タイトル:クリミナルヘブンマスター:東雲 ホメル

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/26 01:37

●オープニング本文


 そこは天国。
 右を向けば誰かが誰かにナイフを突きつけている。
 左を向けば誰かが誰かに騙されている。
 暴力、恐怖、金‥‥
 そう、ここは犯罪者にとっての天国。
 バー・O(オー)、別名クリミナルヘブンと呼ばれる場所だ。
 
 俺はこの街に配属になったばかりの警官。
 だが今はこうしてこのクリミナルヘブンの真っ只中に居る。
 所謂、潜入捜査ってやつだ。
 確かにここにはゴロツキや怪しい奴らは居る。
 けれど居るだけなのだ。
 この店に対する注意は出来るのだが摘発する材料としては弱いのだ。
 だからこうやって潜入捜査をして確たる証拠を掴もうとしているんだ。

「おい、新入り!!」
「あぁ? ‥‥いや、なんですか?」
 危ない、いつもの口調が‥‥
 今は潜入捜査中だから、ばれたら意味が無い、今までの苦労が水の泡だ。
「てめぇ‥‥名前なんてーんだ?」
 厳つい、明らかに堅気ではないスキンヘッドの男が聞いてきた。
「き、キーファです」
 勿論偽名だ、俺の本名は京・ラングレン。
「そうか、キーファ。てめぇに一つ仕事くれてやる」
「な、なんでしょうか‥‥」
「見張りだよ」
 煙草を咥えながら、店の入り口を指差す。
「はぁ‥‥何か有るんですか」
 スキンヘッドの男は俺を振り向きながらニヤリと笑う。
 あまりにも不気味すぎて今すぐ逮捕してやりたい顔だよ、全く。
「オークションだよ」
「オークションですか? じゃあ、何で見張りなんか?」
「おめー馬鹿か? 普通のオークションじゃねーから見張りを置くんだよ」
「‥‥もしかして、商品は人間ですか?」
 最悪だ。
 ここを押さえれば確かな証拠となり、この店を検挙できるだろう。
 けど‥‥胸糞が悪い。
「人間? はっ!そんなの時代遅れだよ」
 は?何言ってんだ、コイツ。
「キメラだよ、キメラ」
 何‥‥言ってんだよ‥‥?
 
 そこは犯罪者にとって天国。
 クリミナルヘブン。
 急いで、応援を呼ぶ。
「もしもし‥‥京だ。 尻尾掴んだぞ‥‥早めに来てくれ」
 勿論俺はこの一言を付け加えるのを忘れなかった。
「傭兵も呼べ、普通の人間じゃ死ぬかもしれない‥‥」

●参加者一覧

アズメリア・カンス(ga8233
24歳・♀・AA
鴉(gb0616
22歳・♂・PN
フェイス(gb2501
35歳・♂・SN
ロレンタ(gb3412
20歳・♀・ST
七ツ夜 龍哉(gb3424
18歳・♂・GP
リヒト・ロメリア(gb3852
13歳・♀・CA
織那 夢(gb4073
12歳・♀・GP
刻環 久遠(gb4307
14歳・♀・FC

●リプレイ本文

「おい、新入り! キーファとか言ったか!」
「はい、なんすか?」
 京・ラングレンはその怒声に振り返る。
 怒声の主は厳つい、怪しいスキンヘッドの男。
「そろそろ時間だ! さっさと見張りに行け!」
「あ、了解っす」
 京は小走りに店の入り口を目指す。
「早くしろ、バカヤロウ!」
 と、京の背後から更に怒声が飛ぶ。
「あのスキンヘッド‥‥捕まえたら、俺が直々に取り調べてやる‥‥」
 京は誰にも聞こえないように呟いた。

 バー・O(オー)の入り口は地上から階段を降りた地下に位置していて昼でも薄暗い。
 裏口も同様に地下に位置している。
 突入したとして、逃げる者が居れば明らかに分かる様な構造だ。
 勿論、その分店の裏口は上手くカムフラージュされていて見つけにくいようになっている。
「まぁ、俺の潜入捜査のおかげだな」
 そう言って階段を登り、地上に出る京。
 太陽の位置はまだ高い。
 そう、このオークションは昼間に決行されたのだった。
「店の営業時間にやってたら、簡単にばれるしな」
 京は眩しそうに目を細め辺りを見回す。
 幸い、此処は昼間は殆ど人通りがない。
 よく分からない、黒塗りの高級車が何台か出入りするだけの場所だった。
「‥‥怪しさ満点じゃないかよ」
 京は壁に寄りかかり味方の到着を待った。
 
 少したった頃、京のポケットの携帯電話が鳴った。
「すんません、ちょっと良いっすか?」
 京は一緒に見張りに付いていたチンピラ風の男二、三人に断りを入れてその場から離れる。
「よぉ、京だ」
「あ、もしもし。 初めまして鴉と申します」
 電話をかけてきたのは鴉(gb0616)だった。
「おう、傭兵さんか今回はよろしく頼むよ‥‥どうした?」
「今そちらに向かっている途中なんですが、もう一度店の構造や内部の状況、見張りなどの情報を確認したいのですが」
「了解」
 京は鴉に今現在の状況を事細かに伝える。
「悪いが、店の中までは把握しきれてねぇ」
「そうですか、分かりました‥‥それじゃ、後ほど」
 大型ワゴンの助手席に座って会話をしていた鴉の後ろでフェイス(gb2501)がメモを取っている。
 アズメリア・カンス(ga8233)がその隣で拘束具などのチェックを行っている。
「どうやら、裏口は現場に着いて直接確認した方が良いみたいですね」
 リヒト・ロメリア(gb3852)がルームミラー越しに鴉に確認する。
 それに頷くと同時に大型ワゴンが止まった。
「さて、それじゃ行こうかね」
 七ツ夜 龍哉(gb3424)が誰にともなく声をかけると傭兵達は車から次々と降りた。

 ‐‐正面‐‐
「オークション行きたかったよぅ‥‥」
 織那 夢(gb4073)がポツリと呟く。
 店先の見張りに見つからないように入り口近くまで移動してきたのは五人。
 夢、フェイス、アズメリア、ロレンタ(gb3412)、刻環 久遠(gb4307)の面々だ。
 ロレンタは正面突入班にハンドサインの最終確認を行う。
「もうすぐ突入ですから、確認だけ‥‥」
「しかし、キメラのオークションとは、また悪趣味なものね」
「確かに痛い目を見てからでは遅いというのに」
 アズメリアに対しフェイスが答える。
 少し遠くで車が止まる音がする。
 それと同時に無線から声。
「こちら準備OKだ」
 警察の特殊機動部隊と言うやつだ。
 久遠はその連絡を受けると天魔無影の太刀を握り直し、見張りの数を確認する。
 白いバンダナの長髪黒髪の男、それが京との事。
 その他にチンピラ風な男が三人。
 捜査か制圧か、その二択。

 ‐‐裏口‐‐
 リヒト、龍哉、鴉の三人は裏口の有る方に来ていた。
 京の情報によると、裏口はクリミナルヘブンと隣の空き倉庫の間。
 人一人が通れるくらいの路地。
 そこに裏口が存在するとの事だった。
「見当たりませんね?」
 リヒトが路地の方を覗き込み確認してみる。
 見張りは居ない。
「成る程、本当に此処に裏口が存在してるとしたら見張りを置く意味が無いな」
 龍哉が言う通り、一見して裏口がどこか全く分からない。
 裏口として隠すつもりなら見張りを置く意味は全く無いのだ。
 そこに有るのは両側を壁で囲まれた薄暗い路地。
 鴉が歩きながら壁を叩いて確認していき、或る場所で立ち止まった。
「突入する場合はこの部分を破壊するしかないようですね」
 目の前の壁を指差しながら龍哉とリヒトの方に向き直る。
 取っ手も何も見当たらない事から中からしか開けられない仕組みになってるらしい。
 微かに車の止まる音が聞こえ無線から声が漏れる。
 それは正面に向かった仲間達の突入の合図だった。

 ‐‐突入‐‐
「あぁん? んだテメェら!?」
 三人のチンピラ風の男が眼を飛ばす。
 その先には二人の傭兵、ロレンタとフェイス。
「俺、中に報告してきますね」
 京は階段を降り、店の中に入るふりをしてジッと待った。
 声が聞こえる。
 勿論、あのチンピラ風の男達がやられる声。
「大人しくなったな」
 京が階段を上がるとチンピラ風の男三人はあっけなく倒れていた。
「中の状況を確認してきて貰って良いですか?」
 ロレンタがさっと手を挙げると残りの三人の傭兵が出てくる。
「分かった、ちょっと待ってろ」
 京はまた階段を降り、今度はちゃんと店の中に入っていった。
 
 数分後、京は入り口から出てきて心底嫌そうな顔で報告をする。
「どうやら白熱してるようで」
「そうですか、なら突入しましょうか。 現場を押さえてしまいましょう」
 フェイスがそう言うと全員に緊張が走る。
「Luna,battle preparations start.Limiter cancellation」
 夢がそう呟くと同時に覚醒する。
「‥‥Atziluth」
 それに呼応するように久遠も覚醒する。
 傭兵達は次々に覚醒し、階段を駆け下り入り口のドアを勢い良く開ける。
 煙草と酒、埃の匂いが充満する薄暗い店内。
 その奥の方に有る扉から丁度何者かが出てきた。
「てめぇら、なんだぁ?」
 厳つくて、怪しいスキンヘッドの男だ。
「警察だよ」
 京は傭兵達の後ろから一歩前に出て不敵に笑う。
「な、やべぇ!!」
 スキンヘッドの男は再び扉の向こう側に消えた。
「行くよ!」
 アズメリアがその扉を蹴破る。
 広い空間の先、数人が裏口らしきほうへ逃げるのが見える。
 しかし、何かが目の前に立ちはだかった。
 傭兵達の前に立ちはだかったのはオークションの商品。
 半人半蛇のナーガキメラ。
 そのナーガキメラが三体。
「ふふっ、退屈せずに済みそう‥‥」
 久遠がそう言って寒気のする笑顔を浮かべる。
 
 フェイスが銃を構え強弾撃を先制で先頭のナーガキメラに撃ち込む。
 その攻撃がナーガキメラの胴体に命中する。
 しかし、ナーガキメラは一瞬ひるんだものの一気に襲い掛かってくる。
 蛇の下半身の特性か、その動きは異常なスピードを持っていた。
 上半身は人間だが、やはりキメラはその鋭い爪でアズメリアに襲い掛かる。
 その爪は微かにアズメリアの肩を掠める。
 アズメリアは何とか体勢を立て直し、流し斬りを発動させナーガキメラの側面に回る。
 月読を構えなおした瞬間、ロレンタの練成強化の効果がその武器に乗る。
 横一文字に一刀。
 更に夢の二つの月読が突き立てられる。
 まずは一体、そして残り二体。
 
 尻尾による薙ぎ払い攻撃で後ろに弾かれた、久遠。
 しかし、その顔には狂気の笑顔が張り付いたままだ。
 久遠は一気にナーガキメラに詰め寄り、抜刀。
 体を回転させて放つ円閃。
 ナーガキメラは上手くそれを躱わし、反撃に出る。
 しかし、フェイスの強弾撃がその動きを止める。
 その刹那、胴を切り裂かれるナーガキメラ。
 久遠の仕込み小太刀だ。
 
 よろめくキメラにとどめを刺そうとアズメリアが詰め寄ろうとするが、目の前に尻尾が現れる。
 三体目のナーガキメラの不意打ちだった。
「うっ‥‥!」
 腹に衝撃を感じ身を折る、アズメリア。
 即座にロレンタが練成治療をかける。
 ナーガキメラが腕を振り上げて爪を目の前の獲物に突き立てようとする。
 何とか、横に転がりその攻撃を避け構えなおすアズメリア。
 フェイスの銃による一発がナーガキメラに撃ち込まれる。
 動きが止まった、相手にアズメリアの渾身の一太刀が浴びせられる。
 その奥では、無残に切り裂かれたキメラの横に久遠が立っている。
「あら、もう終り? ‥‥つまらないわね」
 
「さて、あなた方はどうするんですか?」
 こっそりと逃げようとしていたスキンヘッドの男を含む参加達数人を見つけたロレンタ。
「ぐ‥‥」
「大人しく捕まってもらうよー? 本当は壊してあげたいんだけどね」
 夢が無邪気な笑顔でロレンタと共に近づこうとする。
「へっ」
 スキンヘッドの男がそう笑った瞬間だった。
 夢とロレンタは何かに薙がれ、吹き飛ばされ、椅子やテーブルの中に突っ込んだ。
「大丈夫ですか!?」
 フェイスが叫んだと同時に全員が武器を構えなおす。
 潜んでいたのは人間だけではなくナーガキメラもだった。
 残りの三人の方に向き直り今にも襲い掛かろうとした瞬間だった。
 ナーガキメラの両腕が飛んだのだ。
 それは練成強化を受けた夢の月読二刀流の斬撃。
 瞬天速で一気に距離を詰めての攻撃だった。
 その後は、アズメリアと久遠の斬撃によって潜んでいたナーガキメラは完全に沈黙したのだった。
「ひっ‥‥!!」
 逃げようとするスキンヘッドの男や参加者達数人の前にフェイスは立ちはだかる。
「手を頭の後ろに組んで」
 
 ‐‐裏口戦闘 そして終結‐‐
 硝煙の臭いが立ち込める狭い路地。
 こちらにもやはり、ナーガキメラが現れていた。
 しゅるしゅると下半身を動かし、高速で動き回るナーガキメラ。
 その動きは場所的に非常に厄介なものだった。
「人の欲に振り回され、此処にいる事は少し同情する。‥‥ただ、その存在を認めるわけにはいかない」
 リヒトはそう言い放つと強弾撃を放ちナーガキメラに牽制を仕掛ける。
 それに応じて鴉が蝉時雨で敵に切りかかる。
 そして反撃を食らう前に瞬天速で離脱。
 ナーガキメラはそれを追おうとするがリヒトの強弾撃の牽制によって怯む。
 大分消耗してきた頃合いを見計らって、龍哉が動く。
 瞬間、ナーガキメラの懐に飛び込む龍哉。
「罪あるものに制裁を、ブラッディー・ポイント」
 龍哉はナーガキメラの眉間に矢を放つ。
 更に追撃で鴉が蝉時雨をナーガキメラに突き立てる。
 ナーガキメラ完全は沈黙。

「よぉ、ご苦労さん‥‥何とか逃げ出した奴ら全員捕まえきれたぜ」
 キメラを倒した三人の傭兵の後ろから声をかける京。
「そっちの首尾はどうだった?」
「あ、実は裏口からは二人しか出てこなかったんですよ」
 リヒトが指した先には拘束された二人の男が。
「そっちの若いのは幹部クラスだな、顔見た事有る‥‥こっちのおっさんも見た事有るけど‥‥」
 誰だったかな、と京は首を傾げる。
「‥‥キメラを扱うなんて‥‥綱渡りが好きなんですね?」
 鴉がその中年の男に質問する様に話しかける。
「終りだ‥‥」
 ぶつぶつと何か呟き始める中年の男。
 京は更に首を傾げ言う。
「とりあえず、後はこっちで処理する。 また何か有ったらよろしく頼むわ」
 そう言って、その二人の男を連行していった。
 日は少し傾いて辺りは微妙な赤みに染まっていた。