タイトル:すらいむ・いん・ぷーるマスター:瀬良はひふ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/15 20:23

●オープニング本文


「逃がすな、そっちだ!」
「あっ、このっ!」
 ある郊外の空き地で、六人の能力者たちが戦っている。
 相手はスライムの群れ。
 一匹一匹は大したことが無いのだが、数が多い。
「後何匹いるの〜!?」
「わからん、もう十五、六匹は倒したはずだが‥‥」
 スライムの発生場所はよりにもよって幼稚園の近く。
 何としてでも逃がすわけにはいかない。
「ああもう、弱いくせに数だけ多いっ! んっ! だからっ!」
 台詞の間に都合三匹を屠ったこの能力者もかなりの手練だ。
 決して彼らの腕が悪い訳では無かったのだ。
 強いて言えば、運が悪かった。

「ちょ、ちょっとアレ!」
 やっとのことで掃討完了といった矢先に、一人が慌てたように指をさす。
 その方向を見やれば、何と二匹のスライムが今にも幼稚園の敷地へ入らんとするところだった。
 恐らく、戦いが始まってすぐに群れから離れていたのだろう。
 能力者たちは慌ててその後を追う。
 距離はおよそ百メートル。間に合うか。逃げるスライムも必死だ。
「何でグラップラーがいないのよー!」
「スナイパーもいないってのは、ちょっと偏りすぎかぁ?」
 彼らの内訳は、ファイター三人のエクセレンター二人、エキスパートが一人。
 確かに、少々偏っている。
 だがそういう時も多々ある。愚痴っても始まらないのだ
「へいへい、近接エクセレンターで悪ぅございましたっ!」
「無駄口叩く暇があったらスピードアップ!」
 オリンピック選手も真っ青なスピードで六人は駆ける。
 だが、スライムがやや早かった。

 ぽちゃん。

 そんな音と共に、スライムの姿が消えた。
 幼稚園の入り口のすぐ傍には、プールが備え付けられていたのだ。
 能力者たちがプールサイドに駆け込んだ時には、既にスライムは水の中であった。
「げ、マジかよ‥‥もう水が張ってあるぞ」
「やー、そろそろ初夏だもんねぇ」
「悠長なこと抜かしてる場合か。どうすんだこれ、見えないぞ」
 半透明のスライムである。
 水の中に入ってしまえば、その視認は著しく難しくなる。
 ガラスのコップを水の中に入れたのを想像すれば、多少は理解してもらえるだろう。
「そうだ、水を抜けばいいんだ!」
「アホか。排水溝から逃げられたら、今度こそ完全に逃げられるぞ」
「漫才やってないで‥‥どーすんの、これ」
 六人がうーん、と唸る中、唐突に幼稚園の校舎から黄色いざわめきが聞え始めた。
 何かと見やれば、園舎の窓には園児の顔、顔、顔。
「え? え? 避難完了って話じゃなかったっけ?」
「‥‥今までキメラのキの字も知らないような地域だし、気休め程度のお達しだったんじゃないか?」
 唖然とする彼らに、園児たちの好奇の視線が突き刺さる。
 流石に先生たちは事情を知っているようで、外には出さないようにしてくれているらしい。
「まぁ、俺らがここにいる以上、スライムもプールからは出てこないけどさ‥‥」
「攻撃手段が無い。いや、無いわけじゃないが、流石に園児たちの目の前でプールを壊すのも、なぁ?」
 その言葉に六人は、うんうん、と頷きあう。
「超機械があれば炙り出せるかも?」
「ああ、その手があった。って、誰か持ってんのか?」
 今度は対照的に、全員が首を振る。
 駄目じゃないか、と問うた一人ががっくりと項垂れる。
「‥‥仕方ない。本部に応援を頼もう」
 それしかないかぁ、と能力者たちはため息をついた。



「と、いうことで」
 集まった能力者たちの前で、オペレーターが言う。
「スライムが二匹、幼稚園のプールに逃げ込んでしまった。その駆除を頼みたい」
「依頼主はその六人?」
「そうだ。結構な手練のはずだが、今回は運が無かったようだな」
 運ねぇ、と能力者の一人が呟いた。
「ともかく、水の中のスライムは視認が難しいそうだ。超機械を以ってしても、早々当たると思うなよ?」
 念を押すオペレーターの言葉を背に、能力者たちは本部を後にした。

●参加者一覧

リチャード・ガーランド(ga1631
10歳・♂・ER
エレナ・クルック(ga4247
16歳・♀・ER
リネット・ハウンド(ga4637
25歳・♀・BM
ティーダ(ga7172
22歳・♀・PN
エステル(ga8754
25歳・♂・DF
飛田 久美(ga9679
17歳・♀・GP
中岑 天下(gb0369
19歳・♀・GP
鴉(gb0616
22歳・♂・PN

●リプレイ本文

●準備は万全?
「地引網は流石に無理でしたね〜」
 エレナ・クルック(ga4247)が困ったように笑う。
 ティーダ(ga7172)が応じて口を開いた。
「代わりに鳥獣捕獲用のネットをお借りできました。代用するには十分でしょう」
「スライムの好物も聞けたしね」
 鴉(gb0616)がその手の袋をポンと叩きながら言う。
 基本的にスライムは雑食らしい。
 食べ物ならば何でも良いだろう、というのが回答だった。
 スライム漁でも始めるのか? というオペレーターの苦笑を三人は思い出した。
「スライム漁か。案外言い得て妙かもしれませんね」
 ティーダが淡々と言えば、エレナも笑いながら同意を示す。
 プールに隠れたスライムを退治する能力者たちの作戦は、つまりそういうものであった。
 目的地の幼稚園はもう目の前だ。
 先行した仲間と合流するため、三人は少しだけ速度を上げた。

「依頼主の六人は、それぞれ持ち場に戻られましたよ」
 リチャード・ガーランド(ga1631)が合流した三人に向かって告げる。
 幼稚園内のプール、その四隅のうち二つにはそれぞれ飛田 久美(ga9679)、中岑 天下(gb0369)が既に待機していた。
 これにティーダと鴉が加わり、グラップラー四人でもってプールの四隅を固める。
 この布陣ならば、余程のことがあってもスライムに逃げられることは無いだろう。
「それにしても」
 と、天下が後方を見やる。
 釣られてそちらを見やった能力者たちに、園児たちの興味津々の顔が飛び込んだ。
 子供たちは更に増員された正義の味方に、今にも騒ぎ出さんばかりである。
 先生たちが任務の邪魔にならないよう、必死に宥めている様子が見えた。
「あたしたちの活躍の見せ所だね」
 久美が小さくガッツポーズをとる。
 と、能力者たちが自分たちを見つめているのに気付いたのか、園児の一人が「がんばってー!」と声を上げる。
 それを皮切りに、黄色い声援が能力者たちに飛んだ。
「じゃ、始めますか!」
 そんな賑やかなムードに包まれながら、リネット・ハウンド(ga4637)の号令でお手製の網がプールに投げ入れられる。
 地引網漁よろしくその網を引くのは、リネットとエステル(ga8754)だ。
 二人がそれぞれに両端を持ち、今まさにスライム漁が始まろうとしていた。

●すらいむ・いん・ぷーる
「せーの!」
「ふっ!」
 リネット、エステルの両名が慎重に網を引き始める。
 細波に揺れる水面は、太陽の光を受けてまばゆいばかりの輝きだ。
 その中にいるスライムの様子など、わかりようもない。
 リチャードはエネルギーガンを携えながら、じっと水中を見据えている。
 不意にふっと一つ息を吐き出して、リチャードは軽く頭を振った。
 もとより、目視で探すのが目的では無いのだ。そう考え直して、彼は網の行方に目を移した。
(「また厄介なとこに逃げてくれたわね」)
 プールの一角を固める天下は、心の中でそう呟いた。
 瞳と髪を鮮やかな深紅に染めた彼女は、考えていた。
 自分がスライムなら、この状況でどう動くだろう、と。
 だが、答えを出すには時間が少なすぎた。
「‥‥?」
 網を引いている途中、リネットは妙な手応えを感じた気がした。
 ちらりとエステルを見やる。彼もまた、リネットに視線を送っている。
 スライムか。
「かかった!」
 判断と同時にリネットは声を上げた。
 この機を逃すまいと、二人は一気に網を引く。
 勢い良くプールサイドに放り出された網は、キラキラと水飛沫を巻き上げながらぺしゃりと広がった。
 だが、そこにスライムの姿は、無い。
「‥‥やっぱり、急造の網だと底にへばりついたスライムは難しいですね」
 リネットが唇を噛みながら言う。
「ちょっと、焦った」
「大丈夫大丈夫! まだまだ作戦はあるんだからね!」
 自戒するように呟くエステルに、久美が声をかけた。
「大体の位置は分かりました。プールのほぼ真ん中、十メートルですね」
 二人が網を引いた位置から、ティーダはそう推測した。
 だが、推測で攻撃するわけにも行かない。
「となれば、次は鴉さんの出番ですね」
「任せてくれ」
 エレナの言葉に、鴉が待ってましたとばかりに身を乗り出した。
 スライム包囲網は確実に縮まっている。

 鴉は懐から一枚の木切れを取り出し、おもむろにプールへと放った。
 それを的に、照明銃を炸裂させる心積もりなのだ。
 光の屈折の僅かな違いから、スライムの影を読み取ろうという計画だった。
「それじゃ、そろそろ撃ちますんで」
 照明銃を構え、鴉は周りの味方にそう告げる。
 晴れた日中とはいえ、照明銃の光量は直視するには辛いものがある。
 如何に能力者といえど、心構えがなければ目を瞑ってしまうだろう。
「ちょっと待って!」
「何です?」
 不意に久美が呼び止める。
 鴉が銃を下ろしたのを確認すると、彼女は園舎に向き直って声をかけた。
「みんなー! これからちょーっと眩しくなるから、いちにのさん、で目を瞑るんだよー!」
 なるほど、と鴉は首肯する。
 確かに、離れているとはいえ、子供が直視すれば少々不味いかもしれない。
 園舎から返ってくる元気な返事を聞きながら、エレナも感心した。
 天真爛漫な観客たちには、ほんの少しでも怖い思いをさせたくは無い。
 それはこの場の能力者たちの総意だろう。
 久美の意を汲んだリネットが、鴉に視線で合図をして声を上げる。
「じゃあ行くよ! いち、にーの、さん!」
 きゃー、という子供たちの歓声と共に照明銃がその特殊弾を撃ち出す。
 狙い過たず木片に当たった弾丸は、信管を作動させてその閃光を解き放った。
「くっ」
 十メートルほどの距離があるとはいえ、流石にその光は眩しい。
 天下は思わず目を細める。
 だが、シュッという間抜けな音と共に光は唐突に消えた。水中に弾が没したのだ。
 光っていた時間は一瞬と言っていい。
「どうです?」
 リチャードが問う。
「うーん、ちょっとわかりません‥‥」
 無念そうに言うのはエレナだ。
 彼女の視線を受けた天下が、無言で首を振る。
「二コースの十メートル付近です。恐らく、ですが」
 と、ティーダ。
 先ほどの地引網の時に掴んだ位置、その辺りを重点的に見ていたのが幸いしたのだろう。
 もっとも、その情報は他のメンバーも把握しているのだが、そこは流石に情報の出所といったところか。
「私も、その辺りに妙な影が見えたように思います」
 そう言うのはリネットだ。
 エステルも同意見のようで、頷いている。
 二人は地引網の汚名返上を期して、それこそ目を皿のようにしていたのだ。
「うーん、あと少しだね」
「そうですね」
 久美の言葉に鴉が応じる。
 大体の場所はつかめたのだ。
 焦る気持ちを抑えながら、能力者たちはそう自分に言い聞かせる。
 ここで逸って攻撃をしても、恐らく当たるまい。そんな気持ちが八人にあった。
 だが、そこには多少のストレスがあったのも事実だ。
 ――このイライラは、スライムに。必ず。
 八人の心中には、こんな想いが醸成されつつあった。
 ここは地獄の一丁目。曲がり角を曲がってすぐに、能力者たちが歓迎の宴を用意して待っている。
 スライムは今、そんな場所に存在した。

「じゃあ、次は私の番ですね!」
 エレナがずいとプールサイドに足を踏み出す。
 その手の袋の中にあるのは、生肉や魚の切り身、ニンジンやキュウリといった食べ物の数々。
 狙いは二コースの十メートル付近。
 えい、と小さな掛け声と共に、エレナはそれらの食べ物を次々と放り込んだ。
 水音が鳴り、食べ物が水底にぽとりと落ちる。
「何で、野菜も?」
 エステルが不思議そうに言った。
「ベジタリアンなスライムも、いるかもしれないですから〜」
 笑いながらエレナが答える。
 そんなものだろうか、とリチャードは心中で苦笑した。
 異変は、その後すぐに起こった。
 生肉とニンジンが、微妙に揺れているのだ。
 他の品を見る。動いていない。
「見つけたぁっ!」
 リネットが叫ぶや否や、その体を灰色の毛が覆い始める。
 同時に、瞬速縮地で彼女はプールに突入する。
 盛大な水飛沫が上がり、獣人と化した彼女の体が白い飛沫に隠れた。
 園舎から楽しげな歓声が上がる。
 リネットの両手のゼロが唸りをあげ、食べ物ごと二匹のスライムを水中から大気中へと吹き上げた。
 空中に打ち上げられたスライムは、その半透明の体を震わせる。
「もう逃げられません‥‥!」
「いくぞーっ! アターーック!」
 ティーダと久美が跳躍し、空中のスライムをルベウスとファングで切り裂く。
 それだけに留まらず、二人は行きがけの駄賃とばかりにスライムを更に空高く蹴り上げた。
 そこへ銃声が連続した。
 赤い輝きを貫いて二匹のスライムの体が爆ぜ、銃弾がめり込む。
 エステルのデヴァステイターと鴉のハンドガンだ。
「しぶといなー」
「仕損じた」
 彼らのその銃撃を受けて尚、スライムはまだうにょうにょと空中で空しく蠢いていた。
 丈夫さだけが取りえ、とでも言うかのようだ。
「任せて」
 一言だけ呟いて、天下が地を蹴る。
 降下中のティーダと久美と目が合った。
 二人が頷き、その手を組む。
 組まれた両手を足場に、天下は更に空を駆け上る。
「おおー」
「かっこいい〜!」
 鴉とリチャードが思わず声を上げた。
 幼い観客たちも、映画さながらのアクションに大興奮だ。 
 二匹のスライムと同じ高さに達したとき、天下のファングが両キメラをプールサイドめがけて叩き落した。
 待ち受けるはエレナとリチャード。
 その手にはサイエンティストの本領、超機械γとエネルギーガンが見えた。
「勝手に子供たちのプールを使うなんてお仕置きです〜」
「スライム相手には贅沢だけど、食らえ! 必殺のエネルギーガン!」
 勢い良く落下してくるスライムに、超機械が繰り出す電磁波が歓迎の奔流を撃ち出した。
 さながら花火のように、派手に火花が弾ける。
 プールサイドに到達する頃には、スライムは最早ただのゼリー状の物体と化していた。

●のうりょくしゃ・いん・ようちえん
 スライムの撃破を確認すると、リネットは園舎に向けて大きく手を振る。
「もう大丈夫だよ! みんなのプールを独り占めしてた、悪いキメラは退治したよ!」
 一際大きな歓声が上がった。
 その声に、能力者たちは笑みを浮かべる。
 と、歓声が徐々に大きくなっているのにエレナが気付いた。
「はう!?」
 振り返れば、園舎から飛び出す子供子供子供。
 我らがヒーローヒロインのご活躍に辛抱たまらない、といったところなのだろう。
 先生も流石に抑え切れなかったようだ。
 急に賑やかになったプールサイドで、能力者たちは小さな応援団に囲まれた。
 きゃいのきゃいのとじゃれ付く子供たちに、天下が少し戸惑ったように笑う。
「よーし!」
 久美が子供たちに向かって声をかける。
「これからプール掃除! 手伝ってくれる良い子はだーれだ!」
 我先にと声を上げる園児たち。
「それじゃ、皆運動着に着替えてこようね」
 リネットの言葉に、はしゃぎながら園舎へと戻っていくその様子は、まさに元気の塊といったところだ。
「私たちも着替え着替えー」
 言いながら、久美がおもむろにそのランニングを脱ぎ捨てた。
「おお!」
「うわわっ」
 驚く男性陣を尻目に、ニヤリと笑った久美がその水着姿を太陽の下に晒す。
「ふっふーん、何を期待したのかな〜?」
「騙されたー!」
 リチャードが大げさに肩を落としてみせる。
「やれやれですね」
「全くね」
 濡れた髪をかきあげながらリネットが言えば、天下も呆れたように同意する。
 彼女たちは残念ながら水着持参ではない。
 それぞれに動きやすいよう、袖をまくったりするのみだ。
 エステルと鴉もそういった格好だが、残り三人は別だ。
「あれ? そういえばエレナさんとティーダさんは?」
 そのうちの一人、リチャードが二人をキョロキョロと探す。
「呼びました?」
 現れたのはティーダだ。
 もう水着姿になっている。
「いつの間に!」
「いえ、そこが更衣室のようでしたから」
「更衣室ですよ〜」
 ティーダが示した建物から、エレナも出てくる。
 水着に白衣というのは、彼女のこだわりだろうか。
「ずるいですよ!」
 リチャード、魂の叫び。
「な、何がですか〜?」
 エレナの声を無視して、彼は更衣室へ、無論男性用の方へと飛び込んだ。
 その姿を見て、エステルと鴉は無言で頷きあう。
 いつもより露出度の高い女性陣の姿は、少年には刺激が強いようだ。
 彼ら二人もそうだから分かる。
 エレナにリネット、ティーダ、久美や天下。
 いずれもそれぞれにジャンルの違う美少女、美人、美女揃いなのである。
「です」
「だな」
 皆まで言わずとも、この三人の間には確かな連帯感があった。
 閑話休題。 

 プールはそう大きくない。
 掃除はすぐに終わった。すっかり綺麗になっている。
 そして日はまだ高い。子供たちだってまだまだ元気一杯だ。
 どうなったかといえば‥‥。

「よーっし、パスだ!」
 久美が子供たちと駆け回る。
 彼女が回ってきたボールをトラップしたとき、その前に立ち塞がる一人の影。
「抜かせませんよ!」
 リネットの挑戦に笑顔を浮かべて、久美がドリブルを仕掛ける。
 一進一退の攻防に、周りの子供たちが喜びの声を上げる。
 そんな様子を少し引いたところで見ていたティーダの服を、小さな手がちょいと引っ張った。
「どうしたの?」
「おねえちゃんも、いっしょにやろう?」
 その言葉にティーダは一瞬動きを止めるが、すぐに笑顔で子供の手を握り返した。
「久美さん、パス!」
 見れば天下が久美の加勢に回ったようだ。
 ティーダは負けじと走り出し、リネットのカバーに回った。
 エステルと鴉の二人は、そろって子供を肩車に乗せている。
「いけーからすー!」
「まけるなえすてる!」
 乗っている子供の号令の下、ぐるりと幼稚園の庭を駆ける。
「さあ、次は誰が乗る?」
「大丈夫。ちゃんと皆乗れるよ」
 押し合いへし合いの子供たちの様子に、二人は顔を見合わせて笑った。
 一方屋内では、リチャードとエレナの二人が子供たちの相手をしていた。
「そうそう、そこのストローをパックの横につけて‥‥」
 ジュースの空きパックを利用して、リチャードが工作を指導している。
 徐々に組みあがっていくその姿は、どうもKVを模したもののようだ。
 エレナはといえば、お絵かきの指導に余念が無かった。
「わあ、上手上手。とってもいい色で塗れたね」
 遊んでいる様子を描いたらしいその絵に、惜しみない賞賛を与える。
 褒められた子は照れたようにうつむいた。

 そうした時間は、子供たちが疲れてお昼寝と相成るまで続いた。
 流石の能力者たちも、へとへとになって帰路につく。
 後日、本部へ幼稚園の子供たちからの感謝の手紙が大量に届けられた。