タイトル:機兵の産声マスター:瀬良はひふ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/03/16 03:49

●オープニング本文


 北極で大規模な作戦が行われようとしていた時期、南米のメルス・メス本社では、ある機体の実験機が最終調整に入っていた。
 メルス・メス社が開発した「オリジナル」KV、MC−01ソルダード。
 ラストホープの能力者たちに意見を聞き、開発工程に乗せてから既に半年以上が経過している。
「これは開発の遅れじゃあなくて、熟成を重ねた結果と捉えてほしいねぇ」
 メルス・メスの営業マンであるリカルド・マトゥラーナ(gz0245)は、以前業界紙の記者にそう言って笑ったことがある。
 ボリビアの解放によって、メルス・メス・ボリビア社と本社との統合が進められていたが、それが概ね順調であるらしいことも彼の笑顔の一因だったろう。
 さておき、ここに来てようやく開発責任者であるフィリップ=アベル(gz0093)の肩の荷も下りた、かに見えたのだが。

 ソルダードの特色の一つに、その固定武装がある。
 M−MG60とされるそれは、いわゆる機関銃という位置づけではあるものの、その圧倒的速射能力をはじめとして単なる機関銃に留まらない性能を誇っている。
 それゆえの弱点というべきか、MG60の性能を十全に発揮するためには従来のKV用FCS、つまり火器管制システムでは限界があることが、初期実験機による試験で判明したのだ。
 ある意味でそれはMG60の優秀性の証左ともいえたが、スペシャルなシステムを必要とする、つまり汎用性に欠けるという部分が、設計者であるキャサリン=ペレーにとっては我慢ならないものだった。
 その解決策として彼女が採った方法は、MG60そのものに専用FCSを取り付ける、というかなり強引なものである。
「つまり、スラスターと連動するからソルダードのFCSでは銃身が制御しきれないんです。駆動系と火器管制を同時に処理しないといけないわけですから。それなら、火器管制は銃本体にやらせればいい」
 当時の彼女の言は、以上の通りである。
 理には適っているが、それが実現できるかは別問題‥‥であったのだが、彼女にも意地があった。
 同僚であり、同じくフィリップの弟子であり、またライバルでもあるアラン=ハイゼンベルグは、既にGF−Mアルバトロス開発という功績を挙げており、そのフレーム技術はメルス・メスのMX−0サイファーはおろか、ドロームにまで採用されるという異例の事態にまでなっていた。
 一方で彼女はといえば、UPC南中央軍で採用されているGF−Vマテリアルの各種装備、サイファーの推奨装備のいくつかに間接的に携わっているのみだ。
 二人の若者の間に生まれていた実績という格差は、今回に関してはよい方向に働いた。
 MG60専用FCS、システム・テンペスタ。キャサリンは、これを一週間で開発してのけたのである。
 このシステムが思わぬ副作用をソルダードにもたらすことが判明したのは、実際にそれを実装していくつかのテストをこなし、調整が最終工程に入ろうかという段階であった。

「‥‥性能が向上してるって?」
「ええ、そう表現するのが正しいと思う。正確には、何ていうのかしら、ほら、ソルダードは機体制御の一部に人工筋肉を使用しているでしょ? その動きが、以前よりもスムーズになってるみたいなの」
 ある時、その日の試験が終了した段階でアランとキャサリンはそんな会話をしていた。
「キャシーのシステムを積んで、電装系に少し変更があったせいか? ちょっとデータ見せてくれ」
 そう言って、アランはシステム・テンペスタ実装以前と以後のデータを比較し始める。
 確かに、若干ではあるものの、各種の動作がシステム実装以後に、予想よりもよい結果を出しているようだ。
「何か問題でもあったか?」
 そこへフィリップが現れる。
 アランとキャサリンの二人が、難しい顔をしているのに気づいたのだ。ソルダードの試験後である。いかにフィリップでも、多少は不安になる。
「あ、アベル博士、いいところに。これを見てください」
 アランはパッと顔を輝かせると、今まで自分が見ていたデータを恩師へと見せる。
 決して悪い話ではなかったし、フィリップならこれを上手く機体へフィードバックしてくれるに違いない、という予感があったのだ。
 それは、すぐに裏付けられる。
「‥‥これは、ペレー君のFCSの影響か? そうか、その制御で、人工筋肉に回す電流量に多少の変化があったのか。ということは」
 独り言のように呟きながら、フィリップはメモ帳を取り出してさらさらと何かの数式を書き込んでいく。
 五分ほどして、そのメモ帳が画面の横に付箋で貼り付けられた。
「これで、人工筋肉の制御電流は最適化されるはずだ」
「‥‥すご」
 思わず、というようにキャサリンがこぼす。
 このフィリップという人物は、既存の何かを昇華することに関して異常な能力を発揮することがある。
 本人は、過去の技術に胡坐をかいているだけ、と自嘲気味に語っているが、ここまでくると立派な才能といえるのではないか。そう感じざるを得ない瞬間だった。
「ペレー君のテンペスタのお陰だな。MC−01とM−MG60は、出会うべくして出会ったのかもしれん」
「お世辞抜きで、僕もそう思いますよ。しかし、この最適化で能力を底上げできそうですね。何を強化するべきでしょう?」
「あ、そ、それなら」
 フィリップとアランが話し始めたのを聞き、慌ててキャサリンが手を上げる。
「能力者の方に、意見を聞いたらどうでしょう。私も、MG60とシステムの説明をしたいですし」
 その提案に二つ返事で頷くと、フィリップは早速ラストホープへと連絡を取るためにその場を辞した。
 文字通り、最後の仕事が男の肩に乗ったのである。



 数日後、ラストホープにメルス・メス本社からの依頼が提示された。
 内容は次の通りである。

 ●

 当社で開発中のKV、MC−01ソルダードに関して意見を募集する。
 具体的には、調整の結果一部能力の向上を見込めるため、いずれを強化するべきかについて、能力者の観点から忌憚なく議論を交わしてもらいたい。
 ただし、この能力強化については二ヶ所が限界で、上げ幅も底上げ程度であることは注意してほしい。(例えば、攻撃と命中の二つを少しだけ上げる、など)
 また、推奨装備に関しても提案があれば受け付ける。
 こちらに関しては、採用の可否は不透明であることは明言しておく。

 依頼の趣旨とはやや外れるが、希望があれば当機への試乗も可能である。
 その際は、時間と予算の都合上、二名までと限らせていただく。
 なお、現状で当機は実験機であるため、実際に生産される機体とはやや齟齬が出る可能性があることは理解されたい。

 以上。

●参加者一覧

リチャード・ガーランド(ga1631
10歳・♂・ER
鷹崎 空音(ga7068
17歳・♀・GP
ルナフィリア・天剣(ga8313
14歳・♀・HD
守原有希(ga8582
20歳・♂・AA
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
ハンニバル・フィーベル(gb7683
59歳・♂・ER
天空橋 雅(gc0864
20歳・♀・ER
月見里 由香里(gc6651
22歳・♀・ER

●リプレイ本文

●選択
 南米メルス・メス本社、フィリップ研究室。
 ここに来るのはもう何度目だろうか、守原有希(ga8582)はふと考える。
 見回した研究室の中は、明らかな活気に満ちていた。
「例の試験の影響、か」
「まぁ、そうだろうな」
 時枝・悠(ga8810)の呟きに、ルナフィリア・天剣(ga8313)が応じる。
 今回の依頼の焦点であるKV、ソルダードは現在最終試験の最中らしい。
 その性能に関する意見募集ということで能力者は集まったのだが、肝心の依頼主はまだ来ていない。
「すまない、待たせたか」
 少しして、ようやく依頼主、フィリップ=アベル(gz0093)が姿を現した。後ろには、彼の弟子であるアラン=ハイゼンベルグとキャサリン=ペレーの姿も見える。
「おぅ、『兵士』とやらが動くさまを見に来たぜ!」
 そういって笑いながら、ハンニバル・フィーベル(gb7683)が手を上げた。
 その脇では、鷹崎 空音(ga7068)が丁寧に頭を下げている。
「うちは傭兵になって間もないし、ええ意見が出せへんかもしれませんけど、よろしゅうお願い申しますわ」
 特徴的なイントネーションで、月見里 由香里(gc6651)がそう挨拶する。
 硬くなることはない、とフィリップは軽く笑い、八人を研究室奥の会議用テーブルに誘導した。
 皆が椅子に座るとソルダードの簡単な資料が配られ、それを見たリチャード・ガーランド(ga1631)がこらえ切れないとばかりにほくそ笑む。
「ぐふふふ‥‥ついに、ついに来たか。メルス・メスチェーンソー、M−MG60が日の目を見る時が来たか‥‥」
「チェーンソー‥‥」
 はて、と首を傾げる天空橋 雅(gc0864)に、キャサリンが小声で伝える。
 何でも、往年のドイツ軍が開発した機関銃にそうあだ名されたものがあったらしい。それに照らしているのだろう、と。
 なるほどと雅が首肯した辺りで、ルナフィリアと悠が示し合わせたようにユニゾンする。
『‥‥で、サイファーのバージョンアップまだー?』
 一瞬沈黙が場を包み、フィリップが珍しくこらえ切れなかったように笑いを漏らした。
「くく、すまん、そちらもきちんと検討中だ。だが、まずはMC−01の件を終わらせよう」
 その反応に二人の少女は顔を見合わせ、言ってみるものだ、と頷きあった。

 まず議題になったのは、機体の最適化に伴う能力の底上げについてだ。
 口火を切ったのは有希である。
「うちは命中と回避の底上げを推します。命中は固定武装とスキルにも有用ですし、回避もスラスターを生かすならある程度は」
「確かに、上げるならまずは命中、これだね。MG60は当たってナンボだし。他は、まぁ回避でもいいんじゃないかな」
 リチャードが同意する。
「命中と回避は改造での上げ幅も控えめですし、せっかくの固定武器を生かすためにも、命中を高くしておくに越したことない、思います」
 改造という観点も加えながら、由香里も賛意を示した。
 その意見に頷きながらも、やや別の意見を出したのはハンニバルだ。
「命中は俺も賛成だが、もう一つは装備がいいと思う。MG60でスロットが一つ埋まる以上、装備の重要性は他の機体より高いはずだ」
「装備は私も重要だと思うが‥‥命中を上げるなら、もう一つは回避じゃないかな。要するに、組み合わせの問題で」
 ルナフィリアが瑠璃色のイヤリングをもてあそびながら、呟くように口を挟む。
 組み合わせ、という言葉にハンニバルもふむと頷く。
 どの数値を上げたとしても効果はあるに違いないが、より効果的な上昇を考えるならばその考え方は重要になるだろう。
「ボクとしては‥‥長所を伸ばすために命中は欲しいな。後は、防御かな? 派手に暴れられそうだし、ちょっとでも頑丈なほうがいいと思う」
 指を顎に当て、空音はそういって宙を仰ぐ。
「防御と回避、どちらも生存性の観点と思うが、私は練力に手を入れて継戦能力を高めたいな」
 雅はそう提案する。
 練力はスキルやブーストの他にも、使用する機会は中々多い。特に、知覚兵器を使用する場合は、練力が多いに越したことはあるまい。
 こうした意見を聞きながら、一つは命中で確定だろうか、とフィリップは考える。だが、もう一つは少しバラけているようだ。
 どうしたものか、と男が内心で思案したとき、悠が静かに話し出す。
「長所を伸ばす、短所を補う、と言い出すと切りがないので、私は固定兵装との相性と改造の困難さ、この二点から命中と回避を推すよ」
 淡々と、かつ、ばっさりと少女は述べた。
 多数決で決める項目でもなかったが、これで命中と回避を推す声はかなりの数となる。加えて、悠の理由はやや乱暴とはいえ、理にも適っていた。
 これで決まりか、とフィリップは一人頷く。
 そこへ、雅が少し声を落として尋ねてくる。
「‥‥能力の底上げだが、これをしないことでコストを落とすことはできないだろうか? 安いに越したことはないんだ」
 その問いに、白衣の男は少しだけ言葉を選ぶように目を閉じ、答える。
「今回の底上げは、コストを上げずに能力が向上できそうだ、というものだ。だから、底上げをするしないは、少なくとも目に見える形で価格には関係しない」
「やらないと損、ということか」
「そういうことだ」
 雅の理解に、フィリップは頷く。やけに生真面目なその様子に、雅は少しだけ笑った。

●提案
 一同は、少し早い食事休憩を取っている。
 有希が持参した料理の類は、フィリップ研究室の研究員をして早めの休憩を取らせるのに十分な魅力だったようである。
 普段不摂生をしている連中に、トンカツ・野菜と茸と鮭かまのホイル焼き・トマトスープ・豚汁・ご飯・パン・金平と根菜サラダ、などのご馳走を用意すれば当然ともいえよう。
「希望者はカツ丼にしますけど?」
 という有希の提案は、残念ながら既に夢中になっている研究員らには届かなかったらしい。
 やれやれ、とフィリップは肩を竦めるしかない。なお、有希謹製のレシピ帳はアランが責任を持って食堂のコック長に渡すらしい。

 その食事中、フィリップはルナフィリアからある質問を受けた。
「スキルの性能向上はできないの? スラスターのBモードとか、少し注文があるんだけど」
「スラスターについては、これから改良するとなると問題がある」
 暗に無理だといわれたわけだが、少女はあまり気にしていないようだ。
「じゃあ、テンペスタ。回避だけじゃなくて、行動を落とさせることは? 後、行動力全消費じゃなくて、3消費に調整して欲しい」
 この問いには、脇に控えていたキャサリンが進み出てきた。
「それは私から。行動を低下させることは、難しいです。消費に関しては調整はしてみますが、過度な期待はしないでください」
「無難な回答だなぁ」
「すみません。結構、タイトなスケジュールなんですよ」
 少女の歯に着せぬ感想に、キャサリンは苦笑した。
 その会話を聞いていたリチャードは、少しだけ嘆息する。彼もまた、スキルに関して注文があったのだが、それは伝えても無駄に終わりそうだった。

 休憩が終わり、議題は推奨装備に移る。
「アクティブ・スラスターのおかげでドッグファイトがやりやすくなったんやから、空戦でも使える射程10以上の銃器があれば、よりこの機体を生かせる思います」
 おっとりとそう述べたのは由香里だ。
 空戦を想定した場合、最低でも10の射程が求められるのは必然といえよう。陸戦でも決して無駄にはならない数値である。
「そうだね、リロード可能な長距離ライフルとかがあれば、正に熟練の『兵士』って感じの子になりそうなんだよ」
 楽しげに空音が同意する。
 銃器に関しては腹案を持った者が多かったようで、その後も意見が続く。
「うちとしては、銃剣付のものが欲しいですね。接近されたときも、それなら即応しやすいかと思います」
「装備枠から考えても、近接に移れる銃剣付のは欲しいね。リロード可能なアサルトライフルがいいかな?」
 有希がそう提案すると、リチャードが即座に賛同を示した。
 そんな流れに多少乗るように、悠も口を開く。
「MSIのノワール・デヴァステイターみたいのは私も欲しいな。ただ、多用途に使えるものなら、銃剣にこだわる必要はないかも。装弾数と射程、リロード可、これが揃えばそれだけで空陸遠近は戦えるわけだし」
「これ一つあればとりあえず安心、って装備が欲しいわけだ」
 うんうん、とハンニバルが頷きながら続いた。
「俺としては、M−MG60という『矛』に相当する『盾』も欲しいところだ。生命や練力にプラスを加える盾なら、飛行時も単なるデッドウェイトでなくなるだろう」
「一つの盾でそれを実現するなると‥‥」
 フィリップがやや渋面を作ると、ハンニバルはいやいやと首を振る。
「生命の盾と練力の盾、この二つを別々に作って、状況に応じて選択できるようにして欲しいんだ。‥‥もちろん、適度な軽さでな」
 なるほど、とフィリップが腕を組む。
 それならば、そこまでコストは嵩まないだろう。
「軽さ、そう、軽量化は最優先にして欲しい。重いと色々と不便なんだ」
 ルナフィリアがそこに反応した。隣では、悠がうんうんと頷いている。
「その上で、だ。スパークワイヤーとヒートディフェンダーの亜種で、ヒートワイヤーとサンダーディフェンダーとか」
 どうよ、と少女はフィリップの表情を伺う。
 可もなく不可もなく、と男はジェスチャーで応じた。
「‥‥変り種はともかく、一つ安牌が欲しいな。ヒートやゼロでノウハウはあるだろうし、ディフェンダーの強化型」
 傍らのやり取りに肩を竦めつつ、悠が続く。
「厚みのある実体剣ならボクも欲しいかも。もしくはナックル・フットコートとか。一部に人工筋肉が使われてるってことだし、機体のパワーを直接ぶつけられる格闘戦も相性いいんじゃないかな?」
 空音がぺらぺらと配布資料をめくり、人工筋肉の箇所を示しながらいった。
「陸戦もそうですが、やはり空戦隊にも重宝されそうな機体ですし、ミサイルもよさそうですね」
 同じく資料を眺め、有希。
「ついでに、旋回に対応して敵を追随する可動ハードポイント付フレームはどうでしょう?」
「‥‥命中を上げる、ということですか?」
 ふむ、とアランがメモを書き込む。
「フレームなら、エルコンドルとかバトルフレームの改良型が欲しいなぁ」
 ルナフィリアが首を傾げながら話題に乗った。
「私は‥‥スクラムジェットブースターを応用したような、命中と回避を上げるものが欲しいな。後は、生命と防御か」
 アクセサリならば、と雅が提案する。悠もまた、ひらひらと手を振った。
「ギリードゥみたいな、いっそKVペイントでもいいけど、積載限界だけどスロットが余ったらねじ込めそうな軽いのが欲しい。密林迷彩とか」
「やっぱり、軽さは重要や思いますなぁ」
 由香里がころころと笑う。
「あと、ショップに並べて欲しいよね。ホント、時折ロッタちゃんの顔が悪魔に見えてしまうよ」
「まったくだ。ま、それも含めて、頼むよ」
 大げさにため息をついてみせるリチャードに、ルナフィリアも同意する。
 努力しよう、とフィリップたちは苦笑するしかなかった。

●実機検分
 研究室を一旦離れ、テスト場に能力者たちは集まっていた。
「‥‥でかいバックパック背負ったリンドヴルム、って感じだな」
 動き出したソルダードを眺め、悠がそんな感想を漏らす。
「あのバックパックが、主翼兼スラスターなのか。くぅ、いじってみてぇぜ‥‥!」
 ハンニバルが情熱を抑えきれないかのように腕を振るった。
 同様に、有希も目を輝かせている。
「左のスラスターについてるんが、MG60ですかね? なるほど、腕部で保持しない形ね」
 ところどころ発音が独特になってきているのは、彼が興奮しているからだろうか。
「サイファーより、少しでかいのかな」
「ああ、といっても、GF−106よりは小さいが‥‥どうかな?」
 機体の大きさを測るルナフィリアに応じながら、フィリップが手に持った無線機に呼びかける。
 動いているソルダードは二機。搭乗者は一号機が空音、二号機が雅である。
『思ったより乗り心地がいいですねー』
『AU−KVには当然対応、か。操作性も中々よさそうだ』
 そんな応答の直後、二機は大地を蹴ってフィールドの中央へと飛び出していく。移動速度は、それなりのようだ。
『アクティブ・スラスター、起動!』
 外部スピーカーから空音の声が聞こえるとほぼ同時に、背中のU字型の双子のスラスターが機体の挙動に合わせてぐりぐりと動く。
 それに助けられ、ほぼ一瞬で九十度横を向いた一号機はそのままMG60を発射した。
 狙いは、百メートルほど先に存在する仮標的。
 猛烈な射撃音が連続‥‥いや、もはや発射音は一続きにつながって、それこそチェーンソーのような音がフィールドに響く。
 仮標的はそれこそあっという間にペイント弾まみれとなった。
「ふ‥‥ふふ‥‥。やはり、こいつのあだ名はチェーンソーに決まるだろうね‥‥!」
 発射音を聞いて、改めてリチャードが陶酔したように呟く。
『スラスターBモード、テンペスタ、試してみるか』
 一方で二号機は、試験用実包を装填したMG60を腰だめに構える。狙いは、ランダムに動くようセットされた射撃試験用標的だ。
 やはり金切り声のような凄まじい発射音で、嵐の如く銃弾が標的に殺到する。
 着弾とほぼ同時に標的の動きが鈍ったように見えたが‥‥残念ながら、効果を体感する暇もなく標的は無残な姿へと変わり果ててしまった。
(‥‥ま、威力は十分、か?)
 操縦席で雅は苦笑する。
(ソルダード、か。私向けの機体だな)
 どこかしっくり来るような感覚を味わいながら、彼女は機体を反転させる。
 もう少しだけ、先に楽しませてもらおう。そう思いながら。

「傭兵への販売は、いつになるのだ?」
 降りるなりの雅の問いに、慌てるでもなくフィリップは答える。
「早いうちに目に掛けられるはずだ。ま、多少は前後するかもしれんが」
 販売自体は確定だ、と男の目が告げていた。それに満足したように、雅は微笑む。
「うちも、この機体を候補の一番手に置かせてもらいます。楽しみにしておきますわ」
 由香里もはんなりと告げた。
 意外な好感触に少しだけ喜色を見せるフィリップの白衣を、悠が引っ張る。
 何かと振り返った男の目には、どこか悪戯っ子のような彼女の顔が映った。
「格納庫の奥、ツノ付きがあったけど?」
「‥‥目ざといな」
 やれやれとフィリップは苦笑する。
「ボリビアに向けて、MC−01の上位機を提供する話が出ている。アレは、それ用だ」
「シラヌイS型みたいな奴ってか?」
 聞こえていたらしく、ハンニバルが驚いたように声を上げた。
 そんな話題で皆が盛り上がる中、空音はソルダードの機体をやさしくなでる。
「お店に来るのを待ってるよ、ソルダードっ!」
 少女の見上げたライトグレーの機体が、南米の日に映えていた。