タイトル:【魔剣】紫電と雷火マスター:東雲 ホメル

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/22 22:57

●オープニング本文


 曇色の空から雨粒が落ちてくる。
 非常に激しく。
 にわか雨の音が辺りを飲み込んでいく。
「さて、死んでもらおうか‥‥」
 紫電に輝く小太刀が男の腹を切り裂く。
 女の首を刎ねる。
 偶々だ、偶々拾った小太刀に操られるかの様に体が動く。
 最高の気分だった。
「ふ‥‥ははっ!」
 俺はバグアが憎かった訳じゃない。
 だけど、能力者になれば英雄になれると思っていた。
 しかし、運命は上手く転がってくれない。
「何見てんだよ?」
 犬を一匹電撃で焼き殺す。
 そして跳躍して、近くの建物の屋根に上がる。
 まるで能力者になった気分だ。
 そう、俺は能力者の適正が無かったのだ。
 だから英雄にはなれなかった。
「英雄か‥‥今はそれよりも‥‥見せ付けてやるんだよぉ‥‥」
 能力者の奴らに俺の力を見せ付けるんだ。
 そして勝つ。
 そうやって俺の心を癒し慰める。
 英雄になれなかった俺の心を。
「ふっ‥‥ははっ‥‥はーはっは‥‥!」
 雷が一つ、二つ落ちた。

 ライカ・クモガスミ(gz0253)は憂鬱そうにソファーから起き上がる。
「緊急の任務って‥‥面倒さ〜」
 携帯電話をテーブルの上に置いて、起き上がる。
 それと同時に飲みかけの炭酸飲料を飲み干す。
 椅子とテーブルが並べられた空間を出口に向かって歩き出す。
 途中、近くの椅子に立掛けてあった自分の刀を手に取る。
 少し青みがかった銀色の瞳がカウンターの奥の人物に一言。
「ツケで頼むさ〜。 お代はまた今度で」
 そしてそのまま出口から出て行ってしまう。
 大通りから外れた細い路地、半地下のバー。
 マスターは苦笑して、グラスを拭く作業に戻る。

 地上に出るとすっかり雨は止んでいた。
 相変わらず空は曇ったままなのだが。
「さて‥‥さっさと片付るさ‥‥」
 ライカはゆっくりと歩き出す。
 狂える紫電が笑う場所へ。

●参加者一覧

辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
ヴィー(ga7961
18歳・♀・ST
御門 砕斗(gb1876
18歳・♂・DG
ディッツァー・ライ(gb2224
28歳・♂・AA
五條 朱鳥(gb2964
19歳・♀・DG
レベッカ・マーエン(gb4204
15歳・♀・ER
蓮田 倍章(gb4358
20歳・♂・FC
九浪 吉影(gb6516
20歳・♂・DG

●リプレイ本文

「‥‥やれやれ、面倒な事にならなきゃいいが」
 曇天の空を見上げ、御門 砕斗(gb1876)はポツリと呟く。
 雨は降りこそしないが、すっきりしない天気である。
 隣に待機する、五條 朱鳥(gb2964)は目標に関するメモを読んでいる。
 事件を起こした目標が、人型のキメラではなく一般人であるという確認が取れた。
 名前はロンド・ハイマン。
 情報では、過去に一度エミタの適正検査を受けたが適正は無かったとされている。
 普段の生活も特に問題は無く、バグア派ではないとされている。
 では何故、今回の様な事件が起きてしまったのか。
 能力者の面々はその人物が今現在所持しているとされる、小太刀に目を着けた。
 過去、報告された刀剣型のキメラの可能性が高いのだ。
 そういった依頼に参加していた辰巳 空(ga4698)とレベッカ・マーエン(gb4204)。
 五條の手にしているメモはその二人から聞き出した情報だった。
 その辰巳と共に待機しているのはディッツァー・ライ(gb2224)。
「辻斬りか‥‥腐った真似してくれるじゃねぇかっ!」
 ギリギリと拳を握り締め吼える様に声を荒げる。
 公園の中心から少し離れた場所。
 御門と五條の近くに待機している。
「まぁ、落ち着いてください」
 キメラに操られているだけかもしれません、と辰巳。
 その四人よりも更に後ろ。
 ヴィー(ga7961)とレベッカが隠れながらも表の様子を窺っている。
 レベッカの右目は爛々と金色に輝き、何かを睨んでいるかの様に鋭い。
「手に取った者を支配するキメラ‥‥対能力者を考えればこれ程効果の高いキメラはない」
 味方殺しや民間人殺し、普通の感覚なら選べる訳が無いからだ。
 紫色に発光する目を揺らし、頷くヴィー。
 曇天の空から低い唸り声の様な雷の音がする。

「嫌な事件っすね、早急に解決しないと」
 九浪 吉影(gb6516)はAU−KVに身を包み周辺を見回す。
 そして一つの影を見つける。
 衣服のあちこちが焦げ、顔には血がべっとりと付いている男。
 資料で見た顔だ。
 男はこちらを見ると、ゆっくりと近付いて来る。
 そして威嚇する様にチリチリと何か音を立てる。
「刀のキメラ、しかも持ってる奴は強化される‥‥いいぜ〜いいぜ〜、ヒリヒリするぜ!」
 蓮田 倍章(gb4358)は壱式を構えながら目の前の敵を睨む。
 段々相手との間合いが詰まってきた。
「お前等‥‥能力者か」
 ロンドは小太刀を逆手に持ち、自身の目の位置に構える。
 それと同時に空気中に光の筋が放たれる。
「俺の力‥‥見せてやるよ」
 それはロンドの本心なのか、操られているから出た言葉なのか。
 後ろ足で地面を蹴り、一気に間合いを詰めてくる。
「は、はや、はや!」
 蓮田は咄嗟に抜いた小銃で牽制しながらも走り出す。
「どうした? 俺の力見せてやろうってんだ、逃げるなよ?」
「あんたには、力を持つ者の矜持を微塵も感じないな。脅威だとしても、怖くも無い!」
 吉影は叫び、後退しながらも小太刀の一撃を盾で防ぐ。
 ロンドは舌打ちをしながらも、再度小太刀を浴びせる。
 吉影の全身にスパークが走りロンドを吹き飛ばす。
 忌々しそうに顔を歪ませてロンドは着地する。
 距離はかなり開いてしまった。
「逃がすかよ、能力者!!」
 ロンドは走り出しながら小太刀を振るう。
 紫電がロンド、吉影と蓮田の間を駆け抜ける。
 転がりながらも蓮田はロンドの方へと向き直る。
 時計を中央に置いた広場。
 所定の位置だ。
 ロンドは上手く挑発に引っ掛かってくれたらしくこちらへ一直線に向かってきている。
 ロンドが広場の中央に差し掛かり、蓮田に飛び掛ろうとした時だった。
 辰巳がいつの間にかロンドの目の前に現れる。
 ロンドは何とかそれに反応し、電撃を浴びせる。
 辰巳はそれを盾で上手く受けるが、一瞬硬直してしまう。
 普通なら命取りになる硬直だったが、飛び出して来たディッツァーがロンドを後ろから羽交い絞めにする。
「少々やり過ぎたようだな、これ以上暴れるようなら手加減は無しだ!」
 がっちりと押さえ込まれ、身動きが取れなくなったロンドは最悪の行動に出る。
 小太刀型のキメラが、と言った方が正しいのだろうか。
 ロンドの体ごと電撃で焼いたのだ。
「うお!?」
 ディッツァーは弾き飛ばされて後ろに転がる。
「成る程、誘い込まれたか‥‥」
 ロンドは焼けた衣服の一部を引き千切り、辺りを見回す。
 舌打ちをして、広場から出ようと大きく後退しようとする。
「はっ! お前等! さぞかし気分は良いだろうなぁ!」
 英雄気取りでよ、と小さく呟く。
「キメラの所為か本心か判んないけど‥‥あんま調子乗ってんじゃねーよ!」
 ロンドは更に飛び出して来た五條に吹き飛ばされ、広場の中央に転がり戻る。
 追撃を試みた五條だったが、目の前に雷を落とされ、それは叶わなかった。
 いつの間にか接近していた御門が小太刀を落としにかかるが、これも刀身から放たれた電撃で阻まれた。
 そして、ロンドの周辺に幾つもの落雷。
 不敵に笑いながら起き上がる、ロンドの目の下には隈。
 衣服は電撃で焼け焦げていて、体には裂傷が幾つか有る。
 限界が近いのは誰の目に見ても明らかだった。
「素人が手にすれば有頂天になるのも無理はない力だな」
 ディッツァーが立ち上がる。
 電撃によるダメージは殆ど無いようだ。
 ヴィーが後方から練成治療でディッツァーの受けたダメージを癒していたのだ。
 それを気に食わなく思ったのかロンドは紫電を迸らせてヴィー目掛けて突進する。
 御門はその間に割って入り、小太刀の突進による一撃を居合刀で器用に捌く。
 ロンドは瞬時に体を回転させて横に一閃。
 御門はそれを受けつつ、後ろへと飛び退く。
 ロンドは追撃で紫電を飛ばそうとする。
「虚実空間、シュート!」
 小太刀からは何の反応も無い。
 レベッカがロンドの持つ小太刀に対し、虚実空間をかけたのだ。
「目標捕捉。 システムオールグリーン‥‥超機械ζ、発動!」
 更にヴィーの攻撃が小太刀に襲い掛かる。
 その攻撃に弾かれ、小太刀が手から離れそうになる。
 微量な電気が腕を走り反射的に強く握り締められる。
 しかし、虚実空間のおかげでこれ以上強力な電撃は発する事が出来ないらしい。
 この好機に、能力者達は動き出す。
 辰巳が一気に詰め寄り、ロンドの腕を掴み極める。
 流石に崩し倒す事は出来なかったが、雲隠で刀を押さえ込む事に成功する。
「くっ‥‥そぉ!!」
 ロンドは吼え、無理矢理に引き剥がそうとする。
 蓮田は何かを察したのか、刀剣袋からヴァジュラを抜き空高く投げる。
「雷ってのはな、なるべく雲から近い所に落ちるんだ!」
 そう叫ぶ蓮田の投げたヴァジュラはその一身に落雷を受け止める。
 ロンドはその光景を悔しそうに見る。
 すかさず五条がそんなロンドの隙をついて、自身の槍の柄で持ち手を強打する。
 ミシリと音を立てながら、ロンドの手が緩む。
 下がる五條と交代する様に吉影が前に出て、ショーテルで小太刀を引っ掛け弾き飛ばす。
 小太刀は横に回転しながら地面を滑っていく。
「自制の利かない凶刃は、此処で叩き折る!」
 ディッツァーは自身の刀を小太刀に全力で振り下ろす。
 更にレベッカのエネルギーガンから放たれる攻撃。
 小太刀は二人の攻撃に呆気なく砕け散ってしまった。
 草むらから人狼キメラが飛び出して来たのは次の瞬間だった。
「丁度良かったさ」
 それに続いて周辺を警戒していたライカが飛び出してくる。
 手伝えという事らしい。
「蓮田流波動剣!」
 蓮田が刀を振るうと同時に小銃を撃つ。
 人狼キメラは空中で受身が取れない上に、刀に気を取られ小銃から放たれた銃弾をモロに受けてしまう。
 更に人狼キメラが着地したと同時に御門の居合刀が人狼キメラの両腿を斬りつける。
「面倒は嫌いなんだ」
「気が合うさ〜」
 ヴィーの練成治療を受けたライカはニヤリと笑うと体勢の崩れた人狼キメラの前に立つ。
 そしてその背後に有る木を目掛けて、刀による強烈な突きを放つ。
 木に張り付けられた人狼キメラは自身の胸に刺さった刀を抜こうともがく。
 そこに吉影の一太刀、五條の一突き、レベッカの一撃が加えられる。
 しばらく唸っていた人狼キメラはすぐに動かなくなってしまった。

 ヴィーとレベッカの治療と辰巳の医師としての知識により、ロンドは間もなく意識を取り戻した。
「よぉ‥‥能力者の皆さん」
 第一声は皮肉交じりの一言。
 そして動かなくなった手足を首を上げて確認する。
「生きてるだけありがたく思うのダー」
 ロンドはレベッカのその一言に鼻で笑って応える。
 そんな態度にディッツァーは頭の上に屈み込む。
「良いか、刀ってのは、力ってのは守る為に有るんだよ。下らねぇ自己顕示欲で振り回して良いもんじゃ断じてねぇ」
 ロンドは何の感情も宿さない瞳でそれを大人しく聞く。
「それは、能力者だろうが一般人だろうが関係ねぇ!」
 ディッツァーはそう言い切ると立ち上がり、背中を向けて離れていってしまった。
 ロンドはもう一度鼻で笑う。
「そうだな、俺は間違ってた‥‥」
 そう口では言うものの反省の色は全く見えない。
 真意を問いただそうにもロンドはそのまま気を失ってしまった。
 曇天の空の様に、どこかすっきりしない気分で帰路に着く能力者達だった。