タイトル:キラー&イレイサーマスター:東雲 ホメル

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/02/20 01:52

●オープニング本文


 ‐‐もう駄目だ‐‐
 エーリッヒ・オーウェンは血塗れの左腕を見て確信した。
 何がどうなってるのか、理解できない。
 しかし、もうすぐ自分は殺されるのだという事だけははっきりしていた。
「どうして? くっ‥‥」
 何とか二階の自分の部屋に辿り着いた。
 そのまま高級な革張りの椅子に座り込む。
「一体‥‥彼女は何者なんだ‥‥?」
 何とか止血はしたものの、血を流しすぎたのか思考は重い。
「失敗した‥‥奴は‥‥要らないって言ってたな」
 入り口はキメラが居て逃げ出せなかった。
 庭にも何匹か確認できた。
 エーリッヒは完全に追い詰められていたのだ。


 父、母、そしてエーリッヒが揃って食事をしていた時だった。
 黒いマントを羽織った女が突然食堂に入ってきた。
 その手に握られていたのは血に塗れた斧。
 エーリッヒは一瞬、親友で殺人鬼でもあるフィオナ・コールが約束を果たしに来たんだと思った。
 しかし、それはほんの一瞬。
 確かに美しいが彼女とは違う顔。
「失敗した奴は要らない。 言ってる意味分かるだろ?」
 そう言ったその女は徐に斧を振り上げオーウェンの父親の肩口を裂いた。
 響き渡る断末魔と悲鳴。
 オーウェンは呆然としたままその光景を眺めていた。
 床に倒れる父を見て、無残に斬り飛ばされる母を見て思った。
 ‐‐あぁ、死ぬのか‐‐
 女がエーリッヒの方を振り向いた時だった。
 元々、死にたいという願望が有った彼を生に繋ぎ止めていたもの。
 それがフィオナ・コールとの約束だった。
 斧が振り下ろされる瞬間、咄嗟にそれを避けていた。
 左腕を切り裂かれたが致命傷ではない。
「なんだ? 避けるんじゃないよ」
 女はそう呟くと、ゆっくり近寄ってくる。
 SPはどうした、と叫びたいところだったが結果はすぐに想像できた。
 逃げ出した先の廊下に、何人もSPが転がっていたからだった。
「鬼ごっこか?」
 愉快そうに笑いながらゆっくり追って来る、女。
 ‐‐死ぬわけにはいかない、フィーとの約束の為に‐‐
 エーリッヒは約束の為に今は生きなければならなかったのだ。


「まぁ、何だ‥‥つまり中身は真っ黒だったって事だ」
 パイプ椅子に腰掛けた京・ラングレンは頭を掻きながら苦い顔をした。
 警察署内の会議室を借りての作戦会議。
 机の上には前回のクリミナルヘブンの一件の資料が広げられていた。
 京の目の前には数人の傭兵が椅子に腰掛けている。
「総合商社オーウェンズ‥‥優良企業だと思っていたら大間違い、実はバグア側と繋がっていた訳だな」
 キメラを商売道具にしてやがった、と溜息をつく。
 バー・O(オー)は総合会社オーウェンズの経営する直営店だったのだ。
 京の話によると、最近は会社が大きくなりすぎて統率の取れていない部分も有ったそうだ。
「それで今からその会社とそこの社長の家に強制捜査入ろうって言う話だったんだが‥‥」
 京は立ち上がり窓の外を眺める。
「さっき入った通報じゃ、どうやら手遅れらしい‥‥口封じなのかね?」
 通報者は社長のSPだったが、途中で連絡が途絶えたらしい。
「バグアがどうとか言ってたらしいが‥‥完全に黒だって事だな」
 時間も無いし行くか、と京が傭兵達に声をかける。
「今回も緊急の依頼になっちまって、悪いな」
 そう言って、京は会議室を出て行った。


 一方、クリミナルヘブンの一件を新聞で読んだフィオナは街に戻ってきていた。
「遂に暴かれたか‥‥エーリッヒ・オーウェンは知らなかったようだけど‥‥」
 この事実を知った時、彼は悲しんだのだろうか?
 そんな事を思うと、胸が締め付けられるようだった。
 何とも変な事だ、と戸惑いつつもフィオナはその感覚に愛おしさを覚えていた。
 殺人鬼の自分が殺すと約束した相手は、初めて愛した人間。
 自分の感情と行動は矛盾している。
 しかし、愛という感情を抱いた、最初で最後になると思われる人間。
 そんな人間と交わされた約束は自分にとって果たさなければならない宿命のように思えた。
「急がないと」
 フィオナはそう一言呟きエーリッヒの下へ走り出す。
 バグア側が口封じに来るのは大体予想できていた。
 そうなると幽閉か殺害か。
 どちらにしろ、約束が果たせなくなる。
 フィオナはそれだけは避けたかった。

●参加者一覧

幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
ミア・エルミナール(ga0741
20歳・♀・FT
ゴルディノス・カローネ(ga5018
42歳・♂・SN
大神 直人(gb1865
18歳・♂・DG
ヴィンセント・ライザス(gb2625
20歳・♂・ER
リヒト・ロメリア(gb3852
13歳・♀・CA
琥金(gb4314
16歳・♂・FC
柊 沙雪(gb4452
18歳・♀・PN

●リプレイ本文

「何処に居る‥‥エーリッヒ・オーウェン‥‥」
 一階の長い廊下を走り抜ける、フィオナ。
 廊下の隅にSPが何人か転がっている。
 邪魔者として消されたのだろう。
「用意しておいて正解だったか」
 何か起こった時の為に用意しておいた刀を握り締める、フィオナ。
 角に突き当たり、その先の様子を隠れながら窺う。
 何かに破壊された数々の家具や備品。
「傭兵達か‥‥」
 慎重に隠れながらとは言え、フィオナが安全に屋敷に侵入できたのは傭兵達のおかげだった。
「確か‥‥この先に階段が有ったな‥‥」
 フィオナは素早くかつ細心の注意を払いながら階段に向かった。

 10分程前、京の運転するワゴンに乗って傭兵達はオーウェン家の屋敷の近くに到着していた。
「それじゃ、よろしく頼むな」
 エンジンを切り車内を見渡す、京。
「それじゃ、早速行こうか。 早くしないと救えるものも救えなくなっちゃうし」
 ミア・エルミナール(ga0741)がワゴンから降りて車内を振り返った。
「そうですね」
 大神 直人(gb1865)がミアの後ろから声をかける。
 そして乗ってきたリンドヴルムをすぐさま装着する。
 傭兵達がワゴンから降り、手早く装備と見取り図の確認をする。
「抜かりは無いようだな」
 ゴルディノス・カローネ(ga5018)が屋敷の方を睨む。
 小さく頷いて二刀小太刀に手をかけているのは柊 沙雪(gb4452)だ。
「自分にやれる事を‥‥やるだけ」
 リヒト・ロメリア(gb3852)は小さく自分に言い聞かせるように呟く。
「さて、行こうか」
 ゴルディノスの言葉に傭兵達は屋敷へと向かった。
「それでは俺達は駐車場の方に向かう」
 途中、ヴィンセント・ライザス(gb2625)が幡多野 克(ga0444)と共に地下駐車場入り口に向かっていった。
「少し考えたんだけど‥‥私は裏に回ってみるよ」
 琥金(gb4314)が裏口の方に回る。
 正面と違い、慎重かつ隠れながら行くという事で全員の了解を得た。
 穏やかな昼下がり、作戦は決行された。

「大分派手にやられてるね‥‥」
 ミアは頭を掻きながらタバールを構えなおす。
 正門は半壊していて奥には屋敷が見える。
 庭のあちこちには黒い人影の様な物がうごめいている。
「‥‥多いな」
 ゴルディノスがKar98改を構え影に狙いをつける。
 それに気付いた影が猛スピードで傭兵達に向かってくる。
 響き渡る銃声が突入の合図。
 ミアが更に迫ってきた影キメラを一撃、唐竹割りで葬り去る。
 そして傭兵達は走り出し、庭を一気に駆け抜ける。
 ミア、沙雪、大神、リヒト、ゴルディノスの順で玄関に到達する。
 影キメラはスピードや身体の変化能力が強みである。
 しかし、その反面一太刀、一発程の攻撃を受けると砂のように霧散してしまうのだった。
 そういう訳で数以外は然程問題無く、玄関へと到達できたのだった。
「早く中へ入りましょう‥‥!」
 少し焦ったようにドアを開ける、リヒト。
 後方では沙雪とミアが敵を斬り払いながら後退してくる。
 玄関をくぐると目の前に大きな階段が広がっている。
「さぁ、二階の探索は任せましたよ」
 大神が沙雪と交代するように影キメラを斬り払う。
「‥‥これは」
 沙雪が二階への探索を開始しようと階段を上がろうとして気付いた。
 一階の壁や床に飛び散った血や付けられた傷よりも二階の方が明らかに少ないのだ。
「奇襲成功‥‥か‥‥」
 沙雪の後ろから二階へと上がろうとしていたリヒトも気付く。
 見取り図から二階はオーウェン家の人々の部屋と残りは殆ど客室しかなかったはず。
 つまりSPもメイドも殆どが屋敷の中、しかもそれぞれの待機部屋が有る一階で殺されてしまったのだ。
「行きましょう、二階に隠れて助かった人が居るかもしれません」
「あ‥‥はい」
 沙雪とリヒトが二階へと上がっていく。
 その姿を確認してゴルディノスが階段横の廊下の奥に倒れているSPを見つける。
「おい、大丈夫か?」
 庭から玄関に入ってくる敵をミアと大神に任せ、SPに近づくゴルディノス。
 落ちていた木屑を倒れているSPに放ってみるが何の変化も無い。
 返事も無く、出血量からすれば死んでいる可能性が高い。
 一応確認を取るゴルディノスだったがやはりSPは死亡していた。
「切り口からして何かで斬り裂かれたみたいな感じだな」
「これ‥‥あたしのタバールと同じような切り口ね」
 打って変わって不気味な位に静まり返った玄関からミアと大神が移動してきていた。
「不気味ですね‥‥」
「‥‥擬態している可能性が有るな」
 大神の辺りを見回すと他の班に連絡を入れる。
「それじゃ、手分けして探索だね」
 それぞれは散開して屋敷一階部分の探索を開始した。

「それじゃ‥‥行こう‥‥」
 幡多野が地下駐車場の入り口から中の様子を窺いながら侵入。
「後ろは任せてもらおうか」
 ヴィンセントが隠密潜行を使い警戒しながら後ろをついてくる。
 先の戦闘で庭や玄関方面に影キメラが向かって行ったおかげで戦闘はしないまま屋敷の一階に上がる二人。
「嫌に‥‥静かだね‥‥」
 廊下の端には鎧のオブジェが置かれている。
 特に不審な点は無かった。
 幡多野が通り過ぎた後、ゆっくりと鎧の隙間から影キメラが出てくる。
 殺気を感じ、振り向きざまに月詠を抜く幡多野。
 しかし、次の瞬間には影キメラは霧散していた。
「残念。後ろを取られた時点で敗北は半分決定したような物だ」
 ヴィンセントの銃撃が影キメラを仕留めていた。
「ありがとう‥‥」
 更に幡多野の後ろに迫っていた影キメラが霧散する。
 月詠を逆手に持ち影キメラを貫いていたのだ。
「さて行こうか」
 ヴィンセントと幡多野はお互い頷いて、探索を再開する。

 裏口からの侵入に成功した琥金は食堂に入る。
 二つの死体が転がっている室内。
 琥金は男性と思われる方の死体の顔を確認する。
「因果応報ってニホンゴがあるけど‥‥全く、悪いことはするものじゃあないね」
 依頼の資料の中にあった写真に写っていた人物、エーリッヒの父親。
 隣に転がっているのは母親という事は容易に推測できた。
 不意に扉が開く。
 が、そこには何も居ない、扉を開いた存在を確認できない。
 グラーヴェを構える琥金。
 瞬間、琥金の目の前に黒い壁のように広がる影キメラ。
 琥金はテーブルごと円閃でそれを薙ぎ払う。
 影キメラはあっという間に霧散して、辺りは静かになる。
「これくらいなら何とか」
 そう呟いて、二つの死体に黙祷を捧げ部屋を出て行く琥金だった。
「二階への階段‥‥探さなきゃ」

 神経が磨り減る、とはこの事か。
 大神が屋敷の探索中に受けた奇襲は0。
 それもそのはず、家具やオブジェ、物陰、挙句の果てには死体にまで細心の注意を払って近づいているのだから。
「まったく‥‥」
 機械剣αでキメラを斬り飛ばす。
 溜息をつき、顔を上げた時だった。
 前からミアが歩いてくる。
 ミアも大神に気付き、一言。
「キラー」
「イレイサー」
 もう一度溜息をつき、お互いの捜索結果を報告しあう。
 結果は悲惨な物だった。
 生存者は居ない、上に全てが斧のような物で斬り裂かれた後なのだ。
「まさか、キメラは後から来るあたし達用?」
「その可能性が高いですね‥‥一度玄関に戻りますか」
 そう言って二人は玄関へと戻っていった。
 玄関にミアと大神が到着するとゴルディノスと琥金が合流して先に戻ってきていた。
「結果は‥‥聞くまでもないな」
「二階、行こうか」
 階段の上を見上げる琥金。

 人型を保った影キメラの首と胴体が二刀小太刀で斬り飛ばされる。
 沙雪はその二刀小太刀で何体のキメラを斬ったのだろう。
 少し疲れが見える
 リヒトは突入時よりも大分落ち着きを取り戻していた。
 挟撃されたのにも関わらず、焦る事無く敵を撃ち抜いていた。
 そういう訳で僅かな、ほんの僅かな物音に気付いたのだった。
「この部屋」
 そう言って沙雪の方を振り返る、リヒト。
 リヒトの指差す扉。
 そこはエーリッヒの部屋だった。
「入ってみましょう」
 沙雪がそう言うとリヒトが頷き、扉に手を掛け開ける。
「‥‥!!」
 目の前に広がった光景。
 椅子に座って弱りきっているのはエーリッヒ。
 そして部屋の真ん中、血溜まりの中に倒れているのはフィオナだった。
 
 片手斧による斬撃が幡多野を襲う。
 幡多野はその斬撃をバックラーで受け止めて、後ずさる。
 メイド達が使う階段を使い二階に上がってきた所、銀髪、赤眼の黒マントの女。
 その女が幡多野とヴィンセントの前に現れたのだ。
「‥‥殺人鬼か‥‥まったく、暗殺はスマートにやるべきだと言うのに」
 ヴィンセントがS−01を構える。
「殺人鬼‥‥? 勘違いしてもらいたくないね、私は抹殺者」
 覚えておきな、そう言って片手斧を構える。
 睨み合いが続く中、黒マントの女が不敵に笑う。
「さっきの女とは明らかに違うな‥‥」
 そう言うと、マントの中から爆弾を取り出す女。
「マズイ‥‥!」
 幡多野とヴィンセントは階段の方に向かって走り出す。
 走る閃光、吹き荒れる爆風。
 小規模な爆発であったが、黒マントの女が逃げる為の隙を作るには充分だった。
「ちっ‥‥」
 ヴィンセントは舌打ちをしながら立ち上がる。
 何とか階段を飛び降り、難を逃れた二人に丁度仲間達から連絡が入った。
「エーリッヒは生きている、それと‥‥フィオナと思われる女が辛うじて生きているという状態で見つかった」
 
「フィーは僕を、どういう訳か守ろうとした‥‥連れて逃げようとしてくれたんだ‥‥」
 出血が激しく、衰弱したエーリッヒがうなされるように呟く。
「あの時‥‥僕を殺せたはずだ‥‥でも、僕を連れて‥‥逃げようと」
 そう言ってエーリッヒは眠ってしまった。
「つまり、逃げようとしたところ黒マントの女に襲撃されたわけだね」
 ミアがそう言って考え込む。
 他の面々も救急車で搬送される二人を見送る。
「今回も助けられたな」
 影キメラは駆逐されて、警察が現場検証を始めている。
 京は申し訳無さそうに傭兵達に頭を下げる。
「そんじゃ、現場検証行ってくんな」
 京は屋敷の中に消える。
「何故、エーリッヒを殺さなかったのかな?」
 京が去った後、琥金が呟く。
 単純に放っておいても死ぬ、とでも思ったのだろうか。
 それとも、フィオナだけではなく傭兵達も屋敷に乗り込んできた事に気付き、しかも傭兵達が近くまで迫っていたのか。
 理由はどうあれ、エーリッヒは生きている。
 オーウェン家に居た者の中で唯一の関係者の生き残り。
 少なくとも何か情報は持っているだろう。