●リプレイ本文
●準備はOK?
「さぁて、張り切ってネズミさん退治に行きましょうかね♪」
高速移動艇から降りた大泰司 慈海(
ga0173)は伊達眼鏡をくいっと上げる。
問題のキメララットはこの街の近くの廃墟から溢れ、いたる所に出現しているようだ。
「どこにどれだけ隠れ潜んでいるのかわかりませんから、餌で誘き寄せるのも手ですよね」
もぎゅもぎゅもぎゅっ。
とっても礼儀正しい口調なのだが、エル3(
ga1876)は終始チーズにぱくついている。
「初めてのお仕事ですので、どうなるか分かりませんが‥‥一生懸命頑張りたいと思います」
そんなマイペースなエル3の隣で、大曽根櫻(
ga0005)は愛刀の柄ぎゅっと握り締める。
その表情は緊張の為だろうか?
かなり青ざめている。
「本部からこの地区の地図を貰っておいた。探索を終えた所を塗り潰していき敵のいる場所を絞り込んでこうか。‥‥まぁ、市街地全体に散らばってそうだけど、念のためにね」
ナハト(
ga0160)は予めもらっておいた地図をケブラージャケットのポケットから取り出す。
過疎地区なだけあって、規模は小さい。
この街に住んでいる人々は一時安全地区に避難しているようだ。
「争い事は不得手ですが‥‥この街の人々が平和に暮らせるよう、最善を尽くしましょう」
腰まである長く白い髪と、理知的な眼鏡が印象的な椎橋瑠璃(
ga0675)はおっとりと辺りを見回す。
剣術には多少の自信があるが、まだまだ新人。
能力者としての実力に自信と自覚をこの依頼でつけられれば良いのだが‥‥。
「‥‥流石に‥‥」
そして全身黒を身に纏い、『名は体を現す』を地でいっている黒河 樹(
ga1455)がふと呟く。
豪(
ga1471)がその呟きに首を傾げるが、黒河はなんでもないと首を振る。
(「いくら動物に好かれるとはいえ、キメラにまで好かれたりはしないよな?」)
黒河の周りには、なぜか動物が集まってくることが多いのだ。
キメラとはいえ基本はラット。
本能の赴くままに黒河にばかり集まってきたら洒落にならない。
「キメララットの殲滅か‥‥これ位なら良い腕試しになるな」
パキパキっと拳を鳴らし、豪はニヤリとする。
各職業が集まり、バランスが取れた今回のメンバー構成は心強い。
「支援は任せて下さい」
ギンガ(
ga1726)は長弓を下げ、前方を見据えた。
●遭遇! キメララット
事前に人々が避難したその場所には、活気がなかった。
傭兵達は陣形を組み、市街地を調査する。
「夜行性でないのは幸運なのかな。あと、糞とか落ちてるねぇ」
大泰司は道端に散らばるキメララットの糞を調べる。
目撃情報や本部からのいままでのデータを照らし合わせると、夜間はもちろんのこと、昼間もよく行動しているようだ。
キメラゆえ、通常のラットとは違うのだろう。
そして糞の形状から察するに敵は近い。
「美味しい美味しいチーズは如何ですか? エルのお乳から作った美味しい手作り人乳チーズですよ〜♪」
嘘か本当か。
エルは自分がいつも持ち歩いているチーズを細かくちぎり、辺りに撒いてみる。
チーズ独特の匂いが辺りに漂い、エルは嬉しそうだ。
(「狙撃手は陣形の中央、か‥‥」)
陣形の中央にいるナハトは少々不満気だ。
狙撃手として本来ならば一人のほうが都合が良いのだ。
だが、今回は敵の数が多い。
この配置もやむなしとサブマシンガンを構えなおす。
「奇襲攻撃に対しては万全です‥‥噛まれさえしないように注意が必要ですけれど。変な病原菌なんかがあったら厄介ですしね」
大曽根の顔色がさっきよりも悪い。
心なしか震えているようにも見える。
「ここにはいないか?」
黒河は廃ビルの路地裏に積み立てられたダンボールを蹴り、横にどける。
いかにもネズミが潜んでいそうなのだが‥‥。
「ーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
飛び出してきた黒い物体に大曽根が声にならない悲鳴を上げる。
覚醒した大泰司が即座に練成強化を発動させ大曽根の武器を強化した。
「櫻ちゃん、俺の腕を信じてねん♪ そんな雑魚、一撃で屠れるよ」
大泰司のほんのりと赤く上気した皮膚は、まるで酔っているかのようだ。
だがそれは覚醒の印。
黒い物体―― キメララットの襲撃に傭兵達は次々と覚醒する。
「一匹ってことはないですよねぇ。全員出てこないと瓦礫事、殺っちゃいますよ〜♪」
エルはご機嫌にロングスピアを廃墟に突き刺し、瓦礫量産!
そしてお約束のようにキメララットが溢れだす。
「動きが早く、的が小さい所為で狙いを定めるのが困難なら‥‥鉛玉の雨を降らせればいい、ということさ」
ナハトのサブマシンガンが火を噴き、とめどなく溢れる弾丸は次々と襲い来る大量のキメララットを打ち抜いてゆく。
(「私の速さを軽く試すには‥‥、丁度いい」)
黒河は両手に黒いオーラを纏わせながらキメララットの攻撃をあっさりとかわし、そのまま攻撃に転じる。
そしてギンガは鋭覚狙撃を発動し、遠方から騒ぎに気づいて向かってくるキメララットに弓を絞る。
キリキリと限界まで張り詰めた玄が鳴り、打ち放たれた矢は狙い違わず敵を撃ちぬく。
「奇襲攻撃には備えていたんです。‥‥鼠でさえなければ!」
大泰司強化された愛刀で、大曽根は鼠を切り捨てる。
その目尻には涙が浮かんでいる。
礼儀正しく、落ち着いていて取り乱すことの無いように思えた大曽根だが、本気で鼠だけは苦手なのだ。
「おっと、こっちまで着ちゃ駄目だよ♪ ‥‥っと?!」
前衛の脇をすり抜けて飛び込んできたキメララットを大泰司は踏みつける。
だがその瞬間、キメララットと革靴の間に赤い壁がビシッと発生し、大泰司は衝撃によろけた。
エミタを介さないただの靴でキメラを踏めば、当然のことながら電磁波に阻まれる。
この電磁波のせいで、エミタが発見させるまで人類は長い事キメラ、そしてバグアへ対抗する手段が無かったのだから。
「てめぇ等の敵は俺だぁぁぁ!!!」
体勢を崩し、攻撃手段をもたない大泰司を守るべく、赤オーラに包まれた豪はキメララットに殴りかかる。
豪の攻撃を予測すらしていなかったキメララットは、避ける間もなくその拳の前に命を絶った。
「わたくしの名にかけて」
そして椎橋が最後の敵を切り捨てる。
●作戦成功! 祝杯をあげよう。でも未成年はノンアルコールだよ?
「チーズラットも意外にいけますね♪ むしゃもぐ」
エルは敵を殲滅したその場所で、鼠の形にちぎったチーズを頬張る。
本当はスピアに串刺しにしたキメララットを丸焼きにして食べたかったのだが、大泰司に、
『エルちゃん、そんなの事をすると美容と健康にクリティカルダメージくらいかねないよん♪』と止められた。
『変な病原菌なんかがあったら厄介ですしね』と大曽根も同意し、エルのキメララット丸焼き計画は中止になった。
ただの鼠ですら危険な病原菌を持っていることもある昨今。
バグアの作り出したキメラを食したら肉体にどんなダメージが行くのか本当に想像もつかない。
「無事に全てのキメララットが片付いたから、皆で飲みにでもいきたいね。あぁ、未成年はノンアルコールで我慢しなよ?」
「それは名案だね♪」
ナハトの発言に酒好きの大泰司が即座に同意する。
「お酒ですか。お茶ならばすぐに点てられますが‥‥」
茶道をたしなむ椎橋が微笑む。
そして豪は自分の両手をじっと見つめる。
「これが、今の俺の力か‥‥」
仲間を、そして世界を守りうる力。
「俺はもっと強くなれる‥‥そして大切なものを守っていくんだ」
見上げる空に呟いた。