●リプレイ本文
会場は満員も満員、超満員。
能力者同士のプロレスなど滅多に見られないという事で人が集まったのだ。
テレビ局のカメラも入ってるくらいの盛況振りだった。
「さぁ! ついに始まりました! LH超人トーナメントォ!!」
「いやぁ、楽しみですね」
「そうですねぇ! あ、私、今回レフェリー兼司会を勤めさせていただきます葵 宙華(
ga4067)です、よろしくお願いします!」
水色のマジシャンベストのバニー姿の宙華、襟元にはピンマイクが付いている。
そのまま自己紹介をして四方の観客に手を振る。
若干テンションは高めである。
「うおぉおおおおおお!!」
「可愛いぞー!!」
「早く始めろー!!」
観客もテンションはやはり高めである。
「実況解説は今回の主催者でありますアーデルハイド氏にお願いしてあります!」
「よろしくお願いします」
会場内の雰囲気と違い妙に落ち着いているアーデルハイドだった。
「ラウンドガールはナレイン・フェルド(
ga0506)さんです!」
「よろしくぅー」
投げキッスを観客席に飛ばすナレイン。
「おぉ! こっちも可愛いぞー!!」
ナレインが男だと知っている人間は関係者以外居ない。
「それでは早速第一試合行ってみましょう!」
「そうですね、待ちきれません」
‐‐一回戦第一試合‐‐
ナレインが対戦カードを掲げリングを一周する。
「地獄から蘇った牛若丸! シルバーー‥‥フォックスゥゥゥ!」
宙華のコールに合わせて、和太鼓と笛が鳴り響く。
スポットライトが当てられた花道の奥には傘と扇で舞い踊る斑鳩・八雲(
ga8672)。
八雲は着物を脱ぎ捨て、リングに駆け上がる。
紫と銀を基調としたアンダースーツを纏い、顔の上半分を覆い隠す狐のお面。
観客席を見渡し、悪態をつく八雲。
ヒールとしての演技である。
「続いて、ブラックマジシャン! イッリュージョニスト・ヒビキー!」
ハンドパワーよろしくのBGMに合わせて登場したのは美環 響(
gb2863)。
プロレスには似つかわしくないタキシードに身を包みオペラ座の怪人の様なマスクを被っての登場だ。
「これはヒール同士の戦いですからね、どうなるでしょうか? アーデルハイドさん」
「そうですね、どちらも何か得体の知れない雰囲気が有るので分かりませんね〜」
「そうで‥‥おぉっとここでシルバーフォックスが握手を求めている!?」
「怪しいですね〜」
響は怪しみながらもショーの一環として握手に応じた。
次の瞬間、響の体は宙を舞いマットに叩きつけられた。
八雲の見事な不意を衝いた一本背負い。
「外道ですね〜」
アーデルハイドの冷静な突っ込みと観客からはブーイングの嵐だ。
起き上がった響は不敵に笑い、ゴングを鳴らす様求める。
「それではレディーファイッ!」
ゴングが鳴ると、八雲と響はお互い軽やかなステップを踏みながら間合いを測っている。
最初に動いたのは八雲、ロープに向かって走り、その反動で響に向かっていく。
そして、そのまま飛び膝蹴りを仕掛ける。
しかし、それはあっさりと避けられてしまう。
八雲が振り向くとそこに広がったのはトランプの壁。
「おぉっとコレはどういう事でしょうか!?」
目眩まし、なのだがレフェリーである宙華もかかっている。
その間に、響はマジック用のステッキで八雲を痛めつける。
鳩尾を一突きすると簡単に八雲は崩れ落ちてしまった。
観客は今度は響にブーイングを送る。
「ほら早く立たないと」
崩れ落ちた八雲をフォールするわけでもなく、ステッキで痛めつける響。
「これも外道ですね〜」
アーデルハイドは至って冷静に解説を進める。
八雲も黙ってはいられない。
足払いで響を倒すと、ポストに向かって駆け出す。
そのまま、八雲はポストを駆け上がりフライングボディプレスで響に突撃。
直撃を受けた響だったがフォールはされまいと八雲を払いのけ、立ち上がる。
ゆっくりと立ち上がった八雲の頭に何処からとも無く取り出したあからさまに大きなシルクハットを被せ視界を奪う。
そのままポストの近くに持っていき、これまた取り出したマントでポストに縛り付ける。
そしてステッキや蹴りで八雲を痛めつける。
「これはシルバーフォックス、ピンチか〜!?」
宙華が実況する中、観客からは止めろだの、試合中止だーだの野次が飛んでいる。
「どんな顔をしてるんですか?」
響がシルクハットを取ろうとした時だった。
頭突きが響を襲った。
脳震盪を起こした様な大袈裟なリアクションで倒れこむ響。
八雲はその間に何とかマントの呪縛から逃れると、響をポストの上に座らせる。
そして観客に向かって自分の首を横に親指で掻き切るようなポーズ。
「ここ、これはぁー!? 雪崩れ式フランケンシュタイナーだー!!!」
「シルバーフォックス得意技の天狐ですね〜」
「1、2‥‥3ー! 勝者! シルヴァァァァフォックス!!」
‐‐一回戦第二試合‐‐
先の試合と同じ様にナレインはリングを一周する。
「爽快! 豪腕! ビッグ木場ぁああああ!」
宙華のコールにあわせて登場したのはスーツ姿の木場・純平(
ga3277)。
観客の歓声に笑顔で答え、手を振る。
リングの上で木場はマッスルポーズを取る。
するとスーツが一瞬でビリビリに破れて逞しい肉体が露になった。
「良いぞー! 頑張れー!」
パフォーマンスに更にテンションの上がる観客。
「万変の闇! アンデットォォォォダーカー!」
対戦相手のコールがあった、のだが相手は全く現れない。
会場内がどよめく。
「これはどうした事でしょうか?」
「さっぱり分からないです」
あからさまに困惑する振りをする宙華とアーデルハイド。
次の瞬間、会場のライトが一斉に落ち一気に暗転した。
「ん? 何だ?」
木場が暗闇の中、辺りを見回そうとするが殆ど見えない。
首を傾げていると、ライトが付きリング上を照らし出す。
そこには宙華、木場の他にもう一人。
全身黒尽くめの男、漸 王零(
ga2930)だった。
「なんと、これは一体いつの間にー!」
「悪そうですね〜、真っ黒ですよ」
漸は徐にマイクを取り出す。
「この試合、我が勝つ‥‥お前達に絶望と闇を与えてやろう」
観客は当然ブーイングの嵐を漸に浴びせるが、漸は耳に手を当てて聞こえないなぁという仕草。
「これは正義対悪という分かりやすい試合ですね、アーデルハイドさん」
「そうですね‥‥しかし、悪そうですね〜‥‥真っ黒ですし」
「さっきからそればっかりですね、アーデルハイドさん」
ゴングが鳴るや否や、木場と漸は手をガッチリ組み合わせて力比べをはじめる。
拮抗していたのだが、漸が木場の鳩尾に蹴りを入れて距離を取った。
間合いをもう一度詰めて木場は逆水平チョップを仕掛ける。
漸はそれを受けるが、全然効いてないなという顔で叩かれた場所を自分で叩く。
もう一発、また一発、更に一発。
漸はまったく効いている気配は無い。
(む、むぅ‥‥かなり効くぞ、コレ)
実際は効いていたのだが。
「ほら、もう一つ!」
木場が逆水平チョップで押し切ろうとした瞬間、漸がその腕を取り足払い。
そのまま腕ひしぎで木場を固めようとする。
「あぁぁ!」
オーバーリアクションで痛がる木場。
観客はその姿を見て木場コールを起こす。
「声が小さいのではないか? はっはっは!」
高笑いしながら木場の腕を壊しにかかる。
木場は何とかロープを掴み、レフェリーの宙華に助けられた。
舌打ちをして、悪態をつく漸は更に二本の木刀をセコンドから受け取る。
その二本の木刀で漸は木場に襲い掛かるが、木場はそのままハンマースルーでロープに走らせ。
そして、豪腕を活かしたラリアートで漸をマットに叩きつける。
「これは綺麗に決まったー!!!」
「かなりのダメージですね、これは」
地鳴りの様な歓声の中、木場は更に漸を立たせてボディスラムでマットに叩きつけた。
「おぉぉしゃぁあ!」
ふらっと立ち上がった漸は木場の鳩尾に掌底を当てる。
「むぅ‥‥!」
何とか踏ん張った木場だったが、頭を掴まれ更に鳩尾に膝蹴りを当てられる。
流石に堪えきれなかった木場はその場に崩れ落ちた。
「さぁ、終りだ!」
観客の悲鳴が聞こえる中、漸は木場を立たせSTOで木場を倒す。
そして、木刀を拾い木場の肩先に突きつけ更に足で踏みつけフォールの体勢に入った。
「1、2、‥‥」
しかし、ギリギリの所で観客の声援に応える様に木場は木刀と足を払い退け立ち上がる。
「おぉぉぉぉぉっ!」
気合一発、漸の頭を掴み全体重を乗せそのままマットに叩きつける木場。
「宙華さん、出ましたね、木場選手の必殺技ベアータッチ。 この技はですね‥‥」
「こ、これも綺麗に決まったー!」
宙華はアーデルハイドの解説なんか微塵も聞いていなかった。
「フォール! 1、2、3ー! 勝者!ビッッッグ木場ぁぁああ!!」
‐‐一回戦第三試合‐‐
会場はざわついていた。
ラウンドガールのナレインの姿が見えないのだ。
「それでは行ってみましょう‥‥疾風のブルーロォーズ! ナレイン・フェルドォ!」
会場のテンションは一気に上がった。
大きくスリットの入ったチャイナドレスを纏ったポニーテール姿のナレインが花道に姿を現した。
ナレインはポストに登り観客に向かって投げキッスと青い薔薇を投げる。
「悪い子は、私がお仕置きしてあげる♪」
ウィンクもおまけでつけると会場のボルテージはうなぎ上り。
「これはスゴイ人気ですね〜」
アーデルハイドは至って冷静だった。
「続いて‥‥人、間、凶、器! マスクドォォォォブラックー!」
黒く銀糸で隈取されたマスクを被りそれと同様の歌舞伎風のマントと鎧を身に纏い登場したのは辰巳 空(
ga4698)だった。
重々しく凶悪な音楽と共にゆっくりと入場して、リングに上がる。
腰のおもちゃのライトセーバーでマントと鎧を脱ぎ捨て、首を鳴らしながらリング中央に向かう。
いかにも悪そうな雰囲気が漂っている。
観客の握手や声援なんか完全無視だ。
「ゴングが鳴りましたが、この試合どう見ますか?」
「そうですね〜、マスクドブラック‥‥優勢ですかね? やはり‥‥」
「おぉっと! これは綺麗なハイキックが決まりましたね」
リングの上では、辰巳の顔面に綺麗にナレインのハイキックが入っていた。
様に見えただけだった、実際は寸での所でガードされていた。
辰巳が間合いを詰めようとすると、ナレインは蹴りを主体に牽制をする。
一進一退の攻防、辰巳はヒールとは思えないクリーンなファイトを心掛けている様な動きだ。
その内、ナレインの綺麗なローリングソバットが決まる。
今度はガードされていない、明らかに辰巳はふらついている。
コレをチャンスと見たナレインはポストに登り、観客にアピールをする。
「悪い子にはここから出て行ってもらわないとね」
そう言って飛び上がるナレイン。
ムーンサルトからのミサイルキック、能力者でないとそうそう簡単に出来ない芸当だ。
「うわっ!」
辰巳はそう言って倒れこんだのだったが、すぐさま受身を取り立ち上がる。
しかし、ダメージが有ったのは明白、やはりまだふらついている。
一気に勝負を決めようとナレインがニールキックを仕掛けた時だった。
「お遊戯はここまでにしようか?」
辰巳はナレインの技を上手く避けそのまま空気投げでナレインをマットに沈める。
「おぉ、高度な技ですよ、コレは‥‥アレは空気投げと言って別名隈落し‥‥」
「遂にトドメかっ!?」
「‥‥」
辰巳はナレインを掴み軽々と真上に放り投げる。
と言っても、ナレインもその投げに合わせて観客にばれない様に跳躍はしているのだが。
「スーパーアルゼンチンバックブリーカーだー!!」
辰巳は落ちてきたナレインの背骨をアルゼンチンバックブリーカで折る。
そして、そのままマットに叩きつけフォール。
「決まったぁぁぁぁあ! 勝者、マスク! ド! ブラッッック!」
「いや、いい試合でしたよ」
リングの中央ではナレインが涙目で観客に謝罪をしていた。
辰巳はそれを見るや否や、ナレインを引きずり退場していく。
‐‐一回戦第四試合‐‐
「どんどん参りましょう! 深緑の女形! 抹茶ぁぁぁ金時子ぉぉぉぉ!!」
三味線の音がなる中現れたのは鳥飼夕貴(
ga4123)だった。
その姿は正に女、着物に緑色ではあるが日本髪、仕草まで女だ。
リングに上がると着物を派手に脱ぎ捨てて緑色のさらしと褌姿になる。
「おぉぉぉぉ!」
かなり目立つ、女形でのプロレス(ナレインの件は有るが)など普通は見られる物じゃない。
プロレス好きには面白い物となった。
「鉄拳、鋼脚! カンフーーーキッーーード!!」
誰もが聞いたこと有るであろう、会場の中にブルー○・リーの姿を探した者も居るだろう。
そんなBGMと共に現れたのは威龍(
ga3859)だ。
こちらもリングに上ると上半身のカンフー着を脱ぎ捨てる。
龍の刺繍がされている代物で相当凝った物で有ると見受けられる。
「正々堂々といこうじゃないか」
「えぇ、よろしく」
「これは気持ちの良い試合が期待できそうですね、アーデルハイドさん」
「そうですね、やはりこう言った試合もまた面白いと思いますよ」
ゴングが鳴ると、威龍は積極的に間合いを詰め打撃でダメージを与える様に動いている。
その動きは正にカンフー映画の様で、観客へのウケもかなり高い。
その理由は威龍のカンフーだけではなく鳥飼の受け方の上手さにもあるのだろう。
威龍が掌底を腹に当てると、大袈裟に体を浮かせる。
「うわぁ!」
威龍が上段回し蹴りを当てると、大袈裟に体を回転させて倒れこむ。
「あぁぁ!」
打撃だけの試合とは思えないほど派手なのである。
勿論、鳥飼も受けてばかりじゃない。
威龍の拳を掴み引き寄せ大外刈りで倒し、立ち上がらせて裏投げで投げる。
「なんのこれしき」
威龍はすぐに立ち上がり、距離を詰めてハイキックや掌底でガンガン攻める。
そして、威龍が裏拳を決めて鳥飼がふらついた所をボディスラムで投げに行った時に事件は起こった。
「ふふ、褌がー!?」
「取れましたね〜」
宙華とアーデルハイドが声に出して簡単に状況を説明してくれた。
観客の間では良く分からない声が飛び交っている。
威龍は褌を渡そうとするが鳥飼はそれを拒否する。
「どういうこ‥‥とだ!?」
立ち上がった鳥飼はビキニパンツ姿で堂々としている。
観客の中には安堵の溜息をつく者も多かったはずだ。
「ふふん、こういう事も想定済みよ」
威龍は苦笑しながら構える。
お互い頷くと威龍はポストに向かって走り出す。
それを追って鳥飼も走り出す。
「これは勝負を決めにいったかー!?」
宙華と会場のテンションが一気に上がる。
威龍は走ってきた勢いをそのままに三角飛び、カンフーキックのコンビネーションを鳥飼に見舞う。
鳥飼はそれを胸にもろに受ける、勿論後ろに跳んで威力は殺してあるのだが後はお約束。
派手に後ろに吹っ飛ばされて転がって、倒れる。
「決まったー!! 完璧な攻撃だー!!」
「綺麗ですね、こういった試合大好きですよ」
威龍の勝利、だが敗者の鳥飼にも大きな声援と拍手が送られる。
観客はかなり楽しんでいたみたいだった。
‐‐一回戦第五試合‐‐
「正義と巨乳のお嬢様ぁぁぁ! ダイ〜ナマイト〜‥‥コヒナー!」
スポットライトが幾つも当てられた、その中心に現れたのは鷹司 小雛(
ga1008)だ。
その姿は正にダイナマイト、会場が一気にどよめいた。
胸、お尻は会場の男を魅了してしまうくらいダイナマイトなのだ。
しかも、着込んだ赤いアンダースーツは胸元が大きく開いておりお尻の食い込みもかなり際どいものだ。
しかし、どういう訳か額に包帯を巻いての登場だ。
「続いては! G! Gカップの青豹! ハールーカー!」
Gという言葉に無駄にテンションが上がったのはアーデルハイドだけではなかったはずだ。
花道を堂々と歩いてくるハルカ(
ga0640)の姿にまたも会場はどよめいた。
青い豹柄のビキニ、頭には豹の耳、足元まで青い豹柄のリングシューズ。
そして何と言ってもそのGカップの胸は圧巻。
リング上に上がると観客の声援に応えている。
大型スクリーンに映像が流れ始めたのは、次の瞬間だった。
「おらぁ!」
スクリーンにはバケツを被ったロッタTシャツの巨乳がパイプ椅子で小雛を襲撃している映像。
その後ろには漸や美環も不敵な笑みで腕を組んで映っている。
「こらー!」
そこにナレインや鳥飼が駆けつけ、襲撃犯たちは一目散に逃げていった。
そういった所で映像は途切れていた。
「これは、凶悪ですね」
「そうですね〜、試合前を襲うなんてかなり凶悪ですよ」
小雛には、いや会場中の人間には犯人の見当が大体付いていた。
「なーに? そんなに睨んじゃって?」
「‥‥まぁ、良いですわ。 試合で決着をつけましょう」
試合のゴングが鳴る。
観客が息を呑むのも仕方が無い。
開幕早々、張り手の応酬なのだから。
お互いに全く倒れない上に不敵に笑いあっている。
張り手の応酬が済むと額と額、胸と胸を突き合せての力比べが始まる。
「これは、セクシーな試合になりましたね、アーデルハイドさん」
「そうですね! これは楽しい試合になりそうです!」
アーデルハイドのテンションがさっきまでと違うのは気付かない振りをしようとした宙華だった。
ハルカがミドルキックを小雛の腰辺りに打つと、一気にハルカが力比べで優勢に立つ。
しかし、小雛も負けじと手を解き、そのままハルカをパワースラムでマットに叩きつける。
ハルカをポストに張り付け、走ってヒップアタック。
揺れるマットと巨乳。
「セ、セクシー過ぎますね」
「そうですね」
宙華の顔が少し引きつってる様な感じだったのはアーデルハイドは見なかった事にした。
「あぐぅ‥‥」
ハルカは何とか立ち上がると、攻めてくる相手の腕を取りアームドラッグで小雛をマットに沈める。
セクシーさを強調しながらロープを使ったぶら下がり式首四の字で締めるハルカ。
ギリギリと締め付けるハルカ、その姿を見た会場は盛り上がりっぱなし。
小雛は何とかパワーで振りきったが体力の消耗は激しかったらしく、一気に勝負を仕掛けた。
ハルカをロープに振りハンマーブローで叩きつける。
「はぁはぁ‥‥」
倒れたまま肩で息をしているハルカ。
そして、小雛はそのハルカをお尻でフォール。
ハルカは抵抗しようと試みるが小雛のパワーに押さえつけられ敗北してしまった。
‐‐一回戦第六試合‐‐
いよぉー、と歌舞伎の様な掛け声が会場内に響き渡る。
「さぁ、辻斬り‥‥マスクザブシドーの入場だー!!!」
竹刀をぶん回しながら観客を威嚇して入場してきたのは千祭・刃(
gb1900)。
剣道着、般若の面、歌舞伎のかつら、そして下駄。
正に狂気の侍の様な格好で花道を行く。
リングの上に立つと頭を一回転させてかつらの髪で観客にアピールをする。
「おっと、この妖しい音楽はー!? ダークプリンセス! 夜叉姫様だぁぁ!」
宙華が振り向いた先には数人の執事風の格好をした男が現れる。
そして、その後ろからセクシーダンスをしながら現れたのはシェリー・ローズ(
ga3501)だった。
黒いエナメルのボンテージ姿は女王様としか言い様がない。
その手には鞭が握られていて、明らかにヒールな雰囲気が漂っている。
リングに上がると、刃を睨みつけ彼の周りを一周する。
そして一言。
「気に入らないんだよ!」
前蹴りで刃が体を折ると同時に鞭で叩くシェリー。
「これは反則です!」
宙華が止めに入って、刃は鞭からやっと解放される。
ゴングが鳴ると刃は竹刀で地面を叩き、怒りを露にする。
そして、一気に詰め寄り竹刀で反則攻撃を繰り出す。
叩かれつつもシェリーはローキックで反撃。
しかし、やはり竹刀の方がダメージは大きい。
この状況を打開するべくロープの反動を利用した低空ドロップキックを刃の膝に見舞うシェリー。
それに応じるかの様に今度は刃が下駄を履いたままドロップキックをシェリーに浴びせる。
「マスクザブシドー、女子供にも容赦は無いと聞いていましたが」
「下駄とは残虐ファイトですね」
シェリーが立ち上がろうとする前に刃は竹刀で押さえつける。
使ってみたかったというキャメルクラッチを仕掛ける。
そして頭を回して観客にアピールをする。
観客はその般若の面に恐怖を覚え、ざわついていた。
シェリーはアピールしている隙を衝いて膝にエルボーを食らわせ何とか脱出。
ロープを使いフライングニールキックで刃を責める。
「お仕置きの時間だよ!」
シェリーは自身の必殺技であるマグザムを刃に仕掛ける。
「出たー!! 旋回式ダイヤモンドカッターだー!!」
「これは決定打ですね」
勝利したのはシェリー。
勝利インタビューでは刃の頭を踏みつけながら一言。
「美しくないワルは只の屑よ」
会場はブーイングと歓声が入り混じっている。
「いやぁ、ホントに悪いですね〜。 彼女」
‐‐一回戦第七試合‐‐
重くそして激しいヘビメタの音楽が鳴り響く中現れたのは鳳覚羅(
gb3095)である。
不死鳥をイメージしたマスクと黒を基調としたアンダースーツ、炎模様のプロテクターを着けての登場だ。
「黒い怪鳥! ブラックフェニックスとは奴の事だぁぁぁ!」
一見ベビーフェイスにも見えるが、その実はヒール。
観客の声援に対し悪態をついている。
更にポストに登り、火炎吹きのパフォーマンスまでやってのける。
「スケバンファイター!! トロピカルゥ! 聖菜ぁ!」
おぉぉ、と会場からはざわめきが漏れる。
ヒール、正しくヒールなその見た目に圧倒されたのだ。
ビキニスタイルで化粧もガッチリされてあり、チェーンを振り回して花道を歩く。
なにより、その髪型によりそのヒールの雰囲気は加速されているように思われた。
試合開始直後、覚羅は指で相手を呼ぶように挑発。
飯塚・聖菜(
gb0289)はあえて挑発に乗り、ケンカキックをお見舞いすべく相手に近寄る。
しかし、覚羅はその足を取り高速ドラゴンスクリューで膝を破壊する。
更に追撃を加えようと近寄った覚羅に待っていたのは起き上がりヘッドバッド。
身を折る覚羅を押さえつけ顔面に膝を何発も入れる聖菜。
「ケンカ殺法というやつですね!?」
「かなり痛いですよ、あれ」
実況解説の二人は痛がるように目を背けようとする。
「うぅ‥‥」
覚羅が顔を上げた所に聖菜はもう一度ヘッドバットをお見舞い、したいところだったが予想外の反撃を食らう事になる。
タバスコを吹きかけられたのだ。
「何が起こったのでしょうか?」
「さぁ?」
当人同士にしか分からない様な攻防だった。
その場に肩膝をついて崩れ落ちる聖菜。
その体勢を見て、覚羅はロープに走り、その反動で聖菜にシャイニングウィザードを当てる。
何とか立ち上がるも足元がおぼつかない聖菜。
近寄ってくる覚羅に急所蹴りで反撃を試みる。
覚羅は急所蹴りを食らってその場に倒れこむ。
「こ、これは‥‥」
会場中が息を飲む。
流石スケバンファイター、躊躇いの無い攻撃だった。
しかし、未だに視力がはっきりと回復していない聖菜。
回復される前に決着を着けたい覚羅は若干内股で立ち上がる。
そして聖菜を掴み、持ち上げて垂直落下式ブレーンバスターを見舞う。
そのままフォールに入り覚羅は聖菜に勝利したのであった。
「‥‥君相手じゃ燃えないね」
強がり、強がりだ、強がりだよね、そんな言葉が内股でマイクパフォーマンス中の覚羅に投げかけられたのだった。
会場の隅っこで零崎”こいつ”重蔵(
gb4063)は密かにカッコイイ登場の機会を待っていた。
「ふふ、もう少しで私の登場シーンは訪れるな‥‥ふふふふ‥‥」
観客の中、全身タイツの男はかなり目立っていた。
‐‐二回戦‐‐
シルバーフォックスこと八雲の腕ひしぎ十字に木場は苦しめられていた。
「中々どうしてタフじゃないか?」
何回かラリアートでマットに沈めたはずなのだが、八雲の締め技にはまだ力が残っていた。
「まぁ、まだまだですかね」
木場はパワーに任せて技を振りほどき、パワースラムで八雲をマットに叩きつける。
八雲はすぐさま立ち上がり助走をつけてのフライングエルボー。
それを受け後ずさりする木場に対し、更に八雲はもう一度フライングエルボーで追撃。
それをガッチリ受け止めた木場は必殺のベアータッチで八雲をたおす。
フェイスロックで八雲の頭を締め上げ、ギブアップを促す。
「これは完全に決まってますね、アーデルハイドさん」
「そうですね、私は遠慮したいです」
間もなく八雲はフェイスロックの圧力に耐えかねギブアップ。
準決勝に進んだのはビッグ木場だった。
辰巳の防御テクニックはとても優れていて、威龍の打撃は殆ど避けられるか受け流されるかしていた。
しかも、関節技のおまけ付きだ。
辰巳は医者という事もあり、致命傷にはならないが痛い部分を確実に押さえてくる。
プロレスらしく大技一発ずつの攻撃では勝てないと踏んだ威龍は少し攻撃の速度を上げる。
リズムが突然変わり戸惑う辰巳。
「おぉっと、これはカンフーキッド反撃かー!?」
「大分疲れてますからね、これが最後のチャンスでしょうか?」
辰巳も足を取りドラゴンスクリューで膝を壊しにかかる。
しかし、威龍は何とか踏ん張りキックコンビネーション飛燕脚で辰巳をマットに沈め、フォール。
「良い試合だった‥‥」
息を切らし呟く威龍。
「中々やるじゃないか」
マットに倒れこみながら辰巳は声をかける。
観客の歓声はより一層大きくなった。
「自慢のお尻、私が砕いてやろうじゃないか!」
シェリーはアトミックドロップで小雛のお尻を攻める。
「くっ‥‥やってくれますわね」
お尻を擦りながら小雛はアックスボンバーを繰り出す。
それを受けながら、シェリーは後ろへ後退する。
ロープを使い、走って胸をそのままシェリーに叩きつける様に体当たりをする小雛。
倒れたシェリーをフォールしようとした時にそれは起こった。
「その勝負ちょっと待ったぁぁ!」
そう叫びながら試合に乱入してきたのは他でもないレフェリー兼実況の宙華だった。
「こここ、これはぁー!? 蒼幻の魔術師! ファントムテイル葵が姿を現したー!!」
会場のどよめきはアーデルハイドのテンションで一気に盛り上がる。
フォールをしようとしている小雛を蹴り上げて、更にシェリーをも蹴り上げる。
小柄な体からは想像できない重い蹴り。
それもそのはず、ブーツには重りが仕込んであったのだから。
三つ巴の戦い、と思われたがそこにもう一人乱入者が。
全身タイツの男がいつの間にかポストの上に立っている。
「これはー!? 全身タイツ!! こいつだぁぁぁ!!」
「ヒールが二人、ベビーフェイスが一人とは不公平ではないかな?」
妙に紳士気取りのこいつがリング上の三人を見下ろす。
が、既に三人は戦い始めていた。
「こ、こいつら‥‥っ! 『零崎』を実行する‥‥! 待て‥‥落ち着け、私‥‥」
良く分からない事を呟きながら、丁寧にポストから降りるこいつ。
一方ではヒールの二人によるツープラトンバックドロップで小雛は戦闘不能に陥っていた。
会場からは悲鳴にも似た声が響いていた。
「このまま残虐ファイトによる犠牲者が増えるのかー!?」
小雛を倒した、シェリーに余力は殆ど無い事は確かだった。
宙華はそこに付け入り倒そうと挑発を開始する。
「私、もう疲れちゃったからギブアップしてー? お願ーい」
疲れてもないし、ぶりっこキャラは勿論挑発の為だ。
「良い度胸だよ!」
シェリーはロープを使い跳躍、そしてフライングニールキックをお見舞いしようとするが宙華の策にかかったのは明白だった。
飛んでくるシェリーの下を潜り、後ろに回り延髄にハイキックを一発、そしてフォール。
流れる様な一連の動き。
シェリーをフォールして勝者のつもりで居た宙華に忍び寄るのは全身タイツの影。
「あぁっ!! これは綺麗なローリングクレイドルホールドだー!!」
「え? なな、何!? 何!?」
タイツが絡まり上手く受身の取れない宙華。
焦っている内に3カウントが取られ、真の勝者としてリングに立っていたのはこいつ。
誰でもない、全身タイツのこいつだった。
‐‐準決勝‐‐
打撃に次ぐ打撃。
チョップ、掌底、ローキック、回し蹴り、ビンタ、パンチ。
木場と威龍の試合は打撃中心のガチンコ勝負だった。
お互い一発入るごとに効いていない事を観客にアピールしてみせる。
木場は何故か猪○の如く顎を突き出し腕を高々と振り上げる。
威龍は観客に向かってブルー○・リーのモノマネをする。
その度に観客は歓声を上げ、喜ぶ。
「これは予想外に熱い展開です! ガッツ溢れる試合になりました!」
アーデルハイドは実況と解説をテンション高めにこなす。
しかし、お互い今までの試合で相当消耗してきている。
決めるなら一発でかい技が欲しい、というのが本音。
木場は肩を大きく回してラリアートの体勢に入る。
同じ様にラリアート狙う威龍。
殆ど同時にロープに走り、勢いをつけてラリアート勝負に出る、ベビーフェイス二人。
結果は僅かだが腕力に勝る木場の勝利に終わった。
「やぁ、足技だけじゃなかったんだね」
「そちらさんは、相当な豪腕の持ち主で」
握手を組み交わす二人の姿は清々しいものだった。
覚羅は焦っていた。
「何故効かないんだ!?」
目の前のこいつの顔の部分には確かにタバスコが吹きかけられている。
なのに苦しむ素振りすら見せないなんてどういう事なのか?
タイツのせいでタバスコが目に届いてないのか?
さっぱり分からない。
「ふふふ、君がタバスコを吹きかけた場所には顔は無かったのだよ」
その言葉に会場中が首を捻った。
さっぱり答えになっていない、というか分からない。
「く、こうなったら」
一気にこいつに詰め寄った覚羅はこいつにタックルを浴びせの肘十字固に入ろうとする。
しかし、感触が殆ど無い。
タイツの感触しかないのだ。
「だからそこに、腕は無いんだよ」
別の所から腕が伸びてきて、まともにパンチを受けてしまう覚羅。
「これはトリッキーすぎますね〜」
アーデルハイドが冷静に分析しながらテレビカメラに向かって頷く。
少し混乱してきた覚羅は落ち着こうとするが、それをこいつは許さない。
一気に間合いを詰め、ボディブローの連続攻撃、コンビネーションとしてアッパーカットを混ぜてくる。
その内の何発かを覚羅は受けてしまい、足元がふらつく。
フィニッシュにこいつが仕掛けた攻撃といえば‥‥
相手の頭を包むように丸まり窒息させ戦闘不能にさせようとするものだった。
「トリッキーすぎますね〜‥‥ともあれ、全身タイツ! こいつの勝利です!」
因みにこの後、覚羅は医務室で酸素スプレーを手離せなくなったという。
‐‐決勝戦‐‐
リングの中央では対戦者の名前入りプラカードを持ったナレインがまたも投げキッスのサービス中である。
「決勝戦はビッグ木場対こいつというカードになりましたが、どう思われますか?」
「いつの間に戻ってきたんですか、宙華さん」
「今です。 あ、因みにブラックフェニックスは気分が優れないとの事で棄権だそうです。 よって自動的に三位はカンフーキッドの物ですね」
絶対タイツのせいだ、と会場内の意見は一致していた。
「そうですか。 そうですね、この試合はパワー系とト‥‥」
「さぁ、ゴングが鳴ったぁ!」
宙華は相変わらずアーデルハイドの話を聞いていなかった。
木場はとりあえず誰もが思っていた事を口に出してみた。
「へ、変態?」
「変態、だと‥‥? 失敬な‥‥いや、まだ私が芸術の域まで達していないという事か」
感謝する、と言って握手を求めてくるこいつ。
木場は戸惑いながらもそれに応じ握手をする。
そして試合は始まった。
見た目のおかしさやトリッキーな戦法から良く分からなかったが意外と強い、こいつ。
木場は苦戦を強いられる事になる。
しかも前の試合で威龍とガチンコ勝負をしたばっかりに体力は限界だった。
パワースラムでマットにこいつを叩きつけてみるが表情が分からないので効いているのかさえ疑問だ。
こいつは木場に対しまだまだ元気だった。
軽いフットワークで近づき、ワンツーコンビネーションを放ち、また距離を空ける。
途中調子に乗って何回か掴まれ、パワースラムやラリアートでマットに叩きつけられたがまだ大丈夫。
大技一発食らわなければ大丈夫。
ボディーブローを受け屈みこんだ木場の背中にエルボーを当てて座らせる。
「おぉっとー! これは体力の消費が激しい木場選手には厳しい攻撃だー!!」
チキンウィングフェイスロックで木場を一気に攻めるこいつ。
「うわぁぁぁ!」
苦しそうに顔を歪める木場。
その時、もう一つの悲鳴がリング上で上げられる。
「ぐわぁああああああああ!!」
「これはー‥‥何が起こったのでしょうか?」
アーデルハイドがレフェリーである宙華に問いかける。
宙華がこいつの顔の部分を覗き込む。
そう、さっきのタバスコがタイツに染みていたのだ。
そこに顔を戻していたこいつの目にタバスコが入ったのだった。
こいつの技から上手く抜け出した木場はチャンスを逃さなかった。
リキラリアート、立たせてマシンガン逆水平チョップ、更にこいつの頭をがっしり掴み、観客に右手を高々と上げてアピール。
「いくぞぉぉぉぉぉ!!」
「おぉぉぉぉぉぉぉ!」
「いけー!!」
会場の声援を一身に浴び繰り出したのは、垂直落下式ブレーンバスターの体勢から入る本家本元同様のノーザンライトボム。
こいつの頭は無残にもマットに突き刺さった。
文字通り突き刺さったのだった。
こいつは戦闘不能と見なされ勝敗は決した。
「勝者っ! 爽快! 豪腕! ビッッッグゥゥゥ木ぃ場ぁああああ!!!」
宙華のコールに合わせて世紀末の覇者よろしくのポーズで観声に応える木場 純平だった。
‐‐試合後‐‐
「いや、今回は大成功。 収入もかなり見込めますので」
ファイトマネーはどうか持ってて下さい、とアーデルハイドは気前良く笑うのであった。
しかも、こっそりと打ち上げの用意までしていたのである。
控え室のテーブルに並べられた食べ物や飲み物。
ベビーフェイスやヒール関係無くお互いの健闘を称えあっている。
「会場ではセクシーNO.1は誰か、噂になってましたな」
アーデルハイドは笑いながら言う。
ハルカ、小雛、シェリーは誰なのか気になりそわそわしていた。
そして控え室の隅で自分が全身タイツなのを忘れ飲み物を飲もうとして窒息しかけていた男が一人。
「ぷお!? げふ! ぷふー! ぷふー!」