タイトル:コロナの光マスター:瀬良はひふ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/12/23 13:51

●オープニング本文


 エイジア学園都市。
 日本の暫定首都、大阪の近郊にあるこの都市は、ドロームが中心となって各企業が出資している先端研究のメッカである。
 その一画にある素粒子物理学研究所に、ジェーン・ブラケットの姿があった。
「はぁ‥‥宮仕えの辛いところよねぇ‥‥」
 エミオンの発見と、それに伴う斥力制御技術の確立。
 その立役者たる女史は、才能を見込まれたが故に、所属するドロームからあれこれと別の仕事を託されていた。
 有名なものでは、北米各地に建設された高効率発電所がその一環である。
 要するに、ジェーン博士の専門分野から派生した技術が高効率発電所の要諦であったために、彼女は北米で現地監督をするハメになっていた。
 実際問題、研究所よりも北米にいた期間の方が長いかもしれない位だ。
 その途中のヒューストンでは、危うく暗殺されかけるという事件まで起きているのだから、中々ハードな人生である。
「先輩とは結局ニアミスだし、MX−Dの武器だってどうなってるんだか‥‥」
 MX−D、エリミナル。
 北米の重要拠点に少数が配備されている、拠点防衛用の局地戦型KVだ。
 斥力レールガン、セイス・プラーガを運用するためだけの機体、と言っても過言ではなく、高性能ではあるが採算の問題で傭兵向けには販売されていない。
 さておき、その斥力レールガンもジェーンの作品だ。
「‥‥褒められても嬉しくないわー‥‥」
 その威力を目の当たりにして、素晴らしい、と無邪気に喜んだメガコーポの幹部を思い出して、彼女は複雑な表情をする。
 彼女の悲願である、素粒子技術の平和利用。
 そのためには、まず戦いを終わらせなければならない。
 分かってはいるものの、自分の開発したものが戦いの道具になる、というのは、いつまで経っても慣れるものではない。
 やれやれ、と首を振りながら、ジェーンがコーヒーメーカーに近寄った時、電話のコール音が鳴った。
「はいはい、と。‥‥もしもし、ブラケットです」
『ジェーンか? フィリップだ。少し話があるんだが、時間は大丈夫か?』
「あら、先輩。大丈夫よ。何?」
『先輩はよしてくれ。実は、開発中のKVのことで――』



 数日後。
 エイジア学園都市、素粒子物理学研究所に、フィリップ=アベル(gz0093)の姿があった。
「‥‥出張扱いにしなくても、有給は余ってるんだがな」
 ポツリと男は呟く。
 人事の都合なのか、それとも気を利かせたつもりなのか、いずれにせよ彼は数年ぶりに日本を訪れている。
 気のせいか、以前よりも随分と周辺の雰囲気は落ち着いたようだ。
 戦況の好転が原因だろうか。
「ふむ」
 ともあれ、今は自分の仕事をしよう。
 そう考え、フィリップは今回の目的を改めて確認する。
 現在、メルス・メスで開発中の宇宙用KV、MX−S「コロナ」。
 機体そのものの開発は、本社で絶賛進行中だ。責任者は、フィリップの弟子でありメルス・メス生え抜きの2人の技術者、アラン=ハイゼンベルグとキャサリン=ペレー。
 既にフィリップの元で多くの機体開発に携わった2人なら、最早独力でやっていける。
 とはいえ、そこに機体の特殊能力が関わるとまた話は違ってくる。特に、コロナには最新の斥力制御技術が投入されるのだ。
 その第一人者こそジェーン・ブラケット博士であり、今のところ彼女に渡りをつけられるのは、元同僚であるフィリップだけだった。
 つまり、男の仕事は自分の弟子と元同僚の間に繋がりを作ること。コロナ以降の開発に、自分が関わらずとも大丈夫なように。
(俺の仕事は、この3人の手助けだ)
 フィリップは一人頷くと、タクシーを捕まえる。
 空港から研究所まではそれなりに距離があるが、この程度の贅沢は許されるだろう。

「できるわよ?」
「‥‥あっさり答えるな」
 所長室、つまりジェーンの部屋でフィリップは苦笑した。
 問うたのは、コロナの特殊能力の一つ、エミオンスラスター「プロミネンス」(ETP)の性能変更について。
 現行では、回避と命中を同時に上げる仕様だが、これを別個にできるか、ということだ。
「元々、斥力制御スラスターの派生だもの。機動性だけ上げるのが本領でしょ」
「まぁ、そうだが」
「私もKVは少し勉強したの。つまり、モードを切り替えればいいのよ。Aタイプは回避上昇、Bタイプは命中上昇、ってね。もっとも、命中については上昇値は高くないだろうけど」
 そうだろう、とフィリップは思う。
 MC−01のアクティブ・スラスターでもそうだったが、機体制御の関係で、回避と命中を共存させるのは中々骨だ。
「あとは、ディメンジョン・コーティング(DC)と光輪「コロナ」についてだが」
「このハイロウを考えたペレーさん? 凄いわねぇ。KVに加速器背負わせるのは、流石に思いつかないわ。でも、そうね‥‥」
 うーん、とジェーンは首を傾げると、立ち上がって自分のパソコンに向かい、何かの計算を始める。
 フィリップの手元のコーヒーが空になる頃、彼女は画面の前に男を招いた。
「簡単な計算しかしてないけど、これで多少設計に余裕が出ると思うわ」
「‥‥燃費の改善はできそうだな」
「というか、それが限界よ。もっと斥力研究に人手があったら、わからなかったけど」
 ないものねだりね、とジェーンは笑う。
 宇宙用KVの一部にエミオンスラスターは導入されているとはいえ、実際の肝は簡易ブースト、つまりは慣性制御だ。
 研究の主流は、概ねその方向なのだろう。
「ま、とりあえずこれで能力者の意見を聴いてみよう」
「ああ、それならうちに呼んでいいわよ。しばらく研究所にいられるし、久々に私も会ってみたいわ」
「‥‥なら、お言葉に甘えるか」
 出張の期間は、もうしばらく残っている。
 まぁ、多少オーバーしても後から有給を申請すればいいだろう。
 そんなことを考えながら、フィリップは携帯端末からラストホープへ依頼の連絡を入れ始めた。
「それにしても」
 ふと、ジェーンが悪戯っぽく呟く。
「いい年の男女が2人で、随分と色気のない会話よねぇ。知ってる? もうすぐクリスマスよ。日本だと、恋人同士のお祭りなんだって」
「‥‥ふ」
 珍しく、フィリップが冗談を返した。
「生憎、俺はプロテスタントだ」
「初耳だわ、それ」
「ああ。今なった」
 くすくすとジェーンは笑い、新しいコーヒーを用意し始める。
 冬枯れた木々が、窓の外で風に揺れていた。

●参加者一覧

鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
メティス・ステンノー(ga8243
25歳・♀・EP
桐生 水面(gb0679
16歳・♀・AA
美空(gb1906
13歳・♀・HD
天小路桜子(gb1928
15歳・♀・DG
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
テト・シュタイナー(gb5138
18歳・♀・ER
逆代楓(gb5803
24歳・♂・ER

●リプレイ本文

●二兎を追う者は‥‥?
 エイジア学園都市、素粒子物理学研究所。
 世俗を離れた研究のメッカにも、歳末の慌ただしさが漂っているようだ。
「‥‥なんや忙しそうですなぁ」
 エントランスで、逆代楓(gb5803)が周囲の様子を見回す。
 これでは、用意してきたジョークの品も逆効果かもしれない。ふとそう思い、ノートの紙に書いたお面モドキをブリーフケースの奥に封印する。
「んー、博士も忙しいんかねぇ?」
 桐生 水面(gb0679)は小さく頬をかきながら、彼女らに依頼を出した博士――フィリップ=アベル(gz0093)の事情を思い出す。
 確か、彼はここへ出張しているのだという。南米から遥々日本へ出張というのは、果たして多忙なのか、暇なのか。
 ともあれ、意見聴取のため既に能力者達は研究所のエントランスに集合しているが、案内役のフィリップは来ていない。
(遅刻や)
 と、水面が銀髪の能力者と目で会話しながら、子供のような笑みを浮かべる。
 そこへ、ようやく白衣の男が現れた。傍らには、同様に白衣の女がいる。
「よく来てくれた。紹介しよう、彼女がジェーン・ブラケット。ここの所長だ」
「よろしく、能力者の皆さん」
 折り目正しく礼をするジェーンに、天小路桜子(gb1928)は几帳面に、テト・シュタイナー(gb5138)はフランクにと、傭兵達はそれぞれに挨拶を返した。
 中でも、一際小柄な美空(gb1906)は軍人顔負けの敬礼をしつつ、ハキハキと言う。
「コロナは、第一次シスターズ宇宙機換装計画の最後を飾る候補機として、期待しているのであります」
 既に搭乗券の購入を予約しようとしている、とのたまう少女に、フィリップは僅かに苦笑する。
「ああ、ありがたい話だが‥‥そうか、君か」
「期待されてるわね。ま、あたしも考えてるし、即決できるようなの、頼むよー?」
 赤崎羽矢子(gb2140)がそう言い、楽しそうにくつくつと笑った。
 さり気なくハードルを上げるやり手の登場に、男は敵わないと首を振る。
「これからの戦いに関わる物ですし、期待も当然でしょう。‥‥私も乗り換えを検討していますし」
 鳴神 伊織(ga0421)も、珍しく冗談めかせて小さく笑う。
 もちろん、性能次第ですが。
 そう静かに付け足すのを忘れない辺りは、彼女らしいだろう。
「責任重大、ということか。とりあえず、場所を変えよう」
 フィリップの言葉で、ジェーンが皆を先導して移動を始める。
 それを見送りながら、男は小さく呟いた。
「‥‥にしても、今回は女性が多いな」
 何となく肩身が狭いような気分になったフィリップの肩を、参加者中唯一の男である楓がポンと叩く。
 奇妙な連帯感を覚えながら、2人もまた女性たちの後に続いた。

 所長室。
 全員にコーヒーが行き渡った所で、話し合いが始まった。
「早速だけどよ、ETPの仕様変更についてだが‥‥」
 口火を切ったのはテトだ。
「俺様としちゃ、前のバージョンでもいいと思うんだ。消費練力が30なら、な」
「条件としては妥当な線どすなぁ。‥‥正直、甲乙つけ難いもんではありますが」
 ふむ、と楓が顎に指を当てる。
 前回のバージョン、つまり、命中と回避を同時に上昇させる仕様だ。
 その意見に、桜子は首を傾げた。
「‥‥わたくしとしては、器用貧乏になりそうで、今回の方がよく思えますが」
「うちも、回避か命中か選択できるってのは面白いと思うな。消費も少ないみたいやし‥‥敢えて注文するなら、排他性をなくす、くらいかなぁ」
 すぐに切り替えられれば柔軟性も増すだろう。
 水面は指でくるくると円を描きながらそう提案し、はてと眉をひそめた。
 自分で言って何だが、それは要するに前のバージョンの劣化版ではないだろうか、と思い当たったのだ。
 少女が内心で、やってもうたかなぁ、と舌を出しているとは知らず、美空が力強く挙手する。
「美空も、この燃費なら現状で文句はないであります!」
 すると、手をひらひらと振って羽矢子が口を開く。 
「あたしとしては、今回のは使用制限がネックなのよね。確かに機体は防御型だけど、高級機だし? 光輪もあるとなれば、精鋭との戦いも視野に入る」
「――であれば、命中と回避は同じタイミングで欲しい、ですね」
 伊織が言葉を継ぐと、そういうこと、と羽矢子も頷いた。
「まぁ、避けるかわりにDCって手もあるんだろうけど、その場合は命中上昇が低いのが勿体ないかなーって、ね?」
 羽矢子と伊織の指摘は確かにもっともだ、とフィリップは腕を組む。
 高級機である以上、敵精鋭との戦闘は視野に入れるべきであろう。
 その際に、「攻撃力は低いが当ててくる」、「攻撃力も低く当たらない」、このどちらが敵にとって嫌かなど、議論の余地はない。
「だからまぁ、あたしとしては消費が40でも、前のプランがいいかな。‥‥ジェーン博士には悪いけど」
 そう言って羽矢子は苦笑する。
 命中と回避を両立させつつ、燃費を抑える。その解法として今回の案を提示したジェーンにとっては、確かに面白くない話かもしれない。
 なにせ、二兎を追う様なものだ。
「‥‥ええと、つまり、燃費を抑えればいいのね?」
 ところが、ジェーンの反応はまた違っていた。

●一挙両得
「せんぱ‥‥フィリップからの要望が機能変更だったから、この仕様になったの。だから‥‥」
 受け答えながら、ジェーンは自分のデスクに向かうと、何やらパソコンと向かい合う。
「今回の機能分割は、回路制御系の変更でしょ? 結局燃費も同じことだし――を――して‥‥」
 色々と専門用語を交えながら話すジェーンに、一同は顔を見合わせる。
 あるいは、独り言なのかもしれない。
「‥‥ただ待つのも何だ。DCについて、何かあるか?」
 フィリップが促すと、ならばと美空が身を乗り出す。
「敢えて苦言を呈するでありますが、誇大広告もいいところであります。燃費でサイファーのFCに大幅に劣り、かつ性能も改造前提とは――!」
 ふんす、と少女が顔をしかめてみせる。
「燃費はFCと同レベルに抑えるのが必須、でありましょう」
「‥‥耳が痛いな」
 その辺りは男も気にするところであるようで、苦虫を噛み潰したような顔だ。
「んー、やっぱ30%っちゅーても、機体の防御力依存なのが気にかかるかな」
 水面も、多少申し訳なさそうにだが、そう述べた。
 やはり、不満がないわけではないらしい。
 ネックは消費練力と、ある意味では不安定要素である30%という数字、つまりは割合上昇の元となる本体の防御力だろう。
「‥‥例えば、桐生君がMX−Sに乗った場合、僅かだが上昇値はMX−0のFCを上回る。装備は考えない状態で、だ」
 フィリップは、既に諳んじられるコロナの性能を元に、そう試算した。
「装備で補えば、効果は同等以上ってか?」
「少なくとも、な。改造前提の性能、と批判された直後だが、多少の改造をすれば‥‥FC以上の効果は得られるはずだ」
 テトの言に頷きながら、男は続けた。
 もちろん、改造前提であの謳い文句を肯定するつもりはない。
 乗り手次第で化けるその発展性をもって、彼は敢えて「別次元」という看板を掲げた。
 そこを「誇大広告」と非難されるのであれば、きちんと受け止めるべきだろう。
 結局のところ、男のちっぽけな意地のようなものなのだ。
「自分としては、改造可能なのが驚きどす。‥‥ええですのん?」
「燃費のみ、の話だが‥‥まぁ、事実だよ」
 その回答に楓はしみじみと頷く。
 技術の進歩に、感じ入るところがあるのだろう。
「俺様は文句ないぜ。――と言いたいが、その燃費に関してはちと、な。もう少し、何とかならないか?」
「そうですね、改造可能とはいえ、初期値は気にかかります」
 練力消費への注文を、テトと伊織がつける。
「‥‥努力はしよう」
 フィリップのその答えは、予想通りだったらしい。
 2人は多少残念そうに顔を見合わせるのみで、特に追求はしなかった。
 そんな議論を聞きながら、桜子はぽつりと呟く。
「‥‥わたくしは十分だと思いますが」
「機体改造で性能も上がるしね。まぁ、注文しても損しないし、多少は我侭になるのもいいんじゃない?」
 その声が聞こえたようで、羽矢子がそう応えた。
 そんなものでしょうか、と桜子は首を傾げたが、困りつつも満更ではなさそうなフィリップの顔に、そんなものかもしれない、と得心した。
 次の機会があれば、と少女が考えていると、デスクのジェーンがおもむろに立ち上がる。
「‥‥ごめんなさい、ちょっと夢中になってたわ。で、結論だけ言うと、ETPの前のバージョンも消費は30でいけそうよ」
「お、マジか!?」
 食いついたのはテトである。
 事実ならば、少女の懸念は解消されるのだ。
「詳しいデータはメルス・メスの本社に送っておくから、参考にしてね」
「‥‥流石専門家やねぇ」
 水面が感心したように呟く。
 恐らく一度ETPの仕様を変更した経験があるからこそ、なのだろうが、それにしても驚くべき短時間だ。
「‥‥二度手間踏ませちゃって、悪いね」
「いいのよ。今の私には、それくらいしかできないから‥‥」
 羽矢子の礼に、ジェーンは照れたように頬をかく。
 そのまま照れ隠しのようにカップに口をつけ、ふと彼女は眉をひそめた。
「‥‥すっかり冷めちゃってるわね。淹れ直すから、少し休憩にしましょ?」

●画竜点睛を欠くか
「光輪「コロナ」については、装弾数が増えたのが嬉しいですね」
 熱いカップを持ち上げながら、桜子が切り出した。
「予想より使用回数が多いのは、ええことどすな」
 楓はそう同意し、湯気で曇ったメガネを外す。
 淹れ直したばかりのコーヒーは芳しいが、この湯気は少々困りものだ。
「性能も、十分なラインじゃない? あ、改造は可能にして欲しいけど」
「せやねぇ。上々やと思うで」
 羽矢子と水面も頷いたが、テトは僅かに首を傾げた。
「んー、性能は俺様も妥当なラインだと思うが‥‥もう少し軽くできねーかな。流石に、この重さはちと、な」
 やや難しい表情をしている辺り、少女もそれが厳しい要求なのは理解しているのだろう。
 それでも口に出すというのは、期待の裏返しなのかもしれない。
 だが、フィリップの返答は、ある意味では予想通り。
「ハイロウ自体の重量があるから、な。単なる軽量化というのは、難しい」
「あー‥‥やっぱそうか」
 残念そうに、テトがカップに口をつける。
 熱、と小さな声がした。
「美空としては、飛行形態でも使えるようにしてほしいでありますな」
 はい、と少女が挙手する。
「で、ソルの子機のように、遠隔操作可能にしてブーメランのようにするのも面白そうであります。えと、つまり、KVの全周囲に攻撃したいと」
「簡易ブーストで、事実上全周に攻撃は可能だが‥‥」
 フィリップの指摘に、あ、と美空は口を押さえた。
 旋回に要する時間は無視できるのだから、振り向けばいい。もっとも、バグアばりの遠隔操作など土台無理である。
 また、やはり宇宙空間では、武器カテゴリの別も事実上存在しない。必要に応じて変形すればいいからだ。
「‥‥こほん。ハイロウは加速器でありますから、本来なら強力な粒子ビームの搭載が妥当ではないかと美空は考えるのでありますが」
「武器として使うなら別の形が良いのでは、ということだな」
 ふむ、とフィリップは腕を組む。
「一つ誤解がある。確かにハイロウは加速器だが、いわゆる粒子加速砲に使うものとは別のものだ。それにハイロウは、エミオン生成器兼スラスターだよ。光輪という「武器」は、誤解を恐れずに言えば、その副産物に過ぎないんだ」
「副産物、ですか?」
 伊織が訝しげに問うた。
「そうだ。円形の刃というのも、奇を衒った訳ではない。ハイロウを利用する以上、そうなるのが自然というだけなんだ」
「‥‥なるほど」
 テトは唇を噛んだ。
 そうとなると、少女の考えていた軽量化策は通用しない。
「なら、武器としての価格を上げて性能を向上、というのも難しい、と」
 伊織が指を顎に当てて呟く。
「無理ではないが、君が望むほどになるかは難しい、な」
 男が答えると、彼女は静かにコーヒーに口をつけた。
「ん、欲を言い出すとキリがなくなってまうしな。ま、よろしく頼むで〜?」
 水面は愉快そうにフィリップを見つめ、言う。
 努力しよう。
 そう答えて、男は苦笑した。

「ちょい聞きたいんどすが‥‥」
 ふと楓が口を開く。
「光輪は‥‥命中を度外視すれば、振り向かずに真後ろに撃てますえ?」
「‥‥ん、理論上はな」
 フィリップの答えに、楓は怪訝な顔をした。
 その表情に、男は少しだけ困ったように頬をかく。
「この武器形態は前例がなくてな。最適な使用法、どう撃つかだが、それはまだ検討中なんだ」
「まぁ、変わり種の武器どすからな」
「これに関しては、実機で試さないことには結論がな。ただ‥‥わざわざ真後ろに撃つのは、実用性に欠けるだろう」
 道理だ、と楓は思う。
 簡易ブーストがある以上、普通に振り向いて攻撃すればいい。
 敵の虚を突く効果はあるだろうが、リロードできず、装弾数も多くはない武器でそれをするのは、やはり実用的ではないだろう。
「実用‥‥ああ、この機体用に店売りの知覚装備を拡充するのをオススメしますえ? まだ宇宙用装備は未開拓。市場独占のチャンスとちゃいますか」
「お? 何々、推奨装備の話?」
 羽矢子が食いつく。
「あたしは、軽くて効果の高いアクセが増えてほしいね。光輪が重いし。あと、せっかくジェーン博士がいるんだから、エミオン使った機動力向上のアクセとか?」
「おおっと、ならうちは装甲系のアクセサリや。DCの効果も高まるし、ええと思うでー」
 羽矢子の肩口から、水面が乗り出してくる。
「装甲系‥‥翼型推進装甲「エルコンドル」というのがありましたね。あの強化型がいいと思います。ハイロウへのダメージ軽減もできれば、尚いいですね」
 宙を見つめながら、桜子も参加した。
 唐突に始まった話題だったが、フィリップは慌てることなくメモを取っている。
 流石や、と意味もなく水面は頷く。
「他には、そうだね、水素カートリッジ付きのアクセ。強化可能がいいな。ま、戦力確保ってことで」
「‥‥宇宙用KVも、安くはありませんからね」
 その提案に同意するように、伊織が頷く。
「で、最後に」
 ふと、羽矢子が真面目な顔をする。
「ソルダードのバージョンアップって、まだ?」
「‥‥ふ、まぁ、こちらが一段落したら、だな。早くても年明け以降、だが」
 その答えに、彼女は悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべた。
 そんな会話の様子を見ながら、テトはジェーンと話している。
「にしても、エミオンか。戦争が終わったら、俺様も研究員として参加してみたいな」
「ええ、その時は歓迎するわ。‥‥早く、終わってほしいわね」
 少女はにっと微笑み、任せろ、と親指を立ててみせた。
 コロナがそのための力となれるか否かは――開発陣の努力にかかっている。