タイトル:メルス・メスの機兵マスター:瀬良はひふ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/07/06 16:12

●オープニング本文


 一時は騒然としていたフィリップ研究室も、ようやく落ち着きを取り戻し始めていた。
 ドロームによる、強化変形機構の技術提供要請。
 要請とは名ばかりで、殆ど強奪に近いその事件は、メルス・メスに小さくない衝撃を与えるのに十分だった。

『サイファーの開発で、アンジェリカのフレームとSES−191を使わせてあげたんだから、見返りに何かを貰うのは極めて自然な話だろう‥‥ってさ』
 もう一ヶ月は前になるだろうか。
 リカルド・マトゥラーナ(gz0245)は疲れたように笑いながら、ドロームのそんな言い分をアラン=ハイゼンベルグへと伝えた。
 その会話を脇で聞いていたフィリップ=アベル(gz0093)は、内容を理解した瞬間のアランの表情を、未だに忘れることができない。

(「アルバトロスは、テンタクルスの発展型ともいえる。なら、それはそもそも『ドローム製』なのだから、技術は当然ドロームのもの‥‥か」)
 企業としては、その貪欲さは美点なのだろう。フィリップはそう考えて、首を振る。
 だとしても、それで納得できるはずはないのだ。
「――せ? アベル博士!」
「‥‥ああ、すまん。少し考え事をしていた」
 ぼんやりとしている間に、アランが近づいてきていた。
 青年は、いえ、と笑ってから用件を口にする。
「例の機体ですが、素組みは今月中にもできるそうです。以前の、サイファーに使う予定だったパーツがかなり流用できそうなので」
「そうか。それは助かるな」
「今度こそ、間違いなく邪魔は入りませんよ。キャシーも、MG60の完成は間近って言ってました」
 明るく笑うアランに、フィリップは少しだけ困ったように笑い返すしかできなかった。
 見返りの見返りに、今度の機体への口出しはしない。
 ドロームへは、リカルドがそう渡りをつけたのだという。
 釈然としない取引ではあるが、メルス・メスの現状はつまり、そういうことなのだろう。
 だが、仮にもドロームに籍を置くフィリップは、密かに嘆息するしかない。
「――で、この機体に関して、また能力者の皆さんに意見を‥‥博士?」
「っと、聞いてるぞ。わかった。依頼はこちらから出しておこう」
「お願いします。‥‥やっと、メルス・メスオリジナルが造れるんですね」
「‥‥そうだな」
 感慨深げに窓の外を見るアランの横顔から、フィリップはそっと目を逸らした。



 数日後、メルス・メス社からの依頼がラストホープへと届けられた。

『当社で開発中の新型KVに関して、意見を募集する。機体の概要等は、以下の通り。』

--------------------------------

 機体名 :MC−01 ソルダード
 予定価格:200万前後(固定武装込み)

 機体概要:
  『MX−0 サイファー』の実戦投入で得られたデータを元に開発中の次期主力KV。
  小型の機体に高出力エンジンというコンセプトは継承しつつも、より攻撃的な性格の機体に仕上がっており、方向性としては『GF−V マテリアル』の後継機と呼ぶ方が近い。
  フレームや各種パーツなどは洗練されているとは言い難いが、最前線での酷使を見込んだ設計のため、信頼度や整備性は非常に高い。
  また、新機軸のスラスターユニットの搭載によって機動性もある程度確保されている。
  機体の外見は、左右が独立して可動する主翼によって、独特のものとなっている。

 基本性能:
 攻撃>命中>防御≧抵抗>回避(≧生命≧練力)>知覚、を予定している。
 装備スロットは3。内1つは固定兵装。
 アクセサリスロットは4。
 装備力は、少なくとも300以上。
 移動力はサイファー程ではないが、平均以上。

 特殊能力:アクティブ・スラスター(α) ※下記のβとは排他
  メルス・メス版推力偏向スラスター。
  エンジンユニットを機体から独立させることで実現させた機構だが、強度の関係で駆動は上下角に制限されている。
  接合部の強度確保にはアクセル・コーティングが応用されているため、使用時には常に練力を消費してしまうが、2つの機能を使い分けることができる。
  A:練力を消費することで、そのターンの間命中と回避に+の修正を与え、更に方向転換に行動力を消費しなくなる。
  B:練力を消費することで、垂直離着陸を可能とする。

 特殊能力:アクティブ・スラスター(β) ※上記のαとは排他
  メルス・メス版推力偏向スラスター。
  エンジンユニットを機体から独立させることで実現させた機構だが、強度の関係で駆動は上下角に制限されている。
  接合部の強度確保にはアクセル・コーティングが応用されているため、使用時には常に練力を消費してしまうが、機体の姿勢制御も向上するために機動力のみならず命中も向上する。
  また、コーティングの出力系統をFCSにもバイパスすることで、一時的に攻撃力を底上げすることも可能となった。
  A:練力を消費することで、そのターンの間命中と回避に+の修正を与え、更に方向転換に行動力を消費しなくなる。
  B:練力を消費することで、そのターンの間攻撃に+の修正を与える。
 
 固定武装:M−MG60
  装弾数2000発。一度の攻撃で200発消費。リロード不可。
  1秒で60発の弾丸を撃ち出すという、単銃身の銃器としては常軌を逸した連射速度を誇る。
  当然のように短期決戦用だが、その恐ろしい程の速射能力は射線を集中した敵機の回避機動を阻害して余りある。
  この武装による攻撃に対して回避を試みた敵機は、以後のそのターン中回避が低下する。この効果は重複しない。

--------------------------------

●参加者一覧

九十九 嵐導(ga0051
26歳・♂・SN
クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
リチャード・ガーランド(ga1631
10歳・♂・ER
守原有希(ga8582
20歳・♂・AA
桐生 水面(gb0679
16歳・♀・AA
米田一機(gb2352
22歳・♂・FT
イーリス・立花(gb6709
23歳・♀・GD
レオーネ・スキュータム(gc3244
21歳・♀・GD

●リプレイ本文

●技術者の戦場
 研究室に訪れた能力者たちを迎えたのは、まず喧騒だった。
 時折聞こえる単語から考えるに、どうやら出来上がったモックアップから送られてくるデータと格闘しているようだ。
「‥‥なるほど、戦場ですね」
 レオーネ・スキュータム(gc3244)はその様子をそう例えた。
 その比喩は的確だったようで、クラリッサ・メディスン(ga0853)やイーリス・立花(gb6709)は納得したように頷く。
 と、ようやくフィリップ=アベル(gz0093)が能力者たちに気づいた。
「騒がしくてすまんな。こっちだ」
 何ごとかを部下に指示すると、フィリップは会議用のスペースへと8人を誘う。
 コーヒーでもと彼が言うと、それならとイーリスが立ち上がってコーヒーメーカーに向かっていった。
「――モックアップが昨日組み上がってな、珍しく気合が入っているんだ」
「何か分かる気がするわ。活気があるのはええことや思うで」
 多少申し訳なさそうに弁解するフィリップに、桐生 水面(gb0679)がしたり顔で頷いてみせる。
「‥‥モックアップ?」
「機体の模型というか、雛形というか、そういう奴さ。実物大でな、それで色々データを取ってから実際の組み立てに入るんだ」
 レオーネの疑問に、九十九 嵐導(ga0051)が答えた。
 なるほど、と頷く彼女の脇から、リチャード・ガーランド(ga1631)が顔を出す。
「結構早くない? 案外、もう生産ラインも確保してあったりして」
「それは‥‥少し困りますね」
 少年の言に米田一機(gb2352)が僅かに顔を曇らせる。
 要するにそれは、最早性能の調整は利かない、ということも意味するからだ。
 だが、その懸念は無用だったようで、フィリップは笑って首を振った。
「いくらなんでも、そこまではないよ。今回は急ぐ理由もないし、な」
 急ぐ理由、という言葉に守原有希(ga8582)は少しだけ俯いた。
 先日ここの研究室を襲った騒動には、彼が親しんでいるある人々も関わりがあったのだ。
 それでも、あの人達は心を痛めていた。そう心中で呟いて、有希は顔を上げる。
「コーヒー入りましたよ。流石に南米、いい豆使ってますね」
 そこへ、イーリスが戻ってくる。
 コーヒーの香りが辺りを包むと、喧騒が少しだけ遠のいた気がした。

「せやねー、とりあえず特殊能力から、でどやろ。二択やし」
 カップを手で玩びながら、水面が議論の進め方を提案する。
 性能への要求は話が細かくなることが多い。そこで、比較的簡単な方から片付けよう、ということらしかった。
 異論はないことを見て取ったようで、有希が身を乗り出した。
「では、とりあえずアクティブ・スラスターのαとβ、双方の利点をまとめてみたので、お聞きください」
 んん、と咳払いをしつつ彼は続ける。
「αは、何よりもVTOLによる展開力が魅力ですね。価格帯で見ても長所になると思います。他機種との展開速度の違いは運用でカバーできますし、特に問題ではないでしょう」
「確かに、VTOLを活かした連携は利点であると同時に、キモにもなりますね」
 ふむ、と一機は頷いた。
 タイマン向きではない能力といえばそうだろうが、逆にいえば、連携に組み込めばかなりの成果が見込める。
 αの機能は、つまるところ集団戦を前提としたもの、ともいえた。
「次にβですが、こちらは固定武装のM−MG60の脅威を増せる、という分かりやすい利点があります。後、メルス・メスに攻撃上昇という色が加わるのも意味が大きいかもしれません」
 後者の指摘に苦笑したのはフィリップだ。
 誤解を恐れずにいえば、かなり大雑把な機構で攻撃上昇は実現されていたからだ。それが企業イメージをも云々する、と当時の自分が知っていれば、もう少しスマートな方法を考えたに違いない。
 さておき。
 簡単ではありますが、と有希がぺこりとお辞儀をすると、水面が早速手を挙げた。
「うちはβ案を推すで。MG60の特性を活かすには、相手に回避させる必要があるわけや。でも、攻撃力が低かったら受けられて終いやろ?」
「ですね。弾数も限られてますし」
「有効活用する方に特化させるべきですわね。一撃必殺‥‥というのは難しいかもしれませんけど、目標にはするべきかと」
 イーリスとクラリッサが追従する。
 そんな意見にうんうんと頷きながら、リチャードも続いた。
「やっぱり、避けなきゃって思わせるような攻撃力、が実現できないとね。βは手っ取り早い解決策だと思うよ」
 嵐導もまた、ゆっくりとコーヒーを揺らしながら口を開く。
「機体も攻撃を重視してるんだろう? 長所を伸ばすってのは、分かりやすくていいな。それに、メルスの機体で攻撃上昇系のスキルってのは、個人的に面白い」
 どうやら、人数でいえばβが優勢らしい。主張も分かりやすく、機体のコンセプトにも合致しているようだ。
 内心でフィリップがそう感心していると、一機が静かに手を挙げた。
「僕はαを推しますね。というのも、この機体と武装は連携向きだという印象を受けたからです」
 先ほどの、連携はキモにもなる、というのはこの観点からの発言だったようだ。
「この武装は、命中しても避けられても効果がある、撃って損はないという特性です。それは連携の基軸にも繋ぎにもなる。しかも銃器ですから、空陸で使える。どちらにも迅速に展開できるようにすれば、機体のポテンシャルは最大限に発揮できると思います」
 そこで一旦言葉を区切ると、一機はコーヒーで口を湿らせてから続ける。
「‥‥タイマンならゴーレムと互角が精一杯かもしれませんが、連携に組み込めば対エースにも活きてくる。そんな気がするんです」
「‥‥なるほど」
 単体では弱くとも、協力することでエースにも立ち向かえる。
 そのコンセプトはフィリップが考えた通りのものであったが、実際にそう評されると何かむず痒い気がして、男は誤魔化すようにコーヒーを呷った。

●『機兵』
「私もα‥‥を推したかったのですが」
 一機の熱弁を受けて、レオーネが意を決したように話し出す。
「VTOLも好みです。この価格帯なら間違いなく売りにもなると思います。‥‥ただ、それを十全に活かそうとすると、固定武装のリロード不可がネックになるのでは、と」
 そこで彼女は、少しだけ残念そうに息をつく。
「というわけで、βを推します。攻撃上昇は使いどころが明快ですし、固定武装の性質ともマッチしている」
「良くも悪くも、固定武装がこの機体の特色の一つですからね」
 クラリッサが慰めるようにレオーネの肩を叩いた。
 リチャードは、特色、という言葉に少しだけ笑みを零す。
「1秒に60発。かの名銃、MG42の大体3倍かな? 特色というか、クレイジーだよね。オレッちは好きだけど」
「よく考えると、凄いコトになってますよね。キャシーさん、大丈夫でしょうか」
 確かに、とイーリスは少年に同意を示しながら、MG60の設計者の顔を思い浮かべる。
「固定武装に関しては、機体の性能でカバーできると思うんです。元から高い攻撃にすれば、あえてスキルで底上げする必要はないわけですし」
「攻撃を高くするのは賛成ですわ。攻撃性能に尖らせても、面白いと思いますわね」
 顎に手を当てながら一機が再び口を開けば、クラリッサが限定的ながら賛意を示した。
 そこに、水面が参加する。
「逆に、命中は多少低くてもええかもしれんね。当たると痛い、つまり攻撃が高ければそれで十分やし」
「いえ、だからこそ命中は重要ですわ。避けねば当たる、という前提がないと心理的圧力にはなりえませんから」
 クラリッサの返しに、水面がなるほどと手を打った。
 その影で、イーリスも得心がいったという顔をしている。彼女もまた、命中を低くして攻撃を高めては、と思っていたのだ。
 と、話題が機体性能に移り始めたことを察して、フィリップが口を開く。
「とりあえず、一旦休もう。俺も君らの意見をまとめたい」

 今日のメニューは鱧の吸い物に天ぷら、蒲焼、湯引きに鱧寿司、それと赤飯と野菜の焼き浸し――だそうである。
 丁寧な有希の説明とは裏腹に、研究員らには繊細な味を楽しむ余裕はなさそうだった。
 それでも差し入れ自体は嬉しいと見え、笑顔で料理を取っていく彼らに有希は満足気に微笑む。
 地味に舌が肥えていく研究員たちをフィリップは少々心配しているのだが、それはまた別の話。
 さて、食事で適度にクールダウンした能力者たちは、イーリスの入れた2杯目のコーヒーを手元に議論を再開する。
「‥‥機体性能だったか。俺は、基本的に現状のままでいいと思う。ただ、装備関係だな。装備それ自体もそうだが、スロットが3つというのが少し、な」
「少ないかな」
 嵐導の指摘に、フィリップが問い返した。
「固定武装で1つ潰れるからな。実質2つ、と見られると辛い気がするんだ」
「スロットは確かに物足りないと思うけど、通常戦闘なら十分だとも思うな」
 リチャードはそう言う。
 その指摘に、嵐導はコーヒーをゆっくり呷ってから、確かに、と頷いた。
「どうしてもという訳じゃない。皺寄せは、あるだろうしな」
 だろう? と彼はフィリップに視線を送る。
 肩を竦めた白衣の男に、嵐導は小さく笑った。
「まー、主兵装も含めれば3つあるわけやしねぇ。装備にもよるんやけど」
 水面がうーんと首をひねりながら、ちらちらとフィリップを伺う。
「‥‥現状では、400以上450以下、といった数値にすればバランスは損なわない、と試算されている」
「少々‥‥辛いですわね」
 示された数値に、クラリッサは端正な顔に陰を落とした。
 固定武装の他に、もう1つ主要な兵装を積むとすれば、装備に余裕があるに越したことはないのだ。アクセサリで性能を補うことも視野に入れるなら、尚更である。
 そんな彼女の懸念は、一機も共有しているようだった。
「装備は、攻撃と同様に確保すべきだと思います。それこそ、本体の価格を引き上げてでも」
 彼の意見に、イーリスがまず賛同した。
 次いで、レオーネも頷いてみせる。
「戦場の主力、を目指すならそれも選択の余地ありと思うんです。武装込みでの価格帯は、強力な対抗馬も多いですし‥‥」
 イーリスの脳裏には、銀河のシラヌイがあるのだろう。200万台の代表格である。
 それを裏付けるように、レオーネが彼女の言を継ぐ。
「私も、敢えてシラヌイに喧嘩を売る、というのはアリと思います。次期主力を謳うなら、ある程度性能のバランスも必要になってきますから」
「うーん、価格を引き上げて性能がどーんとアップ! になるなら、うちも賛成やねんけどなぁ」
 水面もまた、限定的ながら賛同し始めた。
 どうも価格を上げて性能を、というのは4人が主張する程度に魅力的な提案であったらしいが、フィリップは即答を避けた。
「‥‥南米の懐事情とか、色々あるとは思うんですが」
 沈黙を否定と見て申し訳なさそうに言うイーリスに、男はいやと首を振った。
「不可能ではないんだ。どの道、量産すれば軍への卸価格はどうとでも、いや、そこではなくて」
 マトゥラーナがいれば良いんだが、と少しだけ苦笑して、彼は続ける。
「特に君らへの貸与額に関して、価格と性能は必ずしも比例しない。‥‥如何せん、企業だからな」
 企業だから、という言葉に有希は寂しげな表情をした。
 それを振り払うように、多少勢いよく彼は口を開いた。
「僕としては、練力にも余裕は欲しいんです。特殊能力が重要な機体に見えますから」
「確かに」
 ふむ、と嵐導が顎に手を当てた。
「そこはスキルの消費もあるんだが、それはどうなんだ?」
「能力自体は、コーティングと大差ない。20〜30だろう」
 フィリップの返答に、嵐導はどこか安心したように頷いた。

●期待と不安
 機体に関する話題が落ち着いたところで、有希が推奨装備について切り出した。
「固定武装も考えると、リロード可のライフルや、面制圧できる多弾頭ミサイルとかグレネードとかが合っていると思います」
「うーん、私は短射程高火力武器があると嬉しいですね」
 スラッグガンみたいな、とイーリスも話題に乗る。
 武器やないねんけど、と前置きして、水面も参戦してきた。
「MG60用に、予備弾倉みたいなアクセがあればええなぁ。装弾数増やしたり、リロードが一回だけ可能、みたいな」
 その提案にフィリップが何事かを言おうとすると、水面が制した。
 分かっているから言わないでくれ、ということらしい。
「‥‥ええと、知覚を下げて攻撃を大きく上げるアクセ、とか作れません?」
 2人の無言のやり取りに、おずおずとレオーネが入り込む。
「ODFの類か? 不可能ではないな」
「アクセサリなら、マテリアルのミッションパックのようなものがあれば、と思うんだが」
 手を挙げながら、嵐導はそう言う。
 検討するが、期待はしないでくれというフィリップに、彼は苦笑して肩を竦めた。
 と、リチャードがテーブルに突っ伏した。
「‥‥だめだ、思いつかないや。俺はパスするよ」
「そんな必死に考える必要もありませんよ」
 うーんと唸る少年の頭を、クラリッサが優しく撫でる。
 それで場の空気が和んだのか、何くれと雑談が始まった。
 MG60を生身の歩兵用に転用すれば、とか、ソルダードにコーティングを積めば万能機体に、などの関係ありそうな雑談から、単なる四方山話までと、すっかり議論は終わってしまった感がある。
 有希などは、先ほどの料理をリカルド用にと冷凍やら真空パックやらしたものを研究員に渡したりしていた。
 そんな中、クラリッサがおもむろにフィリップへと話しかける。
「アクティブ・スラスターという羽、MG60という針。ソルダード、KVの新たなる可能性を秘めた機体となりそうですわね」
「そうあって欲しいものだ」
 謙遜のつもりか、そう言うフィリップに彼女はくすくすと笑う。
「‥‥HWの機動に対抗できる機体、意義は大きいと思いますわ。期待させてもらいます」
 たおやかにお辞儀をしてクラリッサが話を終えると、入れ替わりに一機が話しかけてきた。
「今回で、具体的な部分が見えてきたと思ってます。後一歩、ですね」
 労うような彼の言を継ぐように、嵐導も加わってくる。
「言いたいことは言った、つもりだ。どういう機体に仕上がるか、期待させてもらおう」
「‥‥善処するよ」
 装備・攻撃・練力を追求しつつ、他のバランスも損ねないように‥‥。
 相変わらず、能力者たちの要求は辛いものがあるのは事実だが、そういう声に答えるのが技術者の仕事の一環であるのも事実だった。
 どこまでそれを実現できるか。
 そこに一抹の不安はあったが、やれるだけをやるしかない。
 開き直ったように、フィリップは笑った。
 ソルダードが文字通り兵士となれるか否かは、今後の彼の頑張り次第だろう。