●リプレイ本文
●世紀末的光景
廃墟の街で、モヒカンの群れが奇声を上げて練り歩いている。
そこをふらふらと歩く人影があった。
「み‥‥水‥‥」
掠れた声で呟き、力なく倒れこんだのはリディス(
ga0022)である。
当然、目ざといモヒカンたちがすぐにその周囲を取り囲む。
「ヒャッハー! 獲も」
軽口を言い終わる間もなく、一体のモヒカンにぷっすりと美しい爪が突き刺さった。
「な、なんだぁ!?」
「てめぇらは三秒後に死ぬ、その三秒間に自分の罪の重さを思い知れ」
目にも留まらぬ速度で身体を起こしたリディスは、僅か数秒の間に彼女を囲んでいた三体のモヒカンへとイオフィエルを突き立てていたのだ。
とはいえ、その言のような器用な真似は流石にできず、リディスが言い終わった時にはモヒカンは彼岸へと渡っていたのだが。
それを見た彼女は少しだけ怪訝な顔をして、一言。
「‥‥ん〜? 間違ったかな?」
伝説の幕開けを告げる言葉であった。
「バグアに風雲あり、傭兵が立つべき時がきた!」
ミカエルにまたがった九条・護(
gb2093)が高らかに声を上げる。
少女の背後で、リヴァル・クロウ(
gb2337)が重々しく頷いた。
「まずボクが、ボクが動く! UPC元大将の為に!」
そういって護はミカエルを急発進させた。荒れたアスファルトにタイヤを切りつけながら、モヒカンに向けて走り抜ける。
そんな少女の目に、瓦礫からモヒカンへと駆け出す何者かの姿が映った。
「私たちの街から出て行け!」
フライパンを手に駆けながらそう叫んだのは弓亜 石榴(
ga0468)。この街の元住民で、モヒカン撃退に協力を申し出た健気な一般人‥‥ではなくて、れっきとしたグラップラーである。
とはいえ、モヒカンにそんなことが分かるはずもなく、体の良い獲物とばかりにヒャッハーと一気呵成に襲い掛かってきた。
石榴は慌てたように踵を返すと、一目散にリヴァルの元へと走り出す。
自然と相対しあう形となる護と目配せをし合い、バイクの少女がモヒカンの相手を引き受けた。
護はモヒカンの群れの手前までくると、バイクを減速させるどころか加速させる。
「バグアにつくものはMINAGOROSHIだ!」
「ちにゃ!?」
蜘蛛の子を散らしたように突っ込んできたバイクから逃げ惑うモヒカンを、背後からサベイジクローが襲う。
これには流石のモヒカンも苦笑い、する間もなく切り裂かれていく。
と、そこに一際巨大なモヒカンが立ち塞がり、バイクごと護の攻撃を受け止めた。
「貴様ぁ〜! よくも俺様の可愛い子分たちを〜!」
「来たか! ボクはドラグーンの護!」
「このまま焼却してやる!」
妙に言語能力が高いビッグモヒカンの巨大火炎放射器が轟音と共に炎を吐き出す。だが、そこには既に護とバイクの姿はない。
「わが拳はバイクを友とし、バイクの中に己を乗り込ませる!」
パワードスーツとなったミカエルを纏い、護は宙へと駆けていたのだ。
「天を握るはバグアにあらず! 天を平定するはわれらがUPCの将! わが所属、LHを脅かすバグアの尖兵‥‥今、消滅する時がきた!」
「ほざけぇ〜!」
振り上げられた少女の拳は風の如くモヒカンの身体を叩くが、それは通用したようには見えない。
そしてカウンターに振り回された火炎放射器が、護の身体を強かに打ち据えた。
「流石だな‥‥想像を絶する強さだ。だが、お前の運命もここまで!」
その一撃で何故かふらふらになり、少女は搾り出すように叫ぶと、糸の切れた人形のように倒れこんだ。危うし、九条・護。
「シャァッ!」
そこへ、鋭い気合と共に何者かが飛び込んできた。
咄嗟に振り向いた巨大モヒカンが最期に見たものは、目の前に迫り来る硬質の爪。
どうと倒れたモヒカンの脇に立っていたのは、威龍(
ga3859)だった。
「こいつは貸しだからな。後で酒でも‥‥っと?」
そう言って護の方を向いた彼は、目に映った光景に一瞬戸惑い、次いで苦笑した。
倒れたはずの少女はぴんぴんした様子で立ち上がっており、威龍に手を振りながら去っていく所だったのだ。どうやら、やられたのは演出というかそういうものであったらしい。
気を取り直すように男はパシンと拳を打ち鳴らすと、未だ数の多いモヒカンへと鋭い視線を注いだ。
「さぁ、救世主の出番だよ!」
護が傍観に回るのとほぼ同時に、石榴はリヴァルの元へと辿り着いていた。
彼女は言うなり、男の胸へと飛び込んでいく。
それを慌てたように何とか振り払うと、リヴァルは咳払いをして重々しく応える。
「ああ、早急に事態を解決する必要がある」
先ほどの一戦でそれなりのモヒカンは片付いていたが、それでもまだ目の前には両手には余るほどが見えるし、耳を澄ませばあちこちから奇声と戦闘音が聞こえている。
その時、石榴を与し易しと追っていたモヒカンの一部が棍棒を振り上げて迫ってきた。
唸りを上げて振り下ろされる棍棒はしかし、見事に受け止められて微動だにしなくなる。
「どうした、遠慮はいらない。どこからでもかかってくるといい」
「なぁにぃ〜!?」
リヴァルの挑発にモヒカンは人並みに激昂してみせるが、いくら力を込めてもその得物が動く気配はない。
だが、リヴァルの手が塞がったことに気づいた別のモヒカンが、これ幸いと棘のついた棍棒を思い切り叩きつけた。
鈍い音と共にモヒカンは口元を歪めたが、それはすぐに恐怖によって引きつることとなる。
「‥‥終わりか?」
直撃をもらったはずのリヴァルには、全くダメージを受けた様子がなかったのだ。
「あ、あひぃっ‥‥!?」
間抜けな悲鳴を上げて、モヒカンはその棍棒を取り落とす。逃げればいいものを、どうやら腰を抜かしたようだ。
「ならば、こちらの番だな。‥‥俺の剛拳、いつまで耐えられるか」
言い終わると同時に、繰り出された正拳がモヒカンの頭を文字通り打ち砕いた。
リヴァルを囲んでいたモヒカンたちは声にならない叫びを上げると、抜けた腰に鞭打って逃げようとしたが、既に手遅れ。
二十秒ともたず、五つの死体が転がることとなった。
「いいぞリヴァルさん、私とのらぶらぶパワーで残りもやっちゃえー♪」
石榴が瓦礫の陰から声援を送る。
やれやれとため息をつくリヴァルには見えなかったが、少女の足元にはフライパンで滅多打ちにされたモヒカンの哀れな姿がいくつか見られた。
どうやら、何とか逃がれた所をやられたようである。
ともあれ手近なモヒカンを片付けた二人は、少し離れた場所で奮闘する威龍と合流すべく動き始めた。
ところで、護の言う元大将とは誰であるのか、この報告官の目をもってしても見抜けなんだ。
閑話休題。
●服を取り戻せ
その頃、時枝・悠(
ga8810)と楓姫(
gb0349)は威龍やリヴァルらとは別の方向から街へ入ってきた所だった。
早速見つけたモヒカンの群れを見て楓姫は吐き捨てるように、そしてしっかりと相手に聞こえるように言う。
「ゴミだらけ‥‥。ゴミはゴミ箱に行け‥‥!」
「なぁにぃ〜!?」
挑発にかかったモヒカンが三体、あっさりとダッシュしてくる。
げへへ、などと下品に笑いながら棍棒や斧を見せ付けるように走ってくる様は、中々に雑魚キャラの演出を心得ている。
「お前達に剣や銃などいらない‥‥。この拳だけで充分‥‥」
対する楓姫と悠は、烈拳「テンペスト」を手に嵌めたのみ。
だが、モヒカンがその武器を少女に叩きつけるよりも速く、二人の拳が唸りを上げて空を切り裂く。
物々しい得物はその威力を発揮する前に楓姫によって叩き落され、それに唖然とする間もなく一体の頭に悠の痛烈な手刀が飛んだ。
「うぎょぺっ」
間抜けな悲鳴を残して、そのモヒカンは倒れる。
「貴様ぁ〜! よくも俺様の相棒を〜!」
「知ったことか‥‥はぁぁぁぁ!」
激昂した一体の言葉を楓姫は冷たく切り捨て、その腕を白く輝かせて手刀を振り下ろす。
それは防御にと掲げられた腕ごとモヒカンを叩き潰した。
「あ、あひぃっ‥‥!?」
あっという間の出来事に、最後のモヒカンは踵を返して逃げようとする。
「往生際が悪いぞ」
見苦しい逃走など許すはずも無く、悠はその腕を交差させると宙に十字を描くように振り下ろす。
その勢いは十字型の衝撃波を走らせ、モヒカンの背中に深々とその罪を刻んだ。
「衝波十字拳‥‥なんてな」
僅かに十秒にも満たぬその攻防に、それまでニヤニヤと笑って後ろにいた残りのモヒカンたちが明らかに狼狽を始める。
それらの中にボウガンを持ったものを見つけると、楓姫はこれ見よがしに指を振った。
「そのボウガンは飾り? 撃ってこい‥‥」
「なぁにぃ〜!?」
(「挑発に弱いのか‥‥?」)
先ほど同様、至極あっさりと挑発に乗ったモヒカンに、悠はそんな感想を抱いた。
と、モヒカンがボウガンを発射する。
風切り音と共に飛んだ矢はしかし、楓姫の白い肌を傷つける前に少女の二指によって受け止められる。
直後、それは飛んできたのと同じ軌道を逆行し、撃ったモヒカン自身の額へと突き立った。
「あるぇ〜?」
不思議そうにその額の矢に手を当てるモヒカン。予想外の事態に、どうやら認識が遅れているらしい。
そこへ、楓姫が一気に飛び込んでくる。
「せいやっ!」
綺麗な飛び蹴りが、刺さった矢の尻に打ち込まれる。杭打ちの要領で、矢はモヒカンの頭を貫通した。
楓姫は着地と同時に周囲にいたモヒカンに足払いをかけると、転んだ所へその顔面に拳を叩きつける。
残りのモヒカンは慌てるばかりで、おたおたと慌てふためく所を次々と殴り倒されていった。
一方、その様子を面白そうに眺めていた悠の脇の路地から、火炎放射器を持ったモヒカンが沸いてきた。どうやら、迂回して奇襲を図っていたらしい。
「あっついぜ〜! あつくて死ぬぜ〜!」
ゴウ、と勢い良く炎が噴射されるが、危うい所で少女はそれを回避する。
素早く周囲に目を走らせると、悠は五体ほどの火炎放射器モヒカンに半包囲されていることを知った。
「わははは土下座しろ! 焼却されてえかー!」
有頂天になったモヒカンがそんなことをほざく。
少しだけ悠は考えると、その手をそっと背後に回した。
「退かないし媚びないけど省みるぞ、私は」
そう言って少女が手にしたのは紅炎。それを取り出すとき、妙なジョインジョインが聞こえた気がした。
明らかに強力な武器の登場に、モヒカンの顔が青ざめる。
「誇りをかけた不敗の剣、と言った所だ」
後の光景は、語ることすら恐ろしい。
さて、同じ頃街の一角ではハルカ(
ga0640)がモヒカンたちと遭遇していた。
「むむっ、出たな悪党ッ!」
「なぁにぃ〜!?」
憤然と振り返ったモヒカンらは、目の前の光景に一瞬唖然とする。覚醒によって、ハルカの着ていたタンクトップが勢い良く破れてしまったからだ。
白い球体が踊り、モヒカンの目が釘付けとなる。
「どこを見てるのだ」
と、ハルカの身体が掻き消え、次の瞬間にはモヒカンどもの背後へと現れた。
慌てて振り返るモヒカン。だが、彼女の姿はまたも消えた。
「こっちなのだ」
声と動きに翻弄されて目を回すモヒカン。
一体、また一体と翻弄されるうちにハルカの鉄拳制裁で倒れていく。
いつの間にか、その数は三分の一となっていた。
好機と見て、ハルカはそれまでのヒットアンドアウェイから一転し、モヒカンの懐へと思い切り飛び込んでいく。
「あたたたたたたたーッ!!」
目にも止まらぬ速さで繰り出される拳は、悲鳴を出す暇すら与えず残ったモヒカンを打ちのめしていく。
決着はあっという間だった。
一気に四体のモヒカンを片付けると、ハルカは哀愁を漂わせながら呟く。
「悪党に、墓標はいらないのだ‥‥」
何やらテーマ曲でも流れていそうな雰囲気だが、女性の上半身が剥き出しというのは非常にアレである。
大事な部分にはねおちシールが貼ってあるから大丈夫、とかそういう問題ではない。
しかしやはり、この時期にその格好は寒かったらしく、ハルカは可愛らしいくしゃみを一つすると、おもむろに周囲を見渡した。
そして、鼻歌を歌いながら倒れたモヒカンの上着をもぎ取って着用する。
「悪党に、服もいらないのだ‥‥」
やりたい放題である。
●バグアは投げ捨てるもの
街の中心部にて、威龍らはモヒカンの大群と遭遇していた。
「貴様ら外道など息をするのも許されぬ‥‥我が疾風の動き、ついてこれるか!」
威龍が素早く敵陣に切り込み、その鋭い爪で次々とモヒカンを切り裂いていく。
その後にリヴァルが楔を打ち込むように続き、割れた敵陣を制圧していった。
「受けてみよ、我が全霊の拳を! 紫電剛衝破!」
それでも数に任せて押し寄せる敵に、リヴァルは紅色の闘気を纏った衝撃波を打ち出す。
その威力に、前線の敵はたじろいだように動きを止めた。
「流石だな。おぬしの腕、盗ませてもらうぞ」
頼もしい味方が背中を固めていることに、威龍の動きは更に鋭さを増していく。
二人の男の爪と拳は、ついに分厚い敵陣を打ち破った。
だが、その先には火炎放射器を構えた隊列が待ち構えていた。
「小癪な‥‥!」
「ヒャッハー! 汚物は焼却だ〜!」
耳障りな叫びと共に炎が噴射されるかと思った、その時だ。
「そうだな。お前の言う通り、汚物は焼却だな」
「うわぢゃ〜!」
瞬きの間に現れたリディスが火炎放射器を奪い、逆にモヒカンどもを焼却したのだ。
優位からの突然の逆転に、モヒカンは恐慌状態に陥る。
こうなれば、その数とて大した意味はない。
「我が爪に掛かるのを誉れとしろよ。クズには分不相応な最期だ」
威龍の爪が赤い軌跡を次々と描けば、リディスもまた周囲のモヒカンを文字通りなぎ倒していく。
リヴァルの剛拳が唸り、石榴がその取りこぼしを滅多打ちにしたり焼却したりした。
そこへ、ボウガンの矢が幾つも襲い掛かる。
見れば、やや離れた場所に射撃を繰り返すモヒカンがいた。
それを認めた瞬間、リディスは閃光の如く間合いを詰め、交錯する。
僅かに遅れて、弩モヒカンは胸に北斗七星のような模様を刻んで崩れ落ちた。
「この一撃で‥‥天に召っせい!」
そして、リヴァルの拳が最後の一体を葬り去る。やはり、テーマ曲でも流れそうな決め技であった。
「これで戦いは終わったのね‥‥」
戦闘を終えたリヴァルに石榴が寄り添い、もたれかかる。
男は遠い目をして何かを考え込んでいるようだった。
「バグアは投げ捨てるもの‥‥」
リディスは数多のモヒカンの屍の上で呟く。劇画チックである。
そんな様子を終始楽しげに眺めていたのは、護である。
「護ちゃん、ヤッホー」
そこへ、モヒカンジャケットを羽織ったハルカがやってきた。
彼女は手を振り返す少女の隣に腰を下ろし、笑顔で問う。
「どうだった?」
「面白かったよ!」
にっと白い歯を見せる少女に、ハルカは手を掲げてみせる。
ぱしん、と軽快な音が夕闇の街に響いた。