タイトル:ファイアブランドマスター:東雲 ホメル

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/22 23:31

●オープニング本文


 誰だ、俺を呼ぶのは?
 何にも無い、全部失った俺を呼ぶのは誰なんだ?
 こんな最悪な世の中、俺みたいな奴の事を呼んでくれる奴が居るんだな?
 何処に居る?
 今すぐ応えてやる。

「大丈夫かい!?」
 誰かが手を差し伸べてくる。
「う‥‥あ、あぁ」
 どうやら気を失っていたらしい。
「そうかい‥‥どうやらさっきの爆発で仲間が何人かやられたらしい‥‥」
「仲間? やられた?」
 あぁ、そうだった。
 俺は志波 式。
 今回、能力者としてキメラ退治に派遣されたんだった。
「厄介だと思わないかい?」
 俺の目の前の能力者の男、確かマリューとか言ったな。
 マリューは目を細めて目の前で爆炎に包まれる教会を見やる。
 それはキメラと思われる狼男を倒す寸前の事だった。
 確かに仲間の銃は狼男の胸を貫き、刀は横腹を切り裂いていた。
 もう少しで倒す事ができた。
 しかし、誰もが任務の完了を確信した瞬間。
 視界は閃光で白く塗りつぶされ、体は爆風と爆炎で教会の外へと吹き飛ばされた。
「まさかなぁ‥‥炎を使うとは思わなかったよ」
「あ、あぁ」
 そんな事より、まだ誰かに呼ばれている様な感覚に囚われている。
「? ほら、行こう。 今度は油断はしない。確実にあの狼男キメラを仕留めるんだ」
「あぁ」
 そうだ、今は取り合えず目の前のキメラを倒さねば。
 俺から家族を奪ったキメラを殲滅しなければ。
「ん? うわ、これ使い物になんねーな」
 俺の得物のバスタードソードはさっきの爆発でボロボロになっていた。

‐‐こっち‐‐

 不意に呼ばれた気がした。
 後ろを振り向くと、誰のだろうか一振りのバスタードソードが地面に刺さっていた。
「ほら! 早くするんだ!」
 マリューが急かす様に走り出す。
「おう!」
 やられた奴の武器だろうか、ともかく誰か知らないが仇は取ってやるぜ。
 俺はそのバスタードソードを手に取り、走り出す。
 切り裂かれ、燃やし尽くされる。
 マリューも俺以外の他の仲間も。
 俺を残して死んでしまった。
 何故、俺は生きている?

‐‐それはお前が仲間を殺したからだ‐‐

●参加者一覧

辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
張央(ga8054
31歳・♂・HD
ヒューイ・焔(ga8434
28歳・♂・AA
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
レベッカ・マーエン(gb4204
15歳・♀・ER
冴木 舞奈(gb4568
20歳・♀・FC
ウラキ(gb4922
25歳・♂・JG
セグウェイ(gb6012
20歳・♂・EP

●リプレイ本文

 当たり一帯に焦げた臭いが立ち込める。
 真っ黒く炭化してしまった建物の跡。
 その中心で立ち尽くす男が1人。
「‥‥脆弱だな‥‥」
 焼け残ったものだろうか、彼の足元には鈍く光る金属片が落ちている。
 薄っすらと赤く光っている大剣を右手に、左手でそれを拾い上げる。
 少しその金属片を眺めていたが、興味を失った様にその金属片を握り締める。
 どろりと銀色の液体がその左手から流れ落ちた。
 焼け崩れ落ちてしまった木材の下で何かが音を立てた。

「どうにも苦戦しているようです」
 連絡が無いのがその証拠でしょうか、とオペレーターは淡々と話す。
(「最悪の事態は考えてねーのか」)
 ヒューイ・焔(ga8434)はオペレーターの苦戦という言葉に頭を掻いた。
「それなりの人選をしたようだ」
 ヒューイの考えを見抜いたのか、リヴァル・クロウ(gb2337)はそう言って足を組みなおす。
 既に現場の近くに到着しているのだが、一応先に闘っているであろう部隊に連絡を取っているのだ。
「確かにこのデータを見れば、そのようですな」
 張央(ga8054)はオペレーターが渡してくれた先行部隊の細かな情報が書かれたプリントに目を通す。
 一方、全員が待機しているワゴン車から離れ連絡を取ろうとしていたのは、辰巳 空(ga4698)だ。
 しばらくの間、隣に居た樋口 舞奈(gb4568)と連絡を試みていたが、どうやらそれも虚しい結果に終わったようだった。
「駄目ですね、全く反応が有りません‥‥」
「そうか‥‥」
 レベッカ・マーエン(gb4204)は奇妙な既視感に囚われていた。
 似ている、ただ似ているだけなのだが妙な引っ掛かりを感じる。
「現場に行ってみよっか」
 舞奈が言うと、2人は頷きワゴン車の方へと戻っていった。


「こっちは準備OKだ」
 セグウェイ(gb6012)は近くに待機している舞奈に確認を取り、無線機を介して連絡を入れる。
「こちらウラキ‥‥位置に就いた、いつでも良いよ」
 ウラキ(gb4922)も自身の得物に手を掛ける。
 2人が陣取ったのは狙撃する為に障害がない、他の5人から少し後ろの方。
 更に右ウィングと左ウィングに分かれて目標に対して十字砲火を浴びせられる様なポジション取りだ。
 セグウェイとウラキの連絡を受け、5人は周辺を警戒しながら焼け落ちた教会へと近づく。
「‥‥誰か居るな」
 ヒューイが番天印に手を掛け、目を細める。
 大剣を持った男、確か資料に載っていた先行隊のメンバーの1人だったか。
 志波 式、と言っただろうか。
 警戒しながらも近づいていくが、キメラが襲ってくる気配は無い。
「無駄足だったか?」
 リヴァルが周辺を見回しながら、溜息をつく。
 しかし、成功したならどうして本部に連絡してこない。
 それに辰巳と舞奈が連絡を試みたはずだった。
「連絡が無かったもので、私達が本部から派遣されてきたのですが‥‥他の方はどうしたんです?」
 張央が志波に声をかける。
「‥‥‥‥」
 しかし、志波は全く反応が無くただ立ち尽くしているだけだった。
 おかしい、と感じたのは声をかけた張央だけではなかった。
 本部への連絡が無く、こちらの呼び掛けにも応じない。
 更には志波の他に隊員の姿が見えない。
 他の能力者がやられてしまって悲しんでいるからだろうか?
「能力者‥‥」
 反応の無かった、志波がポツリと呟く。
 その呟きに応じて殺気が膨れ上がり、焼け落ちた木材を震わせる。
 5人は飛び退いた。
 レベッカの感じていた違和感は徐々にその姿を現していく。
 以前、氷を操る刀型のキメラと対峙した事が有った。
 目の前の殺気の渦の中に居る人物が他の仲間を襲ったという証拠は無い。
 しかし、状況的に見て件の依頼に類似している点が多かった。
 そして、それは次の瞬間に爆ぜる様にして飛んでくる。
「ソニックブームです!」
 辰巳は声を上げその軌道上から外れる。
 他の面々も同じく回避行動に入る。
「これはっ!?」
 張央はその熱波に驚いた様だった。
「これってもしかして」
「これはどうやら」
 辰巳と護衛の為に後方に居た舞奈が同時に呟く。
「今回は炎を操る大剣型キメラか、よく思いつく」
 レベッカは志波の手に握られている大剣をキメラとして断定する。
 その言葉を受けてそれぞれが武器を抜き、志波に向けて構える。
 それぞれ最適と思われるポジションに動き志波を前方3方向に陣取る。
「此処で消し炭なってもらう‥‥」
 志波の周辺の温度が急激に上昇し始める。
 
 無線を通してそのやり取りを聞く、セグウェイとウラキ。
「3カウント目で撃つ‥‥カウントを開始する」
「やるなら今だな、兄弟! 彼を助けるためにな!」
 ウラキは深呼吸をし、呼吸を止める。
 そして3カウント目に達した時、セグウェイとウラキは銃弾を放った。
 2つの銃弾は志波の機動力を削ぐ為の物だ。
 しかし、志波はその銃弾が届く前に跳躍。
 そして前方に居る、辰巳に斬りかかった。
 その斬線は縦方向に一閃。
 辰巳はその斬撃を盾で受けて、直感する。
(「アイスブランドとの決定的な差はここか」)
 それはその激烈な撃ち込みだった。
 そのまま雲隠で牽制しながら、更に障害の無い場所まで囮として動く。
 その攻防を見て、リヴァルが志波の右側面に回り込み、プレッシャーをかける。
 気になったのか志波は大剣をやや大振りに横に薙ぎ払う。
 リヴァルはそれを受け、鍔迫り合いの状態に持ち込む。
 普段の志波が相手だったなら、リヴァルは難なく相手を弾き飛ばせていただろう。
 しかし、今の志波は限界を超えた力を手に入れている。
 みしり、と音を立ててリヴァルの足が地面に食い込む。
 その機を逃す事は無いと張央が背後から膝裏にハルバードの柄で一撃。
 膝がかくりと一瞬折れた。
 その一瞬の隙を狙い、ヒューイの番天印から貫通弾が放たれる。
 狙いは大剣の鍔元。
 射線はバッチリだ。
 志波はギリッと奥歯をかみ締め、その場に踏ん張る。
 そしてヒューイからの銃撃を左腕で受ける。
 弾は腕を貫通して鍔元に命中する。
 しかし、左腕を貫通した事によって微妙なズレが生じたらしくヒビを入れただけに終わった。
 急激な上昇気流がその場に発生し、志波はその場から跳躍し更に前方に進む。
 レベッカの直線上に着地した志波はそのまま大きく縦に振り、ソニックブーム。
 炎と小さな爆発を伴う見えない斬撃は彼女を飲み込む。
 レベッカとてただやられた訳ではなく、知覚に依る攻撃で志波の体力を奪う。
「舞奈ちゃんっ!」
 ヒューイが後方の舞奈に向かって叫ぶ。
「こんな可愛い女の子が護衛に就いてるんだから」
 頑張ってきっちり当てるんだよっ、とセグウェイに言いながら舞奈は前に出る。
 更にこちらの方に進んでくる志波はもう一度ソニックブームを放つ。
 しかし、先程の様な炎等は見受けられない。
 レベッカによる虚実空間が大剣を持つ事で付与される特殊能力を解除したのだった。
 しかし、握っている限り正気は戻らない。
 そしてその限界を突破した能力も元には戻らない。
「右腕を無効化する‥‥」
 ウラキが銃撃、そして排莢、装填という一連の流れを慣れた手つきでこなす。
 それに倣ってセグウェイも一発。
「手加減無用、貫け!」
 弾は確かに右腕に二発、命中した。
 しかし、志波はその大剣を落とす事はない。
 それどころか不敵に笑ったのだった。
 
 距離を詰めていた辰巳が、縮速縮地で更に間合いを詰める。
 不意を衝いた移動、そしてそのまま志波を掴み全力で投げる。
 志波はヒューイの銃撃で負傷した左手を地面に着き、腕力のみで後方に飛ぶ。
 完璧に着地、難は逃れたと思われた。
 しかし、リヴァルは着地した瞬間の硬直を逃さなかった。
「迂闊だ、沈め」
 その一撃は左太腿の肉を深く裂き、志波の足を止める事に成功した。
 しかし、痛覚すらもコントロールされているのか、志波は右足で一歩。
 左足から血を噴出しながらも前に一歩出る。
 そして負傷している腕から繰り出される物とは思えない一撃。
 リヴァルはそれを受けながら、間合いを取る。
「あんた何の為に能力者になったんです!? キメラに乗っ取られる為じゃないでしょうが!」
 張央は眠っていると思われる志波の精神に呼びかける様に叫ぶ。
 それに呼応する様にウラキとセグウェイの十字砲火が浴びせられる。
 大剣型キメラが無理矢理、炎を発生させ志波の身を焦がす。
 そして、またもその熱気で上昇気流を発生させ後方に跳躍する。
 大きく跳躍し、着地した志波だったが流石にその身体に蓄積したダメージは誤魔化せなかったのか膝から崩れ落ちる。
 更にその大剣を握っていた右手から血飛沫が飛ぶ。
 セグウェイとウラキが銃撃を命中させた箇所にレベッカの知覚攻撃が襲ったのだ。
「‥‥やはり脆弱だな‥‥」
 そう呟き、満身創痍のはずの身体を無理矢理立たせる。
 そして、一閃。
 ソニックブームを放つ。
 しかし、それは誰に届く事無く砂煙を上げただけだった。
「武器破壊に移る」
 冷静にリヴァルは前に出る。
 それに続き、他の面々も前に出る。
 
 砂埃を突破した先に見えた光景。
 それはこちら側に背中を向け、教会の方を向いている志波の姿。
 大剣型のキメラを逆手持ち槍投げの様に構えている。
 何をしようとしているのか?
 ギリギリ限界まで強化された筋力。
 負傷した箇所から飛び散る血飛沫。
 ライフルのスコープでその先を確認するウラキはその存在に気付く。
「しまった‥‥!」
 焼け落ちた木材の山からそれは躍り出るように現れた。
 2メートルは有ろうかという程の影。
 その姿は焼け焦げて居るものの、はっきりと確認できた。
 狼男キメラ。
「討伐されてなかったのかよ!」
 ヒューイの叫びと共に志波はその剣、ファイアブランドを投げ放つ。
 空気を裂く甲高い音が辺りを支配し、次の瞬間には狼男キメラの足元にそれは刺さっていた。
 狼男キメラがそれを握り、その焼け焦げた身体で大きく跳躍する。
 追う暇も無く、逃げられてしまった。
 
 
「うっ‥‥」
 レベッカの練成治療を受けて、志波は意識を取り戻した。
 右腕に二つの銃撃、知覚攻撃によるその傷口の悪化。
 左腕には貫通弾による負傷。
 右太腿の裂傷。
 全身火傷、その他細かい傷は数えていたらきりが無い。
 そんな代償を払って志波は魔剣に解放された。
「そうか‥‥俺は助かったんだな‥‥」
 志波の顔には何か助かった事に対する悲しみが張り付いている様に見えた。
 ウラキはセグウェイを労う様に彼の肩を叩き、志波の下に向かう。
「彼の様子は‥‥?」
 志波の怪我の具合を見て、罪悪感に囚われた様だった。
「仲間の事は‥‥災難だったな‥‥」
 セグウェイが志波に語りかける。
 あぁ、と一言。
 志波はその一言を返し、夕焼けに朱く染まる空を見上げた。
「私利私欲で人殺しだった私の様な男でも生きて能力者をやっています。 挫けなさるな」
 赤月は未だ空に有り、張央はそう言って頷いた。
「ありがとう」
 志波の中には自分の意思ではないとしても仲間を斬り殺したという罪悪感は残るだろう。
 しかし、それらの励ましは少なくとも彼の心の負担を軽くした様に見えた。
 
 帰りのワゴン車の中、リヴァルは思考に耽る。
(「精神への寄生を目的とする際に、寄生元を堅牢にするのは良い考えだ」)
 だが何故、武器という消耗し易い物にしたのだろうか。
 溶けて魅力が半減したチョコを見ながら項垂れる舞奈の隣でリヴァルは更なる思考に耽る。