●リプレイ本文
大勢の観客で賑わっている会場。
その中をリュウセイ(
ga8181)は自分の席に向かってすいすいと進む。
「ほら、買ってきたぜ」
その手には二人分のポップコーンとジュースが器用に収まっている。
その姿を見てレミィ・バートン(
gb2575)は大きく手を振る。
「お、ありがとー! いやぁ、悪いねー、奢ってもらうなんて」
「!?」
いつの間にそんな話に?
まぁ、良いだろう。
これくらい男が奢ってやるもんだ。
「しっかし、人多いな」
「そりゃ、能力者同士のプロレスだからねー」
確かに能力者同士のプロレスなんてめったに見られない。
だからこそ、今日は思いっきり楽しみたい。
そんな期待を胸に二人は会場の中央に設置された四角い戦場を見つめる。
主催団体の代表、アーデルハイドが声高らかに開会を宣言した瞬間。
ニケを含めたカメラマンが一斉にフラッシュをたいた。
‐‐一回戦A組‐‐
「お待たせしました、ご主人様の皆々様! 皆様をご案内するのはこのあたし、ファントムテイル葵!」
会場中にマイクを通した葵 宙華(
ga4067)の声が響く。
「アナウンサー&レフェリーとしてご奉仕しちゃいまーっす☆」
ゴスロリ衣装で登場した彼女は四方の観客に大きく手を振る。
それに合わせて、手を振られた方向の観客が大きく沸き立つ。
女性よりも男性の比率の多い会場内は、まるで地震が起こっているかのように揺れる。
解説席のアーデルハイドも苦笑しながら、その様子を窺っている。
「俊敏華麗! ワイルドキャットォ! ミィィィアァァァァッ!」
バンダナに黒いビキニ、その上にタンクトップを着たミア・エルミナール(
ga0741)が颯爽と登場し、リング上に上がる。
「対するはぁ‥‥! 義を愛し、悪を誅す、流浪の銀仮面っ! マスクドォォォシルバァァァ‥‥!」
銀色の蝶のマスクを被り、花道を堂々と歩いてくるのは冴城 アスカ(
gb4188)だ。
胸元がハートに切り抜かれたビスチェに腕には肘丈のロンググローブ、シルバーを基調とし青のラインが目立つ作りだ。
ミアとアスカがリングの中央に立つと同時にゴングがなる。
「それではアーデルハイドさん、よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします。 しかし、今回の衣しょ」
「おぉっと、いきなりマスクドシルバーが全力の逆水平チョップだぁ!」
今回も宙華にはアーデルハイドの話は聞こえていない様だった。
アスカの逆水平チョップを大きなバストでミアは受け止める。
ニケのカメラマンとしての勘ではF以上有る。
それでも倒れないミアに苛立ちを覚えたのかエルボーに攻撃を切り替えるアスカ。
ミアはあえてそれを受け、自らも反撃として水平チョップを打ち込む。
更に距離を取り、飛び膝でアスカに襲い掛かる。
ミアはそのままアスカの頭を掴み、ヘッドパッドを連続で叩き込む。
アスカがふらついた所で、ミアはアスカの腕の下に頭を入れ腕を固めつつ腰に手を回す。
「ちょ、ちょ! レミィ! いてぇ!」
レミィが興奮して隣のリュウセイの頭を抱え込む様にして締める。
「おぉ! やれ、やれぇ!」
しかし、アスカも黙ってやられるわけにはいかない。
一度膝蹴りでミアを引き剥がし、ラリアートを叩きつける。
相手の動きが止まったのを見て、後ろに回り腰に手を回しクラッチ。
そしてそのまま一気に後ろに反り投げる。
「綺麗に決まりましたね、これは力強いですよ」
「そうですね、っとそのままフォールの体勢! 1、2‥‥」
アスカの爪先はピンと張っていてミアの首に更に負荷をかけている。
「3ー! 勝者! マスクドシルバァァアアアアア!」
‐‐一回戦B組‐‐
太鼓と三味線の音がこだまする中、辰巳 空(
ga4698)は現れる。
「黒き姿に技がヒカルッ!! 地獄からの使者、マスクドォブラッッックー!!」
辰巳はリングに宙乗りで降り立つとハーネスを観客席に向かって投げ捨てる。
「おぉ‥‥」
ニケはその瞬間を逃すまいとシャッターを切る。
その漆黒の胴衣と歌舞伎マスクはヒールとしての存在感を放っている。
「まっっったいらな胸を引っさげてやってきたのは謎のウサギマスク‥‥ロスちゃん!」
アーデルハイドは一度花道の方を見て、視線を戻してお茶を飲む。
そして、かなりの勢いでもう一度花道の方を見る。
「ハーッハッハッハッ!」
花道を失踪してくるのは何気に気持ち悪いウサギのマスクを被った鳳 つばき(
ga7830)だ。
リングにそのまま飛び乗るかと見せかけ、一度立ち止まりぎこちない感じでロープを潜る。
「よっこいしょ」
正直、おっさんである。
何を思ったか、つばきはそのままポストに登り、そこから中央に向かって跳ぶ。
空中で自身が回転するのではなく、マスクが横に高速回転している。
「ア、アーデルハイドさん」
「私は何も見ていません」
アーデルハイドはとりあえず見て見ぬふりをした。
「な、か、皆既日食かーっ!? 神の怒りかーっ!?」
少しの間、騒いでいたつばきだったがマスクを元に戻すとマントを脱いで普通に構える。
ランニングに褌、ウサギマスクが無ければ華も恥らう乙女の出来る格好ではない。
ニケは写真を撮ろうかどうか迷っていたが結局一枚撮ってしまった。
ゴングが鳴ると早速辰巳はその不気味な相手にローキックを見舞う。
つばきの細い足にクリーンヒットするが、ロスちゃんは表情を変えない。
更に首元をチョップで薙ぎ払う辰巳。
しかし、ロスちゃんは表情を変えない。
アポー、などと挑発する始末だ。
「アーデルハ」
「私は兎年なんですよ」
そんな会話を続ける宙華とアーデルハイドを尻目に辰巳はつばきとがっしりと組む。
これをチャンスと見たつばきは必殺のロスちゃんヘッドバッドを辰巳に食らわせる。
そして、勢いで辰巳をロープへと振り自分もロープを使いダイビングヘッドを見舞う。
「で、出たぁぁぁ! ダイビングロスちゃんXだぁぁぁ!」
「流石、草野球チームのマスコットだけありますね。 見事なダイビングヘッドです」
「ハーッハッハッハッ‥‥ハァー!?」
起き上がった辰巳に一本背負いで投げられ、更にフォール。
「1、2、3! 最後は何となくあっけなく終わってしまったぁ!」
「いやぁ‥‥ロスちゃんって女の子なんですよね? 褌とランニングって凄い格好ですよね」
アーデルハイドの感想は今更だった。
‐‐一回戦C組‐‐
そいつはいつの間にかリングの中央に立っていた。
全身タイツの謎の男、零崎”こいつ”重蔵(
gb4063)だ。
これでも前回大会では二位の成績を残している。
しかし、何故か俯いている。
「アイツは誰だ! アイツはタイツだ! 前回準優勝の謎の男! こいつだぁぁぁ!!」
宙華のコールと共にこいつは上を向いて観客に向かってアピールする。
そして観客の間からは歓声と言うより悲鳴と爆笑が巻き起こる。
全身青のタイツの顔の部分のど真ん中に日の丸の様に赤く丸い染みが出来ている。
「前回の負傷、そのままだったんですねー」
ニケは唖然としてシャッターを切るのを忘れていた。
「続いて、正義と巨乳のお嬢様っ! ダイナマイトォォォォォ‥‥コヒナァァァ!」
男性客の歓声が一際大きくなる中、花道を歩いてくるのは鷹司 小雛(
ga1008)。
その胸、尻は相も変わらずダイナマイトで一歩踏み出すたびに胸がゆさゆさと揺れている。
その姿にアーデルハイドが年甲斐もなくテンションを上げている横でニケはシャッターを切りまくった。
普段からフィルムの交換に慣れているニケだが、その時の交換のスピードは尋常じゃなかったという。
「ダイナマイト・コヒナー!!」
レミィは観客席から男性客よりも熱の入った声を上げる。
友人であり、師匠であり、ちょっと危ない関係でもあるレミィと小雛。
「おぉ、やけに気合入った応え‥‥いてぇ!」
レミィはリュウセイの背中をバンバンと叩いて手を振っている。
ゴングがなると同時に小雛はロープにこいつを振り、その巨乳を使ったボディアタックを仕掛ける。
更に倒れたこいつを立たせて、リング中央でがっちりと組む。
「落ち着け‥‥私は紳士だ‥‥これしきのセクシーでは‥‥」
何かぶつぶつと呟くこいつを小雛はボディスラムでマットに叩きつけようとする。
しかし、いきなり掴んでいる部分の感覚が無くなる。
こいつがタイツ内を移動したのだ。
体勢の崩れた小雛にジャブで牽制、コンビネーションでロープ際まで追い詰めていく。
誰もが、特に男性客が何か有るのではないかと期待した。
「ちょっと待ったぁぁぁ!」
声を上げて観客席からリング上へと飛び上がってくる。
それはレミィ、レミィ・ザ・ダイナマイトだ。
小雛のピンチに応じて助っ人として乱入してきたのだ。
小雛の赤いアンダースーツの色違い、青いアンダースーツという姿だ。
「こ、これはー!?」
「良いですね! 葵さん! 更にわくわくしてきましたよ!」
乱入にテンションの上がる宙華と巨乳にテンションの上がるアーデルハイド。
そしてニケは全力でシャッターを切る。
日の丸青タイツのこいつは圧倒的不利に立たされる。
「クロスパァァァァジッ!!」
レミィに続けと言わんばかりにリュウセイがリング上に飛び乗る。
タイガーのマスク、赤い褌というスタイルの虎がリングの上に駆け上がる。
こうしてセクシーダイナマイトコンビVSタイツと赤ふんタイガーコンビというカードが実現した。
気合一発、タイガーラリアートで小雛に襲い掛かる、リュウセイ。
十分すぎるそのパワーで小雛をマットに叩きつける、かと思われた。
しかし、リュウセイは気付いてしまう。
その胸の、間近で見る大きさに。
「あ」
少し鼻血が出てきた。
この隙を逃す訳は無い、小雛とレミィはリュウセイを担ぎ上げようとそれぞれ右腕、左腕を取る。
「あ」
少しじゃない、鼻血が出てきた。
次の瞬間、リュウセイの目には会場が逆さまに映る。
ブレーンバスターでマットに叩きつけられた後はレミィにフォールされる形でリュウセイはリングから去った。
「もういいかね? かかってき‥‥ぶふぉ!?」
無駄な余裕を見せるこいつに思い切りラリアートを叩きつける小雛。
よろめいたこいつの体を持ち上げタワーブリッジで背骨を折りにかかる。
その姿は胸を強調している様に見える。
こいつをマットに叩きつけた後はレミィと同時にフォールの体勢に入る。
「勝ったのは‥‥セクシーダイナマイトコンビ、ダイナマイト・コヒナ&レミィ・ザ・ダイナマイトだっ!!」
‐‐一回戦D組‐‐
「孤高のルチャドーラー!! 戦慄の歌姫‥‥シェリー!!」
HIPHOPを歌いながら現れたのは黒と桃色のボンテージ姿のシェリー・ローズ(
ga3501)だ。
シェリーの周りには彼女を取り囲む様に執事風のダンサーが踊っている。
その光景は僕を従えた女王様の様で圧倒的な雰囲気を持っている。
ゆっくりとリングに上がり、観客を見渡し不敵な笑みを浮かべている。
「虹色の魔術師の幻影に酔いしれろっ! プリンス・ヒビキー!」
花道のど真ん中で白い鳩が飛び交い、美環 響(
gb2863)が現れる。
徐にハンカチを取り出し、空中に投げると一瞬でステッキが出現する。
おぉ、という観客の声に響はにっこりと微笑んで指を鳴らす。
するとステッキの先から七色の薔薇が表れ、それを手に響はリングに上がっていく。
「先程の試合は男性の方が、今度の試合は女性の方が盛り上がっていますね」
「何てったって、美少年ですからね‥‥私の若いこ」
アーデルハイドの話を遮るかの様にゴングが鳴った。
序盤はシェリーが足技を中心に試合を組み立てていく。
「ほらほら!」
ローキック、ミドルキック、ニールキックのコンビネーション。
その足技の応酬を響は派手に受け、ロープに背を預ける形になる。
「おぉ、綺麗なコンビネーションだよ! リュウセイ君! 聞いてる!?」
レミィにゆさゆさと肩を掴まれ揺らされるがリュウセイは未だに鼻血が出ていたらしく、鼻を押さえながら頷く。
響はロープの反動を活かし、そのままダッシュ。
そしてシェリーの足技に対抗して、華麗にローリングソバットを叩き込む。
シェリーは響をキッと睨み、腰のベルトに手を当てる。
「おぉっと! これは鞭ではないでしょうかー!?」
宙華がそう言った次の瞬間、響の鼻先を鞭の先が掠めていく。
更にもう一度鞭が襲い掛かってくるのを、響は咄嗟にスウェイで避ける。
頬が薄く切られ、ジワリと血が滲んでくる。
しかし、響は怯む様子が見られない。
美少年というより、彼からは漢の雰囲気が漂っている。
「良いですね、更に私の若いこ」
「おおっと、これはー!?」
響をロープに振り、シェリーも響に向かって走り始める。
そして飛び膝蹴りを見舞うと、STFの体勢に入る。
シェリーは響の脚を固めたままコブラクラッチ式のキャメルクラッチを決める。
「ほぅほぅ‥‥こうして、こうして、こうね」
「いでぇ! いでぇよ!」
観客席のリュウセイがいくらタップしようとも宙華には全く見えない、届かない、だった。
そうしている内に、レフェリーが割って入り試合はシェリーの勝利という形で終了した。
‐‐一回戦E組‐‐
拳を丸め、指を鳴らしつつゆっくりと、そして堂々と入場してくるのは楓姫(
gb0349)。
袖を捲くったワイシャツにチェックのミニスカ、黒のニーハイに革靴といった格好だ。
「蒼緋眼の若き龍! 喧嘩屋‥‥楓姫だぁぁぁ!!」
「女子高生ですか! 女子高生ですね!」
アーデルハイドは立ち上がって娘くらいの歳の楓姫に大興奮だ。
ふてぶてしい態度でリングの中央に立つ楓姫の相手。
「ダイナマイトバスターは今日もはち切れんばかり! まっひるぅぅぅ!!」
花道をリングに向かって、というか楓姫に向かって疾走して来るのはまひる(
ga9244)だ。
勢いそのままにリング上に飛び乗るとニヤニヤしながら楓姫に近づく。
「こ、これは、またも巨乳な方ですねー」
「はいはい、それではゴングよろしく!」
宙華がゴングを促し、それに応じてすぐさまゴングが鳴り響く。
家族、まひるは楓姫の母の様な存在なのだが今は勝負の時、気にしてられない。
楓姫がまひるとの距離を縮め、ジャブで牽制する。
牽制をかわしながら、まひるは一定の距離を保って楓姫から付かず離れずの位置に居る。
単調な攻撃に楓姫は変化をもたらす。
ジャブ、左ローキック、右ハイキックと繋げ、まひるが体勢を崩した所で懐に入りボディーブロー。
更に体が折れた所でまひるの右腕を取り、一本背負いで投げて、マットに叩きつけた後は一気に畳み掛けるつもりだった。
しかし、楓姫がまひるの右腕を取った所で異変は起こった。
楓姫が一瞬びくっとなり硬直してしまう。
「これは‥‥? どういう事でしょうかアーデルハイドさん」
「んー‥‥鷲掴みですね」
そう、まひるは取られていない左手を背後から伸ばし楓姫の胸を鷲掴みにしていたのだった。
「セ、セクハラや」
ニケが呟くと同時に楓姫はまひるから飛び退く様に離れ、向き直る。
胸を鷲掴みにされた事実に恥らいながらニヤついているまひるに接近。
ジャブ、ジャブ、左フック、右ミドルキックという流れる様なコンビネーションでまひるを追い詰めていく。
そして、まひるが反撃に出ようと脚を踏み出した瞬間。
楓姫は全力全身の自身最速のストレートを打ち込む。
見事なカウンター、だったのだがまひるの方が一枚上手だった。
拳を掴み、引き、体勢が崩れた楓姫を台にして馬跳びで背後に回る。
楓姫の上半身が戻った瞬間、まひるは楓姫の腕を取りマットに押さえ込む。
そして耳元で一言。
「母は強し」
そのまま押さえ込まれた楓姫の抵抗空しく、まひるが完全に楓姫を封じ込めての勝利となった。
‐‐一回戦F組‐‐
「狐の面と爽やかなその笑顔に隠されし物は何ぞ!? シルバァァァァァフォックスー!!」
和傘をさして扇で舞いながら花道を行くのは斑鳩・八雲(
ga8672)扮する牛若丸。
ふわりとリング上に上がると着物を脱ぎ捨て紫と銀を基調としたアンダースーツ姿になる。
狐の面に隠されていない部分、口元はやはり微笑みを浮かべている。
次の瞬間、何処かで聞いた事の有る、誰でも知っているカンフー映画の音楽と共に入場してくる龍が一匹。
威龍(
ga3859)は正にそのカンフー着に金糸で刺繍された見事な龍を纏っての入場だ。
「空翔る龍の申し子‥‥カンフーキッッッドォォォ! ルーロォォォン!!」
これはカッコイイ、クールだ。
そう思いながらニケはその姿をカメラに収め、更に近づこうと席を立つ。
そうして威龍がリング上に上がった時にニケは決定的な瞬間を捉える事になる。
リング上で微笑みながら疾走するのはシルバーフォックス、八雲。
コーナーポストを駆け上がり、踏み台にしてリング中央に居る威龍に対しレッグラリアートを見舞う。
それを受け威龍はカンフー映画さながらのリアクションで後ろへと吹っ飛ぶ。
「こ、これはー! シルバーフォックス! ゴングが鳴る前に奇襲をかけたー!」
「やはりあの微笑は油断できませんねー」
打点をずらす事に成功し、ダメージは殆ど無いが派手なリアクションのおかげで観客は大いに盛り上がる。
「うぉぉい! 卑怯じゃないかぁ!」
「正々堂々と勝負しやがれぇ!」
レミィとリュウセイだって例外ではない。
その光景に慌てた様にゴングが鳴る。
まずは威龍の裏拳が八雲に炸裂する。
反撃として八雲は肘で威龍の額を狙って一撃。
どちらも然程威力は持っていないのだが、その受け方で観客からすれば迫力の有るものになっている。
ロープを使い威龍にフライングエルボーを仕掛ける八雲。
しかし、迎撃としてドロップキックで打ち落とされてしまう。
威龍はすぐさま立ち上がり、八雲を掴みボディスラムでマットに叩きつける。
ふらつきながらも立ち上がった八雲は威龍に習い裏拳で攻撃。
そして、相手が受けたのを見計らいコーナーポストへ駆け上がり更にそこから倒れこんだ威龍目掛けて跳ぶ。
「あ、あれはっ!?」
レミィの叫びに呼応するかの様に葵が答える。
「出たぁぁぁぁ! 流星だぁぁぁぁ!!」
威龍を襲ったのはフライングエルボードロップ、流星。
これは決定打になりうる一発だったが、威龍はマットを転がり何とかそれから逃れる。
舌打ちをしながら立ち上がった八雲に威龍の息もつかせぬコンビネーションキックが炸裂する。
「飛燕脚だっ!!」
「これは綺麗に決まりましたねー」
倒れこむ八雲を押さえ込み、威龍は勝利をもぎ取った。
‐‐二回戦‐‐
「おおっと、これは激しい一撃だぁ!」
アスカのハイキックが辰巳の即頭部を捉える。
更にもう一発、そう一発と連続でハイキックを決めてくる。
辰巳はあえてそれらを全て受け、よろめく。
おぉぉぉ、という観客の歓声の中アスカは更に攻め立てる。
トップロープに乗り、そして跳躍。
そのまま辰巳にダイビングプレスで肉薄する。
押さえ込んで締めにかかろうとするアスカだったが流石にそう上手くはいかなかった。
体の上下を反転させられ、逆に辰巳に袈裟固めでがちがちに固められる結果となった。
必死に抵抗するが、それも空しくレフェリーの葵が止めに入り辰巳の勝利となった。
「気に入らないんだよ!」
シェリーの容赦無い鞭攻撃やロープを存分に活かした空中攻撃に小雛は苦戦を強いられる事になっていた。
フライングニールキックが炸裂、そしてふらついた所をシェリーは見逃さない。
変形ダイアモンドカッター、マグザムで自分ごと小雛をマットに叩きつける。
嵐の様な攻撃に虫の息かと思われた小雛は、何とか立ち上がりシェリーをがっちりと抱え込む。
両腕を胴回りにクラッチし、シェリーの体を反転させながら持ち上げそのまましゃがみこむ。
そして、マットにシェリーを叩きつけそのままがっちりとエビ固めでフォール。
「あ、あれは‥‥! ダイナマイト・コヒナの真骨頂! パワーボムじゃあないかぁぁぁ!!」
「いきなり解説キャラ!?」
レミィが大声を上げるとリュウセイはツッコミをいれずにはいられなかった。
リング上ではパワーで上回る小雛に反撃の余地無く、カウントを取られてしまったシェリーが悔しそうに倒れていた。
‐‐準決勝‐‐
掛け投げで小雛をマットに沈める辰巳。
沈められた瞬間に小雛の豊満な胸が揺れるのをニケは見逃さない。
そしてそのセクシーなお尻も見逃さない。
小雛も負けてはいられないと、辰巳をポストに叩きつける様にして距離を取りダッシュする。
小雛の魅力を最大限発揮する技の一つ、ヒップアタックだ。
見た目のセクシーさと勢いが乗ったその威力は申し分ない。
「詰まらないな‥‥貴様は」
辰巳はそう吐き捨てると、小雛を肩車で投げ捨て、起き上がらせると同時に抱える。
「ベアハッグだよ!」
「‥‥ぐぇ‥‥」
レミィはリュウセイを同じ様に抱え、思い切り肋骨から背骨を締め上げる。
リュウセイは鼻血的にも骨的にも限界だった。
「う、羨ましい‥‥!」
「え? おぉっとぉ! 流石のダイナマイト・コヒナも限界の様だぁー!」
アーデルハイドを「え?」の一言で一蹴し、冷静に解説に戻る葵。
ギリギリと音が聞えそうな程、締め上げられる小雛の姿は今日一番セクシーであったという。
(※二回戦目ですが、トーナメント表の関係上準決勝と同じ扱いになっております)
ズン、と音がしそうな程に踏み込み、まひるに掌底を浴びせる威龍。
まともに受けたら一溜まりも無い一撃をまひるは後ろに跳びながら威力を殺して転がる。
体勢を立て直し威龍に対し蹴り、拳を浴びせるがそれは全て寸止め。
実は拳法黒帯の実力者のまひる、正にリング上では打撃戦が繰り広げられている。
「これは素晴らしいですねー」
アーデルハイドは目を見張る。
打撃だけではなく、投げ、極めなど上手く織り交ぜて戦う二人は互角。
ニケもカメラを撮る事を忘れ見入ってしまっていた。
勝敗を分けたのは、まひるのトリッキーさだった。
直線的な動きではなく縦横無尽に動き、衣装をはためかせ相手の混乱を誘いながらの戦いは試合が進むにつれ、はまってくる。
威龍の突きに反応したまひるは、その腕を絡め取り飛び腕十字を極めその場に押さえ込んだ。
勝者として名乗りを上げたのはまひるだった。
‐‐三位決定戦‐‐
飛び蹴りを上手く当て、それを受けロープ際に追い詰められる小雛。
威龍はパワーファイトを中心とする小雛に対しスピードで勝負をかける。
小雛のラリアートをしゃがみながらかわし、ローキックを飛び上がってかわす。
さながらカンフー映画の主人公の様な動きは観客を沸かせる。
回避だけではなく、合間合間に放たれる攻撃は小雛の体力を徐々に奪っていく。
体力が失われる程に攻撃は大振りになって避けられてしまう。
試合は圧倒的に威龍の優勢で進む。
キックコンビネーション、飛燕脚が綺麗に決まり更にダウンを奪おうと威龍は小雛と組む。
その時が最後のチャンスだと見た小雛は全力で威龍とのパワー勝負に出る。
「これは凄い、流石能力者と言った所でしょうか! 女性でも男性のパワーに引けをとりませんね!」
「確かに、これは‥‥一度力比べをしてみたいものです」
アーデルハイドと葵はその光景に興奮しながらも解説を続ける。
結果、威龍は逆さまになった会場を見る事になる。
「ま、ま、マティマティカバスターだぁぁぁ! マティマティカバスターてのはね、分かり易く説明するとねキン肉バスターみたいなも‥‥」
「‥‥‥‥」
リュウセイはぐったりしている。
「聞きなよー!!」
リング外でもレミィのマティマティカバスターがリュウセイに炸裂していた。
後頭部、首、背中に思いっきりダメージの入った威龍を小雛はフォールして、勝利を飾った。
‐‐決勝戦‐‐
「決勝のリングの上に立つのはこの二人ぃ!! マスク、ドォォォ‥‥ブラックー!!」
観客の声援に応える訳でもなく、リングの中央で腕を組んでいるのは、辰巳扮するマスクドブラックだ。
「対するは、ドゥアイナマイトヴァスター!! まひるー!!」
マイクがハウリングして甲高い音が会場中に響き渡る。
ニケは他のカメラマンに負けじとフラッシュをたき、シャッターを切る。
リング中央で睨み合ってる、二人の姿は正にヒールとベビーフェイス。
その姿を見て、業を煮やしたアーデルハイドが勝手にゴングを鳴らす。
決勝戦が始まった。
辰巳は上段からまひるの額目掛けて下段へと拳を振り下ろす。
所謂、拳骨の様な一撃をまひるは派手に受け頭を抑える。
勿論、拳の落ちてくるタイミングに合わせ頭を下に振る事で威力は殺している。
「上手いですねぇ」
アーデルハイドがその受け方を見て唸る、流石決勝戦といった所か。
まひるの反撃、飛び膝蹴りも相手がギリギリ避けられる様な角度で放たれる。
辰巳はそれを避けるか避けないかの所で見極め、後ろへと後ずさる。
そして無駄に痛がるリアクションを取る。
一進一退の攻防は観客のテンションをどんどん上げていく。
大外刈りでまひるは辰巳を倒し、更に手刀を喉元に突きつける。
しかし、一瞬の隙を突き辰巳はその腕を取り寝ながら腕ひしぎを極める。
何とかそれを振りほどいたまひるを追いかける様に辰巳は起き上がる。
追撃は許さないと言わんばかりに、まひるは服の一部で目隠しと牽制を行う。
しかし、それを冷静に見極めた辰巳は一旦その場に止まると後ろへ半歩下がる。
目隠しの後ろから鋭い蹴りが飛ぶ。
すげー、と観客の間から感嘆の声が上がる。
その攻防は流麗で、かつ力強いものが有るのでそんな声を上げてもしょうがない。
半歩下がっていた辰巳はその蹴りを放ったまひるの硬直を見逃さなかった。
一気に前に詰め寄り、素早く組み崩し、まひるを斜め後方へと突き飛ばす様に投げる。
「で、出たぁぁぁ! 隈落、別名空気投げだぁぁぁぁぁ!!」
葵が興奮しながら、技の解説を入れる。
「どうやったんだ? あれ」
「え? やってみる?」
「あ、結構です」
リュウセイはレミィに本当に投げられそうだったので、丁重にお断りした。
辰巳はまひるがふらついている状態を見逃すわけも無く、もう一度組みなおす。
そして相手の懐に潜り込み、腕を抱え込む様にして腰をがっちり掴む。
「おぉぉぉっ!!」
気合の声を張り上げ、辰巳はまひるを後ろに投げる。
「ノーザンライトスープレックスだっ!!!」
「おぉ! あれはかなり美しいぞぉ!」
アーデルハイドは椅子から立ち上がり、リング上を見つめる。
腕を固められたまま、投げられそのまま叩きつけられる様にフォールされてしまったまひるは受身も身動きも取れない。
「1!」
レミィはリュウセイをヘッドロック。
「2!」
ニケはカメラを構える。
「3! 優勝は‥‥地獄からの使者、ンマスクドォォォォ‥‥ブラッッックー!!!」
うおぉぉぉぉぉ、という地鳴りの様な歓声がリングを、会場を包んだ。
‐‐結果‐‐
優勝:マスクドブラック(辰巳 空)
準優勝:まひる
三位:ダイナマイト・コヒナ(鷹司 小雛)
アーデルハイドはこの興行に満足し、笑顔で締めの挨拶をしながら確信した。
「やはり戦いにおける、最高の美学は肉体と肉体のぶつかり合いなのだ!!」
素晴らしい舞台をありがとう、心からアーデルハイドは参加者に感謝するのであった。
またその姿を見て、ニケはアーデルハイドの気持ちを理解出来た様な気がした。
LHから集まった超人達は全ての力を出し尽くし、今回の興行を成功に収めた。