●リプレイ本文
●
「今回は女の子だけの特別編成部隊なのね。太古の時代の萌えアニメみたいで、ス・テ・キ。そして、なんでかエッチなキメラ達に服をビリビリにされちゃったり、拘束されちゃって、ア〜ンな体験をさせられちゃうのよね」
キメララット捕獲に集まってくれた有志達を前に、何故だか嬉しそうにケイト・ラングリス(gz0130)は言った。ベタな展開好きなマニア、なのかもしれない。
「前回は‥‥あんなに激しかったのに‥‥今回もまた、激しい、予感ですわ」
鷹司 小雛(
ga1008)は一瞬で頬が熱くなるのを感じた。他にも色々と何かを感じている様で、ケイトを見つめる瞳はうっとりと潤んでいる。
「なるほど。それを販売すれば売り上げで今回の経費もトントンどころか収益が出ます」
本気なのかそれとも高度なテクニックを駆使されている冗談なのか、文月(
gb2039)は真顔で言い、レイチェル・レッドレイ(
gb2739)とその手にしている立派そうなハンディビデオを交互に見る。ハイリスクハイリターンの予感。
「え〜ボク、ドキュメンタリー記録を撮るつもりだったんですけどぉ、もしかして欲望という名の娯楽超大作のカメラマンになっていたんでしょうかぁ? あ、でも乙女の秘密を暴いちゃうぞ! ならちょっとだけ自信あるよ」
最初は不安そうであったレイチェルだが、最後はニッコリと無垢そうな笑みを浮かべて文月を見た。こちらも本気と冗談の境界線が曖昧だ。
「文月さんは貧乏なのニャ? それならあたいも一肌脱いじゃってもいいニャ。どうせ世の中のドキュメンタリー記録の78%はヤラセなのニャ」
アヤカ(
ga4624)は全く根拠のない数字を出しニパっと笑う。本当に脱ぐ気はサラサラないが、悪戯の機会がありそうな時に悪戯をしないという選択肢は選べない。血が騒ぐのだ。
「みんな飛ばしてるね。講義続きで退屈してるのか? それとも‥‥欲求不満?」
眼を丸くして大胆発現をしながらレミィ・バートン(
gb2575)は小さく肩をすくめる。手には大型で強力な懐中電灯を手にしている。
「いい加減冗談はさておき、本題に入ろう。僕達の任務はキメララットの捕獲にある。貴女にも教師としての自覚を持って学生と接触をしてもらいたいな」
ハラリと額に垂れかかる前髪をうるさげに掻き上げ、鯨井レム(
gb2666)は悪ふざけの過ぎる教師と同輩である学生達に冷徹な視線を向けた。
「はーい。じゃ、私はみんなの無事を一生懸命祈りつつ、エッチな妄想を頭の中だけで展開しておくから頑張ってきてね。お土産期待しているわ」
ケイトは捕獲用のケージを沢山持って出発する学生達に手を振った。
●
「いないねぇ」
レイチェルのドキュメンタリー映像『実録! ボク達は見ちゃった! 薬品倉庫に潜む謎のキメララット! 捕獲どっきり作戦。ポロリはあるの?』はキメララットがいないという映像ばかりがストックされていく。
「ボク、そろそろキメララットの迫真迫力映像が欲しいかなぁ〜。なんだか同じ画ばっかりでつまらなくなっちゃったぁ〜」
あくびをかみ殺しながらレイチェルは続ける。部屋中ところ狭しと置かれた薬品棚は常温で保管しておけるものがほとんどであったが、なにしろ数が多い。しかも中には遮光を必要とするものや温度管理が必要なものもあってそれらを一々確認してまわるのは結構骨が折れる作業であった。しかもキメララットというお宝があるかどうかさえわからない。
「こうして見ると危険な薬品が多い様だな」
レムは薬品のラベルに書かれた名前を記載しながら小声でつぶやく。棚に置かれているのはほとんどが毒物劇物ばかりであった。ある保冷庫の中には染色液ばかりが入っていたし、その隣にある凍結倉庫の中には様々な細胞培養液まで保存されている。
「一体あの教師はここで何をする気なのか‥‥人体実験でもやれそうな品揃えではないか」
言葉にしてみるとそれは懸念では済まなくなって来るような気さえした。レムの眼から見てもケイトという人物は胡散臭すぎる。
「キメララットはいないみたいですけれど、一応ここにも罠を仕掛けておきますね。もしかしたらヒットするかもしれませんし。あ、ここもちゃんと撮影しておいて下さい」
文月はレイチェルがレンズを向けると、カメラ目線で笑顔のままケージを部屋の隅に置いた。無理なカメラ目線のせいかややぎこちない仕草であったが、しっかりとケージを壁際にセットする。中にはチーズが入っていてこれを餌にキメララットを捕獲する、予定だ。金銭的に不自由な文月が奮発したトラップだ。更に皆に配ったトリモチのついた棒にも若干の経費がかかっている。
「今回の費用‥‥やっぱりロハ‥‥かなぁ」
思わず漏れてしまうのは哀しい溜め息だ。貧乏は本当に、ほんとっぉうに辛いものだ。
「ねぇねぇ。あたしが猫みたいな声で鳴いてみるのとかってどうかニャ? ほら、猫はネズミを追い立てる役にピッタリだと思うニャ」
普段から語尾が猫っぽいアヤカだけにネズミを捕らえる猫の役は適任の様にも感じられる。効果があるかどうかはわからないが、アヤカがやる気満々なのは見て取れる。
「やってみてもいいよ。もしキメララットが現れたらあたしがばっちり捕まえちゃうよ」
「薬品棚が壊れてしまっては困りますけれど、わたくし達が矢面に立つ分にはどうとでもまりますでしょう」
レミィと小雛は共に同意する。
「薬品棚はあたしが守るよ。キメララットが棚の下や隅に入り込んだりしたら厄介だから、絶対に‥‥身体を張ってでもキメララットなんかの好きにはさせない!」
胸を張りレミィは宣言する。その身を包む淡く蒼い光は背で翼の様に広がり、伝承の中で語り継がれる使徒の様に神々しい。
「ケイト先生が大事にしている薬品たちですもの。わたくしも微力ながらお手伝いいたしますわ」
小雛はしとやかにうなづき、夜空を思わせる漆黒の瞳をそっと伏せる。
「じゃ、いっくニャ! にゃあああああぁぁぁぁぁああああごぉぉぉおおお!」
アヤカが発した声は威嚇するような腹に響く重低音の鳴き声だった。いきりたつ臨戦態勢の猫が発する異様な声だ。
「いた!」
レムが叫ぶ。指先が薬品庫の中で弧を描くように動き、その先に‥‥はしっこく動く小さな影がある。レムはハリセンを手にその影へと走りだした。
「おりましたわ! キメララットに違いありませんことよ!」
小雛の声にも緊張がにじむ。それほど影の速度は速い!
「部屋の隅にケージがあります。そこへ追い込んで下さい」
予備のケージを抱えた文月も影を眼で追いながら、攻守に備え体勢を変える。
「にゃにゃにゃにゃにゃにゃぁぁぁああごぉおおおおニャ!」
アヤカはすっかり猫に変身してしまったかのように、前傾姿勢のまま素早く逃げる影と遜色ない速度で走り回る。いつの間にか猫の様な耳と尾が生えていて、緑色の瞳は猫の目の様に爛々と光り輝いている。
「今日のボクは忙しいから遊んであげないの。えっと、誰か他の人に遊んで貰ってね」
ビデオを抱えたレイチェルは一応ナイフを抜いているけれど、カメラを構えたままの手にあるナイフではとても攻撃は出来ないし、そもそもキメララットを追うつもりもなさそうだ。
「あたしが‥‥あ、駄目!」
レミィは影が薬品棚の下へと向かっているのがわかった。それは駄目だと思ったら、身体が勝手に動いていた。
「レミィさん!」
「レミィ!」
学園指定のジャージ姿のレミィがスライディングし、その身をもって薬品棚と床との隙間を塞ぐ。進路を阻まれた影、キメララットの動きが一瞬止まった。
「そこだ!」
レムのハリセンが救い投げるようにキメララットを撃つ。その瞬間、ハリセンはまるでゴルフクラブの様であり、飛ぶキメララットはゴルフボールの様に回転しながら薬品庫の宙を舞う。
「薬品棚が‥‥倒れますわ」
キメララットへと向かっていた小雛の身体は、だが一瞬で無理に捻り薬品棚へと両手を伸ばした。その棚の下にはまだレミィが倒れているのだ。
「危ないです!」
文月も小雛とは別の角度から薬品棚を支える。その棚にドクロの絵が描かれた薬品名のないラベルが沢山並んでいたのを見ていたのだ。
「なあああぁぁあ!」
アヤカの眼が見ているのは飛ぶキメララットだけであった。飛びつくようにアヤカもダイブする。その一部始終をレイチェルが持つカメラのレンズが捕らえる。小雛と文月が支えた薬品棚は大きく斜めに傾いだが倒れることはなく、その間にレミィも転がって体勢を整えると薬品棚を押し戻した。
「倒れないで!」
ガタガタと揺れていた沢山の瓶は‥‥だが1つとして割れてはいない。
「ばっちり撮影成功ー。よかったね、みんな。ほら」
レイチェルはビデオを撮りながら指を指した。ケージの中にはキメララットが1体、身体をピクピクと痙攣させながらもなんとか生きていた。
その後、更に棚の隅や冷蔵庫の背面などを探し回り、3体のキメララットを捕獲した。
「これ以上キメララットは確認出来なかった。これが報告書と‥‥それから証拠の映像だ」
「はい。ボクちゃんと撮ったよ。これ以上は本当にいなかったの。嘘、ついてないよ」
冷静に報告するレムの横で何故かレイチェルは涙を湛えた眼で哀願する様に訴える。
「こうして見ると案外可愛いものですね」
多少引きつった笑顔を浮かべながら文月はケイトにケージを渡す。
「よかったわ。助かるわ」
とらわれの身ながら元気いっぱい暴れ回るキメララットを愛しそうに見つめ、ケイトは嬉しそうに1人1人をギュッと抱きしめる。大きすぎる胸に強く抱きつかれ息苦しいさと甘い香水に、意識が飛びそうになる。
「く、苦しい〜ニャ。もう勘弁してニャ」
アヤカはケイトの腕や背を何度も軽く手の平で叩く。太古の昔から伝わる『参りました』の仕草らしい。
「それにしてもキメララットとはその様に貴重なものなのでしょうかしら?」
黒髪を揺らし小雛は疑問をつぶやく。
「あ、そうだ。そのキメララットどうするの? 聞きたいな」
「あら、好奇心旺盛なのね」
ウフッと笑いながらケイトはレミィを招き寄せ、耳元で囁く。ドンドンレミィの顔色が青ざめていくのは‥‥多分、気のせいではない。
「皆さん、ありがとう。またよろしく、ね」
感極まったのか、ケイトの胸元からかろうじて止めていたボタンがぶちぶちと音を立てて指弾の様に飛び、あちこちでガシャーンとガラスの割れる音がした。