タイトル:Its a so Bad Day againマスター:瀬良はひふ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/09/07 15:29

●オープニング本文


『謎の船舶出現! 幽霊船か、はたまた財宝を積んだトレジャーシップか!?』

 そんな見出しが紙面に躍ったのは、つい先日だ。
 場所はサンフランシスコ沖合い二十キロ。人類の制海権下ではあるが、それが完全であるとは誰も思ってはいない。
 それでも、その船は近寄る調査船や野次馬のボートなどに危害を加えるでもなく、ただ浮かんでいる。
 甲板に上がった調査隊も、特に被害を受けずに帰還した。
 とはいえ、甲板から中に通じる扉は固く閉ざされていたため、器具を持ってくるために一度帰ろう、というだけのことだったのだが。
『折角だから、護衛も連れて行こう。なぁに、安心のためにさ。適当な人でいいよ』
 そう提案したのは誰だったのだろう。
 とりあえず諸々の経緯を省略して結論だけを言おう。

 メアリー=フィオール(gz0089)は、この船内に一人取り残されるハメになっていた。



「‥‥私は誰を殴ればいいんだ? 提案者か? それとも課長か?」
 呟くメアリーの声は、不気味に発光する木の壁に吸い込まれていく。

 案の定と言うべきなのか、この船の中にはキメラがいた。
 イソギンチャク型だとか、海賊帽を被った骸骨だとか、言ってみれば「雰囲気のある」キメラだ。
 はっきり言って弱いのだが、数が多かった。
 仕事中に突然護衛を命じられ、抗議する時間どころか準備すらできずに放り込まれたメアリーにできるのは、以前の出来事から常に携帯するようになっていたゼロとハンドガンでもって、調査隊をとりあえず逃がすことだった。
 何とかけが人も無く甲板まで辿り着いたところで、調査隊の偉い人が重大な忘れ物をした、と言い出した。
 キメラが奥の部屋から出現したときに、慌てて落としてしまったという。ちなみに、そこは入り口をくぐってから階段を三つほど下った先の、要するに最下層の部屋。通常の船ならば、多分倉庫とかその辺だろう。
『アレがないと非常に困る! 是非とも取ってきてくれたまえ!』
 いい年をした大人に泣いて頼まれては、さしものメアリーも嫌とは言えず、本当に渋々と引き受けた。
 キメラを避け、どうしようもないときだけ倒し、本当に苦労して最下層に辿り着いたメアリーは、そこで崩れ落ちる。
 落ちていたのは、どう見てもカツラだった。
「そりゃぁ困るだろうさ‥‥」
 被ってた帽子を死守していたものな、と薄幸の佳人は遠い目をする。
 それでも、メアリーは負けなかった。萎えかけた気力を奮い立たせ、再び過酷な復路へと向き合う。
 次に光を見るときこそ、私は帰れるのだ。というか帰ってやる。
 その決意こそが彼女を支えていた。

 そして――。 

 如何なる仕掛けか、メアリーの目の前で、唯一の入り口は再び固く閉ざされてしまった。
 押せども引けどもびくともせず、外の調査隊による必死の開錠作業の音も一時間ほどで止まってしまった。
 何でも、フォースフィールドがあるとかないとかで、どうしようもないそうだ。
 メアリーは手元の武器を見る。ハンドガンの弾は既に無く、頼みのゼロもぼろぼろだ。ここで自棄になって扉を殴りつけると、砕けてしまいそうにも見える。
 ここでゼロが砕ければ、私の心の支えも砕けてしまうに違いない。
 他人事のようにそう分析すると、メアリーは「救助を要請してください」と言い残し、来た道を引き返していった。
 この船は入り口のある第一層、一つ目の階段を下りた第二層、二つ目の階段を下りた第三層、そして三つ目の階段を下りた最下層の四階層からなる。
 通路は基本的に一本道だ。このまま扉の前で呆けていると、キメラに見つかって袋叩きなのだ。
 故に、メアリーは来た道を戻る。どこかの階層の部屋に隠れて、救助を待つために。その判断は正しい。

 そして、今に至る。
 体育座りをしてある部屋の隅で物思いに耽るメアリーは、半分現実逃避をしていた。
「‥‥どこかに、私をいじめて楽しんでいる奴がいるに違いない。殴ってやる。そいつを殴ればいいんだ」
 メアリーの明日はどっちだ。



 時はやや遡り、ULT本部。
「お願いします。メアリーを助けてあげてください」
 彼女の同僚らしいオペレーターが、集まった能力者に深々と頭を下げていた。

●参加者一覧

赤村 咲(ga1042
30歳・♂・JG
雨霧 零(ga4508
24歳・♀・SN
鐘依 透(ga6282
22歳・♂・PN
九条院つばめ(ga6530
16歳・♀・AA
ヨグ=ニグラス(gb1949
15歳・♂・HD
流 星刃(gb7704
22歳・♂・SN
ソウィル・ティワーズ(gb7878
21歳・♀・AA
相澤 真夜(gb8203
24歳・♀・JG

●リプレイ本文

●捜索隊
 船の内部へと続く扉は、不気味な音を立て‥‥る間もなく吹き飛ばされた。
「さーてっと。‥‥頑張りましょうか」
 腰に手を当て、ソウィル・ティワーズ(gb7878)が隣の流 星刃(gb7704)に、よろしくね、と目配せをする。
 それに応えるように、星刃は二丁の拳銃をくるりと回して見せた。
「‥‥明かりの心配はいらないようですね」
 ぽっかりと空いた入り口から覗く様子に、赤村 咲(ga1042)はそう呟いた。
 内部の壁は、外からでもぼんやりと光っているのが確認できる。
「如何にも、といった雰囲気ですね」
 それを見て、鐘依 透(ga6282)は感心したように言う。
 幽霊船といった趣が、ここまでとは予想していなかったようだ。
 九条院つばめ(ga6530)もそれは同様のようで、一瞬だけ呆気に取られると、きゅっと隼風を握りなおす。
「うーん‥‥ワクワクするね、これは!」
 そんな中で一際目を輝かせていたのは、雨霧 零(ga4508)だろうか。
 彼女の場合は目的であるメアリー=フィオール(gz0089)救出というよりかは、船の探検を目的としているような節もあった。
 それを察してか、零の年の離れた友人であるヨグ=ニグラス(gb1949)は軽く頬をかく。
 もっとも、その傾向は大なり小なり皆が持っていたようである。例えば相澤 真夜(gb8203)も、その情熱の八割程は探検に向けられたものだったかもしれない。
 そんな各人の思惑はさておいて、捜索隊は船内へと踏み入っていった。

 最下層から現れたというキメラは、時間が経った今でも殆ど入り口のある第一層にはいなかった。
 動きが鈍いのか、それともここまでは昇らないようにされているのかは分からないが、探す分には好都合である。
 ここを担当するのは、透とつばめのペアだ。
 船室に続くと思しき扉は左右で計六つ。
 その中で手近な一つに慎重に近づくと、まずは聞き耳を立てる。何も聞こえない。
 頷きあい、呼吸を整えてから一気に扉を開く‥‥というか、打ち破る。
「‥‥外れ、ですね」
 空っぽの部屋に安堵と落胆が半々の吐息を漏らし、つばめが呟いた。
「まだ始まったばかりです。次、行きましょう」
 双剣を軽く打ち鳴らして刀身についた破片を落としながら、透は微笑む。
 少女はそれに笑みを返すと、和槍を携えて次の扉へと向かう。とりあえずは、一通りフロアの通気性を良くしておく算段であるようだ。
 少ないながらも出番を待っていたキメラは、透とつばめの扉処理に巻き込まれたらしく、やはり戦闘らしい戦闘は起こってはいない。
 異変が起きたのは、二人がある部屋の捜索をしていた時だ。
「ここは、船長室‥‥かな?」
 品の良い調度品が並ぶ棚を眺めて、つばめがふと首を傾げる。
 と、傍から見てもうきうきした様子で、透があちらこちらに手を伸ばし始めた。
 どうやら、何かのスイッチが彼の中で入ったらしい。
 子供のような瞳の輝きに止めることも憚られ、つばめは困ったように笑った。
 そこへ、透から声がかかる。何かと少女が近づいてみれば、青年は古びた机の上にある本を手に取ろうとしていた。
「いや、本当にあるとは思いませんでした、航海日誌」
「何が書いてあるんです?」
 えーと、と彼が読み始めた内容は至ってオーソドックスなものだ。
 出航の様子から始まり、遭難した経緯、次々と起こる問題、そして――。
「『船の積荷は、何としてでも守らなければならぬ』」
 その節が読まれた瞬間、二人は背後に嫌な気配を感じた。
 反射的に振り返りながら、互いの得物が全力で突き出される。
 咄嗟の時程、人は加減が効かないものだ。故に、唐突に現れた身なりの良い骸骨キメラは、二秒と持たず乾いた音を立てて崩れ去った。
「おぉ‥‥船長の亡霊? 本当に幽霊船なんだ、ここ‥‥」
 透にとっては、むしろその外見が重要であったらしい。
 航海日誌が重要アイテムであると確信したようで、何かを読み取るべく再度ページをめくり始める。
(「‥‥鐘依さん、当初の目的を忘れて思いっきり楽しんでません?」)
 しかし、余りに楽しそうな透に水を差すような言葉は、つばめは口に出せなかった。
 もっとも、そうやって苦笑しつつ、彼女もまた日誌の続きを興味深げに覗き込んでいたのだが。

●改め、探検隊
「この船は我らが制圧する。潔く降参するも良し、歩みを止めぬのならば‥‥ヤスウラ君、懲らしめてやるのだ!」
「ええ!? ぼ、ボクがですか!?」
 第二層を調べる途中、扉を壊したその先にいた骸骨キメラの群れ。
 零はそれにすらりとナイトソードを突きつけ、決めるだけ決めるとヨグの後ろへとそそくさと退避した。
 ごーごーと背を押す年上の女性を、少年は逆に感心してしまいつつもイアリスを振るう。
 文字通り一撃で蹴散らされていくスケルトン。バンダナに幅広の曲刀と、如何にも海賊という外見の割に歯応えは無い。
 部屋が綺麗になるのは、一分とかからなかった。
「よーしよくやったぞヤスウラ君! さて、たっかーら探しー、たっかーら探し!」
 ふっと真デヴァステイターの銃口を吹きながら、零はいそいそとヨグの背後から部屋の中へと移動する。
「んと、姉様はこの階じゃないですかねー‥‥」
 一方で、ヨグは少しだけ寂しげに呟く。
 呼びかけに反応は無く、室内にその姿も無い。メアリーは一体何処にいるのだろうか。
 そんな疑問にヨグが首を捻っていると、零が慌てたように手を振っているのが見えた。
「な、何か見つかったですか!」
「見つけたとも! そこの壁を見たまえ!」
 興奮気味の彼女に指差されるまま、少年は壁を見る。あからさまに怪しいスイッチが備え付けてあった。
「‥‥名探偵ですー」
「ふふふ、そうだろう? さあ!」
「って、またボクですか!」
 ぐいぐいと背中を押す年上の女性に、早くもヨグは諦めの境地に達する。
 図らずも、それが二人の命運を分けようとは、人生とは面白いものである。
「ポチっとな」
「おおっと!?」
 ガコン、という音と一緒に零の慌てた声が聞こえた気がして、ヨグは振り返った。
「‥‥零さん?」
 返事は無い。
 各階に「零さんが迷子になりましたですー‥‥」という連絡が伝わったのは、すぐ後だ。

 時間は僅かに遡る。
 その頃、第三層では咲と真夜が、最下層に向かう星刃とソウィルをエスコートし終えたところだった。
「下るごとに敵が増える、か。予想通りだが、大丈夫か?」
 ふと、咲が呟く。
 この階に入った当初は、通路にも溢れんばかりにキメラがいたのである。
 不意を突かれたソウィルがイソギンチャク型キメラに絡み付かれ、些か過激な歓迎を受けたことは本来ならば特筆すべきだが、残念なことにその描写を書くには文字数が足りない。
 ともあれ、そうした苦労の果てに三層は比較的穏やかとなったものの、最下層はどうだろうか。
「あ、赤村さん! 赤村さーん!」
 そんな咲の思考を、真夜の悲鳴が断ち切る。
 二人は別々の部屋を調べていたのだが、どうやら彼女の向かった部屋が当たりだったようだ。いや、この場合は外れか。
 声の元へ急いだ咲が見たのは、蠢く白骨の群れ。そしてその中で必死に壱式を振り回す真夜の姿だった。
 滅法に振り回される直刀のお陰で怪我こそ無いようだが、半泣きの彼女を見る限り余裕も無いようである。
「無事ですね。もう少しの辛抱です」
「あがむらざーん‥‥」
 安堵のあまり凛とした顔立ちをくしゃっとさせながら、真夜は笑った。
 迫りくる骸骨キメラは、経験の浅い彼女から見ても弱い。弱いのだが、そのビジュアルと数だけでも十分に怖い。
 そこへ颯爽と現れたのが咲だ。サングラスをかけ、その手のSMGで次々にキメラを倒していく姿は実にスタイリッシュである。
 彼の活躍に勇気付けられ、ぐしぐしと目から出かけた汗を拭うと、真夜もまた壱式を再び振るう。今度は、きちんと敵を見据えながら。
「こ、これで最後!」
 かしゃん、とやけに軽い音を立てて骸骨は崩れ去る。
 一分とかからずに、部屋にひしめいていたキメラはいなくなっていた。
「随分多かったですね。怪我は?」
「はい、大丈夫です! ‥‥メアリーさん、いませんか〜?」
 気遣う咲に笑顔を返し、真夜は要救助者の名前を呼ぶ。
 と、その時ヨグからの迷子案内が入った。
「あ、雨霧さんもいませんか〜?」
「はぐれるような造りでもありませんが‥‥トラップ、でしょうかね」
 ふむ、と考え込む咲は、何となく目の前でぼんやりと明滅する木の壁を軽くノックする。
「ある訳無いよ、な。そう都合よく‥‥」
「ぴゃっ!?」
 男が小さく呟いた瞬間、真夜が可愛らしい叫びをあげた。
 何事かと振り返れば、彼女は身を竦めて辺りを見回している。
「今、何か女の人の声が聞こえたんです‥‥」
「女性の‥‥?」
 そう呟いた時、咲の耳にもか細く声が届いた。

 第二層、三層と増えつつあったキメラ。
 それを踏まえ、最下層を担当することとなった星刃とソウィルはかなり身構えていたのだが、その気合は今のところ空回りをしている。
「何でおらへんねやろ?」
「嫌な思い出でもあるんじゃない?」
 疑問顔の星刃に、ソウィルは脚を上下させて見せた。ぱしゃ、とレザーブーツが水を掻き分ける音がする。
 何処かに穴でも空いているのか、最下層には踝程まで海水が入ってきていたのだ。‥‥あるいは、そういった演出なのかもしれない。
「あー、ここから出てきた言うし‥‥もう水に浸かるんは嫌やってんやろか」
 納得したように星刃は頷くと、気を取り直したようにずんずんと前に進んでいく。
「メアリーさーん、助けに来ましたでー」
「いなかったら返事してー」
 二人で声を上げながら扉を壊して回り、四つの部屋をくまなく探していく。
 骸骨はともかく、少ないながらもいたイソギンチャクはむしろ元気に活動していたのだが、それらの最期は敢えて書き留めまい。
「それにしても、一体何を取りに行かされたんだろうね‥‥?」
「大事なものやー言うてはりましたけどねぇ」
 先を行く青年の背中を見ながら、大事なものねぇ、とソウィルは首を捻る。
 尚、本当は彼女が先頭に立つつもりだったのだが、星刃の矜持というかそんなものを感じて今回は気を利かせたらしい。
 それが功を奏したか、罠を気にせず歩く彼の前方の地面に違和感を覚えたソウィルは、その肩を掴んで一気に引き寄せる。
 同時にガコンと音がして海水が一気に吸い込まれ、大きな穴が出現した。
「ふー、危ない危ない。見事に罠だわね」
「‥‥た、助かりましたわー」
 流石に冷や汗をかく星刃の肩口から穴を覗き込むと、ソウィルは目を細めた。
 その穴は垂直ではなく、比較的なだらかな傾斜を持っていたのだ。
「ん‥‥何かこの落とし穴、変ね?」
「確かに。どっかに繋がってるんちゃいます? えーと、この先は‥‥倉庫かなぁ」
 星刃が指を差した先は、この船内で最も大きな広さを持つ倉庫だ。
 何かデッカイ化けモンでもいそうや、とは彼が少し前に漏らした言葉だったが、果たしてそれは実現してしまう。
 ずるり、と何かが這いずる音がした。
 二人は少しだけ固まった後、ゆっくりと音の方向――穴の先へと視線を戻す。
 十本の触手をくねらせる、白くて巨大な何かと目が合った。
『‥‥イカぁぁぁ!?』

●要救助者の行方
 船の床や壁やらをミシミシと言わせて、大きなイカ型キメラが這い出してくる。
「いくら何でもデカすぎちゃいます!? このままだと船壊れまっせ!」
「短期決戦の必要がありそうね。‥‥っても、こうでっかいと二人じゃ長引きそう」
 よりにもよって、船底に近い最下層が一番ぼろっちいのだ。
 二人は目配せしあうと、回れ右をして階段へと走り始めた。

「そう、私は単にお宝の可能性のある場所へワープしてしまっただけだ!」
 断じて迷子ではない、と気炎万丈の零。
 彼女が罠によってヨグと離れ離れになったのは、つい先程のことである。
「お、言っている傍から何やら魅惑的な‥‥」
 その目に留まったのはテーブル上の銀の燭台であった。
 年代物らしく、錆びて黒ずんではいるが、凝った意匠が美しい。
 と、しめしめと手を伸ばした零の耳に、不気味な笑い声が飛び込んだ。
「‥‥ふふふ、甘い。君への対策は十分に練ってあるぞ! さぁ、柄杓に穴を空ける作業に」
「宝探しの次は、私を船幽霊扱いか。ふふふ‥‥」
「‥‥君という宝を探していたのさ!」
 取ってつけたような笑顔を貼り付け、零はくるりと振り向く。その目線の先には、どんよりと体育座りをするメアリーの姿があった。
 どうしたものか、と一瞬考え込む零を救ったのは、壁の向こうから聞こえた声だった。
『誰かそこにいるんですか!? い、今ここ壊しま』
 声の主は真夜だった。もっとも、言い終わる前に壁は咲の機械剣によって破壊されたのだが。
「雨霧さん、それにメアリーさんも! 無事でよかったです!」
 はしゃぐ真夜に何故かえっへんと胸を張る零。
 その手に握られた燭台を見て咲は少しだけ苦笑し、暗ーいメアリーに何かを手渡した。彼女のハンドガン用の弾丸であるらしい。
「もう少しで帰れますよ。とりあえず、それで当座はお願いします。‥‥こちら赤村。対象を保護した、これより船外へ誘導する」
『こちらソウィル! 悪いけど、急いで階段まで!』
 咲が無線に呼びかけた時、最下層組からの慌てたような声も入った。その理由は、程なく四人にも分かる。
 軽やかに階段を駆け上がってきた星刃とソウィルの後から、床を突き破ってイカが這い出してきたのだ。
「何事ですかーって、イカ!?」
 その時、階段の上からヨグが現れる。次いで、透とつばめだ。
 無線を受けて、上階から慌てて降りてきたのだろう。
「よっしゃ、反撃や!」
「皆、見ての通りだから、援護よろしく。‥‥砕け散れッ!」
 揃ったメンバーにニヤリと笑うと、星刃とソウィルは再びUターンを決め、弾丸と斬撃をイカに叩き込む。
 それを機に、他の皆も含めて計九人による攻撃が開始された。如何にイカが大きいとはいえ、この猛攻に耐えるとは行かなかった。



「難儀でしたね。今回はほんまにお疲れ様でした」
「‥‥これが今夏の海の思い出か」
 労う星刃に、メアリーはどこかずれた返答をする。
 そんな彼女に、つばめはおずおずと声をかけた。
「あの、フィオールさん? よければ、一度厄除けをしてもらっては‥‥?」
 それはいい、と力なく笑うメアリーの肩を、ヨグがちょんちょんと突付く。
「姉様、お疲れでしょ? ガバガバ飲んでいいですよっ」
 言葉と共に差し出されたのは、水筒とプリン。
 それを受け取るとメアリーはぺたりと座り込み、感に堪えなくなったか小さく肩を振るわせ始めた。
 その頭をよしよしと撫でるヨグ。
 彼女の厄日は、こうして終わった。



 追記:
 尚、能力者たちは中々の数の「お宝」を見つけたが、それは謝礼と引き換えに未来研が引き取ったとのことである。