●リプレイ本文
●弓亜 石榴(
ga0468)
「バグアとの戦いが終わってお役御免! 愛子ちゃんお疲れ様♪ 私、愛子ちゃんには感謝してるんだ‥‥」
石榴が神妙な面持ちでシュテルン型KV少女「愛子」に語りかける。
「石榴‥‥」
愛子も石榴と共に潜り抜けた戦いを思い起こして感傷に浸った。
「だから御礼に、愛子ちゃんの心の願望を叶えてあげないとね♪ という訳で早速脱いで着替えてみようか♪」
「え゛」
石榴がチャイナドレスやメイド服や巫女服などの数々の衣装を見せた途端、その感傷は一瞬で霧散した。
「‥‥じゃ、私は元の世界に帰るから」
「もーそんな気まったくないくせに〜」
愛子がくるりと背を向けた瞬間、石榴は後ろから抱きついて服のボタンを外してゆく。
「あ! コラッ!」
「ククク‥‥女の子は決して私から逃げられない!」
「やめなさい! そもそも私にそんな服が似合う訳ないじゃない!」
「大丈夫、愛子ちゃんは可愛いから♪」
「か、かか可愛くなんてないわよ!!」
ドモリながら否定する愛子だが、その顔はやや赤い。
愛子は普段はクールだが意外と純情な女の子なのである。
そして照れて愛子の力が弱まった瞬間に石榴は服を剥いてしてしまう。
「しまった!」
「ほーら、そんな格好だと風邪引いちゃうよ。どれがいい?」
石榴が次々と愛子に衣装をあてがってゆく。
「も、もう少しまともな服はないの?」
「じゃあ、これとかどう?」
あてがわれたのはフリル満載の可愛いらしいドレス。
「こ、これは‥‥」
確かにチャイナやナース服よりはまともだが、別の意味で恥ずかしい。
「ほら、着てみて♪」
「く‥‥」
他に選択肢のない愛子は羞恥に打ち震えながらも着替えた。
「うんうん♪ すっごく似合ってる。とっても可愛いよ愛子ちゃん♪」
「ぜ、全然似合ってないわよこんなの! ば、馬鹿じゃないの!!」
愛子は毒づくが、顔を赤らめてもじもじするフリルドレス姿の愛子はお世辞抜きに可愛かった。
「気に入ってくれたんだね。じゃ、今からその服で私とデートしよう」
「気に入ってないわよ! っていうかデートって何!?」
「さぁ、レッツゴー♪」
「イヤァァァーーー!!」
愛子は嫌がったが石榴は無理矢理連れ出した。
「いったい何の罰ゲームよ、これ‥‥」
愛子が恥ずかしそうに身を縮こまらせながら辿り着いたのは映画館だった。
「映画を見るの?」
「うん。ヘタレラッキースケベ傭兵と軍人家系出のオペレーターの初々しいラブロマンス」
「面白いの、それ?」
「まぁ、とりあえず入ろうよ」
2時間後
映画館を出た2人は近くのハンバーガーショップに入った。
「主人公の傭兵がヘタレ過ぎてイライラしたけど、それなりに面白かったわね」
「うん、ヒロインのおっぱいが大きいところが見所だったね」
「そこなの‥‥」
愛子は呆れながらハンバーガーに口をつけ、石榴も食べ始める。
「私、ハンバーガー好きだよー、世界で二番目ぐらい♪」
「一番は何なの?」
「それはモチロン愛子ちゃんだよ♪」
石榴が臆面もなく言い放つ。
「ば、馬鹿! 私は食べ物じゃないわよ!」
愛子は語気を荒げたが、その顔はどことなく嬉しそうだ。
「私は‥‥ハンバーガーってそんなに好きじゃなかったけど、こうして食べるのは好きかな‥‥」
愛子がポツリとこぼす。
「べ、べっ、別に石榴と食べるのが好きって意味じゃないわよ!!」
でもすぐ大声で弁解した。
「そっか〜、愛子ちゃんも私が一番好きなんだね。嬉しいよ♪」
「な! なななな何言ってるのよ!! そそそそんなこと一言も言ってないじゃない!!」
愛子が顔を真っ赤にしてどもりまくる。
「大丈夫、愛子ちゃんはツンデレだって事は知ってるから♪ だからもっとデレて良いんだよ?」
「何で私が石榴にデレなきゃいけないのよ! ホントに! まったく! もー!」
愛子がそっぽを向くが、その顔は湯気が出そうなくらい真っ赤なままだ。
「それより今日は花火大会もあるんだよ。だから暗くなったら見に行こう♪」
「まぁいいけど‥‥」
愛子は再び石榴の自室に来ると浴衣に着替えさせられた。
(やっと恥ずかしい格好から解放されたわ‥‥)
浴衣は着慣れないがフリフリドレスよりは遙かにマシだ。
「さぁ行こう、愛子ちゃん♪」
石榴が愛子の手を握る。
(ぁ‥‥)
石榴の手は柔らかくて暖かく、何故か少し胸が高鳴った。
そうして手を繋いだまま会場に向かい、見上げた夜空には大輪の花火が色とりどりに咲き誇り、2人の目を楽しませる。
「綺麗だね、愛子ちゃん」
石榴がニッコリと笑顔を向けてくる。
そう、石榴は何時も愛子に笑顔を向けてくれる。
「そうね。とても‥綺麗だわ」
でも自分はこんな素っ気ないセリフしか言えない。
こんな時、どんな事を言って何をすればいいのか愛子には分からないのだ。
(なんで私ってこうなんだろう‥‥)
そんな自分が愛子は嫌いだった。
(「愛子ちゃんももっとデレて良いんだよ」)
ふと石榴のセリフが思い出される。
(デレるなんて恥ずかしくてできないけど‥‥)
「愛子ちゃん、今日は楽しかった?」
愛子は勇気を振り絞り
「とても楽しかったわ。ありがとう、石榴」
石榴を真似て笑顔を浮かべてみた。
上手く笑えたかどうか分からない。
「愛子ちゃん。これから十年経っても、一緒に遊ぼうね♪」
けれど石榴は今日一番の笑顔を浮かべてくれた。
きっとそれが答えだ。
●鷹崎 空音(
ga7068)
空音はバグア戦役後、KV少女達を連れて実家に帰っていた。
ようやく手に入れた平和。
家族とKV少女達で過ごす平凡だけど穏やかで楽しい毎日。
そんな日々を喫しているため家の手伝いはサボリ気味で、今も昼食の片づけはKV少女に任せてテレビを見ていた。
モニターにはお昼のニュースが流れていて、各地でバグアから取り返した土地の利権を争ってKV少女同士の戦闘が頻発している事が伝えられてくる。
そんなニュースを見ているのが嫌になった空音はリモコンでテレビを切った。
(また戦争が始まるのかな? それも今度は人間同士で‥‥。そうなったら‥‥)
それ以上は考えたくなくて、空音はいつものように釣り竿を持って外に駆け出した。
「ソラ、今日の大掃除の事だけど‥‥」
そこに炊事を終えたイビルアイズ型KV少女の「ホークアイ」が戻ってくる。
ホークアイは茶髪のウェーブヘアと縁なしメガネをかけた、白人風の少女だ。
「ソラ?」
部屋を見渡したが一足違いで空音はいない。
「また釣り? 出かける時には一声かけてと何度も言っているのに‥‥」
あまり感情の起伏を外に見せないが、空音が呼んだKV少女の中で一番心配性なホークアイはすぐに空音を探しに外に出た。
その頃、空音は幾つかあるポイントの一つで釣り糸を垂らしていた。
しかし浮きは何時まで経ってもピクリともせず、一向に魚が掛かる気配がない。
「ん〜‥‥引っかからないなぁ、今日も」
ポイントを変えようかとも思ったけれど、今日はアチコチ動き回る気分じゃない。
そうして波間に漂う浮きを眺めていると、KV少女達と共に駆け抜けた戦場の事やKV少女達とのこれからの事などが脳裏を過る。
(ボクは‥‥)
「ソラ、見つけた」
「え?」
不意に声をかけられたので振り向くと、そこにはホークアイの姿があった。
「アイ姉さん」
「ホーク姉さんが怒ってたよ‥? 大掃除なのにアクアもソラも何処行ったの‥って」
「あ! 今日は大掃除だったっけ。ボクすっかり忘れてたよ。ごめんなさい」
空音はペコリと頭を下げ、釣り道具を片づけようとしたが、何故かホークアイが空音の横に腰掛けた。
「アイ姉さん?」
「ソラ、何か悩み事でもあるの?」
「え?」
「浮かない顔してた」
「そ、そんな事ないよ。ボクはいつも通り元気で‥」
「今のこの生活が何時か壊れてしまうんじゃないか‥って不安なの?」
「!」
図星を刺された空音が言葉に詰まる。
ホークアイは空音よりもハッキリと今後の戦いの事を察していて、その事を空音が気にしている事も分かっていたのだが、話していいモノかどうかずっと迷っていたのだ。
「‥‥うん。怖いのさ、ずっと戦っていたから‥こんな平和がするっと、零れていきそうで‥‥」
空音は表情に陰を落としながら正直に胸の内に秘めていた想いを吐露した。
「でもボクは国に選ばれた能力者だから、戦争が始まれば、またみんな一緒に戦場に駆り出される」
KV少女は稀少な存在であるため、そのマスターである能力者がKV少女を連れるには有事の際には国のために戦うという義務を負わされるのである。
「前は運良くみんな生き残れたよ。でも今度もそうだとは限らない‥‥。アイ姉さんも、アクア姉さんも、ホーク姉さんも、ボクにとっては大切な家族で、誰一人欠けて欲しくない。一緒にいたいんだよ!」
「ありがとう、ソラ」
空音の想いが心が嬉しくて、ホークアイは空音をギュッと抱きしめた。
「ソラも私の家族。‥守りたいのも、一緒」
「アイ姉さん‥‥」
空音もホークアイをギュッと抱きしめ返す。
暖かい。
ホークアイから伝わる体温が空音の体と心に安心と安らぎを与えてくれる。
「ソラも、ホーク姉さんも、アクアも、守る。何があっても、必ず」
そしてホークアイの言葉が信頼と勇気をくれた。
「うん。ボクも守るよ、必ず‥‥」
やがて、どちらともなく身を離す。
「さ、そろそろアクア姉さんも探しに行かないと、ホーク姉さんが待ちくたびれちゃうよ」
空音は何となく照れくさくて、そんな話題を振った。
「アクアの事だから、何処かで素潜りでもしてると思うけど‥‥」
「そうだね。さ、行こう」
空音がホークアイと手を繋いで歩き出す。
その姿は仲の良い本当の姉妹にしか見えなかった。
●キリル・シューキン(
gb2765)
キリルはロシア軍の特殊部隊に所属していたが、三カ月前に突如として除隊した。
キリルのS−01型KV少女である「リーリャ」はキリルが祖国の為に働く事を誇りとしていた事をよく知っていたため驚いたが、彼と共に除隊した。
その後、暫くキリルは貯金で酒を飲んで寝ているぐらいの自堕落な生活を送り始める。
それでもリーリャは理由は尋ねず、自分は働きながらキリルに付き従った。
そして一カ月前、キリルはまたもや突如として紛争地帯で革命軍の支援を行うことを決意する。
強制されなかったが、リーリャはキリルに付いていった。
そして今日、内戦が勃発した国の隣国に到着し、一級ホテルの一室を宿とした。
月明かりに照らされた海を一望できるホテルで2人っきり。
恋人同士が愛を語り合うには絶好のロケーションだが、2人は離れた位置でテレビのニュースを見ている。
2人はそんな浮いた間柄ではなく、マスターとKV少女、上司と部下、死線を共に潜り抜けたパートナー。そういった親密ではあるがドライな関係なのだ。
だからといってリーリャはキリルと戦場に戻る事を望んでいる訳ではなく、キリルと静かに暮らす事が本望なのだが、それは言い出せないでいた。
それにキリルの死に急ぐような行動も良しとしている訳ではないが、何故そう死に急ぐのかも理解できないのだ。
(今のままでは中尉は遠からず戦死する。何か生きる糧を与えないと‥‥)
リーリャは頭を悩ませたが、今までもさんざん悩んできた事なので今更アイデアが出る訳もなかった。
「中尉、自分が先にシャワーを使用してもよろしいでしょうか?」
リーリャは今でもキリルを最終階級の中尉と呼んでいた。
「あぁ、構わない」
「ありがとうございます」
リーリャはとりあえず頭を冷やすためバスルームに向かった。
キリルは目の端でリーリャがバスルームに消えるのを確認すると、目線をテレビに戻した。
テレビにはインタビューアーに反乱分子の殲滅を声高に主張する高級将校と銃を持って警護するKV少女の姿が映っている。
脳裏でそのKV少女の姿がリーリャと重なる。
キリルはリーリャが戦いを好まない性格だと知っていた。
だから戦場に戻る自分にリーリャが付いてこなくても仕方ないと思っていた。
しかし自分が何も言わずともリーリャは付いてきた。
いや、自分が何も言わなければリーリャは付いてくると分かっていたから自分は何も言わなかったのだろうか?
‥‥分からない。
だが、ロシアの対テロ戦争に嫌気がさして始めた自分の戦いに巻き込んでしまったのは事実だ。
巻き込みたくないのなら付いてくるなと言えばよかったのだから。
「甘えているな‥‥」
自嘲する。
罪悪感と自己嫌悪で自分を殺したくなる。
でも自己嫌悪では人は死ねない。
罪悪感だけでは人は変われない。
きっと自分は死ぬまでこのままだろう。
一方、シャワーを浴び終えたリーリャは着替えを持って来なかった事に気づいた。
「しまった‥‥」
着替えを取りに行くにはキリルのいる部屋を通らなければならない。
バスタオルはあるが、それだけでは扇情的な姿をキリルに見せる事になるのは確実だ。
リーリャも年頃の少女である。相手がキリルとはいえ半裸を見られるのはやはり恥ずかしい。
それに、これがキッカケでキリルとの関係がギクシャクする可能性も‥‥。
「いや‥‥」
もしキリルが自分に興味を抱いたら、それがキリルの生きる糧とならないだろうか?
たとえそれが一時の情欲だろうと、キリルが生きる意志を持ってくれるのならリーリャは本望だ。
「よ‥よし!」
リーリャは覚悟を決め、かつて経験した事のない程の極度の緊張でカチコチになりながらもバスタオル一枚でキリルのいる部屋に向かった。
「ちゅ中尉! シャワー‥空きました」
リーリャは普段通りの態度をとったつもりだが、上手くできている自信は微塵もない。
そして心臓が破れそうな程の激しい鼓動を感じながら、振り返って自分を見たキリルの反応を伺う。
「そうか」
それだけだった。
それだけ言ってキリルはすぐにテレビに目を向けた。
(‥‥‥‥‥‥それだけですか中尉ーーー!!)
心の中で絶叫した。
激しくへこんだ。
無性に泣きたくなった。
「‥‥中尉、今日はもう休ませていただいてもよろしいでしょうか」
リーリャが力ない声で願い出る。
正直、今日はもうキリルとまともに接する事ができそうになかったからだ。
「あぁ、ご苦労だった」
「では‥失礼します」
リーリャは自室に入るともたもたと着替え、暗澹たる気分でベッドに潜り込む。
リーリャは見た目が13歳位な上に小柄なので胸も貧相なのだが‥‥それが原因ではないはずだ。
そのはずだ!
そう、リーリャは思いたかった。
現地入りは明日。
朝までには何時も自分に戻っていられるようにと願いながら、リーリャは眠りについた。
●ユーリー・カワカミ(
gb8612)
ユーリーは自身のシュテルン型KV少女の「マリア」とどう接すればいいのか分からず悩んでいた。
戦争中ならマスターとパートナーで済んでいたが、平和な世界ではマリアは14歳位の年頃の女の子なのである。
マリアの方もユーリーとの接し方が分からないのか2人の関係は最近少しギクシャクしていた。
それはマリアがユーリーを異性として意識し始めていたからなのだが、ユーリーは気づいていない。
「マリア‥‥特に予定が無いなら、街に買い物にでも行かないか?」
だから関係改善のためデートに誘ってみた。
「えっ!? な、何故私がマスターと買い物に行かなきゃいけないのよ!?」
突然の事でマリアは思いっきり狼狽える。
「何故って‥たまにはそういうのも悪くないかと思ったのだが‥‥嫌だったか?」
「嫌なんていってないでしょ! 今日はその‥たまたま暇だったし、別に、付いていってあげても良いけど‥‥」
渋々承諾するマリアだが、その頬はやや赤く染まっており、内心では喜んでいる事が伺える。
「じゃあ行こう」
こうして2人のデートが始まった。
「マリア、何処か行きたい所はあるか?」
「別にない‥‥」
「じゃあ‥服とかアクセサリーとか見に行こうか?」
「いい、興味ない」
完全に取り付く島がない。
(出かける前は嬉しそうだったのに‥‥なんで怒ってるんだ?)
ユーリーはほとほと困り果てたが、マリアは怒っている訳ではなく、デートだと意識すると気恥ずかしいので、ついツンツンしてしまうのだ。
「‥‥」
「‥‥」
そのため2人の会話は途切れた。
(何か話しなさいよ! 間が持たないじゃない!)
マリアが焦りと苛立ちを抱きながら歩いていると、ぬいぐるみ屋に鎮座しているKVぬいぐるみが目に止まり、足も止めてしまう。
「何だ‥KVぬいぐるみ?」
ユーリーも足を止めて店内を覗く。
「そういえば、集めていると聞いたが‥欲しいのか?」
「べ、べつに欲しくなんかないわよ!」
「もう持ってる奴なのか?」
「持ってないけど‥‥これ、レア物だから高いし‥‥」
値段を見ると、確かにぬいぐるみにしてはかなり割高だ。
「そうか」
でもユーリーは構わず店内に入る。
「ちょ! ちょっと!」
マリアも慌てて店内に入ると、ユーリーがマリアのお目当てのぬいぐるみを買っていた。
「私、別に欲しいなんて一言も‥」
「折角だからな」
結局ユーリーが押し切ってぬいぐるみを買い、マリアに手渡す。
「い、一応、ありがとう‥‥」
やや嬉しそうな様子で照れくさそうにマリアが礼を言う。
そんな姿がかなり可愛らしい。
こんなマリアは滅多に見れないので、これだけでも高い買い物をした甲斐があったというものだ。
これがキッカケで2人の固さもとれ、この後は普通にウィンドウショッピングをし、公園でアイスを買った。
しかしアイスを食べていると、不意に地面が振れ始めた。
「地震?」
そう思った直後、大量の土砂を撒き散らしながら飛び出した巨大な物が自分達に向かって突進してくる。
「キャー!」
「マリア!」
咄嗟にマリアを抱き寄せて庇うと、背中に重い衝撃を喰らって体が吹っ飛び、地面に叩きつけられた。
「ぐはっ!」
衝撃と痛みで全身がバラバラになりそうだ。
「マスター! マスター!」
腕の中のマリアが泣きそうな顔でユーリーに呼びかけてくる。
「マリアは‥無事か」
安堵したユーリーの目に地面から伸びて身をくねらせる巨大なサンドワームが映る。
「生き残りのワーム‥‥か」
痛みに耐えながら身を起こすが、立っている事すら辛い。
「その傷で戦おうなんて無茶よ! 私が戦う!」
マリアはユーリーから魔刀「鵺」を奪うとワームに挑み掛かった。
その後、ワームはマリアの手で倒されたが、ユーリーは重傷で病院に搬送された。
「何であんな無茶したのよ‥‥」
見舞いに来たマリアの第一声がそれだった。
「‥‥絶大な力と絶対的な防御フィールドがあるとはいえ、KV少女はみんな年頃の女の子だ。普通の少女だ」
「え?」
「自分達の都合で呼び出したそんな少女に武器を持たせ、戦えと命じる。その事を俺はずっと後ろめたく思っていた。だから平和になった今の世界では普通の女の子として暮らして欲しかった」
「だから私を庇って自分で戦おうとしたの?」
「結果は無様だったけどな」
自分の気持ちを吐露したユーリーが自嘲する。
「馬鹿っ!!」
マリアは泣き出しそうな顔でユーリーを罵倒した。
「それで自分が死んじゃったらどうするのよ‥‥私はマスターと一緒に居たいからここにいるの‥人の気持ちも知らないで、馬鹿っ‥‥」
そしてユーリーに抱きつき、その胸に顔を埋めながら今度はマリアが自分の気持ちを吐露する。
「ごめん、マリア」
ユーリーは戸惑いながらもマリアを抱きしめ返した。
こうして2人の距離は少し近づいたのだが、関係が進展するのは、もう少し先の話である。
●エイラ・リトヴァク(
gb9458)
2台のバイクがエギゾーストを響かせながら峠を疾走していた。
レーシングタイプの空色のバイク『スカイセイバー』を駆るのはエイラ。
ファイヤーパターンのペイントの施された大型バイクを駆るのは、赤を基調としたライダースーツを着たヘルヘブン750型KV少女の「ヘルヘイム」だ。
出会った当初は関係は余り良くなかった2人だが、共に何度も死線を潜り抜けた事で今は血より濃い関係を築いていた。
2人の駆るバイクはコーナーで抜きつ、抜かれつ、一進一退の攻防を繰り広げつつ海岸線に到達。最終目的地である海岸に向けて加速した。
そして、僅差ではあったがヘルヘイムが先に海岸に到着する。
「ちくしょーー!! また負けたー!」
エイラはバイクを止めてヘルメットを脱ぐと、海に向かって叫んだ。
「ちょっと危なかったけど、まだまだだね、エイラ」
ヘルヘイムもヘルメットを脱いでニヤリと笑う。
「くっそぉ〜‥‥今日こそは勝てると思ったのによぉ〜。それにあっちぃぞ、まったく‥‥」
エイラはライダースーツの上も脱いでタンクトップ姿になりながら余りの暑さに不満を漏らす。
「エイラ、北欧育ちだからね‥‥苦手なんだっけか」
ヘルヘイムもライダースーツの胸元をはだけたが、エイラほど暑そうにはしていない。
「そうだけど、こっちの気候にも慣れてきたって思ってたのになぁ〜‥‥」
「ほら、冷たい物買ってきてやるから金だしな」
「こういう時って年上が奢ってくれるもんだろ?」
「そういうセリフはアタシに勝ってからいいな」
「ちぇ!」
エイラは不承不承ながらも財布を投げ渡す。
ジュースを買ってきたヘルヘイムはエイラの背後から忍び寄ると
もにゅ
と胸を揉んだ。
「ひゃうっ!」
「全然成長してないなぁ〜」
もにゅもにゅ
「いきなりは、やめろっての!」
エイラは体を振ってヘルヘイムを引き離した。
「ハハハ、こういうの弱いよな。エイラはさ‥‥」
ヘルヘイムはすぐにエイラを解放してジュースを投げ渡す。
「たくっ‥‥」
エイラはジュースを開けようとしたが
「これ炭酸じゃねぇか! そんなもん投げるなよ。飲めねぇだろ!」
「ハハ、悪い悪い」
ヘルヘイムはまったく悪びれた様子もなく自分はスポーツ飲料を飲んだ。
「なぁ、ヘル、いつまでもこういう事できたら良いのにな」
2人で海を眺めながらエイラがポツリと呟く。
「そうだねぇ‥‥アタシもそう思ってる。けど、そうも行かなくなるだろうね」
ヘルヘイムの表情に陰を落として溜め息をついた。
ヘルヘイムはバグアとの大戦で受けたダメージが元でKV少女としての能力の大半を失い、戦闘が出来ない体になっていたのだ。
「あのよぉ、これからどうなるかわかんねぇけど、後悔はしねぇようにしようぜ」
「判ってるよ。長くは、戦えそうに無い様だしさ‥‥。体にがたがきちまってるし、いずれ‥‥」
「そんときは、あたしが守ってやるよ。ずっとな‥‥」
「へぇー、エイラがねぇ‥‥」
「そりゃあ、あたしじゃ頼りないのは分かってるけど‥‥」
「そんな事ないよ。アンタは最高のパートナーさ」
ヘルヘイムはエイラを後ろから抱きしめた。
「ありがと」
そして耳元に口を寄せて小さく感謝の言葉を贈ると、エイラを砂浜に押し倒す。
「お、おい‥」
「いいだろ、エイラ」
「ここじゃ誰かに見られるって」
「こんな所に誰も来ないよ」
「‥‥」
エイラが体の力を抜く。
ヘルヘイムはエイラの服を丁寧に脱がせていった。
「‥‥綺麗だ、エイラ」
「馬鹿、恥ずかしいだろ‥‥」
エイラの顔が羞恥で赤く染まる。
「アタシも‥脱がせてよ」
「ん‥‥」
ヘルヘイムのライダースーツを脱がせると、その体に刻まれた大きな傷跡が露わになる。
「酷いだろ」
「ううん。そんな事ない。ヘルは‥綺麗だよ」
ヘルヘイムの均整のとれたプロポーションと美しさは傷跡などで損なわれる事はなく、本当に綺麗だった。
「そうか、嬉しいよ」
ヘルヘイムが本当に嬉しそうに笑う。
「じゃあ‥‥下も脱がせて」
ヘルヘイムはエイラの手を取って自分のショーツに導くと、一気にずり下げた。
「な!?」
エイラは戦慄した。
「おい! 嵌めやがったな! あたしが脱がせちまったら‥‥」
「仕方ないだろう。アタシはいずれ役目が果たせなくなる」
弱々しい笑みを浮かべるヘルヘイムの体は既に透き通り始めている。
「だからって‥‥」
「アタシが消えなきゃ、アンタは次のパートナーを探せないだろ」
「あたしのパートナーはヘルだけだ! アタシは最高のパートナーなんだろ!」
「あぁ、エイラは最高のパートナーだったさ」
ヘルヘイムは最後にエイラと唇を合わせると、その存在は消滅した。
「あたしが守るって‥約束したじゃねぇかよ。ちきしょうーーー!!」
独り残されたエイラの慟哭が海に響き、その瞳からは止めどなく涙がこぼれた。
●グリフィス(
gc5609)
バグアとの戦争が終わった事による長い休暇を利用し、グリフィスはKV特殊機動隊第三小隊の皆と共に一泊二日のキャンプを行おうと山に来ていた。
「今回はキャンプを存分に楽しむこと! それが命令だ!」
『やっほーー♪』
手早くテントを張った後、小隊長であるグリフィスの号令で歓声が上がり、釣りをする班や山の散策を行う班などに分かれて行動を開始する。
グリフィスはシュテルン型KV少女の「クリナーレ(愛称クリス)」と釣りをするつもりだ。
「釣りなんて久しぶりだな‥‥それだけ忙しかったって事か」
「隊長は釣りの経験があるんですか?」
「まあ、昔にな。クリスは?」
「私はまったくありません。ですので隊長、教えていただけますか」
「分かった。じゃあまず餌の付け方から」
グリフィスが餌を取り出すと
「キャーー!!」
クリナーレが悲鳴をあげて逃げ出してしまった。
「た、隊長‥‥。そ、そ、それが餌なんですか?」
木の陰からグリフィスの指の間でニョロニョロ動いているゴカイを指さす。
「そうだが、クリスはこういうのは苦手か?」
「はい。その‥‥その手の物は生理的に受け付けなくて‥‥」
「そうか、じゃあ今日のところは俺が餌をつけるから、クリスは釣るだけでいいぞ」
「そうですか。じゃあ‥‥」
クリナーレが恐る恐る戻ってくる。
「えい!」
そして付けて貰った餌は極力見ないようにして川面に竿を振った。
するといきなり当たりが来て竿が引っ張られた。
「キャ!」
「竿を引けクリス!」
「はい!」
クリナーレが四苦八苦して釣り上げると、ニジマスが掛かっていた。
「やりました! 釣れましたよ、隊長♪」
「あぁ、良くやった」
グリフィスはニジマスから針を抜き、餌に付け変える。
そして2人で釣り糸を垂らしていると、今度はグリフィスの方に引きが来た。
「よしっ!」
グリフィスが釣り上げると
「‥‥亀、ですね」
掛かっていたのは亀だった。
「よし、闇鍋の具にしよう」
「えぇー!! 食べるんですか? 可哀想ですし‥逃がしてあげませんか?」
「‥‥そうだな」
クリナーレが悲しそうな顔で懇願するので逃がしてやった。
続いて釣り上げたのは小型のアースクエイク。
「鍋の具に‥」
「まあ、それなら別に構わないですけど」
(アースクエイクはいいのか‥‥)
ともかく変な物が釣れた時はクリナーレに伺いを立て、2人で大漁に釣り上げた。
テントに戻ると散策班も山の幸を仕入れてきたらしく、色々な食材が(食材と思えない物も含めて)そろっていた。
「みんな調達ご苦労。それでは今から闇鍋を開始する!」
『おーー!!』
グリフィスの号令で煮立った大鍋に次々と食材(?)が入れられる。
数分後、えも言われぬ臭いが辺りに立ちこめていた。
(いったい何を入れやがった‥‥)
不安と恐怖しか感じない鍋に最初に箸をつけるのは隊長であるグリフィスの役目だ。
「ぃ‥いくぞ!」
グリフィスは覚悟を決めて箸を入れた。
ぐにゃもん
今まで体感した事のない感触が伝わってきた。
(これは‥‥なんだ?)
どう考えても嫌な予感しかしない。
「箸をつけた物はちゃんと残さず食べてくださいね〜隊長♪」
クリナーレが不自然に眩しい笑顔で命じてくる。
「わ、分かっている!」
グリフィスは意を決して何かを口に入れた。
粘つくような妙な歯ごたえがあり、舌を刺すような苦辛い味と、酸味のキツい肉汁があふれてくる。
ハッキリ言って マ ズ イ !!
「ぐぶっ!」
思わず吐き出しそうになる。
しかし
「ダメですよ隊長!」
「ちゃんと食べて下さい!」
「さあ呑み込んで!」
隊員達が寄ってたかって無理矢理呑み込ませた。
「うゲーーー!!」
すると体が熱くなると同時に視界が眩み
(なんだぁ?)
そこでグリフィスの意識は途絶えた。
「ん‥‥」
目を覚ますと隊員が死屍累々と倒れていた。
「気づきましたか、隊長」
「いったいどうなっている?」
自分を看病していたらしいクリナーレに尋ねる。
「闇鍋の被害者です。5人倒れた時点で危険なので中止にしました」
(俺はそんなヤバい物を喰ったのか‥‥)
そんな阿鼻叫喚の闇鍋の後は王様ゲーム。
初めは軽めの命令で和気あいあいゲームが進む。
そして場がある程度暖まった所でグリフィスが王様になった。
「三番はここで好きな人を告白してくれ!」
グリフィスが定番の命令を下す。
「え! 好きな人ですか?」
すると三番はよりにもよってクリナーレだった。
「私が好きなのは‥隊長です」
「キャー! やっぱりー♪」
「ちくしょー!」
「おめでとー隊長♪」
「ぇ‥‥」
皆が盛り上がる中、グリフィスは驚き、焦った。
なぜなら今までクリナーレをそういう対象として見た事がなかったから。
「ぁー‥‥」
何か言わなくてはと思うが言葉が出てこない。
「バレス軍曹も好きです」
しかしクリナーレの言葉には続きがあった。
「キム曹長も好きですし、三上小尉も好きです」
そして小隊全員の名を告げた。
「それはつまり‥‥」
「はい。小隊のみんなが好きです」
「な〜んだ」
「クリナーレ、それ反則ー」
「ハハハッ、残念だったな隊長」
「いや、その‥‥」
グリフィスは残念なような安堵したような複雑な心境だった。
(一番好きなのは隊長ですけど)
そんなグリフィスを見つめながらクリナーレは心の中でだけ呟いた。