タイトル:サンタ超人トーナメントマスター:東雲 ホメル

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 18 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/08 02:23

●オープニング本文


「子供達に夢を与えるものとは何だね?」
 アーデルハイドはテンションの低い少女に問う。
「‥‥さぁ?」
 アルエットはテンションの高いおっさんから目を背ける。
「何だね、君も子供だろう? 分からんのかね、プロレスだよ」
「‥‥23」
 アルエットはそう言ってそっぽを向いてしまった。
 やべぇ、これだから最近の若い女は難しいんだよ、というか見えねー、顔だけなら完全にガキだなー。
 などとアーデルハイドが思ったかどうかは知らないが、彼は苦笑しながら頭を掻く。
「そんな事は置いておこう」
「‥‥‥‥」
 これだよ、とアーデルハイドは一枚のビラを差し出す。
 そこには上半身裸の屈強なサンタクロース達が睨み合っていた。
「時期も時期だ、プロレスとサンタ、夢のコラボレーションだ」
「‥‥‥‥」
 アルエットは若干引き気味にそれを受け取る。
 うわ、マジで何考えてんのこの人、っていうか汗臭いし、筋肉臭い。
 アルエットは根暗だけれども良い子だから、そんな事は思ったりしないのだ、多分。
「リングの上に屈強なサンタクロース達が降り立つ――」
 アーデルハイドは両手を思い切り広げ声を上げる。
「子供達にプレゼントを渡すのは俺だ、私だと言わんばかりに勝ち進んでいく――」
 アルエットは欠伸を噛み殺す。
「そして頂点に立った時、初めて最強のサンタクロースを名乗れるのだっ!!!!」
 アーデルハイドは拳を高く突き上げる。
 そしてアルエットの方を見てみる。
 しかし、彼女は下を向いて退屈そうにしていた。
「のだっ!!!!!」
 悔しいのでもう一度叫んでみたが、一瞥されただけで終わった。

「‥‥家族連れも呼んで興行を成功させたい、と‥‥」
「ま、まぁ、そう言う事だね」
「‥‥で?」
「いや、今回も能力者の皆に協力してもらいたくてだね」
「‥‥で?」
「いや、いつもバグアと戦ってくれてるからね、こういう依頼は説得が必要かと思って」
 アーデルハイドはその巨体を申し訳無さそうに縮める。
 そんなアーデルハイドを見て、アルエットは溜息混じりに頷く。
「おぉ、やっと通じたかね」
 アーデルハイドは豪快に笑って、アルエットの肩を軽く叩く。
「‥‥汗臭い、筋肉臭い」
「筋肉臭い!?」
 おっさんの心は意外と繊細だった。

●参加者一覧

/ 鷹司 小雛(ga1008) / 漸 王零(ga2930) / 終夜・無月(ga3084) / 威龍(ga3859) / 葵 宙華(ga4067) / UNKNOWN(ga4276) / 斑鳩・八雲(ga8672) / まひる(ga9244) / 辻村 仁(ga9676) / 米本 剛(gb0843) / 森ヶ岡 誡流(gb3975) / 零崎”こいつ”重蔵(gb4063) / 冴城 アスカ(gb4188) / 布野 橘(gb8011) / ゼンラー(gb8572) / 館山 西土朗(gb8573) / ヒルダ・エーベルスト(gb9489) / 湊 雪乃(gc0029

●リプレイ本文

 ノースリーブのニットワンピ。
 ロンググローブにニーハイブーツ。
 髪留めは白いポンポン。
 可愛いサンタだ、とアーデルハイドは思う。
「おっまったせ〜! 皆に夢と熱狂をプレゼントするは〜」
 観客ざわつく会場の真ん中。
 その四角いリングの、更に中央。
「あたし、ファントムテイル葵でーす!!」
 葵 宙華(ga4067)が高く拳を突き上げる。
 それに合わせて会場も歓声を上げる。
「早速だけど、いっちゃいましょう! 皆、準備は良いかな? いっくよ〜」
 葵はせーの、とマイク越しに小さく合図を送る。
「「「サンタさ〜ん!!」」」
 会場中の人間、子供から大人、お年寄りの皆様まで叫んだ。
 控え室の選手達も無駄に叫んだ。
 解説席のおっさん、アーデルハイドも叫んだ。
 その隣でボーっとしていたアルエットは、ビクッとなり我に返った。
 こうして、超人達の祭典が始まった。

‐‐一回戦第一試合‐‐
 アーデルハイドは立ち上がった。
 初戦であのお方の姿を拝めるとは。
 着物の生地を使い、白綿をあしらった和風ビキニを装着して現れたのは鷹司 小雛(ga1008)、その人である。
 過去の興行にも参加していた彼女の姿は今回も期待を裏切らないセクシーさだ。
「会場中のお父さんも、お待ちかねぇ! ダイナマイットォォォ‥‥コヒナー!!」
 会場中のお父さんは、一斉に気まずくなってしまった。
 堂々とした態度で、リングに上がるのは前回大会で3位だった余裕か。
 腕を回し、ゴキンと肩を鳴らす。
「対するはぁ! 意外と悪役ぅ! シルバーフォックスゥゥゥ‥‥!」
 和傘と扇子を使い、派手なパフォーマンスで入場してきたのは斑鳩・八雲(ga8672)だ。
 狐の仮面をそのままに、紅白のアンダースーツがサンタっぽさを強調している。
「何ともまぁ、昭和的な大会ですねぇ」
 苦笑しながらも何処かに持っていた紅白饅頭を配りながらリングに跳ぶ。

 観客が紅白饅頭に目を奪われ、小雛の目から和傘に因って八雲の姿が隠された時だった。
 八雲はリングに跳んだのではなかった。
 不意打ちのフライングニールキックが小雛を襲う。
「こ、これはぁー!?」
「前回同様、不意打ちからとは卑きょ――」
 アルエットはアーデルハイドの解説は聞かないでゴングを鳴らした。
「悪い子、ですわね」
 小雛は体勢を戻すと、勢いそのままに八雲の左頬に平手打ちをかます。
 乾いた音が響き、小雛は更に手を返す。
 もう一つ。
 しかし、受けるだけでは単調になりがちだ。
 八雲は素早く小雛の腕を掴み、捻り上げる。
 苦痛に顔を歪める小雛を、八雲はロープに放り投げ、自身もロープに走る。
 ロープを足場にし、三角跳びの要領でリング中央を振り向く。
 そして――
「これはシルバーフォックスの必殺、変形流星じゃないかぁぁぁぁぁぁ!」
「ファントムテイルさんは、変形の部分、今思いつきましたね」
「‥‥そうですね‥‥」
 フライングエルボードロップである流星は、普段コーナーポストの最上段から放つものだ。
 しかし、今回はロープを使って高く飛び上がる事でそれを出したのだ。
 肘に因る、凶悪な一撃が小雛を襲う。
 受けてしまえば、瞬間で勝負が決まってしまう攻撃だ。
 小雛は体勢を低くし、八雲の下を走り抜けていく。
「こ、これは〜!?」
 小雛が逆側のロープの反動を利用して帰ってきた時、八雲はリングの上に転がるしかなかった。
 肘を直角に曲げた、小雛の得意とする力技。
「アックスボンバーですね」
「まだまd――む、ぐぅ‥‥!」
「!? う、羨ましい」
 小雛は倒れた八雲の後頭部に胸を押し付けながら、両腕で抱え込む様に首を絞める。
 葵がストップをかける前に、色々我慢していた八雲がギブアップをして、試合は決まった。

‐‐一回戦第二試合‐‐
「ホッホッホ、メリークリスマス」
 赤いコートを身に纏ったヨネモトタケシ(gb0843)の姿に会場の子供達はテンション上げる。
 所々、赤黒いシミが付いてるのが気になるが、今日はクリスマスだ。
 細かい事は気にしない。
 何故なら、トナカイが引いているソリに乗っての登場だから。
 背負った袋に入っているのはプレゼントだ。
 まさか、何か得体の知れない物で有るはずが無い。
「子供達の夢はなるべく壊しません! サンタ、イズ‥‥‥‥お父さん‥‥‥‥」
 葵はマイクを遠ざける様にして、小声で呟く。
 会場中のお父さんは、子供の方を見られなかった。
 アーデルハイドも同じ様にアルエットの方を見られなかった。
 彼女も若干涙目になっていたからである、23のくせに、23のくせに。
「続いては」
 気を取り直そう。
 花道を歩くその姿は、正に巨漢。
 虎柄のアイマスクに、赤黒い厚手のファーズボン、真っ赤な編み上げのリングブーツ。
 タンクトップを纏った上半身はぱっつんぱっつんだ。
 森ヶ岡 誡流(gb3975)は体重計を踏み割った事があるという逸話の持ち主だ。
 タケシと同じ様に大きな袋を担いでいる。
「聖なる夜は震えて眠れ! 肉弾戦車! サンタァ‥‥カーペンター!!」
「これは良い素材ですね‥‥終わったらスカウt」
「ゴング、カモォン!」
 カーン。

「俺が勝ったらお前らのプレゼントは石炭だ!」
 会場中が揺れる様な声で叫ぶと、誡流はタケシに逆水平チョップを見舞う。
 タケシはそれを避けずに受けてみせる。
 タケシの反撃の逆水平チョップ。
 誡流も受けて、びくともしない様子で笑う。
 何度か応酬しあった後、誡流は唐突に雄叫びを上げる。
 タケシの頭を掴み、ポストに走らせる。
「サンタカーペンターも巨体とリングを揺らしながら走る!」
 そして、跳ぶ。
「おぉ、これはっ! スレッジハンマー!」
 興奮したアーデルハイドが立ち上がる。
 それと同時に、タケシの身体に超重量級のドロップキックが突き刺さる。
 重い、重い一撃にタケシはポストに完全に磔にされる。
 肩で息をしながら起き上がった誡流はセコンドから黒いピコハンを受け取る。
 担いできた袋に入っていた物だ。
 石炭じゃなくて良かった。
「おらぁ!」
 ヒールだけにピコハンで癒し、などと誡流は言っていたらしい。
 が、彼が持つと色彩の効果も有ってかやけに重そうに見える。
 ぴこっと可愛い音が響く中、タケシはようやく反撃に出る。
 誡流がそのピコハンを振り上げた瞬間だった。
「メリー‥‥クリスマース!」
 何処からともなく取り出した巨大なクラッカーが盛大に音を立てる。
 一瞬、誡流は動きが止まる。
 そして、タケシはそれを見逃さなかった。
「うお!?」
「プレゼントフォーユー」
 タケシは誡流に袋を被せ、足を取り、引き倒す。
 そして、リング中央まで引き摺っていき、その場で回転する。
「ジャイアントスイングだぁぁぁぁぁぁ」
 回って回って、まだ回る。
 放した頃には誡流のスタミナは完全に切れていた。
「フォール! 1、2‥‥3! 勝者、サンタァァァイズ‥‥‥‥お父さん‥‥‥‥」
 葵はまたもマイクを遠ざけて呟く様に言った。

‐‐一回戦第三試合‐‐
 今度は会場中の奥様方が奇声と言うか、黄色い声と言うか、歓声を上げる番だった。
「サンタ界にもイケメンブーム到来か! ファントム! オブ! サンタァァァクロースゥゥゥァァァ!!」
 キャーとかギャーとか、何が何だか分からない声まで聞こえる。
 そんな中花道を歩くのは終夜・無月(ga3084)だ。
 無月は予め用意しておいた、トナカイの編みぐるみを辺りに配る。
「っと、俺が貰ってもしょうがねぇな‥‥やるよ、っていねぇ!?」
 フーノ・タチバナ(gb8011)は受け取った編みぐるみをカノジョに渡そうと振り返ったのだが‥‥
 居ない。
「スマン、こっちだ」
 焦るフーノの背後から湊 雪乃(gc0029)が声を掛ける。
 迷子になりかけたらしい。
「この辺りにカップル狩りをしている輩は居なかったな」
「それで居なかったのな‥‥ほら」
「む、ありがとう」
 編みぐるみを豪快に開け、中のお菓子を取り出す雪乃の姿を見てフーノは思う。
(「此処じゃ、ロマンティックな雰囲気は‥‥望めないよな」)
 初デートでプロレスとは、漢らしいカップルだ。
「しかし、プロレスかぁ。 実は俺、初めて見るんだよな」
 フーノは苦笑しつつ、リング上を見る。
「ポニーテールは男だって可! ただしイケメンに限る! ダァーク‥‥ザ! サンタァァァ‥‥!」
 またも奥様方の黄色い歓声が上がる。
 何かを投げながら花道を歩いてくるのは辻村 仁(ga9676)だ。
「ネーミング、安直じゃないか?」
 それは知りません。
 仁はリングネームに首を傾げながらも、何かを投げる。
「む、これは‥‥タチバナ、やるよ。 さっきは俺が貰ったからな」
「ありがと‥‥う‥‥?」
 パウンドケーキ、なのだが‥‥何だこの緑の塊は?
「すごく‥‥ピーマンです‥‥」
 パウンドケーキを恐る恐る頬張った、フーノの正直な感想だった。
 そうこうしている内に、ゴングが鳴り渡る。

 仁のエルボーが無月の胸に深く突き刺さる。
 しかし、無月はそれに怯む事無く手刀で応戦する。
 仁が急所近くにエルボーを叩き込もうとすると、カウンターで無月のエルボーが決まる。
 流石、歴戦の傭兵。
 どちらも迫力の有る打撃を応酬する。
 仁が掌打を放ち、またも無月の胸を捉えるが、無月はそれを好機と見ると仁の腕を取る。
 そして一気に引き、体勢の崩れた仁の背後に回り、腰に手を回す。
 画的には奥様方が熱狂するのは仕方が無い様な状況だ。
「こ・れ・はぁぁぁぁぁぁぁ」
「投げっ放しですね」
「‥‥ジャーマンスープレックス‥‥」
 段々、司会進行の三人の息が合ってきたのは置いておこう。
 マットに投げ出された仁は、何とか立ち上がるが、無月は攻撃の手を休めない。
 手刀に因るフェイントで仁のガードを上げると、ダックアンダーの要領で仁に組み付く。
 水車落しの体勢だ。
 これが決まれば確実に無月の勝利に繋がる様な技だった。
 しかし、仁はその技を利用し、逆に自らの必殺技を決めたのだった。
 前傾姿勢の無月の頭と片腿を抱え込み、一気に後方へ反り返る。
「完璧な返し方ですね」
 アーデルハイドが感心した様に頷くと同時に、無月はマットに叩きつけられる。
 更に仁は、頭と腿を抱え込んでいる手をがっちりと組み、抵抗する無月を抑え込む。
「フォール‥‥1、2‥‥3!!!」
 勝者、ダーク・ザ・サンタこと辻村 仁。
「まさか、隊長に勝てるとは‥‥」

‐‐一回戦第四試合‐‐
 もろびとこぞりて。
 それが流れる中、威龍(ga3859)はリングにゆっくりと登る。
 花道を歩いてくる間に、飴や造花を配りきった威龍は白髭とサンタキャップを外す。
 そして上着を脱ぎ捨て、その場で宙返りをする。
「真打登場かっ! 正統派拳法サンタ! カンフーキッド!!」
 ルーローンと、会場から声が上がる。
 前回、前々回とその正統派ファイトスタイルで人気を獲得していた様だ。
 そんな威龍の相手。
 館山 西土朗(gb8573)はまんまサンタの格好でリングイン。
「大人も子供も関係なしだ! 俺の背中に夢を見ていってくれ!」
 これまた付け髭と上着を脱ぎ、白いシャツ一枚になる館山。
「これは楽しみな試合ですね」
「‥‥そう」
 ゴングが鳴り、リング上の二人がゆっくりと動き出す。

 独特な歩方を用いて、館山を翻弄する威龍。
 館山が豪快に腕を振り回すと、それを掻い潜りハイキックを見舞う。
 館山は敢えてガードはせずに、真正面からそれを受け、反撃に近距離からラリアートをかます。
 威龍も敢えてそれを受け、派手にマットを転がり、ばっと跳ね起きる。
 館山は胸をドンと叩き、威龍の攻撃を誘っている様だった。
 何とも漢らしい試合か。
「おぉ、熱いな」
 フーノは拳をギュッと握り締める。
 ローキックで威龍は館山の膝を壊しにかかるが、館山はそれでも怯む事無く進む。
 そして、アイアンクローで威龍を捕まえ、マットに投げ捨てる。
 うつぶせに倒れた威龍の膝を目掛け、館山はエルボーを落す。
 威龍を起き上がらせ組み付くが、流石にそうそう上手くやらせはしない。
 威龍は軽く跳ぶと身体を捻りながら、その場でドロップキックを放つ。
 それが綺麗に決まると、今度は館山がマットに転がる。
「夢を与える側の人間が諦めちゃいけねえよな!」
 そう言いながら、館山は立ち上がる。
 威龍は攻撃の手を休めずに、館山に組み付く。
 ボディスラムで館山をマットに叩きつけると、フォールに入る。
 しかし、館山は未だ諦めていない。
 2カウント目で肩を返すと、無理矢理威龍を引き剥がし、素早く立ち上がる。
「上からのプレゼント、受け取りな!!」
 拳を硬く握り締め、ハンマーパンチを振り下ろす。
 威龍はそれをまともに受けてしまい、足元がふらつく。
 好機は逃さない。
 館山は左手を翳し、観客にアピールする。
 そしてふらついている威龍の股下に頭を潜り込ませ、身体を起き上がらせる。
 足を掴み、もう一度前傾姿勢に戻り、相手を反転させ背面から叩きつける。
「振り子式パワーボムが決まったぁぁぁ!」
「これはパトリオットボムとも呼ばれていましt」
「3、2‥‥1!!! 勝者、サンタチヤマァァァァ!!」
 いつの間にかリングネームが決定していた。

‐‐一回戦第五試合‐‐
「正義には敗北を‥‥悪にもやはり敗北をあげよう」
 鬼神のお面をつけて現れたのは漸 王零(ga2930)。
 漆黒のチャイナドレスは、サンタ風に改造されてあり、それでも案外動き易そうだ。
 そしてやはり、凶器を、木刀を背負っての登場だった。
「前々回の大会の時も思いましたが悪そうですねぇ」
「‥‥あの鬼の面‥‥欲しい‥‥」
「アンデッドダーカー、今回はどの様な戦いを見せてくれるのでしょうかっ!」
 続いて現れたのは、ゼンラー(gb8572)。
 怒られそうな予感がする、という事でトレンチコートを着てみたらしい。
 それでも、怒られそうな予感がする何かがちらちらと見える辺り、ヒールなのだろうか。
「堂々と現れたのは肉体信仰の先駆者! マスク・ド・ゼンラーじゃないかぁぁぁぁ‥‥!」
「しかし‥‥今回は分かり易く、ヒール同士の戦いになりましたね」
「‥‥色‥‥」
 ゼンラーは身体を赤銅色に塗り、悪魔の様な姿だ。
 これは子供にとっては怖過ぎる。
 中には泣き出しそうになっている子供も居るようだった。
 ヒール冥利に尽きるのだろうか。

 大振りなラリアートが漸を捉える。
 倒れる程ではないが、そこはプロレス。
 漸は思い切りマットに倒れる。
 ゼンラーの攻撃と漸のリアクションは今日一番の歓声を集めていたかもしれない。
 それほど、迫力が有った。
 ゼンラーは漸の起き上がりに合わせて、ラリアートを放つが漸も黙ってはいない。
「と、飛び関節!?」
「綺麗に極まりましたね」
 ゼンラーは苦しそうに、ロープを掴もうとするが漸はそうはさせまいと踏ん張る。
「これ、決まったんじゃないか? なぁ」
「受け取れ椅子だっ!」
「雪乃さん!?」
 大人しく観戦していた雪乃だったが、突然ゼンラーに椅子を投げる。
 それを空いている手で受け取ったゼンラーは漸を椅子で殴りつける。
「おぉっと、観客から助け舟だぁ!」
 漸をひっぺがし、更に椅子で漸を攻めるゼンラー。
 漸も負けじと持ち込んだ凶器の木刀で椅子を弾き、鞘尻と柄尻から小太刀を抜く。
 そもそもそういう仕掛けだったらしい。
 二振りの小太刀でゼンラーの椅子を防ぎ、立ち上がる。
 が、意外とパイプ椅子は強かったりした。
 防ぐには小太刀では心許な過ぎた。
 何とか防げているのは漸で有るから、だろう。
「それじゃ、いくよぅ」
 椅子を投げつけ、漸がそれに気を取られている間にゼンラーは漸を上から拳骨で殴りつける。
 漸がその反動で前傾姿勢になった所で、ゼンラーはその頭を両腿で挟み込む。
 そして、合掌。
 その後は素早く、漸の胴をクラッチし、パワーボムでマットに沈める。
「念仏パワーボムですか、粋ですね」
 ゼンラーは漸をえび固めでフォール中にも合掌しつつ、何かに祈りを捧げている様だった。
「勝者! マスクッ・ドッ‥‥ゼンラァァァァァァァァァ!!」

‐‐一回戦第六試合‐‐
「今回は、アレですね」
「‥‥何?」
「いや、セクシーな方が多いなと思いまして」
「‥‥で?」
「あ、いや、特に意味は無いんd」
「おぉっとぉ!! 派手にリングインしてきたのは、聖夜の銀仮面!! マスクドォォシルバーだぁぁぁぁ」
 蝶のマスクを装着し、ファーで縁取られた赤いビスチェとミニスカ姿。
 冴城 アスカ(gb4188)、スノーモービルに乗って堂々の入場だ。
「今宵は聖なる夜、クリスマス! 皆に勝利と言う名のプレゼントをあげるわ!」
 アスカが拳を突き上げて叫ぶと、会場もそれに呼応する様に沸き上がる。
「アスカー! 頑張れー!」
 雪乃がいつの間にか回収したパイプ椅子から立ち上がり、アスカに激を飛ばす。
「おぅ、頑張れよー!」
 フーノも一緒に立ち上がって声を掛ける。
 それに気付いたのかアスカはもう一度拳を高く突き上げる。
「対戦相手ぇ! ダイナマイトバスターは健在かぁ! まひサンタァァァァァァ‥‥」
 まひる(ga9244)は花道を駆け、リングにふわっと上がって来る。
 いつも羽織っているコートの前を締めただけだが、ばっちりサンタの様な格好になっている。
 何でも今回は価値に拘らず、自分のやり方で何処まで通用するかを試すつもりの様だ。
「それでは残り二試合となった一回戦、ガンガンいってみましょー!!」

「まひるお姉ちゃん‥‥手加減しないわよ!」
 アスカは開幕一番、跳び蹴りでまひるを襲う。
 まひるはそれを何とか避けると、カウンター気味に裏拳を繰り出す。
 が、当てない。
 水面蹴りでまひるを牽制しつつ、距離を取るアスカ。
 まひるも跳び上がり、後方へと着地する。
 アスカは距離を詰め、フェイントを交えたキックコンビネーションでまひるを追い詰める。
 まひるはコートの前部分を開け、裾を使ってアスカを翻弄し、それらを回避していく。
 そして、自分がロープを背負わされている事に気付く。
 次の瞬間、アスカは宙返りの要領で身体を浮かせる。
 サマーソルトキックだ。
 まひるは何とか回避しようと、ロープギリギリまで下がる。
 しかし、避け切れなかったのだろう。
 アスカの爪先がまひるのチューブトップに引っ掛かり――
「ゆ、雪乃? ど、どうしたんだよ?」
 別に、と答えながらフーノの目を手で覆う雪乃。
 試合は見えないが、雪乃の手の温度を感じられるから良いか、とフーノは思う。
 フーノが雪乃の目隠しから開放された頃には、何事も無かった様に試合は続けられていた。
 まひるは足払いを仕掛け、アスカを転ばせると足を取りトゥーホールドの体勢に持っていこうとする。
 アスカはミニスカだ。
 ミニスカだ。
「おおぉぉぉぉっとぉおぉおおおお! これは効いています! 効いてますよねぇ!」
 中継カメラにどアップで映し出されたのは葵の顔。
 ナイスブロック&キュートです、葵さん。
「き、効いてるんじゃないでしょうか‥‥」
 アスカは何とかロープに手を掛け、まひるから解放される。
 解放された直後にも拘らず、アスカはまひるに果敢に向かっていく。
 驚くべきスタミナ、という事でもなかった。
 まひる優勢に見える試合展開だが、まひるの攻撃は全て寸止めか脅しの様なもの。
 加えて、全てをギリギリで避けているまひるの方が消耗は激しかった。
 アスカはハイキックのフェイントを一つ入れる。
 スウェイの要領でまひるはかわそうとするが、キックは来ない。
 代わりに、両腿にアスカの手ががっしりと食い込む。
 すっと、軽々とまひるを逆さにして頭上まで持ち上げる。
「おぉ! 何だ、あの技!!」
 フーノが興奮して立ち上がる。
「あれはラ・マティマティカ‥‥? ち、違う! き、筋肉バスターだっ!」
 同じ様に興奮して雪乃は立ち上がる。
 おぉっと歓声が上がり、そのどさくさに紛れフーノは雪乃の手を握ってみる。
「決まっっったぁぁぁぁ! フォーール!! 1、2、3!!」
 リングの上で勝利の雄叫びを上げたのはアスカだった。

‐‐一回戦第七試合‐‐
 黒いボンテージビキニがセクシーなヒルダ・エーベルスト(gb9489)が入場する。
「悪い子には鞭打ちでお仕置きっ! サンタの双子の妹! クネヒトループレヒトォ!!」
 ヒルダの祖国ドイツの伝承をモチーフとしているらしい。
 勿論、鞭も携帯しての入場だ。
「悪い子とは弱い子の事、つまり私に負けるようならお仕置きが必要という事です」
 事務的な口調のまま、鞭でマットを打つ姿は何とも言えない、色々と。
「続いて入場してくるのは、誰だ! どいつだ! こいつだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 葵が叫ぶも花道の奥からは一向に誰も現れない。
 と、思ったら。
「葵さん、葵さん! ポストの上ですよ!」
 アーデルハイドに言われて振り返ってみれば――
 やぁ、と片手を上げて歓声や悲鳴に応える、零崎”こいつ”重蔵(gb4063)の姿が有った。
 サンタコートとサンタキャップ、勿論お約束の如く顔のど真ん中はタバスコで赤く染まっている。
「いやぁ、相変わらず情け容赦の無い青さですねぇ。 と言いますか」
「「洗濯しろよ!!」」
 思わずハモった葵とアーデルハイドだった。
「雪乃、アレは‥‥レスラー?」
「気にするな、タチバナ。 気にしたら負けだ」
 そう諭す雪乃だが、気になってしょうがない感じだった。
 そんな中、アルエットはこいつの原色さ加減にクラクラしながらゴングを鳴らす。

 ふざけた格好だが、意外にもまともなファイトスタイルのこいつ。
 ジャブ、ジャブ、ストレートの基本的なコンビネーションをヒルダへと浴びせる。
 そして、偶に腕では無い部分からもジャブが飛ぶ。
 失礼、物凄くトリッキーでした。
 ヒルダはそのトリッキーさに翻弄されながらも、足技で対抗する。
 ミドル、ミドル、相手が怯んだ所にローリングソバットを下腹部に一撃。
「うっ‥‥あれ、反則じゃないのか?」
「ヒールだしな」
 フーノは顔を顰めながら、雪乃に問うと、意外にも雪乃はさっぱりと答えた。
 その一方でこいつはリングの上で悶絶していた。
 紳士を一時的とは言えリングに沈めるとは中々の兵だ。
 こいつは立ち上がると同時にファイティングポーズをとり、ヒルダに肉薄する。
 ジャブで牽制しつつ、ヒルダを攻め、ポストへと追い詰めていく。
 この日の為に編み出した新技、これを試す良い機会だ。
 何て思っていたら、ニールキックを浴びせられてしまった。
 倒れたこいつの腕を掴み、腕十字を極めるヒルダ。
 完全に極まっているので、このまま試合は決まってしまうと思われていた。
 しかし、そうもいかないのがこの大会。

 酒を片手にするめを齧っていた男が立ち上がる。
 ベビーフェイスの彼が負けそうじゃないか。
 思い立ったが吉日。
 UNKNOWN(ga4276)は観客席の後方から駆け出す。
 そして、着ていたコートを脱ぎ捨て、らいおんのマスクを被る。
「クルシミマスの穴でお前は‥‥サンタクロスになるのだっ! とうっ! らいおんさん参上!」
 ポストに登ったUNKNOWNはビシッとヒルダを指差す。
「こ、これはぁぁぁぁぁ!? タイガーm、いや、らいおんさんだぁぁぁぁ!!」
 ビキニパンツにブーツ姿。
 黒いマントを投げ捨てる姿は正にタイガーm、いや、らいおんさん。
 ボルサリーノが異彩を放っている。
 UNKNOWNはそのままヒルダ目掛けて跳び、ボディプレスを浴びせる。
 こいつはその隙に上手く抜けだし、UNKNOWNを見やる。
「助けてもらってなんだが、ここは下がっていてもらおう」
「おや、しかし上がってしまったものしょうがない」
 無駄に紳士的な二人がしばらく睨み合っていたが、途中無言で握手を交わした。
 紳士の間で謎の絆が生まれた様だった。
 二人は頷きあって、ヒルダの方を振り向くと――
 待っていたのはダブルでサミングの仕打ちだった。
「ふぉぉぉぉ‥‥!?」
「ぬぅぅぅぅ‥‥!?」
 目を押さえながら、紳士タッグはその場に蹲る。
 ヒルダは蹲る二人に鞭を振るう。
 叩いて、叩いて、最後は足で踏みつける。
「お仕置きする対象が増えただけですか」
「迂闊だね、君は」
 こいつはヒルダの足をタイツで絡め取ると、そのまま引き倒す。
 UNKNOWNは倒れたヒルダをそのまま押さえつけ、フォール。
「む、無駄過ぎる華麗な連携だぁぁぁぁぁぁぁ」
 三つ目のカウントが取られた時、もう一度握手を交わす紳士二人。
「さて、悪い子にはお仕置きだったな‥‥戦いとは無情なものだよ‥‥」
 UNKNOWNは縄を取り出すと――
「さぁ、次の試合いってみましょう!!」
 葵のナイス割り込みにアーデルハイドはあぁ、と残念そうな声を上げるばかりだった。
 全てを終えた後、UNKNOWNは静かに去っていった。

‐‐二回戦‐‐
 リングの上は戦場だ。
 性別など殆ど関係無い。
 タケシは思い切りマットに叩きつけられて咽かける。
 小雛の容赦無いパワープレイ。
 タケシは女性相手に打撃技を使う事を嫌っていたが、小雛はガンガン打撃技で攻めてくる。
 小雛はタケシの頭を掴み、立ち上がらせると首下に両手を当てる。
「も、持ち上げましたね」
「‥‥力持ち」
「あ‥‥こ、これはぁぁぁぁぁっ、クリスマスツリーの様だぁぁぁぁぁぁ!」
 何か思い出した様に葵は小雛の掛けている技の形容をする。
 どうやら試合前にパッと打ち合わせをしておいたらしい。
 解説付きなら、見えない事もない。
 ネックハンキングツリーの状態をクリスマスツリーに見立てているらしい。
 小雛はタケシをチョークスラムでマットに叩きつける。
 そして、足で肩を踏みつけ勝利をアピールした。
 タケシ、紳士さが災いして二回戦で敗北。

 仁はチョークスリーパーで館山をガチガチに固める。
「ぬぐぅ‥‥」
 ギリギリ、極まっている様で極まっていない。
 相手の腕と首の間に自らの手を噛ませ、完全に極まるのを防いでいる。
 館山はそのまま立ち上がり、みさわよろしくそのままマットに背中から倒れこむ。
 そうしてやっと仁の締め技から抜け出した館山は大きく手を振りかぶる。
「これは豪快な一撃ですね、葵さん」
「ハンマァァァァパンチだぁぁぁぁぁぁ!!」
 額を押さえながら、頭を振る仁。
 回復し、顔を上げたのが遅かった。
 館山がラリアートをぶちかまし、仁はマットに沈んだ。

「肉体の声が聞こえるよぅ」
 そう言いつつ、アスカのハイキックをしゃがんでかわすゼンラー。
 トレンチコートの隙間からはやはり、何か見える。
 だが、見えない、見せない。
 アスカはしゃがんだゼンラーの膝を足場に膝蹴りを見舞う。
「おぉ、雪乃、アレがシャイニングウィザードって奴だな!?」
「タチバナ‥‥この短期間に見ただけで名前が分かる様になるなんて‥‥成長したな」
 観客席の二人は初デートがプロレスというのにも関わらず、何だかんだ楽しんでいるようだった。
 ゼンラーがアイアンクローでアスカを捕まえると、一気に組み付き、マットに叩きつける。
 アスカは素早く跳ね起きると倒立したまま、蹴りをゼンラーの脇腹に打ち込む。
 肉体の声が聞こえる、自らの。
「子どもの夢を壊すような輩は、サンタに代わってお仕置きよ!」
 アスカはそう叫んで禁断の(この試合に限って)必殺を繰り出す。
「おぉぉぉおおおっとぉおおおおおおおお!!」
「またも筋肉バスターですねぇぇぇぇぇぇぇ!!」
 今度は中継カメラに葵とアーデルハイドがどアップで写ったと言う。
 何も無かった、勝者は冴城 アスカ。
 それで良いじゃない、と葵は語る。

‐‐準決勝‐‐
「ところで、タイガーm、らいおんさんは何処に行ったんですかね?」
 カッコ良く去って行きましたけど、とアーデルハイド。
「‥‥後ろ‥‥」
 アーデルハイドの疑問にアルエットは観客席の後方を指して答える。
 らいおんさん、改めUNKNOWNが酒飲んでするめを齧っている。
「居たんですね」
 こくりと頷いたアルエットはリング上で繰り広げられている熱戦に目を向ける。

 ラリアートの応酬。
 小雛から館山、館山から小雛。
 純粋なパワー勝負。
 お互い大分消耗しているが、まだまだ闘志は燃えている。
 がっしり掴み合った手は力比べの合図。
 お互い歯を食いしばって、頭突きをしあう。
「おぉぉっしゃぁぁぁっ!!」
 館山は雄叫びを上げて、小雛に競り勝つとその腕を取り力一杯、背負い投げ。
 マットに叩きつけられた小雛は転がったまま、肩で息をする。
 館山もその場に肩膝を突いて、休んでいる。
 ゆっくりと、小雛は立ち上がり館山の頭を掴んでポストに走らせる。
 追いかけ、軽く跳んでヒップアタックで館山を磔にする。
 何度も何度もヒップアタックを仕掛ける。
「おぉ、何とも羨ましい技ですねぇ」
「‥‥‥‥」
 アーデルハイドが無視される中、小雛は館山をリング中央に連れて行く。
 そして左拳を高く突き上げる。
「これは、まさか!?」
 そして、館山をパワーボムでマットに沈め、そのままえび固めでフォール。
 館山のフィニッシュをそのまま真似したのだ。
「勝者、ダイナマイッ! コーヒーナー!!」

(人数の関係上こいつ選手は二回戦無しの準決勝となります)
 原色の青。
 こいつはキレの有る動きでアスカを翻弄する。
 意外と強い、タイツ総合体術。
 アスカは何度も蹴りを放つがタイツの所為で効果の程が分からない。
「どうしたんだい? もう疲れたのかい?」
 そしてこの態度である。
 こいつはジャブでアスカを牽制しつつ、コーナーへと追い詰めていく。
 勿論、先程失敗した新技を試す為である。
「な、何て伸縮性なんだあのタイツはぁぁぁぁぁぁぁ!?」
 ポストを背負わせた後に、こいつは渾身のストレートでアスカを大人しくさせる。
 そして、その四肢を‥‥タイツでロープに結びつけた。
 存外器用である。
「な、なぁ雪乃‥‥あいつ、ベビーフェイスじゃないのか?」
「気にするな、気にしたら負けだ‥‥」
 とは言っても、やはり気になるフーノと雪乃だった。
「お・ん・どりゃぁぁぁぁっ!!」
 身動きの取れないアスカにえげつない程の乱舞を決める、こいつ。
 そんなこいつの頭(と思われる箇所)に思い切り頭突きをぶちかます。
 こいつが頭を抑え、呻いている間にアスカはタイツの封印から脱出する。
 そして――
「此処が頭なら、これ腕か? ん? まぁ、いいわ」
「ちょ、ちょっと、おかしい体勢になってるから待ちたまえ!」
 首を傾げながら、タイツを逆えび固めでくの字に折るアスカ。
 こいつがぐったりしてリングから運ばれて行く姿は敗者そのものだったと言う。

‐‐決勝戦‐‐
「葵さん、どうして三位決定戦が無いのでしょうか?」
「えぇ、何でもこいつさんはサイコロが原因で腰をやってしまった様です」
「‥‥相手方のクリティカル‥‥」
 葵とアルエットの言っている意味が理解出来ないアーデルハイドだった。
「つまり自動的にサンタ館山選手が三位という事ですか」
「そうですね」
 目に眩しい原色の青、今夜はゆっくりと休む事になりそうです。

 リング上で小雛とアスカは睨み合う。
「そんなに大きくては色々不便じゃありませんか?」
 小雛はアスカを挑発する。
 身長の事、らしい。
「はっ、そっちも不便じゃないの?」
 挑発には乗らずに、冷静に返すアスカ。
 どの部分の事だろう。
「いやぁ、楽しみですねぇ。 特にむn」
「ゴォオオオオオオオングゥ!!」
 本日ラストの試合が始まった。

 開幕、小雛は両手を広げてアスカにラリアートを仕掛ける。
「これは、十字架の様に見えますね」
「クロスラリアートですか」
 これもクリスマスに因んだ技だとか。
 迫り来る、小雛を回し蹴りで迎撃するアスカ。
 続いて、ロー、ハイとキックコンビネーションで攻める。
 ハイキックが胸に当たったのはサービスに違いない。
「このまま私の勝ちのよう――!?」
 小雛はアスカの頭を両側から押さえ込み、そして顔を近づける。
 リップロックである。
 どんな技かは各自で調べる様に。
 この時の会場中の男性、一部女性はすごく真剣な顔だったと言う。
「欧州の風習ですわ」
 ニヤリと笑う、小雛。
 アスカは色々焦りながらも、小雛を引き剥がし、跳ぶ。
 そして小雛の首筋に蹴りを入れる。
 ふらつく小雛をコブラツイストでガチガチに固める。
 息を荒くして技を掛けるアスカと痛みに耐える小雛。
 やけに扇情的だなぁ、と思ったアーデルハイドは黙りこくってしまった。
 パワーで上回る小雛が何とか技から抜け出す。
 抜け出したついでに、小雛は裏拳でアスカを引き剥がす。
 アスカが体勢を立て直す前に小雛はロープの反動を利用して走り出す。
 そして得意技のアックスボンバーでアスカを攻撃する。
 だが、まだまだアスカも粘る。
 キックフェイントを織り交ぜて、小雛を手数で翻弄する。
 アスカのハイキックをかわし、肉薄しようとする小雛だったがこれもフェイント。
 アスカはその場で回転し、小雛の鳩尾部分に蹴りを放つ。
 マットに転がる小雛を捕まえ、アスカはうつ伏せにさせる。
「逆えび固めですね、これはまた胸が強調される技で決めにきましたね」
「そうですね」
 アーデルハイドの意見を軽く受け流す。
 リング上の決戦は中央で技を掛けられていた為、小雛が脱出するのはほぼ不可能に近かった。
 そうして、葵は無駄にポストの上に登り、手を交差する。
 ゴングの鳴り、会場中が沸き上がる。
「今宵、聖夜に現れた最強のサンタ‥‥その名も!!!」
 その名もっ、と会場中から声が上がる
「ンマスクドォォォォォ‥‥シルバァァァァァァァァ!!!!!」
 リング上では小雛に肩を貸しながら、拳を突き上げる蝶マスクのアスカの姿が在った。



 フーノは満足だった。
 ロマンティックな雰囲気になれなかったのは残念だけれども。
 彼女、雪乃が楽しんでくれた様で本当に良かった。
 選手から配られたプレゼントを持って会場を後にする。
「なぁ、タチバナ」
「ん、どうした?」
 雪乃はフーノの手を引いて、はにかみながら笑う。
「おもしろかったな!」
 その笑顔を見て、満更でもない気分になるフーノだった。