●オープニング本文

　競合。
　競い合う事、競り合う事。
　調べるまでも無い言葉を、調べる。
　改めて、その意味を確認し、この作戦への意識を更に高める為だ。
　ＵＰＣ欧州軍少将、ウルシ・サンズ。
　嘗て、数々の戦役を経て少将と言う立場へと登り詰めた女傑である。
　大なり小なり成果を上げて死地より帰還する様子を、名前に因み軍人達は口々にこう言った。
　渡らず、と。
　勿論、その為も幾つもの代償は払った。
　彼女は辞書を閉じ、遠くに見える建造物の群れを、その隻眼で睨む。
　チュニジアの国境近くに在る都市、タパルカ。
　其処より、アルジェリアの首都アルジェへ向けて直線距離で約８０ｋｍ。
　アンナーバ。
　ウルシの率いる部隊は、その付近にまで進行していた。
「アンナーバ上空での交戦、確認しました」
　轟音が木霊する中、側近の兵士はウルシに戦況を伝える。
　その言葉に、軽く頷きながらもウルシは海岸線に目を向ける。
「海の方からはどうだ？」
「時間の問題かと」
　そうか、と一言だけ溢しウルシは少し考え込む。
　兵士はその様子を窺っていた。
　次の言葉を待っていたのだ。
「打って出るぞ」
　投げ掛けた一言には、確かな重みが在った。
「て、偵察部隊の情報に有ったＥＱ（アースクエイク）の事は如何致しますか？」
「あぁ？」
　軍用のコートのポケットに手を突っ込んだまま、ウルシは振り返り答える。
　アンナーバに存在するバグア軍の勢力。
　その殆どが、空と海に主軸を置いたものだという情報。
　陸戦に置いての巨大兵器は複数のＥＱのみ。
　地上部隊の指揮官が出てくる可能性も十分に在る。
　兵士はそれを恐れたのだ。
「テメェは、時代遅れの兵器に命を賭ける必要が有ると思うか？」
　その眼光に、兵士は辟易する。
　彼は一歩下がりつつ、声を搾り出す様にして答える。
「い、いえ‥‥しかし、今現状、此処に残っているのは少将の護衛の為のＫＶが数機‥‥残りは歩兵‥‥」
　欧州軍に与えられた戦力は、大規模な作戦からすれば僅かなものだった。
　だが、やらねばなるまい。
　ウルシはつかつかと歩み寄り、その兵士の胸座を鷲掴む。
「進む、進歩、進化って言葉を知ってるか？　新しい兵器や力を戦場に投入してんのはバグアだけじゃねぇだろ」
　兵士の顔に緊張が刻み込まれる。
　伝う汗を知ってか知らずか、ウルシは兵士を軽く突き飛ばす。
「人間にデカイだけの蚯蚓如きが勝てるわけ無ぇだろう」
　軽く鼻で笑うと、兵士を走らせる為に怒声を上げる。
「とっとと傭兵共に号令掛けやがれ！　奴等が空と海で遊んでる間に陸からも攻めるぞ！」

　此処は競合地域とされる場所。
　人類とバグアが鎬を削る場所。
「面白ぇじゃねーかよ‥‥逃げの一手なんて無ぇ、邪魔する奴は蹴散らすだけだ」
　ウルシは、傭兵達は何としてもバグアに競り勝たねばならないのだ。

●参加者一覧

/ 榊　兵衛（ga0388） / 鳴神　伊織（ga0421） / 御山・アキラ（ga0532） / クラリッサ・メディスン（ga0853） / ロジー・ビィ（ga1031） / 藤村　瑠亥（ga3862） / ＵＮＫＮＯＷＮ（ga4276） / クラーク・エアハルト（ga4961） / アルヴァイム（ga5051） / アンジェリナ・ルヴァン（ga6940） / 砕牙　九郎（ga7366） / 植松・カルマ（ga8288） / 鈍名　レイジ（ga8428） / ユーリ・ヴェルトライゼン（ga8751） / 絶斗（ga9337） / 大神　直人（gb1865） / 霧島　和哉（gb1893） / リヴァル・クロウ（gb2337） / 蒼河　拓人（gb2873） / アレックス（gb3735） / 桂木穣治（gb5595） / 月城　紗夜（gb6417） / 加賀・忍（gb7519） / 相澤　真夜（gb8203） / 真上銀斗（gb8516） / ゼンラー（gb8572） / 黒瀬　レオ（gb9668） / ソウマ（gc0505） / ジャック・ジェリア（gc0672） / 吹雪　蒼牙（gc0781） / 御鑑　藍（gc1485） / ラナ・ヴェクサー（gc1748） / 和泉譜琶（gc1967） / ネオ・グランデ（gc2626） / 和泉　恭也（gc3978） / ミリハナク（gc4008） / イレイズ・バークライド（gc4038） / ヘイル（gc4085） / カグヤ（gc4333） / 龍乃　陽一（gc4336） / 那月　ケイ（gc4469） / リック・オルコット（gc4548） / リズレット・Ｂ・九道（gc4816） / フェンリス・ウールヴ（gc4838） / 神羽 魅雪（gc5041） / 直屋　明人（gc5183）

●リプレイ本文

　そもそもアフリカはバグアの襲来に因り、ものの三日程で落ちた。
　あの大きな大陸自体が、だ。
　その時に、一度人類の手を離れてしまっているのだ。
　ウルシ率いる傭兵達がアンナーバ付近へと進攻してきた道程は、まるで未開の地を進んでいる様だった。
　それは今も同じ事である。
　第一進攻目標の空港。
　其処に向かう傭兵達は緊張感に包まれていた。
　直屋　明人（gc5183）は眼前に広がる平原の上を走りながらぽつりと呟く。
「‥‥何か、マズい所に志願したかなぁ」
　既に空港は目視出来る位置に在る。
　勿論、その進攻を阻止すべく、此方に向かって来ているモノの姿も。
　和泉　恭也（gc3978）は押し寄せるキメラの黒い波をゆっくりと左から右へと眺める。
「うーん、こんなに多くのキメラを見たのは久し振りですねー」
　前の大規模作戦で見た様な規模。
　微笑みながら唸った恭也には、そう見えていた。
　陸戦だけではなく、空戦、海戦の規模を考えれば確かにそうなのかもしれない。
　リヴァル・クロウ（gb2337）は仲間達と行動を共にしながら、そんな今の状況を考える。
　機材も無ければ、人手も足りていない。
　一傭兵としては「場当たり的な作戦指揮を執られた」と感じてもおかしくはない。
　今後、こういう事が危険に繋がるのであれば如何なものなのかと。
　同じ様な疑問を、側近の兵士がウルシに投げ掛けてみた。
「アンナーバの位置を考えてみろ。テメェがチュニジアに攻めるならどうする？」
　チュニジアとの国境から直線距離で約８０ｋｍ。
　国境よりも少し、内に入った位置に存在している。
　此処から戦力をチュニジアまで送るには。
　陸、ではなく、空と海から送り込む方が効率の良い方法だろう。
　更には、地中海を挟んで人類側との睨み合いも有る。
　今現在、アンナーバに限って必要なのは空と海の戦力。
　陸の戦力は国境近くの拠点を強化する事が先決なのだ。
　その為、陸戦兵器は前回の大規模作戦の消耗から、後回しにされ殆ど回復していなかったのだ。
　そんな中、傭兵達が其処まで敵の目を掻い潜って来られた理由。
　一つは、歩兵での移動というものが有った。
　国境付近でも僅かに優位に立っている部分から、静かに進攻をし始めたのだった。
　先行部隊兼偵察部隊からの情報を使い、やっと今の位置に辿り着いたのだ。
「機材を呑気に運ばせてくれる程、相手も甘くねぇが、付入る隙は有った訳だからな」
　ウルシは遠くに見える街の影を見つめながら、呟く。
　作戦決行前に、機材の提供を申し入れてきたミリハナク（gc4008）を思い出す。
　殆ど持って行きやがって、とだけ溢し苦笑する。
「前回の大規模作戦の影響も有るんだろうが、好機じゃねぇか」
　無線に手を掛けて、その笑みが段々と攻撃性を増していく。
　リヴァルや側近の兵士の考えは尤もだ。
　そういう冷静な奴が居てくれて助かる、とウルシは思う。
　だがしかし、それでも彼女は賽を振った。
「リスクは背負いこまねぇと地図は白くならねぇって事だよ」

　歩兵が先行している中、後方でジャック・ジェリア（gc0672）は軍用トラックのエンジンキーを捻る。
「さぁ、デビューライブいってみよーか！　振り落とされるなよ！」
　窓から顔を出し、荷台に声を掛けてアクセルを踏む。
　何も無いとは言え、路面は舗装されていない。
　荷台の振動は、中々に辛いものがあった。
「初セッションと行こうか」
　それでも、ＵＮＫＮＯＷＮ（ga4276）は普段と何ら変わり無い様子で流れる景色を眺める。
　砕牙　九郎（ga7366）と月城　紗夜（gb6417）も其々の手に楽器を模った得物を携えている。
「しっかし、ベースの演奏も久し振りだねぇ！」
　那月　ケイ（gc4469）はバトルベースのネックを握り締め、何処と無く楽しげだった。
　そんな声を聞きながら、龍乃　陽一（gc4336）は溜息混じりに苦笑する。
「ケイは変なフラグばかり立てるので心配なんですよね〜‥‥」
　本当は自身も荷台に乗りたい所だが――
「負傷者の回収も有るからねぃ」
　無線機からゼンラー（gb8572）の声が響く。
　ジャック達と並走する様に走る、もう一台の軍用トラック。
　ＫＶ用スピーカーを取り付けてあり、戦場にはあまり相応しくない様相を呈していた。
　アースクエイクの特性を利用しての作戦。
　死亡、若しくはそれに準ずる被害を最小限に抑える作戦だ。
「歩兵部隊最前線、キメラとの交戦を確認！　空港まで約２ｋｍの地点！」
　ゼンラーの声が途切れると同時にヘイルの声が大きく響く。
　既に動き出していた作戦だったが、遂に陸上での戦いが始まったのだった。


――跋扈する小さな脅威――


　狼や虎などの四足歩行の獣型キメラが、最前列として傭兵達とぶつかった。
　加賀・忍（gb7519）は己の刀を振るって、飛び掛ってきた狼を縦に両断する。
　キメラの中でも脆く、更に遅い部類。
　油断さえしなければ負ける相手ではないのだが――
　乾いた銃声が轟き、忍の背後に迫っていた虎が崩れる。
「助かった」
「これも報酬の為さね」
　リック・オルコット（gc4548）はそれだけ言うと、また違う標的に狙いを定め、引き金を引く。
　腕に流した練力が、ＡＵ−ＫＶの装甲をスパークさせる。
　それだけで、十分キメラに対応出来ているのだが――
　数が多い。
　弱いのだが、傭兵の数に対してやたらと数が多いのだ。
　数で押し潰そうとしているのか、どうなのか。
　それでも、傭兵達は押し返される程に甘くはなかった。
「数だけ揃えれば、守り切れるという事ではないんですよ‥‥！」
　虎の爪がラナ・ヴェクサー（gc1748）の身体に届く前に、彼女の爪が虎を仕留める。
　電流が走り、身体を跳ねさせた後に虎は動かなくなってしまった。
　そして、次の、次の、次の敵へと。
「車を中心にして戦えば、有る程度やり易いはずだ」
　大神　直人（gb1865）は自身の乗ってきた車両を中心にして戦う様に仲間に声を掛ける。
　そして、橙色の弓の弦を静かに引く。
　風を切る音と、爆音。
　放った弾頭矢は、狙ったキメラを中心にして爆ぜ、キメラの群れを散らす。
　そして、その開いた空間にいの一番でネオ・グランデ（gc2626）が走り込む。
　覚醒に因り白く染まった髪とは対照的な漆黒の爪が、飛び掛ってきた狼の喉元を貫く。
　未だ生きてはいるが、狼を投げ捨てネオは進む。
　後ろは和泉譜琶（gc1967）に任せてある。
　弱った狼の眉間に光を纏った矢が刺さると、譜琶が声を上げる。
「あっ！　今のは綺麗に決まりましたね〜」
　それだけの事だが、彼女のやる気は段々と上がってきている様だった。
　戦場に置いて、戦意の維持は難しい事の一つだが、こうやって維持出来るのは大変幸運な事だった。
　譜琶は、先に行くネオの後ろをついて行く。
　それに続きながら、忍達も適度な間隔で広がりながら進む。
　殆ど目の前に空港が在る。
　進行速度は然程早くはないが、傭兵達は着実にその歩みを進めていた。
　その前線から少し後方でもその事は確認できていた。
　吹雪　蒼牙（gc0781）は双眼鏡から目を離さずに、無線機に手を掛ける。
「第二波確認。フェン〜、情報整理頼むよ」
　蒼牙は車のルーフの上から前方の状況、視認出来る範囲を全て確認する。
　手持ちの双眼鏡では、細部まで分からないが今度は人型のキメラらしい。
　車内ではフェンリス・ウールヴ（gc4838）が蒼牙からの連絡に短く応える。
「‥‥了解」
　敵の向かってくる方向、手薄な所、その逆に突破するのが面倒そうな所など。
　他にも空からのキメラは居ないのか、どうか。
　そう言った情報を蒼牙はフェンリスに流す。
　それを、フェンリスは素早く纏め上げてヘイル（gc4085）に渡す。
　直接的に効果が有るものではないが、この手の情報の力は行動の指針になる。
　傭兵達の動きが鈍らずに、キメラの群れに突っ込んでいけるのは大きなプラスだった。

「進攻方向、右翼！　キメラが集まって来てるぞ！」
　そんなヘイルの通信を受けて、蒼河　拓人（gb2873）と絶斗（ga9337）は自身の単車を走らせる。
　やはり、舗装されていない為か車体がぶれる。
　拓人は後ろに乗せた相澤　真夜（gb8203）に呼び掛ける。
「しっかり掴まってろ」
　虹色の瞳が視界の左端にキメラの群れを捉えながら、進む。
　軋みを上げさせながら、真夜が弓を引き続ける。
　勿論、悪路を走行しながらの射撃では確実に当てる事は出来ない。
　しかし、一瞬だけでも勢いを止める事が出来る。
　勢いの緩んだ所に他の傭兵達が雪崩れ込んで来る。
「給料貰ってこないと、嫁さんに怒られるんでね」
　台詞の割には悪びれた様子も無く、クラーク・エアハルト（ga4961）は銃の引き金を引く。
　底無し穴の霊を意味する、冥界の番犬は強力な鉛弾を吐き出す。
　同属の末端に位置する様な狼如きでは太刀打ち出来ずに、吹き飛ばされていく。
　後方からは明人が自身の超機械に拠る攻撃でクラークの僅かな死角を潰す様に動いている。
　新人とも呼べる彼も、目の前のキメラを一心に蹴散らしている。
　キメラが集まって来ているとは言えども、まだまだ押し返されたりはされていなかった。
　銀色の髪を靡かせて、真上銀斗（gb8516）はアサルトライフルを掃射する。
　押し返されてはいけないのだ。
　後方から、単車を降りた絶斗が飛び出す。
　狼や虎を掻き分けて現れた、人型のキメラ。
　フードを目深に被った黒いロングコートのシルエット。
　絶斗はその人型の踏み出した軸足にローキックを入れる。
　長めの袖から覗く鈍く光った爪が、絶斗の頬を掠めるが、掠めただけ。
　銀斗の援護射撃を受けながら、絶斗はもう一度その脚にローキックを入れた。


――揺れる感覚と死の射線――


　足の速い能力者が全力で走ったならば、ものの一分もしない内に辿り着ける。
　傭兵達は、第一の目的地である空港に其処まで迫ってきていたのだ。
　リズレット・ベイヤール（gc4816）は一つ一つ、丁寧に銃弾をキメラに撃ち込んでいく。
　過去の依頼の事も有り、此処まで単独的な動きを見せていた彼女だったのだが――
　それでもこうして立っていられるのは仲間の支援のお陰だった。
　リズレットに迫ってくる人型をイレイズ・バークライド（gc4038）が斬り払う。
　更には全身を使って、その得物を振り下ろし衝撃波で敵を薙ぎ倒していく。
　このままなら、空港に到達するのも時間の問題だった。
　直人の矢で動きの止まった敵を、神羽 魅雪（gc5041）は身体を回転させて薙ぎ払う様にして倒す。
　淡黄色の刀身が虎の胴体に突き立てられる。
　絶命した虎、魅雪はその虎を眺めながら動かない。
「どうかした――」
「揺れなかったか？」
　魅雪は、ぽつりと呟く様に直人に聞く。
　後方の情報指揮車両からは、未だＥＱ出現の情報は入ってきていない。
　近くに居た恭也は直人の後ろから飛び掛ってきた狼を楯で弾き、自身も揺れを感じようとする。
　キメラの大群の起す地響きではないのか。
　若しくは、少し離れた所で行われている空戦、海戦で何か大きな攻撃が有ったのではないのか。
　前者は兎も角として、後者に関しては情報が流れてきていない上に、大きな音すらも聞こえない。
　だが、魅雪と同じ様に歩兵部隊の何人かはその異変を感じ取っていた。
　ソウマ（gc0505）は超機械を振るう手を止める。
　偶然にも視界に入ったのは、空港の管制塔。
　僅かだが横に揺れている。
　地面も縦揺れだけではなく、微かに横揺れが混ざっている。
「‥‥ＥＱです！！」
　ソウマは叫ぶと同時に、地面に気を配りながら走り出す。
　止まっていては、地中から一気に飲み込まれてしまうからだ。
　そして、巨大な影を落としながらＥＱはその姿を現した。

　地面を割り、キメラを飲み込みながら地中から地上へ。
「きてるーっ！　きてるよーっ！！」
　真夜は拓人に確りと掴まりながら、後方を確認する。
　捕まらない様に、拓人はスロットルを上げていく。
　一度、後退せねばならない位置。
　其処にＥＱは潜んでいたのだ。
　拓人は単車を上手く滑らせながらも、とある仲間達とすれ違う。
「思えば‥‥こうしてディスプレイを通さずにＥＱを見上げるのは初めてやもしれん」
　アンジェリナ・ルヴァン（ga6940）や藤村　瑠亥（ga3862）は２０ｍ近くは有る、その巨躯を見上げる。
　瑠亥はそれに怯む事なく、向かっていく。
　そして、その二刀を抜き放つ。
　器用にＥＱの強化ブレードをかわし、其処に裂傷を与える。
　これが基点だ。
　振り落とされながらも、瑠亥は不敵に微笑んだ。

　別の場所では、一台の車が飲み込まれ、数台の車が強化ブレードでスクラップにされていた。
　無残、という言葉がぴったりの様子だった。
　しかし、フェンリスの纏めた情報では犠牲者は「誰も居ない」となっていた。
「力は無くても、救いたいという意思で戦う為に色々出来るの」
　カグヤ（gc4333）は言い聞かせる様に呟く。
　急な作戦展開だからと言って、対処を怠っていた訳ではなかったのだ。
　ミリハナクが借りた数台の軍用の車両。
　それに少し細工をして、無人でも低速で走る様にしてあったのだ。
　それがＥＱに対しては、この上の無い囮になったのである。
「強敵と戦い生き残る。　あぁ、なんて楽しい戦場なのかしら‥‥！」
　残しておいた車両の運転をカグヤに任せ、ミリハナクはその上に立つ。
　そして、両手斧を思い切り振り被る。
　衝撃波の当たる轟音と共に、ＥＱの巨躯が揺れる。
「おいおい、無茶するねぇ」
　その光景を見て桂木穣治（gb5595）は苦笑する。
　そして、超機械に練力を流し込みつつ、自身のエミタを活性化させていく。
　無線から流れてくる情報、敵や味方の位置、周囲の地形。
　それらの情報を全て、周囲の人間にエミタを通じて伝達し始める。
　自分だけではなく他者からの情報を得る事で、戦闘における主導権を握る事が容易になるのだ。
　ユーリ・ヴェルトライゼン（ga8751）が地面を蹴り上げてＥＱへ向かって走り出す。
　邪魔なキメラを機械剣で斬り飛ばして、その巨躯の下まで迫る。
　またも、ミリハナクの放った衝撃波で揺れるＥＱ。
　効いているのかどうか、いまいち分からない。
　それでもユーリは全力で、目の前の装甲に機械剣を突き立てる。
　そして、そのまま傾いたＥＱの体を駆け上がる。
　剣身が消えると、同時にユーリはＥＱから飛び離れる。
　その身体には小さな傷が幾つも出来ている。
　ＥＱの装甲表面に設置されている強化ブレードに因るものだった。
　それでも地上に居座り続けるＥＱに向かって鳴神　伊織（ga0421）は、攻撃を続ける。
　好機は潜る瞬間。
　伊織は自身の刀をいつでも抜ける様に、ＥＱの動向を窺っていた。

　霧島　和哉（gb1893）は、その音を確かに聞き取った。
　何かが砕ける音。
　前方の地面の下の方から、それは聞こえた。
「ＥＱ！　来るよ！」
　加えて、黒瀬　レオ（gb9668）の声が無線から響き渡る。
　和哉は咄嗟に自身のＡＵ−ＫＶを横に倒しながら、スピードを殺す。
　その直後、和哉の目の前の地面が一気に沈み込む。
「リミッター解除‥‥オーバーイグニッション！　全弾持ってけぇぇぇ！！」
　アレックス（gb3735）はその銃口を、地面を飲み込む様にして現れたＥＱの頭に向ける。
　それに合わせる様に、リヴァルがＥＱの装甲に練成弱体を掛ける。
　轟音と共に、リヴァルのスキルに因り脆くなった装甲や牙が剥がれ落ちる。
　苦しんでいるのか、体を倒しながらアレックスに迫ってくる。
「どうか当たります様に！」
　レオは和哉と共に、アレックスに迫るＥＱに鉛弾を放つ。
　しかし、それだけでＥＱ程の重量の物が弾かれる訳でもなく――
　砂煙が上がり、ＥＱは再び地中に潜ってしまった。
「よぉ‥‥助かったぜ」
「此処で競り負ける訳には‥‥いかないですし」
　捲れ上がった地面を背に、御鑑　藍（gc1485）は自身の傷の具合を確かめる。
　迅雷と言うスキルは、瞬速の世界で動く事は出来るが消える訳でもない。
　離脱する際にアレックス共々、幾つか怪我を負ってしまっていた。

　落ちてきた岩に身を隠しながら、ＥＱ周りのキメラの位置を確認するアルヴァイム（ga5051）。
　同行している、瑠亥やアンジェリナがＥＱに集中出来る様に雑魚を蹴散らしたい所だが――
「数だけは多いな」
　自身の銃撃で崩れたキメラを眺めながら、移動を開始する。
　無線から聞こえる情報では、減ってはきているらしいが、あまり実感は無い。
　空港が目の前に在るというのに、歯痒いものを感じずにいられなかった。
　そんなアルヴァイムのすぐ横を通り過ぎるトラックが二台。
「いざ‥‥！　拙僧達の教を‥‥聞けぇぇええええぇぇえ！！」
　カリスマ坊カリスト、ゼンラーの登場だ。
　既に姿を現して、瑠亥とアンジェリナを相手に戦っているＥＱの横を素通りして、空港へと一直線に進む。
　バイオリンに、ベースが二つ、ギター、最後はブブゼラと御経。
　緊迫した状況の中、少しばかり浮いている様な印象だ。
　だが――
　案外、兵器と言うものは融通が利かないものらしい。
「ジャック、少し右に行ってくれ」
　ＵＮＫＮＯＷＮの言葉にジャックはハンドルを切る。
　地面から豪快に現れた四体目のＥＱは強化ブレードを大きく展開させながら、トラックに突っ込んでくる。
　九郎は徐にベースを置いて、黒く光る銃を抜く。
「ちょっと静かにしてもらえねぇかな！」
　数発の弾丸が強化ブレードを圧し折るが、勢いは未だ死なない。
　ＥＱの追跡を振り切るべくジャックはハンドルを切り返す。
　その揺れに動じる事無く、ＵＮＫＮＯＷＮは超機械の弦を絶えず鳴らす。
　歴戦の傭兵の放つ、強力な攻撃はＥＱの装甲を内部から次々と破壊していくが――
「感覚だけは鈍重だな」
　紗夜は呆れ混じりに、手にした物を全力で投げる。
　弾頭矢とライターを包帯で包んだ物だ。
「理科の実験だ、頑張れリアクション」
　ソレは確かにＥＱの口の中に吸い込まれる。
　しかし、やはり反応は無い。
　どうやら、ＫＶをも飲み込む体内にもＦＦが存在している様で、爆弾では何ともならない様子だった。
　つまらん奴だ、と言わんばかりに紗夜は舌打ちをしてギター型の超機械を操る。
「全裸色即　絹肌是空　脱衣色即　諸出是色――」
　煩悩を消し去りたいのか、出したいのか不明な経典を読み上げるゼンラー。
　先程一体のＥＱが地中に沈んだ情報を得た。
　囮は続けなければならない。
　視界を遮らない様に上手く固定された、マイク型の超機械。
　キメラの群れを掻き分けながら、ＥＱの追跡から逃れる。
　そんなゼンラー達を横目に、ネオと譜琶は空港に向かって突き進む。
　後方からは、忍達もついて来ている。
「前線が、空港に到達しそう――ん？」
　群がっていたキメラを一掃した後、車両上から戦況の確認を行っていた蒼牙の声が途切れる。
　車内に戻ろうとする、ヘイルとフェンリスは顔を見合わせる。
　未だ、陽は落ちていない。
　だが、はっきりとその輝きを確認する事が出来た。
　淡い紅色の光が集束する様子を。

「野郎共、前から来るぞ！！　回避行動ぉ！！！」

　ウルシの怒声が無線を通じて、戦場に響き渡る。
　数秒後、戦場のど真ん中をプロトン砲の光が切り裂いた。


――夕陽に落つ――


「おいおい‥‥冗談じゃねぇよ」
　鈍名　レイジ（ga8428）はサイドミラーで後方を確認しながら、アクセルを踏み込む。
　キメラの所為で中々前に進む事が出来なかった。
　漸く、ロジー・ビィ（ga1031）と榊　兵衛（ga0388）の運転する車両と共に前進を開始した頃だった。
　現れたゴーレムは戦場の中心にクレーターを作ったのだ。
「マジパネェって！　でも、俺のイケメンパワーを披露する良い機会っつー事で」
　窓から身を乗り出しながら、進行方向に群がっているキメラを銃で排除する植松・カルマ（ga8288）。
　あの砲撃に飲まれたら、最後。
　上がる噴煙の高さは、その事を表していた。
「来ますわよ！」
　ロジーが声を上げる。
　その視線の先には、一体の蒼い機影。
　バグア軍の使用する陸戦用人型戦術兵器、ゴーレム。
　どうやら、空港で待機していたらしい。
　御山・アキラ（ga0532）はＳＭＧの銃口を上げて、その姿を確認する。
「さて、早期に潰す事が出来れば良いのだが」
　ウルシから与えられた情報では、アレには敵軍の指揮官が乗っている可能性が有るという。
　早めに潰す事が出来たのなら、空港の制圧、この後の進軍が一気にやり易くなるだろう。
　アキラはＳＭＧを再び構えると、進路上の雑魚に照準を合わせる。
「この間の訓練がこんなに早く役に立つなんて‥‥」
　バグアとの戦いは油断ならない、と言った所だろうとクラリッサ・メディスン（ga0853）は思う。
「‥‥少々荒っぽい運転になるが、確り掴まっていろよ」
　兵衛の言葉にクラリッサは静かに頷く。
　兵衛の車両がゴーレムに向かう。
　それと同時に、レイジとロジーもハンドルを切り、追走していく。

「被害状況は？」
「怪我を負った者は居る様ですが、直撃、重傷者は居ない様です」
　ヘイルはウルシに報告しながら、その指示を待つ。
　開戦してから、大分時間が経った。
「ゴーレムの対応に向かった奴らから、連絡はきてんのか？」
「間も無く、との事です」
　そうか、と一つだけウルシが言葉を返す。
　少しだけ考え、ゴーレムの影を肉眼で確認する。
「空港の制圧に入れ、モタモタしてられねぇぞ？」

「一刀『竜』断　兜落とし！」
　絶斗は人型キメラの首を全力で刎ねる。
　動かなくなったキメラを踏み越え、空港の敷地内に入る。
　直人は車両から降りて周囲を見渡しながら、無線を手に取る。
「空港に進入成功した。これより空港内施設の制圧に入る」
　そう言って、目の前の鎖されたシャッターに向けて弾頭矢を放つ。
　爆炎と共に、開いた穴の奥。
「さ、行こうぜ」
　魅雪は先行して、その穴を潜る。
　どうやら、ハンガーらしい其処には何匹ものキメラが蔓延っていた。
　続いて、忍とリックがその中に入ってくる。
「自分達はホールの制圧に向かいます」
　恭也はドアを蹴破って、奥の通路に侵入していく。
「‥‥此処は、お任せしますね‥‥」
　リズレットは軽くお辞儀をして、恭也の後ろについていく。
　更に、ラナとイレイズも「頼む」とだけ残して違うドアから内部に侵入していく。
　頷いた直人は、三人に目配せをする。
　此処が正念場だった。
　外で、ネオと譜琶、絶斗がキメラを押さえ込んでいる内に中を掃除しておかなければ。
「もう一踏ん張り、と言った所ですね」
　明人は自身を鼓舞する様に言い放った。

　間一髪、という所だった。
　ミリハナクや伊織、ユーリ、穣治、援護に来てくれたクラークの猛攻がＥＱを追い詰める。
　その勢いで、落ちた強化ブレードがカグヤの運転する車のボンネットに突き刺さったのだ。
　爆発する前に脱出出来たのは、幸いだった。
　車の事は尻目に、ミリハナクはＥＱを見上げる。
「ＥＱの輪切り、成功したら拍手宜しくね？」
　カグヤはミリハナクの両手斧に強化を施しながら応える。
「でも、無理は駄目なの」
　軽く頷いて、ミリハナクはＥＱ目掛けて走り出す。
　そのＥＱは、伊織に向かって突進していた。
　伊織は走る、走って、走って、前方に跳んで転がる。
　体勢をＥＱの方向に変え、顔を上げ、地面を蹴る。
　それと同時にエミタの排気音が高まる。
　先にミリハナクが全身全霊で斧を振り抜く。
　裂けて損傷した部分から、更に広い範囲に亀裂が生じる。
　その亀裂の入った装甲部分をクラークは鉛弾で一気に剥がしていく。
　これが止め、と言わんばかりに黒い艶の有る刀身が閃く。
「――鬼噛」
　伊織に一閃され、静かに、ゆっくりと、ＥＱの体はずれていく。
　そして、地面を揺らす残骸。
　ぱちぱちとカグヤは拍手をする。
　遂に、ＥＱが落ちたのである。
「本当、無茶するな」
　苦笑混じりに、穣治は手中の本を閉じる。

「攻撃は‥‥専門外だけどね‥‥やらないよりは‥‥マシだよね‥‥？」
　和哉は銃口を、先程から攻撃を集中させているＥＱの頭部分に向ける。
　所々に大きな皹の入った装甲は、限界が近いという証拠の様にも思えた。
　レオも同じ様に一箇所に集中して、攻撃を続ける。
　叩き込まれていく鉛の弾は、確実に効いているはずだ。
　ＥＱはレオと和哉の居る方向に頭を向け、迫ってくる。
「これ以上は面倒だからな、逃がしはしない」
　リヴァルは、指揮棒型の超機械をＥＱに向ける。
　それに合わせて、藍も自身の得物の照準をＥＱに合わせる。
　そして、強力な電磁波を浴びせ掛ける。
　事前に掛けてあった、リヴァルのスキルのお陰かどんどんと装甲が剥がれていく。
「一気に決めるぞ！」
　アレックスが声を上げると、その龍の紋章が一気に紅く輝く。
　数秒の後、ＥＱは派手に爆炎を撒き散らしながら、文字通り落ちた。

「っと！　っぶねぇ！！」
　ジャックは急ブレーキを掛けて、ハンドルを切る。
　すぐ目の前にＥＱが姿を現したのである。
　荷台の方からは「安全運転で頼むさ」と聞こえる。
「ロックは魂だ！　それに餌になりたくないだろう！」
　そう返しながらジャックは外に出て、群がって来たキメラを掃除していく。
　それに倣って、陽一も外に出て後方を確認する。
　そして、自身の銃の引き金を引く。
　狙いはケイの背後に迫ってきていた虎。
　上手く脳天を撃ち抜き、大きく息を漏らす。
「悪いな、ヨウ！」
「重体にならない様にだけしてください‥‥」
　片手を挙げて、返事をするとケイは目の前のキメラの相手に戻る。
「助かった」
　そんな陽一に、近付いてきたアルヴァイム。
「後少し、なんだがな‥‥邪魔者が多くて」
　減ってきたとは言え、戦場には未だ数多くのキメラが残っている。
　残ったキメラの殆どが此処に集まってきているとの事だった。
「露払いとは言えど、露程度で済む量じゃないな、これは」
　次から次へと、豪快に標的を吹き飛ばしながら拓人は言う。
　その視界の端、黒い影がＥＱの体を駆け上がっていく。
　瑠亥だ。
　傾斜を、襲い来る強化ブレードをものともせずに一気に目標地点に到達する。
　先程から何度も攻撃を繰り返して、広げた傷。
　情報では、既に二体のＥＱが落ちた。
　此処も早めに片付けねば、と瑠亥は二刀を振るう。
　幾重にも、幾重にも重なる輝く斬線。
　裂傷は大きく広がり、その内部の内部にまで到達した。
　そこで瑠亥はＥＱの体を蹴り、落下する。
「お膳立ては此処までだ」
　傷を負いながらも、登ってくるアンジェリナに頷く。
「後はやってみせろ、エースアサルト！」
　アンジェリナはそれに応える事はなかった。
　集中、というものだろうか。
　彼女には瑠亥ほどのスピードは無い。
　しかし、それでもエースという名を冠するだけのモノは持っていた。
　金属を引き裂く様な、甲高い音がその証拠。
「刃が通るのであれば倒せない道理は無いな」
　そして、アンジェリナは気合を吐く。
　意図を汲み取ったのか、アルヴァイムはそのスキルを発動させる。
　繋がったのは練力の糸。
　高々と振り翳された金色の刃は、素直に、真っ直ぐに斬線を描いた。
「危ない！」
　爆発が起きると、アンジェリナはそのまま宙空に投げ出される。
　真夜は、その光景に走り出していた。
　全力で駆けるも、間に合いそうにはなかったのだが――
「ギ、ギリギリ間に合ったさ‥‥」
「すまんな」
　同じ様に動いていた九郎が、何とか身体を滑り込ませてアンジェリナを受け止めていた。
　真夜は安堵の息を漏らすと同時に、もう一度、アンジェリナの下へと駆け寄った。
「ちょっとだけ我慢してくださいね」
　持参した救急セットの包帯を取り出しながら。

　レイジは一気にアクセルを踏み込み、一気にゴーレムに肉薄する。
「っしゃ！　花火！」
　無線に叩き付ける様に大声を上げて、カルマは全力でソレを投擲する。
　閃光手榴弾、という代物だ。
　一瞬で、視界は白く染まる。
　カルマとレイジは、車を止めて外に飛び出る。
　ウルシから齎された情報では、このゴーレムは指揮官機であるという事だ。
　それは有人の可能性が高い。
　つまりは、閃光手榴弾が効く可能性も有るのだ。
　一瞬でも良い、効いていれば今はこの上ない好機。
「天と地とイケメンの力を一つに！　脚ィ置いてけやあァ！！」
　超ガチでマジパネェ一撃、などと聞くと疑い所は有るが――
　想像を絶する威力を持った衝撃波が地面を抉り、ゴーレムの脚部に命中する。
　今まではＫＶで対処すべきだった、兵器。
　その兵器の装甲が、カルマの一撃で拉げ、裂けてしまっていた。
　それでも、未だに動く気配を見せるゴーレム。
　手に持っていた厚い鉄板の様な剣を振り上げる。
「傭兵の力‥‥甘く見て頂いては困りますわね‥‥」
　いつの間にか、車両を近くに止め、詰めてきていたロジーが二刀を抜く。
　そして、全力で地面に十字を刻む。
　またも襲い来る衝撃波に、ゴーレムの動きは止まる。
　衝撃波の止んだその刹那に、兵衛とアキラが疾走する。
　アキラは構えた銃から、貫通弾をゴーレムも胸部に命中させる。
　未だ好機なのか。
　しかし、ゴーレムも甘くはない。
　収束フェザー砲。
　紫色に染まった光弾が、誰も近づけまいと弾幕を形成する。
　弾幕に飲まれたら最後、兵衛とアキラは其々横に飛び、その射線から逃げる。
　更にゴーレムは、プロトン砲を正面の地面に撃ち、爆風を巻き起こす。
　吹き飛ばされそうになりながらも、大剣を地面に突き立て、耐えるレイジ。
　そして、片手で抜いた銃口をゴーレムに向ける。
　ダメージは期待していない。
　撃ち出されたのはペイント弾なのだから。
　不測の事態にゴーレムはもう一度弾幕を形成しようとするが――
　不安定で薄い。
　もう一度だけ訪れた、僅かな好機。
　兵衛とアキラは間隙を縫い、再びゴーレムに接近する。
　その後ろにはロジー。
　三人の武器は淡い光に包まれていた。
　クラリッサの武器強化に拠る、援護。
　一閃、二閃、三閃、四閃。
　瞬時に広げられていく胸部の小さな傷。
「俺の攻撃も捨てたものではあるまい！」
　離脱しながら、兵衛は叫ぶ。
　そして、追ってロジーの連撃が加えられていく。
　遂には、胸部の装甲が剥がれ落ちてしまった。
　沈めるならば、今だった。
　背後からレイジ、正面からカルマが武器を振るう。
　発生した衝撃波がゴーレムを襲う。
　が、それは当たる事はなかった。
　ロジーを降り落とすと、一気に離脱を始めるゴーレム。
　逃すまいとクラリッサがエネルギーガンを構えるのだが――
　気に恐ろしきは、慣性制御という事か。
　機械では有り得ない動きを見せてゴーレムは戦線を離脱していった。
　明後日の方角では赤光を浴びながら、沈黙している最後のＥＱの姿が在った。


――アンナーバに日は落ちて――


「此方、空港ホール‥‥オールクリアです‥‥はぁ」
　疲れた声を出して、恭也は無線を下ろす。
　離れた所では、リズレットがキメラの骸から爪を引き抜いているのが見える。
　途中、ソウマや銀斗が来てくれなかったらどうなっていた事か。
「了解、ハンガーの方も諸々完了した。っと、どうやら外も終わったみたいだ」
　直人の報告に、一息吐く。
　残るは、ラナとイレイズなのだが――
「あぁ、丁度良かった。　館内を見回ってみたが、プラントらしきものは無かった」
　イレイズが口元の血を拭きながら、ラナと共に柱の影から現れる。
　恭也は二人の無事と、プラントの有無をヘイル達に伝える。
「それにしても、あんな巨大な物が生身で倒せるのですか‥‥流石ですね」
　ラナは紫色に染まる世界の中、ホールから見える巨大な影を眺めて感心するばかりだった。

「了解、此方も少将と一緒にそっちに向かうよ」
　後部座席の機器類の中に、ヘイルとフェンリスが項垂れる様にしている。
　運転を任された蒼牙は、助手席のウルシを横目で見やる。
「空港の制圧も完了した様です」
「そうかよ」
　抑揚の無い声で返事をするウルシ。
　疲れているのだろうか。
「まぁ、野郎共もテメェらも良くやった」
　開けた窓から入ってくる風を感じながらウルシは呟く様に労う。

　ゴーレムが撤退した理由。
　それは今回の作戦が成功した事を表していた。
　ＵＰＣ欧州軍少将、ウルシ・サンズ曰く。
「陸、海、空。　全てが囮であり、全てが本命だった」
　陸のＥＱが全て落ちた頃、敵の海戦部隊が全て沈んだのだ。
　更には、空港には傭兵達が侵入しており、制圧も時間の問題だった。
　補給する術を失った敵空戦部隊は、見る間も無く勢いを失い、撤退を余儀なくされたのだった。
　想定外の事だったろうか。
「感じているか？　俺等の進化もフザケた速度なんだぜ？」
　撤退するゴーレムの背中にレイジの吐いた台詞は、正にその通りだった。







「此方も後始末は終わった、空港へ向かう」
　アルヴァイムは、無線機をしまうとボロボロになったＥＱを見上げる。
　戦争の残滓、とも呼べる何かを感じているのだろうか。
　そんな哀愁を他所に――
「我の取っておきのバラードなら、もっと効果が有ったんじゃないか？」
「拙僧の経も良かったよねぃ」
「ブブゼラはバラードに入りますか？」
「もっと、大人としての嗜みを、だね。君達」
「そう考えると、ベースの汎用性はスゴイよな、ヨウ」
「そうですね〜」
「そもそも、何でバンド組んだんさ‥‥」
　Ｌａｓｔ　Ｈｅｌｌ　＆　Ｈｅａｖｅｎｓの面々が音楽性の不一致で揉めていた。
　こういった所に、バグアと戦い抜く為の傭兵の強さが在るのかもしれない。
　と、今回はしておこう。