●オープニング本文
前回のリプレイを見る「マチュアお姉ちゃんとお泊りするのって初めてだよね。うわぁ〜嬉しいなぁー♪」
マチュア・ロイシィ(gz0354)を自室に招いたアリアが無邪気に喜ぶ。
(‥よかった。どうやらもう怖がっていないみたいだ)
マチュアはアリアが元気を取り戻してくれた事に安堵した。
(それにしても今日のあのワームはいったい‥‥)
マチュアが思索していると
「ふあぁ〜〜‥‥」
アリアが大口を開けて欠伸をした。
「眠い?」
「‥‥うん」
「今日は色々あったから疲れたんだね。もう寝るかい?」
「マチュアお姉ちゃん、一緒のベッドで寝てくれる?」
アリアが可愛らしく小首を傾げながら尋ねてくる。
「いいけど‥‥狭くないか?」
「あたし小さいからきっと大丈夫だよ」
アリアはそう言うとベッドの端に寝転んだ。
「ほら、マチュアお姉ちゃん」
アリアが手招きするので仕方なくマチュアもアリアの横に寝転ぶ。
確かに寝れない事はない。
「うふふっ、マチュアお姉ちゃんあったかーい」
アリアが嬉しそうにマチュアに抱きつく。
「ふふっ、アリアもあったかいよ」
そうして2人で抱き合っていると、やがてアリアが規則正しい寝息を立て始める。
「‥おやすみ、アリア」
マチュアはアリアの寝顔に小さく告げて、自分もまどろみの中に落ちていった。
そして
(ん? なんだ‥‥)
マチュアは妙な虚脱感を感じて目を覚ました。
目を開けるとニヤニヤと笑うアリアの姿が見える。
「おはよう、マチュアお姉ちゃん。ご機嫌は如何? っていい訳ないよね」
「アリア、何を言って‥」
台詞の途中でマチュアは自分の手足が縛られている事に気づいた。
「これは?」
マチュアは咄嗟に覚醒して引きちぎろうとするが、縄はびくともしない。
「何故だ?」
そこでマチュアは自分の体に違和感を覚えた。
より正確には埋め込まれたエミタからの情報で察した。
(覚醒できていない。練力が0になっている)
そう、今のマチュアは体内の練力が枯渇して覚醒できない状態になっていたのだ。
(でも何故?)
理由はさっぱり分からない。
自分の手足が縛られている理由も
アリアがニヤニヤと笑って自分を見下ろしている理由さえも。
「でも、もう一度眠ってね、マチュアお姉ちゃん。今度はいい夢見てね」
そしてアリアに押し付けられたスタンガンの強力な電気で昏倒させられた。
ガチャリ
ドアが開き、両手足が義腕と義足の少年ジョンがトムにバグアの光線銃を突きつけながら入ってきた。
「ネモ様。指示通り連れてきました」
「ありがと、B3」
ジョンはアリアを『ネモ』と呼び、アリアはジョンを『イノセント』の作戦に従事していた頃のコードネームで呼んだ。
「ねぇ‥‥なに? なんなの‥‥。アリア、いったい何してるの?」
トムはベッドの上で縛られて昏倒しているマチュアを見てますます怯えだした。
「頭数は多い方がいいからね。我に従え」
アリアはトムの頭に手を置いて命じた。
「え?」
しかしトムはきょとんとした顔をするだけだ。
「‥‥う〜ん、やっぱりもう洗脳は解かれちゃってるみたいね。もっと強く掛けておけばよかったかしら?」
「どうします、ネモ様」
「そうね‥‥面倒だけど、この子もさらっちゃおっか」
「え!?」
トムの顔が恐怖に歪み、足がガクガクと震え出す。
「い、い、いやだぁーーー!!」
トムはジョンの腕を払うと一目散に逃げ出した。
「野郎!!」
「あ、撃っちゃダメだよ」
アリアは止めたがジョンがトリガーを引く方が早く、怪音を発して放たれた光線はトムの足を撃ち抜いた。
「ギャー!! あぐ‥‥ぅぁ‥‥」
悲鳴を上げて転んだトムは足を押さえて悶え苦しむ。
「なんだ?」
「なんの騒ぎだよ」
その騒動を聞きつけたリックとケビンも部屋から出てきた。
「あ〜ぁ、気づかれちゃった」
「これは‥‥なに? なにをしてるのジョン! アリア!」
「ここを抜け出そうとしてるんだよB7。イノセントに帰るのさ」
当然と言った顔でリックの事をかつてのコードネームで呼ぶジョン。
「何を言ってるんだよ。ネモはもう‥」
「ネモ様まだ生きてるよ。イノセントも健在だ。さぁ、お前も来いよB7」
「ジョン‥‥」
リックは今なにが起こっているのはほとんど分からなかった。
しかしジョンの時間は聖マーガレス学園の時から止まったままで、その心は今もイノセントに捕らわれている事は分る。
「僕は‥行かないよ」
リックはハッキリと告げた。
「何故だ! お前だって手足を斬った能力者を恨んでるだろう。俺と一緒に復讐しようぜ」
「僕は、もうその事は恨んでないよ」
「そうかよ。じゃあB4、お前はどうする?」
ジョンがトムの足を縛って止血しているケビンに目を向けた。
「‥‥僕も、行かない。もうこれ以上、自分を嫌いになりたくない」
「チッ! 腰抜けどもめ」
「ジョン、イノセントに戻ってどうするんだよ。またネモに従って人を殺すの? そんな事もう止めようよ。お前だって最初は嫌がってたじゃないか!」
「うるせぇ! 俺は生まれ変わったんだ! もうみんなに馬鹿にされてた頃の俺じゃねぇ!!」
「どうしても行くの?」
「あぁ、戻れば大幹部にしてくれるってネモ様が約束してくれたんだ」
「そうか‥‥でも行かせない!」
リックは傍にあった火災報知機のベルを押した。
ジリリリリリリリリリ
派手な警報が施設全体に鳴り響く。
「てめぇ!!」
激昂したジョンが光線銃をリックに向けた。
「リック!」
ケビンがリックを庇うように飛び出したが、ジョンは構わずトリガーを引く。
そして放たれた光線がケビンの胸を貫き、更にリックも貫いた。
二人は折り重なるように倒れ、溢れ出た血が廊下に広がってゆく。
(これで‥僕が生き残った意味はあったよね。僕は‥生きてても、良かったんだよね‥‥)
ケビンは痛みと失血で薄れゆく意識の中、最後にそんな事を思って意識を手放した。
「ば、馬鹿が‥‥お、俺の誘いを断るから、こ、こういう事になるんだよ」
「興味深かったから見入ってたけど、おかげで計画が狂っちゃったな。これじゃコッソリ逃げるのはもう無理ね」
少し動揺している様子のジョンにアリアが告げる。
「あ、すみません、ネモ様」
「いいよ別に。でも、ここからは3手に分かれて逃げましょう」
「それは‥‥」
「大丈夫。B3には護衛を付けてあげるし、あたしの言う通りにすれば確実に逃げられるわ。じゃ、マチュアお姉ちゃんをスーツケースに入れるから手伝って」
「はい」
アリアとジョンはマチュアを用意しておいたスーツケースに押し込んだ。
そしてアリアは近くに駐車しておいたトレーラーに積まれたオストリッチの背にスーツケースをくくり付けて起動し、自動で拠点まで走らせる。
ジョンは小型のアースクエイクと小型のサンドウォームを1匹ずつ引き連れ、スーツケースを持たせて下水道に潜らせた。
アリアはスーツケースを持って堂々と町中を通り、電車に乗って移動を開始したのだった。
●リプレイ本文
●下水道
「やってくれたなクソガキがぁ。テメェのダチを怪我させといてとんずらとは許せんねぇ」
ジョンを追って下水道に降りた杜若 トガ(
gc4987)が息巻く。
「楽しいねえ、楽しすぎて反吐が出るぜ。‥‥仇は撃ってやる」
湊 獅子鷹(
gc0233)は顔に笑みを浮かべつつ、腹の底では怒りを煮えたぎらせていた。
(顔がバレてないアドバンテージを残すべきだな)
柳凪 蓮夢(
gb8883)は顔に面を付け、体型をコートで隠し、声も出さぬ様にし、『隠密潜行』で先行する2人のやや後方を歩きながら周囲の物陰や音に気を払い、奇襲を警戒する。
捜索開始から10分が過ぎた頃、スーツケースを引くガラガラという音を微かに聞こえた。
「おら、クソガキ。お仕置きの時間だぁ」
トガが声を張り上げると、ガラガラという音の回転数が上がる。
「ケビンとリック、テメェのダチを殺してみた気分はどうだぁ。最高かい? そんじゃあテメェはただの化け物だぁ。胸糞悪いかぁ? それならテメェは人間だぁ」
トガが声を上げながら追いかけるが、ジョンからリアクションはない。
だが徐々に距離は詰まり、やがて必死に駈けるジョンの背中が見えてきた。
「よう、ジョン、お仕置きタイムだ」
湊が声をかけるとジョンは焦った様子で角を曲がる。
「逃がさねぇよ」
ジョンを追って湊とトガも角を曲がる。
すると急に足下が滑った。
「うぉ!」
「なに!」
勢いのついていた2人は踏ん張る事ができず、その場で転倒。床でビチャリと何かが跳ねる。
「なんだこりゃあ?」
匂いですぐ油だと分かった。
「あははっ♪ 能力者だろうと油断してればすっ転ぶ。ネモ様の言った通りだ」
ジョンは愉快そうに笑うと再び駈け出した。
(どうする?)
蓮夢は少し迷ったが、2人を助けるよりもジョンを追う事を優先した。
「くそガキがぁ‥‥話は一発ぶん殴ってからだぁ」
トガと湊もすぐに立って追いかけ様としたが、不意に側の下水が泡立ち、小型アースクエイク(EQ)と小型サンドウォーム(SW)が現れて巻き付いて来る。
「やっぱりいやがったか」
ワームの一匹や二匹はいるだろうと予想していたトガは咄嗟に避けたが湊はEQに捕らわれ、体表に生えた刃が皮膚を破って突き刺さり、血が噴き出す。
「オラァ!」
「シシタカ、今日は無茶すんなよぉ」
力任せに拘束を解いた湊にトガが『錬成治療』を施す。
「言われなくとも分かってるさ。よう、俺を殺したけりゃ頭か心臓を潰すべきだったな、今度はきっちり遊んでやるよ」
湊は冷静にEQを見据え、ブレードが放たれた瞬間に『流し斬り』で側面に回り込んで二刀小太刀「兜玖和形」を一閃。EQは首を巡らせるが、円を描く様にまた側面に回りこんで斬りつける。
(怒りに飲まれるな、殺意で頭を塗りつぶすな、手は綺麗に、心は熱く、頭は冷静に‥‥)
湊は戦闘に酔いしれそうになる心を抑えて優勢に戦っていたがEQ相手で手一杯なため、SWはトガに襲い掛かる。
「下水に沈めなおしてやらぁ」
トガは突進してくるSWに機械拳「クルセイド」でカウンターパンチと電磁波を叩き込んだ。
しかしSWの突進力を殺しきれず、体当たりで吹っ飛ばされて壁に激突する。
「ぐはっ!」
全身を強打したトガはふらつきながらも自身に『練成治療』を施す。
だが全快する前にSWが再度体当たりを食らわせてトガを叩き潰した。
「ちくしょう‥‥シシタカ‥わりぃ‥‥」
その一撃で完全に動けなくなったトガは意識を失い、SWは湊の方を向いてブレードを発射。
「ぐふっ!」
湊の背中にブレードが突き立って動きが鈍った瞬間、EQは全身をくねらせてボディプレスを仕掛ける。
「潰れるかよぉ!」
しかし湊は『自身障壁』を発動させると同時に交差させた二刀小太刀で受け止めた。
加重で骨が軋み、傷跡から血が噴き出すが、湊は足を踏ん張って押し返すと小太刀を滑らせてEQの胴を断つ。
「オラオラオラァ!」
更にその傷口に小太刀を突き入れて抉り、引き裂き、噴き出す体液で体を汚しながらも小太刀を振るい続け、EQの体を真っ二つに引き裂いた。
「さて‥‥」
満身創痍の湊がSWに向き直る。
「連戦かよ‥‥。いいぜ、相手してやらぁ!!」
湊は不敵な笑みを浮かべるとSWに斬りかかった。
その頃、蓮夢はジョンを追っていたが、バグア製の義足が意外と速く、なかなか追いつけないでいた。
(一気に仕掛けるか。確か、彼は義手‥なら、その付け根は一番の狙い目となる!)
蓮夢は『迅雷』の加速力を利用して地と壁を蹴って天井まで跳躍、更に天井も蹴って急降下。スーツケースを持つジョンの左腕に付け根を『急所突き』を放って切断する。
するとスーツケースが倒れて蓋が開き、眩い閃光が弾けた。
(しまった!)
暗闇に慣れていた蓮夢の目は完全にホワイトアウト。
「外れだよ、バーカ!」
更にジョンが目暗撃ちした光線銃に足を撃ち抜かれた。
(くっ!)
やがてジョンが遠ざかって行く音を耳にするが目は回復しておらず、周囲には煙幕の匂いもする。
(スーツケースの確認はできた。無理に追う事はないか‥‥)
だが不意に下水が大きく跳ね上がる様な音が響き、煙幕越しに伸びてきた触手が天槍「ガブリエル」に絡んで奪い取ってゆく。
(しまった!)
湊が倒しきれなかったSWが追いついてきたのだ。
蓮夢は咄嗟に超機械「カルブンクルス」を抜いて火炎弾を発射。SWの体表が焼く焦げ、体液が噴き出す。
しかしSWは構わず蓮夢に突っ込み、体当たりを喰らわせて吹っ飛ばす。
そして壁に激突した蓮夢に更に体当たりを喰らわせ、壁と体で挟んで叩き潰した。
「ぐはっ!」
全身の骨がバキバキと軋みを上げ、こみ上げてきた血が口から溢れる。
失血と痛みで意識を霞せながらも蓮夢は火炎弾を放ち続けたが、もう一度壁の間で潰されると完全に力尽きたのだった。
●郊外
柿原 錬(
gb1931)はバイク形態のAU−KVアスタロトに乗り、シルヴィーナ(
gc5551)は蓮夢に借りたバイクSE−445Rの後部座席に旭(
ga6764)を乗せ、オストリッチを追っていた。
旭は聖剣「デュランダル」をバイクで運ぶつもりだったが、1.8mもある両手剣はどう括り付けようとも運転の邪魔になるため、仕方なく自身で背負っていた。
(アリアちゃんがネモ? ネモは死んだんじゃないの? どうしてこんな事に?)
AU−KVを走らせながら思い悩む錬。
「どうして‥‥子供達をこんなことに‥‥巻き込むのでしょうか‥‥」
「逃げた子供に聞けば色々情報も入るだろうけれど、こっちの相手はワームだ。だから考えるのは後にして、今はとりあえずスーツケースを回収して、ワームを破壊しよう」
沈んだ表情のシルヴィーナの疑問に旭が答える。
「はいです!」
やがて3人は高速で移動するオストリッチを捉えた。
「三日月狼の名にかけて‥貴様らを‥生きては帰さない‥!」
覚醒したシルヴィーナがアクセルを噴かして接近すると、オストリッチはフェザー砲を後ろに向けて放ってきた。
シルヴィーナは車体を傾け、ジグザグに走って避けようとするがオストリッチの射撃は正確無比で、ミラーが折れ、ライトが割れ、肩が焼け、太股を貫通し、旭の額をかすめる。
「この程度の傷!」
シルヴィーナは『活性化』を発動するが、深手の傷は完治には至らない。
「エースアサルトが射撃できないと思ったら大間違いだ」
旭が小銃「DF−700」で、錬がエネルギーガンで足間接を狙うが、ただ当てるだけならともかく、体が安定しない状態で高速移動中の目標の特定箇所に当てるのは難しく、間接部には1発も当たらなかった。
「僕が前に出ますから、その隙に足を破壊して下さい」
錬が接近するとフェザー砲の集中砲火が浴びせかけられ、光の弾丸が何発も体を貫いてゆく。
「くそっ!」
錬はオストリッチと併走すると、機械剣「莫邪宝剣」 で斬りつけた。
するとオストリッチもレーザーブレードを伸ばして反撃してくる。
錬は機械剣で受けようとしたが、レーザーは受け止める事ができないためバッサリと斬り裂かれた。
「狙い撃つ!」
しかしその隙を逃さず、旭が『強弾撃』で威力を上げた弾丸を発射。狙い違わず足間接を撃ち抜かれたオストリッチはバランスを崩し、フラフラと迷走し始めた。
「仕掛けます‥‥イグニッションファイヤ」
更に錬が『騎龍突撃』で突貫。傷ついた足を更に引き裂き、片足の機能を完全に停止させる。
だが、オストリッチは腕を振り回して錬を殴打。AU−KVから弾き飛ばされた錬は地面に叩きつけられ、その衝撃が致命傷となって昏倒した。
その時、縛りが緩んだスーツケースがオストリッチから落下。
「危ない!」
旭はバイクから飛び降りると路面との速度差を『迅雷』で殺しつつ、『豪力発現』でスーツケースをキャッチ。
その際にバランスを崩したが、ガントレットで体を支えつつ地面に滑らせて速度を殺す。
「っと。セーフかな?」
止まってから確認するとスーツケースは無事だった。
その頃、シルヴィーナは動きの鈍ったオストリッチにバイクで突っ込み、激突前にに跳躍。
「Catch this!」
バイクの加速と反動も利用して大鎌「戮魂幡」 を振り下ろし、メインセンサー類を斬り裂いて着地した。
しかしオストリッチは着地で動きの止まったシルヴィーナにレーザーブレードを挟む様に振るう。
「キャーー!!」
体を両側から斬り裂かれたシルヴィーナはその場に倒れ伏した。
「シルヴィー!」
その光景を目にした旭は聖剣を抜いて駆け出す。
だが、その動きが遅い事に気づいたオストリッチは無事な片足で退がって常に距離を開けつつフェザー砲を放ってきた。
『迅雷』で距離を詰めても届かず、更に詰めても聖剣を振り上げる前に退がられてしまう。
(後1手足りない‥‥)
断続的に放たれるフェザー砲に焼かれ続けた体は既に限界近い。
(仕方ない‥‥)
旭は聖剣を地面に突き立てると、小銃を構えて駆け出した。
そしてフェザー砲が放たれた瞬間『迅雷』を発動。一気に懐に飛び込んで『強弾撃』を発動。
「喰らえっ!」
至近距離から連射された銃弾がオストリッチを貫通。
オストリッチも退がりながらフェザー砲で対抗。
銃弾と光線の壮絶な攻防を制したのは、辛うじて旭だった。
ボロボロの体を引きずってスーツケースの所に戻った旭が蓋を開けると、中は閃光手榴弾と煙幕の詰め合わせ。
「なんだよ、これ‥‥」
酷い徒労感に襲われた旭は仰向けに倒れこんだ。
●電車
苦無二本をズボンの裾に仕込んだだけの軽装で一般人を装った夜十字・信人(
ga8235)はアリアが乗ったと通報のあった電車に乗り、列車内を移動。
スーツケースを持ったアリアを発見すると、近くの席に座って仲間が行動を起こすのを待った。
やがて電車がとある駅に停車した時
「車掌さん、車内にテロリストがいるんです。危険ですから電車をこのまま止めてて下さい!」
春夏秋冬 立花(
gc3009)が車掌台に取り付き、車掌を説得し始める。
「テロリスト‥ですか?」
しかし、いきなりそんな事を言われても車掌は信じる事ができない。
「実はですね‥‥」
なので立花が事の次第を説明していると
『お客様にお知らせします。車両故障のため、しばらく当駅にて停車いたします』
運転手の方から車内放送が入った。
「サンディさんがうまく説明してくれたみたいですね」
立花が乗客の避難を行おうと車内を向く。
すると、呆れ顔をしているアリアとバッチリ目が合った。
アリアが座っているのは車掌台のある最後尾の車両なので、立花の行動も言動も丸見えだったのだ。
「あっ!」
立花は自分の失態に気づいたがもう遅い。
「お姉ちゃんがここまで バカ だとは思わなかったわ」
アリアは呆れ返った様子でスカートから2丁の銃を抜いて構えた。
「車掌さん!!」
立花が車掌を庇った直後、放たれた凶弾が立花の体を貫き、車掌の体も貫通する。
「しゃ‥車掌さん‥‥」
「‥‥」
血塗れになって倒れた立花が車掌の元まで這って行くと、彼は既に事切れていた。
「ごめん、なさい‥‥。私‥本当‥に‥‥‥」
そこで立花の意識も途絶えた。
「うわぁーー!!」
「キャーー!!」
アリアの凶行を目にした乗客が大慌てて車外へ逃げ出す。
「まて、俺は関係ない、撃つな!」
信人はその場に伏せてガタガタ震えるフリをするが、アリアは全く気にせず自分も混乱に乗じて逃げようとする。
「こんばんわ、アリア。いや、今はネモと呼んだ方がいいのかな?」
しかし銃声を聞きつけ『迅雷』で駆けつけたサンディ(
gb4343)が呼び止める。
「こんばんは、サンディお姉ちゃん。でも何を言っているのか分からないわ」
アリアはとぼけたが、現場の状況が間違いなく彼女をネモだと証明していた。
「マチュアを浚う目的は、なに?」
「ちょっと実験に付き合って欲しかったの」
「実験?」
「あたしね、人間にとても興味があるの。生物って大抵は同種族の子供は殺せない。もしくは躊躇するの。でも貴方達は違うよね。自分が助かるためなら子供だって平気で殺せる。生物としてはかなり異質。狂っていると言ってもいいくらい。きっと自己防衛本能が異常なまでに高いのね。簡単に言うと、とても臆病な生き物って事。そのせいか他者への攻撃性も異常に高いよね。その異常な攻撃性を元が味方だった者。つまり敵となったマチュアお姉ちゃんにも発揮されるのか? それを知りたいのー♪」
愛らしい少女が両手に凶悪な銃を持ち、無邪気な笑顔を浮かべながら凄惨な言葉を口にする。
それはとてもアンバランスで異質な光景だった。
「そんな事はさせない!!」
激昂したサンディが剣を抜いて駈け出す。
「イヒヒッ」
それに合わせて伏せていた信人が気味の悪い笑い声に乗せて『仁王咆哮』を発動。
「え?」
アリアの視線と意識が自分に向かせた信人は足首仕込んだ苦無を両手に抜刀して接近。
すると信人に意識が向いているアリアは当然、銃を発砲。放たれた凶弾が次々と信人を撃ち抜く。
「ぐぅっ!」
だが信人は攻撃を耐え切り、苦無で『四肢挫き』を放つ。
しかしアリアは後ろに跳んで避けると更に銃を連射。
「ぐはっ! げふっ! げぼっ!」
それで完全に力尽きた信人は自身が作った血の海に沈んだ。
けれど、アリアが信人に気を取られている間にサンディは『迅雷』でスーツケースに駆け寄って奪取すると、車外へ逃走した。
「あーー!! 持ってっちゃダメーー!!」
アリアは逃げるサンディに発砲。背中に弾丸が突き刺さって血が噴き出し、衝撃で体がよろめく。
しかしサンディは歯を食いしばって耐え、血を滲ませながら走り続ける。
(リッカ、ノブト‥‥ごめん)
傷ついた2人を残してゆく事を気にかけながら‥‥。
そして安全な場所まで逃げ延びたサンディがスーツケースを開ける。
「マチュア‥‥良かった。本当に良かった‥‥」
マチュアの姿を見とめたサンディは深く安堵するのだった。