タイトル:ビキニライダーマスター:東雲 ホメル

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/07/14 23:58

●オープニング本文


 ルキアはビーチパラソルの下でぐったりとしていた。
 暑い、暑い、暑い。
「あっつい‥‥ねぇ?」
 シートの上を歩く、小さな蟹を突いてみる。
 勿論、問いかけた所で何も答えないのだけれども。
「Say something‥‥」
 諦めた様に、黒いビキニ姿で、手首に付けたかぎ針編みのシュシュを弄る。
 この時期にしては、異常とも言える暑さ。
 そんな休暇中、ルキアは友人の鳴 藍蘭とビーチに来ていた。
「あの子は元気過ぎるわね‥‥」
 時折、海の方から「いぇーい」だの「ひゅー」だのと聞こえてくる。
 サーフィンで波に乗って、調子にも乗っている、ノリノリ状態の藍蘭。
 因みに、彼女の水着は今年のトレンド、パステルカラーとブルーを確りと押さえている。
 そんな藍蘭のノリノリでイェーな姿を見て、ルキアは肩を竦める。
 子供じゃないんだから、と。

「――これで五件目ね‥‥」
 微かに聞こえてくる海の家のお兄さんとお姉さんの会話。
 ルキアは何と無しにその会話に聞き耳を立てる。
「お客さんの着替えやら、店の食べ物までやるとはなぁ‥‥」
「商売あがったりよね」

 ルキアは振り向いて、またも何と無しに声を掛けてみる。
 藍蘭が帰ってくるまでの暇潰しのつもりだった。
「Hey! その話、詳しく聞かせて頂戴」
 ルキアの言葉に、お兄さんとお姉さんは少し逡巡する。
 が、溜息を吐きながら話し始める。
「キメラが出るんですよ」
 ルキアは天を仰ぐ。
「だけど、少し変わっていまして‥‥」
 お姉さんが困った様に頬を掻く。
 ルキアは身体を二人の方に向け、少し真面目に聞いてみる事にした。
「海パン姿の超絶イケメンがスカイブルーのバイク型のキメラに乗って現れるんですけども――」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って」
「イケメンが気になりますか?」
「違うわよっ! 如何してバイクがキメラだって分かるのよ?」
 気にならない訳がない。
 ルキア・ジェーン、今年21歳、まだまだフレッシュウーマン。
「いやぁ、何と言うか‥‥どうやら盗んだ客の着替えなんかを燃料にしているみたいで」
 お兄さんの言っている意味が分からない。
 ルキアは口を開けたまま、軽く頷いてみる。
「燃料タンク? みたいな所に、イケメンが衣服や下着を捻じ込んだら、大音量で唸ったんですって」
 お姉さんの言っている事もいまいちピンと来ない。
 ルキアは溜息を一つ。
 そして、隣に立つ人影に気付く。
(えっ、やだやだっ、超イケメンv)
 ドキッとしたのも束の間。
 そのイケメンはルキアの着替えの入った荷物を瞬時に掴むと、大きく跳ぶ。
「っ!?」
 取り合えず、追いかける。
 ビーチの駐車場まで追いかけて行くと、さっきのイケメンがバイクにルキアの服や下着を捻じ込んでいる所だった。
 イケメンは振り向くと妙に爽やかな笑顔を見せて、バイクに跨る。
 唸りを上げるスカイブルーのバイク。
 人差し指と中指を立て、爽やかに挨拶をするとイケメンはそのまま去って行ってしまった。
 呆然と立ち尽くすルキアの背後から。
「あぁ〜、アレが例の奴です」
「見事にやられちゃいましたね、お客さん」
 暫く黙っていたルキアだったが、徐に周りを見渡す。
 そして、屯している若者達に近付いていく。
「これ貸してね。 文句は無しよ」
 一人が持っていたフルフェイスのヘルメットをふんだくる。
 文句を言おうにも、太腿のホルスターに入った銃が無駄な威圧感を放っていた。
 ルキアは大きくもなく、小さくもない胸の谷間からAU−KVのキーを取り出す。
 無言のまま、自身のAU−KVの下に歩く。
 そして、メットを被る。
 藍蘭の事は、放っておいても倒れるまでサーフィンし続けるから大丈夫だろう。
「私の前で懺悔させてあげるわ」
 決め台詞と共に、その指を立てるのを止めなさい。

 こうして、とある海岸線の道路に一つの伝説が生まれる。
 フルフェイスのメットを被った黒ビキニ姿の女ライダー。
 そんな伝説が。
 多分。

●参加者一覧

UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD
紅月・焔(gb1386
27歳・♂・ER
矢神小雪(gb3650
10歳・♀・HD
キヨシ(gb5991
26歳・♂・JG
音無 音夢(gc0637
19歳・♀・PN
巳沢 涼(gc3648
23歳・♂・HD
高梨 未来(gc3837
19歳・♀・GD

●リプレイ本文

 その日のビーチは普段よりも騒がしかった。
 件の迷惑イケメンライダーとそのバイクが現れたから――
 というだけではなく、ガスマスクの不審者が彷徨っていたからである。
 紅月・焔(gb1386)は粛々と警察官の職質を受ける。
 元警察官なのにも関わらず。
「浜辺に出現するガスマスクの妖怪を退治しに来たんだが」
 夜十字・信人(ga8235)はその後ろから近付き、焔のガスマスクに手を掛ける。
「すまんが、コイツを連れて行く」
「おぉ‥‥!? よっちー、待ってくれ‥‥いや、ちょっと、タイム、あの、マジで!」
 ガスマスクを引っ張る信人とガスマスクを押える焔。
 奇妙な光景だった。
 海パン姿にジャケットを羽織った信人は、ふと顔を上げる。
 そして目を逸らす。
「‥‥アイツが全部悪い‥‥必ず追いついてウメテヤル‥‥」
 全力で黒いオーラを出しながら、不穏な事を呟いているのは――
 矢神小雪(gb3650)その人だった。
「小雪‥‥お前その格好は‥‥」
 睨まれているのが分かったので、信人は黙る。
 それもこれも、人騒がせなキメラの所為だろう。
 フリルエプロンに狐の尻尾マジック。
 これで、色々際どいが小雪の身体は巧く隠されていた。
「バグアめ‥‥運が無かったな‥‥」
 恐怖に駆られた信人の手から脱出した焔が呟く。
「俺はロックオンしたターゲットは‥‥逃がさない!!」
 その視線の先には、水辺で戯れる巨乳のお姉さん達が居る。
 未だにキメラをロックオン出来ないでいた。

 キヨシ(gb5991)はデジカメ片手にヤキソバを頬張る。
 そして、一度丁寧にデジカメを置くと、テーブルを叩く。
「人の飯を邪魔するとは許さん!」
 果たして本当に食事の事で怒っているのかは分からない。
 ド派手なアロハシャツを翻し、自身の愛車の下へ向かう。
 キメラが出ていたのでは、デジカメで綺麗なビーチの撮影も出来ない。
 尤もらしい理由を付けて、キヨシは歩く。
 その先の駐車場。
 巳沢 涼(gc3648)はAU−KVの車体を撫でる。
「これがお前との初仕事になるな、頼むぜ? エルフリーデ」
 そして、顔を顰めてルキアのメールを確認する。
 人を困らせるキメラ、と言うかイケメンライダーが妙に腹立つ。
 涼はそうしてバハムートのエンジンを点ける。
「あ、お願いが有るんですけど!」
 涼はその声に振り向く。
 其処には高梨 未来(gc3837)が息を切らせて立っていた。
「乗せてもらいたいんですけど」
「あぁ、良いぜ」
 涼が頷くと、未来は何故かタンクトップと短パンを脱ぎ捨てる。
 夏のビーチではバイクに乗る時、水着にならなければいけないのだ。
 神がそう決めたのだ。
「キメラより先に進行方向に向かいましょう」
 グレーにオレンジのラインの入ったスポーツ系ビキニ姿の未来は涼の後ろに跨る。
 それを確認すると涼はバハムートを唸らせる。
「監視員さんに代わってお仕置きです!」

 UNKNOWN(ga4276)の前を涼と未来が走り去っていく。
 アレは明らかに能力者。
「すると、水着姿でレースしている男女がキメラか?」
『私は違うわよ!!』
 ルキアが電話口で叫んでいる。
 イケメンライダーがUNKNOWNの目の前を駆け抜ける。
 そして、UNKNOWNは跳ぶ。
 黒のもっこりビキニパンツ姿、黒いボルサリーノも忘れずに。
「!? ちょ‥‥Wait! ちょっ‥‥待ってってばぁああああ!!」
「バイクは苦手でね、何処を掴んだらいいのかね?」
 ルキアの後ろに飛び乗ったUNKNOWNだったが、手の回し所が悪かったらしい。
 ルキアは思い切りブレーキターンで回る。
 振り落とされたUNKNOWNの手には――
「え、えぇなぁ‥‥!」
 すぐ後ろに着けていたキヨシ。
 思わず、ジーザリオを停めて無駄な感動を覚えていた。
 暫くして、其処に音無 音夢(gc0637)が現れる。
 顔を真っ赤にして、脹れているルキアに首を傾げながらも声を掛ける。
「ルキアさん? あの、乗せて頂いても宜しいでしょうか?」
「あぁ、音夢さん! 助かったわ! 乗って頂戴!」
 何が助かったのかと、音夢はUNKNOWNの方を向くが、肩を竦められただけだった。
「それじゃ、行くわよ」
 ルキアは――
 何故か、白いビキニにフルフェイスヘルメットを被った音夢を乗せて走り出す。
 これも、夏のビーチの運命なのだ。
「もう少し慎みを持った方が良い」
 UNKNOWNは赤い紅葉模様の頬を擦りながら、キヨシの車に乗り込む。
「せやなぁ‥‥」

 ゆっくりと走っていた小雪と信人の横をすり抜ける様に、イケメンライダーが現れる。
 私の服、とはっきりと怒気の篭った声で小雪は呟く。
 そして、徐々に加速し始める。
「色々な意味で戦い難いが‥‥」
 やるしかないだろう。
 信人は器用に銃を構え、前方の標的に向かって狙いを定める。
 想像以上に難しい仕事ではあるが、当てる事だけならば確かに可能なはずだ。
 イケメンライダーが緩やかなカーブに入った所で、その引き金を引く。
 高速の、更に高速。
 鉛の弾丸は、空気の層を掻き分ける様に直進する。
 が、それは当たる事は無かった。
「Hey!」
 微かに聞こえた、その声に小雪はミラーで後方を確認する。
 そして、見なかった事にしようと思った。
 自分の格好は棚に上げたまま。
「此処で君に会うとはな!」
 信人が斜め後ろすぐにつけた、ルキアと音夢の姿を確認して声を上げる。
 スクール水着を一瞬思い浮かべたが、首を振ってそれを頭から追い出す。
「あら、貴方! お久し振りね!」
 何故か、フルフェイスなのにも関わらず信人はそれがルキアだと分かったらしい。
 勿論、その後ろに座っているのが音夢だという事も。
(もしかして‥‥)
 真横に並び、小雪の格好を見て音夢は思う。
 質問するまでもなく、険しい表情が全てを物語っていた。
 苦笑いしか出てこなかった。
「しかし、衣服が燃料とはエコだとは思わんかね?」
 ジーザリオの助手席で静かに笑うUNKNOWN。
 帽子のズレを直し、銃の具合を確かめる。
 焦らない。
 ダンディズムの基本である。
「‥‥しかも‥‥ゼェ‥‥女性の服限定なんて‥‥フゥ‥‥分かってるな‥‥」
 後部座席で息を切らしながらダンディズムを実践しようとする焔。
 途中、キヨシ達に拾われた様だった。
 心の中に秘めた高性能バイクと言う名のダッシュでキメラを追っていた焔は――
 煩悩が尽きる前に、現実と言う名の壁にぶち当たってしまったらしい。
「しかし、えぇのぉ‥‥滅多に無い光景やで、これ」
 キヨシは運転しながら、前方の光景を眺める。
 シュール、なのだがビキニやフリルエプロンなので万事OKだった。
 写真に一枚で良いので収めたい所だったが、流石にキメラを追っている最中。
 中々、そうもできなかった。
「‥‥ちゅー事は‥‥キメラ片付けんと写真の一枚も撮れへんのか」
 邪魔さ加減に段々と腹が立ってきた。
 そうして、キヨシはアクセルを更に踏み込んだ。

「――という訳で、そのまま追い込んできて下さいっ」
 赤く染まり、伸びた髪を掻き上げながら未来は無線で仲間に連絡を取る。
 そして、自分の仕事に満足そうに頷く。
「コレ、引っ掛かるかね?」
 涼は首を傾げて、落とし穴を指差す。
「大丈夫ですよ! 二段‥‥いえ、三段構えですからね!」
 アスファルトを砕いて掘られた、深くはないが落ちれば確実に止まる落とし穴。
 ソレを道路の中央に一つ、その両サイドに一つずつ掘ったのだ。
 頬に付いた土を拭い、未来はニッコリと笑う。
「まぁ、大丈夫か。 お、来たみたいだな」
 前方から走って来る四つの影。
 涼は落とし穴の向こう側に居る未来に、目配せをしてエルを加速させ始める。
 そして、走り始めすぐに、邂逅。
 金髪碧眼のイケメンの美しく整った顔、ではなくバイクキメラ目掛けて弾丸を撃ち出す。
 しかし、バイクキメラは大きく左にスライドして、涼の攻撃をかわす。
 涼は舌打ちしながら、片手で銃を回転させる。
 そして、銃から吐き出された薬莢が地面に落ちると同時にUターンする。
「まぁ、私に任せたまえ」
 助手席に箱乗りしたUNKNOWNが紫色の銃身を真っ直ぐに標的に向ける。
 速度を落としたAU−KV組を抜かし、キヨシの車が前に出る。
 そして、未来が掘った落とし穴のあるポイントの手前。
 其処にイケメンライダーが差し掛かった刹那――
 晴天の空に雷鳴が鳴り響く。
 弾丸が、バイクキメラの車体を掠る。
 それに慌てたのか、イケメンライダーはハンドルを切って、右の落とし穴に見事に嵌る。
「ぃよっしっ!」
 落とし穴の向こう側に居た、未来はガッツポーズを取る――
 が、バイクの姿形をしていても中身はキメラ。
 落とし穴の何処かにタイヤが接触した瞬間、大きく跳んだのだ。
 そして、口を開けて唖然としている未来の後方に着地する。
「NO!」
 ブレーキをかけながら、叫ぶルキア。
 このまま逃げ切られるかと思われた。
 しかし、イケメンはそうしない。
 出来ないと言った方が正しいだろう。
「燃料切れ?」
 信人を降ろしながら、小雪は首を傾げる。
「け‥‥計算通り!」
 果てしなくダウトの香りしかしない、未来の勝利宣言。
 そんな事を気にしつつも涼は、その身にエルを纏う。
「行くか」
 続々と落とし穴を越え、イケメンを取り囲む面々。
 念の為に、周りを囲んでいた方が逃げられる事はないだろう。
 爽やかに微笑むイケメン。
「好青年じゃないか」
 UNKNOWNは少し感心しながら、様子を窺う。
 確かに、見てくれだけは好感を持てる。
 しかし、やっている事はどうだろうか。
「‥‥残念だ‥‥同じ傭兵なら友と呼べたかもしれん‥‥」
 焔は本当に残念そうに溜息を吐きつつ、未来の方を見ている。
 スポーティーなのも中々良いじゃないか。
 焔がそんな余所見をしている時だった。
 イケメンは自身の羽織っているシャツをバイクの燃料タンクに――
 キメラの口に捻じ込む。
 そして、芸能人も真っ青の白い歯を見せて笑う。
 刹那、地獄の業火を纏った剣がイケメンを襲う。
 怒りと憎しみに身を落とした小雪である。
 イケメンは、その斬線をギリギリでかわし、後方へ跳ぶ。
 そして、落下しながら身体を反転させ、未来に踵を落とす。
 鈍い音が響き、イケメンは弾き飛ばされる様に中央に戻る。
「人間さん‥‥じゃないですね?」
 大分、真面目な一撃だった。
「ふっ‥‥突撃よ! 二号!!」
「に、二号‥‥!?」
 一号ことルキアは、二号こと音夢を援護するべく銃を構える。
 取り合えず、それに従い音夢は走り出す。
「おぉ、やっぱえぇなぁ‥‥邪魔すんなぁ!」
 音夢の頭を軽々飛び越えて、視界を遮る様に誰も乗っていないバイクが走って来る。
 キヨシは舌打ちをしつつ、引き金を高速で引く。
 バイクのタイヤに一つ、二つ、更に三つ目の弾丸が突き刺さる。
 キヨシだけではなく、UNKNOWNとルキアもそのタイヤを狙っていたのだ。
「そっち! 行きましたよ!」
 未来が叫ぶ。
 小雪に向かって走る影。
 イケメンが拳を握り、肉薄してきたのだった。
 しかし、それも其処まで。
 衝撃波がその身体を軽々と吹き飛ばしてしまったのだ。
「俺は兎も角、小雪の肌には傷付けられんからな」
(後が怖いしね)
 一応、小振りの剣を払い、鼻で笑って格好を付ける信人だった。
 後ろの小雪の方は振り向けなかったのだが。
「ま、そろそろお終いにしようか」
 転がってきたイケメンの頭を掴み、ニヤリと笑う涼。
 その一撃は、FFを貫き、またもイケメンを吹き飛ばす。
 イケメンが起き上がろうと、顔を上げると――
 未来の鉄扇が顔面にクリーンヒットする。
 更に焔の視線がルキアの胸元に突き刺さる。
 イケメンが額から血を流しつつも立ち上がる。
 が、その背後には小雪の姿が在った。
 ゴスン、と嫌な音が鳴り響く。
 涼は思わず「おぉっ」と息を呑んだ。

 代わって、盛大な銃声が響く。
 キヨシが愛車から持ち出したガトリング砲。
 それがバイクの車体に無数の穴を開けていく。
 バイクは何とか間隙を縫い、落とし穴を飛び越える。
 それに、UNKNOWNは反応して引き金を引く。
 轟音と共に、バイクが転倒、地面を滑る。
「これでっ‥‥!」
 距離を詰めた音夢が軽く跳び上がる。
 そして、白く輝く刃が赤く染まり、バイクの車体を貫いた。
「Great! 流石、二号ね」
 ルキアは親指を立て、元気良く笑う。

 こうして、夏のビーチを騒がせた迷惑キメラは退治されたのであった。

 と、思われたのだが――
「何見てるんですか?」
 砂浜に戻って来て暫くした後。
 未来が男二人の背中に声を掛ける。
「え!? いや、なぁ、ちょっとええもんをなぁ‥‥」
「‥‥エエモンアルヨ‥‥」
「へぇ、良く撮れてるじゃない」
「せやろ」
「‥‥」
 キヨシは笑顔のまま固まった。
 ルキアのこめかみに浮かんだ青筋が見えたからだ。
 それでも笑顔のままのルキアは指を鳴らす。
「か、かか、堪忍してーや‥‥なぁ!?」
 キヨシは焔の方を振り向くが――
 既に手遅れだった。
 ガスマスクを信人に引っぺがされて、ぐったりとしていた。
「まったく‥‥あらやだ‥‥イケメン‥‥」
 ルキアが焔の素顔をマジマジと眺めている間。
 キヨシは砂浜を全力疾走する。
 デジカメを握り締めながら。
「あ、よっちー‥‥ちょっと来て」
 そんなキヨシの後ろ姿を眺めていると、信人は小雪に声を掛けられる。
 そして悟る。
「えぇ、覚悟は出来ております」
 答えになっていない、答えを小雪に返すと、ルキアに貸す為のメイド服を持ってきた音夢を一瞥する。
「?」
 首を傾げる音夢を他所に、小雪は信人を引き摺って行ってしまった。
 後に、海パン一丁で横たわっている信人が発見されたのは言うまでもない。
「なんつーか、元気だなぁ‥‥」
 夕暮れの海の中。
 涼は騒がしい砂浜の方を見て呟く。
「まぁ、若さと言うものだよ。 君もそうだろう?」
 ウィンドサーフィン用のヨットの上で落ち着いた声でUNKNOWNは言う。
 そんなもんですかね、と涼は答えて砂浜に向かって泳ぎだした。



 とある一日が終わる。
 ビキニライダー1号、2号。
 フリルエプロンライダー。
 ガスマスク男。
 サーフィンをし続ける中国人らしき女。
 様々な都市伝説を残して。