タイトル:【抹消】劫火の花マスター:東雲 ホメル

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/02/17 03:42

●オープニング本文


 人が寄り付かないスラム街の奥。
 古びたアパートの一室。
 革張りの古いソファーに身を沈める。
 失くした左腕、見えない左目。
 どうにかしようとは思わない。
 自分の未熟さが招いた結果だ。
 戒め、の様なものだろうか。
 とにかく、あの二人を消すまでは。
「しかし、今日は客が多いな‥‥」
 下の階に四人。
 屋上に四人。
 此処は二階建ての二階の部屋だ。
 窓とドアから、お邪魔してくるつもりだろうか。
「やれやれ‥‥今日は独りで居たい気分なんだがな‥‥」
 多分、まだ居ると思った方が良いだろう。
 これだから能力者は。
「面倒だな」

 ディゼルが呟くと、窓と玄関のドアが突き破られる。
 それと同時に突入してきた能力者は各々の得物を構える。
 が、その先にはディゼルの姿は無い。
「なっ!? 何処に――」
 窓際に立った能力者はボロアパートの床に磔にされる。
 ディゼルは全力で右拳を思い切り振り抜いただけ。
 一瞬で間合いを詰めて、そうしただけ。
「貴様!」
 叫ぶ能力者達を尻目に窓から外に飛び出す、ディゼル。
 そして、懐から取り出した何かのスイッチを押す。
 爆炎、爆熱、爆音。
 部屋に仕掛けられていた爆弾が炸裂したのだ。
 勿論、突入してきた八人は逃げ遅れ、爆発に巻き込まれる。
 ディゼルを倒す為の、奇襲作戦は失敗した。
「しまった、斧を巻き込んでしまったか‥‥まぁ、いいか‥‥」
 彼女がスイッチをもう一度押すと、スラム街の至る所で爆発が起こる。
 焼け落ちるアパートを後にする彼女は不敵に笑う。

「奇襲は失敗した、見ての通りスラムだが火も放たれた」
 男のオペレーターは淡々と告げる。
「火だけではない、キメラも確認されている」
 咳払いを一つ。
「手段は問わない、迅速な対応を」
 待機していた能力者の面々は頷き、スラム街の入り口に立った。

●参加者一覧

花=シルエイト(ga0053
17歳・♀・PN
レールズ(ga5293
22歳・♂・AA
メビウス イグゼクス(gb3858
20歳・♂・GD
柊 沙雪(gb4452
18歳・♀・PN
杠葉 凛生(gb6638
50歳・♂・JG
結城悠璃(gb6689
20歳・♂・PN

●リプレイ本文

 何かが焼けるニオイ。
 場所が場所だけに何が焼けているか、分かったものじゃない。
「随分と派手に爆破したもんだな‥‥人が寄り付かないスラムなのが、まだ救いか」
 杠葉 凛生(gb6638)は半ば呆れながらも、壁を蹴り壊す。
 木造で、しかも腐っているので、一般人にでも壊せる程度の強度。
 能力者にとっては特に何の苦労も無い。
 しかし、厄介な事が無い訳でもない。
 現状、問題なのは「火事の起こっている範囲」と「敵の存在」。
 凛生にとってもレールズ(ga5293)にとっても憂鬱の種、の様なものだった。
「スラムの火事を鎮火させつつ、擬態キメラの中から本物の強化人間を捕まえろ、だなんて――」
 いつからスーパーマンになったのやら、と溢す。
 正直、6人でカバーするには広過ぎると思われたのだ。
「消火栓も何も有ったものじゃないですからね」
 結城悠璃(gb6689)はゴミ箱を引っ繰り返した様なスラムの光景に苦笑するしかなかった。
 それでも十分に鎮火作業が進んでいたのは火を消すのではなく、火が広がらない様にした為だった。
 建物を壊す、という手段は、この場合特に有効だったという訳だ。
 勿論、現在、スラム街を逃走中の強化人間――
 ディゼルの捜索も怠ってはいなかった。
 警戒も怠ってはいなかった、と表現した方が正しいのだろうか。
 凛生はゴミ山の中や、建物の隙間、屋根の上など隠れられる様な場所に目を光らせる。
 待ち伏せされ、奇襲をかけられたら如何に3人と言えども圧倒的に不利なのだから。
 ましてや強化人間だけではない、キメラもこのスラムに放たれている。
 油断すれば、ただでは済まされないのだ。
 そんな事を考えている内に、レールズは本当にスーパーマンにでもなれたら、などと思ってしまう。
 一般人からすれば、十分過ぎる程にスーパーマンな彼なのだけれども。

 凛生がソレを察知するまで、1分。
 悠璃が無線に向かって叫ぶまで、1分と3秒。

 何件目だろうか。
 数えていなかったので覚えていない。
 とりあえず、沢山。
 月森 花(ga0053)にとって重要なのは生死問わず、という事と同行者の事。
 だろうか。
 出発前に同班のメビウス イグゼクス(gb3858)に投げ掛けた視線は何か含みの有るものだった。
 双眼鏡から目を離し、屋根の上から降りて、一帯の鎮火作業が一通り終わった事を仲間に告げる。
 花から報告を聞いて、小さく息を吐く柊 沙雪(gb4452)。
 彼女だって、周辺の警戒を怠ってはいなかった。
「この機会を逃すつもりはありません‥‥消化も同時にというのが厄介ですが」
 あの女性に関わる事、数度。
 何度もその姿を見てきたが、それでもやはり影キメラの擬態を簡単に見破れるとは思っていない。
 だからこそ、最大限の警戒が必要なのだ。
 余計な事は頭の中から排除し、やるべき事のみに集中する。
 それだけだった。
 と、その後方で最後の目標が崩れる。
 メビウスはその残骸を見つめ、そして花と沙雪の方に向き直る。
「生存者、というか人気が無いな」
 以前よりもずっとぶっきらぼうになった口調で言う。
 何かの切欠で記憶を失ってしまったらしい。
 器質的原因か、心因的原因か。
 どちらにしろ、以前の彼とは殆ど別人。
 間違い無く、メビウスという男なのだが。
「それでは、奥に進んで――」
 刹那、沙雪は咄嗟に自身の二刀小太刀を引き抜く。
 独特な殺気。
 影キメラがそこまで再現できるのかは分からない。
 しかし、沙雪が、メビウスが、花が感じ取ったのは「抹消者」の気配。
 隻腕隻眼の銀髪女のそれだった。
「スラム南部、敵‥‥6体!」
 無線から響く声は、因縁の深い相手を見つけた所為か――
 何処か興奮した様だった。

 1度目は何も出来なかった。
 2度目は完膚なきまでに叩きのめされた。
 3度目はどうだ。
 少年にとって、その邂逅はどんなモノになるのか。
「ディゼル!!」
 悠璃は屋根の上に静かに佇む「6人の」ディゼルを睨む。
 やはり、擬態は視覚では判別出来ない程に完璧だった。
 戦ってみなければ分からない。
 悠璃はフルートを構え、向かって正面のディゼルに攻撃を加える。
 超音波に因り、屋根の一部が吹き飛ぶ。
 それを跳んで回避したディゼルが着地すると、他のディゼルも動き出す。
 尋常では無いスピードでレールズや凛生に迫り、拳や脚を振り上げる。
 レールズは空気の層を貫き、そのまま己に迫る拳を腕ごと貫いた。
 噴出したのは鮮血、ではなく漆黒の闇。
 腕は灰燼に帰し、何も残らない。
 影キメラ。
 以前に比べて若干タフになっているのだろうか。
 一撃では片付かない。
「お前の狙っている男、エーリッヒ・オーウェンと言っただろうか」
 凛生はギリギリで踵落しをかわし、目の前の敵に確り聞こえる様に言う。
 変化無し。
 寧ろ、おかしい位に何も無い。
 言語を殆ど理解しない、キメラという生物にとっては「エーリッヒ」という単語は殆ど意味を為さないのだ。
 勿論、本物であっても器用に表情や感情を消す事は十分可能なのだろう。
 しかし、その単語が単語なだけに、影キメラの可能性高し。
 凛生は一度距離を取ると、シエルクラインの引鉄を引く。
 一瞬にして激しい弾幕が張られ、敵の動きを制限する。
 足の止まった、そのディゼルに悠璃は超音波を当てる。
 すると、全身が震え、破裂する。
 ここでもやはり、撒き散らされたのは漆黒の闇。
 残り4。
 この中に本物は居るのだろうか。
 凛生は代わりにラグエルの引鉄を引く。

「お手並み拝見といこうか」
 メビウスは背中ごしに花に話しかける。
 そんな彼の手には荘厳な青色を放つ、両刃の大剣が握られていた。
 大剣の魅力は一撃必殺的な威力に在る、と一般的には思われている事が多い。
 事実、形状や重量を考えればそれは当然の様な気もする。
 が、メビウスにとってはそうではない。
 全身を使って、踊る様にウラノスを振るう。
 記憶を失っていても、戦闘スタイルが変わらないのは能力者であるからこそ、か。
 回避を続ける敵も、その内限界が来たのか、呆気無く横に真一文字に斬られる。
 霧散する様に消えたのは影キメラの証拠。
「援護します‥‥」
 花がメビウスの後方に迫る2人のディゼルに対し、攻撃を仕掛ける。
 SMGから高速で放たれる弾丸は相手の脚や腹に風穴を開けていく。
 倒れはしないものの、これでハッキリした事が有った。
 流れるべきものが流れない。
 目の前に居るのは、本物ではない。
 だからと言って、手を抜く事はないのだが。
 5人中3人が影だった訳で。
 それでは残り2、の内どちらかが本物か。
「遅過ぎます」
 ゆらりと残像を残す勢いで、沙雪は影キメラの後ろに回る。
 そして、瞬く間に首を刎ねてしまう。
 漆黒の闇が噴き上がり、風に消えていく。
 最後の候補である敵が動き出す。
 が、メビウスと沙雪の斬撃に因って消える。
 結果。
「ハズレ、か‥‥」
 花は残りの二体を丁寧に蜂の巣にした後に溜息を吐く。
 となると、いよいよ――

「‥‥だから勿体無いと言ったじゃないですか」
 レールズは苦笑する。
 槍がピクリとも動かない。
「デートがどうのこうのなんて覚えてないな」
 確りと覚えてるじゃないですか、とレールズは笑う。
 そして――
 槍ごとオンボロな建物の壁に叩き付けられた。
 肺から空気が一気に吐き出され、息が出来なくなる。
 それでも、致命傷でも何でもない。
 未だやれる。
「まったく‥‥」
 首を鳴らしながら、本物の抹消者は呆れる。
 そんな態度だが、放つ殺気は尋常ではない。
 今まで押さえ込んでいたのだろうか。
 それとも単純に殺る気になったのか。
 すると、次の瞬間の事。
 透き通る硝子の様な二つの刀身がディゼルを背後より襲う。
 悠璃の陽炎。
 踏み込みも十分、威力も十分。
 だが、ディゼルにはその刃は届かない。
 彼女は身体を右に高速で回転させて、裏拳を悠璃の顎目掛けて放ったのだ。
 集中していたお陰だろうか、寸での所で悠璃は身体をスウェイさせ拳をかわす。
 急所を的確に狙ってきていた為、掠っても危うい攻撃だった。
 ガン、という大きく乾いた発砲音が響く。
 すると、ディゼルの髪を纏めていた黒い簪が粉々になって地面に落ちる。
 凛生の放った鉛の弾丸がそれを捉えたのだ。
「頭を狙ったんだがな」
 流石に一筋縄でいかないか、と凛生は舌打ちをする。
「この簪、気に入ってるんだがな」
 前回も能力者との戦いの最中に壊れたな。
 などと、思いつつ跳ぶ。
 影キメラも中々のスピードを誇っていたが、明らかに段違い。
 悠璃を振り切り、凛生の目の前まで一歩。
 拳を思い切り握り締め、そして引く。
 ディゼルの首周り、肩や背中の筋肉群の音が聞こえる様だった。
 喰らえば一巻の終わり。
「っ、させない‥‥!」
 いつの間にか距離を詰めた悠璃が小太刀を振るう。
 それと同時にレールズも槍を構え、突貫してくる。
 ディゼルは舌打ちをして、凛生を飛び越し、その背後の建物の屋根に躍り上がる。
 やはり、片手片目というのは大きな枷の様。
「光明、ですね」
 レールズは矛先をディゼルに向ける。
 単体ではなく、複数で。
 それが彼女の枷を最大限に重くする手段だった。

 花はその姿を確認すると、少女が持つには似つかわしくない回転式拳銃を構える。
 弾丸が放たれて、間もない頃にディゼルのコートに風穴が開く。
 避け切られたが、目的はそれではない。
 月を背にメビウスが大剣を振り上げる。
 蒼い斬線を描き、剣は屋根を盛大に割る。
 ディゼルの姿は其処に無い。
 飛び降りて、悠璃達の更に後方。
 着地したディゼルを沙雪が襲う。
 沙雪の一太刀が、ディゼルの左頬を掠め、赤く染める。
 しかし、より大きな痛みを被ったのは沙雪。
 右のミドルキックが沙雪の脇腹を襲ったのだ。
 沙雪は肘を折り畳み、何とか衝撃を和らげたが、飛ばされ、腐った木材の山に突っ込んでしまう。
(「あんな状態で‥‥よくもこれだけ‥‥」)
 沙雪は瓦礫の下から立ち上がる。
「‥‥しかし、見た顔が多いな」
 お前はあの時の、お前も、お前も――
「お前は‥‥あの女を助けに来た奴だったか?」
 あの女と言い、メビウスを指差して舌打ちをする。
「貴様‥‥俺を知ってるのか」
 予想外の返答にディゼルは溜息を吐く。
 記憶を失くしてまで、私の前に立つか。
「知らん顔も混じってるが‥‥とりあえず、あの男と女を消すのに邪魔しに来た奴らばかりか」
 凛生はそんな様子のディゼルを見て、言う。
「強化人間が人に興味を持つか」
 消す側の人間が、消される側の人間に興味を持つ。
 この事が何を意味するか。
「感情を抱いた所に弱さが生じる‥‥思いの強さは劫火となって自身を焼き尽くす」
「試してみるか?」
 刹那、ディゼルは凛生の目の前に迫る。
 地面を踏み抜き、腰を落とし、そして――
 全力で肘を凛生の鳩尾に叩き込む。
 見えた、が反応出来なかった。
「っ!?」
 能力者であった為、回避できたもの。
 死。
 凛生は血を吐きながらも意地を見せる。
 ラグエルの引鉄を引き、ディゼルの胸を狙う。

 それがスタート。

 花はディゼルの動きを冷静に読み、見極めた。
「事情はボクには関係無い‥‥『抹消』‥‥すべき事はそれだけ‥‥」
 銃の反動など物ともせずに、撃つ。
 今度は捉える。
 右肩の肉を衣服ごと削ぎ、確実にダメージを与える。
 もう一発。
 今度は回避されるが、ディゼルの動きは大分制限されてしまう。
 花に向かって直線的に動き、面倒な銃使いを完全に潰す。
 それがディゼルの思考。
 思った瞬間には右脚を踏み出す。
 それが強化人間の反応。
「ウラノス‥‥エクシードドライブ」
『Strike Mode』
 メビウスの声とウラノスの機械的な声。
 花とディゼルの間に割って入り、剣を振り上げる。
「茶番は終わりだ‥‥アロンダイト!」
 メビウスにとって奥義、と呼べる一撃を放つ。
 ディゼルはその一撃に反応は出来たものの、完全ではなかった。
 しかし、血を撒き散らしながらも、ディゼルは倒れない。
 寧ろ、大きく踏み込む。
 そして、ふわりと跳ぶ。
 空中で身体を反転させ、メビウスに肩車の体勢で乗る。
「そうだ、茶番はお終いにする」
 太腿でメビウスの側頭部を挟み込み、全力で身体を捻り、持ち上げる。
 メビウスの視界が上下反転、気付いた時には周りの地面が沈む程に思い切り叩きつけられた後だった。
 嫌な音がした、としか感想は出てこなかった。
 ディゼルは器用に、かつ素早く体勢を整えると再び花を睨み付け、走る。
 小さく跳び、息を吐く。
 鋭い蹴りが花の小さな体を軽々と飛ばす。
 受身を取りながら、転がる花を横目にディゼルは次の標的を探そうと体を反転させる。
 が、レールズの槍の方が早かった――
 幾ら、強いとは言え隙は有る。
 白く美しい槍がディゼルの胸に深々と突き刺さり、貫く。
「‥‥今からでもデートに行きませんか?」
 殺したくはない、がそうも言っていられないのが現状。
 赤い雫が槍を伝い、レールズの手を染める。
 引けない、抜けない。
「こんな格好じゃ‥‥お高いレストランに行けないだろう‥‥?」
 右手で確りと槍を握り、引き抜き、一歩進む。
 早業だった。
 右手が槍を離れ、レールズが後退する間の刹那。
 ディゼルの右拳はレールズの顎と人中を叩く。
 突いて、引く。
 軽く触れただけの様に思われたがレールズはその場に崩れてしまう。
 地面に体が落ちる直前、止めと言わんばかりにディゼルは彼を全力で蹴り上げる。
 少し、意地になってしまった。
 ディゼルはすぐに後悔する。
「望む事をなす為ならば、可能な限り全ての手を尽くす!」
 その隙を衝いて、悠璃はディゼルの背後に立つ。
「それが、僕の意地と覚悟‥‥貫き続けると、誓った『悪』だ!!」
 透明な刃は十字にディゼルの背中を切り裂く。
 鮮血が飛び散り、その刃を染める。
 振り向きざまに回し蹴りを悠璃に叩き込もうとするが、それも遅かった。
 悠璃に代わって、その場所に立っていたのは沙雪。
 脚が完全に届く前に二刀がディゼルの両腿を切り裂く。
「今回は私の勝ちですね‥‥私がここまで固執するなんて‥‥」
 沙雪は振り向く。
 倒れたディゼルを見て、二刀を納める。

「拘束完了しました」
 花は本部に連絡を入れる。
 メビウスを含めた3人が重傷を負ってしまった。
 しかし、目的は達成した。
 結果は出した。
 それが全てだった。


 ディゼル・パラフェルノ――拘束完了――