タイトル:高級機開発マスター:瀬良はひふ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/31 07:09

●オープニング本文


「‥‥では、マテリアルはそのように」
「あいよ。シェアは限定されるけど、まー銀河さんの対抗馬にはできないからねぇ」
 まいったね、と頭を叩くリカルド・マトゥラーナ(gz0245)に、フィリップ=アベル(gz0093)は苦笑して肩をすくめた。
 シラヌイというKVが与えた影響は、恐らくは他の者が思っている以上に大きい。
 少なくとも、フィリップ自身にとってはそうである、と彼は考えている。
 あの価格帯としては抜きん出たスペックをシラヌイが持つ以上、フィリップが開発したGF−V『マテリアル』の売りは生産性と整備性の二つでしかない。
 それはどう贔屓目に見ても、ラストホープの能力者へのメリットとはなり難いものだった。
 故に、メルス・メス本社は一つの決断を下した。
 マテリアルはUPC南中央軍、すなわち南米のUPC軍用に限定した販売とする、と。
 元より、コンセプトの一つは困窮する南米のKV事情の改善、というものであった。
「分かってはいるが、な」
 ふぅ、とフィリップはため息を一つつく。
 今の彼の気持ちを端的に表すならば、悔しい、というのが一番適当だろう。
 マテリアルが採用されなかったことが、ではない。
 フィリップなりの『シラヌイ』を造れなかったことが、である。
 その理由ならばいくらでも挙げられる。
 しかし、彼の安っぽい矜持は、それを認めることを許さなかった。

 フィリップの原点は、言うならば憧れであった。
 過去の偉大な科学者への、そして彼らが残した技術への憧れ。そういったものが下地となって、フィリップの研究者人生を作ったのである。
 それゆえか、彼の研究は新技術の開発というよりは、既存の技術の改良に重きを置くものとなっていた。
 その意味ではフィリップの成果に目新しいものはなかったし、発想という面では全くの凡才と言って差し支えはなかった。
 もっとも、彼自身はそれでも過大評価だと思っているようではある。
「‥‥やはり、問題はフレームか」
 画面に表示された計算結果に、フィリップは疲れたように呟いた。
 今、彼が向き合っているのは、元々マテリアルの後継機として考えていた機体だ。設計自体は、かなり前から行っている。
 特殊能力や機体性能については、日本のエイジア学園都市に存在する素粒子物理学研究所の知己からの薫陶で、初期と比べてかなりの向上を見ることができたのは幸いだろう。
 中でも、この特殊能力はフィリップ自身も手ごたえを感じるものがあった。
 このように、機体そのものはほぼ完成に近づいたといえる状態だが、フィリップが躓いていたのはその構造の脆弱さだった。
 性能は、どこのメガコーポの最新鋭と比べても遜色は無い。そう自負するだけのものはある。
 だからこそ、この部分は解決しておきたかった。
 応急的な補強措置では、ディスタンと同様の問題を抱えてしまう上に、コストと整備の手間の増大をも招いてしまう。
 やれやれ、と首を振ってフィリップは冷めたコーヒーを啜り、壁にかけられたポスターに目を留めた。
 GF−M『アルバトロス』。
 フィリップ研究室の研究員である、アラン=ハイゼンベルグが主導で作り上げた水中用KV。
 頭の中で、パズルのピースが嵌る音がした気がした。
 あれのフレームは、従来よりも耐圧性能が高かったはずだ。
「‥‥ハイゼンベルグ君か? フィリップだ。忙しいところすまないが、アルバトロスの機体設計図を見せてくれないか?」
 電話口の向こうで、喜んで、と声を上げる弟子に少しだけ笑みをこぼし、フィリップは再び画面と向き合う。
(「俺の想像が正しければ‥‥」)
 瞑目し、しばし黙考する。
(「フレームの問題はこれで解決できる」)
 五分後、息を切らして部屋に駆け込んできたアランを労いながら、フィリップは自身の考えを説明し始めた。



 数日後、ULT本部に新しい依頼が表示された。
 曰く、『新型KVへの意見を求む』。
 概要は以下の通りである。

『GF−VX サイファー』(仮称)
機体概要
 所謂クロースカップルドデルタ翼の機体であり、シンプルかつスマートなシルエットを持つ。
 ディスタンの系譜を受け継ぎつつも、マテリアルやアルバトロスといった量産機の整備性も兼ね備えた高性能機。
 高機動性と重装甲という相反する性能を高いレベルで纏め上げた機体は、結果的に極めて高い生存能力を持つものと期待されている。
 また、ディスタンでの懸案であった高速性能に関して、当機ではメルス・メス製の新型エンジン採用と機体設計によってクリアしている。
 基本性能については、回避>防御=抵抗>その他、を予定している。

特殊能力
 ・フィールド・コーティング
  メルス・メスが誇るコーティング技術に、ある素粒子の働きを加味することで誕生した新世代防御システム。
  機体に特殊な素粒子を巡らせることで薄い斥力場を形成し、自機への攻撃をそらすことができる。一種のバリアーであり、人類版フォースフィールドともいえる。
  錬力を50消費することで、1ターンの間防御と抵抗に100の修正を与える。この数値は暫定であり、変更される可能性がある。

 ・搭載予定
  当機に特殊能力は二つ搭載する予定であるが、この二つ目に関しては未だ調整が必要であるため、現時点では未定として扱う。

●参加者一覧

エクセレント秋那(ga0027
23歳・♀・GP
九十九 嵐導(ga0051
26歳・♂・SN
山科 明理(ga7324
21歳・♀・ST
メティス・ステンノー(ga8243
25歳・♀・EP
守原有希(ga8582
20歳・♂・AA
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
水円・一(gb0495
25歳・♂・EP
桐生 水面(gb0679
16歳・♀・AA

●リプレイ本文

●サイファー
 メルス・メス、フィリップ研究室。
 水円・一(gb0495)を筆頭に、過去にここを訪れたことがある者が幾人かいた。
 エクセレント秋那(ga0027)はその一人だが、フィリップ=アベル(gz0093)が席に着くと、彼女は早速口火を切る。
「個人的には、マテリアルはかなり期待してたんだ。残念な結果だったと思ってる。でも、今度の機体も中々面白いんじゃないか?」
「そうだな。所謂リベンジ、というヤツだ」
 秋那に同調して、時枝・悠(ga8810)も言った。
 桐生 水面(gb0679)は口にこそ出さなかったが、やはり残念だったと思っているようだ。
 フィリップは小さく、ありがとう、と呟いて視線で先を促す。
「コンセプトは良いと思うんだけどねぇ、気になるのはやっぱり価格かな。量産機の整備性ってことだけど、それはコストダウンに繋がるのかい?」
 秋那の質問に、フィリップは軽く頷いてから口を開いた。
「知っての通り、ディスタンは複雑な機体だったために整備に手間が掛かった。サイファーは機体構造を効率化して整備を容易にしたのだが、その形容として『量産機の整備性』と表現したんだ」
「つまり、パーツの流用などでコストが下がる訳ではない、ということね」
 メティス・ステンノー(ga8243)の言葉に、男はそうだと首肯する。
 その説明に秋那は僅かに落胆したようだったが、価格については他の者の関心も高かった。
 九十九 嵐導(ga0051)は、現状での想定価格をフィリップに尋ねる。
「‥‥そうだな。貸与額は、恐らく350万程度に落ち着くだろうが、その辺りは明言できんな」
 仕様によっても変わることであるし、価格は企業の上層部とULTが決定することであるために、目安は提示できても保証はできない。一研究者の辛いところであった。
「んー、やっぱりそんくらいになってまうかー‥‥。200万台後半が理想やってんけどなぁ」
 あちゃー、というように水面が額に手を当てた。
「まぁ、高級機というくらいだからな。300万越えは仕方ない面はあるだろう」
 フェニックス並には覚悟しておくかね、と悠がぼやく。
 ともあれ、価格を決定付ける要素は第一にその性能だ。そこを詰めるべく、守原有希(ga8582)が声を上げた。
「うちがこの子に求めるのは、最強最速の盾であることです。機に応じて回避と防御を選択できるのは、指揮官やエースにぴったりの性能と思います」
「そうだな。高い生存能力というのは特色といえる。後は‥‥均整の取れた能力、か。地味だがな」
 一が続けた。
 高い回避と、それに準ずる防御性能というのは他の者にも概ね受け入れられるものだったようだが、水面は一人難しい顔をする。
「うち、防御と抵抗を回避よりも高くする方がええと思うんや。ほら、回避だとシラヌイやロビンと被る気がするねん」
 彼女が上げた両機は、いずれも高機動性を一つの売りとする機体である。
 その懸念はもっともだと思いながらも、フィリップは答えた。
「サイファーは、回避と防御を両立した機体だ。その売りは、機動性というよりは生存性だ、と俺は考えている」
 男の説明で、水面はそれなりに納得したようではあった。
 と、その生存性というところに反応したか、山科 明理(ga7324)がおずおずと口を開く。
「ええと、機体性能ですが、回避、防御、抵抗を平均化し、残った攻撃、命中、知覚をその一ランク下で平均化させる‥‥というのは可能でしょうか?」
 それによって、耐久力に優れて安定した機体、と印象付けられるのでは、と彼女は言う。
 フィリップは少しだけ考え込んだ。
「‥‥可否でいえば、可能だ。ただ、そのスペックを実現するには細かい調整が必要になる。更に言えば、これは現状でも言えることだが、『性能に穴がない』ということは企業としては売りになる。つまり、価格に反映されるということだ」
「なるほど‥‥。それは、例えば練力を抑えることでカバーできるようなものでは‥‥?」
 首を振る男に、明理は小さくため息をついた。
「特殊能力を考えると、練力は最低でも150、できれば200は欲しいところだけれど。生命も、それくらいね」
「そうですね‥‥この子の長所を活かすには、余裕のある生命と練力は必須、と思います」
 メティスの言葉に、有希が同意を示す。
 次いで、水面もうんうんと頷いた。
「せやね。生命が低かったら、いくら防御とかが高くても意味ないわ。既存機中最大を目指すー、くらいの勢いでお願いしたいとこやね」
 少女の言葉に、フィリップは少々唸った。
 それを達成するためには、アルバトロスとマテリアルを破ったあの機体を越える必要がある。
 努力はしてみよう、と言いながら、男は奇妙な因縁に困ったような笑みを零した。

●フラッグシップモデル
「さて、あれもこれもといった感じだが‥‥。こいつの仕様を見る限り、俺は命中も多少は欲しいと思う。まぁ、その代わりというか、攻撃と知覚は少し抑え目でも構わないが」
 総花式のような要望を聞きながら、嵐導が少しばかり遠慮したように言った。
 その意見には、メティスと有希が同意を示す。
「防御を活かす装備を考えれば、命中は高い方がいいですね。ただ、火力が低いと、こちらが敵を倒す前に削り切られる可能性もありますから、ある程度は欲しいところです」
 有希の指摘は正しいが、出撃は単機で行うわけではない。
 仲間の盾となることを主目的とするならば、攻撃はその仲間に任せるというのも方針としては十分に成り立つものだ。
 といっても、高級機というものを目指す以上は、ある程度自機のみで完結した性能を持つべきであることも確かだ。
 その辺りの兼ね合いは、価格の調整とも関わるために慎重に検討する必要があるだろう。
「命中といえば、IRSTシステムだったかしら、アレは使えないの?」
 思い出したように、メティスが提案した。
 フィリップは、不可能ではないが、と言葉を濁す。
「機体とのマッチングの問題がある。ドローム、メルス・メスと欧州各社では機体フォーマットにややズレがあってな。まぁ、だからと言って照準システムで遅れを取るつもりはないが‥‥」
「要するに、高くなるんだろ? 値段がさ」
 悠のフォロー(?)に、男は肩を竦めた。事実ということだろう。
「纏めると、回避を一番として、次いで防御と抵抗。残りの三つは、命中をやや意識しながらも、それなりの数値で平均化させる‥‥こうか」
「それで、生命と練力には余裕を、だな」
 一の纏めに嵐導が付け加えた。
 ふむ、とフィリップは考え込む。最低ラインを能力者たちが提示してきた以上、価格を考慮すれば調整するべきは防御性能と命中だろう。
 落とし所が難しいな、と彼は小さく息をついた。
「後は装備とスロット、移動かな。私は拡張性が大事だと思うんだ。だから、装備とスロットはシュテルン並には頼みたい。移動も、シラヌイがあるから最低で4は必要かな」
 つまり、悠の望みは装備が500程度、副兵装は三つに、アクセサリは四つということだろう。
 無茶な仕様ではない、とフィリップは思う。装備は、あるいは多少減ずるにしても、フェニックスと同等には確保できるだろう。
 移動に関しては、ディスタンの改良において更に磨き上げられたメルス・メスの新型エンジンは、十分にその要求に応えられるはずだった。
「あたしは、副兵装はそんないらないと思うんだけどねぇ。この機体のコンセプトは、敵の懐に飛び込むのに向いてるだろ? そうなれば、やることは結構限られてくるから、必要な分だけ持ってけばいい」
「なるほど、一理あります。ですが、この子にはやはり盾などの防御兵装ば持たせてあげたく思います。となると、副兵装にも多少の余裕は欲しかところです」
 秋那はスロットを減らす分、他の能力を上げたいということのようであった。
 その根拠としても納得のいくものであったが、それに対する有希の言にもまた理がある。
 と、水面が手を上げた。
「うちも副兵装は3の、アクセ4は欲しいとこやね。やっぱり高級機ってことなんやし、その辺が最低ラインかなーて」
 高級機を名乗る以上の最低ライン。
 その考え方は、メルス・メスオリジナルとしては初の高級機、サイファーにとって必要なことであると、フィリップには思えた。

 話し合いは一旦休憩となり、甲斐甲斐しくも用意してきたという有希お手製の料理が、参加者はおろか研究室の研究員たちにまで振舞われた。
 秋刀魚や筑前煮などにフィリップら研究員が舌鼓を打つ中、能力者たちは食卓を囲んで雑談に興じていた。
 その話題は、自然とサイファーへと移っていく。
「そういえば、特殊能力はもう一個乗るんよね? 調整中や聞いたけど、楽しみや」
「燃費が悪いと聞いたが、どの程度なんだろうな。場合によっては、フィールド・コーティングの調整も必要かもしれん」
 水面に応える形で、嵐導はちょっとした心配を表明した。
「調整というと、練力消費を抑えるということでしょうか」
「ああ。防御と抵抗の上昇を選択式にして、消費を半減させるとかな」
 首を傾げた明理に男は頷く。
 練力消費を抑える代わりに、二つのうちどちらかを選択して上昇させる。この構想は、他にも幾人かが持っていたようだ。
「便利になると思うんだよねぇ。気軽に使えるようになるしさ」
 そう言って、秋那は陽気に笑う。
 人類版フォースフィールドといった触れ込みも、彼女は気に入っているらしい。
「あるいは、そういった機能も搭載できれば、といったところだな。現状のようにも使えるし、選択して練力を抑えても使える」
 一の想定したものは、通常は選択式だが、二倍の練力を消費することで両方を上げられる能力、ということか。
「私は、どちらかといえば、能力は今のままで消費だけ抑えて欲しいわね」
 メティスはそう言って微笑む。やはり、理想はそうなるだろう。
 うんうんと頷いて聞いていた水面は、そこでフィリップの方へ振り返った。
「――ってことらしいですけど、どないです?」
「難しいな」
 男の即答に、聞いてたんかい、と少女は内心で驚いた。確かに、今の今まで食事をしていたのだが。
 そんな彼女の心中など知る由もなく、フィリップは続ける。
「概要は見たと思うが、アレは今までとは少々次元が違ってな。まだ基礎段階の技術なのさ。選択式程度は可能だろうが、にしても消費を半減とはいかん。機構も制御も、そこまで簡単ではないからな」
 それを聞いて、一が少しだけ躊躇してから切り出した。
「では、マテリアルのように攻撃に転用する、というようなことも無理と」
「現段階ではな」
 頷くフィリップに、一はやや残念そうに首を振る。
 そこへ、悠がニヤリと笑って口を挟んだ。
「ま、言うだけならタダだろ? ピンポイント・コーティングみたいに応用できるのを目指して、頑張ってくれないか」
「善処しよう」
 開発者は、ユーザーの要望にできるだけ応える必要がある。
 睡眠時間を削るものが増えた、と男はどこか楽しげ笑った。

●フィリップの意地
 機体に関する意見がある程度出揃ったところで、明理が意を決したように手を挙げた。
「あの、無理は承知で敢えてお伺いしますが‥‥電子戦機としての開発は無理でしょうか?」
 フィリップの動きがピタリと止まる。
 彼女はその反応に少しだけ怖気ながらも、深呼吸を一つしてから言葉を続ける。
「で、電子戦機はその役割上、敵に良く狙われるそうです。そのため、護衛機が必要となる場合も、少なくありません。そ、そこで、攻撃性能を防御性能に回すことで、単機でも十分に安全を確保できる上位機というのは価値がある‥‥と、思うのです、が‥‥」
 徐々にトーンを落としていく明理だったが、その提案に幾人かがなるほどと頷いていた。
 中でもメティスは同様の腹案を持っていたようで、明理の言葉を継ぐように口を開いた。
「サイファーやアルバトロスの技術を使えば、長く戦場に留まれる電子戦機が作れると思うの。どうかしら」
「需要はあるだろうな。ノウハウは皆無と思うが、一から作るというのは手だろう」
 二人の意見に、一が賛同を示した。
 だが、肝心のフィリップは黙ったままであった。それを促すように、水面が声をかける。
「皆、待ってますけど」
「‥‥考え方は非常に面白いし、有用だとは思う。といっても、サイファーを電子戦機にすることは不可能だ」
 そう言って、男は椅子に深く腰掛け直し、続けた。
 長くなるので要約すれば、電子戦機は最初から専用に開発する必要があることと、ノウハウがない中で高級機として開発するのはメルス・メスにとってハイリスク過ぎること、というのが理由だった。
 今後の課題だな、という彼の言葉に明理は少しだけ微笑み、やや躊躇ってから口を開いた。
「それと、特殊兵装の提案があるんです。あの、阿修羅のサンダーホーンのような、彼我の能力に関わらず一定のダメージを与えるような武器は開発できますか?」
「それは可能だが、装備する場合は固定武装とする必要がある。機体ごと調整して扱うような武器だからな」
 なるほど、と頷いた明理の脇から一が身を乗り出した。
「装備なら俺にも提案がある。有線武装ポッド、簡単に言えばブースター付のファランクスだ。機体の機動性を上げつつ、空戦では切り離して有線で攻撃を行う」
「‥‥不可能ではないが、難しいぞ」
 承知の上だ、と一は笑ってみせる。
 再び活発化した場で、メティスがふと呟いた。
「陸戦形態、女性型にできるかしら」
「あ、それはうちも思うとった。売りになると思うねん」
 水面が手を挙げて同意する。
 そのまま目でフィリップを見れば、男は苦笑して口を開いた。
「まぁ、可能だ。ただし、細身になる分防御は落ちるぞ」
 げ、と声を上げる水面の肩を優しく叩きながら、メティスが続ける。
「ついでに、斉天大聖みたいなVTOL機能は持たせられない?」
 期待するような目に、フィリップは肩を竦めて首を振った。
「あれは、骸龍と融合させることで実現させた、いわば奉天の専売特許さ。他社では未だ実現できていない」
「VTOLは有効やと思うで!」
 メティスを援護するように、水面が再び声を上げる。
「腹案が無いわけではない。ま、それは二番目の特殊能力にも関係するからな。次の機会に、だ」
「そう‥‥。まぁ、私からはこんな物かしら? 出来上がるのを期待させてもらうわ」
 妖艶に微笑むメティスに、フィリップはしっかりと頷いてみせた。

 その後、時間一杯まで話し合いは続いた。
 コーティング技術の別の応用法なども提案されたが、機体本来の性能に関してはある程度の目安が立ったといえるだろう。
『型番、メルスのMをつけたら本気度は伝わるんじゃない?』
 能力者たちの意見を設計に反映しながら、フィリップはふと悠の言葉を思い出した。
「MX−0、サイファー、か」
 彼の意地の結晶が、姿を現し始めた。