであるものだ。助かっているよ』
『戯言を!』
『アンジェリナさん、下がって!』
 桃華の声に、リレイズが羅喉星を打ち払って間合いを取る。
『射線軸、クリア! いっけええええ!』
 間を置かず、ビーストバイパーの荷電粒子砲が発射された。
 しかし、羅喉星は腕を交差させてそれを受けきって見せる。
「嘘!?」
『‥‥次は俺の番だな。耐え切れるか? 竜王流撃破!』
 驚愕の叫びをあげる桃華を尻目に、羅喉星から8式螺旋ミサイルとパンテオンが雨霰と撃ち出された。
 爆炎の嵐が吹き荒れ、バイパーのビーストフレームは大きく傷付いてしまう。
『っこのぉ! 博士、早く次のフレームを!』
『心配するな。こんなこともあろうかと、既に送ってある』
 桃華の問いかけに博士ことフィリップ=アベル(gz0093)は、自信たっぷりにそう答えた。
 何が送られたかはすぐに判明する。
『バイパー、フレームチェンジ! タイガーフレーム!』
 高速で戦闘空域へ突っ込んできたのは、バイパーの換装フレームだった。
 傷ついたビーストフレームをパージすると、桃華は改めてタイガーフレームを装着する。
『形を変えた程度で何ができる。‥‥なんだ!?』
『このフレームを甘く見たあんたの負けよ! ‥‥行けっ! タイガークロー!』
 桃華の言葉とともに、肩や腕の増加装甲部分が分離し、自律飛行を開始する。
 それらは自在に宙を飛び回る自立型レーザー砲台であった。
 計八基のクローが、四方八方から羅喉星に向けてレーザーを照射する。
『小癪な‥‥!』
 流石に捌ききれず、羅喉星の装甲に傷がつく。
 それ以上に、無茶な回避機動で機体の体勢は大きく崩れていた。
『今です! 憐華さん、合わせてください! ツイン・エンジェル・バーストです!』
『わかりました!! リアさん、いきますよ‥‥ツイン・エンジェル・バースト!』
『『Grenze−Transzendenz!』』
 リアと憐華の紅白のアンジェリカ二機が羅喉星の周囲を高速で飛び回り、紅と白銀の六対の翼を広げながらDR−2荷電粒子砲、M−12強化型帯電粒子砲を叩き込む。
 集中した粒子ビームによって、さしもの羅喉星も耐え切れずに各所が小爆発を繰り返す。
『‥‥憐華、リア、合体だ!』
 羅喉星が動きを止めたところで、王零が二人に合図を送る。
 三機は一旦高空へ舞い上がると、ドッキングユニットシステムによって闇天雷の背面に熾天姫が、腰部に純天銀穹姫がそれぞれ変形して接続されていく。
 更にはSES同調システムによって三機のSESが共鳴し、トライSESドライブとして機体の出力を爆発的に向上させる。
 高火力砲撃機として圧倒的な火力を誇るこの形態は、ガーナーと呼ばれている。
『トヲイ、先に謝っておく。これは‥‥痛いぞ!』
 合体直後から、ガーナーはトライSESドライブによる大出力で急降下を仕掛ける。
 落下のGと相まって、その速度は易々と音の壁を突破した。
 急降下の間にも二門の粒子砲が羅喉星の装甲を焼く。
 そして地面スレスレで、ガーナーは三機に分離した。
『アン』
 闇天雷の機杭が、羅喉星の機体を大きくカチ上げる。
『ドゥ』
 空中の羅喉星へと、純天銀穹姫がM−12強化型帯電粒子砲を叩き込む。
『トロア』
 落下する機体を迎えるようにDR−2荷電粒子砲の砲身が突き出され、密着した上体で粒子砲が発射される。
『‥‥その隙逃さずぶった斬る!! ノッツチェインストライク!』
 駄目押しのように闇天雷が飛び、アブソリュートルインが恐ろしい勢いで叩き付けられた。
『ぐああああああ!』
 余りの衝撃に羅喉星は錐揉み状態で吹き飛び、その進路上にいたキメラザウルスを巻き込んでビルに衝突する。
 崩落したビルの瓦礫と土埃で視界が閉ざされるも、動く気配は感じられない。
『‥‥終わったか』
 フィリップの通信が響き、七人が肩の力を抜きかけた時、瓦礫を押し退けて羅喉星が立ち上がった。

●思ったよりも合体には人気が無いようだ
『‥‥やれやれ、あんな攻撃を受けても何とか無事とは、そこだけはバグアに感謝しないといけない、か?』
 苦笑するような声に、能力者たちは少しだけ構えを緩める。
『正気に戻ったか? トヲイ』
『些か荒療治に過ぎたとは思うが‥‥お陰さまでな』
 王零の声にしっかりした答えが返ってきたことで、ようやく七人は笑顔を取り戻した。
 トヲイはといえば、羅喉星のコックピットの中で、砕けた仮面を弄んでいた。
(「仮面が無ければ即死だった‥‥か?」)
 だが、そんな弛緩した空気も長くは続かなかった。
『っ! 煉条! すぐにそこから離れろ!』
『な、なんだ?』
 慌てたようなアンジェリナの言葉に、トヲイは羅喉星のスラスターを一気に吹かせて七人の側へと降り立つ。
 振り返ると、今まで彼がいた場所が不気味に振動していた。
『あれは‥‥!』
『キメラザウルスの体から高エネルギー反応。何だこれは‥‥』
『ヤッホー、能力者の皆、聞えるかな?』
 唐突に通信回線に割り込む声。
 場違いなほどに軽いその調子に、八人は眉を顰める。
『見事メガサウリアを倒した君たちに、良い事を教えてあげよう。そいつはね‥‥『死ぬと増える』』
 どういうことだと問い返す間もあればこそ、瓦礫が吹き飛んで六体に増えたキメラザウルスが咆哮をあげて立ち上がる。
 高笑いを残して消えた声に歯噛みをしつつ、八人は改めて巨大キメラと対峙した。

「こんのー! 再生怪獣は噛ませ役って相場が決まってるんだから!」
 タイガーバイパーを駆って、桃華が一体のキメラザウルスへと向かう。
 迫り来る炎をコテツブレードで切り裂き、タイガークローを打ち込んでいく。
 地味ではあるが、それは確実にキメラの生命力を削っていた。
「しつこい奴は嫌われるよ! タイガークロー、トドメいっけえええええ!」
 桃華の声に合わせる様に八基のクローがキメラの直上へと集合し、八本のレーザーが一つの束となってその脳天から地面に光の柱を突き立てた。

 同じ頃、百白は心底うんざりしたといった表情でため息をついていた。
「面倒だな‥‥白虎‥‥『リミッター解除』」
 呟きと同時に機体が獣から人の形へと変形していく。
 時間限定だが大きな戦闘力を得ることができる、所謂切り札の一つである。
 形態故に青龍は一旦背から降ろすことになるが、それを補って余りある攻撃力を持つのだ。
「‥‥もらった」
 百白は白虎を一気に駆け抜けさせると、キメラザウルスにその爪を突き立て、抉る。
 元々高い機動性が更に上昇しているため、まるでサンドバッグのようにキメラは翻弄されている。
 程無くして、キメラザウルスは力を失って地面に倒れ伏した。
「時間‥‥か」
 ほぼ同時に、白虎は人型から獣形態へと戻っていた。

 白虎から降りた青龍の中でやや苦笑しながら、龍牙もため息をついてた。
「お約束、ってやつですか!」
 言うなり、青龍刀・牙を大きく振りかぶってぶん投げる。
「喰らいなさい! 奥義! 竜の牙!」
 プロペラのような勢いで回転しながら飛ぶ大剣は、空気を逆巻かせながらキメラザウルスの一体を切り刻んで飛び、その後方でUターンして更に切り裂き、青龍の手元へと収まる。
 どこをどうすればあの剣がブーメランのように扱えるのかは分からないが、恐らくはSESの恩恵とかそういうものなのだろう。深く突っ込んではいけない。
 ともあれ、縦横無尽に飛ぶ大剣に対抗できるはずもなく、やがて首を跳ね飛ばされてキメラは沈黙した。

『‥‥闇天雷、外部装甲パージ』
 その言葉で、闇天雷の重厚な装甲が小さな排気音と共に切り離され、よりシャープな、そしてより攻撃的なシルエットを持つ機体が姿を現す。
 闇天雷・モードディアブロ。
 先ほどの形態を砲撃戦仕様とすれば、こちらは近接戦仕様とでも言うべきだろうか。
 装甲と同時に火器をも手放した今の闇天雷は、速度も段違いだ。
 圧倒的な速度でキメラザウルスとの間合いを詰めると、機杭とアブソリュートルインで、分厚い鱗をまるでバターか何かのように抉っていく。
 勝敗は明らかだった。

 アンジェリナはリレイズで宙を舞いながら、考えていた。
 桃華の言うとおり、増殖したキメラザウルスには最初ほどの脅威は覚えなかった。
 とはいえ、タフさはどうにも健在であるらしい。正面からやり合って、時間と体力を浪費するのは得策とは彼女には思えなかった。
「‥‥アドベント、オーバードライヴ」
 静かに紡がれた言葉に反応し、リレイズの胸部がY字状に展開する。
 機体を包む銀のエネルギーが徐々にその中心部へと集中していく様子に、本能的に危険を感じたかキメラザウルスは猛火を吐き出そうとして、それをリレイズのG放電装置によって挫かれた。
「リバイバル・ノア、アンリミテッド・シュート!」
 同時に生じた隙へ、超大出力の粒子砲が叩き込まれる。
 断末魔の悲鳴を上げる間もあればこそ、キメラザウルスは文字通り「消滅」した。

 リアの熾天姫が、真紅の機体と翼を煌めかせてキメラザウルスを翻弄する。
 戦闘機形態と人型形態とを巧みに使い分ける彼女に、キメラは振り回されていた。
 狙いもままならぬままに、レーザーが、ソードウィングがその体に傷を穿っていく。
 やけくそのように大量の炎を吐き出したその時、リアはその懐に機体を滑り込ませた。
 鈍い音と共に、突き出されたDR−2荷電粒子砲の砲身がキメラザウルスに突き刺さる。
「受けなさい‥‥天を衝く槍! ヘブンズ・ジャベリンッ!!」
 零距離からの粒子砲がキメラを体内から焼き尽くし、その命を消し炭にした。

『よぉし‥‥今度こそやったな!』
 明るい声で、フィリップからの通信が届く。
 しかし、ついさっきの復活劇を髣髴とさせるやり取りに、何か嫌な予感がするなぁ、と呟いた桃華を筆頭に八人は警戒を解いていない。
『おお、凄い凄い! 能力は変わってないはずなんだけど、随分あっさりと倒したね?』
 案の定そこへ、気持ちの問題かな? などと言いながら、再び謎の声が通信に割り込んできた。
『でも、本番はここからさ。じゃあね。健闘を祈ってるよー』
『待て! お前は一体‥‥!』
 けらけらと笑いながら途絶えた通信に、トヲイはだんとコンソールに拳を叩きつけた。
 その目の端に、何かが映る。
 視線を移した先では、再び倒されたはずのキメラの死体が、何かに吸い寄せられるようにして集まっていた。
「あれは‥‥」
 その中心にある『何か』に、トヲイの記憶の奥底が反応する。
 それが何か確かめる間も無く、死体が寄り集まって一瞬光ったかと思えば、更に巨大で醜悪な敵が出現していた。
『後から後から‥‥もう! しつこいにも程があるでしょ!』
 怒ったような桃華だが、その台詞には若干力が無いようにも思えた。
 だが、それも無理はないのだろう。
 新たな敵は、キメラザウルスの倍はあろうかという大きさに、両肩に巨大な砲塔をも備えた規格外の怪物であったのだ。

●春の朝の夢
『図体ばかり大きくても!』
 湧き上がりかけた恐れを胆力で捻じ伏せ、王零がアブソリュートルインを構え、突進する。
 巨大な剣は過たずにキメラの脇腹へと迫り、刃がその体に食いつく寸前で赤い光によって遮られた。
 反動で体勢を崩した闇天雷に、落雷のような勢いで巨大な腕が叩きつけられる。
 地面に叩きつけられる寸前、羅喉星で闇天雷をキャッチしたトヲイはブーストで距離を取りながら後ろを振り返る。
『フォースフィールドが強化されているのか‥‥!』
『物理が駄目なら』
『わたくしたちの出番ですね』
 憐華とリアが、その機体に搭載されたあらゆるエネルギー兵器を斉射する。
『あたしも忘れてもらっちゃ困るわ! タイガークロー!』
 八基の自律砲台が、四方からレーザーを照射する。
『そういうことだ‥‥。リバイバル・ノア!』
 リレイズの胸部から、再び極太の粒子砲が発射される。
 ほぼ同時に着弾したそれらの非物理兵器は、先ほどまでのキメラザウルスならば蒸発しかねないほどの光を発し、爆発した。
 しかし。
『きゃあ!?』
『桃華! くあっ!』
 収まらぬ光の中から大口径の砲弾が飛び、タイガーバイパーとリレイズとを相次いで捉えた。
『そんな、無傷なんて‥‥』
『いけない! 下がっ』
 呆然とする憐華を庇おうとしたリアが言い終わらぬうちに、辺り一面を覆い尽くさんばかりの巨大な炎の塊が降り注ぐ。
 避け切れずに直撃を受けた二機は、絡み合うように崩れ落ちた。

「一瞬で四機も‥‥」
 龍牙が、多少震える声で呟いた。
 明らかに、キメラザウルスとは次元の違う敵だった。
『ふっふっふ! どうだい、僕の自信作、ギガサウリアは!』
 三度通信に割り込む謎の声。
 メガの進化形態だからギガなのだとすれば、妙に安直なネーミングではある。
 得意げに続くキメラ自慢を聞き流しながら、トヲイは必死に記憶の糸を手繰っていた。
 そして、遂に該当の引き出しを開くことに成功する。
『コアだ! 奴の身体の中心にあるコアを破壊すれば!』
『そう、コアをやればーって、あれ? なんでバレたの?』
 少しばかり慌てたような声に、トヲイはニヤリと笑う。
『悪いな。俺は少し前までお前たちの手先だったのさ』
『‥‥参った。そりゃー予想外だよ。ちぇっ、これで五分五分だな』
 やはり唐突に通信は終わった。
『‥‥で、でも、どうやって核を‥‥』
『‥‥簡単だ』
 おずおずと切り出す龍牙に、百白が応じる。
『ぶち抜けば‥‥良い』
『そういうことだ』
 倒れた四機を回収し終えた王零が、力強く頷く。
『キメラ如きに遅れを取るわけには、いかないさ』
 トヲイも笑って同意すれば、気を失っていた四人が徐々に意識を取り戻し始めた。
『狙いは敵の核だ。‥‥俺の羅喉星が全弾をぶつける。その時、身体の一部分が一際強く光るはずだ。そこを狙え』
『待て、囮になるというのか? お前の機体は俺たちの攻撃を受けて』
 王零の言葉を制して、トヲイは羅喉星をギガサウリアへと向き直らせる。
『だからこそ、だ。何、王零たちの攻撃に比べれば、あいつの攻撃なんかどうってことないさ』
『‥‥煉条、お前の覚悟は受け取った。後は任せろ』
『おいおい、まるで俺が死ににいくみたいな言い方だな』
 アンジェリナにおどけて答えながら、トヲイはフットペダルを踏み込んだ。
 四連のブースターが唸りを上げ、ギガサウリアとの間合いを一瞬で詰める。
「遠慮するなよ‥‥全部持って行け!」
 雄叫びと共にミサイルが空になるまで撃ち放たれ、着弾とほぼ同時に羅喉星がキメラへと取り付く。
 爆炎を縫ってソードウィングが叩きつけられ、零距離からリニア砲が連射される。
 赤い輝きによってダメージこそ通っていないように見えたが、機体ごと押し込むかのような勢いまでは殺せるものではない。
 ふらふらとよろめいたギガサウリアの身体の左肩が一際強く輝いたのを、七人は見逃さなかった。
『博士!』
『任せろ』
 桃華はタイガークローを射出しながら、またしてもフレームを換装する。
 ヴァリアントフレームは、彼女のバイパーの切り札だ。
『タイガーソウル!』
 声と共に機体から粒子があふれ出し、それらがヴァリアントバイパーの残像を映し出す。
 もしも敵にレーダーがあれば、その一つ一つが質量を持っていることに気付いただろう。
 加えて、タイガークローも周囲を飛んでいる。
『思い通りになんか動かしてやらないんだから!』
 縦横無尽に機動するバイパーとタイガークローに、ギガサウリアは幻惑される。
 巨体ゆえにその動きには必然的に隙が生じる。
『そこだ! フォースナックル!』
 SESが咆哮し、フォースバリアと呼ばれる力場が拳に集中する。
 そのインパクトは絶大な威力で、ギガサウリアのフォースフィールドを揺らした。
『てやあああ!』
 そこへ、青龍が上空から急降下してきた。
 ガトリングの嵐がキメラの巨体を揺さぶり、落下のGと共に振り下ろされた。
 過たず、それはギガサウリアの左肩を直撃する。
『これで! 終わりです!』
 その衝撃で落下の勢いを相殺すると、龍牙はもう一度大剣を振りぬく。
 発生した衝撃波が、キメラの動きを止めた。
『‥‥終わりだ』
 呟きと共に、眩いばかりのレーザーが白虎から放たれる。
 フルチャージされた高分子レーザーは、銃身と発振器を焼き切りながらも遂に強化されたフォースフィールドに穴を空ける。
『私にできるのは、自身を、そしてリレイズを信じることのみ‥‥最期までそれを貫くだけだ!』
 大きな放電がギガサウリアの全身を包み、直後極大出力の粒子砲がこじ開けられた穴を穿ってキメラの左肩を消し飛ばした。
 コアを喪い、巨大キメラが断末魔の呻きをあげる。
『私たちの命』
『私たちの想い』
『『預けます!』』
 リアと憐華の二機のアンジェリカが合体し、一振りの巨大な剣と化す。
 その柄を握り締めながら、王零は力強く頷く。
『其は天‥‥衝き‥‥断ち‥‥斬る‥‥大刃なり‥‥我に断てぬ存在は無し!!』
 巨大なビームの刃が、圧倒的な熱量と光芒を以ってコアを喪ったキメラを跡形も無く消し去った。



『よし‥‥今度こそ終わっ』
『博士ストーップ! それ以上言わない!』
「‥‥はっ!?」
 びくっと震えて身を起こしたフィリップに、怪訝そうな顔でアラン=ハイゼンベルグが声をかける。
「博士、どうかしました?」
「あ、い、いや、何でも無い‥‥そうか、夢か‥‥」
 ぐっと背を伸ばせば、予想外に長く眠っていたらしく、あちこちが鈍い音を立てる。
「妙な夢だったな‥‥」
 呟いて、目の前のディスプレイを見つめる。
 溜まっている案件と自らの研究とを見比べてため息をつき‥‥その頃には既に、夢の内容は雲散霧消していた。
 余談だが、この日はラストホープでも妙な夢を見たという能力者が多くいた、ということである。