タイトル:ドロームからの横槍マスター:瀬良はひふ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/12/05 10:50

●オープニング本文


 メルス・メス社における独自の高級機開発。
 その報はもちろんのことドローム社へも届いていた。
 ある程度の自主性はドロームとしても歓迎するところであるのだが、『サイファー』というKV開発に関しては、その自主性の分を超えたものであると判断することとなる。
 仮にサイファーが完成したとすれば、それがULTに採用されるにせよされないにせよ、つまり売れるにせよ売れないにせよ、メルス・メスは「独力で最新鋭KVを開発した」という実績を残す。
 ドロームとしては、「独力で」という部分が気に入らないのだ。
 メルス・メスはドロームのいわば子会社であって、ドローム製品を南米に供給し続ける窓口であればよい。
 この考えは大なり小なりドロームの上層部に共有される考えであり、少なくとも現在において、メルス・メスが一人歩きを始める必要はないというのが彼らの総意であった。
 では、どうするべきか。
 開発を差し止めさせるには、既に周囲に情報が広まりすぎている。
 故に開発は続行させつつ、そこにドロームの影響力を加える方策が求められた。
 そのために、ある機体が俎上に載ることとなる。
 PM−J8、アンジェリカ。YF−194、スカイタイガー。
 アンジェリカが選ばれた理由は、今後行われるであろう改良、そして後継機開発を見越したデータ収集のため。
 スカイタイガーが選ばれた理由は、先のNMV計画における失地のある程度の挽回のため。
 具体的には、アンジェリカからは機体フレーム、スカイタイガーからはエンジン(厳密に言えば、その発展型であるSES−191)を『サイファー』に使用させる、ということが決定された。

 ――フィリップ=アベル(gz0093)の『サイファー』にかける情熱は、こうして本人が知らぬうちに水を差されることとなった。



 アラン=ハイゼンベルグは、同僚のキャサリン=ペレーを宥めるのに随分と時間を浪費していた。
 原因は、ドローム社による『サイファー』開発への突然の横槍であった。
「非常識もいいところだわ!」
「ああ、俺だってそう思うさ。だけど、頼むから少し落ち着けよ」
 一週間前のことだ。
 二人の上司であり、研究者としての師でもあるフィリップがメルス・メスの上層部に呼び出された。
 それだけなら問題はない。名目上だけの話であるが、フィリップはドロームから派遣された技術顧問である。上から何か話があるとしても別に不思議はない。
 ただ、その内容が問題であった。
「だって、もう後は実際に組み上げるだけだったのよ!? そのパーツだって納入されて、エンジンだって‥‥!」
「わかっているさ! フィールド・コーティングと例のあれの調整さえ終われば、すぐに実戦投入だってできた!」
 現状の開発案を大幅に修正し、ドロームから提示された新たな方針にそって再設計すること。それが認められぬ場合、計画の凍結も辞さない。
 フィリップは長い沈黙の後、わかりました、とそれだけを答えたという。
 その日以来、フィリップは僅かな休息時間を除いて、ずっとサイファーの再設計作業を行っている。
 何も言わず、来る日も来る日も取り付かれたようにデスクと向き合う彼の姿は、二人だけでなく研究室にいる者全てが痛々しく思っていた。
「随分と賑やかだねぇ」
 そこへ、ふらりと現れたのはリカルド・マトゥラーナ(gz0245)である。
 ドロームとも関係の深い男の登場に、キャサリンの矛先はそちらへと向く。
 珍しく神妙な顔でじっと聞き入っていたリカルドは、彼女の言い分が一段落したところで静かに口を開いた。
「‥‥うちはね、ドロームとの提携関係で、何とかメガコーポレーションなんて地位にいられるんだ。聞いてないかもしれないけど、向こうさん、今回の条件を呑まないならそれを打ち切る、なんてことまで言ってきたみたいだよ」
「そんな‥‥」
 思わず、というようにアランが呻く。
 仮に提携関係がなくなったとしても、ドロームにとってはそれほど痛手ではない。元々メルス・メスなど別の企業であるし、いざとなれば直接南米に支社を設ければよいのだ。
 だが、メルス・メスには死活問題なのである。
「【JTFM】、なんてのも絶賛決行中だしねぇ。不興は買いたくないのさ」
「‥‥納得はできません」
「一番納得してないのは、アベル博士でしょ。彼が黙って耐えてるなら、君らもその意気を汲んであげるべきじゃあないかな」
 リカルドの言葉に、二人は黙り込んでしまう。
 彼は重くなった空気を変えるように、殊更明るく続けた。
「ま、悪いことばかりじゃないさ。開発はドロームも援助するってことだから、実機テストも再設計さえ済めばすぐできるようになるしね。トータルの期間は短くなるんじゃあないかな」
 まーそうは言っても、と男は心中で呟く。
 だから何だって話ではあるんだなぁ。
「おっと、もう昼休みも終わりか。さてさて、それじゃあ俺は戻ろうかね」
 わざとらしく声をあげて、リカルドは腰を上げる。
 恐らく、彼も納得はしていないだろう。それでも、敢えて異議を飲み込んで後輩を諭している。
 大人だな、とアランは思った。
「‥‥ボリビアさえ無事なら、あんな思いはさせなかったのにね」
 その去り際、男のそんな呟きが聞こえた気がした。



 そしてまた数日が経ち、アランとキャサリンはフィリップに呼び出されていた。
「‥‥話すよりは見た方が早い。その上で、意見を聞かせてくれ」
 やつれた顔の男に示された画面を、二人は食い入るように見つめる。
 その目は、徐々に驚きに見開かれていった。
「アンジェリカの元はバイパー。あれは構造自体は素直だし、剛性も十分だ。その特性はアンジェリカにも受け継がれている‥‥」
「理屈はそう。理解もできるけど」
 二人の会話をじっと聞いてから、フィリップは口を開いた。
「問題は‥‥なさそうだな」
「はい。正直、予想以上です」
「ええ。あの条件で、よくここまで‥‥」
 感嘆したようなアランとキャサリンに、男は少しだけ笑った。
 フィリップが携わったマテリアル、そしてアルバトロスもドロームのKVを元にしたものだ。皮肉なことだが、そうした経験は既存の機体同士の融合再設計という作業に関して、彼をある種のエキスパートにしていたのだ。
「ま‥‥これでドロームに義理は果たした。能力者たちにも、何とか申し訳は立つだろう‥‥」
 自分で提示した能力値をできる限り維持した上で、それを別物といっていい機体に反映させていく。その作業は決して楽ではなかったが、不可能でもなかった。
 ともかくも、これで再び開発は軌道に乗ったこととなる。
「フレームのせいか、フォルムは女性型に近くなったな‥‥ともあれ、やっと特殊能力の‥‥」
「ええ、能力者の方々に依頼しておきます」
「すまんな‥‥頼んだ‥‥」
 流石にそこが限界だったらしい。
 フィリップはふらふらと自室へと戻ると、その後きっかり24時間眠り続けた。

●参加者一覧

山科 明理(ga7324
21歳・♀・ST
メティス・ステンノー(ga8243
25歳・♀・EP
守原有希(ga8582
20歳・♂・AA
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
水円・一(gb0495
25歳・♂・EP
桐生 水面(gb0679
16歳・♀・AA
禍神 滅(gb9271
17歳・♂・GD
紅蓮(gb9407
18歳・♂・SF

●リプレイ本文

●斥力制御
「ども、今回はお世話になります!」
 紅蓮(gb9407)が立ち上がり、入ってきたフィリップ=アベル(gz0093)に挨拶をした。
 それに釣られるように、山科 明理(ga7324)や禍神 滅(gb9271)なども頭を下げた。
 こちらこそ、と言うように手を挙げるフィリップが着席したところで、桐生 水面(gb0679)がしみじみとした声を上げる。
「いやー、まさかほんまに女性型になってまうとは‥‥フィリップさんも苦労のし通しやなあ」
「全くだ。色々と面倒なんだな、企業って」
 どこか呆れたように、時枝・悠(ga8810)も頷く。面倒というのは、ドロームからの横槍のことだろう。
 その言葉に少しだけ肩を竦め、水円・一(gb0495)が皮肉気に笑った。
「まぁ、無理難題を押し付けられる辺り、メルス・メスも捨てたものじゃないんだろう。結構、いい位置にいる気がするな」
「そうありたいものだな」
 フィリップも応じて笑う。多少は休めたのだろうが、まだどこか疲れているような声音だった。
 それを察したか、守原有希(ga8582)は男の努力に応えねばならない、と気合を入れ直した。その一部は、研究室の面々への栄養補給、という形で現れてもいたのだが。調理器具を満載した屋台まで引いてくる情熱には、恐れ入るほかない。
 そんな有希の料理の手腕は後に語るとして、まずは今回の議題である『サイファー』の特殊能力に関して、早速議論が始まった。

「僕はフィールド・コーティングと垂直離着陸能力の案2を推します。南米での戦闘を考えれば、VTOLは大いに有効だと思いますので」
 口火を切ったのは禍神 滅(gb9271)だった。
 特殊能力の組み合わせとして挙げられたのは二通り。「フィールド・コーティング(固定値上昇型)、試作型斥力制御スラスター」の案1と、「フィールド・コーティング(倍率上昇型)、垂直離着陸能力」の案2である。
 滅が推したのは、この案2だ。
 少年の言うとおり、不整地の多い南米戦線ではVTOL能力が展開能力に大きく関わってくると思われた。
 もちろん、垂直離着陸が求められるシチュエーションは南米に限られたことではない。その意味では、地味だが着実に効果を見込める能力といえよう。
「俺も、案2だと思う。万能というわけではないが、1よりは使いやすいからな。広く売るつもりなら、2だろう」
 一が賛同し、補足するように言った。確かに、需要を見込むならば使い勝手は重要なものだろう。
「私は1、かなぁ。売りってことなら、独自性を優先した方がいい気がする」
 むー、と声を上げつつも悠は1を推した。
 使い勝手ではなく、オリジナリティを前面に出すべきではないか、ということだろう。
「私も1を推させてもらうけど、斥力制御スラスターは手直しが必要だと思うわ」
 科を作るように体を傾けつつ、メティス・ステンノー(ga8243)が悠の言葉の後を継ぐ。
「現状の仕様だと、例えば機体を改造して練力を増やしたら消費も増えるでしょう? でも、効果は変わらない。ちょっと、メリットが薄い気がするわ」
「それはうちも思っててんなぁ」
 水面が難しい顔をする。
「どーしても使いづらい印象が抜けへんねん。うちも1は推したいねんけど、それがネックなんや」
「同感です。うちも1を推させてもらいますが、やはり斥力制御スラスターの特性が気にかかります。どこかフェニックスも思い出しますし‥‥」
 手を挙げて発言したのは有希だ。
 燃費に難を抱えた目玉能力、という意味では、なるほどフェニックスの空中変形と類似しているかもしれない。
 続けて、有希は言う。
「ですので、能力をマイルドにして燃費を改善する、というのは十分選択肢かと思います」
 その提案にフィリップは頷いてみせる。
 出力を落とせば消費も抑えられる。道理だ。
「ま、注文は後で聞くさ。とりあえず、残りの者の意見からだな」
 白衣の男はそう言って、まず明理に目を向けた。
 彼女は少しだけ躊躇しながらも、促されて口を開く。
「突拍子もない、と思われるかもしれませんが‥‥私は三つ全てを搭載、というのを推したい、と‥‥」
「んー、確かにそれが理想的やねぇ」
 フィールド・コーティング、斥力制御スラスター、垂直離着陸能力の三つを同時に搭載する。
 水面の言うとおり、それができれば理想であるだろう。何より、悩む必要がなくなる。
「え‥‥と、技術的にはスラスターとVTOLは根本が同じと仰ってらっしゃったので‥‥あれこれ切るよりはと思ったのです」
「そうだな。ドロームも協力するなら、この際使い倒して実現させてみるのも手だろう」
 文句はいわれるまい、と一が笑った。
 だが、やはり理想には障害がつきものであった。
「‥‥不可能、とはいわない。しかし、基礎は同じでも能力の制御システムはかなり違ってくるんだ。例えるなら‥‥そうだな、制御系はいわば鋳型なのさ。で、機体に詰める鋳型には上限がある。それを曲げるとなると、性能を犠牲にするか、あるいはコストを思い切り引き上げるか、この二択になる」
「具体的には?」
 メティスの問いに、フィリップは少しだけ思案し、答えた。
「性能を犠牲にするなら、各スロットは間違いなく減るだろう。価格は‥‥英国のリヴァイアサン、少なくともあれ以上になるはずだ」
「なるほど‥‥。難しそうね」
 男の提示したものに、メティスはこめかみに細い指を当てて苦笑する。流石にこの条件は厳しいのか、他の者も一様に考え込む。
 そんな中、紅蓮は先程からメモを取るのに夢中で、全く発言していなかった。
「君は、何かあるかね?」
「‥‥え? ああ、俺ですか! そうですね‥‥難しくても、やっぱり三つ載せるのは魅力的に思いますよ」
 フィリップに促され、彼は少しだけ慌てたように答える。
 メモを見ながら推したのは、三つを載せるというものだった。難しくても、という紅蓮の言葉は、少しでも良いものが欲しいという皆の思いの代弁でもあっただろう。

●改善すべきは
 一旦休憩が差し挟まれる。
 この時間には前回に引き続いて、有希の手料理が振舞われることとなった。
 屋台まで引いてきただけあり、そのラインナップも野菜たっぷりもつ鍋にスッポンの唐揚、山芋の天麩羅に海老の味噌汁、更にはひつまぶしと実に豪勢だ。
 尚、スッポンやら山芋やらというのはメティスの発案であるらしい。スタミナはばっちりとつきそうである。
 前回で味を占めた研究員らが舌鼓を打つ中、有希はリカルド・マトゥラーナ(gz0245)の姿がないことが少々残念であるようだった。
 あのやり手の営業マンにも気を使っていたのだろう。研究員の一人に、彼の分の冷凍を頼む一幕まであった。

 さて、休憩という名の食事会を終えた面々は再び議論を開始する。
「現状では、案1を支持する者が多いが‥‥『条件付』のようだったからな。そちらを聞こう」
 フィリップの言う条件とは、制御スラスターのことだろう。
 それを受けて、メティスがまず口を開いた。
「繰り返すけれど、燃費が問題よ。だから、そうね、倍率で上昇にしたらどうかしら。例えば‥‥回避を倍にするとか。もちろん、スキル強化はできなくなるでしょうけど」
「初っ端から過激やねぇ。まぁ、うちの意見も大差ないかもしれへんけど」
 彼女の提案に水面が明るく笑う。
「回避を倍、というか、うちは消費練力の二倍上昇させられへんかな、って思うんや」 
「うん。それなら練力を改造する意味が出るな」
 悠が宙を見上げながら同意した。
 つまりは、先程も出たように練力を増やせば増やすほど旨みが減ることが問題、ということだろう。三人の意見はそれを解決しようとするものだった。
「そもそもの消費がまず大きいからな。切り札としては、中々取って置きにくいというのもある」
 一は純粋に燃費を懸念しているようだった。最大値の半分を使う能力。確かにジョーカーとしても使いづらいかもしれない。
「ま、燃費改善は其方に頑張ってもらうとして、だ」
 悠の言葉に、思わずフィリップは苦笑する。
「効果時間の短縮で実質の消費切り下げとか、話はずれるけどスラスターにVTOL機能も追加するとか」
「ああ、それはうちも思ってました。系統が同じですし、できませんか?」
 スラスターにVTOLを内包、というのは事実上三つ搭載と同義である。が、一つの能力が二つの効果を持つのであれば、三つを載せるよりは現実的かもしれない。
 しかし、その問いにはフィリップは首を振った。
「以前にも言ったと思うが、斥力制御はまだ基礎段階でな。練力消費に合わせてとか倍率で、というのはかなり難しい。内包するのも、同様だ」
「価格とかの問題ではない、と」
「技術自体のものだ。こればかりは、時間だな」
 現時点では不可能。
 遠回しにそう言うフィリップに、悠は肩を竦めてみせる。
「では‥‥拡張性を残したまま取り付ける、というのはどうでしょう‥‥? 具体的には、今後のバージョンアップでVTOLを追加‥‥とできるような形で」
 明理が控えめに切り出した提案に、男は唸った。
「‥‥バージョンアップ前提で販売するのは、社のイメージに関わるかもしれん。上が許可しない可能性が高い。それに‥‥」
 やや躊躇してから、フィリップは続ける。
「未完成で売り出した、などといわれるとな。俺はともかく、携わった皆に申し訳が立たん」
 妙な見栄だろうが、と男は僅かに笑った。
「燃費は努力してみよう。それで、コーティングに関しては何かあるか?」
「はい! うちは倍率コーティングと制御スラスターの複合、がいいと思うで!」
 勢い良く水面が手を挙げる。
 同意するように、明理が頷いた。
「‥‥将来的な伸びしろがありますし、能力も陳腐化しづらいと思います」
「うーん、防御はともかく抵抗は基礎値を伸ばし難い気がするんです。であれば、固定値の方が便利かもしれません」
 倍率型の導入に、有希はやや懸念を抱いているようだ。
 これに関しては一長一短ともいえるのだが、倍率の導入にハードルがあることも事実である。
「で、可否で言うとどうかしら?」
 そのことを、メティスが問う。
「スラスターの出力を落とせば、可能だ」
「む、それだと使い所が被るなぁ」
 フィリップの回答に、悠がぼやいた。
 回避の上昇値が下がれば、コーティングを使った方が良い場面は確実に増えるだろう。存在意義に関わるかもしれない。
「ちゃー、やっぱり簡単には無理か‥‥。純増型が無難ってことなんやなぁ」
 頭を抱える水面の背中に、励ますように明理がそっと手を置く。
「まぁ、最新技術のテストベッド、という機体でもあるんだろう? 今後に期待させてもらうさ」
「だそうだ。頑張れ博士」
 一の言葉に悠がしたり気に頷き、フィリップは困ったように笑うしかなかった。

●この先生きのこれるか
「そうそう、忘れないうちに装備を提案させてもらうわ」
 あらかたの意見が出尽くした頃、メティスが軽く手を挙げた。
「ショップで普通に買える装備が欲しいの。具体的には、補助スラスターに抵抗も上がる盾、弾数の多いミサイルってとこかしら」
 性能はそこまで求めないけれど、と彼女は続ける。
「今のショップだと、そこまでKV装備は多くないの。特別品が殆どなのよ。だから、一般に流通できる物を中心にすれば、需要は多いから売り上げは期待できると私は睨んでるわ」
 メティスはそう言って、妖艶に微笑む。
 ショップで買える、の部分に反応して悠もひらひらと手を振った。
「知覚武器、少ないんだ。特に一般販売。だから、レーザーソードとかレーザーライフルが欲しいな、と」
「知覚の射撃武器は、俺も欲しいと思っている。射程が10以上で、練力消費がなければ最善だな」
「そうそう。ついでに連射もできると嬉しい」
 一と意見が合ったことで、少女は我が意を得たりとばかりに不敵に笑う。
 そこへ、おずおずと紅蓮も声を上げた。
「知覚系の射撃武器なら、俺も欲しいですね。やっぱり」
「レーザー系は人気やねぇ」
 興味深そうに水面が呟く。
 非物理兵器は、確かに需要に比べて数は少ないのかもしれない。
 有希もまた、そういった装備も含めての腹案を持っているようだった。
「うちとしては、小回りと防御性能重視の刀剣類が欲しいですね。練剣も視野に入れて、ですが。後は、取り回しやすいBCハルバードとか、やはり盾ですか。それと、フルオートの散弾銃があると、個人的には嬉しく思います」
「実弾を使う銃器でしたら、僕は短機関銃が欲しいですね」
 少し考えながら、滅が追随する。
 中々発言の機会が掴めなかったようで、何処となくホッとした表情をしている。
「それと、直接の装備ではありませんが、南米の環境を考えるとセンサー類の充実は必須だと思います。後は、コックピット内にもそれなりのスペースが欲しいですね。レーションや飲料水が入る程度には」
「センサー系統は十分備えたはずだ。それに、操縦席もそれなりには広い。その点は安心してくれ」
 少年の懸念にフィリップが答える。
 その操縦席の部分で、紅蓮がはたと手を打った。
「そうか、AU−KVってのにも対応しなきゃだもんな」
「いつの間にか、対応は必須事項みたいになってんねん。時代の流れって奴やね」
 うんうん、と水面が頷く。もっとも、彼女はエキスパートであるが。
 ともあれ、機体そのものと装備関連への注文もまた、大方が出尽くしたようであった。
 取りとめもない雑談が始まる中、ふと思い出したように明理がフィリップに尋ねる。
「あの‥‥またこういった意見を集める場は用意されるのでしょうか?」
「ん、ドロームとメルス・メスの意向で、そろそろ生産ラインに乗せるという話も出ているんだ。恐らくは今回が最後になるが、何かあるのか?」
「あ、いえ‥‥その、もし次があるなら、もっと大勢の能力者の方々を集めてみては‥‥と思いまして‥‥」
 ややしゅんとなる明理だが、フィリップは何かを考えるように宙を仰いだ。
「ふむ‥‥。掛け合うだけ掛け合ってみよう」
 初期ロットの機体が完成すれば、どの道テストは行わねばならない。
 それをラストホープの能力者に任せることができれば、もう一度意見を聞く場を設けるのは不可能ではないかもしれない。フィリップはそう考えたのだ。
 だが、サイファーはもうかなりの予算を使っている。これ以上の出費が認められるかは、微妙な線であろう。



 その後、開発依頼はどうも難しいという滅に皆が助言(何でも思いついたことを書けばいいとか、苦労するのは開発者だから平気だとか)をしたり、KVに興味津々という紅蓮に、フィリップがサイファーの詳しい説明をしたりで意見会は終了となった。
 どこか心地よい疲労を覚えながらも、フィリップは僅かに疑念を抱く。
「‥‥早すぎる」
 そもそもの計画を大きく前倒しして、ロールアウトが迫っている。
 それは何を意味するのか。
 知るものはここにはいない。