●リプレイ本文
「グローリーグリムを仕留めるために待機していましたが‥‥こんな手を打ってくるなんて。いえ、それより、味方を早く!」
軍のKVの惨状を目撃した如月・由梨(
ga1805)はブースト機動で敵陣に向かって突貫。
接近する由梨のディアブロに気づいて小型本星型HW群は一斉にフェザー砲で迎撃を開始した。
高い回避力を有する由梨のディアブロでも、数十発ものフェザー砲の集中砲火の全てを避けきる事は不可能で、機体に幾つも細かい傷を負う。
「‥‥覚醒すれば、闘いを求める。それでも、今回ばかりは引き摺られてはいけませんから。今回は敵を倒すのではなく、味方を救う戦い!」
弾幕を抜けた由梨は巨大剣「シヴァ」を振りかぶり、小型HWに叩き込む。
だが衝撃で弾き飛ばされたものの、機体自体は無傷だ。
並みのHWなら一撃で粉砕できる威力と重さと速度の斬撃だが、本星型特有の強化型FFで相殺したようだ。
「ならば潰れるまで剣を振るい続けるのみです!」
しかし由梨が続けて巨剣を振るい、薙ぎ払い、斬り裂き、叩きつけると遂に小型HWが押し潰されて粉々になった。
「皆を助けなきゃいけないんだよー」
「救助活動かにゃー‥‥。S−01とかの様子を見るに、全員生きていないと思うけど〜‥‥」
ジェーン・ジェリア(
gc6575)のスカイセイバーとリズィー・ヴェクサー(
gc6599)のソルダードもブースト機動で敵陣に向かっているが、到着までまだ少し時間が掛かりそうだ。
「あたしは皆を守って見せるよ! でもちょっとだけあの強そうなのと殴り合ってみたいかなー」
「いきなり自分の欲望に負けてるのだっ!」
「だって楽しそうなんだよー」
基本的にアホの子で近接戦大好きっ子なジェーンはリズィーの突っ込みにもウキウキした様子で答えた。
一方、後方では
「うわー‥やな事するなぁ」
「全くやってくれるな。あれだけの戦力があるなら、策を弄するまでもなかろうに」
M2(
ga8024)とハンフリー(
gc3092)は味方の惨たんたる有様に眉をひそめる。
「これは全部終わらせてから、後味のいい煙草吸う事にしますかね。という訳で。さっさと救助を始めましょ。対空戦力に来られたら動きが取れなくなるわ」
姫堂 麻由希(
ga3227)は一度取り出した煙草を仕舞い直して2人を促した。
「そうだね。練力と移動中心で装備組んだから、当たったら一発で終わりなのが怖いけど‥‥」
「輸送ばかりがクノスペの能ではないが、今回は本分に立ち返る事になるか」
姫堂、M2、ハンフリーのクノスペが『VTOL機能』で空に舞い、一早く現場に向かう。
「さて死ぬにはいい日だな‥‥さあ地獄に突っ込むか。イィィィイイヤッホオオオオオオオオゥウウウウウウ」
重傷の身であるため脳内麻薬の分泌が何時も以上に過剰なのか、超ハイテンションの湊 獅子鷹(
gc0233)は殆ど武装を排除したフェニックスをブーストさせて地を駆ける。
周防誠(
ga7131)はブースト機動で湊よりも先にマテリアル隊の一番右端の向かい、その場の機体から脱出ポッドを回収する。
「今回の場合は骸龍でよかった、か‥‥」
周防は骸龍を2つ隣りのマテリアルの元まで移動させるとコクピットから降りた。
「戦場のど真ん中で機体から離れるのはやや不安ですが‥‥」
そして『瞬天足』で更に隣りのマテリアルの元へ向かい、コクピットを開ける。
「誰?」
するといきなり銃を突きつけられた。
「おっと。救助する味方に殺されては洒落にもなりませんから、撃たないで下さいよ」
「救助? そうだったの、ごめんなさい。敵かと思って」
周防が少しおどけた調子で両手を上げると、女性パイロットは安堵した様子で銃を降ろした。
「いえ、気にしないで下さい。では失礼して」
周防が腕にパイロットを抱え上げる。
「瞬天速を使いますけど、衝撃で死んだりしないでくださいよ?」
「安心して、そこまで消耗していないわ」
パイロットは周防の首に手を回して体を固定した。
「では行きます」
周防は『瞬天足』で骸龍のコクピットに戻ると、パイロットをサブシートに座らせた。
「ありがとう。本当に助かったわ」
「いえ、無事でなりよりでした」
そして側のマテリアルからポッドを回収する。
「これで手一杯ですから、一度帰還します」
「えぇ、頼むわね。運転手さん」
湊は現場に到着すると早速R−01からポッドを回収した。
「重体とはいえ仕事は仕事ださーてしっかり働くぞポンコツ」
ブースト機動の過重で体は悲鳴をあげていたが湊は体の事など一切構わず、隣りに移動してそこのR−01からもポッドを回収。
「さーて、どんだけ生きてるんかねえ、開けてびっくり玉手箱っと」
『おい! 物騒なこと言うな!』
『俺たちゃまだ生きてるぜー!』
接触回線で湊の独り言を聞きつけた救助者2人が騒ぎだす。
「なんだ生きてんのかよ。じゃあ戻る最中にショック死しねぇようにしっかり掴まってな。イィィィイイヤッホオオオオオオオオゥウウウウウウ」
湊は両手が塞がった時点で早々にブースト機動で帰還した。
『ギャーー!!』
『オェェ〜‥‥ひでぇ運転だ‥‥』
救助者2人に文句を付けられながら‥‥。
ハンフリーはリンクス隊の右端にVTOLで降下すると、その場のリンクスからポッドを回収し、すぐ隣りのリンクスへ移動してまたポッド回収。
そこから3つ目のリンクスの前に移動するとコンテナを降ろし、回収した2つのポッドを搭載した。
そして目の前のリンクスのポッドも回収すると、すぐコンテナに搭載する。
「窮屈で乗り心地も悪いだろうが、しばらく我慢してくれ」
『ははっ、俺達の事は気にするな』
『そうそう。命があるだけ儲けもの』
『それより他の奴らも早く助けてやってくれ』
「ああ、勿論だ」
コンテナを背負い直すとまた隣りに移動してポッドを回収。
更に移動して最後のリンクスのポッドも回収した。
「回収完了。ほぼ予定通りだな」
実に堅実かつ確実な回収手順である。
姫堂はR−01隊のほぼ真ん中にVTOLで降下すると、ハンフリーと同じ手順で3つのポッドをコンテナに搭載して背負い直す。
それからはコクピットを降りて生身で救助に向かった。
「救助に来たわよ。生きてたら返事しなさい」
コクピットを開けて声をかける。
「救助? ホントに? やったぁーー!! このまま放って行かれてもう死ぬんだって諦めかけてたの〜。ホントありがとー♪」
すると若い女性パイロットに大喜びされた。
「実は私、エクアドルが解放されたら結婚するの」
女の子が嬉しそうに左手の薬指の指輪を見せる。
「それはまだ先の話だけど、今日は帰ったら彼が私の好物を作って待っててくれてるのよ。それに読みかけの本を基地に置いてきちゃったしね。そういえば子供の頃に喧嘩別れしたまま引っ越しちゃった友達と会う約束してたんだった。あ、部屋の花が枯れかけてたから水あげなくちゃ。それから‥‥」
「あなた‥‥よくそれで生き残れたわね」
姫堂は死亡フラグ立てまくりの女の子に半分呆れ、半分感心した。
「えへへ、私もそう思う。きっとアナタは私の幸運の女神なのよー♪ そうだ! よかったら私達の結婚式に出てくれない?」
「考えておくわ。それより早く脱出しましょう」
「あ、それもそうね。私の名前はミナ。アナタは?」
「姫堂 麻由希よ」
姫堂はミナを背負うとクノスペに向かって駆け出した。
M2もR−01隊のほぼ真ん中にVTOLで降下すると、その場にメディカルコンテナを降ろす。
そして自分もコクピットから降りると側にあるR−01に取り付き、コクピットを開けた。
「おーい、助けに来たよー」
「救助隊か‥来てくれるとは思わなかった」
パイロットは血塗れ骨折もしている様だったが意識はあった。
「すぐに助けてあげるから捕まって」
M2はパイロットに肩を貸し、コンテナまで運んで乗せる。
「俺は他のパイロットも助けに行かないといかないから、悪いけど治療は自分でしてくれるかな?」
「あぁ、ここまでで十分だ。ありがとう」
「うん。じゃ、留守番お願い」
M2は後の事はパイロット自身に任せると『瞬天足』を発動し、隣りのR−01の確認を行う。
しかしパイロットの首はあり得ぬ方向に曲がり、とても生きているとは思えなかった。
(本当はヨリシロにされない様に、遺体も連れて帰りたいところだけど‥‥)
今は遺体を運ぶよりも生きてる者を救うのが優先なので、M2は別のR−01の確認に向かい、コクピットを開ける。
「おーい、助けに来たよー」
「‥‥」
声をかけても返事がない。
(生存確認は‥面倒だから省略)
背負うと暖かいので生きてる事を願いつつコンテナに運んだ。
ジェーンとリズィーが敵陣近くに到着した頃、由梨は合流した中型本星型HWも含めた12機のHWに半包囲されて集中砲火を受けていた。
それでも由梨は機動に関わる様な致命傷は1発も受けておらず、豪快な剣閃で今も1体小型HWを両断した。
「ゆりりん凄いのです」
「強そうなのが選り取りみどりだねー。あたしも頑張って殴りあうよー」
由梨の戦いっぷりに感化されたジェーンが突撃。
「リズ、目標を狙い撃つよっ☆ ‥なんてね」
リズィーがクロスマシンガンで弾幕を張って援護し、動きの鈍った小型HWの1体ににジェーンが機刀「新月」で斬りかかる。
「うりゃー」
しかし刀はHWが纏った強力なFFで完全に止められてしまう。
「それなら、これでどうだー」
続けてノワール・デヴァステイターの下部に格納された刃を突き立てる。
それもFFで防がれたが、更にトリガーも引いて0距離から銃を連射。
最初の3発はFFで防がれたが、そこで不意にFFの光が弱まり、続く3発はHWに命中。
「手応えありー」
ジューンは拳を握ると同じ箇所にナックル・フットコートγを叩き込んだ。
すると1撃目で装甲がひしゃげ、2撃目で貫通し、3撃目が中枢部まで達して行動不能にした。
2人が参戦した事で由梨の負担は軽減したかに思われたが、再生を終えたタロスと、ソフィア・バンデラス(gz0255)の乗るティターンが遂に動き出す。
「グローリーグリム! 二度も三度も四度も、戦いを逃して邪魔されて、今度こそはと思いましたのに!」
由梨が悔しそうに叫ぶ。
『私もこんな形での決着は望んでいないけど、私には南米の総司令としての立場もあるの』
ソフィアはグローリーグリムだった時にも愛用していた伸縮自在斧を構え、由梨は遠距離攻撃不可の特殊能力を受けないように機刀「建御雷」を構えた。
その時
『私は眼中になし? 屈辱だわ』
背後に回り込んだA・J・ロ・ユェラの小型本星型HWが緑色の怪光線を放ってきた。
「しまった!」
しかし怪光線が直撃しても機体には何の衝撃もない。
「今のはいったい?」
『A・J、余計な事を‥‥』
由梨の気がそれた隙にソフィアの斧がディアブロの装甲を断ち、胴体部を大きく抉って粉砕し、衝撃で機体が吹き飛ぶ。
「くっ! 以前よりパワーが数倍も増している?」
機体のダメージからそう推察する由梨。
『違うわよ、お嬢ちゃん。このメルトレイには装甲を軟体化させる効果があるの、キヒヒ』
A・Jが気持ちの悪い声をあげた直後、周囲に展開したHWとタロスが由梨に集中砲火を浴びせかける。
「この数を喰らってはさすがに‥‥!」
由梨は全力で回避機動を行ったが、その隙を突いて振るわれるソフィアの斧が機体を引き裂いてゆく。
「ゆりりんが大ピンチなのだー!!」
リズィーがティターンにM−MG60で弾幕を張った隙に由梨はソフィアから逃れたが、A・Jが再び背後に迫る。
「そこにいっちゃダメー!」
しかしジェーンがA・Jに機刀で斬りかかって進行を遮った。
「さぁ、あたしと遊ぼう!」
『じゃあ望み通り遊んであげるわ、キヒヒ』
A・Jはジェーンに向かってプロトン砲を連射。赤色の超高熱光が次々と機体を貫通し、ダメージ計数が跳ね上がる。
(防戦に回ったら押し切られちゃう! 先手先手!)
ジェーンは一気に間合いを詰めると大上段から機刀を振り下ろしたが、A・Jには避けられた。
「まだまだー」
だがジェーンは地面に突き立った機刀を支点にして機体を旋回させ、回し蹴りを叩き込む。
しかしA・Jは本星型の強化FFでガッチリとガード。
「キヒヒ、惜しかったわね」
至近距離からプロトン砲を連射してジェーンにトドメを刺した。
「ジェン子ー! ミイラ取りがミイラになるのはダメなのさね!!」
リズィーは弾幕を張りつつブースト機動でジェーンのスカイセイバーに駆け寄って脱出ポッドをもぎ取った。
一方、由梨もメルトレイの効果はすぐに切れたため畳みかけられる事はなかったが、機体のダメージは著しい。
「ここまでですね‥‥」
戦闘の継続は困難と判断した由梨はスモークディスチャージャーで煙幕を張り、撤退を開始。
「みんな逃げるのだー!」
リズィーも皆に撤退を促した。
「前衛が崩れた。総員撤退だ!」
常に仲間の通信と防衛状況に気を配っていたハンフリーは一早くブースト機動で撤退する。
「やばくなったらさっさと逃げるこれ肝心、イヤアアアアアアアッホオオオオオオオオオオ!!」
再び救助に来ていた湊は1つしかポッドを回収していなかったが全速力で撤退した。
「予想より前衛が崩れるのが早い‥‥まいったね」
同じく2往復目の周防は片手にポッドを一つ、サブシートに1人乗せている状態で撤退。
「まだ席が残ってるけど‥‥仕方ない」
M2は4人しか救助できていなかったが作業を中断して撤退を始める。
「撤退?」
姫堂はミナをサブシートに乗せている所だった。
「緊急発進するわ。しっかり掴まってて」
「うん」
姫堂は飛行機形態に変形するとVTOLで真上に飛んだ。
「いかん! 麻由希殿! 空を飛んでは狙い撃ちに合うぞ!」
ハンフリーが警告を発したが、5機の中型HWが放つプロトン砲を次々と姫堂のクノスペに命中した。
翼が折れ、エンジンが火を噴き、機体各所で小爆発が起こり、コクピットも半分解けて炎を包まれ、計器類が次々と死に、操縦桿も効かなくなる。
「せめて不時着を‥‥」
それでも姫堂はコンテナだけは無事地上に降ろそうと最後まで足掻く。
しかしプロトン砲がエンジンを直撃、機体はコンテナもろとも爆散した。
姫堂を乗せた脱出ポッドは破損しつつも射出され、辛くも由梨がキャッチしてくれた。
「ミナ‥‥?」
姫堂は照明の落ちたポッドの中、全身の痛みに耐えながらサブシートに振り返って目を凝らす。
そこにはプロトン砲の直撃を喰らったらしい、見るも無残なミナの姿があった。
「‥‥ゴメン。あたし‥あなたの幸運の女神なんかじゃなかった‥‥」
姫堂は奇跡的に無傷だったミナの左手をぎゅっと握り締めた。
「何人救助できた?」
全軍が撤退する最中、ジャンゴ・コルテス大佐が副官に尋ねる。
「17名と報告を受けていますが、内2名は死亡していたとの事です」
「半数にも満たぬか‥‥惨敗だな」
コルテス大佐は苦々しく呟き、シートに深く身を沈めて目を閉じた。